FAIRY TAIL 〜Those called clowns〜   作:桜大好き野郎

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推奨BGM:決戦スピリット/CHiCO



大魔闘演武−⑩

 

 

 それは3ヶ月前、海辺で修行をしている時のことだ。

 

 

「そういえば、カイトさんの魔法って混沌魔法なんですよね?」

 

「うん?そうだよ。いきなりどうしたんだい?」

 

 

 海の家でアルバイトしつつ、カイトの目の前にはいくつもの影の手が群がりそれぞれ一対の組み合わせとなるとあやとりを行っている。側から見ればかなり気味の悪い光景であるが最早見慣れてしまったウェンディはそんな事にツッコむ様子はなく、質問を続ける。

 

 

「それを分解して、影魔法と光魔法として普段は使っているんですよね?」

 

「正確にはそれぞれ黒と白に分けてだね。影魔法は数ある黒魔法のうちのひとつなんだよ」

 

「そうなんですね。私、あまりカイトさんの白魔法見た事なくて」

 

「あれ?回復魔法や防御魔法は白魔法だよ」

 

「いえ、そうじゃなくて………攻撃魔法として使っている所がないってことです」

 

 

 ウェンディの問いにあー、と声を漏らすカイト。影の操作に集中していた視線をウェンディへと向けると、困ったように笑みを浮かべた。

 

 

「いくつか理由はあるけど………第一に、光を含む白魔法は攻撃への転用が難しいんだよ」

 

「そうなんですか?でも、レオさんは普通に使ってますよ?」

 

「星霊を基準にされちゃうか………」

 

 

 いくら若く見えようとも相手は星霊。長い時間を過ごしているのだから魔法の熟練度など比べるべくもない。教育係として、そこら辺の説明もその内しなければならないだろう。

 それはさておき、咳払いひとつ溢して息を整えたカイトは説明を続ける。

 

 

「まぁ、星霊のレオは例外として………白魔法っていうのは基本的に補助魔法が多くて、攻撃魔法は一握り。そのどれもが難易度が高くて、習得が難しいんだ」

 

「なんでですか?」

 

「理由は色々あるけど、1番は操作の難しさだろうね」

 

 

 例えば光を集めて光線として攻撃する。イメージはできるが光というのはそこら辺に溢れているもの。それらが魔法の操作の邪魔をして暴発、というのよく聞く話なのだ。

 後は必要なものは適正と才能であり、魔力操作で強引に扱うカイトには持ち合わせていないものである。

 

 

「二つ目は、俺が白魔法の内、“拒”の属性を扱っているからだね」

 

「え?白魔法なんですよね?」

 

「そう。汚れることを嫌って潔白である、という拒絶の面を魔法として扱っているね。この魔法は壁を作ったり、傷の回復に特化していて、攻撃転用は難しいんだよ」

 

「でも、カイトさんの道化師さんは真っ白ですよね」

 

「ああ、アレは下地に影を纏っているんだよ」

 

 

 言葉の通り、カイトは右手に影を纏うとその上からゆっくりと白魔法を纏わせる。後は少し形を整えてやれば道化師衣装の完成だ。

 

 

「混沌魔法としてなら扱えるけど、これを纏うことは厳しいんだよ。魔法が反発しちゃうからね。まぁ、後は種族的な相性というのもあるけど」

 

 

 半分とはいえ吸血鬼のカイト。白魔法との相性は悪く、纏うとすれば間違いなく身体に影響が出るだろう。以上の理由でカイトは白魔法の攻撃転用ができないのだ。納得したのか、なるほどと頷くウェンディ。

 

 

「それで、どうしていきなりそんなことを?」

 

「あ、いえ、この魔導書に似たような部分があったので」

 

「どれどれ………あー、確かに。これはねぇーーー」

 

 

 何度も横に座って教えていたお陰か、そのくらいでは動揺することは減ったウェンディ。それでもいつもより近くなった顔との距離、そして匂いにまだ顔を赤くしてしまうのはご愛嬌である。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 ふと脳裏にそんな事を思い浮かべるカイト。あの後手札を増やす目的としてこの魔法を開発。なんとか形になったものをお披露目したのはいいものの、やはり相性が悪い。所詮は制限時間付きの身体強化。

 身体の損傷具合と残存魔力も考えれば3分前後。それまでに決着をつけねばならない。

 

 

「ッ‼︎おのれ‼︎」

 

 

 頬を穿たれたミネルバ。怯みはしたがそれも一瞬、すぐさま反撃の魔法を放とうとする。しかし、両手に魔力を込めた瞬間にはカイトの姿は消え、背後からの回し蹴りがミネルバの身体を捉えた。

 

 

「くっ‼︎」

 

「無駄だよ」

 

 

 尚も反撃に移ろうとするミネルバだが、カイトの姿を捉えられない。右から声がしたと思えば左、背後、そして正面。気がつけばありとあらゆる箇所からカイトの声が響いていた。

 

 

「この魔法はね、拒属性の特性を全面に出しているんだ。空気の抵抗を、障害物を、距離を、その全てを拒絶しているんだ」

 

 

 だからこそ当たらないのだと、翻弄される様に周囲を見渡すミネルバに告げるが諦める様子はない。いや、寧ろカイトの言葉は彼女のプライドという火に油を注いだようなもの。

 

 

「ッ‼︎その口を閉じよと、言っておろう‼︎」

 

 

 自身の被害も鑑みない、己さえ巻き込んだ周囲一帯への爆破。破壊され尽くした建造物はもはや瓦礫というよりはその成れの果てとも言った方が言い具合の損傷であり、ミネルバを中心に石畳は抉ぐれその下の土がガラスへと変化していた。

 さしものミネルバも無傷といかず満身創痍であるが心は折れていない。今の攻撃を食らったであろうカイトを探そうと、見通しの良くなった周囲を見渡す。しかし、目的の人物はすぐに見つかった。

 

 ミネルバの前方、目測15mほどの距離で右の拳を弓形に引いて構えているカイト。身体に傷ができた様子はなくその拳には光が凝縮しており、その影響なのか周囲の空間が唸りを上げていた。

 

 

「言っただろう?無駄だと」

 

「ぁ……あぁあああああッ‼︎

 

 

 ここまでして無傷の相手に心は耐えきれず、最早破れかぶれの特攻。両手に魔法を纏っているがそれが心許ないものなど本人が1番理解している。それでも何か行動しなければ本当に心が折れてしまいそうなのだ。

 

 その姿に哀れみを覚えず、優越を浸るようなこともなく、慰めの意思もなく、カイトは淡々と、機械的に魔法を放った。

 

 

拒槍(デナイアル・ハスタ)

 

 

 脚を、腰を、腕を。その全ての関節をフル稼働させて放たれた拳は凝縮された光を打ち出し、レーザーのような極光は瞬く間に直線上のものを飲み込む。光が収まれば巻き上がる砂煙、そして直線に抉れた大地の上に倒れるミネルバ。決着はついたのだ。

 

 勝利に安堵し、魔法を解くカイト。刹那、身体中を激しい痛みが襲った。

 

 

「ッ〜〜〜‼︎‼︎」

 

 

 立っていられないほどの激痛。思わずうつ伏せに倒れてしまえばより一層の痛み。相性が悪いだけあり、予想よりも重い反動。改良の余地ありと心の中に書き留める。

 

 しかし、休んでばかりもいられない。まだ一度しか姿を見せていないスティングが残っているのだ。強襲されたら負けるのは確実。早く動かねばと決意したときだった。

 

 

「ーーーーーー」

 

 

 遠くから聞こえた、声にも満たない音。けれどもカイトにはわかる。アレが到着した瞬間、待ち受けているのは自身の死であると。

 

 予想よりも早い速度に焦燥し、早く早くと意識は動こうとするのだが身体は言うことを聞かず。それに更に焦りが生まれ、ようやく動けても這う程度にしか進まない。

 

 魔法は使えない。身体は動かない。思考は整わない。そんな三重苦の中、砂煙を巻き上げて近づく人物が視界に入る。緋色の髪をたなびかせ、ボロボロの姿ながらも凛と美しく、そして憤怒に歪めた顔はより恐ろしく。

 

 

「カイトォォオォオ‼︎‼︎」

 

「ヒッ⁉︎」

 

 

 思わず悲鳴を漏らしてしまう程の恐怖。何か打開策はと頭を回転させるがそれもなし。本能が囁く、詰み(諦めろ)という言葉が重くカイトにのしかかる。そして、動けないカイト目掛けて飛んだエルザを見てどこか他人事のように「あ、終わった………」と呟いた。

 

 

『いったぁああ‼︎エルザ選手、怒りのキャラメルクラァアッチ‼︎いけー‼︎そこだー‼︎』

 

『まぁ、自業自得だスねぇ………』

 

『こ、これは放送できないカポー‼︎⁉︎』

 

 

 実況のチャパティも推しのシェリアが翻弄される姿を見て据えかねていたのだろう。私情混じりの実況に観客も賛同して盛り上がる。ヤジマの言う通り完全に自業自得のためフォローする者は誰もおらず、そのまま続く凄惨なまでのエルザの仕置きに流石にこれ以上は子供に悪影響と運営側から放送が切られた。

 

 それでも街中に聞こえるのではないかというカイトの悲鳴は、陽が傾くまで続くのであった。

 

 

◇◆◇◆

 

 

 夕焼けと夜の闇が入り混じる空の中。そこに突如として浮かび上がったのは剣咬の虎の紋章。まるでオレはここにいるぞ、とばかりに存在を知らしめるのは大会最後の生き残りであるスティング。

 

 それぞれ激戦を終えたフェアリーテイルの面々も誘われているのだと誰もが気がついていた。

 

 

「む、あそこか………カイト、行くぞ」

 

「ぐぉおぉぉぉ‼︎え、エルザ、せめて降ろしてぇぇぇ‼︎」

 

 

 アルゼンチン・バックブリーカーをかけられていたカイト。それもそうだと降ろされたはいいがダメージは深刻だ。ミネルバ戦に加えエルザに負わされた傷は塞がる様子はなく、立ち上がる姿も痛々しい。

 

 

「ん?どうした?傷は治さないのか?」

 

「治せないんだよ。魔法の副作用でね」

 

 

 強引な白魔法の運用のせいか影魔法はもちろん、吸血鬼の特性も大きく欠損してしまったカイト。一時的なものとはいえ得意の回復は行えず、夜闇に眼は効かず、身体能力も大幅に低下していた。

 

 

「なに?そうなのか?」

 

「うん、エルザ。その嬉しそうな顔はやめてね。キラキラした顔で拳を握るのはやめて」

 

 

 今なら思い切り仕置きが効くのでは?と考えたエルザが嬉々として拳を握るが流石にカイトは止める。今殴られたら再起不可能にまで追い込まれるからだ。冗談だ、と少し気落ちしたエルザに苦笑いを溢すと視線は空に浮かんだ紋章へ。

 

 さて、と一息吐くとどちらも言葉もなくスティングの元へ。道中合流したラクサス、グレイ、ガジルの3人も満身創痍であり、誰もが連戦できるような状態ではない。現在フェアリーテイルが1位ではあるが、仮にこの場の全員がスティングに倒された場合優勝は剣咬の虎。ルーシィの解放を直訴することは叶わない。

 

 それでも歩みを止める事をフェアリーテイルは知らない。最初から負けるつもりもなく、退くことも知らない面々を人によっては馬鹿だと罵るだろう。しかし、カイトはそんなフェアリーテイルが好きだ。これぞ自身が愛しく思える人間だと笑みを浮かべ目的地へ。

 

 

「壮観だね。みんな、オレが7年前憧れた魔導士ばかりだ」

 

 

 スティングが待ち構えていたのは街の外れ、街道から少し外れた林の中。確かにここならばギリギリ指定された範囲内であり、その上見つかりにくい。

 

 

「御託はいい。これが最後の戦いだ」

 

一対一(サシ)でやってやる。誰がいい」

 

「まとめてでいいさ。そのケガじゃ一対一(サシ)はつまらねぇ」

 

「カッカッカ、舐められてるねぇ」

 

「とんでもない。アンタらには敬意を払ってるよ」

 

 

 ガジルとグレイの言葉を一蹴し、カイトの言葉をも嘲笑うスティング。

 

 

「だらかこそまとめて潰す‼︎この時を待っていた‼︎レクターに見せてやるんだ、オレの強さを‼︎」

 

「なんの事か知らねぇが、本気か?」

 

「よかろう。そこまでの覚悟があるならば、相手になるぞ、スティング」

 

「そうこなくっちゃ。見せてやるぜ、覚醒したオレの力」

 

 

 そう言ったスティングの身体が光に包まれる。それは滅竜魔法の最奥ドラゴンフォース。本来であれば自属性を大量に摂取しブーストしなければ至れないのだが、自らの育ての親であり師でもあるドラゴンを自身の手で殺したスティングとローグはそれを自在に扱うことができるのだ。

 

 そうでなくともミネルバに奪われたレクターを救うために、憧れを打倒するために、最強を示すために、感情の昂るスティングはいつも以上の力を出していた。

 例え万全の状態でも苦戦してしまうような魔力量に密度。対してフェアリーテイル側は全員が激戦を経て心身共にボロボロ。誰がどうみても結果は明らかだ。

 

 

「へへ」

 

 

 勝利への確信からか、絶望した面々の姿を拝んでやろうと目を向ける。そして目を見開いた。

 

 横に並んだ全員、その誰もが絶望に浸るどころか諦めた様子もない。真っ直ぐにスティングを睨み、負ける気など微塵も感じさせない瞳には闘志が燃えていた。

 スティングの脳裏を埋め尽くすのはなぜ?という疑問。

 

 なぜ諦めない。

 

 なぜ降参しない。

 

 なぜ未だ勝てる気でいる。

 

 なぜ、なぜ、なぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜーーーー

 

 

(ッ‼︎いや、進め‼︎こいつらまとめて倒せばレクターに会えるんだ………そう、レクターに‼︎)

 

 

 優勝せねば、最強を示さねば、ミネルバからレクターは返してもらえない。レクターとの再会、その一心でここまで来たのではないか。その思いがスティングを強くし、そして前に踏み出そうとする。けれど、身体は言うことは聞かず、怯えるように脚が震える。

 

 

(オレは強くなった‼︎レクターへの思いが、オレを強く………強く………勝てる‼︎)

 

 

 そうしてようやく踏み出した一歩。けれど、同時に膝から崩れ落ちたスティングは絞り出すように声を出す。

 

 

「勝て、ない………降参、だ」

 

 

 その場を、応援席を、会場を支配する静寂。けれども点数ボードに最後の一点がフェアリーテイルに入り、夢か幻かと何度も確認。それが間違いないのだと確信すると溢れ出すのは涙と歓声。

 

 

『決着‼︎‼︎大魔闘演武、優勝はーーーフェアリーテイル‼︎‼︎』

 

 

 遠く離れた会場から郊外まで聞こえる割れんばかりの歓声。各々感情が追いつかないのかそれぞれの喜びを身体で表し、現地の面々も緊張が溶けてほっと一息。

 

 

「スティング。なぜ向かって来なかった?」

 

 

 項垂れるスティングへ問いかけるエルザ。実際、あのまま戦うことになれば十中八九スティングが勝利していたはずだ。それを投げ捨てるほどの心情が知りたかったのだ。

 

 

「…………会えない、気がした………勝てば会えると思っていたのに………なぜか、会えない気がしたんだ………」

 

 

 勝てたとしても、それは本当の勝利ではない。相手は複数とはいえ全員が吹けば倒れるほどの傷を持ち、対してこちらはほぼほぼ万全の状態。そんな中で得た勝利でどうして最強と言えようか。

 

 

「自分でもわからない。アンタたちが眩しすぎて………今のオレじゃ、会えないって………」

 

「会えるさ」

 

「エルちゃーん‼︎」

 

 

 優勝をお祝いに来たのだろう、陽気な声と共に現れたのはミリアーナ。ミネルバにやられた傷も深くなく、動ける程度に回復したミリアーナの腕に抱かれているのは一匹のネコ。眠っているようだが外傷は特になく、次第に目を覚ます。その姿を確認したスティングは息を呑むと同時に転がるように走り出した。

 

 

「レクター‼︎」

 

「スティング君‼︎スティング君‼︎‼︎」

 

「レクター‼︎ああっ‼︎」

 

 

 恥も外聞も関係ない。両目から大量の涙を流す2人は互いの存在を確かめ合うように強く抱きしめ合う。邪魔しては悪いと2人から視線を外した面々は次なる課題へと頭を切り替える。

 

 

「終わったな」

 

「そうだねぇ。大会は終わったねぇ」

 

「信号弾を見た者は?」

 

「いや」

 

「見てねえな」

 

 

 緊急時に上げられる信号弾は確認できず、ならば侵入組は無事だろうと安心はできない。ともすれば上げる暇もないほど追い詰められているかもしれないのだ。

 

 

「さてさて、無事だといいんだけどねぇ」

 

 

 カイトの言葉に5人の視線が王城へと向けられる。

 助けに向かうことは叶わず、ただ無事を祈る他ないのであった。

 

 





 祝お気に入り500件超え‼︎

 皆様に応援していただきありがたく思います。
 これからも誤字脱字も多く、更新も遅い拙作ですが、よろしくお願いします

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