FAIRY TAIL 〜Those called clowns〜   作:桜大好き野郎

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天狼島ー③

 

 

 空を駆ける巨大飛行船。それ自体がギルドの本拠地として稼働し、その機動力から評議院さえ所在を掴む事さえ叶わない三大闇ギルドの一角、悪魔の心臓。

 

 マスターであるハデスの実力もさながら、その下に控える煉獄の七眷属も並の実力ではない。一人一人が下手なギルドであれば単騎で壊滅させられる実力を持ち、その力に惹かれてかギルドに属する者は闇ギルドの中でも最多だ。

 

 一向が進む先は天狼島。そこに眠るとされる闇魔導士の代表格、ゼレフを手に入れるために。

 

 煉獄の七眷属の内ひとり、かつて評議院として潜入していたウルティアはこの作戦にかける思いは人一倍強く、怨敵もかくやとばかりにそろそろ見えてくる頃である天狼島を睨む。

 

 

「ウル!あれ‼︎」

 

「私をウルと呼ぶな」

 

「ご、ごめんなさい」

 

 

 その名は忌々しい思い出しか呼び起こさず、声こそ荒げなかったが確かな怒りが込められた声に同じく七眷属のひとり、メルディは目を伏せる。

 

 

「そんなナーバスになるなってば!で?どうした?メルディ」

 

「見えてきた」

 

 

 軽い調子で慰めるのは七眷属のひとりザンクロウ。そしてメルディの言う通り確かに、肉眼でも確認できるようになった天狼島が。しかし、その島の手前。まるでこちらの侵入を阻むかのように巨大な人影も見える。

 

 その正体は巨人化の魔法を最大までに使ったマカロフ。巨大飛行船よりも2回り以上に巨大なその姿は紛う事なく巨人。初代から受け継がれてきたギルドを、何より家族を守るためにその力を躊躇いなく振るう。

 

 

「ここから先へは行かせんぞ」

 

 

 振るわれた拳は強化装甲の筈の船体を容易く破壊し、中にいる人員に驚愕を与える。しかし、そんな中でも玉座に座するハデスに焦りはなく、冷静に事を見据えていた。

 

 

「速度を上げろ」

 

 

 続く二撃目、マカロフの左の拳は残る左舷をフルに活用して避けられる。そして振り切った腕が死角となり、マカロフに向けて放たれた魔導収束砲ジュピター。戦争にも使われた破壊兵器の一撃を、マカロフは腕一本で受け止めた。

 

 

「ほう」

 

 

 知古の成長が喜ばしいのか、ハデスの口から思わず声が漏れた。そしてお返しとばかりに振り上げた蹴りが船体を確実に捉えた。さしもの破壊力に船内に動揺が走るが、ハデスは次の一手を繰り出す。

 

 

「ウルティア」

 

「は。時のアーク、レストア」

 

 

 ハデスの命を受け、ウルティアの発動した失われた魔法(ロストマジック)。時を操る魔法は崩壊する飛行船を逆再生のように復活させた。さて、このままでは一進一退。ならば自らが相手をせねばと腰を上げようとするハデスの首元に刃が当てられた。

 

 

「おーっと、動かないでもらえるかな?」

 

 

 いつの間にそこにいたのやら、玉座の影から顔を出したカイト。刃と思われていたのは偽・仏斬大鋏(ぶつぎりおおばさみ)は切断に特化した魔法。刃を交差させなければならないが、その切断能力は絶対。対魔力障壁ならばまだしも、只人を殺めることなど造作もない。

 

 

「貴様っ‼︎」

 

「動くな、って言ったよね?」

 

 

 脅しだけではないのだと見せつけるように、ハデスの首筋から一筋の血が流れる。ハデスの実力はギルドの全員が知っている。しかし、もしもの可能性が拭いきれず、踏みとどまった。

 目標を目の前にして足踏みを許容させられ、憤怒の形相で睨むウルティア。首元に当てられた刃を盗み見ながら、ハデスは視界の端にカイトを捉える。

 

 なるほど、最初の一撃はカイトを潜入させるためだったかと当たりをつけ、40年前よりも頭が回るようになったと知古の成長を喜んだ。

 

 

「人質のくせに余裕だねぇ」

 

「老いると刺激に鈍くなってな。こういうアクシデントは寧ろありがたい」

 

「そう。なら、冥土の土産にでもしてな」

 

 

 吐き捨てるようにそう言い放ち、カイトは船内を見渡す。ハデスの予想通り、マカロフの拳に隠れて潜入。そしてそのままマスターを人質に取ったまではいい。後は評議院に突き出すなり、このまま墜落させるなりすればいいと考えていた。しかし、今ここに至ってはカイトの胸中には言いようのない不安が渦巻いていた。

 

 人質に取られているというのに余裕を崩さないハデス。何か裏があるのかと思案するが、背後に貼った魔法の罠には何の反応もなし。前方にいる面々も歯を食いしばって怒りを抑えているだけ。

 悪手ではあるが、このままハデスの殺害を目論むカイトを他所に、ハデスは首に刃を当てられたまま指示を出した。

 

 

「カプリコ。全員をあの島に連れて行け」

 

「なっ⁉︎しかし、ハデス様‼︎」

 

「いい。この程度、何の障害にもならん」

 

「くっ……了解」

 

 

 カプリコと呼ばれた、二足歩行の羊とも言うべき姿をした男が手を鳴らすと、ハデスとカイトを除いた全員が消える。後に残るのは大量のビー玉サイズの球体。それを魔法で回収したカプリコはすぐさま背中に飛行装置をつけて飛び立とうとするが、カイトの魔法の方が早い。

 

 

「行かせないよ」

 

 

 足元から這い出した黒犬がカプリコ目掛けてその鋭い牙を光らせる。しかし、その牙が獲物を捕らえようとした瞬間、黒犬が文字通り弾けた。

 

 

「これ、邪魔するものでない」

 

「ッ‼︎ああ、もう‼︎」

 

 

 下手人であるハデスはその場から動かずとも魔法を破壊したのだと悟る。予備動作もなしに魔法を発動するなど、相当の実力者。わかってはいたが、実際に目の前にするとらしくもなく焦りが生まれる。

 とりあえずはハデスを倒し、後を追うべきだと判断したカイトは首筋に当てた刃を交差させる。

 

 鮮血が宙を舞った。

 

 

◇◆◇◆

 

 

「フェアリーテイル審判のしきたりにより、貴様らに三つ数えるまでの猶予を与える」

 

 

 今し方大量のメンバーを連れたカプリコがマカロフの脇を通り、島内に侵入したのを確認した。カイトの提案した作戦は失敗したということだろう。

 しかし、マカロフの次なる一手は逃走されようと関係がない。術者が敵と判断した者を全て討つ超魔法、妖精の法律(フェアリーロウ)

 

 マカロフの両手から生み出された光は周囲を照らし、無慈悲で理不尽とも言える魔法がいま放たれようとしていた。

 

 

「一つ………二つ………三つ。そこまで」

 

「やめておけ」

 

 

 両手を合わせ、収束した光が放たれようとした刹那、船首に顔を出したハデスがマカロフの視界に映る。そして驚愕から動きを止めたマカロフに見せつけるように、ボロボロとなったカイトがハデスの手に。

 

 カイトがこうもやられる事が予想外なこともある。しかし、それ以上に目の前に立つハデスには見覚えがあるのだ。

 時が経とうと変わらない。自身が目標とし、憧れていた人を間違える筈もない。何せ、マカロフの持つギルドマスターという称号は彼から受け取ったのだから。

 

 

「久しいな、小僧」

 

「マスター……プレヒト………」

 

 

 フェアリーテイルの先代マスター、プレヒト。それがハデスの正体であった。

 

 

「ガフッ‼︎」

 

「ッ‼︎カイト‼︎ワシの家族に何をした‼︎」

 

 

 首を掴まれて宙吊りにされたカイトの咳き込む声に我に返ったマカロフ。なぜ先代マスターがこのようなことをしているのか、問いただしたい事はたくさんある。しかし、今は瀕死までに追い込まれた家族の救出を優先した。

 

 

「家族?相変わらず物好きだな、マカロフ。吸血鬼でさえ家族に迎え入れるとは」

 

「何が悪い‼︎そやつが何であろうと、ワシの家族に代わりはねェ‼︎」

 

「いや、なに。悪いとは言わんよ。しかし、中々に奇遇だと思ってな」

 

 

 そう言ってくつくつと喉奥で笑い出すハデス。その間にもカイトの傷が回復する様子は見られない。どころか、普段は滅多に見せない筈の吸血鬼としての姿を徐々にではあるが見せ始めている。

 何重にも施した封印に影響が出始めているのだ。単に返り討ちにあったわけではない。何かされたのだと判断したマカロフは怒りに任せて拳を振るう。

 

 

「そやつを離せぇ‼︎」

 

 

 例え城壁であろうと粉砕せしめる破壊力を持つ拳。例えハデスであろうとまともに食らえばタダでは済まない。だが、一呼吸置いたハデスは冷静に、冷徹に、言葉を発した。

 

 

「私にも、吸血鬼の配下がいるのだよ」

 

「なにっ‼︎⁉︎がぁっ‼︎」

 

 

 まさかの言葉に一瞬だけ拳が鈍る。その隙をついたようにマカロフの肩口に激痛が走った。ついで訪れるのは喪失感。魔力をはじめとした体力を吸われるような感覚。この感覚はよく知っている。昔、カイトをギルドに迎え入れた頃、何度か血をやった時に訪れた感覚だ。

 

 肩口を見れば、確かに。件の下手人はそこにいた。反射的にそれを潰そうにも、「返すぞ」と投げつけられたカイトがマカロフの鳩尾に刺さり、魔法の維持もままならずそのまま島内へ。

 

 続くようにハデスもそこに降り立てば、通常サイズとなったマカロフ。カイトの姿はどこにもなく、衝撃でどこかに飛んでいってしまったのだろう。そしてその手前では待っていたのだろう、恭しく礼をする壮年の男性がひとり。 

 

 短く刈り上げた銀髪はまだしも、その側頭部から生える雄牛のツノと背中から生える蝙蝠の翼、腰に携えた雄牛の尻尾がその物を人外だと安に示している。ゆっくりと開けた瞳は真っ赤に染まり、瞳孔は縦に割れた人外。激痛に苛まれながらも、それを見据えたマカロフは間違いなく吸血鬼だと当たりをつけた。

 

 

「よくやった、エリゴスよ」

 

「光栄です、マスターハデス。して、いかように?」

 

「折角の再会だ。少しばかり話がしたい。お主はどうする?」

 

「私はアレを探しに参ります。では」

 

 

 短く別れを告げた吸血鬼。その姿が搔き消えると、横たわるマカロフに視線を向けた。吸血されたというのに弱々しいながらもこちらを睨む瞳は死んでいない。流石は自身が見込んだ男であり、ギルドを48年も支えてきただけはある。

 

 

「ハァ、ハァ……あ、あなたは立派なマスターだった………ワシらに“和”を説き、正しい道へと導いた……」

 

 

 荒い呼吸のまま、力の入らない身体に喝を入れながらゆっくりと立ち上がるマカロフ。脳裏に蘇るのは、昔のハデスの姿。自分よりも立派で、誰よりもギルドを愛した憧れの人物。だからこそ、何かあったのではと問う。

 

 返答は立つだけでも精一杯だったマカロフへの攻撃。指を軽く振っただけで走る衝撃波にマカロフは大地に沈み、気絶した。それを確認したハデスは背を向けて歩きながら、もう既に聞こえないマカロフへの独白を紡ぐ。

 

 

「かつて魔法は闇の中で生まれた。その力は虐げられ、恐れられてきた。やがて魔法は日常化し、人々の文化とも言える時代になった。………だが、魔法の根源を辿り、ゼレフに行き着いた時、私は見た。魔道の真髄というものを」

 

 

 誰に理解されなくとも良い。全ては魔道のために、かつて所属したギルドの、その子供達に手を上げることさえ辞さない覚悟。

 

 

「眠れ……フェアリーテイルの歴史は終わる」

 

 

 その時だった。油断という隙を見つけたマカロフは最後の力を振り絞ってハデスに突撃する。魔道の真髄だの、興味はない。受け継いだギルドを、愛した家族を失ってたまるものかと、自身の命を顧みない攻撃は、しかし予想していたのだろう。振り返ったハデスの手から放たれた魔法がマカロフの身体を突き抜けた。

 

 今度こそ完全に倒れたマカロフを一瞥することもなく後を去るハデス。しかし、その脚が不意に止まる。

 

 

「ふぅ………エリゴスめ。態と見逃しおったな」

 

 

 ハデスの周囲から延びる影魔法の数々。四方八方から降り注ぐ、殺意全開で繰り出された魔法の数々を踊るように躱せば、上空から音もなく落下するカイトの姿。

 本当ならば、マカロフの助けに入りたかった。しかし、当のマカロフ自身がそれを許さず、隠れ潜んで好機を伺う他なかったのだ。封印に回す魔力も、回復に回す魔力でさえ攻撃に当て、怨敵を討たんと咆哮する。その声は人の声というよりも、獣に近い理性を感じない音。言葉にすらならない怒りを、殺意を、全てを右腕に込める。

 

 

混沌ノ爪(カオス・クロー)‼︎‼︎」

 

 

 渾身の魔力を込めた一撃。間違いなく直撃した筈の一撃。しかし煙が舞う中差し出された腕には傷一つついておらず、姿を現したハデスに怪我を負った様子もない。

 

 

「消えろ」

 

 

 ハデスの腕から放たれた魔力の奔流。避けることさえ叶わず直撃を受けたカイトは周囲の地形を巻き込んだ一撃を受け、ハデスの視界から消えた。

 服についた埃を払うと、今度こそハデスはその場を後にする。後に残るは直線状に抉られた地形と重傷のマカロフ。どちらも後には引けない戦いは、また始まったばかり。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

「うぐっ……ごぼぼっ‼︎」

 

 

 吹き飛ばされたカイト。天狼島の加護がなければ不死者であろうと消滅も免れない一撃を生き延びたのはいいものの、目を覚ました瞬間口から血の塊を吐き出す。

 身体が内から引き裂かれそうな激痛に苛まれる中、脳裏に浮かぶのは悪魔の心臓の飛行船内でのこと。

 

 確かにハデスの首を刈ろうとしたカイト。しかし、ハデスはその魔法を純粋な魔力で押し返したのだ。驚愕するカイトの背後に飛んだ弾丸。それを受けた直後から身体の調子がおかしいのだ。

 体内に施していたはずの封印を突き破って表に出た吸血鬼の側面。まるでコップに注いだ水が溢れ出したかのように、魔力が言うことを聞かない。ハデスを強襲できたのは一重に幸運でしかなかった。

 

 

「ごぶっ‼︎ぶぇっ……‼︎はぁ、はぁ………」

 

 

 ようやく収まった吐き気。口の端から垂れる血を拭い、胸の奥底から湧く吸血欲求をなんとか抑えようとするが、その思いと裏腹に今度は涎が垂れる。

 

 

「くそっ……血が、足りない………」

 

 

 朦朧とする意識の中、頭の中を埋め尽くす欲求。それと同調するように牙は肥大化。天を突くように生えたツノは二又に別れ、羽も禍々しいものへと。

 無意識の内に身体は近場から香る血の方向へ。遮蔽物のない、抉られた地面を辿り、行き着いた先にいたのは重傷の老人と、その治療をする少女、そして2匹のネコの姿。

 

 誰も彼もが血の匂いを漂わせ、空腹のカイトの鼻腔と腹を刺激する。混濁とする意識の前に目の前の人物が誰なのか分からず、またこちらにも気づかれていない絶好のチャンス。

 

 

(血………血を………‼︎)

 

 

 踏み出した脚が大地を割り、彼我の距離を一足飛びで縮めればあとは簡単。爪を振るえば良いだけだ。それだけで脆弱な人間(獲物)は傷つき、壊れて、血を流す。

 

 

「え?」

 

 

 少女に気づかれてしまったがもう遅い。天高々と上げた爪を振り下ろそうとした時、呆気に取られた少女と目が合う。瞬間、カイトの動きが止まる。少女の顔の真横、紙一重で止まった爪はそこから動く様子もなく、次第に震え出した。

 

 

「うぇん、でぃ………」

 

 

 そう、ウェンディだ。フェアリーテイルの、後輩、家族、仲間。傷つけてはならない、幼い少女。それを破ろうとした自身が信じられず、そして本性が露見したことに恐れ、だというのに頭の隅では未だ血の欲求が傷つけてしまえと囁く。

 

 

「ウェンディ‼︎」

 

「くそっ‼︎こんな時に‼︎」

 

 

 相棒の危機にシャルルが、力及ばないことに歯噛みしながらもリリーがカイト目掛けて飛びつくが痛痒にも感じず。震える爪を信じ難い物を見ると両手で顔を覆ったカイト(化物)は羽を広げて周囲に風を巻き起こす。

 急な突風に煽られて、カイトを中心に数メートルの距離が開けば一目散に逃げ出した。

 

 

「ま、待って‼︎」

 

 

 転がるウェンディが樹々の枝を伝って森の奥へと姿を消すカイトに声をかけるが既に届かない。例え聞こえたとしてもカイトの精神状態では聞き取る事さえできなかったであろう。それほどまでに今のカイトは困惑していた。

 

 

(な、んで俺は………‼︎)

 

 

 違う、自分はあんなことをするはずがないと頭の中で否定するが、先ほどの光景がそれを否定する。契約中のマカロフが瀕死だから白紙に、血の欲求に負けて、など言い訳が思いつくが許される事ではない。

 

 

(違う、違う………‼︎()は吸血鬼で、俺はフェアリーテイルの一員で………‼︎ああ、ああ‼︎)

 

()()()()

 

 

 混乱する頭はついには自我さえ忘却の彼方に追いやり、吸血鬼としての本能が前に出る。足早に駆けた枝の上で立ち止まり、下から聞こえた話し声に目をやる。

 フェアリーテイルを殲滅せんと動く悪魔の心臓の下っぱだ。10人ばかしの人数で固まって動き、周囲を警戒しているが頭上には関心を向けていない。

 

 ちろりと、化物が唇を舐め、哀れな子羊たちの上へと飛来した。

 

 

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