FAIRY TAIL 〜Those called clowns〜 作:桜大好き野郎
「…………というわけで、大魔闘演武の余韻に浸る暇もなく大変心苦しいのだが、今この国は存亡の危機にある………とさっき聞いた」
大魔闘演武も終わり表彰式を終え、そのまま集められた場所は街の中央広場リ・イン・クリスタル。この国でも有数の敷地を誇る広場の中央にはその名の通り巨大なクリスタルが聳え立ち、その雄大さから観光スポットとして人気である。
そして、そのクリスタルを背にして演説するのはこの国の国王、トーマ・E・フィオーレその人。話によれば現在、この国に向かっている10,000ものドラゴンの大群。それを滅するために放たれるは過去と現在を繋ぐエクリプス。扉としての役割を果たすエクリプスであるが、その魔力を砲弾として扱うことも可能であり、それを用いてドラゴンを倒すというのだ。
この事は国王も初耳らしく、計画を指導していたのは娘であり王女であるヒスイ姫と防衛大臣。なんでも大魔闘演武の結果を余地した自称未来人、その言葉を信じるに値すると決めようやく計画が話されたとのこと。
「今、城では大規模な作戦が遂行されておる。エクリプス計画ーーーこの作戦の目的は10,000のドラゴンを一掃するというもの。しかし、相手は大群ゆえ、必ず数頭………あるいは数百頭かが生き残ると推測される。魔導士ギルドのみなさん、どうか私たちに力を貸してください。生き残ったドラゴンを皆さんの力で倒して欲しい。この通りです」
権力者が頭を下げる。その意味は重く、ましてやそれが国王ともなれば国が頭を下げているのと同義。だというのに国王に恥いる様子はなく、只人のように懇願していた。
それに応えないものはこの場にはおらず、そしてそうでなくとも手を貸さないという選択肢を取れるものはいなかった。
「オオッ‼︎」
「当然だ‼︎」
「怪物なんかにやられるかよっ‼︎」
「魔法と共に歩んだこの国は、オレたちの国だ‼︎‼︎」
応えるのはフェアリーテイルだけではない。予選を含め参加したギルド全てがその場に揃っていた。中でも注目されているのは大魔闘演武出場ギルド。内外問わず気合いが入っているのが見受けられる。
「カイト、ナツたちは姫と合流したらしいが、確認できるか?」
「ん、あいよ」
白魔法の反動も2時間程で治り、いつものように魔法を使えるようになったカイト。エルザに促されて鴉を一羽上空へ。居城である華灯宮メルクリアス、その屋上にある空中庭園へと移されたエクリプス付近を覗き見れば確かに。ヒスイ姫や防衛大臣、アルカディオスやその他大勢の兵士の中にルーシィ、ウェンディ、シャルル、ハッピー、リリーの姿を確認した。
捉えられている様子はなく、また険悪な雰囲気でもない。皆が一様に砲撃準備の為か稼働するエクリプスへと視線を注いでいる様子が伺える。
「うん。多少のケガはあるみたいだけど、みんな無事だよ。ただ、ナツとミラちゃんの姿が見えないねぇ」
「そちらの青年はまだ奈落宮かと思われます。女性の方は城内に姿を確認しております」
「おいおい、罪人を処刑する場所に落とされたのかい?」
「まぁ、王城への侵入は立派な犯罪だしな」
「カッカッカ、よく無事だったねぇ………うごごご」
兵士の言葉に流石だと内心で拍手をしつつ、侵入がバレてしまっていたことに絶望を。ドラゴン退治を乗り切った後、罪に問われないかが心配である。頭を抱えて悩むカイトを見て察したのだろう、隣のラクサスは慰めるように肩に手を置いた。
「ンなことより、ドラゴンだろ。アクノロギアは例外としてもいけんのか?」
「おや、グレイ。自信がないとは君らしくない」
「なんだ、お前は下がっとくか?」
「ここぞとばかりに揃って煽るんじゃねえ‼︎」
ニヤニヤと意図的に嘲笑うカイトに、ナチュラルに煽ってしまうラクサス。その2人にツッコミつつ、咳払いをひとつ。
「数頭、下手すりゃ数百頭相手にしなきゃならねぇんだ。負ける気はねェけど、万が一があるだろ?」
「カッカッカ、そりゃそうだ。けど、なんとかしなきゃいけないからねぇ。泣き言は言ってられないよ」
ドラゴンの目的はわからないが、少なくとも融和ではないのだろう。もしこの戦いに敗れたら待っているのは蹂躙。この街のみならず大陸を支配されるのも予想される。
しかし、いくら悲観しようとも抗わなければそれが現実となってしまう。作戦も何もなしにがむしゃらに戦うしかないのだ。
「それに、この場に4人。メルクリアスにいる2人も合わせれば6人もの滅竜魔導士がいるんだ。存分に活躍してもらおうじゃないか♪」
ラクサスにガジル、ナツにウェンディ、それに加えてスティングとローグ。実力も確かな豪華すぎるメンツにより一層の期待を。隣でそれを聞くラクサスは面映い気持ちになりつつ、不敵に笑う。
それもそうかと納得しつつも不安が拭えないのか頭を掻くグレイ。緊張はそこそこに、普段以上にやる気を見せる面々に感涙する国王は感謝を述べていた。
「ありがとう、ありがとう…………カポ」
一瞬、その場の空気が止まる。予期せぬところでマトーくんの正体が割れてしまったがそれはさておき。
それぞれが割り振られた地区へと散らばり、フェアリーテイルはそのまま中央広場を守護することに。時刻を告げる鐘が鳴り、日付が変わる事を知らせた。
「7月7日か………」
「確かドラゴンが消えた日だったよね」
「こんな日にドラゴンが現れる……ってのか」
何か運命的なものを感じつつ、空を見上げる。そこにある月はいつものように光を照らしておらず、影に飲まれて真っ黒に。まるでこの日を狙ったかのように起こった月蝕に不気味なものをつい覚えてしまう。
その時だった。巨大な物が動くような地鳴りがメルクリアス聞こえてきたのは。
「なんだ?」
「城の方だ」
「例のエクリプスとやらか?」
様々な憶測が飛び交う中、視線はメルクリアスへ。そして次の瞬間ーーー
「ッ‼︎よけろ‼︎」
城から放たれた地を割る衝撃波。いち早く気づいたガジルの言葉に全員が迫り来る衝撃波を躱す。
「なんだ今のは⁉︎」
「城からだぞ⁉︎」
「おい、アレ‼︎」
それに気づいたのは誰だったのか。言葉に釣られて空を見れば空中を泳ぐように飛ぶ7つの影。明らかに鳥ではなく、形は様々であるがその姿は誰しも予測できる。
「ドラゴンだ‼︎」
紛う事なく、メルクリアスーーー正確にはエクリプスから現れたドラゴン。10,000ものドラゴンは外からの来訪ではなく、エクリプスから過去を渡りやってくるのだ。
本来であれば未来人のーーー7年後の未来から来たローグの言葉通り10,000は下らない数のドラゴンがやってくるはずだったがルーシィと元剣咬の虎ユキノの活躍により星霊の力を使って閉門。それでも溢れたドラゴンは未来ローグにやって操られ、人間を殲滅せんと地上へと降り立つ。
「我が名はアトラスフレイム」
フェアリーテイルの前に降り立つアトラスフレイム。その姿は炎に包まれたドラゴンというよりも、炎がドラゴンを模っているようにも見える。
「貴様等には地獄の炎を見せてやろう」
「かかれーーーッ‼︎‼︎」
マカロフの号令と同時に放たれたアトラスフレイムの咆哮。地獄の炎も斯くやとばかりの咆哮はその直線上を炎と熱で包み、融解させる。その咆哮が終わる頃、炎が静まった先にいたフェアリーテイルだが幸いな事に傷はない。
「
寸前のところで攻撃を防ぎ切ったカイト。悪意ある攻撃を防ぐ絶対防御の魔法であるが、それを焼き消すほどの火力。魔法を貫通する威力のアクノロギアよりもマシだとはいえ、彼我の力は歴然だと知ってしまった。
「我が一撃を防いだだと⁉︎魔導士か⁉︎」
「ただの魔導士ではないぞ‼︎家族の絆で結ばれた仲間たちじゃ‼︎」
限界まで巨大化したマカロフの反撃の一撃。けれどもその一撃はアトラスフレイムには届かない。
「ぬぐ‼︎」
触れた瞬間に燃やされるマカロフの拳。真っ赤に火傷してしまったマカロフに対して、アトラスフレイムは痛痒にも感じていない。
「いかなる力をもってしてもドラゴンには勝てん。人間である限り」
アトラスフレイムがその鞭のような尻尾をしならせて回転。それだけで周囲は半壊し、そばにいたマカロフはもちろん、その後ろにいたフェアリーテイルの面々すらも吹き飛ばされた。
「おいおい、嘘でしょ」
アトラスフレイムにとっては他愛もない一撃。しかし、それだけで被害は甚大。魔法も破壊されてしまった。圧倒的な生物としての差。それが如実に出ている。
確かに、アクノロギアのような隔絶とした差はない。だが、それでもこの力の差は絶望的である。全員の表情に厳しいものが浮かんだ瞬間だった。
「聞こえるかァ‼︎‼︎」
上空を飛ぶドラゴンーーーマザーグレアの身体から上がる爆炎と声。間違いなくナツだ。
「滅竜魔法ならドラゴンを倒せる‼︎滅竜魔導士は7人いる‼︎ドラゴンも7人‼︎今日、この日のためにオレたちの魔法があるんだ‼︎今、戦う為に滅竜魔導士がいるんだ‼︎行くぞォ‼︎ドラゴン狩りだっ‼︎」
再び爆炎が上がり、マザーグレアの苦しいそうな雄叫びが響く。その光景に、鼓舞に、滅竜魔導士たちの顔に笑みが宿る。ここまで言われて退くような者はいなかった。
「7人?数間違えてねぇか?」
「ナツにガジル、ラクサスにウェンディだろ?」
「あと、スティングとローグ………1人足りねぇじゃねーか」
「カッカッカ、そうでもないみたいだよ」
不審に思ったナツが鴉を飛ばし上空から戦況を確認。その最中、街の外れに3つの人影を確認した。2つは評議院のラハールとドランバルト、そして残るひとつは服役中であるはずの六魔将軍コブラ。毒の滅竜魔導士である彼は戦力ではあるが、味方と数えていいのか不安は残るが、兎にも角にも今は信用するしかない。
「おい、あれ⁉︎」
誰かの声に釣られて顔を上げれば、上空のマザーグレアの側面から生み出される無数の卵。それらが弾丸の様な速さで地上に降り立つとそこから生まれる気味の悪い化物。小型のドラゴンと言われたらそう見えなくもないが、目も鼻も羽もなく、のっぺりとした顔のそれは産まれたばかりで腹が空いているのか涎を垂らして口を開く。
「なんだありゃア‼︎⁉︎」
「バケモノが増えやがったーーー‼︎⁉︎」
「ドラゴン一頭でもキツイってのに………」
「どいてろ」
短く、簡単に。それだけを口にして前線に躍り出たラクサス。雷を纏う拳をアトラスフレイムに振えば確かに、ダメージは通るようだ。
「ぐぬ‼︎」
「デカブツはオレがやる‼︎おまえらは小型をなんとかしろ‼︎」
「1人じゃ無理だ‼︎」
「1人じゃないわ‼︎」
「援護する、ラクサス」
「雷神衆に任せな‼︎」
「いや、おまえらは小型に回れ。カイト、やるぞ」
「なにぃっ⁉︎」
まさかのラクサスの言葉に唖然とする雷神衆。そして件のカイトを射殺さんとばかりにフリードが睨みつけていた。いつもなら苦笑いを浮かべるカイトだが、いかんせんそれどころではない。指を組んで腕を伸ばし、臨戦体制は十分だとばかりに不敵に笑う。
「カッカッカ♪ご指名とあらば」
「ラクサス、なぜだ⁉︎」
「………オレの背中を預けるなら、おまえらしかいねぇからだ。だから、頼んだ」
少し恥ずかしそうに、顔を背けてそう告げたラクサス。その言葉に胸を撃たれた雷神衆は不貞腐れた表情を一変、喜色に染める。
「決まりましたね。ここはラクサスとカイトに、ガジルは他のドラゴンを。他のメンバーは小型の撃破を」
「「「オオ‼︎」」」
メイビスの指示もあり、すぐさま行動に移す面々。その際、勝ち誇った笑みをカイトに向けたフリードを苦笑いで送り出し、眼前のアトラスフレイムを見据える。
「カッカッカ。君にしては面白い冗談だったね、ラクサス。本当は彼らに隣に戦って欲しかっただろうに」
「アホ言え。乱戦が苦手なてめぇを気遣ってやったんだよ」
「おやおや、昔からは考えられない程の成長だ♪」
「言ってろ。来るぞ‼︎」
不敵に笑う2人。それ目掛けて振り下ろされるアトラスフレイムの腕。人と竜による混沌は、まだ始まったばかり。
◇◆◇◆
王都を襲う未曾有の災害から数刻。
アトラスフレイムと戦うカイトとラクサス2人であるが、戦況はよろしくない。
「雷竜の咆哮ォ‼︎」
「
ラクサスの口から放たれる雷属性のブレス。そして側面からのカイトの巨腕。それぞれ高い攻撃力を持つ魔法であるが、アトラスフレイムには届かない。
「効かぬ効かぬ‼︎我が獄炎は魔法を焼き尽くす‼︎」
その言葉通り、アトラスフレイムを構成する炎に触れた瞬間カイトの魔法は燃え、ラクサスの魔法も威力半減。お返しとばかりに振るわれる腕や尻尾の攻撃はその余波でさえかなりのダメージを負う威力。
水の滅竜魔導士ならばと考えるが、そんな者はこの場におらず2人は押される様に後退。戦場は中央広場から市街地にまで広がっていた。
「チッ、相性が悪すぎる………カイト、何か手はねェか⁉︎」
「あったらやってるよ。まったく、嫌になるねぇ、ドラゴンってのは」
なにも苦戦しているのはラクサスたちだけではない。他のドラゴンたちも相応に厄介で、戦火は広がるばかり。
得意の罠は通じず、撹乱も範囲攻撃で殲滅、正面突破も相性によってほぼほぼ無効化。流石は太古の大陸を支配していただけはあると皮肉を溢してどうしたものかと考えていたその時だった。
「ッ‼︎ナツ‼︎⁉︎」
「はぁっ⁉︎」
「おりゃああーーーーっ‼︎‼︎」
「ぬっ‼︎⁉︎なんだ貴様は⁉︎」
上空で未来ローグと戦っていたはずのナツ。それがハッピーの手によって運ばれたかと思えば、次の瞬間にはアトラスフレイムの頭の上に着地した。
「オレはナツ。今からお前を………食う‼︎」
「「んなーーー‼︎‼︎」」
「さすがナツだね。こんな事誰も思いつかないよ」
その言葉に比喩はなく、宣言通りにアトラスフレイムの炎を口に含めるナツ。上空のハッピーの呆れた賞賛が聞こえるが、思いつくほうがおかしいに決まっている。
「我を食う?ほざきおってぇっ‼︎‼︎」
「食うったら食う‼︎うまい炎だな」
「離れんかぁっ‼︎‼︎」
「危なっ‼︎」
喰われてなるものかと暴れるアトラスフレイム。その頭の上に振り下ろされてたまるものかと、しがみつきながら炎を喰らうナツ。それが更にアトラスフレイムの暴走に拍車をかけ、危うく被害に巻き込まれる2人。
「ナツ‼︎てめえどういうつもりだ‼︎」
「コイツは‼︎オレが‼︎もらう‼︎」
「もらうって………カッカッカ」
実際の所、ナツと戦う未来ローグであるが7年の期間なにも無為に過ごしていたわけではない。ドラゴンに立ち向かう為に修練し、肩を並べていたスティングを殺し力を得た彼の実力はナツよりも上。それに対抗すべくアトラスフレイムの炎を喰らうことにしたのだ。
「城に行ってくれ、2人とも‼︎ウェンディを助けてくれ‼︎」
確かに、滅竜魔導士とはいえ、まだナツたちに比べ幼いウェンディ。体力や魔力量なども考えると救援は必要だろう。考えている事は同じなのだろう、2人は視線を合わせると頷き、ラクサスが声を出す。
「そいつはおまえに任せていいんだな?」
「コイツを食ってパワーアップしてやるんだ‼︎」
「よし、行くぞ‼︎」
「オイラも‼︎」
城の方角へと走り出すラクサスとハッピー。反対方向へと暴れるアトラスフレイムを見て、次いで城へと視線を移すカイト。直線距離は遠くないが、倒壊した建物など迂回ルートを進むとなると時間はかかるだろう。
「おい、カイト」
声をかけたラクサスを見て、一瞬の躊躇。しかし覚悟を決めたのか深呼吸ひとつ溢して己の封印を解く。
「空から行くよ、ラクサス。救援は早いほうがいい」
封印を解いたことにより本来の姿に戻るカイト。7年越しの魔力の影響か、それとも別の要因なのか本人もわからないが、7年前よりも成長したツノと羽。ならす様に軽く羽ばたけば周囲の瓦礫が道を開けるように押され、獣のように低く構えるカイト。
それに一瞬だけ驚くラクサスだったが、納得がいったとばかりに不敵に笑う。
「………それが、本当の姿ってやつか」
「そうだよ。驚いたかい?」
「はっ‼︎今更てめぇが何であろうと関係ねぇよ」
その躊躇いもない、真っ直ぐな言葉に笑みを溢す。緊急事態とはいえ、こうして姿を晒すことに抵抗はあった。けれど確信があったのだ。ラクサスなら受け入れてくれるのだと。
「あぁ……行くよ、ラクサス」
信じて背中を見せるラクサス。それめがけて羽ばたいたカイトは矢のように進むと、交差する瞬間にラクサスの腹を抱え城の屋上めがけて飛ぶ。急な不可に視界がブラックアウトするが、ラクサスは信じている。必ず届けてくれるのだと。
「ま、待ってーーー‼︎」
後ろからハッピーの声が響くが、虚しく響くのであった。