FAIRY TAIL 〜Those called clowns〜   作:桜大好き野郎

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天狼島−⑥

 

 

 それは異様な光景だった。

 

 

「なんだ、これは………?」

 

 

 突如として現れた、地面を覆い尽くす闇。どこまでも黒く、どこまでも続くような、心を掻きむしるような闇。

 悪魔の心臓煉獄の七眷属がひとり、ラスティローズは困惑していた。

 

 フェアリーテイルを殲滅するため、彼が攻め入ったのは仮説テント。そこにはこれまでに負傷したガジル、ミラジェーン、エルフマン、エバーグリーンに加え、看病に徹していたレビィとリサーナ、リリーのみ。

 戦えるメンツが3人の上、ラスティローズの扱う魔法“想像のアーク”は術者の想像したものを具現化させる強力な魔法。終始優勢だった戦闘に水を指したのは信号弾に気付き戻ってきたフリードとビックスロー。

 

 2人の参戦により拮抗しだした戦闘だったが、突然の怪現象に足を止めてしまう。それはフェアリーテイル側も同じようで、何か仕掛けてきたのかと警戒を露わにしていた。

 

 

「なにこれ………?」

 

「アイツの魔法………ではないようだが」

 

「気ィつけろよ、フリード。何が起きても不思議じゃねぇ」

 

「………ヒッ⁉︎」

 

 

 それを最初に認識したのはレビィだった。ぱちりと、足元の闇から紅い瞳が世界を覗く。ひとつ、ひとつと、加速度に瞳は増えていき、嘲るように、恨むように、無関心に、訝しむように、それぞれが世界を睨む。

 

 これはやばいものだ、と直感で判断したフェアリーテイル側は背中合わせに一箇所に集まり、すぐさま迎撃できるように態勢を整えた。残されたラスティローズは不安を感じつつも、妖精を一網打尽にするチャンスだと魔法を発動する。

 

 

「いでよ、ディンギルの塔‼︎‼︎」

 

 

 想像したのは対象を壁に埋め込み、爆発する塔の姿。脱出不可能の、攻撃の挙動さえ見えずに発現する魔法は、はっきり言って凶悪。ここで妖精を殲滅すれば目標は達成。そして後はゼレフを手に入れれば、その先に待っているのは魔導士のための世界。

 

 

「愚かなる妖精にその悲しみの全てをぶつけ、土にーーー」

 

 

 還れ、と言葉を続けようとした瞬間だった。

 

 がぶり、と。振り上げた腕が一瞬にして食いちぎられる。呆気に取られた数拍の後、喪失による激痛がラスティローズを襲った。

 

 

「がぁああぁあ⁉︎」

 

 

 無くなった片腕から飛び散る鮮血。馴染む脂汗と痛みから患部を抑えて背中を丸めた先、地面の闇の中にラスティローズは見た。自身の腕を咥え闇の中に再度潜る獣の口を。

 

 

「クソックソッ‼︎なんなんだ、コレは⁉︎」

 

 

 止血の代わりに腕を想像し、足元から生やした翼で飛翔する。とにかく距離を取らねばと判断したラスティローズは戦略的に見れば正しい。しかし、それはこの魔法の前には悪手であった。

 

 

「蒼穹の剣よ、我が敵を斬り払え‼︎」

 

 

 自身の周りに想像したのは水晶のように蒼く透き通る剣。その数30本。それら全てが地面の闇に向けて射出され突き刺さるが、魔法は消えず。紅い瞳も獲物を見定めたのかラスティローズに向けられたまま。

 これでは効かないかと、更に破壊力のあるものを想像しようとした瞬間、ラスティローズの背後を闇から生まれた獣が阻む。

 

 

「ぐはっ‼︎」

 

 

 獣の頭を持ち、その姿は御伽噺に出てくる獣人のよう。けれども肉体は闇で構成され、紅い瞳が身体中に張り付く様は不気味でしかない。背後を突かれたラスティローズを獣は叩き落とし、不気味な笑い声を上げながらまた闇の中に潜る。

 

 落下の痛みで想像力が途切れ、無駄な魔力を消費した。普段であるならば(カケラ)が震えると溢すラスティローズも、ここまでコケにされては苛立ちを覚える。

 

 とにかく反撃をと顔を上げた瞬間、目の前に闇でできた大小様々な獣の姿を見て呆け、そしてヨダレのように口元から闇を垂らす光景がこれから起こることを容易く想像させてしまった。

 

 

「や、やめ………っ‼︎」

 

 

 悲鳴、絶叫、そして咀嚼音。ギルドに所属している以上、そういった悲惨な場面は目の当たりにしてきたフェアリーテイルの面々。だが、この光景は目に毒だ。顔を背けるが耳に入ってくる音がその光景を容易に想像させてしまい、あまり意味を成していない。

 

 そうして、術者が死亡したからだろう。面々を拘束していた塔が空気のように消え去り、地面に降ろされる。しかし、それは同時に獣たちのテリトリーに侵入してしまったということだ。

 

 

「やった、動ける‼︎」

 

「気を抜くな‼︎来るぞ‼︎」

 

 

 フリードの言葉通り、ラスティローズを腹に収めた獣たちの視線は次なる獲物へと。幸いなことに、仮設テントに寝かせている面々には興味を示しておらず、襲われる様子はない。

 だが、絶対の安全というわけではない。注意がそちらに向いた瞬間、狩りやすい獲物から仕留める可能性はゼロではないのだから。

 

 獣の咆哮が合図となり、フリードたちは痛む身体に鞭打って戦闘を開始する。そして、その激戦故にフリードたちは気がついていなかった。

 

 

「はぁ………いか、なきゃ……」

 

 

 ダメージと疲労で困憊のミラジェーンが仮説テントから抜け出していることに。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

「兄上‼︎」

 

 

 背後から聞こえた声に足を止め、そちらへ振り返る。樹々を掻き分け現れたのは自らの弟の姿。急いできたのであろう、身体のあちこちに葉や枝を付けている。

 

 神経質な弟の意外な姿を見た、と切羽詰まった様子の弟は反対に、呑気な事を考えていれば弟は叫ぶ。

 

 

「なぜ……なぜなのですか、兄上‼︎なぜあんなものを作り出したのですか‼︎⁉︎」

 

「ふむ。なぜ、か………」

 

 

 弟の言うことに心当たりがついたのか、納得のいったとばかりに顎に手を当てる。地下牢に幽閉していた人間、その内の1人との間に設けた子のことだ。

 別に彼自身、人間に欲情したからだとかそう言ったつもりで作ったのではない。かつて大陸に君臨した魔王、その依代になるのではという期待からだ。

 

 吸血鬼の間に残された文献では、彼の魔王は竜と人の魔から生まれたという。ならば、名残とはいえその因子を受け継ぐ吸血鬼と人の間から生まれた物は依代に相応しいのではないかと考えたのだ。

 

 耐え難い苦痛を抑え込み、使用人にも内密に進めた計画の先に生まれたのは、吸血鬼にも人にも慣れない半端者。母親の腹を食い破り、産声を上げたものの、胸中には落胆しかなかった。

 

 当然、この行為は禁忌だ。吸血鬼の祖先が決めた絶対の掟。それを破ったのだから自身は排されなければならない。先代も息を引き取り、残る吸血鬼は自身と弟、そしてその下の妹の3名。それを自身の手で減らすのだから、弟の葛藤もわかっている。

 

 

「理由がなんであれ、私を粛することに変わりはなかろう」

 

 

 だからこそ、腕を広げ抵抗の意思さえ投げてしまう。せめてもの弟への贖罪であり、これもまた検証のひとつなのだから。

 

 

「ぐっ………ォオオオォオ‼︎」

 

 

 迷いを捨て、掟に順守するために、弟は腕に纏った血を彼に突き刺す。一度の攻撃では死なず、何度も何度も。返り血で弟は赤く染まり、彼自身も大量の魔力を消費したせいで疲労困憊。

 

 

「さらばだ、兄上‼︎」

 

 

 止めとばかりに繰り出された袈裟斬り。一瞬の静寂のあと、背にしていた霧の壁の向こうへと彼は倒れた。肉親を屠り、新たに当主の座に着いた弟は心に決める。せめて、せめて兄上が残した落とし子だけは。あの子には罪を負わせてなるものかと。

 

 

「ぶふっ………くく、はははっ‼︎上手くいくものだなぁ‼︎」

 

 

 そんな弟の事など梅雨知らず、仰向けになりながら高笑いする彼。自身の意思では出られない霧の壁をどう越えたものかと考えていたが、予想以上にうまくいき笑いが止まらない。

 暫く笑い、ようやく落ち着いたころに天を仰ぎながらこれからどうするかを考える。

 

 

「さて、まずは()を喰らおう。依代の調達はそれからだ」

 

 

 ゆっくりと起き上がり、口を舌で濡らす。人を襲うため闇に紛れる吸血鬼の姿を、星空だけが目撃していた。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

(………ふむ、なぜ今になってこんなことを)

 

 

 故郷である霧の谷を出た時のことが、ふと脳裏によぎった。あの後、人間の世界を回ったはいいが、依代に相応しい母体は見つけられず悉く失敗に終わってしまった。見捨てた筈の依代が再び目の前に現れたのには柄にもなく高揚したものだ。

 

 だが、なぜ今になってこんな事を思い出すのか?迫り来る攻撃の数々をいなしながらエリゴスは頭の中で疑問を浮かべる。それを人の言葉で走馬灯ということは、知らない。

 

 

「フッ、フッ、フッ………‼︎」

 

 

 全神経を集中して、カイトは魔法に魔力を込め続ける。名目上魔法とはいうが実際の所、ただの魔力の暴走に近い。一度発動してしまえば範囲内の術者以外の生物に攻撃する、使い勝手の悪すぎる魔法だ。

 

 操作性など皆無に等しく、精々視界の範囲内を少しだけ操れる程度。今は視界の端にウェンディを納め、湧いてくる獣を徘徊されるだけで済んでいるが意識を逸らした瞬間、間違いなく襲いかかる。

 

 鼻から血を垂らし、エリゴスの様子を伺うカイト。ウェンディたちを襲わないようにしているためか、数はそちらの方へと集中しており、徐々にではあるが押されている様子。

 

 

膂斧(りょふ)

 

 

 腕を引きちぎり変形させるのは、刃の部分だけでも1.5メートルはある巨大な斧。その一振りで暴風が舞い、範囲内の獣を悉く切り裂いてゆくがその数は減らない。

 

 ならば湧き出る闇を消し飛ばそうと地面に斧を振るうが、まるで水面に打ちつけたような手応えのなさ。そのまま御伽噺のように闇の中に呑まれてしまう斧を一瞥する間も無く、エリゴスの喉笛に獣の牙が突き刺さる。

 

 

骨指弾(こっしだん)

 

 

 首にぶら下がる獣に骨を打ち付け、内部から飛び出す刃物の山。そのまま10本の指それぞれを銃口へと変え今度は術者であるカイトに向かって撃つが、到達する前に湧き出した獣たちに阻まれる。

 

 ならば、直接叩くべきかと脚に力を入れた瞬間、その脚が断ち切られた。股下にいる、両手が刃物になったイタチの仕業だ。相変わらずその姿は闇に覆われ、口もないのにその身体に纏わりつく紅い瞳が嘲笑を浮かべていた。

 

 瞬きの内に回復する脚だが、体勢を崩した今まともな反撃はできない。そこを狙って群がる獣たち。狼のような獣の牙が、二足歩行する虎の爪が、牛頭の巨漢の持つ斧が、それぞれ得意な獲物をエリゴス目掛けて振るう。

 

 攻撃自体、差して痛痒にも感じない。だが、それに伴う回復には魔力を消費する。回復する側から破壊され、遠ざけようと骨や筋肉を刃に変えようとも新たな獣の波がすぐさま補充されるため意味を成さない。

 

 

(これは………)

 

 

 不味い、と焦燥を口の中で転がす。絶え間ない攻撃と回復で自分の中の魔力が湯水のように消えていくのを感じる。

 

 

「総剣、抜刀ーーー‼︎」

 

 

 ーーー鉄針灰塵(てつしんかいじん)‼︎

 

 

 それは全身隈なくを刃へと変化させる大業。爪を、四肢を、骨を、筋肉を、関節を、その全ての刃を限界まで伸ばした姿は針山地獄さながら。周囲を大きく切り裂き、若干の猶予を得ることはできた。この隙に本体をと体勢を立て直そうとした刹那、上から振り下ろされる巨腕に気がつく。

 

 

「沈めェ‼︎」

 

 

 その正体はかつて霧の谷で召喚された大血の巨人(アトラス)そのもの。模造品とはいえ、その巨大さは本物と遜色なく、気がついた時には逃げ場もない。闇の中に沈められた場合、待っているのは無限に等しい攻撃。周囲の存在全てが攻撃となり、対象を魂尽きるまで殺し尽くす。

 

 鼻から流れた血が口を伝うがそこに気を向ける余裕もなく、勝利を確信するカイト。だがーーー

 

 

「ーーーは?」

 

 

 遥か彼方、天狼島の中心に座する天狼樹が音を立てて倒壊すると同時に、広がっていた闇が綺麗に消え去る。そして、抗いようのない虚脱感にカイトを含め、ウェンディ、シャルルも倒れてしまった。

 

 

(なに、が………?)

 

 

 カイトは知るよしもないが、天狼島はフェアリーテイルの紋章を持つものを守護する魔法がかけられており、天狼樹がその起点となっていたのだ。だが現在、七眷属の1人アズマの働きによって倒壊した天狼樹はその効果を反転。紋章を持つものの魔力を吸い上げるようになってしまったのだ。

 

 

「アズマ、か………」

 

 

 急死に一生を得たエリゴス。天狼樹の方に一瞥向けると、舌打ちをひとつ。助けてもらったことに間違いはないが、たかが人間の手によって救われるなど業腹だ。契約でなければ消しているものを、と口惜しく思いながらも視線はカイトへと。

 

 

「ぐふっ‼︎」

 

「カ、イトさん………‼︎」

 

 

 苛立ちを表すように動けないカイトを執拗に蹴り上げる。再生すらままならない状態で傷は増える一方。助けようと這ってでも進もうとするウェンディだが、その力さえ魔力と共に消えてしまう。

 

 蹴りの数が50を超えた頃、これでもなお足りぬと胸ぐらを掴み上げ近くの樹々へと放り投げる。胴より太い樹木を倒壊させ、残った株に縫い付けるように円錐形の槍がカイトの腹に突き刺さった。

 

 

「ガッ‼︎」

 

「ふん………人にもなれず、吸血鬼にもなれず、依代にもなれない。粗悪品にしてはよくやったと褒めてやろう。だが、ここまでだ」

 

 

 未だ腹の奥で怒りがぐつぐつと煮えてはいるが、目的の遂行のためにこれ以上は抑える。引き続きゼレフの捜索、そして魔王への贄の回収をと視線をウェンディへと向けた。

 

 

「させ、ない、よっ……‼︎」

 

 

 動くことさえままならないというのに、腹部の槍を引き抜こうと足掻くカイト。深々と刺さった槍は微動だにせず、また破壊するほどの力はない。足掻けば足掻くだけ傷口が広がり、鮮血が雨に混じって広がる。

 

 その姿を見て、これ見よがしに嘆息するエリゴス。半端者とはいえ、吸血鬼ならば自らの終わりを受け入れればいいものを。生に執着する様はなんとも醜い。

 

 もはや一瞥する価値すらなく、ウェンディへと近づくエリゴス。その度にカイトがやめろと踠くが、やはり興味を惹かない。身動きの取れないウェンディに手を差し伸ばそうとした瞬間のことだった。

 

 島の中心部、倒壊した天狼樹から放たれる不可視の波動。それはその場で戦っていたエルザがアズマに勝利した証左。魔力が元に戻る知らせ。

 

 

「天竜のーーー」

 

混沌ノ(カオス)ーーー」

 

「ッ‼︎」

 

 

「咆哮ぉっ‼︎‼︎」

 

 

息吹(ワッタス)‼︎‼︎」

 

 

 魔力が回復したと同時に、ウェンディとカイトは口内に溜めた魔力を解放する。挟撃される形で襲われたエリゴスの身体は空中へと押し出され、突然の出来事に暫し呆然としていた。

 

 しかし、その隙を付け入るような体力は2人には残っていなかった。魔力は回復したとはいえ、片や瀕死から復活してまだ時間が経っておらず、片や腹部から槍を生やしたまま。今の一撃でやっとなのだ。

 

 

「死に損ないめが………‼︎」

 

 

 宙に放られたエリゴスが静かな怒りを燃やす。右手をカイトへと掲げ変形させるのは禍々しい槍。かつて魔王が使ったとされる獲物。生命の様に穂先から柄までのたうつ装飾の合間からは赤い光が溢れ、冒涜的なまでの闇を纏っていた。

 

 

決戦大魔槍(フォルカス)

 

 

 足場のない空中とはいえ、その身は純潔の吸血鬼。音速で放たれるはずの一撃。だが、槍が手から放たれようとした刹那、空中を飛ぶエリゴスに邪魔が入る。

 

 

「ハァアアア‼︎」

 

 

 飛び出してきたその姿に、一同が目を見開く。なにせ現れたのは他でもないミラジェーン。サタンソウルで身を覆っても隠しきれていない大怪我だというのに、それを感じさせない動きで初撃を槍で防いだエリゴスに追撃を計る。

 

 悪魔の姿だというのに、いや悪魔だからこそだろう。自然とエリゴスの口からは「美しい」と称賛の声が漏れるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





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