FAIRY TAIL 〜Those called clowns〜 作:桜大好き野郎
さて、ハッピー、シャルルまで含めた9人が星霊界に拉致されて暫く。数日内であれば巻き返しも効くだろうと楽観視していたのも遠い昔。ひと月も音沙汰無しともなれば焦りが生まれてくる。
いや、まだ大丈夫だと自身に言い聞かせながら2月目。しかし同様はしっかりと現れているようで焼きそばのソースが濃ゆ過ぎたり薄すぎたりというミスが連発。
そうしてとうとう3ヶ月。大魔闘演武まで残り6日。繁忙期も過ぎてアルバイトも終わり、仕方なしに個人で焼きそばや焼きとうもろこしの屋台で修行兼資金稼ぎに勤しみながらカイトの苛立ちは最高潮にまで達しようとしていた。
「お、おい、カイト。落ち着けよ、な?」
「そうだって。全員無事だって!」
「カッカッカ、面白いことを言うねぇ、2人とも。俺は至極落ち着いているよ♪」
手元の焼きそばを混ぜながらそう言い放つカイトだが、いかんせん瞳が全く笑っていない。絶対にウソだろうとツッコミが入るが、カイトの苛立ちにブーストをかけているものがひとつ。それは空腹だ。
手元の焼きそばや焼きとうもろこしを食べても癒されない、空腹。吸血鬼本来の食事、血液が圧倒的に足りていないのだ。元々、身がバレているメンバーから少しずつ血液を貰うことで補う予定だったのだが、それがいなくなって仕舞えば補給することはできない。
無闇矢鱈に襲うことはマカロフから禁止されており、例外があるとすれば明確な敵対を見せられた時のみ。それもこのビーチでは望み薄。精々が悪質なナンパかクレーマーくらいのものだ。純粋な吸血鬼よりも燃費が良いとはいえ、それでも最低でも3ヶ月に一度は吸血が必要なのである。
まな板ごと切り伏せるとばかりに影の腕がキャベツを刻み、食材をかき混ぜる腕もいつもより乱雑だ。何より、陽に照らされた人々の健康そうな首筋が何より目に毒。肉を前にした獣のように飛びつこうとする意思を必死に抑えているのである。
「まぁ、気持ちはわからないでもないけどよ。流石に大魔闘演武まで1週間で仕上げるとなるとな」
「また離れ離れは寂しいぜ、レビィ‼︎」
おいおいと泣くドロイを尻目に、さて本当にどうしたものかと考える。と言っても取れる手段など皆無に等しい。
どこかに敵対したことのある犯罪者でも現れないものかと願望込めたため息をひとつ。そんな時だった。淡い髪色の女性が現れたのは。
「ねぇ、焼きそばちょうだい。3人前ね」
可愛らしいと美しい、そのちょうど中間辺りに位置するような顔立ち。ポニーテールから滴る海水が珠の肌を伝わり、その深い谷間に消えていく。綺麗どころの多いフェアリーテイルのギルドでも目を惹く容姿らしく、周囲の男共と同じように背後のジェットとドロイも感嘆のため息を溢していた。
女性の背後では彼女そっちのけで見惚れていた男共の頬に紅葉が刻まれているのだが、それはさておき。軽い返事と調理を済ませ差し出す商品。
「ありがと、はい」
「はいよ、ちょうど………ん?」
受け取った代金と共に渡された1枚の紙。はて、これは?と疑問を問いかける前に女性はすたこらとビーチの方へと消えてしまった。
「おいおい、何もらったんだよ⁉︎」
「ま、まさか連絡先か⁉︎」
「カッカッカ♪無粋だねぇ」
紙を覗き込もうとする2人を擦り抜けて、その紙を上空へと放る。それを影から出てきた鴉が掴み広げると、視界を共有したもう一羽の目を通して読む。
「ふむ………ジェット、ドロイ。店番をお願いしてもいいかな?」
「ホントに連絡先だったのか⁉︎」
「オ、オレたちも一緒に‼︎」
「ダメだよ♪」
着いてこようとする2人を撒くために一同の影へと潜るとビーチからほど近い森の中で姿を表す。さて、目的地はと空を飛んでいた鴉と再び視界を繋げようとして、その動きが止まった。
「おやおや、これはこれは………神様に感謝でも捧げたい幸運だねぇ」
「神を信じていたのか、君?」
「まさか。でも、今この瞬間くらいなら信じてやってもいいかもねぇ」
軽口を叩くカイトの視線の先。そこにはかつて評議院に潜入し楽園の塔を築こうとした人物。記憶を失い牢に捉えられたはずのジェラールがそこにいた。
「まさかこんなに早く合流できるとはな」
「まぁ、こんな熱烈なラブレターをもらったらねぇ」
手に持つ紙をひらひらと仰ぐカイト。西の森で待つの一文しか記されていないが、その隅には魔女の横顔のようなギルド紋章が刻印されている。最近巷で噂の
「さて、後ろにいるのはウルティアかな?まさか元悪魔の心臓までいるとはねぇ。そうなると、メッセンジャーの彼女も脛に傷でもあるのかな?」
「私と同じ元悪魔の心臓よ。あの子には、外の世界を見て欲しかったから………」
「それで闇ギルド狩を?カッカッカ、そいつはまた酔狂だねぇ」
軽口が気に障ったのかキッと鋭い視線をぶつけるウルティア。けれどもカイトは薄ら笑いを浮かべて肩を竦めるだけで堪えた様子は無し。ウルティアの視線がますます強くなる。
「やっぱり反対よ!信用できないわ‼︎」
「カッカッカ、随分と手厳しい♪」
「落ち着いてくれ、ウルティア。彼の能力の有用性は君も知っているはずだ。カイトも、あまり煽るのはやめてくれないか?」
我慢の限界なのか、堪らずカイトを指差して詰め寄るウルティア。それを窘めるジェラールを愉快とばかりに笑うカイト。中々のカオスである。
一頻り笑ったカイトは満足したのか目尻の涙を拭いながらジェラールに問いかける。
「まぁ、談笑はこのくらいに。それで?7年ぶりの再会を喜ぶために呼んだんじゃないだろう?」
「ああ。本当はエルザたちが揃ってからにしたいのだが………背に腹は変えられない」
「カッカッカ♪さらっと毒を吐くねぇ」
実際、この少しの問答で本当に依頼しても大丈夫なのかと不安を覚えたジェラール。間違いなく自業自得なのであるのだが、それはさておき。「実は………」とジェラールが口を開いた瞬間、グルグルと獣が喉を鳴らすような音がなった。
はて、この辺りに獣はいないはずだがと辺りを見渡すジェラールとウルティア。しかし、その疑問は目の前で喉を隠すカイトを見て解消された。言葉を待つようにじっと見つめられる視線に耐えかねたカイト。諦めたように喉から手を離すと両手を挙げる。
「はいはい、そうだよ。喉が渇き過ぎて鳴ったんだよ」
「どんな生態よ⁉︎」
「鳴るだろう、普通。特に、元悪魔の心臓なら知ってるだろう?俺の同族いたんだし」
「やめて、あいつの事思い出させないで」
ウルティアがカイトを信用していないのは本人の軽薄さもあるが、間違いなく悪魔の心臓ーーーというよりも、ハデス自身の手駒としていたエリゴスにも責任があった。
新たな依代を作るために母体として選ばれたウルティア。それから始まる母体になれと言うストレートなセクハラ発言。顔を合わせる度にそれなのだから吸血鬼に対して好感など持てるはずもない。ハデスが仲裁しなければ間違いなく殺し合いに発展していただろう。
堰を切ったように鳴るカイトの喉。話が進まないとジェラールが苦笑いを溢すと右の袖を捲る。
「吸うか?」
「おや、いいのかい?」
「構わないさ」
「そりゃ願ったり叶ったり。本当は異性の方が吸収がいいんだけど………」
「絶、対、嫌ッ‼︎」
「だろうねぇ♪」
両手を抱いて全力で拒否をするウルティア。予想はしていたらしく、肩を竦めるとジェラールの手を取り森の奥へ。吸血の瞬間を他人に見られるなど恥ずかしいからだ。それこそ全裸で街中を歩くのと変わらないほどに。
捲られた袖からではなく襟を少し乱すと、そこから顕になる首筋に牙を突き立てるのであった。
◇◆◇◆
「ウルティア〜!」
「あら、メルディ。遅かったじゃない」
「ごめん、なんだかいっぱい声かけられちゃって」
暫くして、ビーチの方から戻ってきたのは元悪魔の心臓のメルディ。天狼島を脱出した後からずっとウルティアと共に行動し、現在は魔女の罪として贖罪の日々を送る女性。
本来ならばもう少し早めに到着する予定だったのだが、その容姿に惹かれてか多数のナンパに絡まれて遅くなってしまった。手に持つ焼きそばはすっかり冷めてしまっている。
「あれ?ジェラールは?」
「あいつと一緒に森の奥よ」
「え、もう着いちゃったの?」
「迷った先がここだったみたいよ」
棘を隠さないウルティアの言いに仕方がないと苦笑い。それほどまでにエリゴスとの関係は悪かったのだ。それと同族のカイトであるならば好感度などマイナスである。
余談ではあるが、カイトが吸血鬼だと言う情報はジェラール経由であり、あまり他言しないように言われている。初め聞いた時は驚いたが、少なくとも屋台で見たカイトはエリゴスの様に人を家畜の用には見ていない。少し愛想笑いがぎこちないただのお兄さんだ。
そうしていれば不意に、近くの茂みが揺れる。そこから出てきたのは案の定ジェラールとカイト。しかし、様子がいつもと違っていた。
「はぁ、はぁ………」
赤く上記した頬に額から薄く流れる汗、そして潤んだ瞳は色気を含んでおり、口から溢れる荒い息がそれに拍車をかけている。同性であろうと見惚れてしまうような色香を振り撒くジェラールの隣には軽薄な笑みを浮かべるカイト。心なしか肌に艶が出ており、満足そうにも見える。
「カッカッカ♪いやぁ、久しぶりだから搾りすぎた気もするけど………大丈夫かい?」
「大、丈夫だ」
ジェラールは勿論、カイトも見目が悪いわけではない。そんな2人が事後のような雰囲気を醸し出していれば目を奪われてしまうわけで。特に幼い頃からずっと悪魔の心臓に所属し、今もなおウルティアと行動を共にするメルディ。圧倒的に色恋経験のない彼女には目の毒であった。
知識はあれど初めて見た光景に目を手で覆ってしまうが、ばっちりのその隙間から覗いている。いつもは頼りになるジェラールからは考えられない弱りっぷり、そしてそれを肩で支えるカイト。メルディの中の扉が開きかけていた。
「こほん」
「ひぅっ‼︎⁉︎」
ウルティアの咳払いに我を取り戻したメルディ。開きかけていた扉は閉じたものの、名残惜しいような勿体無いような、そんな悶々とした気持ちが胸中で渦巻きまた赤面する。
それを見てないふりをしながらウルティアが睨むのはカイト。片手を上げて降参のポーズを取るも、軽薄な笑みは止めない。
「やりすぎよ‼︎」
「カッカッカ♪歯止めが効かなくてねぇ。そんなに怒らないでよ。皺が増えるよ?」
「誰のせいよ‼︎」
ジェラールを奪い返しながらカイトを殴るという器用な事をして見せたウルティア。腕の中で大丈夫だと繰り返すジェラールだが、どう見ても大丈夫ではない。今日は休ませた方がいいだろう。
「はぁ………話は明日ね。昼にまたここに来てもらえる?できればエルザたちを連れて」
「あいよ。まぁ、
言外にお前では話にならないと言われても堪えた様子なく、いっそいつも通りのカイト。そう言ったところでヘイトを稼いでいることに気がつかないのである。
頭に血が昇るがここはぐっと我慢。メルディにビーチまでの道案内を頼むとジェラールを休ませるために仮の寝ぐらへと。どうか明日までに話の通じる相手が帰って来ますようにと祈る他なかった。
「ヒゲー‼︎‼︎時間かえせーー‼︎‼︎」
「えー…………」
ビーチに戻ってみれば空に向かって叫ぶルーシィと倒れ伏す面々。帰ってきたらことに安堵すればいいやら、なぜ絶望の淵に立たされたように沈んでいるのやら、状況が読めずに思わず声を漏らすカイトであった。
◇◆◇◆
星霊界から帰還を果たした翌日。太陽も真上に昇っているというのに帰還メンバーの顔色は優れない。何せ星霊界と人間界の流れる時の速さに飲まれ、この3ヶ月を無意味に過ごしてしまったのだから。
星霊たちからの歓待を受け1日だけならと気の緩みが招いた結果とも言うべきか、はたまた喜びを優先してほぼ拉致の様な強行に出た星霊を責めるべきか。そんな葛藤さえ湧かないほどに絶望している。
「はぁ………いや、君たちに非はないのだけれど………はぁ」
「これ見よがしにため息ついてンじゃねェ‼︎」
そう言い返すグレイだが、カイトの言いたいこともわかるのかそれ以上は追求しない。わかっているのだ。決意を決めた大魔闘演武への出場、その期限は移動を排しても残り5日。そんな短い間にどれだけ修行を重ねようとも追いつけないことを。
「むうう‼︎今からでも遅くない‼︎残り5日間で地獄の特訓だ‼︎おまえら全員覚悟を決めろ‼︎寝るひまはないぞ‼︎」
「ひええ〜‼︎」
「あー、意気込んでいるところ悪いんだけどさ、エルザ。実はちょっと野暮用があるんだよねぇ」
「ん?なんだ、行けばいいだろう?」
「そうなんだけど………うーん、まぁ、みんなついて来ておくれよ」
「オイ、行き先だけ教えろ。絶対にお前は先にいくな」
そう言って向かった先は先日と同じ西の森。そうして再会を果たすジェラールとエルザ。ようやく話の通じる相手が来たと、ウルティアは内心ガッツポーズを決めていた。
「って言うか、先に教えりゃよかったじゃねぇか」
「カッカッカ♪サプライズだよ、サプライズ♪」
吸血という対価をもらった以上無碍にはできず、こうして案内したカイト。その頬には遠回しな事をした制裁なのか、くっきりと拳がめり込んだ痕があった。
それはさておき。
ジェラールたちがエルザたちを集めたのは再会を喜び合うわけではない。依頼があるからだ。それは大魔闘演武開催中に感じる妙な魔力、その正体を突き止めて欲しいと言うもの。
ゼレフにも似た妙な魔力は毎年開催中に感じられており、その不信感に煽られての依頼。本来であればジェラールたち魔女の罪が独自に動きたいところではあるが、当然警備は厳しく、そうでなくともお尋ね者の彼らがそう気安く街を歩けるわけがない。
雲を掴むような話だがエルザはこれを承諾。報酬として用意されたのは能力の底上げ。魔導士の中に眠る普段使いの魔力の器とは違う
渡りに船とはこの事で早速一番槍に名乗り出たのはナツ。身体に魔法陣を描かれ、そしてーーー
「か………は………がっ‼︎」
白目を剥いていっそこれから死んでしまうのでないのかと思うほど苦しみの最中にいた。潜在能力を引き出すというのは簡単ではなく、その身に掛かる負担と苦痛は想像を絶する。
「私たちも、アレ………やるの?」
「泣きそうです」
「カッカッカ♪まぁ、頑張って」
魔法を2つに分けて扱っているカイト。誰に言われずとも既に第二魔法源は会得済みであり、心の中で安堵を溢す。声援を送ることしかできないのが心苦しいが、そう言ったところで何の励ましにならないことは知っている。
そうして全員に魔法陣が描き終わり、悲鳴と苦痛の声が何重にも重なる頃には陽は沈み月が顔を出す時刻へと。一箇所に長居することのできないジェラールたちとはここで別れることに。
「お陰様でみんな動けそうにない」
「何でアンタは平気なの?」
「カッカッカ♪エルザだからねぇ」
間違いなくエルザにも描かれていたはずの魔法陣。それが1時間も経たずに消えてしまったのだ。第二魔法源の会得は問題なく、流石はエルザだと賞賛と皮肉をひとつ。
「大魔闘演武の謎の魔力の件、何かわかったら鳩で報告して」
「了解した」
「競技の方も陰ながら応援してるから頑張ってちょうだい」
「本当は観に行きたいんだけどね」
「おや、なら変装でもするかい?」
「やめておくよ。………それじゃあ、また会おう」
「バイバーイ」
「みんなによろしくね」
そう言って森の奥へと去ってしまうジェラールたち。名残惜しそうに見つめるエルザの視線を振り切るかのように歩みを進めるジェラールに迷いはないらしい。
(婚約者、か………相変わらずウソが下手な奴だ)
それはジェラール本人から聞いた言葉。だが、それをウソだとエルザは見抜いていた。そうまでして共に歩む事を拒まれた、とは思っていない。だが、本人が数々の罪を背負いそう決断したのであればエルザが口を挟む事ではないのだ。
今はただ記憶を取り戻し、贖罪に励んでいる。それだけでいいのだと、薄く笑う。
「おや、エルザ。やっぱり久しぶりの再会は嬉しかったようだねぇ」
「当たり前だ。………ところで、何を書いている?」
「ああ、これ?」
なにやらゴソゴソと書いていると思っていれば、カイトが取り出したのは一冊のノート。見出しには“エルザ、涙の失恋⁉︎”と描かれており、ゴシップのような話と涙するエルザとジェラールの後ろ姿の簡易的な絵が描かれていた。
何の事はない、カイト自身が人の心を学ぶために書いた自作のノートだ。これまで体験した中でわからない事などをまとめ、読み返したり意見を聞いたりしているのだ。
しかし、この場では悪手。最大のぽかである。見出しを読んだ瞬間にノータイムで繰り出される拳。そのまま仰向けに倒れるカイトのマウントを取ると、休む間もなく殴り続けた。
「ちょ、まっ‼︎エル、ぶっ⁉︎べつ、にぎっ‼︎あおっ、てば‼︎なぶ⁉︎」
そのまま薄れゆく意識の中、理不尽だと嘆くカイト。1番泣きたいのはジェラールとの会話を盗み聞きされ、それを記録に残されたエルザなのだが。
人の恋、悪魔は知らず。そんな言葉が生まれそうなくらいには疎いカイトなのであった。