FAIRY TAIL 〜Those called clowns〜 作:桜大好き野郎
大魔闘演武最終日。全員参加のバトルロワイヤルは白熱を極めていた。優勝候補の剣咬の虎はルーファスがグレイに敗れ、オルガもジュラに倒されるという大番狂せ。残るローグはガジルと戦い、ミネルバはカグラとエルザとの三つ巴の戦いを。
街を舞台とした各所で目が離せない状況の中、ひとつだけブーイングの出ている一戦が。
「待てぇ‼︎」
「カッカッカ♪さぁさ、鬼さんこちら♪」
何を隠そうカイトとシェリアである。接敵してから今まで逃げの一手ばかりのカイト。魔力切れを狙ってかと予想され卑怯だとか正々堂々と戦えと野次が飛ぶ。
無論、フェアリーテイルからもフォローはない。アレはあまりにも酷い。相手しているシェリアに同情の声すらあがる。マカロフに至っては顔を手で覆う始末だ。
「3代目………」
「言わんでください………」
作戦が崩壊して責任から涙していたメイビスもこれには真顔。どう言う教育をしているのだとマカロフを見つめていた。
会場全体が敵に回すような振る舞いをみせるカイトではあるが、何も考えなしの動きではない。共有している偽物の視界からこちらに向かう人物を見ての時間稼ぎだ。
「苦戦しているようだな、シェリア」
「なァに遊んでんだよ、オメェは」
「リオン‼︎」
「やぁ、グレイ。思ったよりも早かったねぇ♪」
橋の中央にて対峙する互いの奥から現れるリオンとグレイ。ルーファスという強敵を倒した後で疲労が残るが、兄弟子と戦うことに比べればなんて事はない。その瞳の奥で闘志を燃やしていた。同じくリオンも闘志を燃やしているが、その理由は弟子対決だけではない。
「グレイ。この勝負、勝った方がジュビアに告白する権利をやろう」
「勝手にしろよ‼︎」
「いい加減目を冷ましてよ、リオン……」
そうなのである。ジュビアに絶賛ご執心中のリオン。その恋路にグレイは最大の壁となると思い、別の対抗心を燃やしているのだ。そろそろ現実を見て欲しいシェリアが呆れるが、振り回されるグレイからすればたまったものではない。ジュビアとリオンがくっつくのは面白くないが、それはそれとして巻き込むなと声を大にしていいたいのである。
そんな3人のコントのような会話を他所に、カイトは遠く空を見つめる。そうして何か思いついたように頷くと、その手をグレイの肩に乗せた。
「カッカッカ♪よし、君たちの邪魔になるのはよくないし、俺はこの場で退散させてもらうとするよ。グレイ、後は頼んだよ♪」
「はぁ⁉︎」
カイトの言葉は敵前逃亡の宣言であり、到底グレイは納得できない。恋心に振り回されているとはいえリオンは間違いなく強敵。それにシェリアも加えるとなると少しでも頭数は欲しいところなのだ。
抗議の言葉を出そうにも、既にカイトは足早にその場を去ろうとしていた。
「っ‼︎させない‼︎天神の北風‼︎」
逃してなるものかと両手に黒い風を纏うシェリアが突撃。逃走に意識が向いていたカイトにその暴風が直撃する、その刹那であった。
「「「「は??」」」」
その場にいた全員の言葉が一致する。何せシェリアの攻撃をくらったのは他でもない、別の場所にいたはずのエルザ。突然のことで動揺し直撃を受けたエルザは吹き飛ぶ。
そして全員が呆気に取られている中、状況と元凶を把握したのだろう。ゆっくりと立ち上がるエルザが眼前のシェリアを睨む。
「ほう?」
「ヒィッ‼︎⁉︎」
悪魔さえ裸足で逃げ出すような殺気と怒りを隠さず。睨まれたシェリアの悲鳴が聞こえるが、誰も彼女を責められない。直接向けていられなかろうと、画面越しだろうと、皆の気持ちは一緒だからだ。
「………グレイ、速攻で倒すぞ」
「お、おう」
短く、要点だけ伝えられたグレイだが、恐らく自身の出る幕は少ないだろうと察する。宣言通り、速攻で片付けるつもりだ。そして、速攻でカイトに制裁を喰らわせるつもりだ。
完全ブチギレのエルザに反抗するつもりはなく、そして完全に自業自得のカイトを庇い立てするつもりもない。
「くっ‼︎シェリア、構えろ‼︎」
「う、うん」
元より油断も慢心もしていないが、それでもより一層気を引き締めてリオンは構える。同じく構えたシェリア。その2人をターゲットとしてエルザは剣を片手に飛びかかる。
カグラとの一戦で既にボロボロではあるが、そんなものを感じさせない動きは敵からすれば恐怖であり、この後暫くシェリアは悪夢に魘されるのであった。
◇◆◇◆
一方その頃、ミネルバも同じく憤怒していた。
カグラをミリアーナという人質で焚き付けてエルザと一騎打ち。そして残った方を自身の手で倒すという計画であったが、それを崩されたのだから。
「誰じゃ、貴様は。エルザをどこへやった?」
「カッカッカ♪エルザと戦いたいなら、まず俺を倒してもらわなきゃねぇ………なんて。そんな資格はないんだけどさ」
ミネルバの睨む先、先ほどまでエルザのいた場所に佇むカイト。隙をついてカグラを倒し、そして人質のミリアーナも戯れに倒し、残るは満身創痍のエルザというところで掻っ攫われたのだ。
鳶に油揚げをさらわれたような気持ちになりながらも取り乱さないのは強者故のプライド。それにおどけるカイトを倒してすぐに居場所を吐かせれば問題ないとも考えていた。
「そうか。では、死ね」
簡潔にそう言葉を吐くと右手から繰り出される魔法。空間そのものを書き換える魔法
案の定直撃を許したカイトは爆発に呑まれ、そのまま倒れてしまう。興が削がれたとばかりに見下して、早くエルザを追いかけねばと脚を進めた瞬間だった。
「おや、どこへ行く気だい?」
「ッ‼︎」
背後からの声にすぐさま反応。振り返りざまに魔法を放とうとするが、その直前に腕を掴まれ不発に終わる。ミネルバの眼前に広がるのは胡散臭い、いっそのこと恐怖を覚えるような貼り付けた笑みを携えたカイト。カラカラと笑うカイトはそのまま手を離すと同時に大きく後退。ミネルバの蹴りを躱していた。
「貴様ッ………‼︎」
「カッカッカ、怖い怖い♪」
ミネルバの睨みも何のその。へらへらと笑うカイトは指をひとつ鳴らすと周囲に展開される影の拳。その一部がすぐさま爆破されるが気にもせず、下手人のミネルバを見据える。
「さぁてさて、君には直接的な借りはないけど、ギルドとしてはいくつかあるからねぇ。疲労困憊のエルザに変わって、俺がお相手させてもらうよ」
「ふん。名も知らぬ下っ端が、妾の邪魔をするでない」
「おや、そう言えば名乗っていなかったねぇ」
エルザやラクサス、ミラジェーンと違い、道化としてはともかく、カイト本人の名は広く名を知られているわけではない。本人がメディアを嫌うのもあり、取材の際に逃亡しているからである。一度だけ週間ソーサラーのジェイソンが運良く接触できたが、せいぜいギルドの厨房担当にしか思われていない。
故に、こういったことはままあることであり、気を悪くすることもなく、態とらしく恭しい礼を見せたカイトは名を名乗る。
「初めまして、剣咬の虎のミネルバ。俺の名はカイト。フェアリーテイルの一員であり、そしてーーー君を倒す者の名だよ」
言葉の途中、指を再び鳴らすと展開していた影の手が引っ込み、代わりに背後に一対の巨腕と何十匹もの影犬が現れる。喉を鳴らし、牙を向き、今にも飛びかからんとする犬たちと、その絶対的な存在感を放つ双腕。
それを見たミネルバは怒りも怯えもなく、腹を抱えての呵呵大笑。あまりの大それたそれに怒りが一周したのだ。
「妾を倒す、じゃと?はははは‼︎中々に面白い事を言う。貴様、妾が道化として雇ってやろうか?」
「嬉しいお誘いだけど、俺が骨を埋めるのは今のギルドだと決めてるからねぇ」
「そうか、まぁよい。所詮は気まぐれよ」
目尻の涙を指で拭うと、ミネルバはカイトを睨みつける。負けるはずがないという自信を折る事に快感を覚えるタイプがいるが、カイトはそれに当てはまらない。ただ人外としてのプライドが不愉快に逆撫でされるだけだ。
背後の双腕と周囲の犬たちに言葉なくとも指で指示を。怒涛の嵐のような攻撃を前に、ミネルバは笑みを浮かべた。
「その程度‼︎」
両腕を振って繰り出す魔法。水中などの特殊な条件下でしか目視不可能なそれは厄介極まりない。ミネルバは目の前の空間を一振りで薙ぎ払うと瞬間、カイトの攻撃が掻き消える。
消されたわけではない、転移したのだ。それを証拠に次の瞬間には頭上から先ほど消えた攻撃がカイトへと群がる。さして驚くこともなく魔法を解除すれば、目の前にいたミネルバが消えている。
どこだ、と探すよりも早くカイトの背後に現れたミネルバの蹴りが脇腹を捉えた。けれども、攻撃が当たった瞬間にカイトの姿は蝶の群れへと変わり、爆発を起こす。
息を吐く暇もない攻撃の応酬。それを見ていた観客も息を吐くことも忘れ、その結果に見入っていた。
爆風が晴れれば姿を表すミネルバ。その身体に傷はひとつもなく、寸前で魔法で周囲の空間を固定して壁にしていたのだ。同じくカイトも影の中から姿を表すと、思いの外善戦するミネルバが意外だったのか肩を竦める。
「チッ、面倒な………」
「カッカッカ♪こっちのセリフだよ」
片や空間を自在に操る魔法。片や空間を舞台に様々な物を生み出す魔法。同じ空間に作用する魔法同士、決着は付きづらい。勝敗を決めるのは間違いなく、貪欲なまでの勝利を渇望する方だ。
「さて、次の幕へと移ろう」
またもや指を鳴らすカイト。何か来るのかと身構えるミネルバだが目に見えた変化はない。足元の影も周囲の空間も、変わった様子はない。それを見てカイトはほくそ笑む。
「そう言えば聞いておきたいんだけど、街に展開した囮の数はわかるかい?」
「知るわけなかろう」
「カッカッカ、少しは考えて欲しいところだよ………」
攻撃が来ないと判断したミネルバが魔法を飛ばしながら接近する。飛んでくるのは爆発だったり、鉛のような重い一撃であったりと様々。そして本人の体術も相当なもので躱し切れなかった手足がカイトの身体を掠めていた。
なるほど、最強のギルドを唄い、その中でもトップに君臨するだけのことはあると関心しながらも影の中を潜り距離を取ったカイトは壁を背にして立つ。
「正解は500体。そのうちの50体は破壊されて、200体は解除。さて、監視用に残した250体の行方はどこだと思う?」
「ハッ!貴様程度、数が集まろうと何の問題もないわ‼︎」
「だろうね。だから、形は変えさせてもらうよ」
『おおーっと、アレはなんだァ⁉︎』
実況のチャパティの声がその場にいるカイトたちにまで響く。それほどの驚愕を与えられたことに満足する反面、あまりバラさないで欲しいとも思う。
会場にてカイトたちの戦闘が映される中、その視点が上空へと切り替わりその驚愕の正体を映し出す。それは監視用に残っていた250もの囮たちが我先にと街中を颯爽しながら本体の元へと向かう光景。暫くすれば先頭集団が液状に変化し、続くように後続もその姿を液体へと変わる。そして完全に液体に変わると黒い濁流は全て合流し、地面へと飲み込まれた。
「さぁ、呑み込め。
瞬間、カイトの足元から吹き出すのは先ほど消えた筈の影の濁流。津波さながらの物量攻撃をミネルバは受け止めることは出来ない。正確には空間を固定して防ぐことは可能なのだが、それをすれば周囲を影で囲まれた手出しが出来なくなる詰みの状態となってしまう。
前方の瓦礫が呑まれ、刻一刻とミネルバへと波が襲いかかる。そして飛沫を上げて飲み込めば後に残るのは黒い水溜り。その上に立つカイトは余裕の笑みを浮かべながらも警戒は解かない。中の様子は目視できないとはいえ、元は己の影だ。何を飲み込んだのかは感覚でわかる。
「そこ」
波の一部が槍となり、空中へと飛ぶ。瞬間、狙い澄ましたかのように現れたミネルバは攻撃を防ぐとお返しとばかりに掌をカイトへと向ける。そこから放たれるのは魔力の奔流。絶対領域で指向性を持たせた攻撃は防ごうとしたカイトの影を突き破り直撃。吹き飛ばされるカイトだったが、その動きが止まる。
「ッ‼︎やられた……ッ‼︎」
「喰らうがよい‼︎ャクド・リゴォラ‼︎」
空間に固定されたカイト。その隙を狙って発動されたのはヤクマ族に伝わる十八種の危険な魔法のうちのひとつ。対象の足元から巨大な石像を出現させてぶつけるという単純故に強力な質量攻撃。
空間自体が軋み、回避も許されない攻撃は過不足なくカイトを捉えその身が天高く舞う。未だ身動きの取れない空中のカイトを今度はミネルバが襲う。
「妾は最強のギルド、剣咬の虎‼︎木っ端ギルド如き、頭が高い‼︎」
カイトの飛ぶ先へと転移したミネルバ。振り上げた脚を思い切り叩きつけカイトを地面へと送り返す。
そのまま飛沫を上げて影の海に沈むカイト。しかし、その海が縮小し人1人分程の大きさとなると再び弾き出されるようにして現れる。ダメージにより魔法の維持が難しくなったのだ。
傷は再生されるとはいえその分魔力を消耗するし、疲労も残る。分かっていたとはいえ一筋縄で行かない事に辟易とする。
「最強最強って………君の言う最強っていうのは他を排してその頂点に君臨することかい?」
「それ以外何があると言う?」
「カッカッカ、なんともまぁくだらないねぇ」
上空からの攻撃を影で防ぎつつそう問い掛ければ返ってくる答え。予想通りの答えにくだらないと吐き捨てた。
それが逆鱗に触れたのか、さらに激しくなる攻撃。流石に影で防ぐのも難しくなり、防ぎきれなかった攻撃が徐々にカイトへと当たる。それでもカイトは嘲笑をやめない。空中にいるミネルバを見下し、身振り手振りで嘲笑う。
「いや、いっそのこと哀れだねぇ。他を排して排して、その末に手に入れた空っぽの玉座の上でふんぞり返っているのだから。俺よりも道化師としての才能あるよ」
「ッ‼︎黙れッ‼︎」
ミネルバの対空時間はとうに終わっているが、建物の上に降り立ち有意な状況を崩さない。最早豪雨のごとき攻撃を防ぐ事を諦めたのかカイトは両手を広げて攻撃を受け入れる。
「おや、図星を突かれたかな?カッカッカ、王者の貫禄なんて見る影もない、裸の王様の方がお似合いだよ♪」
「黙れ‼︎妾が、妾こそがっ‼︎最強のギルドに君臨する者ぞ‼︎その口を閉じよ‼︎」
幼い頃から実父でありマスターのジエンマから最強であれと教育されたミネルバ。その指導ははっきり言って虐待であり、モンスター蔓延る夜の森に全裸で放り出すほど。それ故に彼女は人一倍最強にこだわる。最強でなければまた辛い目に合うのだと、心の底で恐怖しているのだ。
しかし、カイトからすれば知ったことではなく、仮にその過去を知っていても傷口に塩を塗って瘡蓋を剥がす真似をするだろう。人の感情の機微に疎いのもあるが、激情に駆られた人間の行動の方が読みやすいからだ。
「その小賢しい口と共に消えよ‼︎」
次々と再生するカイトに無駄だと諦めたのか、今日1番の魔法を繰り出すミネルバ。奇しくもジエンマと同じように、魔力をものを言わせた破壊の魔法。濃密な魔力の濁流は直線上の瓦礫を消し飛ばしカイトへと向かう。
『直撃ーっ‼︎ミネルバ選手の攻撃が間違いなくカイト選手へと突き刺さったー‼︎砂煙で確認出来ませんがこれは………おや?』
実況のチャパティの言葉通り、ミネルバの攻撃はカイトへと直撃した。砂塵舞う中流石に疲弊を隠せずに肩で息をするミネルバだが、その煙が晴れた瞬間目を見開く。
「
『な、なんと‼︎カイト選手、あの攻撃を防ぎ切っていた‼︎これは勝敗に予想がつかないぞ‼︎』
『うーん、どちらも魔力の消費が激スいから決着は着くと思うがね』
『どっちも頑張れカポー‼︎』
実況の言葉通り、ミネルバの攻撃を防ぎ切ったカイト。かつてはアクノロギアに破られた魔法であるが、それは相手が異常なだけであり大抵の魔法なら防ぐことのできる魔法。しかし、解説のヤジマの言う通り魔力消費も激しく、短期決戦を挑むしかない。
混沌魔法を使えない縛りを考えると影魔法となるが相手に上を取られている以上効果は薄い。ならばこれしかないかと腹を括り、カイトはひとつの魔法を発動する。
「さぁさ、ご照覧あれ。これなるは光の魔法。敵を穿つ鉾にして、全てを拒絶する白き鎧」
瞬間、半身に構えたカイトの両手から溢れ出す白。それは腕を上り肩を経由して全身に広がり、カイトの髪も瞳も全て白く染め上げる。逆立つ髪はうなりをあげて天を突き、白く染まった脚を踏み込めば大地に穴が開く。
「白魔法、
刹那、驚愕に染まるミネルバの頬をカイトの拳が貫くのであった。