FAIRY TAIL 〜Those called clowns〜 作:桜大好き野郎
発射された竜鎖砲。楔を打ち込まれた浮遊島は動き出し、進む先はエクスタリア。ウェンディとシャルルの警告も無視して、そこにいるエクシードたちは逃げ出せばいいものを、この期に及んでまで女王であるシャゴットが何とかしてくれるのだと楽観視していた。
そも、何百年と長い間神や天使として奉られていたのだから危機感を抱くことも難しいだろう。堕天したと看做されたシャルルとその仲間であるウェンディに物を投げつけられ、嘲笑されるのは辛い。
2人身を寄せ合うように抱きしめ合いながら、やはり自分には無理なのかとウェンディは自己嫌悪に陥る。無論、ここまで来たのは紛れもなくエクシードたちを救うためであり、ウェンディの意思の下動いた。だがカイトに反発して、少しでも見返してやろうという気持ちが皆無かと言われれば首を横に振る。
けれども、今ここに至っては自分はでしゃばらずに、素直に誰かに任せた方が上手くいったのではないのかと思ってしまう。
彼女の中にあった自信という名の柱にヒビが入る、そんな時だった。王国の端、島の縁側部に浮遊島が衝突したのは。
幸いな事にまだ接触しただけに止まりすぐさまに魔水晶との融合、ということはないがそれも時間の問題。しかし、エクシードたちは焦りながらもまだ大丈夫だと声をあげる。
なぜなら自分たちには女王がいる。神と崇められ、自分たちには到底不可能な力を持つ女王が。だから安心だ、と声をあげるのは果たして周囲を宥める為か、それともそう自分自身に言い聞かせているのか。
島の崩壊まであと少し。
◇◆◇◆
「「うぉおおおおおおっ‼︎」」
ココの操るレギオンが何とかエクスタリアと浮遊島の間に割り込み、その巨大をぶつける。続くようにその背中にいた面々も押し返そうとするが、後退するどころか減速さえしない浮遊島。
パンサー・リリーと戦っていたガジルも参戦するが暖簾に腕押し。そうして遂にエクスタリアとの接触を許してしまった。
「ッ‼︎ カイト‼︎あのデッケェ腕出せねェのかヨ‼︎」
「そんな余裕、ないよ‼︎それこそガジル‼︎なんで魔水晶壊れてないの⁉︎」
「黒ネコが邪魔すんだヨ‼︎」
カイトの影魔法は確かに便利ではあるが、足元の影を起点にしなければならず、そも魔法を展開する余裕もない。
魔水晶破壊の任を背負っていたガジルもパンサー・リリーの妨害により遂行できていない。例え妨害がなかったとしても街ひとつ分の魔水晶の破壊は短時間では困難。それこそナツやウェンディと力を合わせても不可能だろう。
解決策が力押しのみということに辟易するが、弱音は吐いていられない。腕と脚に施された封印を部分的に解放。吸血鬼の膂力を持って更に力を込めるが変わった様子はない。
「無駄な事を‼︎人間の力でどうにかできるものではないというのに‼︎」
パンサー・リリーの言う通りそも、何千、何万トンにも及ぶ質量を押し返すことなど不可能なのだ。それでもフェアリーテイルは諦めない。声を上げ、負けないと歯を食いしばり、踏ん張りを効かせる。
そのうち、エクスタリアから飛んできたシャルルも加わるが、やはり変わらない。けれどーーー
「うあーーー‼︎」
エクシードの1人、ナディから始まり続くように大量のエクシードたちが加わった。女王であるシャゴットの宣言、自分は人間に抗う術を持たないただのエクシードであるということの判明。これにより救いはないのだと諦めるエクシードたちの前で、せめて自分の命をケジメとして他のエクシードたちの助命を試みた。
しかし、シャルルはそれを拒否。諦めてなるものかと吠える姿がひとり、またひとりと動かしたのだ。
「あっ……」
そんな中、他のエクシードに抱えられたウェンディの視界にカイトの姿が目に映る。大見えを切った手前、結果的にエクシードたちの力を借りるということになったが、それは自身の力ではなく、エクシードたち自身が決意したことだ。そんな後ろめたさがあるのかそんな場合ではないというのに表情に影が差す。
それに気がついたカイトも何と言えばいいかわからずに顔を逸らし、視界に入ったエルザに睨まれて覚悟を決めた。
「ウェンディちゃん‼︎」
「は、はいっ⁉︎」
「色々言いたいことあるけど………よく、やったね‼︎」
「っ‼︎はい‼︎」
「オイ、それ今じゃなきゃダメか⁉︎」
「カッカッカ‼︎言えるうちに言わないとねぇ、グレイ‼︎」
「縁起でもねェ事言ってンじゃねェ‼︎」
エクスタリアがひとつとなり、浮遊島を押し返す。その姿にかつて傷ついた人間をエクスタリアに入れたことで追放となったパンサー・リリーも心を動かされ、方翼で必死に飛ぶシャゴットを救う。
ひとり、ひとりと力が加わり、そうして遂に押し返される浮遊島。そして次の瞬間眩い光と旋風が魔水晶を包み込んだ。
あっと驚いたのは束の間、弾き飛ばされた面々をエクシードたちが抱える中目にしたのは魔水晶が消え去った浮遊島。唖然とする一同の前に巨大な鳥に乗るミストガンが現れた。
「全てを元に戻すだけの巨大なアニマの残痕を探し、遅くなった事を詫びよう。そして、皆の力がなければ間に合わなかった。感謝する」
「おお‼︎」
「元に戻したって………」
「そうだ。魔水晶はもう一度アニマを通り、アースランドで元の姿に戻る。全て終わったのだ」
ミストガンの言葉に一瞬場が鎮まり、ある者は涙を流し、ある者は隣と確認し合い、ある者は笑みを浮かべ、そして爆音のような喜びの声が空を包む。
「リリー、君に助けられた命だ。君の故郷を守れてよかった」
「ええ………ありがとうございます。王子」
覆面を外したミストガン。その正体はかつてパンサー・リリーがエクスタリアを追放されるきっかけとなった、エドラス王国ファウストの息子。互いに生還を喜び、涙を流していたその時だった。下方から飛んできた魔力弾がパンサー・リリーの腹を貫いたのは。
「リリー‼︎‼︎」
「カイト‼︎」
「あいよ‼︎回収は任せた‼︎」
落下するパンサー・リリーに向けて放たれる回復魔法の白衣。かんぶに巻きつき傷を癒すが、流石に引き上げるような事はできない。得意の影魔法も空中では使えず、ひとりのエクシードに回収を任せると下から迫る集団に視線を向ける。
「スカーレットォォォォ‼︎」
「ナイトウォーカー……」
怨敵とばかりに睨みをつけるナイトウォーカーとヴァーミリオンを先頭に、レギオンを駆りこちらへと飛ぶ王国軍。しかし、その進行は前に出たミストガンの姿を見て止まった。
「エドラス王国王子であるこの私に刃を向けるつもりか、エルザ・ナイトウォーカー、カイト・ヴァーミリオン」
「くっ‼︎」
「………」
歯噛みするナイトウォーカーとは対照的に、どこか呆れたようにミストガンを睨むヴァーミリオン。その拳が握りしめられる中、国王の声が周囲に響く。
『ワシは貴様を息子などと思っておらん。7年も行方をくらませておいてよくおめおめと戻ってこられたものだ。貴様が地上でアニマを塞いで回っていたのは知っておるぞ、この売国奴め』
「この声どこから……」
「あなたのアニマ計画は失敗したんだ。もう戦う意味などないだろう?」
『意味?戦う意味だと?これは戦いではない。王に仇なす者への報復。一方的な殲滅』
「な……何アレ‼︎⁉︎」
『ワシの前に立ちはだかるつもりなら、たとえ貴様であろうと消してくれる。跡形もなくなァ』
「父上……‼︎」
『父ではない。ワシはエドラスの王である。そうだ………貴様をここで始末すれば地上でアニマを塞げる者はいなくなる。また巨大な魔水晶を作り上げエクシードを融合させることなど何度でもできるではないか』
誰が先に見つけたのか。絶句し、視線を一点に見つめる先には王国から程近い森。木々を薙ぎ倒し、王の声を拡散するソレは姿を現した。
『フハハハハッ‼︎王の力に不可能はない‼︎王の力は絶対なのだ‼︎‼︎』
現れたのは銀に輝くトカゲの様なモノ。ドロマ・アニムと言われるソレは竜騎士を意味し、外部からの魔法を無効化させる搭乗型の甲冑である。2足で立つその姿は確かにどことなくドラゴンにも見えなくないが、やはり不恰好だと内心嘲笑うカイト。
しかし、その力は本物であり、何より魔水晶をアースランドへと還してもアニマがある限り2度目3度目の事態が起こることは確かである。アニマを破壊しても設計図がある限り何度も組み直せる上に、魔力が有限だと言え侮れる相手ではないのだ。
さて、どうしたものかと周りのエクシードたちが魔水晶へと変えられる中、エクシードたちの保護を選んだ一同はココの駆るレギオンに乗り、王国軍を追う。
「うーん………ココ、って言ったっけ?ドロマ・アニムはどこまで魔法を無効化できるの?」
「もう全部‼︎全部だよう‼︎王国の粋を集めた最強の魔法なんだよう‼︎」
なるほど、と納得しながら自身との相性は最悪だと内心ため息を溢す。勝機があるのはエルザくらいだろう。混沌ノ爪を飛ばしながら王国軍の妨害に励むが、空中の機動力は向こうのほうが上であり、直線でしか飛ばない魔法は容易く躱されてしまう。
『人間は1人として逃がさん‼︎全員この場で死んでもらう‼︎』
ドロマ・アニムの口から放たれた閃光。数ある武装の中でも破壊力に富んだ攻撃は、しかし、ミストガンの魔法が受け止めた。
「ミストガン‼︎」
「エルザ‼︎今のうちに行け‼︎三重魔法陣、鏡水‼︎」
ドロマ・アニムに跳ね返される閃光。だが、例え自身の攻撃であろうと魔法である以上無効化され、お返しとばかりに放たれた攻撃にミストガンが森の中へと消える。
「ミストガン‼︎」
『次は貴様等だァ‼︎』
「くそ‼︎アレを躱しながら戦うのは無理だ‼︎」
閃光が収束し、今まさに放たれようとしたその瞬間、突如としてドロマ・アニムの頭を上空からの一撃が揺らした。
『何⁉︎』
続く様に腹部からの衝撃に操縦席ごと揺らされ、追撃とばかりに風の暴風がドロマ・アニムを襲う。
「やるじゃねーか、ウェンディ」
「いいえ。2人の攻撃の方がダメージとしては有効です」
「ヤロウ、よくもオレのネコを」
ドロマ・アニムの前に立つのはナツ、ウェンディ、ガジルの3人。ナツとガジルはともかく、戦い慣れていないウェンディがいる事に驚きのあまり目を見開いたカイトは危ないから下がれと思わず口に出そうとする。
「カイトさん、見ててください」
しかし、予想していたのだろう。こちらを振り向かず、しっかりと敵を見据えたウェンディの声に、口を開けたまま固まるカイト。
「私、守られてばっかりじゃないんです。私だって、戦えるんです。だから、見ててください。私だって、やれるってところを‼︎」
確かな決意と、確固たる意思を持ってそう言い放ったウェンディ。ちらりと見えたその眼差しをしばし見つめ、そして大声で笑い出す。突然の事で周りから怪訝な目で見つめられるが構わずに、カイトは思いっきり笑う。
何が守るだ。何が救うだ。そんなもの、ただの上から目線の独りよがりではないか。彼女を見ろ。もはや守護を必要としない、芯のある立派な人間ではないか。
そんなことがわからずに、ただただ身勝手に、馬鹿の一つ覚えのように守るのだと口にする自身が可笑しくて、恥知らずで、あまりにもあんまりな滑稽さに笑いが止まらない。
「お、オイ。頭でも打ったか?」
「カッカッカ‼︎いや、なに。あまりにもな自身の身勝手さに笑えてね」
「え、今更じゃない?」
「今更だろう」
「今更だな」
「カッカッカ‼︎あぁ、そうだね。今更だ」
目尻の涙を指で拭って、改めて3人を見つめる。なるほど、相手が竜を名乗るのならば、滅竜魔導士である彼等はうってつけ。多少なりとも攻撃が通るのであれば勝機も見える。なんと皮肉なことだろうかと、またもや笑い出すカイトにドン引きしながら、エルザはエクシードを追う王国軍を見据える。
「ここは任せたぞ‼︎」
「「「オウ‼︎(はい‼︎)」」」
「む、無理だよう‼︎相手は王国最強の魔道兵器なんだよう⁉︎」
「進め‼︎」
「は、はぃいい‼︎」
エルザの圧に負けてレギオンを繰るココ。きっと彼等ならば大丈夫だと信頼し、一同はエクシードたちの救出に乗り出すのであった。
◇◆◇◆
「見て!王国軍が見えてきた‼︎」
「よし!このまんま突っ込め‼︎」
「頑張って、レギぴょん‼︎」
「んー………」
「どうした、カイト?」
王国軍を追いかけて少しして。
ようやくその姿が点ではあるが見えてきたころ。何が不満なのか、唸りをあげて頭を捻るカイト。そんな様子に気がついたエルザが声をかければ前を見据えながら言葉を紡ぐ。
「いやぁ。なんだか上手く追いつけたなぁって」
「それがどうした?」
「順調すぎるんだよ」
相手が少数ならまだしも、軍という大世帯。半数をこちらの妨害に回すなりしてくると予想していたのだがそれもなし。それだけエクシードたちを捕らえる事に優先を置いている、とは考え難い。
ならば、と考えたところで地上から飛び立つレギオンの群れ。それらは一同を取り囲む様に滞空すると、背中の兵士たちから武器を向けられる。ああ、やはり罠を仕込んでいたかとため息を吐いても後の祭り。
待っていたぞ、と堂々と現れたナイトウォーカーを尻目に、さて自身ならばこの後どうするかを考える。
「………ハッピー、シャルル。みんなを抱えて飛ぶ準備して」
「?」
「下から来るよ!」
カイトがそう叫んだ瞬間、地上から放たれた攻撃が乗っていたレギオンを襲い、少なくない傷を負わせた。飛行不可能となったレギオンから放り出された面々はしばしの滞空の後、シャルルとハッピーに抱えられてゆっくりと落下。
その隙を狙おうとする王国軍を自前の羽で滑空しながら妨害するカイトと、換装した鉤縄でレギオンを捕らえ移動するエルザ。
エルザの向かう先にはナイトウォーカー。激突しながら興奮したレギオンが導く先にはひとつの浮遊島。決着はそちらでつける様だ。ならば自身の相手はこちらだろうと、地上から飛び立つレギオンを睨む。
「カッカッ。しつこいねぇ、お前も」
ヤケクソ気味に放たれた混沌ノ爪。飛来するソレを甲高い音を立てて破壊するのはヴァーミリオン。吸血鬼の姿を表すカイトに驚いた様子もなく、表情筋をぴくりとも動かさず睨み返し、半身に構える。
「それはこちらのセリフです。大人しく魔力となればいいものを」
「無限の魔力のために、かい?」
「我らが幸福のために、です」
ヴァーミリオンの後ろに控えていた兵士が攻撃魔法を放つ。しかし、攻撃は届かず、振るったカイトの爪が全てを破壊する。
「許せ、とは申しません。我らが大義の為に、その命いただきます」
右手を挙げたヴァーミリオンを合図に、地上から放たれる攻撃魔法の数々。流石に張り巡らされた弾幕を躱すことはできずいくつもの直撃が直撃するが、カイトは動じない。むしろ、爆炎の向こうから高らかに笑う声が兵士達を怯えさせていた。
「カッカッカ!大義、大義ときたか!」
片手で顔を覆い呵呵大笑するカイトにすっかりと怯え、追撃される様子はない。笑い声が収まると覆っていた手を外し、表情の抜け切った顔でヴァーミリオンを睨む。
「何が大義だ、ふざけるなよ。お前達の欲のために死ねるわけないだろう」
大きく伸ばされた羽が羽ばたけば湧き起こる暴風。さしものレギオンも対抗できず、その背中に乗っていた兵士たちが振り回せれる中、カイトは高らかに宣言する。
「改めて自己紹介をしよう。俺はフェアリーテイルのカイト。道化であり、吸血鬼であり、そしてーーー」
「お前達の絶望だ」
追撃として放たれた混沌ノ息吹がレギオンを襲い、その身を大地へと叩き落とすのであった。