FAIRY TAIL 〜Those called clowns〜 作:桜大好き野郎
「ねぇちゃん」
その声に進んでいた筆が止まる。ゆっくりと振り返ればそこに弟がいた。夜の帷もすっかりと落ち、未だ朝陽も顔を出さないこの時間はまだ眠いのだろう。寝ぼけ眼を擦りながらシーツを片手に、うつらうつらと船を漕ぐ弟はそれでもとてとてと、覚束ない足取りでこちらへと向かってきた。
今にでも眠りに落ちて倒れそうな弟を抱えてやれば、安心するように首に腕を回して肩に顔を預ける。
「どうしたの?」
「ねぇちゃん、いなくて………しん、ぱいで………」
幼い弟にはこの時間帯に起きていること自体が難しいだろうに、自身の心配をして来てくれた事を愛おしく思いながら、その背中をゆっくりと叩く。安心しなさいと、私はここにいる、と囁いてやればそのまま眠ってしまった弟。
それでも回した腕を離さない様子からこれ以上の夜更かしは無理だろうと判断し、寝室へと向かう中、ふと昔の事を思い出した。
魔水晶を加工する職人で頼りになる父、内向的で信仰深い母、そして自身と弟。裕福とはいえないが、それなりに幸せだった過去。
魔水晶を取り扱う父であったが、しかし、魔力の減少と共に採取できる魔水晶の数も激減。職を失い酒に溺れて暴力を振るい始めたのはいつの頃だったか。母はそんな苦難から逃れる様に一層エクシード達を拝み奉り祈ったが、神の手助けなどなく、心身を病み首をくくってしまった。
今よりも幼い弟の手を引いて家から逃げ出し、残飯を漁る毎日。けれども、そんな日々が続くはずもなく、次第に栄養失調で弟は倒れてしまった。大事な大事な、たった1人の弟。薄汚い路地裏で信じてもいなかった神に助けを求めるが無意味な事。
だが、まだ幼い自分にできることなどそれしかなく、この場を離れた隙に弟の燈が消えてしまいそうで。不安と恐怖で体が震えて、涙が溢れて、それでも壊れたおもちゃのように助けを求める。
どうか、弟を。どうかどうか、この子だけでも。
「どうかしたのか?」
そう声をかけてくれたのは神と讃えるエクシードではなく、偶々視察に来ていた国王。後ろから慌てて追い縋る近衛たちを他所に、高価な服が汚れることも厭わずに救いの手を差し伸べてくれた。
事情を聞いた国王の行動は早く、すぐさま街には孤児院が建てられ、失業者に新たな職場に着く機会を与えてくださったのだ。
あの時国王の助けなければ、腕の中で眠る弟はいなかっただろう。孤児院の2人部屋に着くと弟を抱えたまま横になり、頭を撫でながら決意する。
きっとこのご恩はお返しするのだと。そして、2度とあんな思いはしないのだと。月明かりが窓から差し込む中、エドラスのカイトはーーーカイト・ヴァーミリオンはそっと眠る弟の額に唇を落とすのであった。
◇◆◇◆
剣戟。
剣戟。
剣戟に次ぐ剣戟。
エルザ対エルザという、ある意味で怪獣決戦とも言える戦いは互角の争いであった。身体能力を向上させる鎧を纏うエルザの魔法“
互いの体力も技量も変わらない泥沼の戦いの中、突如として天井が崩落した。
「「っ⁉︎」」
互いに後退すると同時に、2人の間に落ちる瓦礫の山。砂煙に紛れて降りてきたカイトたちに驚きながらも視線は敵を捉えたままだ。
「「カイト⁉︎」」
「おや、まだ決着がついていないとは………らしくありませんね、エルザ様」
「黙っていろ」
「いつつつ………。うわ、エルザが2人いる。なにこれ、地獄?」
「黙らせるぞ」
ふわりと舞う様に
カイトの頭に拳をひとつ落としてエルザは人知れず歯噛みする。ただでさえ対等な戦いを繰り広げていた中の乱入。それもカイトが苦戦を強いられている相手だ。早くグレイたちと合流せねば、と焦るエルザを宥める様に患部を摩りながらカイトはエルザの肩に手を置く。
「カッカッカ。そう焦らないでよ、エルザ。君がいるなら、まぁ、なんとか切り抜けられるよ」
「カイト……」
「ふん、小癪な。私たちを倒せるとでも?」
「教育してさしあげましょう。エドラス王国に刃向かう愚かさを」
交戦的な笑みを添えて鑓を構えるナイトウォーカー、無表情のまま半身で構えるヴァーミリオン。それを見てまたエルザも構える。そして視線でカイトに問いかける。
任せていいのか、と。
それを見て任せろとでも言う様にカイトは薄く笑うと、足元の影を広げる。
「さぁてさて、お立ち会い。アースランドの魔法、骨の髄にまで体感させてあげるよ」
ぱん、とカイトが手を叩くと同時に地を蹴るエドラスの2人。狙いは接近戦で厄介なエルザ。無表情に、冷徹に、鑓と手甲がその命を刈り取らんと煌めき、狙いが定められる。
剣を構えるエルザだが、先ほどと比べ隙が多い。何かの罠かと訝しむが、罠ごと粉砕する気概で繰り出されたそれぞれの攻撃は。
「なーんてね」
突如として崩れた天井に阻まれた。崩落に巻き込まる危機感に意識が削がれ、通路の奥から伸びた影の手がエルザを回収。残る2人も後退して躱して追撃を試みるが、通路を埋める瓦礫の山がそれを邪魔をする。
ちらり、と上を見れば影でできた巨腕がゆっくりと揶揄うように消えていく姿。落ちる前に罠を残していたのかと舌打ちを溢すナイトウォーカー。
「チッ!どうするつもりだ?」
暗にお前のせいだぞ、と睨みつければなんともないとばかりに澄ました顔で高くなった空を仰ぎ見る。
「どうもこうも、地上に出て追いかける他ないかと」
「遠回りになるだろう。瓦礫を破壊した方が早い」
「二次被害を考えるとやめておいた方がよろしいかと」
「チッ!」
やはりコイツとはウマが合わない。そんな内心を表すかのような舌打ちをひとつ。それはヴァーミリオンにも言える様で、鉄面皮の奥から冷ややかな視線を送っていた。
王国の誇る矛と鉄壁の盾。そう呼ばれる2人ではあるが、相性は最悪。方や嗜虐性を持ち必要以上に相手をいたぶる事を好み、方や感情を微塵も出さずに淡々と物事を進める事を良しとする。顔を合わせるたびに衝突するのも頷けよう。
けれど、仲が悪いからと言って協力ができないわけではない。ナイトウォーカーが走り出し勢いそのままヴァーミリオンに飛びかかる。それに合わせて拳を構えると、その上にナイトウォーカーの足が乗る。言葉もなく拳が振るわれるタイミングに合わせて跳躍、地上への帰還を果たす。下にいるヴァーミリオンに向けて鑓の形状を変化、伸縮性の高い形態へと移行させるとそのまま救出。
互いに嫌ってはいるが実力を認めているからこそできる芸当を見せた2人。
「行きましょう」
「しきるな。言われなくとも」
魔力を温存するため身体能力を上げる魔法は使えない。疲労が残る中、それでも国のため、世界のために走る2人を見つめる一羽のカラス。その存在を示すようにひと鳴きすると翼をはためかせる。
一羽見つめて、二羽鳴き、三羽飛び立ち、四羽嘴煌めきと、さながら数歌のように増えるカラスの群は気づけば空を覆うほどの数になり、2人の進路を妨害する。
「くそっ!なんだ、こいつら‼︎」
反響するように囀るカラスの群れは次第に2人を中心に円を描く様に旋回。一点集中による強行突破しようにも、攻撃を躱すように割れた包囲網はすぐさま建て直されてしまう。
「………アースランドの私は心底、性格が悪いようですね」
「貴様もそう変わらんぞ」
心外な、とぴくりとも動かない表情のまま拳を。これ以上時間を取られるわけにはいかないと鑓を。それぞれの獲物を構えた2人は仕方なくカラスの殲滅に移るのであった。
「よしよし、このまま時間を稼がせてもらうよ」
地下通路を走る中、片目を手のひらで隠したカイトの呟き。攻撃力のない、視界を共有できる魔法であるカラス。ハリボテの耐久力とはいえ、数を揃えればそこそこ時間を稼ぐことはできるだろう。
カイトたちの目標は仲間たちの魔水晶からの解放。別に戦闘にこだわる必要はないのだ。一刻も早い作戦の遂行を果たさねばならない。
だが、手元にある情報はあまりに少なく、また当然ながら反抗戦力も無視していいものではない。まずはグレイたちの合流をと考えるが、いかんせん入り組んだ地下通路。現在地もわからない状態だ。
「おい、カイト」
どうしたものか、どうするべきか、と頭を悩ませるカイトに、並走するエルザが声をかける。それに無理やり貼り付けた笑みを添えて「なんだい?」と応えれば、エルザは仕方がないとため息を溢した。
「あまり1人で抱え込むな」
「………バレてる?」
「何年の付き合いだと思っている」
そう言われてしまっては返す言葉もない。あー、うー、と言葉にできない気恥ずかしさを唸っていればくすりと笑うエルザ。現状いっぱいいっぱいになっているだけあり、いつもの胡散臭い笑みも余裕も浮かべる余地もないらしい。その人間臭い仕草に思わず笑ってしまいました、敵わないとカイトが両手を挙げる。
「それで、何があった?」
「あー………1番はギルドが魔水晶になったことだけど………さっき、ウェンディちゃんに怒られてねぇ」
「………何をした?」
「心当たりはないんだけどねぇ。精々、危ないから下がってなって言ったくらいだよ」
「怒りを買って当然だろう」
「え?」
本気でわかっていないのか、何とも間の抜けた顔でエルザを見る。呆れた様子でエルザがため息を吐けば、人の心はないのかこいつはと心の中で毒づく。いや、そういえば人外であった。どこかズレているのは仕方がないのかもしれない。
それはそれとして、タイミングがあれば拳で端正してやろうと心に決めるエルザ。
「カイト、例えばだが先ほどの状況で、私がお前だけ逃げろと言ったらどうする?」
「ふざけてるの?」
「それが答えだ」
間髪いれずに答えたカイトはエルザの言葉に図星を突かれたように一瞬口をつむぐが、でもと続ける。
「彼女はまだ子供だよ?守ってあげないと」
「幼なくとも、彼女も立派なフェアリーテイルの一員だ」
「けど……」
「認めてやれ。彼女は守られるほど、弱くない」
「うーん………」
納得がいっていないが返す言葉も浮かばず、押し黙る他ない。内心、初めて口論で勝利したことに喜ぶエルザだが、通路の奥から聞こえるいくつもの足音に警戒を露わにする。
金属音を激しく立てて現れたのは王国兵。5人1組で動いていた彼らはエルザたちを発見するなり、通路に響き渡るよう大声を出した。
「いたぞ、アースランドの魔導士だ‼︎」
「こっちだ、早く来い‼︎」
「王国の未来は、オレたちの手にかかってんだ‼︎」
「………カイト」
「うん?………ああ、いいんじゃない?」
武器を手に襲いかかる王国兵たちを前に、未だ思考の海に没頭するカイトに声をかければ首を縦に振る。そうして浮かべるのは
反対するつもりはないが、そも話なんて聞かなかっただろうにと肩をすくめ、形ばかりの合掌を。これから起こる惨劇に同情も憐憫も向けるつもりはないが、ここで出会ったのが運の尽きだろう。
「オイ、王はどこにいる?」
「は?なにをーーーぶえっ⁉︎」
「王はどこにいる?」
「なっ⁉︎お、おい‼︎ぐはっ‼︎」
「王はどこにいる?」
「ま、待て待て‼︎おごっ‼︎」
「容赦ねえ‼︎」
「アースランドのエルザ隊長は悪魔か⁉︎⁉︎」
「え、援軍‼︎援軍はまだかぁっ⁉︎」
質問という脅迫、そして答えなければ殴られる中、1人1人とまた倒れる。援軍の来る足音が聞こえるが、結果は変わらないだろう。暴力の鉾先が自身ではないことに安堵しつつ、とりあえずは思考を切り替え仲間の救出作戦を練るカイトであった。
◇◆◇◆
王城の頂上近く。街を一望できる大部屋の中に異彩を放つ兵器がひとつ。
規格外の大きさを誇るコードETDの要となる大砲。名を竜鎖砲。
滅竜魔導士から吸い上げた魔力を動力に、天に向けた砲門が定める照準はアースランドから吸い上げた巨大魔水晶の土台である浮遊島。発射された砲弾はアンカーとなり、隣にあるエクシードたちの国へと衝突。そうして魔水晶、滅竜魔導士、エクシードの3つの魔力が合わさればこの世界に無限の魔力が齎される。
後は起動キーとなる鍵を差し込むだけなのだが、ここで時間が発生。幕僚長補佐であるココが浮遊島で戦うリリーを巻き込みたくないと鍵を奪い逃げ出したのだ。
なんと馬鹿なことを、と国王であるファウストは王の証である錫杖を握りしめる。多少の犠牲によって得られる無限の魔力の素晴らしさを、あの子は理解していないのかと。
あの子の走り回る姿が好きだった。元気に、軽快に、ポピポピと走り回る姿は見ていて和み、それが未来の国民達の姿を重ねて。だからこそ、不敬だと周りから言われようと許され、国王はココを側に置いていたのだ。
我が子のように愛した者からの裏切りと作戦が上手く運ばないジレンマに苛まれる中、1人の兵士が国王に近づき耳打ちをする。話を聞いた国王はすぐ通せと命じれば程なくして扉が開く。
そこにいたのはエルザ・ナイトウォーカー。その両手には縛られたナツとグレイが引き摺られ、後ろから続く兵士が警戒するように槍を向けていた。
「エルザ‼︎鍵を持ってきたというのは誠か⁉︎」
「破壊されたようですが、ご安心を。こいつが鍵を作れます」
投げ出されたグレイに心当たりがないのか、国王が誰なのかを尋ねればアースランドの魔導士だと告げられる。縄を解かれたグレイだが、エルザの手には疲労からか脱力したナツ。その首に剣が突きつけられ反撃の隙はない。
けれど、諦めはしない。竜鎖砲が起動直後に照準を魔水晶へと変更。そうすれば仲間を救えるのだ。
手早く造形した氷の鍵を差し込めば、重い駆動音を響かせて起動する竜鎖砲。国王を含めその場の全員の意識がそちらに向かっている隙に辺りを見渡すが、それらしい装置は見当たらない。焦るばかりで時間だけが過ぎる中、剣を突きつけていたエルザが合図を出す。
「ナツ‼︎カイト‼︎」
「おう‼︎」
「‼︎⁉︎」
「な、何だ⁉︎」
突然のエルザの言葉に困惑する中、脱力していたはずのナツが力強く頷けば、両手に纏った炎が兵士たちを薙ぎ倒す。
「火竜の翼撃‼︎」
「貴様ッ‼︎」
「おっと、動かないでもらえるかな?」
ナツの攻撃を逃れた兵士が一本踏み出せば、エルザの後ろにいた兵士が指を鳴らす。それと同時に足元から現れた黒い蛇が周囲の兵士たちに巻きつき、身動きを封じる。
突然のことで動じる国王をエルザは後ろ手で拘束すると剣を首に突きつけた。
「発射中止だーーっ‼︎」
「エルザ……貴様‼︎何のマネだ‼︎」
まさかのエルザの行動に兵士たちは困惑し、国王は激怒する。しかしエルザが光に包まれたかと思えばいつの間にか鎧を身に纏う。それは間違いなくアースランドの魔法。
「私はエルザ・スカーレット。アースランドのエルザだ」
「悪ィ、機転を利かせてくれて助かった」
「これぞ作戦D‼︎騙し討ちのDだ‼︎」
「カッカッカ。人聞きの悪いねぇ」
作戦が上手くいき形勢は逆転。交戦的に笑みを深める中、兵士の中から人質を取るとは卑怯だと声が上がる。だが、全員がそんな野次などどこ吹く風。仲間を救うためならば手段を選ぶ余地などない。
フェアリーテイルの要求はただ一つ。照準を魔水晶へと移し、仲間を解放すること。しかし、永遠の魔力を不意にすることなどできるはずもない。
「ッ‼︎近衛よ‼︎ワシに構わずやれェ‼︎」
「ッ……‼︎御意‼︎」
国王の願いは無限の魔力。しかし、それは決して私利私欲の為ではなく、全ては国民のためである。この身この命で民が救われるのならば本望。それを察した近衛兵は一瞬の躊躇いの後、せめて苦痛なくと王を拘束すらエルザごと攻撃を仕掛ける。
しかし、その攻撃はエルザどころか国王にも届かず、一歩目を踏み出した刹那の内に足元から伸びた影が近衛兵たちを壁に叩きつけた。
言葉もなく、そちらに意識さえ向けていないカイトの罠だ。そも、芝居をしている最中にこの場は既に掌握済み。それこそエルザのような罠を力技でねじ伏せるような実力者でもない限りこの場からの脱出さえ不可能だ。
「くそぉ……‼︎」
「やれ‼︎陛下が危ない‼︎」
「照準変更‼︎巨大魔水晶に変更だっ‼︎」
「バカモノがっ‼︎永遠の魔力を不意にする気かーーーっ‼︎」
国王の叫び虚しく砲門の軌道は修正される。後は発射のみ、と安堵の息を吐こうとした時だった。
「スカーレットォォォォ‼︎」
「な⁉︎」
「ナイトウォーカー‼︎」
「チッ‼︎」
屋根を伝い上空から現れたナイトウォーカー。さすがに空中への罠は設置しておらず、すぐさま影で拘束しようとするカイトの懐に人影ひとつ。
「させるわけにはいかせません」
「ッ‼︎ああ、もうっ‼︎」
寸前のところで影を重ねて防ぐが、その隙にナイトウォーカーとエルザが衝突。拘束していた国王が解き放たれた。そこから先の兵士たちの動きは早く、すぐさま照準が元に戻される。
忌々しげに目の前にいるヴァーミリオンの鉄面皮を睨み、ナツとグレイも発射を阻止しようとするが少なくない兵士たちに囲まれてはどうしようもない。
国王の勝利を確信した笑いと共に発射された竜鎖砲。砲門に蓄えられた魔力は楔となり、過不足なく浮遊島に接続。鎖のように繋がる魔力を操作してエクスタリアへと移動し始めた。
こうなってしまっては最早大元である竜鎖砲を破壊しても、慣性の法則に従い島は動き続け国王の目論見通りマグノリアの街が無限の魔力へと変換されてしまう。どうすれば、と額に汗を流した時だった。
「みんなぁ‼︎乗って‼︎」
「ルーシィ⁉︎」
「なぜあの小娘がレギオンを‼︎⁉︎」
空の向こうから現れたルーシィが乗るのは巨大なツノと翼を携えた空飛ぶ生き物。レギオンと呼ばれるそれはエドラスに存在する魔獣であり、王国が飼育している筈のもの。
主人が認めない限り操ることが不可能な筈のレギオンをルーシィが用意できるはずもない。ひょっこりとルーシィの影から見えるのは幕僚長補佐であるはずのココ。レギオンを操りアースランドの者に加担するのは王国に対する裏切りだというのに、その表情に後ろめたさはない。
「こいつで止められんのか⁉︎」
「わかんない‼︎でもいかなきゃ‼︎」
「行かせるとお思いで?」
「うおっ⁉︎」
背にフェアリーテイルの面々が乗り込みレギオンが鳴いて飛び立とうとする刹那、その尻尾をヴァーミリオンが掴み引き留める。何十倍では効かない体格差があるというのに、尻尾を掴まれたレギオンは動けない。
「メイド長………っ‼︎」
「なによ、あいつ⁉︎」
「王国の近衛長だよ‼︎すっごくおっかないの‼︎」
「見りゃわかるわ‼︎」
「ココ、何をしているのか貴女は理解しているので?」
「っ‼︎わかってるよ‼︎でも、永遠の魔力より、私は永遠の笑顔が欲しい‼︎」
「そのための永遠の魔力です。多少の犠牲など捨て置きなさい」
「レギぴょん‼︎」
尻尾を掴む手に力が込められてか、レギオンが苦しそうな声を上げる。縫い止められている内にと魔法が放たれその巨大に傷が入る。まずはあの女を何とかしなければとグレイが造形魔法をくりだそうとした瞬間、ヴァーミリオンの背後から影が襲う。
「置き土産だよ。
拘束に用いていた影を解除して作り上げられた複数の頭を持つ大蛇。さすがに気を取られ力が緩んだ瞬間に羽ばたくレギオン。その風圧は周囲を弾き、直近でモロにくらったヴァーミリオンは口を開けたヒュドラに飲み込まれてしまった。
その隙に空へと駆り出したフェアリーテイル。後に残された面々が忌々しげに睨む中、ヒュドラの腹の中を裂いて脱出したヴァーミリオンは拳を鳴らす。
「カイト隊長‼︎⁉︎ご無事で⁉︎」
「見ての通りです。近衛隊、残っている人員を総動員。レギオンに乗って追いかけます」
「第ニ魔戦部隊もだ‼︎急げ‼︎」
「ワシも行こう。ドラム・アニマを用意せい」
王国の、世界を脅かす者と判断した国王。禁忌とされた兵器の使用さえ厭わず、必ずやつらを始末するのだと心に決める。
決着の時は刻一刻と迫り来るのであった。