FAIRY TAIL 〜Those called clowns〜   作:桜大好き野郎

44 / 77
救出

 

「ヒューズ、シュガーボーイ様。おふたりは万が一に備え、侵入者の撃退をお願いします。パンサー・リリー様、貴方は浮島の魔水晶の護衛を」

 

 

 コードETDが宣言され、かつて神と讃えたエクシードへの反乱を恐れる兵士たち。けれど、その先にある無限の魔力という魅力が恐れを塗り潰し、兵士達の士気を上げていた。

 そんな中、一連の出来事が眺められる王城のテラスに集まっていた各隊の隊長たちに指示を飛ばすのは王の側に控えている筈の女中。普通ならば立場としては隊長たちの方が上であり、寧ろ指示を貰う側である。

 

 だが、隊長たちは言葉をひとつふたつ交わして持ち場へと走り出すではないか。

 

 

「め、メイド長!わた、私はどうすれば⁉︎」

 

「ココ、貴女はパイロ様と一緒に王の元へ。コードETDの要となるお仕事です。しっかりと励みなさい」

 

「はいぃ‼︎」

 

 

 苦手意識があるのだろう。いつもより固い動きのココは敬礼を解くと、一目散に廊下を走り出す。非常時とはいえ、廊下をそう走るなと一言告げたいところだが、それは後回しに。

 入れ替わるように現れた兵士から金属製の手甲を受け取り、両の拳を打ち鳴らす。

 

 

「侵入者の状況は?」

 

「はっ!現在、エルザ隊長が迎撃に。また、追加で3人の侵入者が現れたと報告が!」

 

「そうですか。ならば、兵の半分は迎撃に。残りは王の守護を」

 

「隊長はどちらに?」

 

「私は迎撃に回ります。この国の未来のため、各自奮闘するように」

 

 

 メイド服を脱ぎ捨てて、その下に着ていたラバースーツが顕になる。一見して細身にも見える身体つきではあるが、それは無駄な脂肪を削ぎ落とした証。指の先、足の先まで鍛え上げた執念ともいえる努力の末。

 キッと鋭い視線を通路の奥に向け、女中は進む。この国の未来と安寧の為、無限の魔力の為、犠牲を厭わない覚悟と冷徹さを秘めて。

 

 

「近衛隊、出陣」

 

 

 王城メイド長兼王国近衛隊隊長。それがエドラスのカイトの肩書きであった。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 通路の奥から聞こえる、ウェンディの叫び。ああ、この先にいるのかと察したカイトは眼前の衛兵たちを温度のない瞳で見据える。

 ミストガンと約束した手前、無闇矢鱈と滅ぼそうとはしない。だが、やり返す事なく場を納める気など毛頭ない。目には目を、歯には歯を、悲痛には絶望を。

 

 

「グレイ、みんなをよろしく頼むよ」

 

 

 影から取り出したエクスボールを渡し、困惑しながらも武器を構える衛兵たちを黒い大蛇が襲う。出来上がった道をグレイが走り出すが、そこを狙うエドラスのエルザ。飛び上がって大蛇を躱し、天井を足場にして迫る攻撃をアースランドのエルザが防ぐ。互いの獲物がぶつかり合い、一瞬の静寂のあと周囲に衝撃が走った。

 

 

「エルザ、助けはいる?」

 

「不要だ。カイト、お前は地上を」

 

「はいよ」

 

 

 言葉を短く交わし、カイトは階段を登る。その先に待ち受けていたのは我先にと地下へと向かおうとする衛兵たち。カイトの役目はエルザの闘いに邪魔が入らないようにすること。役目としては地味かもしれないが、ただでさえ拮抗している両者の闘い。そこに援軍を向かわせるわけにはいかない。

 

 

「いたぞ!アースランドの者だ‼︎」

 

「エルザ隊長をお助けしろっ‼︎」

 

「カッカッカ…………」

 

 

 一斉に地下へと続く階段へと走る衛兵たち。けれど、その前に立つカイトの視線を受けて思わず脚を止める。いっそ、見下した様に冷めた目をされるならば、まだわかる。侮蔑も、蔑みも、魔導士狩りをする上で何度も受けてきた。

 だが、カイトの視線には何も込められていない。清々しいまでの無関心さであり、無機質さ。口元は無理やり笑わせたように引き攣り、声もただ音を出しているだけだ。

 

 そんなカイトの足元からぶわりと、溢れんばかりの幻想的にも見える黒い蝶が周囲を舞った。

 

 

悪魔蝶(グリム・バタフライ)

 

 

 蝶たちが周囲の建物や衛兵、それぞれ自由な場所に留まると刹那爆発を起こす。建物から飛び散る瓦礫が道を塞ぎ、爆風に飛ばされた衛兵たちが宙を舞い、砂塵に隠れてカイトは告げる。

 

 

「お前たちに恨みはない、といえば嘘になるよ。けどまぁ、理解できないわけじゃあない。お前たちはお前たちで、必死に生きる為に足掻き続けた結果だって」

 

 

 けど。けれど。と続けたカイトが砂塵を引き裂き、姿を現す。混沌ノ道化師の魔法を纏い、右手にその怒りを表す様に膨大な魔力を込めて、瓦礫の山の上から声高々と告げる。

 

 

「俺たちのギルドが犠牲になるというのなら、話は別だ。演目も音楽も必要ない、正にこれは生存競争。なら………滅ぼされる覚悟は、あるんだろうね?」

 

 

 言葉と共に放たれた混沌ノ爪。ヒッ、と誰かが息を呑む。誰も避けられない、直撃コースだと悟ったからだ。せめてものと身体を丸め、瓦礫を盾にして逃れようとするが、それが役に立たないことなど本人が1番わかっている。

 けど、そうでもしないと、何かしらのアクションを起こさなければ恐怖に呑まれてしまう。黒と白の魔力が混ざり合う魔法は、けれど予想とは裏腹にガラスが割れる様な甲高い音を立てて衛兵たちの前で砕け散る。

 

 

「まったく、何をしているのですか」

 

 

 握った拳を振るったその人は、頭が痛いとばかりに反対側の手で顔を覆う。遅れて後方から現れた増援が負傷兵を助け起こし、誰も彼もが歓喜に震えた。

 

 

「カイト隊長‼︎」

 

「隊長が来てくださったぞ‼︎」

 

「助かった………助かったァア‼︎」

 

 

 突然現れ歓声を受ける人物に、カイトは眉を顰める。()()()()()。目の前の人物は確かにそう言われた。ならば、エドラスの自身なのだろう。

 だが、ガジルやジェラールとは違い、性別も違っていれば顔も似ていない。唯一髪の色が近しいことくらいだろう。

 

 

「叫ぶ元気があるなら侵入者を追いなさい。A班は負傷兵を、B C班は所定位置へ」

 

 

 歓声に応えず、淡々と指示を出す姿にカイトはここに来て初めて笑う。普段ならば道化として相手を笑わせようとしているが、なるほど。ここまで滑稽な様は確かに笑うしかない。

 不躾に笑う姿が癪に障ったのか、ただでさえ鋭い目つきが更に鋭くなりカイトを突き刺す。それさえもまた笑いの種だ。

 

 

「………なにがおかしいので?」

 

「カッカッカ。いや、なに。負傷兵だのなんだの、悠長に構えるお前が面白くてね」

 

 

 ぱちん、と指をひとつ鳴らせば周囲から現れる影の拳たち。次の合図で総攻撃を図れば終了。後は皆を元に戻すだけだ。そうたかを括るカイトの期待を裏切る様に、次の瞬間展開した魔法が次々と破壊された。

 

 

「⁉︎」

 

 

 確かに、恐怖を覚えさせようと魔法は待機させたままだった。だが、こうも易々と破壊されるものなのかと意識を割かれている内に、一足飛びで懐に入ったエドラスのカイトはそっとカイトの胸に片手を添える。

 

 

「アースランドの私は、足元が疎かなようで」

 

 

 そうして反対の手を添えられた瞬間、全身から血が吹き出すような感覚と浮遊感がカイトを襲った。吹き飛ぶカイトを更に隠れていた兵士たちが持っていた銃で追撃し、充分に蜂の巣にされたカイト。

 激痛の中、魔法を破壊したのは隠れていた部隊かと当たりをつける。舌打ちひとつこぼして起きあがろうとするカイトの顔を、エドラスのカイトが容赦なく踏み潰す。飛び散る赤、靴の裏にこびりつく肉の感触に何の感慨も示さず、淡々と指示を出し始めた。

 

 

「状況クリア。これより、第二魔戦部隊隊長、エルザ・ナイトウォーカー様の援護に入ります。B班は先行し安全の確保を、C班は合図があり次第突撃を。D班は広場の援護へ。遠距離からの支援を徹底なさい」

 

 

「「「はっ‼︎」」」

 

 

 それぞれが指示を受け、まるで機械のように正確に動き出す。エルザ含めた魔戦部隊が王国の剣ならば、エドラスのカイト率いる近衛隊は盾。その任務に失敗など許されず、所属しているのは選りすぐりのエリートのみ。

 他とは一線を期す衛兵たちが一丸となって動くのだから厄介極まりない。制圧力という点では王国随一の実力を持つ部隊。それが瞬きの間に空を舞った。

 

 

「なっ⁉︎」

 

 

 突如として足元から現れたのは黒い巨腕。エドラスのカイトは後退して難を逃れたとはいえ、負傷兵、そして近衛隊を含めた全員が宙を舞う。そのままハエを叩く様に街の方へと弾かれる様を見ながら、今し方頭部を潰した筈の死体を見る。

 

 

「………どうやら、アースランドの私は人ではないようですね」

 

「カッカッカ、今ので動揺してくれたら助かるんだけど………エドラスの俺は人でなしだねぇ」

 

 

 ゆっくりと身体を起こし、まるで逆再生でもするように頭部が復活する。街に弾いた兵士たちは影で作ったネットに叩き込んだとはいえ、復活は難しいだろう。手っ取り早く滅ぼせばよかったものの、交わした約束もありそう過激な手立ては使えない。まぁ、事故ならば違反にはならないと思ってはいるが。

 

 互いに睨み合い、そして合図もなく互いの爪と手甲がぶつかり合う。

 

 

「王国メイド長兼、近衛隊隊長、カイト・ヴァーミリオン。我が王国のため、速やかに死んでいただきます」

 

「フェアリーテイル、道化のカイト・オールベルク。ウチに手ェだしたツケ、払ってもらうよ」

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 王国の地下に幽閉されたナツとウェンディ。グレイたちのお陰で助け出され、魔水晶にされた仲間を助けるため動き出す。

 強制的に魔力を抜かれるという激痛の最中、確かに聞いたのだ。王国は浮遊島に浮かぶ魔水晶とエクシードたちの国、エクスタリアを衝突させこの世界に無限の魔力をもたらすつもりなのだと。

 

 無論、衝突による両者の命はない。ナツ、グレイ、ルーシィの3人は国王を直接止めるために、ハッピーはガジルを連れて一刻も早く魔水晶から仲間を解放するために、ウェンディとシャルルはエクシードたちを避難させるためにそれぞれ動き出す。

 

 

「ウェンディ、危ない‼︎」

 

「きゃっ‼︎」

 

 

 階段を使って地上に出た瞬間、すぐ隣の空間に何かが投げ込まれる。転がる様にして躱し、恐る恐るそちらを見やれば白い道化服に身を包むカイトがいた。

 

 

「カイトさん⁉︎」

 

「いつつつ………おや、ウェンディちゃんにシャルル。2人とも無事でなによ、りっ‼︎」

 

 

 言葉をかけるカイトが慌てて防御魔法を展開すれば、一拍遅れて轟音が辺りに響く。薄く光る壁の向こうでは淡々とこちらを睨むエドラスのカイトの姿。一撃では不可能と判断したのだろう、息も切らさずに無表情のまま拳を叩き込む姿は恐怖でしかない。

 

 

「くそっ、ゴリラ女め………。2人とも、危ないから下がってな‼︎」

 

「で、でも‼︎私たち、エクスタリアに行かないと」

 

「エクスタリア?」

 

「私の故郷よ。魔水晶とぶつけて無限の魔力を手に入れるそうよ」

 

 

 シャルルの言葉に一瞬空を見上げ、あーと納得したように溢し、防御魔法に意識を割きながらちらりとウェンディたちの様子を見る。

 

 

「………危ないからやめておきなさい」

 

「え?」

 

 

 甲高い音と共に防御魔法が破られるが、すぐさま影の魔法で対象を繭のように包み込む。内側から何度も拳を放たれてぐにぐにと動く拘束魔法はあまり長く保たない。この隙にウェンディたちを逃さなければとカイトは判断する。

 

 

「君はまだ幼いんだ。危ないことは俺たちに任せて、早く安全なと、ころ、に………?」

 

 

 言葉を続けていく内に、どんどんと膨らむウェンディの頬。視線はこちらを見ずに、拗ねた様に合わせようとしない。怒っている、とはわかるが何故怒っているのかわからず、困惑するカイト。

 

 

「…わ…し……フェ………ん」

 

「えっと、ウェンーーー」

 

「私だって‼︎フェアリーテイルの一員だもん‼︎」

 

 

 言葉が聞き取れず、聞き返そうとすれば耳が痛くなる様な大声でそう宣言された。そばにいたシャルルがたまらず耳を塞ぐほどの声量に込められていたのは憤慨。

 カイトにとってまだ幼子としか思われていないこともあるし、信用されていない事に対する怒り。ここに来るまで少なからず溜まっていたストレスを吐き出す様に叫んだウェンディに目を白黒させるカイト。

 

 

「シャルル、いくよ‼︎」

 

「え、ええ」

 

「あ、ちょっ、ウェンディちゃん⁉︎ウェンディちゃあーん⁉︎⁉︎」

 

 

 カイトの静止も聞かずに空へと飛び立つ2人。止めようにも拘束を引き裂いたエドラスのカイトがそんなことを許さず、繰り出された掌底を腕でカードするもそのまま弾かれ城壁へと激突。

 

 瓦礫に寝そべるように崩れながら、なぜウェンディがあんなにも怒っていたのかを頭の隅で考える。声色もセリフも表情も、相手に不快感を与えるようなことはしていない筈だ。ならば何故?と考えたところでこちらを見透かしたようにエドラスのカイトがため息を吐いた。

 

 

「アースランドの私は、人の心がわからないようで………いえ、人もどきに理解しろという事の方が無駄ですね」

 

「カッカッカ。なら、お前はわかるのかい?」

 

 

 苛立ち混じりに放たれた混沌ノ爪。そんなヤケクソの攻撃など脅威ではないとばかりに甲高い音と共に砕き、魔法の向こうで鉄面皮を崩さず、けれど嘲笑と侮蔑を込めた視線を送る。

 

 

「当たり前です。主人の機微に聡いメイドを務め、幼い弟を育ててきた身ですから」

 

「なら、教えてもらおうかな?」

 

「なぜ?貴方に教示する義理も義務もないもいうのに」

 

「それもそうだ、ねっ‼︎」

 

 

 空いていた彼我の距離を一足飛びで縮め拳を振るうエドラスのカイト。それを幾重にも重ねた影の拳で遮り、お返しとばかりに黒い蝶の群が対象を包み込んだ。

 即座に起こる爆炎に煽られながらもカイトは臨戦体制を崩さない。周囲に罠を仕込み、どこからでも対処できる様に準備する。

 

 

「けれど、ひとつ言えることがあるとすれば」

 

 

 上空から聞こえた声に、反射的にそちらに視線を向ける。爆炎を利用して飛び上がったのだろう、服や顔が少し煤けたエドラスのカイトにそれ以上の傷はなく、高々と振り上げた脚が降下と共に振り下ろされた。

 

 

「あの少女は、守られるだけの存在ではない、ということです」

 

 

 カイトの展開した半球状の防御魔法。けれど、エドラスのカイトの攻撃は重く、耐えきれなくなった地面が蜘蛛の巣状にひび割れそのまま地下へと落下した。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

「………よかったの、ウェンディ?」

 

「いいの‼︎私たちだけでも、できるんだから‼︎」

 

 

 怒りが収まらないのか頬を膨らませて、視線はエクスタリアに向かってはいるが脳内ではカイトに対する反論が埋め尽くすウェンディ。その背中で呆れつつも、気持ちはわからないでもないと内心ぼやく。

 

 フェアリーテイルに加入してから今まで、認めたくはないがカイトはウェンディを大切に扱っていた。それこそ、ウェンディの頼みは基本断らず、共にした依頼でもウェンディの安全を考えて。憧れを抱くウェンディは気づかなかったかもしれないが、側にいたシャルルにはそれがよく見えた。

 決して好感度を稼ごうなどという下心はなく、シャルルもシャルルでウェンディに危害が及ばないのならと黙認していたが、それがまさか幼いからという理由だったとは。

 

 精一杯、フェアリーテイルの一員として新たなスタートを切っていたウェンディに対する裏切り。信頼していた人から信頼されていないという絶望感。マグノリアに戻ったのならばエルザと協力して締めることはシャルルの中では決定事項である。

 

 

「ほら、もうすぐつくわよ。気を引き締めて」

 

「う、うん‼︎」

 

 

 最後に胸の前で両拳を握り、鼻から息を吐き出して覚悟を決める。プレッシャーで潰れるよりはマシかもしれないが、怒りで視野が狭くならないか、そして自分たちを神の眷属だと信じるエクシードたちがこちらの言葉に耳を傾けてくれるのか。

 様々な不安に駆られながらも、2人はエクスタリアの地に脚を踏み入れるのであった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。