FAIRY TAIL 〜Those called clowns〜 作:桜大好き野郎
フィオーレ王国首都、クロッカス。
花咲く都とも謳われるこの街はいつも以上の盛り上がりを見せていた。何せ大陸一の魔導士ギルドを決めるのだから、出場するギルドはもちろん、それを目当てにする観光客も多い。
そんな周囲からの視線を集める街中のカイト。注がれる視線に好意的なものはなく、嘲笑や侮蔑が含まれたものばかり。
無理もない。大魔闘演武が開催されてから現在、フェアリーテイルは良い戦績を上げれていないのだから。一頻り笑った後は今年は
自身だけてなくギルド全体が笑われてるとなると腹が立つが、ここで手を出しては大魔闘演武に参加どころか名声が更に損なわれてしまう。どうにもできないもどかしさをため息に変えて溢していた。
「やっぱ剣咬の虎だろ‼︎なんたってあのスティングとローグが………うをっ⁉︎」
「いやいや、今年は蛇姫の鱗からはジュラが………いぃっ⁉︎」
民衆の中でも一際声の大きかった2人組の男たち。そのどちらもが突然転んでしまい顔から地面にダイブを決め込んでしまった。
無論、犯人はカイトである。足元の影を操って犯行に及んだカイト。あからさまに手を出せば怒られるが、大人しく静観するほどお人よしではない。素知らぬ顔で現場を離れるカイトだが、限界を感じたのだろう。気持ちとは裏腹に透き通る空を見上げ、忌々しくも呟く。
「………さてさて、ここはどこだろうねぇ」
人通りの激しい大通り、沢山の視線を浴びながら絶賛迷子中のカイトであった。
なんとか開催前日までに到着することのできた海修行のメンバーたち。ひとチーム5人+リザーブ1人の計6人での出場となっており、フェアリーテイルからはナツ、グレイ、エルザ、ルーシィ、ウェンディの5人がメイン、カイトはリザーブ枠として参加することとなっている。他でもないジェラールからの依頼のためだ。
メインの5人は本日の日付が変わる前に指定された宿に待機していなければならず、それまでに集合していなければ失格。なので制限のないカイトは早速調査にあたったのだが、ものの見事に迷ってしまったのだ。
戻れば確実にエルザからの大目玉なので気後れするが、制限がないとはいえこのまま戻らない選択肢が取れるはずもない。
「あら、カイト。どうしたの、こんなところで?」
さて、どうしたものかと考えていれば背後からかけられた声。振り返れば他でもない、ミラジェーンがそこにいた。フェアリーテイル所属と言えどその美貌は周囲の視線を釘付けにしているが、慣れているとばかりに動揺している様子はない。
自分の時とは大違いだと内心嘲笑しながら、カイトはいつも通りの胡散臭い笑みの仮面を被った。
「おや、ミラちゃん。君の方こそどうしたんだい?おじいちゃんからまだ到着してないって聞いていたけど?」
「ついさっき着いたのよ。久々の王都だから散歩中なの」
「そうなんだ♪」
交わす言葉は少なく、互いに笑みを浮かべるだけ。けれどそこから動こうともしない。3ヶ月前、もっと言えば7年前の天狼島の方が尾を引いているのだ。
カイトとしてはあそこまで好意を向けられた経験がなく、また返事も保留中なのでどうしていいかわからず、頭の中で解決策を模索。そのどれもが上手くいかず、最悪地面のシミとなる結末になってしまうために余計に動けない。
ミラジェーンとしては恋心を自覚して告白したのはいいものの、是にしろ否にしろ受け止める覚悟ができていない。それも、期間が空いたのだから余計に。この3ヶ月どれだけリサーナに発破をかけられたことか。その度に顔を赤くしたり、聞こえないふりをしていたのだが、今回ばかりは違う。いい加減に進むべきなのだ。
「んんっ!カイト、この後暇かしら?」
「あー………そうだねぇ。やる事もないし、後は応援の準備だけだよ♪」
「ならよかった。それなら、デートしましょ」
そう言って差し出された手に一瞬、カイトの身体が硬直する。デートというものは知識としては知っているし、街中や依頼の道中で見かけたこともある。しかし当然ながら自身にそのような経験はなく、故に作戦が立てづらい。
どこに案内すればいいのか、何をすればいいのか、どうすればいいのかがわからないのだ。
返答に困るカイト。受けるにしろ拒否するにしろ行き先は地獄。最悪は今日が命日になるかもと恐れていた。女性が男性に気に入らないとビンタを喰らうシーンを半端に見たことがあるからこそのぶっ飛んだ発想なのだが、さておき。
だが、そんな逡巡も一瞬のこと。手を取らないことに不安を覚えたミラジェーンの悲しげな瞳を見た刹那、一も二もなくその手を掴んでいた。
「俺で良ければ、喜んでだよ♪」
途端に営業用ではなく、本心からの笑みを浮かべるミラジェーン。対照的にカイトの内心は大荒れだ。何の考えもなく、反射的にしてしまったのだから後には引けない。王都の地理にも店にも詳しくないが、とにかく考える時間が欲しいと取り敢えずは近場のレストランへ。
王都の通りを眺める事のできる2階建てのレストラン。そのテラス席に座り、その隣で兄弟子のリオンに絡むグレイと、そんなものは無視して意中のジュビアに絡むリオン、そして私にも絡んで欲しいとグレイに絡むジュビアという面白い席があるというのに、緊張のあまりそちらに気づきもしない。
この3ヶ月に何があったのか、どんなことをしたのか。そんな談笑と共に昼食に舌鼓を打つも、カイトの背中には冷や汗が伝っていた。
(もうすぐランチも終わり。さて、この後はどうする?ミラちゃんは散歩していたと言ってたけど……………取り敢えずは散策するとして、買い物か?いっそ、このまま解散は………ダメだ、殴られる未来しか見えない。と言うより隣が煩くて纏まらない‼︎)
どこのどいつだ、と心の中で悪態を吐きながらも笑顔の仮面を外すことはない。身に染みた癖であり、カイトなりの処方術である。だが、長年付き添っているミラジェーンには見え透いていた。
(やっぱり突然デートに誘うのは不味かったかしら………。でも、いい加減に前に進まないと。これ以上リサーナに弄られるのは嫌だもの。これからどうしようかしら………お買い物はカイトは興味ないだろうし、演劇やサーカスは今の時間どこもやってない。このまま散歩が無難かもしれないけど………ああ、ダメ。隣がうるさくて考えが纏まらないわ)
こちらもこちらで隣に悪態を吐きつつも、笑顔は崩さない。頭の中は反比例するように大荒れなのだが、そんなものは噯にも出さない。看板娘の称号は伊達ではないのだ。
そんな愉快とも物々しいとも取れる雰囲気の中、ちらりと視界の端で捉えた人物にカイトは好機を見出す。
「ミラちゃん、悪いけどお手洗いに行ってくるね」
「えぇ、いってらっしゃい」
席を立つと同時に足早に目的の人物に近づく。都合のいいことに1人だった彼の襟首を掴むと「メェン⁉︎」という声と共にトイレへと。
「ゴホッ‼︎ひ、久しぶりの再会には激しすぎやしないか、友よ」
「ごめんよ、一夜。けど、緊急事態なんだ」
連れ込んだのは一夜。カイトにとってギルド外の信頼できる人間の1人であり、友と呼べる1人だ。7年の時を経て更にイケメンに磨きがかかったと内心思いながらも、真剣な眼差しのカイトを見て一夜も襟を正す。
「む?何かあったのかね?」
「うん、実はね………その………」
「…………いや、友よ。言葉など不要だ。ズバリ、君は今デートプランに迷っているのだろう?」
カイトの内心を言い当てた一夜に言葉なく驚く。その表情に満足いったのか得意げな一夜。青い天馬のエースであり、外はともかくギルド内では誰しもが尊敬する兄貴分。数々のおすすめスポットを知り、数多の恋に敗れてきた男は伊達ではない。
前髪を掻き上げながら渾身のポーズを決める一夜。関心と尊敬の拍手がカイトから送られるが、側から見れば異様である。
「ふっふっふっ。私ほどになればそれくらい造作もないさ」
「すごい、流石は一夜だね。じゃあ、どうすればいいかな?」
「残念だが、友よ。恋にマニュアルなんてものはない。よって、君に送るアドバイスはひとつしかない」
ビシッと刺された指と真剣な眼差しがカイトを貫く。姿勢を正し生唾を飲みながら言葉を待つカイト。そうしてゆっくりと一夜が口を開いた。
「まずはデートを楽しむことだ‼︎」
「…………はい??」
「わかるとも。相手を喜ばすにはどうすれば良いか、楽しませるにはどするか悩むものだろう。しかーし‼︎その焦りや緊張は相手に伝わってしまう‼︎それでは本末転倒、楽しいデートになるはずもない‼︎」
「なる、ほど………?」
「よって‼︎君がすべきことはひとつ‼︎今このデートを楽しむことだ‼︎デートプランを練るなどその後‼︎今の君には100年早い‼︎」
力説する一夜だが、カイトは完全に置いてけぼりだ。理解ができていないどころか、脳が処理しきれていない。そんなカイトの肩にポンと手を置いた一夜は満足げに頷くと親指を立てる。
「応援しているぞ、友よ。さぁ、行ってくるのだ‼︎」
「ちょ、一夜⁉︎」
そのままぐいぐいとトイレから押し出されたかと思えばドアは閉められ退路を絶たれる。アドバイスにもならないアドバイスを貰い、少しだけ一夜の事が嫌いだと愚痴るカイト。第一、デートを楽しむなどどうすればいいと言うのだ。
(楽しむ、ねぇ………)
納得はしてないが、確かに一理あるとため息を溢す。相手を楽しませるために、まず自身が笑顔でなくてはならない。それが道化として名を売る身としての矜持だ。
「あら、遅かったのね」
「ごめんよ、ミラちゃん。それじゃあ、行こうか」
「どこに?」
「なに、簡単な食後の散歩さ♪」
カイトにとっての楽しみなど、こうして身内と会話するくらいのものしかない。演劇やサーカスも好きではあるが、どちらが好きかと言われれば比べるまでもない。
迷いが吹っ切れたように笑うカイトに釣られて、ミラジェーンも笑う。差し出された手を掴み、大通りへと向かうのであった。
◇◆◇◆
それから散歩へと繰り出した2人。先導するのがカイトなものだから時折王国の外へと足を伸ばそうとするがそこはミラジェーンが静止する事でうまいこと回っていた。
大魔闘演武の舞台となるドムス・フラウ。フィオーレ王の居城である華灯宮メルクリアス。その他街中の大道芸や繁華街を見て回ったりと王国の散策に楽しんでいる様子。
だが、時間は有限であり陽をすっかり沈むころ。それでも明かりが灯る街中で、噴水の淵に座って2人は一息入れていた。
「ふぅ、流石に疲れたわね」
「カッカッカ、楽しめたかい?」
「ええ、もちろんよ」
手荷物は特になく、本当にただ散歩のみで過ごした今日一日。すれ違う人々に羨望と嫉妬の視線を向けられているが、世界に2人しかいないとでも言うかのごとく2人の視界には入っていない。
微笑み合い、けれど肩が触れそうで触れない距離を維持するのは見るものを安堵させ、同時に焦ったいとも思わせる。けれど、その均衡を打ち破る様に先に動いたのはミラジェーンの方だ。
「ね、ねぇ、カイト。天狼島の件、なんだけど………」
ドキリ、とカイトの作り物の心臓が跳ねた。
「その、返事をそろそろ、聞きたいわ」
恥ずかしげに、けれども視線を逸らす事なくミラジェーンの双眸がカイトを貫く。愛に疎いと宣うカイトでも、今日一日が楽しかったことは間違いない。他の誰とも違う、彼女と共にあったからこその感情も認めざるを得ない。
街明かりに照らされる薄紅色の頬が、涙を薄く溜める双眸が、弱々しく重ねられた手が、その全てがカイトを惹きつける。
これが愛と呼ばれるものなのか、それとも契約者故への感情なのか、区別はつかない。しかし、異様に乾く喉を自らの唾液で潤しながら、カイトは素直な返事を告げる。
「………ミラちゃん、おれっ………俺はーーーっ」
「こんなトコにいたのか」
ふっと、カイトの言葉を遮って現れたのはラクサス。人混みを掻き分けての登場に2人は思わず飛び退き、最初よりも距離を広げてしまった。カイトに至っては噴水に落ちる始末である。
そんな2人の行動に疑問符を浮かべ、そしてラクサスは答えを導き出した。
「…………スマネェ、邪魔したな」
「待って‼︎この状況で帰らないで‼︎」
気を利かせて踵を返すラクサスをミラジェーンが必死に繋ぎ止める。ここでラクサスがいなくなった所で恥ずかしさが増すだけであり、同じ雰囲気になる保証はない。
襟首を掴まれて顔を青くするラクサスの後ろ姿を、冷えた事で過去を振り返ってしまったのだろう。羞恥で顔を両手で覆うカイトが噴水から起き上がった。
「あー………んんっ!ラクサス、どうかしたのかい?何か用事でも?」
「ゲホッゲホッ‼︎いや、まだ時間はあるんだ。10分そこらなら大丈夫なんだが………」
「うん、その気遣いはいらないよ。頼むから行かないでおくれ」
ラクサスとしては幼い頃からの仲である2人がいい雰囲気なのは応援したいと思っているし、軽率に邪魔してしまったことは後悔している。だが、当の本人たちからそうまで言われてしまっては仕方がない。
ミラジェーンに絞められた襟元を戻しつつ、伝言を告げる。
「オレとミラ、あと他に3人。大魔闘演武に出ることになった」
「あれ?出場はナツたちに任せるはずじゃなかったの?」
「ああ。だからうちからは2チーム出場するんだよ」
確かに、大会のルールにはひとつのギルドにつきひとチームとは記載されていない。たが、それはそれでありなのかと考えてしまう。最悪同ギルドでの潰し合いもあるのではないか?と考えるが、ことフェアリーテイルに至ってはそれはないかと考察する。むしろ、ナツ辺りなら闘志を燃やしそうだ。
「カイト、お前はお前でやることがあるみてェだが、試合は見逃すンじゃねェぞ」
「無論だとも♪それならそろそろ指定の宿に戻らないとだね♪ほら、ミラちゃん。恥ずかしがってないで立って」
ラクサスを放した後、恥ずかしさのあまり両手で顔を覆って地面に伏していたミラジェーン。それを強制的に立ち上がらせるとそのままラクサスへと。
怪訝な顔をするラクサスにひらひらと手を振って噴水の向こうの広場を指差す。それだけで調査を再開するのだろうと察したラクサスは「迷ったら必ず誰かに案内してもらえよ」とだけ告げると、ミラジェーンの手を引いて人混みの方へと姿を消す。
見えなくなるまでそれを見送ると、安堵のため息をひとつ。そして同時に後悔の念が込み上げる。
「何をやってるんだろうねぇ………」
街の灯りで見えない星空を仰ぎながら溢す独り言。
ミラジェーンが自身に好意を抱いていることは、言われずとも知っている。だが、それに応えるわけにはいかないのだ。
何せ自身は人でなし。どれだけ願おうと覆すことのできない人外。この先待ち受けているであろう彼女の輝かしい人生に、影を刺すわけにはいかないのだ。化物は、1人寂しく朽ちていくのがお似合いだ。
だと言うのに、自身は今その思いに反して気持ちに応えようとしてしまった。それが情けなくて、今一度自身に言い聞かせる。己は化物なのだと、人と分かり合えて隣に立つことはできても、共に生きることはできない日陰者なのだと。
奇しくもジェラールがエルザを振ったことをきっかけとした、カイトなりの答え。それでもまだ結論を出して日が浅く、未だ胸に燻るものはある。
「はぁ………調査再開といきますか」
これ以上考えても坩堝に嵌るだけだと悟り、意識はジェラールの依頼へと。しかし、こうも街中に魔導師が多くては魔力の流れも何も掴めたものではない。
足元から鴉を飛ばし、カイト自身は噴水の淵へと再び座る。怪しい人でも見つかれば僥倖だと視界を共有する。
暫くして、王城近くを飛ぶ鴉の視界に何かが映った。一瞬のことで見逃しそうになるが、拭えぬ違和感に鴉を急接近させれば2つの倒れ伏す影が。
「ッ‼︎ウェンディちゃん⁉︎」
『大魔闘演武にお集まりのギルドのみなさん、おはようございます。これより、参加チーム113を8つに絞るため予選を開始しま〜す』
思わず叫ぶカイトに合わせて12時を告げる鐘が鳴る。それと同時に街の中心に現れたカボチャを被った道化のようなマスコットの巨大立体映像が現れ、大魔闘演武の開始が宣言されるのであった。
なんとか年内に投稿できた
皆様の感想やお気に入り、プレビューのお陰で続いております
拙い作品ではございますが、来年もよろしくお願いします