FAIRY TAIL 〜Those called clowns〜   作:桜大好き野郎

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幽鬼の支配者

 

 

「痛て……」

 

「あーー、くそっ‼︎」

 

「ギルドやレビィたちの仇もとれてねぇのに撤退なんて‼︎」

 

「ちくしょォ‼︎」

 

この日、フェアリーテイル内は大いに荒れていた。

負傷者多数だというのに皆の瞳は憎しみや怒りに燃え、まるで戦争でも仕掛けるかの様に準備を進めていた。

 

きっかけはフェアリーテイルと長年睨み合っているギルド、幽鬼の支配者(ファントム・ロード)の仕打ち。 犬猿の仲といえど、ギルド間抗争が禁止されているため小さな小競り合いで済んでいたはずだったが、数日前ファントムはフェアリーテイルのギルドを半壊させ、さらにはレビィ、ジェット、ドロイの3人に大怪我を負わせるという、あからさまな敵対行動に出た。

 

報復に出たはいいが結果は惨敗。マカロフを瀕死の状態に追い込まれてしまったのだ。

ファントムの狙いはルーシィ。本名ルーシィ・ハートフィリアの身柄の確保。 これは正式な依頼であり、依頼主は父である。国を代表する資産家であるハートフィリア家のご令嬢、それかルーシィの本当の身分であった。

 

しかし、家族のことには目もくれず、事業や仕事のことにしか目がない父に嫌気が指しルーシィは家出。本人としては今更連れ戻すのなら何か裏があるとさえ思っていた。

 

「ダメ‼︎ ミストガンの居場所はわからない‼︎」

 

カナの得意のカード占いを使ってもその居場所を掴めないフェアリーテイル最強候補の1人、ミストガン。強力な睡眠魔法を振りまき、ギルドのメンバーにもその素顔を知られていない。 だが、難易度の高いS級クエストを悉く達成していくことでその実力を知らしめている1人だ。

 

「そう………残念ね。 ラクサスにも連絡したけど………」

 

「言わなくてもいい。来ないんだろ」

 

もう1人の最強候補、マカロフの実孫であるラクサスに連絡を入れたミラジェーンだが、こちらも不参加。 最強を目指し豪語するラクサスにとって弱いギルドメンバーはいらない、ということらしい。

 

「あいつ………カイトは?」

 

「ダメ。そっちも連絡がつかないわ」

 

「ったく、うちの男連中は‼︎」

 

ララバイの一件以降、姿が見えないカイト。 当然のごとく道に迷っているのだ。 いつもならしょうがないで済ませるが、今回ばかりは許せない。

 

奥歯を噛み締めるカナに、ひとつの決意を胸にするミラジェーン。それを口にするより早く、喧騒に包まれるギルド内にひとつの声が響き渡る。

 

「おやおや、どうしたのこれ?新手の改装、にしてはちょっと奇抜すぎやしない?」

 

決して大きくはない、喧騒に紛れそうな独り言。だがその声は殺気立つ声を沈ませ、多くの注目を浴びるのに十分だった。

視線の先にはカイト。道化の字名を持つ、最強候補のひとり。 戦力が足りないこの状況でその帰還はありがたい。 普段ならいつも通り帰ってこられたんだとそっぽを向くメンバーも、この時ばかりは歓迎した。

 

「カイト、お前っ‼︎ 今までどこに⁉︎」

 

「なんでもいい‼︎ 作戦練り直すぞ‼︎」

 

「カッカッカ♪ うわぁ、何この疎外感。置いてけぼりだよ〜……っと」

 

周りの熱が上がる中、ひとり状況がうまく飲み込めていないカイトが仲間外れをくらっているとその胸の中にミラジェーンが飛び込む。 突然のことでより一層困惑するカイトだが、その頬を伝う涙を見た瞬間、何やら尋常ではないことが起こっているのだと把握した。

 

「ありがとう………帰って、来てくれて………」

 

実力者が軒並み参戦しない中、そのうちの1人が帰ってきたのは大きい。 自然とミラジェーンの口から感謝の言葉が漏れていた。

 

「………帰ってくるさ。俺の(ギルド)だもん」

 

「おい、あいつもう囮役でいいんじゃねーか? 具体的には蜂の巣になっても無視で」

 

「「「異議なーし」」」

 

「カッカ、ヘイト値すんごーい。んで、何があったの?退っ引きない状況みたいだけどさ」

 

ギルドの看板娘といい雰囲気なのが気に入らないのか、主に野郎連中からのヘイトが大きくなった。 それでも笑顔であったカイトだが、涙を拭ったミラジェーンから説明を聞くとその笑みがなりを潜める。

やはり此度のファントムの行動は面白くないようだ。 特にチームシャドウギアに加えマスターへの暴行は看破できない。 思わず治療すると言い出すが、その身柄は街外れの森の中に住む治癒魔導士ポーリシュカのところにあると聞くと安堵のため息を零した。

 

「カイトーーーー‼︎‼︎」

 

ギルドの奥から聞こえた怒鳴り声に反射的にカイトの背筋が伸びる。 フェアリーテイルの一員なら誰もが知っている、道化(カイト)を殺す(エルザ)の登場に他のメンバーの背筋も伸びた。

 

振り向いた先はシャワーでも浴びていたのか大胆にもバスタオル1枚を巻いただけのエルザ。 その豊満な胸や濡れた髪が魅力的に見えるものの、その形相は鬼に近い。 周りが思わずヒッ、と声を漏らしてしまうくらいには怖い。

 

「や、やぁ、エルザ。 どうしたんだい、そんな怖い形相でーーーぷげっ⁉︎」

 

肩で風を切るエルザの流れるようなラリアットがカイトの首に入る。そのまま仰向けに倒れるカイトのマウントを取ると胸倉を掴み上げた。

 

「貴様が不在のせいで私は……! 私は! 評議会に召喚されたんだぞ!わかっているのか⁉︎」

 

「お、落ち着けよエルザ」

 

「今はそれどころじゃねえって!」

 

周りのメンバーが必死になだめようとするが焼け石に水、エルザのひと睨みで黙ってしまう。カイトに至ってはいつも通り軽口を叩こうにもラリアットで喉が潰され、軽く呼吸困難に陥っていた。 エルザの腕を何度かタップするが、本人も周囲も気づいているようすはない。

 

「それだけじゃない! こうしてファントムに攻め入られ、マスターを瀕死においやって! 貴様がいれば、こうはならなかったはずだ‼︎ なぜ今更戻ってきた‼︎」

 

がくがくと頭を揺さぶられながらエルザがなぜ怒っているのかを悟るカイト。 八つ当たりだと人は嗤うだろう。責任転嫁だと飽きれるだろう。

だが、そうでもしないと発散できない悲哀を静かに受け止める。 それで彼女がすっきりするのなら喜んで受け入れよう。 それが道化としてできる償いなのだから。

 

「ケホケホ………お、オーケー、エルザ。わかったわかった、わかったから。一旦落ち着こ?」

 

まともに呼吸ができるようになり、掴まれる胸ぐらに手を添えて落ち着かせる。 拳が飛んで来なかったのは不幸中の幸いだな、と思いながら状況を把握する。

 

「それでどうする? 殴り込みは確定だとして、速攻で決めないと評議会の横槍が入るよ?」

 

法律によりギルド間の抗争は禁止されており、いま起こしていることは間違いなく犯罪だろう。 だからと言って泣き寝入りを決め込むほど腑抜けではないし、ギルドの一員が狙われているのだ。 殲滅、もしくはギルドの解体に持ち込まない限りこのようなことは続くだろう。

 

それは周囲もわかっており、あれだこれだと案を出すが良いものはでない。 マスターが離脱した今、ただでさえ負けている数に加え戦略としても大幅に下回っている状態。 せめてラクサスかミストガン、どちらかが戻ってきてくれればと頭を悩ましていたその時、遠くから音が聞こえた。

 

ズシィン、ズシィンとなにか巨大な質量のあるを持つものが移動するような、そんな音。 地面もかすかに震え、次第に大きくなっていく。 何事かと全員が表に出た瞬間、目を疑った。

 

 

城が歩いていた。

 

 

言葉にすれば間抜けだが、想像以上に衝撃は大きい。 掲げられるは幽鬼の支配者の紋章。 間違いなくファントムだろう。 それは湖を渡り、一定の距離まで来ると正面の門を開く。そこから現れたのは同じく巨大な砲門。

その砲門は誰もが知識として知っている、ひと昔前の戦争などに使われた兵器、魔導収束砲ジュピター。

 

「ッ‼︎ カイトッ‼︎」

 

「消せ」

 

エルザの声とファントムのマスター、ジョゼの声が重なった。 砲門に魔力が収束され、眩い光と共に放たれる。

 

「あいよ、エルザ」

 

絶体絶命かと思われた刹那、ギルドの周囲に薄く光る膜が張られた。 一見頼りなさげに見えるそれは微かな神々しさを放っており、そして対ショック体制を取る一同を差し置いてジュピターの一撃を防ぎきったのだった。

 

「な………なにが………」

 

「こいつァ……カイトか⁉︎」

 

「よくやった‼︎ たまにゃあ役に立つじゃねぇか‼︎」

 

「カッカッカ♪ もう守ってあげないよ?」

 

聖域(セイグリット)ーーーそれが先ほどの魔法の名前だ。 悪意ある全ての攻撃を防ぐ、とっておきの魔法である。

呆気に取られるファントム。その隙を狙うかのようにギルドの足元から影が盛り上がった。

 

偽・仏斬大鋏(ぶつぎりおおばさみ)‼︎」

 

不意を突いたギルド本体への一撃。これで力の差を見せつけると思いきや、交差した二本の刃は砕け、ファントムのギルドには傷一つついていない。 思わずチッと舌打ちを漏らしてしまう。

 

「どうした?」

 

「対魔力障壁だね。 多分、あのギルド全体に張り巡らされてるよ。外部からの破壊は不可能だね」

 

どうしたものか、と頭を悩ませていたその時、ジョゼの声が拡声器を通して一同の耳に届いた。

 

「いくら抵抗しようが無駄だ。 貴様らに凱歌はあがらねぇ。ルーシィ・ハートフィリアを渡せ。今すぐにだ」

 

「ふざけんな‼︎」

 

「仲間を敵に差し出すギルドがどこにある‼︎」

 

「ルーシィは仲間なんだ‼︎」

 

そうだそうだ、帰れと罵詈雑言を浴びせるが聞くに値せず。 ファントム側はルーシィを渡せと繰り返すばかりである。

仲間から守られるルーシィ。だが、みんなが傷つく姿を見たくはない。自分の犠牲でみんなが救われるのなら、と声を出そうとするがそれはカイトに防がれた。

 

「あたし………‼︎」

 

「おっと、ルーシィ。それ以上はダメだ。君のそれは、みんなに対する明確な裏切りだよ」

 

「でもっ‼︎」

 

「まぁ、安心しなって。 ジュピターなんていくらでも防いでやるからさ♪」

 

ささ、向こうに隠れてな、と無理やりルーシィを向こうの方に追いやるとため息を吐く。

 

「カイト、どうだ?」

 

「どうだもこうだもないよ、エルザ。 結構魔力持ってかれたよ、あれ。防げて一発、しかもさっきより出力が上がるとキツイ」

 

付き合いが長いエルザには見抜かれていた。 聖域はたしかに強力だが、その分展開するたびに大量の魔力を消費する。 さらに相手の威力が大きければ大きいほど消費魔力を大きいのだ。

 

「後どのくらいかわかるか?」

 

「魔力の流れからして10分15分程度。 威力はさっきの倍は出るかもね」

 

「ならば破壊するしかないか」

 

「その対策は取ると思うよ。ほら」

 

カイトの指差す先、ファントムのギルドからは黒いフードを被った面々がこちらに押し寄せてくる。 ジョゼの魔法、幽兵(ジェイド)によって作られた兵士だ。

 

「一体一体は強くはないけど、足止めには充分。 ギルド捨てて逃げ出すなら今がチャンスだよ」

 

「馬鹿を言うな。お前はどうだ?」

 

「同じだよ」

 

肩を竦め戯ける様子を見せるカイト。 そのいつも通りの様子に少し安堵すると、肩を並べて状況を確認する。

先ほどナツがハッピーとともにギルドに乗り込む姿が見えた。続くようにグレイ、エルフマンもだ。 ならば己がやることは一つ。

 

「カイト、私はここで指揮をする。 お前はファントムのギルドに乗り込め」

 

「あいよ。 女王様の言う通り」

 

ニヤリ、と不敵に笑うと影に潜り込むカイト。

戦略を考えれば残していた方がいいのかもしれないが、カイトの戦闘方法では乱戦は向いていない。 敵味方巻き込んでしまうだけだ。 ならば敵の本拠地にて暴れさせる方が理に適っている。

ジュピターの発射もあるので時間との勝負ではあるが、そこは先に潜入した3人に期待する他ない。

 

「リーダス、ルーシィを連れて隠れ家に‼︎ 他は迎撃準備‼︎ 接近次第叩け‼︎」

 

オォオォオ‼︎ と声を上げる面々の声。だが、エルザはひとつ作戦ミスを犯している。 それはカイトの絶望的なまでの方向音痴性。 もはや呪われているとさえされているカイトの方向音痴は案の定発揮され、ファントムのギルド内で迷子になるのであった。

 

 

◇◆◇◆

 

「さて、どうしよっか………」

 

ファントムのギルド内部。 先ほどナツの働きによりジュピターは破壊されたが、ファントムは次なる手としてギルドを変形。人型となったギルドは空中に魔法陣を描いている。 その魔法の名は煉獄破壊(アビスブレイク)、直線上の物体を悉く破壊する禁忌とされる魔法のひとつだ。

 

止めるとしてもギルドには対魔力障壁が張ってあり外部からの破壊は出来ず、内部からちまちまと破壊していてもキリがない。 動力源を壊せばいいのかもしれないが、その場所はわからず、手当たり次第に探しても時間の無駄だ。

 

「む〜……手っ取り早くジョゼを倒した方が早いかな?」

 

少なくとも相手の抗戦意欲は衰えるだろうし、撤退するかもしれない。 問題はたどり着けるか、だが………。と考えたところで脚が止まる。 前方の部屋に感じ慣れた魔力反応を察知したからだ。

この魔力反応はナツ。 相手は知らないが、魔力量だけでいえばかなりのもの。 勝負は見えているといっても過言ではない開きだ。

 

「やぁやぁ、ナツ。苦戦中かい?」

 

「どこがだよ‼︎ てかカイト、どこ行ってたんだ‼︎」

 

部屋に侵入してみれば勝負はまだ始まっていないようだ。 目の前には目を布で覆い隠した太めの男性ーーー容姿からして噂に聞くファントムの実力者、エレメント4がひとり大空のアリアだろう。

他にも鉄の滅龍魔導士がいると聞いているが、それはさておき。

 

「ああ、悲しいかな。フェアリーテイルの道化。人数が増えようと、貴方達は私に勝てない」

 

「カッカッカ♪ 言ってくれるねぇ。 ナツ、ここは俺に任せて先行きな」

 

「後から出てきて何言ってんだ‼︎ こいつはオレがやる‼︎」

 

「カッカッ………ホント、人望のなさに涙が出るよ」

 

聞き分けない子だなぁ、とため息を零すとふと妙案が浮かぶ。

 

「しょうがない。じゃあここは任せるよ。代わりに上の階にいる鉄の滅竜魔導士は俺がもらうよ」

 

「なに⁉︎ あいつ上にいるのか⁉︎」

 

「そうだねぇ。 まぁ、ナツがどうしても戦いたいっていうならここは譲るよ。はぁ、仕方がない仕方がない」

 

「うぉおおおお、ガジルーーーーッ‼︎」

 

わざとらしく肩を竦めてため息を零すカイトを尻目に、ナツが部屋を抜けて最上階へとめがけ走っていく。 ナツを追いかけるハッピーが去り際に、「カイトってホント性格悪いよね」と言われたが、最早言われ慣れているレベルだ。目くじらをたてるほどでもない。

 

「よく通してくれたね。 優しいとこあるじゃん」

 

「知れたこと。貴方を倒し、追いかけば済む話ですから」

 

「カッカッカ♪ 随分な自信家だねぇ」

 

じゃあーーー

 

「やっちゃうか♪」

 

刹那、展開された魔法陣がカイトの腕を包み、その形状を変質させる。流れるように腕を振るえばその軌道上を5本の斬撃が飛ぶ。 カイトの十八番ともいえる混沌ノ鎧(カオス・メイル)からの混沌ノ爪(カオス・クロー)のコンボがアリアに炸裂した。

 

だが、カイトの早技もさることながらアリアも伊達にファントムの実力者として君臨していない。 カイトの攻撃が当たる直前、その姿が空中に溶けるように消えてゆく。

反射的にその場を飛びのくと、一瞬にして床が吹き飛んだ。

 

「なるほど、見えない魔法ねぇ」

 

「空域、それが私の魔法。 悲しいかな、貴方の魔法は私には届かない」

 

「カッカッカ♪ やってみなきゃわからないよ」

 

今度は足元に魔法陣が展開され、そこから飛び出すいくつもの影の拳が柱を足場にしていたアリアへと殺到。 だが、アリアの空域“絶”より放たれる空気の塊がそれらを相殺。どころか、数はあちらが優っているようでカイトの方が攻撃を食らう。

 

たった二発、それも掠めた程度だが、思わず舌打ちを零す。 やはりエレメント4の名は伊達ではないと改めて実感させられた。

 

「ああ、悲しい。 道化と謳われた貴方でも、私に攻撃を当てることさえできない」

 

「ふむふむ………なるほどなるほど………風魔法、それに風魔法系譜の枯渇(ドレイン)………もしかして、君がうちのマスターをやったのかな?」

 

話で聞いていたマカロフの容体。 それは体内の魔力を空中へと逃す枯渇という魔法に侵されているということ。 魔導士にとって魔力とは生命線であり、急激に減ればそれこそ命に関わるものだ。

 

風魔法、ということで同じ魔法を使うアリアに尋ねてみれば、予想通りというべきか目元を隠した顔でニヤリと笑う。

 

「そうだとも。 マカロフにとどめを刺したのは私。 悲しいことに、マスタージョゼの前ではマカロフも赤子も同然」

 

ふわり、とその場から姿を消しカイトの背後へと立つ。 その手に展開される魔法はマカロフに重傷を負わせた魔法。

 

「空域“滅”。さぁ、マカロフと同じ場所へと送ってやろう」

 

アリアの巨体に見合った常人より大きな手が、カイトの顔を包みこむ。 この魔法は魔力量が多ければ多いほど苦痛を見舞う魔法だ。 カイトの魔力量の底は知らないが、最強候補と呼ばれるほとだ。その苦痛も長引くに違いない。

 

殺った。 そんな思考がアリアの頭の片隅によぎった瞬間、地面から飛び出した拳がアリアの顔を貫く。 それもひとつだけではない。 天井から、離れた床から、壁から、いくつもの拳が全てアリアの顔に命中していた。

 

「ガッ!?」

 

「そう。よかった。 人違いだったら悪いもんねぇ。 これでようやく本気を出せるよ」

 

静かにそう言うカイトに呼応するように、混乱するアリアに二度目の拳の雨が襲った。 今度は全てボディに当たり、強制的に距離を取らされる。

 

混乱する頭でアリアは有り得ないと断言する。通常、影魔法は自らの足元の影を使うものだ。 周囲の影を使い魔法を行使するなど、聞いたこともない。

 

「不思議かい? タネは簡単だよ。自分の影を周囲に潜りこませたんだ。この場はすでに俺の支配下。 逃げ切れるとは思わないことだね」

 

有り得ない、と断言できる一言。 影を操れたとしても、それはその姿だけであり、分割することなどは不可能だ。 まじめに話す気はないと悟ったアリアの頭に血がのぼる。 ファントムに所属して、ここまで虚仮にされたのは初めてだ。

 

「くっ! ならば、その自信ごとへし折ってあげましょう!」

 

目元を隠していた布を剥ぎ取り、その両目を開く。 魔力量が高いアリアは瞳を閉じてそれを抑えていた。 そうしなければ辺りに被害を与えるからだ。 だが、今はそうも言ってられない。 これはギルド間の戦争であり、負けてはならない戦い。

魔力を解放したアリアに応えるよう、周囲が振動する。 待機も床も、ギルド全体が恐怖するかのように震えていた。

 

「死の空域“零”発動! この空域は全ての命を喰らい尽くす!」

 

その言葉に嘘はないようで、アリアの両手に周囲の空気が飲み込まれ、身体の中の大事なものさえ引っ張られるような不思議な感覚がカイトを襲う。

 

けれど、焦りはなかった。あくまでもいつも通り、だが燃えたぎる怒りを込めてカイトは魔法を発動させる。

 

「滑稽劇は終い。これよりは復讐劇にして恐怖の幕(グランギニョール)。怒りの代弁、復讐の代行」

 

「さぁ、来い。道化!」

 

偽・魔王百裂拳(デーモン・フィスト)

 

瞬間、周囲に展開された魔法陣から出てきたのは人の身の丈を優に超える拳の数々。 文字通り、空間を埋め尽くす巨拳の全てが呆気に取られるアリアへと殺到。

命を喰らう魔法も、元より生命などない影には効かず、まるでそんなもの存在しないとばかりにアリアを襲った。

 

一撃で壁まで押され、身体中を駆け巡る痛みに顔を顰めながらも反撃のチャンスを伺おうとする。 だが、我先にとばかりに向かってくる拳の数を見て悟る。 もはや反撃のチャンスなどないことを。

 

二撃目で壁が蜘蛛の巣状にひび割れ、三撃目には壁のを破壊する。それでも攻撃は止まることを知らず、次から次へとアリアへと殺到する拳はまるで異形の塔。

外から見れば突如として奇妙な黒い塔が生えたファントムのギルドは、動力源として存在していた大火の兎兎丸、大地のソル、大海のジュビア、そして大空のアリアからなるエレメント4最期の1人の敗退を確認すると人型を保てずひとりでに崩れ落ちる。

 

「カッカッ♪ 手ェ出す相手、選ぶべきだったねぇ」

 

復讐を果たしたカイトは上機嫌に笑い、自らが守ったギルドを見て一安心するのであった。

 

 

 

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