FAIRY TAIL 〜Those called clowns〜   作:桜大好き野郎

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大魔闘演武-②

 

 天狼島からの帰還を果たしたはいいが、喜んでばかりではいられない。7年と言う月日は容赦なく傷を残していた。ルーシィは身内の父親を亡くしていたり、魔力が馴染まないのか帰還メンバーの全員が魔法を上手く使えなかったりと問題は山積み。

 

 その中でも特に問題なのは金銭面。

 金を借りていた黄昏の鬼(トライワイトオウガ)の法外な利息と強引な催促はマカロフとエルザ、ミラジェーンの3人による物理的な説得により無くなったとはいえ借金が消えたわけではない。未だ元金は残っているのだ。

 返済しようにも名声の落ちたギルドに舞い込む依頼など下請けの更に下請け。せいぜいがペット探しや薬草探しくらいのもの。完済どころかその日の食費すら危ういギルドの台所事情にカイトは頭を抱えた。

 

 次期マスターでカナの父親であることが判明したギルダーツが放蕩に出たのも気にならないくらいには頭を抱えた。放蕩に出る直前に残した手紙にはラクサスの復帰とマカロフのギルドマスター再指名がなされたのだが、それはさておき。

 

 それぞれの貯蓄でさえギルドの経営に回され資金不足に喘ぐ中、一発逆転の案がロメオから出された。それは王国主催によるフィオーレ大陸一の魔導士ギルドを決める大会。その名も大魔戦演武。

 

 優勝すれば3000万Jの賞金は勿論、大陸中にギルドの名が知れ渡るために名声も手に入る。逆に無様を晒せば名声は落ちるのだが、実力者の帰ってきたら今、出場する他ない。既存メンバーの反対を押し切り、優勝へ向けて各々が盛り上がる。

 

 開催日は3ヶ月後。それまでに鍛え直すためにそれぞれが合宿をすることとなったのだ。さて、カイト含めた最凶メンバー+チームシャドウギア、カナの一行が合宿先に選んだのはーーー

 

 

「「「海だーーー‼︎‼︎」」」

 

 

「カッカッカ♪呑気だねぇ……」

 

 

 海に来てはしゃぐ面々を他所に、日陰に座ってそれを眺めるカイト。元々ミラジェーンたちと山で合宿する予定だったのだが、それを脇から掻っ攫ったのはエルザ。ガイドブック片手に拉致した鬼は現在、例にも漏れず海ではしゃいでいた。

 

 

「カイトさん、あの、ここなんですけど………」

 

「ん、あぁ………暗号化されてるねぇ。うーん、ここは………」

 

 

 唯一の例外はギルド薬剤師のポーリシュカーーー本名グランディーネから貰った魔導書と睨めっこするウェンディくらいのものだろう。エドラスから迷い込んだグランディーネが、こちらの竜のグランディーネから授かった魔法が書かれた魔導書。

 複雑怪奇な術式に加え、所々が暗号化された文章は並大抵では読み解くことさえ不可能。それを横からアドバイスするのはカイトの役目だ。魔導書の解読という点ではレビィにも勝るとも劣らない知識量を持つカイトであればアドバイザーとして申し分ない。それに加え、特訓内容も魔力操作がメインのために融通が効きやすいのだ。

 

 

「おーい、カイト。腹減ったァ‼︎」

 

「焼きそばくれ‼︎これから大食い勝負だ‼︎」

 

「オイラはサカナー‼︎」

 

「カッカッカ♪元気だねぇ、君たち。水分補給忘れないようにね」

 

 

 海の方から走ってきたナツとグレイ、ハッピーの3人。仕方がないとため息ひとつ溢すと影の中から取り出した紙幣を影の手に掴ませる。その影が隣の影へ、その影もまた隣の影へとバケツリレーさながらにお金を受け渡す。一切の乱れなく動く影は視界の端まで続き、そうして暫くして同じようにして運ばれてきたのは大皿に乗った特盛り焼きそば2枚に焼き魚。

 

 それを受け取った3人は掛け声合図に大食い勝負をスタート。食い終わるなりまた海の方へと走り出すのだから、まだ修行をするつもりはないらしい。遊ぶだけ遊んだら満足してそちらにシフトするだろうと半ば諦めたように笑いながら皿を回収していれば、隣から視線が。

 

 

「どうしたんだい、ウェンディちゃん?お腹すいた?」

 

「い、いえ!けど、カイトさんも忙しいのに手伝ってもらって申し訳ないというか………」

 

 

 ウェンディの言う通り、カイトも実のところ修行中だったりする。内容としては影の遠隔操作。それもここからほど近い海の家でアルバイトしながら金銭の会得をする一石二鳥の修行法。こうしている間にも体内の魔力が消費され、それを補うように大気中の魔力が自身に流れ込んでくるのを感じている。

 

 そう言えばどこかの学者が魔力は年々変化していると論文を出していたことを思い出す。結果として証明方法が無いために空想だと一笑されていたが、あながち間違いではないのかもしれない。

 

 そんな事を頭の隅で考えているのはさておき、今はしゅんと首を垂れるウェンディのケアである。

 

 

「んー、気にしないでいいよ♪魔法の修行にもなるし、知識も深められる。それに俺、泳げないからねぇ。他にやる事もないんだよ♪」

 

「そうなんですか?」

 

「あぁ、そうだよ。種族的な弱点というやつだね」

 

 

 肩を竦めてなんでもないと言う風に語るが、実際海辺となると行動は制限される。泳げないのは勿論、強い日差しは容赦なく肌を焼く。炎上しないとはいえ、避けてしまうのは無理もない。

 

 

「それよりも、ウェンディちゃんこそ遊ばなくていいのかい?」

 

「私は、その………この魔法を早く習得したくて」

 

「その割には進歩は著しくないようだけど?」

 

「うぅ………」

 

 

 ウェンディの手に持つページは先ほどから進んでおらず、行き詰まっているのは明白。大の大人でも根を上げる複雑さなのだ、無理もない。それでも挑もうとする姿勢はカイトとして美しいとは思うが、何事にも限度というのはある。

 

 図星を突かれて半泣きのウェンディに何を思ったのか、突然小脇に抱えて立ち上がると木陰から出てビーチの方へと脚を進める。

 

 

「ひゃあ⁉︎か、カイトさん⁉︎」

 

「カッカッカ♪行き詰まった時には息抜きが必要だよ♪」

 

 

 実際、ここで無理をし過ぎても余計にこんがらがるだけだ。ならば少し遊んで頭の中をリフレッシュするのは悪くない。遊び呆けるのは論外だが、詰め込み過ぎるのもまた論外である。

 

 

「さて、遊ぼうじゃないか。ルーシィたちのように水遊びかい?それともエルザのように日焼け?ナツたちのように泳ぎの対決?なんでもいい。話しかければ輪にいれてくれる筈さ♪」

 

 

 砂浜に降ろしてその背中を軽く押し出す。けれどもウェンディの歩は進まず、カイトの顔色を窺ってばかり。はて、どうしたのだろうかと頭を悩ませれば「あ、あの!」と勇気を出したウェンディの言葉が飛ぶ。

 

 

「わ、私はカイトさんと、その、遊びたい、です……」

 

 

 言葉尻を窄ませながらも、そう伝えたウェンディ。顔を真っ赤にして自身の指を絡ませる姿は、なるほど庇護欲をそそるものがある。フェアリーテイルの小さな天使とは誰の言葉だったか。

 

 精一杯の勇気を出したのであろうウェンディを一蹴するのは容易い。しかし、その後に待ち受けているのはエルザからのキツめのお仕置きだろう。新人の教育ぐらいしろと剣を構える姿が容易に目に浮かぶ。

 

 

「あの、勿論迷惑じゃなかったらですけど」

 

「あぁ、ごめんね。うん、俺とでよければ♪」

 

 

 返事が遅いことに不安を覚えたのか、落ち込む様子のウェンディにそう声をかければ途端に表情に光が増す。

 

 

「けれど、俺は泳げないけどいいのかい?」

 

「大丈夫です!私、砂でお城作ってみたかったんです!」

 

「あぁ、もしかしてウェンディちゃん。こういったビーチは初めて?」

 

「はい!だから、どうやって楽しめばいいかわからなくて………」

 

 

 考えてみれば不思議ではない。ウェンディはミストガンに連れられ化猫の宿にずっといたのだ。山の麓にあるギルドから足を伸ばせば海はあるものの、あるのは観光目的のものではなく船などを停泊させる港しかない。遊び方を知らないのも無理はないだろう。

 

 

「そう。なら、砂遊びと洒落込もう。海辺の近くでいいかい?」

 

「はい!」

 

 

 元気な返事をするウェンディに手を引かれて歩き出すカイト。魔力の循環もまだ時間がかかるようだし、遊ぶのも悪くはない。

 

 

「ねぇねぇ、ルーちゃん。アレ」

 

「アレ?………あー、アレって」

 

「うん、だよね………」

 

「「事案にしか見えない」」

 

「カッカッカ、うるさいよ、そこ。ああ、そこの人、警備兵呼ぼうとしないで。事案じゃないから、決してそういったものじゃないから!」

 

 

 軽薄そうな怪しげな男と可憐な少女が戯れる姿は、側から見れば確かに事案である。駆けつけた警備兵に事情を説明するという一悶着もありつつも日は沈み、空はすっかりと月と星が浮かぶ頃。

 

 午後からはしっかりとそれぞれが修行に励み疲れ切った一行は宿泊先の宿へ。価格がリーズナブルでありながらもしっかりとした設備に温泉にまで備えたそこで、男たちは盛り上がる。

 

 

「見せてもらおうじゃないか」

 

「ま………お約束だしな」

 

「ずりぃぞナツ‼︎先行くな‼︎」

 

「く、食い過ぎたぁ〜」

 

 

 どうやらナツ、グレイ、ジェット、ドロイの4人は隣の女風呂を覗くつもりらしく、こそこそと仕切りの穴を探していた。

 

 

「何が楽しいのかねぇ」

 

 

 それを横目で眺めながら湯に浸かるカイト。泳ぐのは無理だが、こうして浸かることくらいは可能なのだ。

 

 

「んだよ、カイト。ノリ悪ィぞ」

 

「オマエは気にならねぇのかよ?」

 

「生憎と、興味ないねぇ」

 

 

 種族が違うために人の裸を見ようと欲情することはないカイト。しかし、世の男が女湯を覗きたがる気持ちというのはわかる。なるほど、これが思春期というやつだ、と自己完結しながら意識は温泉へ。

 身体は他と比べて動かしていないが、温泉に浸かれば溶けていくものがある。こういったものがあるから、人の世も捨てたものではないのだと改めて再認識していた。

 

 

「ケッ、むっつり野郎が」

 

「見つけても教えねぇからな」

 

「レビィたちには黙っとけよ‼︎」

 

「うぅ、腹が〜」

 

「カッカッカ♪好き勝手言うねぇ♪」

 

 

 ドロイは早くトイレに行きな〜と軽く返して、疑問を覚える。はて、ならば自身は誰にならば欲情するのだろうかと。同じ吸血鬼にならば欲情するかもしれないが、いかんせん生き残りは最早半端な吸血鬼である己だけ。ならば個体を増やそうとした際に誰にならば欲情するのか?

 

 真っ先に思いついたのはミラジェーン。体内の悪魔を抑えるために悪魔因子を持つためか、他と比べて魅力的に映るのは間違いない。サタンソウルを見に纏う時など最たる例だ。なるほど、それならば覗きの気持ちはわからなくもない。

 

 次いで思い浮かべたのはウェンディ。滅竜魔導士が持つ魔力のせいか、只人よりも好感度は高い。だが、感覚としては親戚の子供くらいの遠い感覚であり、何より彼女は幼い。そう言った対象には映らず、精々が友愛くらいだろうと自嘲する。

 

 まぁ、何にせよたらればの話であり、無意味な妄想だ。愛を知らない化物には過ぎたものである。

 

 

「何やつ‼︎」

 

 

 その時だった。ようやく覗きスポットを発見し、いざと挑もうとした4人に向けてクナイが放たれたのは。下手人は間違いなくエルザであり、器用にも全員クナイの先端だけ頭に刺さっただけで軽傷である。

 

 

「ナツたちか?ならば構わんな、一緒に入るか?だが、カイト、貴様はダメだ」

 

「カッカッカ♪誘われても行かないよ♪」

 

 

 ナツたちの患部を治療しながら仕切り越しに聞こえたエルザの声。それにそう返せば飛んでくるクナイ。覗かれるのは嫌だが、そう返されるのも頭に来たのだろう。仕切りをぶち抜き深々と頭に突き刺されたカイトは倒れ、ならどう返せば正解なのだとさめざめと泣く。

 

 沈黙は金だと、知らない男なのであった。

 

 

◇◆◇◆

 

 

 修行2日目。

 各々鍛えたかいあってか早くも強くなっているという実感が湧いてきていた。馬鹿にされているメンバーの分までフェアリーテイルの力を見せつけてやるという気概も大きいだろう。

 

 かく言うカイトも魔力の循環が上手く回っているのを感じご満悦。3ヶ月後には予想よりも遥かに良い仕上がりになることは想像に容易い。

 

 そんな時だった。

 

 

「姫、大変です」

 

 

 そんな言葉と共に現れたのはルーシィの星霊バルゴ。なぜか座っていたルーシィの尻の下からの登場である。

 

 

「どこから出てきてんのよーー‼︎」

 

「お仕置きですね」

 

 

 無表情ながらも頬を朱色に染めたバルゴはさておき。

 バルゴのいう緊急事態の内容とは即ち、星霊界の滅亡の危機。どうか力添えをと懇願するバルゴを見捨ててはおけないと盛り上がるナツたち。本来なら星霊界に人間は入らない筈だが、今回は特例。空気のない空間ではあるが、星霊の服を着用すれば問題ないとのこと。

 

 

「行きます」

 

 

 返事を聞くや否や一同の下に現れる魔法陣。心の準備も待たずにそれが光ったかと思えばその場から消えるナツたち。残されたのはーーー

 

 

「何でオレたちだけ」

 

「置いてけぼり?」

 

「カッカッカ………いや、ほんとに、なんで??」

 

 

 ジェット、ドロイ、カイトの3人。やっぱり星霊は苦手だと笑い、残されたカイトは仕方がないと修行を続ける。追いつく手段もなく、攫った星霊界を襲う手段もない。相手の出方を待つしかないのだ。

 そんな中ふと、思い出したことがひとつ。

 

 

「星霊界と人間界、流れる時間が違うらしいけど…………大丈夫、だよね?」

 

 

 その不安は約3ヶ月後、実現するのであった。

 

 

 

 

 

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