FAIRY TAIL 〜Those called clowns〜 作:桜大好き野郎
「冗談じゃないわよ‼︎」
堂々たる仁王立ちで、棘をマシマシにしたシャルルの言葉を受けるのはエドラスにいるはずのエクシードたち。一国民丸々なのだからその数はかなり多い。皆、シャルルの言葉がごもっともなのか項垂れていた。
さて、なぜこのように状況に?と異様とも言える光景から現実逃避するべく、カイトは頭の中で状況を整理する。
アニマの逆回転によりアースランドへの帰還を果たした一同。街を一望できる丘の上へと転移し、眼下に見えるのはマグノリアの街。次は人員の安否だと意気込んだところに先に到着していたエクシードたちが現れたのだ。
エクシードたちは呑気に人々の無事を伝えてくれたが、無数のネコが空を舞う様は見ていて頭が痛くなる。話を聞けばアニマの逆回転に呑まれこの世界に来たのだと。
項垂れる面々の中でも特に居心地が悪そうにしているのは女王を名乗るシャゴット。力の弱いエクシードたちを守るためとはいえ、神を騙り、未来視によって見たエクスタリアの破滅から逃すために、滅竜魔導士の抹殺という名目の子供達のアースランドへの避難。
シャゴットの独断ではなく元老院をも含めた計画だったとはいえ、その背中に乗る重圧は中々のものだろう。
誤解も解けての大団円とはならず、威嚇してばかりのシャルルをどうしたものかとウェンディが視線で助けを求めるが、部外者が口を挟む場面ではない。苦笑いを浮かべるだけしかカイトは思いつかなかった。
そも、エクシードたちを送り返そうにもその様な技術はこの世界には存在せず、エドラス側も魔力が消えた以上2度とアニマを開くことはできない。カイトにできることと言えば精々、新たな住処を探す手伝いをすることくらいだ。
そうしている内に、シャゴットの話を聞く内に折れたシャルル。決定的だったのはシャゴットと同じ予言の力を自身も持ち、それが断片的に見えた為にありもしない使命があると思い込んでいたという話だろう。
6年前に逃した子供達を探すべく、空を舞うエクシードたちを見送りながらカイトは肩を竦めてため息ひとつ。考えるのは今後のことだ。
「さて、どうしようかねぇ……」
「あ?何がだ?」
「いや、今回の事の報告をね………それ、楽しい?」
「おう。オメェもやるか?」
「遠慮しておくよ♪」
顔長のエクシードの癖に感化されたのか、腕を上下に振り続けるナツ。よくよく見ればグレイ、ルーシィ、エルザも真似していた。
それはさておき、目下課題なのは報告だ。ミストガンの脱退の件は、マカロフのことだ仕方がないですませてくれるだろう。しかし、問題は評議院への報告だ。少なくとも数日の間、街が消えていたのだ。必ず評議院ないし王国からの調査が入るだろう。
ただでさえ睨まれているフェアリーテイル。それに異世界へと行きました、と証言しても聞いてはくれないだろう。
真似したいのかうずうずしているウェンディを嗜めながら、山積みの問題に半ば現実逃避をしていれば、ガジルが声を上げる。
「リリーはどこだ?パンサーリリーの姿がどこにもねェ‼︎」
「オレならここにいる」
騒ぐガジルを制したのは、探し人であるパンサーリリー張本人。しかし、その姿はエドラスの様に巨大ではなく、ハッピーやシャルルと同じ程の大きさになっていた。本人曰く、アースランドとの魔力の兼ね合いだろうとのこと。
王子であるミストガンが世話になったギルドに加入したいらしく、念願の相棒を手にしたガジルは抱擁しながらの大泣き。そんなにか、と少しばかりカイトは引いていた。
「ん?リリー。君、何持ってるの?」
「ああ。ここにくる途中、怪しいやつを捕まえた。来い」
「ちょ…‼︎私、別に……怪しくなんか‼︎」
リリーの持つ縄に気がついたカイトが指摘すれば、無遠慮に引っ張られる縄。不審者という事もあり、少しばかり警戒をしていたが、その声が聞こえた瞬間、言葉を失う。
ありえない、と切り捨てようにも、記憶の底から響く声に彼女の声はあまりにも似ていた。そうして、藪の向こうから転がる様に現れたその姿に息を呑む。
「私もフェアリーテイルの一員なんだけど………」
「リサーナ………」
2年前、確かにこの世から消えたはずの彼女が、確かにそこにいた。
頭に浮かぶのは沢山の疑問符。他人の空似というにはあまりにも似過ぎていて、生き返ったというにはあまりにも荒唐無稽。現在を受け止めきれない一同が出した結論はエドラスのリサーナが舞い込んで来たというもの。
しかし、件のリサーナはナツを見つけた瞬間、縄を持つリリーごと突進するやうに抱きついた。
「ナツ‼︎‼︎また、会えた……本物のナツに」
空から降る雨とは別の水でナツの頬が濡れる。唖然とする一同さておき、ハッピーに抱きついたかと思えばエルザとグレイに久しぶりだと言い、ルーシィとウェンディに挨拶を。
ありえない、ありえないのだ。死んだのだ、彼女は。死んだはずなのだ。棺を用意して、離別したのだ。けれど、目の前の現実はそれを否定して、困惑しながら出した結論を嘲笑う。
「カイト……」
「うん、信じられないけど………いや、本当に信じ難いけど………リサーナ。君は、
「
「なっ‼︎⁉︎」
「ええええー⁉︎」
「師匠⁉︎」
「違う、ルーシィ。驚くところ、そこじゃないよ」
若干一名、違うところで驚いていたが、場が驚愕に包まれる。喜びのあまり抱きつこうとするナツとハッピーを止めて、エルザが問う。なぜ2年前に死んだはずの彼女がここにいるのか、と。
そうしてゆっくりと語り出そうとしたリサーナを遮る様に、カイトが手を叩いてそれを中断させた。
「まぁまぁ、エルザ。それよりもまず、先にやる事があるだろう?」
「やる事?」
「そうさ♪とりあえず、移動しようか。行き先はカルディア大聖堂だよ♪」
◇◆◇◆
カルディア大聖堂。そこは神に祈りを捧げる場所であると同時に、死者を弔う墓地。敷地の一角にはいくつもの墓石が立ち、そのうちのひとつにミラジェーンとエルフマンが死者に花を手向けていた。
降り頻る雨など気にせず、後悔と懺悔が2人の中で入り混じる中、声が聞こえた。
聞こえるはずのない、2度と聞く事が叶わないと思っていた、愛しい妹の声。ミラ姉と、エルフ兄ちゃんと、そう聞こえたのだ。
最初は聞き間違いかと自嘲を。けれど2度3度となるとそうも言っていられない。幻聴だと、ありえないのだと思い、少しばかりの期待を込めてそちらに振り向いた瞬間、2人の時間は止まった。
雨の中、こちらに駆けてくるリサーナの姿。傘を持つ手が震えて、目尻から溢れる涙が視界を歪ませようとも、しっかりとその姿は確認できていた。
気がつけば駆け寄り、抱きしめ合う兄弟姉妹。2度と会えなかったはずの者との再会を果たし、雨と混ざり合う様に歓喜の涙が溢れるのであった。
◇◆◇◆
その日、ギルドはいつも以上の大盛り上がりを見せていた。何せ死んだはずのリサーナが戻ってきたのだ。飲めや騒げやの大はしゃぎ。配膳に回るカイトも心からの笑顔を浮かべていた。
ギルドが異世界に囚われた時は荒れていたが、結果としてみれば元通り。どころか死んだはずの人間まで復活したのだ。嬉しくないはずがない。
ミストガンが脱退したのは確かに悲しい。だが、それは彼が決めた道であり、第三者である自身がどうのこうの言えるものではない。きっとエドラスで元気にしているだろう。
食糧庫を空にする勢いで料理を作り、配膳された料理は瞬きの内に消えてしまう。負けてられないと謎の負けん気を胸に抱き、鼻歌混じりにマルチタスクをこなすカイトに、そういえばとルーシィが声をかける。
「師匠ってどういうこと?」
「ああ、それ?なんのことはないよ。エルフマンとリサーナに魔法を教えたのは俺だからね♪」
「そうなの⁉︎」
元々、魂というものに関しては一家言のある吸血鬼。そして
余談であるが、最初の方こそエルフマンも師匠呼びではあったのだが、ギルドでの飄々とした姿があまりにもあんまりで次第に名前呼びとなっているのだ。
「わ、私もカイトさんから色々教わりたいです‼︎」
「それはいいけど、どうしたのウェンディちゃん?すごいやる気だね?」
真面目なウェンディの、いつも以上のやる気に驚きつつも手は止めない。オーブンから取り出したスポンジケーキにクリームを塗りつつもそう問えば、露骨に視線を逸らすウェンディ。
師匠呼びに憧れを抱いた、とは流石に言えず、力をつければエドラスでもっと活躍できたはずだからと誤魔化す。
そんな目が泳ぎまくるウェンディを横目に、少し離れた机の上からシャルルの睨み。既にエドラスでやらかし、エルザからはアイアンクローからの宙吊りを、シャルルからはその鋭い爪で顔を横薙ぎにという仕置きを受けていたカイトはわかっている、という意味を込めて苦笑いを返す。
肩を竦めてため息を溢すシャルル。言外にどうだか、と言ってるのは火を見るよりも明らかだ。信頼がないのは仕方がない。以前のように構い過ぎず、過保護にならず、程よく教授しようと決めるカイト。
といっても、扱う魔法が違いすぎるのでそこまで深く教えることはできないのだが。
「うん、できた♪エルザー」
「ようやくか」
「いや、既に3ホールは食べてるよね?」
「3ホール⁉︎」
最後に飾り付けを施したショートケーキを受け取ったエルザ。そのままホールごと食べ始めるのだからルーシィとウェンディは驚きを隠せない。よくあれだけ甘いものを食べてあのプロポーションを保てるものだと絶句と共に羨望を。
これがS級魔導士の実力かと物怖じするルーシィたちを尻目に、見慣れた光景故に気に求めず次々と料理や片付けなどに勤しむカイトの姿に視線ひとつ。
少しばかり熱っぽい視線を送るのはミラジェーン。いつもならカイトと同じ様に厨房で激務に励む彼女ではあるが、今回は別。リサーナの隣で帰還の喜びを分かち合うミラジェーンであったが、ふとした瞬間、無意識のうちについ目で追ってしまうのだ。
この気持ちは恋や愛だの、そう言った類のものではないと、ミラジェーンは自覚している。これはただ幼き頃、ギルドに引き留めてくれた恩人への感謝の延長線なのだと。
だから、カイトが他の人と楽しそうに談笑する姿を見て痛む胸はきっと、幼子が親に構ってもらえない悲しさと同じものなのだと、そう納得させる。
そんなミラジェーンに気がついてか、リサーナこっそりとミラジェーンの横に顔を近づけると少し意地の悪い笑みを浮かべて問いただす。
「ねぇ、ミラ姉。師匠とはどこまでいったの?」
「……なんのことかしら?」
いつもの様に微笑みを添えてそう返すミラジェーン。まだ認めないつもりなのか、と内心呆れてしまうリサーナ。いっそのこと、みんなにバレているぞと教えた方がいいのだろうか?
それはそれで面白そうだが、この姉のことだ。意固地になって頑なに認めようとはしないだろう。
カイトの事を師匠と慕うだけあり、リサーナの行動原理は面白さが優先される。無論、カイトよりも理性が働くために大事には至らないが、怒るに怒れないセーフゾーンで人を揶揄うのは間違いなく師匠譲りである。
「おぉい、リサーナ‼︎こっち来いよ‼︎」
「リサーナぁ‼︎」
「なになに?何かあったの?」
「あ、おい‼︎」
可愛い妹に汚い野郎を近づけまいと奮闘するエルフマンの脇をくぐり抜けて、はしゃぎ回るナツとハッピーの元へ。
姉の恋愛論はとりあえず後回しに。今はとにかく、2年越しの再会を心から楽しむことだ。
ナツとハッピーに勢いよく飛びかかるように抱きつき、リサーナは会えなかった期間を埋める様に笑う。それを見てまた、ギルドの全員が昔を思い出して微笑むのであった。