FAIRY TAIL 〜Those called clowns〜   作:桜大好き野郎

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大魔闘演武編
大魔闘演武-①


 

 天狼島消失から7年。高々7年、されど7年。誰しも平等に刻まれる時の流れというのは残酷で、あらゆるものを風化させてしまう。

 

 かつて世間を騒がせた大悪党の行方然り、天才と謳われた人々然り、別れた異性との思い出然り、全ては過去へと流されて忘れてゆく。

 それはフェアリーテイルにもいえることで、かつてフィオーレ最強と謳われたギルドも今や見る影なし。街の中心に建っていたギルドは借金の形に差押えられ、今や町外れのボロ酒場を本拠地に。

 

 それでも支払えない借金を返そうにも、小さなギルドに回ってくる仕事などたかが知れてる。結果として利子分しか払えず、その日暮らしの貧乏生活。耐えきれず離脱するメンバーも増え、騒がしさにあふれていた7年前の面影はどこにもない。

 

 それもこれも7年前、天狼島消失のせいだ。

 

 マカロフ含めた22名の行方不明。評議員の捜索も早々に打ち切られ、諦めきれずに独自に捜索。その費用、人件費などに目減りする資金。その調達もままならず、気づけばこの有様だ。

 

 ギルド内でもどんよりとした空気が立ちこみ、現ギルドマスターのマカオも現状維持がやっと。そんなお先に真っ暗な時だ、天狼島はまだ残っていると連絡を受けたのは。

 

 その知らせを持ってきたのは青い天馬。ヒビキの古文書(アーカイブ)の魔法で独自に調べ、解析したのだ。それは僥倖と一部のメンバーは船を出して出迎えに。より一層閑散としたギルドでは留守番組が皆の帰還を今か今かと待ち侘びている。そんな中1人、淡い期待に踊らされてなるものかと、膨れっ面で本を読む少年1人。

 

 

「ロメオ、ついていかなくてよかったのか?」

 

「もし、天狼島が見つかってもみんな、生きてるかわかんねーだろ」

 

 

 7年も経てば少年は青年に。マカオの息子ロメオは幼き頃の憧れを忘れずにギルドに加入。だが、もう7年なのだ。ロメオももう子供ではなく、下手な希望もこれ以上持ちたくない。それが覆された時の絶望はこの7年でよく学んでいた。

 

 

「おいおーい、今日はまた一段と人が少ねえなァ。ギルドってより何よ?同好会?」

 

「ぶひゃひゃー‼︎」

 

 

 乱暴に、乱雑に、扉を蹴って侵入してきたのはフェアリーテイルの代わりに台頭した黄昏の鬼(トライワイトオウガ)のメンバー5人。借金の返済元であり、こうして集金混じりの嫌がらせもしばしば行うギルドである。

 

 

「ティーボ‼︎支払いは来月のハズだろ⁉︎」

 

「うちのマスターがさぁ………そうはいかねって。期日通り払ってくれねーと困るってマスターに言われちゃしょうがねーんだわ」

 

 

 仕方がないというが、その表情は弱いものイジメに大義名分を得たようで、いやらしく嘲笑を浮かべていた。もう我慢ならないと立ち上がったのは他でもないロメオだ。

 

 

「おまえらに払う金なんかねえよ」

 

「よせ、ロメオ‼︎」

 

「こんな奴らにいいようにされて、父ちゃんもみんなも腰抜けだ‼︎オレは戦うぞ‼︎このままじゃフェアリーテイルの名折れだ‼︎」

 

 

 勇ましく立ち上がるロメオの右手に灯る炎。格好も相まってかつてのナツを幻視するが、その実力はまだ遠く及ばない。ティーボと呼ばれた男がフッと一息吹きかけるだけで炎は霧散、丸腰のロメオに向かって背中の金棒を手にかける。

 

 

「名前なんかとっくに折れてんだろ。てめえらは一生、オレたちの上にはいけねえんだ‼︎」

 

「やめろォーーー‼︎」

 

 

 マカオの静止間に合わず、振り下ろされた金棒。固まるロメオが来たる衝撃に目を瞑った瞬間だった。

 

 

「あ?」

 

 

 振り上げた金棒を振り下ろす事なく、背後からの奇襲に蹴り飛ばされたティーボはそのまま反対側の壁へと。怒りに振り向いた残り4人もそれぞれ氷漬けにされたり、殴られたり、斬られたり、影に投げ飛ばされたりと瞬きの内に倒された。

 

 

「ただいま」

 

 

 唖然とする中、一番先頭にいたナツが声をかける。続くように現れるのは天狼島と共に消えたはずのメンバーたち。あの日のまま、何も変わる事なく現れた面々に驚きつつも、涙を溢しながらロメオが返す。

 

 

「おかえり‼︎ナツ兄‼︎みんな‼︎」

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 くつくつと、喉奥で笑いを噛み殺しながらカイトは鍋を振るう。アクノロギアの襲撃からすでに7年経過していることには驚いたが、こうして再会できたのは喜ばしいことだ。確かにギルドも人も変わったが、その本質は変わらない。7年の空白を埋めるように騒ぐ面々を眩しく見つめる。

 

 

(しっかし、まぁ………まさか島ごと封印するとはねぇ)

 

 

 脳裏に浮かべるのはフェアリーテイル初代マスター、メイビスのこと。天狼島で浮遊霊として存在していたメイビスは皆の結束を魔力へと変換し、妖精三大魔法のひとつ、妖精の球(フェアリースフィア)を発動。絶対防御に守られつつもその解除に7年の月日を費し、そして復活できたというわけだ。

 

 さすがは初代マスター。やることのスケールが違いすぎると感心する反面、死人がここまでの魔法を行使したことに驚きを。

 

 そうしている内に出来上がった炒飯を盛り付けテーブルへ。作れば作るだけ消えていく料理に満足しつつ、既に使える材料は使い切ってしまったために手持ち無沙汰となるカイト。さて、どうしたものかと辺りを見渡す。

 

 右のテーブルを見やれば習得した炎の魔法をナツたちに披露するロメオ。左を見れば自らの実子ということが判明したカナを抱いて踊り狂うギルダーツ。なるほど、混沌としていて入り込む余地がない。まぁ、それも仕方がないかと輪から外れて皆を肴にご飯でもと考えていた時だった。

 

 

「カイトさん………」

 

 

 ふと、横に現れたのはウェンディ。笑顔が溢れるこの空間で1人、なぜか涙を浮かべていた。

 

 

「どうしたんだい、ウェンディちゃん?誰かに虐められた、わけではないだろうし………ご飯でも食べ損なったかい?」

 

「これ………」

 

 

 ウェンディが恐る恐ると差し出したのは一枚の絵。絵描きのリーダスが7年の間に書いた、天狼島組の7年後の姿だ。そこには今の少女然としたウェンディとは違い、すっかりと成長したウェンディの姿。可愛らしい、というよりは美しいという方がしっくりとくる一枚だ。

 

 

「?よく、書けてるね?」

 

「うわーん‼︎」

 

 

 感想を述べた瞬間、泣き出して人ごみの中に走り出すウェンディ。何か不味いことでも言っただろうか?と首を傾げた。

 

 

「リーダス、何か不味いことでも言ったかな?」

 

「さぁ?」

 

 

 絵描きを楽しむリーダスも、人の心の機微に疎いカイトも女心はよくわかっていない。胸部の厚い人間が多い中、7年後も薄いままだと遠回しに言われるのは花もはじらう乙女には致命傷であった。

 

 

「………ちなみに、俺の絵ある?」

 

「ウィ。でも、あんまり変わらないよ」

 

 

 渡された紙に描かれたカイト。だが先ほどのウェンディとは違い、あまり変わっていないように見える。少し貫禄が欲しいところだと苦笑いを溢し絵を返すと、その背中に突撃する影ひとつ。

 

 

師匠(せんせい)‼︎何してるの?」

 

「カッカッカ♪リサーナ、ビックリするからやめておくれ」

 

 

 カイトの忠告もなんのその。首に手を回し、顔の横から手元の絵を覗き込むリサーナ。身体は大きくなったが、こう言った甘える仕草は昔のままだ。皆に愛される末っ子だからか、それとも生粋の性格なのかはさておき。変わってないと笑うリサーナにカイトは問う。

 

 

「それで、リサーナ。どうかしたのかい?」

 

「あ、そうだった。師匠も向こうで食べよ!」

 

 

 リサーナの指差す先、カイトの後方の席。そこには案の定というべきか、エルフマンとミラジェーンの姿。天狼島以降、どうにも顔を合わせづらいカイト。帰還の船の最中話しかけようにも、顔も合わせようとせずに逃げられることもあり余計にだ。

 

 

「あー、リサーナ。せっかくだけれど、お腹はいっぱいで………」

 

「ほら、早く早く‼︎」

 

「カッカッカ♪聞いちゃくれないねぇ」

 

 

 くるりと身体を反転させられると、そのままカイトを押し出すリサーナ。影に潜って掻い潜れないかと考えたが、リサーナに掴まれた右腕を見て諦める。移動系の魔法の多くは使用者が拘束された状態では使用できず、カイトの影魔法もその例に漏れない。どころか他の魔法よりも制限はキツく、身体の一部でも掴まれた状態では使用不可。その分使用魔力はローコストなのだが。

 

 

「ミラ姉!エルフ兄ちゃん!」

 

 

 そんか現実逃避も束の間、連れてこられたテーブルではミラジェーンに鼻の下を伸ばして近づいてくる野郎どもを牽制するエルフマン。それを知ってから、もしくは慣れているのか、呑気に料理を口に運んでいたミラジェーンはカイトの姿を確認した瞬間、そっぽを向く。

 

 やはり目も合わせてくれないかと内心肩を落とせば、カイトに気がついたエルフマンが反応する。

 

 

「てめっ、カイト!姉ちゃんとリサーナに近づいてんじゃねぇ‼︎」

 

「カッカッカ♪悲しいね、エルフマン。昔はリサーナみたいに師匠って呼んでくれていたのに」

 

「昔の話だろうが‼︎リサーナ、こっち来い‼︎」

 

「えー、昔は4人でテーブル囲んでたじゃん」

 

「昔は昔だ‼︎」

 

 

 エルフマンとしてはカイトを嫌っている訳ではない。それこそ自身に魔法を教えてくれたこともあるし、下心ありきでミラジェーンやリサーナに優しくしているわけではないことも知っている。

 

 だが、それはそれとして不安なのだ。将来的に義兄と呼ぶことになりそうなのが。姉を取られてしまいそうなのが。

 

 

「…………カイト、姉ちゃんに何かしたか?」

 

「カッカッカ、心当たりはないよ♪じゃあ、後は兄弟姉妹水入らずで♪」

 

 

 ミラジェーンのいつもとは違う反応に訝しげに問い詰めれば、カイトは素知らぬ顔でその場から退散。その行動自体何かあったことは明白だ。人混みに紛れてしまうカイトの後ろ姿から問い詰めても煙に撒かれるだけだと察し、そして少し離れた隙にミラジェーンに群がる野郎どもに視線が移る。

 

 

「あ、てめぇら‼︎姉ちゃんに近寄るんじゃねぇ‼︎」

 

「えー、いいだろー」

 

「7年振りの再会なんだぜ」

 

「その伸び切った鼻の下をどうにかしていいやがれ‼︎」

 

 

 エルフマンが男避けに励む傍らで、カイトの背中を見送ったリサーナは視線をミラジェーンへと移す。その視線は微笑ましいモノを見る様な温かいものではなく、どちらかといえば責めるような痛々しいもの。言いたいことはわかっているのか、ミラジェーンも突き刺さる視線を甘んじて受け入れていた。

 

 

「ミラ姉………」

 

「わかってる、わかってるわ。わかってるからやめてちょうだい」

 

 

 その先の言葉は聞きたくないと言わんばかりに耳を両手で覆うが、現実はどこまでも非情だ。否応なしにリサーナは告げる。

 

 

「ヘタレ」

 

「うぐっ」

 

 

 可愛い妹の口から出た言葉は鋭い刃となり、ミラジェーンの胸に容赦なく突き刺さる。既に致命傷だというのにも構わず、リサーナは畳み掛けるように続けた。

 

 

「もう皆んなにバレてるのに、まだ隠し通そうとしてるの?」

 

「………冗談でしょう?」

 

「本当だよ?」

 

 

 寧ろなぜバレてないと思っていたのか。そう続ければ羞恥のあまりに耳に当てていた手は正面へと移り、椅子の上で蹲ってしまう。姉の可愛らしい姿にほっこりする反面、このままではお互いなぁなぁで済ましてしまいそうなのでここは心を鬼にしてリサーナはまだまだ責め立てる。

 

 

「ミラ姉、天狼島で師匠に告白したんでしょ?その時の勇気はどこに行ったの?」

 

「………聞いてたの?」

 

「ミラ姉の隣にいたんだよ、私」

 

 

 あの慌ただしい状況でどこまで聞こえていたかは定かではないが、少なくとも隣にいたリサーナは把握している。返事は戻ってからと自ら言ったくせに本人がこの様では、と言った所でミラジェーンに口を塞がれた。見たこともないくらいに顔を真っ赤にして荒い息を繰り返すミラジェーンはいっぱいいっぱいである。

 

 

「…………ちゃんと向き合わないといけないってことくらい、わかるわ」

 

 

 そのままぽつりぽつりと話し出すミラジェーン。思えばこの淡い恋心を抱いたのはいつからだっただろうか。気がつけば近くにいて、あのぎこちない笑顔に胡散臭いと思いつつも安堵を覚え始めたのはどのくらい前だったか。

 気付かぬうちに惹かれて、けどそれを認めてしまっては今の関係が壊れてしまいそうでずっと蓋をしてきた。それがずるずると続いての今なのだから、余計に尻込みしてしまう。

 

 フェアリーテイルの看板娘と言われる魅力も、種族も違い美醜の価値観も違うカイトの前には無力。その違い故か、皆よりも一線引いたカイトにアタックしづらいというのも要因のひとつだろう。

 

 進みたいという思いと、現状維持の気持ちに苛まれるミラジェーン。だから、せめてもう少し気持ちの整理をつけさせて欲しいのだ。

 

 

「あと2日………1週間………1ヶ月………1年………とにかく、もう少し待ってちょうだい」

 

「……………」

 

「リサーナ………?」

 

 

 反応のないリサーナに違和感を覚えてそっと口を覆っていた手を離す。その途端「きゅぅ」と言葉にならない音を出して倒れてしまった。感情がいっぱいいっぱいだったミラジェーンは無意識のうちに、口どころか鼻まで抑えていたのだ。その先に待っているのは酸欠による気絶。

 

 

「リサーナ?リサーナ⁉︎」

 

「ちょ、姉ちゃん⁉︎どうしたんだよ⁉︎」

 

 

 突然の気絶に慌てる周囲。騒がしい宴が更に騒がしくなったことは言うまでもない。かくして、若干のハプニングが起こりつつも7年の月日を埋める宴は過ぎてゆくのであった。

 

 

 

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