FAIRY TAIL 〜Those called clowns〜 作:桜大好き野郎
ぐがー、くごぉー、ぎゅがー、と。喧しい寝息を立てるナツ。寝ているのにうるさいとは何事か、と考えつつもいつものことかと笑い鍋をかき混ぜる。
それにハデス戦ではこの場の誰よりも戦ったのだ。異なる属性の雷を喰らい、傷だらけになりながらも勝利を収めたのだから何もいうまい。
あの後、悪魔の心臓の残党に襲われようとしたところ、天狼樹が復活したことにより回復したマカロフたち。さしもの残党も相手取る真似はできないと、すぐさま撤退準備を始めた。そう遅くない内にこの島から出ていくだろう。
朝日が出た瞬間に封印を施したために、吸血鬼としての姿を晒すことはなかったのは幸いだった。里芋や生姜、肉などを入れた疲労回復の鍋は中々の出来で、用意していた紙皿に装う。
「おーい、ラクサス。これみんなに運んで♪」
調理場の近くで雷神衆と戯れていたラクサス。ギルドから離脱したラクサスが帰ってきたと勘違いした雷神衆が勝手に盛り上がっているだけなのだが、それはさておき。
当然、ギルドに所属していない者が天狼島に立ち入るのだから、マカロフはそれはもう怒っていた。曰く、破門中の身でありながらこの地足を踏み入れるなど、と。
裏を返せば、ラクサスの働き次第でギルドへの帰還を認めると言っているようなもの。それがわかっているのか、嫌そうに顔を歪めつつもため息と共にトレイを受け取るラクサス。
「ったく、人使いが荒ェ」
「カッカッカ♪たまにはいいだろう?」
「貴様……っ‼︎オレたちとラクサスの再会の邪魔を……っ‼︎」
「ねぇ、ラクサス。彼、あんなに面倒くさかったっけ?」
「あ?元からだろ?」
怨敵とばかりにカイトを睨むフリード。普段は冷静沈着なフリードではあるが、ことラクサスが絡むとなると途端に面倒な性格に。ラクサスからすれば平常運転なのだが、睨まれている方はたまったものではない。
このままでは手を出されてもおかしくはないと判断したカイトはお盆を持ってラクサスとは反対方向へと。
「ふぅ………」
「わ、ありがとう、ウェンディ‼︎」
「いえ、このくらいしかお役に立てませんから」
「カッカッカ♪謙遜が過ぎるねぇ」
「ひゃ‼︎⁉︎」
カイトが向かう先にいたのはウェンディ。天狼樹が戻ってからというもの、皆の傷の手当てをかって出た彼女の疲労もまた人一倍だろう。確かに天狼樹が元に戻り加護も復活、生命の危機に瀕するほどの魔力切れを起こすことはない。
だが、精神的な疲れはそう癒されるわけではない。そういう理由でいの1番に届けにきたのだが、当のウェンディは声をかけた瞬間顔を赤くしたかと思うと治療していたレビィの後ろに隠れてしまった。
戦闘中は気持ちを切り替えていたとはいえ、カイトへの好意を自認したウェンディは恥ずかしくて仕方がない。ただでさえボロボロなのにと、慌てて髪型を確認したり汚れを拭ったりと、少しでも綺麗に見られたいと思うのは不思議ではないだろう。
「………カイト、ウェンディになにしたの?」
「カッカッカ、検討もつかないよ♪…………いや、ホントに。ホントだから。そんなに睨んでもホントに思いつかないよ」
同性として、ウェンディがカイトにどのような気持ちを抱いているのかレビィは察している。けれど、相手は
あまりの信用のなさに肩をすくめ、苦笑いを浮かべるしかないカイト。フェアリーテイルの一員だと認め、この島では自身のために戦ってくれたことは理解しているが、いかんせんウェンディはまだ幼過ぎる。手を出すわけないだろうと内心愚痴を溢す。
「まぁ、いいや。はい、これ。熱いから気をつけてね♪」
「ありがとう………でも、なんで鍋?」
「そりゃあ簡単だからね♪………あと、材料の調達のしやすさ」
ふーん、と空返事のレビィは知らない。仮説テントに用意していた食材は戦闘の影響で全てダメになっており、現地調達ーーー即ち、天狼島固有の動物たちで作られた鍋だということを。
食べられないわけではないが、元となった動物たちの見た目はよろしくなく、忌避感が生まれるだろうというカイトの気遣いである。
「あ、おいしい」
「それは何より♪ウェンディちゃんも、ほら」
「は、はい………」
おずおずと、レビィの後ろから顔を出すウェンディ。差し出されたお椀を受け取ろうと手を伸ばし、そして軽く両者の指が触れ合う。それだけで彼女の脳は沸騰し、大袈裟なくらいにのけぞろうと脚を後ろへと。けれども慌てていたせいだろう、脚が絡まりそのまま転倒してしまうその時だった。
「おっと。大丈夫かい?」
ふわりと、持っていたお盆を影の腕に預けてカイトが抱き抱えるようにウェンディを受け止める。傷はないとはいえ、乾いた血の匂いとカイト自身の匂いに包まれ、少しの夢心地。だが、次の瞬間に現実を受け止めたウェンディはこれ以上ないくらいに顔を真っ赤に染めるとそそくさとその場を去ってしまった。
「ご、ごめんなさいっ‼︎‼︎」
あまりにも一瞬の出来事にぽかんとするカイト。その背中をレビィが懐疑の視線を送っていた。
「………カイト、ほんっとーに何もしてないの?」
「カッカッカ♪ああ、うん。本当に
カイトは確かに何もしていない。それこそが問題なのだ。記憶が混濁していたとはいえ、ウェンディが発した大好きだという言葉をカイトは覚えている。だが、カイトはそれに応えるつもりはないし、切り出されない限り口にすることはない。
別にカイトがウェンディを嫌っているなどではない。ただ、未だウェンディの事を甘く見ているのだ。
ウェンディの好意は憧れからくる勘違いだと。きっと自身よりも良い人を見つける筈だとそう思っているのだ。もし仮にこれがエルザ辺りにバレた場合、今までの比ではないほどの罰をカイトは食うのだろう。それをわかっていない辺り、愛への理解への道はまだ長い。
「おーい、カイト」
「ん?なんだい、おじいちゃん♪」
そんな事は露知らず、声をかけたマカロフに意気揚々と近づくカイト。愛云々はさておき、今はただこれからの事をマカロフ含めたS級魔導士一同で話し合うのであった。
◇◆◇◆
「「「何だとぉ〜〜〜っ‼︎‼︎」」」
それから暫くして。
眠っていたナツも漸く目を覚まし落ち着いた頃に、マカロフは先ほど決断した事を伝える。その内容は今回の昇格試験の中止。
メストという評議員が紛れ込み、悪魔の心臓というイレギュラーもあり、試験は有耶無耶。このまま試験続行とはいかないのも無理もない。けれどもそれに否を唱えるのはナツ、グレイ、エルフマン、ガジルの4人。サポートとしての参加のガジルはともかく、他3人はようやくS級魔導士になれるのだと気合いを入れていただけに反対する声も大きい。
結局、マカロフに勝てたら昇格という特別ルールを設けたが拳の一発でKO負け。ギルドマスターの名に恥じない実力である。
仕方がないと苦笑いしながら片目を隠すカイトの肩に、鴉が一羽駐まる。それがどろりと溶けて足元の影に消えると、背後に控えていたエルザが声をかける。
「どうだ?」
「うーん、いないねぇ」
そうか、と安堵混じりのため息を溢すエルザ。今し方カイトが行っていたのは島内部の調査。悪魔の心臓が撤退したのは確認できたが、もしかすればがあるかもしれないと探索していたのだ。そして、探索の対象は悪魔の心臓だけではない。
「悪魔の心臓どころか、評議員もなし。ゼレフらしき人物も見当たらないよ」
そう、ゼレフだ。
今回、悪魔の心臓が探していた黒魔道士の祖とも言われるゼレフ。途中まではジュビアが追いかけていたが、悪魔の心臓の妨害もあり見失ってしまいその任をカイトが引き継いだのだ。
けれども、やはりというべきか。同じ場所に在住するような人物ではないのだろう。島内には影の形さえ見当たらない。
「洞穴や樹の虚はどうだ?」
「真っ先に探したけど、成果なし。もうこの島にはいないと判断していいだろうね」
これ以上の捜索は無駄だと、視界を共有していた魔法を止める。探し出して保護あるいは討伐という手を取るつもりであったが、見つからない以上放置するしかあるまい。
「
「おっと」
凝った身体を解そうと伸びをすれば、どこからか飛んできたリサーナがカイトの影に隠れる。視線を向ければ確かに、そこにはラクサスがいた。
「なんだい、ラクサス。そう言う趣味にでも目覚めたの、君?」
「そうじゃねぇよ。マジで本物か確かめてたんだよ」
「その結果がこれかい?やれやれ、ラクサス。君はもう少し配慮を学んだ方がいい」
「てめぇに言われたかねェ」
ただの言葉の応酬。けれども2人はまるで打ち合わせでもしていたかのように徐々に距離を詰め、鼻と鼻が触れ合いそうになるほど顔を突き合わせる。
「………やんのか?」
「カッカッカ♪負け越してるの忘れてるの、君?」
「ふざけんな。オレの勝ち越しだ」
「君の中ではそうなんだろうねぇ。君の中では」
バチリと、音を立ててラクサスの腕に雷が纏う。同じようにカイトも両腕に魔法を纏う。張り詰めた空気に誰も割って入ることができず、そして互いに腕を振るおうとした瞬間だった。
「止めないか‼︎」
後頭部に衝撃が走ったかと思えば、次いで襲うデコへの激痛。殴られた衝撃で互いにぶつけたデコを抑えながら蹲る2人を、下手人のエルザが睨みつける。
「まったく………お前達、すぐそうやって戯れ合うのは止めろ。時と場所を考えないか」
「てめっ、エルザ……っ‼︎」
「カッカッカ………」
「なんだ、カイト。何か言いたいことでも?」
「何でもないよ♪」
盛大なブーメランだとは流石に言葉に出来ず、邪魔をされて目くじらを立てるラクサスを慰めるようにその肩を叩くカイト。それを見ながら原因とも言えるリサーナは嬉しそうに笑っていた。
「ラクサスも師匠も楽しそう♪」
「楽しんでるんですか⁉︎」
ラクサスに挨拶とハデス戦でのお礼を言おうにも険悪な空気に押されて、木の影に隠れていたウェンディが思わずツッコむ。ウェンディの言いたい事はわかるが、けれどもとリサーナは2人の様子を眺めた。
エルザに殴られたのが効いたのか、ナツとグレイの喧嘩のように殴り合いはしないが言葉を使って喧嘩する2人。次第にまた顔が近づき今度は自らの意思で額をぶつけ合うが、暫くすると2人して笑い合った。
「カッカッカ♪懐かしいねぇ、ラクサス」
「ハハハ!テメェは変わらねェな」
「口車に乗る君に言われたくないよ♪」
「違ェねェ‼︎」
息のあった笑い声はまるで兄弟のようで、喧嘩のできる相手がいるというのは幸せな事だ。久々の再会を喜び、話題はラクサスの土産話へと。ちらり、と隣のウェンディを見ればなぜあの険悪な雰囲気から笑い合えるのか不思議なようで首を傾げていた。
わからないのも無理はない。どうせこれから散々見る羽目になるのだ。男同士の友情の深め方はリサーナにも理解できていないが、それを楽しむ事は嫌でもできるようになる。
「くっ………‼︎カイトめ、オレたちを差し置いてラクサスとあんなに楽しそうに…………ッ‼︎‼︎」
「フリード、2年いない間に変わった?」
「元からあんなんだよ」
「絡まない方がいいわよ、面倒だから」
間に入れないことが悔しいのか、四つん這いで地面を叩くフリード。2年前とだいぶ印象が変わったと聞けば、ビックスローとエバーグリーンからの擁護はなし。どうやら仲間内では触れないようにしているらしく、2人ともフリードから距離を置いている。
確かに流石のリサーナも今のフリードに絡みたくはない。ウェンディの手を引いて一歩退いた時だった。
オオオオオオオオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛
空から突如として聞こえる咆哮。野生の獣とは違う、巨大な生き物の声。島内部で反響するかのような声に全員が耳を塞ぐ中、ぽつりとウェンディが溢す。
「ドラゴンの鳴き声…………」
「え?ドラゴン⁉︎」
「みんなー‼︎」
「おまえら‼︎」
傷を癒す薬湯に浸かっていたルーシィとカナ、釣りに出かけていたナツ、ハッピー、ギルダーツも合流し、何が何だか分からずに辺りを見渡す。
「あそこだ‼︎」
その声を上げたのは誰だっただろうか。しかし、その指し示されたモノを見た瞬間、そんなものはどうでもよくなる衝撃が全員を襲う。
「何だアレ⁉︎」
「でけぇぞ‼︎」
「これは……ドラゴン⁉︎」
空高く飛ぶ影は逆光でよく見えない。だがそのシルエットは間違いなく巨大で、どんな生物にも該当しない架空の存在。それが今、目の前を飛んでいる。
「やっぱりドラゴンは、まだ生きていたんだ」
信じがたい光景ではあるが、ドラゴンに育てられた経験があるからだろう。滅竜魔導士3人はショックを受けながらも立ち直りは早かった。
「おまえ‼︎イグニールが今何処にいるか知ってるか⁉︎あとグランディーネとメタカリーナも‼︎」
「やめときな、ナツ」
育て親の所在を聞くナツだが、それに答えるはずもない。言葉は分からずとも皆察している。あのドラゴンに友好の意思はないのだと。
「降りてくるぞ‼︎」
ナツの声に寄せられたのか、上空を飛ぶドラゴンが翼を折りたたんで一気に地面へと着地。巨大だと思っていた巨体は近くで見るとさらに大きく、黒い鱗に浮かぶ紫色の模様は不気味さを煽り、その鳴き声は敵意に満ち溢れていた。
そのドラゴンの名はアクノロギア。黙示録に記される、時代の終わりを告げる者。
唖然とする一度を嘲笑うかのようにまた飛び立つアクノロギア。かつて対峙したことのあるギルダーツが何をする気なのかを察すると声を上げた。
「逃げろーーーー‼︎‼︎」
その言葉を合図に、勢いをつけて地面を叩くアクノロギア。それだけで岩盤は砕かれ、破壊の衝撃が見渡す限りに広がる。かつて戦ったマスターゼロをも凌駕する破壊力。立ち向かうことすら選択肢に浮かばない程の格差。
「船まで急げェ‼︎‼︎」
ギルダーツの言葉に見ながら一斉に船へと向かって走り出す。それを見逃すはずもなくアクノロギアの口や手が行手を阻む。その度に樹々は薙ぎ倒され、地面は抉られ、吹き上げる風圧に転びそうになる。
「ウェンディ‼︎アンタ、竜と話せるんじゃなかった?何とかならないの⁉︎」
「私が話せるんじゃないよ‼︎竜は高い知性を持ってる‼︎あの竜だって言葉を知ってるはず‼︎」
確かに、アクノロギアに人の言葉を話す知性は有している。それでも言葉を使わないのは人を虫ケラ程にしか思っていないからだ。人が害虫に言葉をかけないように、そして害虫相手に本気を出さないように、アクノロギアからすれば本来の力は出していない。それでも尚抗う術を人は持たないのだ。
「クソッ、このままでは……っ‼︎」
「エルザ、ここは俺が囮に」
「ダメに決まっているだろう‼︎お前も帰るのだ、フェアリーテイルに‼︎」
カイトの案を一蹴するが、しかしこのままでは追いつかれ全滅するのも事実。誰か1人、それも実力者が殿を受け持たないといけないことはエルザだってわかっている。
だからといって切り捨てられるはずがない。見捨てられるはずがないのだ。
(ああ、もう。歯痒いな)
皆の安全は最優先。しかし、ここで勝手に殿を務めよう者ならば間違いなく止められる。そうすれば纏めてお陀仏だ。それがわかっているからこそカイトは動けない。どうにかこの窮地を脱する策はないかと考えている中、ふと後方を走るカイトとエルザの間を抜ける一つの影。
「おじいちゃん‼︎」
「マスター‼︎」
「船まで走れ」
アクノロギアの前に立ち塞がるマカロフは静かにそういうと身体を限界まで巨大化させる。突進してくるアクノロギアを受け止めるが誰もが不可能だと叫ぶ。現に塞がりかけていた傷が開き、巻いた包帯を赤く染めているが、それでもマカロフは「走れ」としか言わない。
「かくなる上はオレたちも‼︎」
「当たって砕けてやるわーーー‼︎」
「最後ぐらいマスターの言う事が聞けんのかぁ‼︎‼︎クソガキが‼︎‼︎」
無理だということはマカロフ自身、よくわかっている。だが、それでも立ち塞がらなければならない。愛する家族を逃すため、命を賭けなければならないのだ。
「オレは滅竜魔導士だ‼︎そいつが敵っていうならオレが……‼︎」
「走るぞ、ナツ‼︎」
それでも立ち向かおうとするナツの襟首をラクサスが掴み、強引にその場を離れようとする。誰よりも駆けつけたいであろうラクサスがそれを呑み込み、マカロフの意思を尊重したのだ。
「マスター………」
化物としての己を受け入れ、人と共に歩む事を教えてくれた恩人。その危機に駆け寄りたくなるが、ぐっと奥歯を噛み締めて堪えるカイト。ここでの手助けなどマカロフの覚悟に泥を塗るようなものだ。震える両手を握りしめて皆と同じ方向へと走り出す。
「何の目的か知らんがなァ……これ以上先には進ませんぞォ‼︎この後ろにはワシのガキどもがいるんじゃあああ‼︎‼︎」
言葉通り、アクノロギアの頭を押さえ込むマカロフはその歩みを止めた。一歩も進めてなるものかと、離してなるものかと四肢に限界まで力を込める。けれども、わずわらしいとでも思ったのだろう。
押さえ込まれたアクノロギアはマカロフの腕の中で声を上げる。それを合図にこれまで以上の力を出されてはたまったものではない。
衝撃によろけて仰向けに倒れるマカロフの上に腕を置くとそのまま体重をかけ始めるアクノロギア。肋骨が折れる音と同時にマカロフの絶叫が周囲に響くが、それでもマカロフの表情には笑みがあった。
初めて親らしいことができたという満足感。これだけ時間を稼げば逃げられただろうという達成感。これから死ぬ運命にあるというのに、マカロフの胸の中に後悔はない。
だがーーー
「じっちゃんを返せ………‼︎」
仰向けに倒れるマカロフの横を通り過ぎたのは逃げた筈のナツ。マカロフの巨体をよじ登り、アクノロギアの腕にまとわりつくナツを振り払おうと腕が振るわれるが、それでも離すことはない。
「ナツ………」
「かかれーーー‼︎」
それだけではない。エルザの声を合図に、逃したはずの全員がアクノロギアへと攻撃を加える。ダメージは与えられていないがそれでもマカロフから引き離すことには成功した。
「
影から作り出した巨腕がアクノロギアの側面を叩く。しかし無傷であり、衝撃でよろめくこともない。自力が違いすぎるのだ。それでもここで退くことできない。
「ミラちゃん‼︎」
「えぇ‼︎」
サタンソウルを身に纏うミラジェーンに投げ渡される
「ぐっ‼︎」
無造作に振るわれた腕の一振りで弾き飛ばされ、攻撃が止む。それでも立ち向かおうとする一同だったが、三度飛び上がったアクノロギアに収束する魔力に動きが止まった。滅竜魔導士の十八番、咆哮を使う気だ。それが人が使うものとは比較にならない破壊力を持つ事など嫌でも予想できる。
「防御魔法を使える者は全力展開‼︎」
「あいよ‼︎ とっておき見せてやるよ‼︎」
「術式を書く時間はない‼︎」
「文字魔法には他にもたくさん防御魔法があるよ‼︎」
「みんな、師匠たちに魔力を集めて‼︎」
「手を繋ごう‼︎」
「オレたちはこんなとこで終わらねェ‼︎」
「うん‼︎絶対諦めない‼︎」
「みんなの力を一つにするんだ‼︎」
「ギルドの絆見せてやろーじゃねーか‼︎」
慌ただしくも的確に、そして逃げ出す者は遂に現れず。皆が手を繋いで円状に集い、魔力が集まる。
「………カイト、最後かもしれないから言っておくわ」
「カッカッカ、縁起でもないねぇ」
カイトの隣、手を繋ぐミラジェーンがその顔をじっと見つめる。魔法の展開準備に意識を注ぐカイトだが、言葉を返す余裕はあるらしく、飄々と返すがその柔らかな表情の中に真剣な瞳を見て、言葉を無くす。これから紡がれる言葉を聞き逃してはいけないのだと、本能的に理解した。
「貴方が好きよ、カイト。仲間としてじゃなく、異性として」
慌ただしい周囲の中、嫌に耳に響くミラジェーンの声。さしものミラジェーンも恥ずかしかったのか、耳まで赤くして顔を伏せてしまう。
「返事は………生き残ってからでいいわ」
「カッ、カッカ………」
流石に誤魔化すことのできない、ストレートな愛の言葉。聞いているこちらまで恥ずかしくなる物言いにすぐに反応できず、掠れた笑いしか出てこない。それでも、最後にマカロフが輪の中に入り完全な円となったことで流れる魔力に我に帰ると、生き残るために自身最大の防御魔法を発動させる。
「さぁ、いくよ‼︎
魔法の発動と共に放たれるアクノロギアの咆哮。予想を遥かに上回る魔力の奔流は島を呑み込み、絶望的な光が海域を照らす。光が収まり後に残るのは荒れる海のみ。天狼島など最初からなかったかのように跡形もない。
ーーーX年784年12月16日天狼島、アクノロギアにより消滅
ーーーアクノロギアは再び姿を消した
ーーーその後、半年に渡り近海の調査が行われたが生存者は確認できず
以上が当時船上にて一部始終を確認した評議員による公式記録。ここからかつて盛り上がりを見せていたフェアリーテイルの名は廃り、その名は嘲笑の対象へと。
そうして7年の月日が流れるのであった。
ここで告らせる予定じゃなかった………
けど、ミラちゃんが予想以上に動きすぎる………っ‼︎