FAIRY TAIL 〜Those called clowns〜 作:桜大好き野郎
「ははは‼︎」
華灯宮メルクリアス。大陸を統治する王城にして象徴。その屋上には空中庭園が設置されており、巨大なエクリプスを運んでも尚余裕のある広さを誇る。そんな場所でミラジェーンとウェンディ、そして元剣咬の虎ユキノに王女ヒスイ・E・フィオーレ、騎士アルカディオスを含めた国王軍は1匹のドラゴンと相対している。
翡翠色の鱗に身を包むドラゴン、ジルコニス。扱う魔法は人の尊厳を奪うものであり、攻撃力というものはない。アトラスフレイムのように燃える身体でもなく、岩のような身体でもない。しかし、だからと言って弱い訳ではないのだ。寧ろ、他のドラゴンよりも特殊能力がない分その
その証拠にジルゴニスの眼前には満身創痍の面々しかいない。唯一軽傷なのは王女くらいのもの。
「脆い脆い‼︎人間風情がワシに歯向かおうなぞ烏滸がましいわ‼︎」
「っ‼︎天竜の咆哮ォ‼︎」
徐に振り上げられたジルコニスの前足。それが振り下ろされは壊滅は必須。ウェンディの咆哮が対抗するがそれも一瞬。
「ぬるいわ‼︎」
「きゃっ‼︎」
「ウェンディ‼︎」
勢いを多少殺すことはできたが、それでも振り下ろした前足から衝撃波が生まれ周囲を襲う。吹き飛ばされるウェンディをミラジェーンが救出するが、その額には汗が。
フェアリーテイル最強候補にも名前が上がるミラジェーン。しかし、対ドラゴンともなるとその実力は通用しない。ドラゴンの身体自体強固なのもあるが、人類の魔法を受け付けないのだ。唯一通用するのは滅竜魔法。だが、それすらも決定打には至らない。
「このォっ‼︎」
それでも何か弱点を、とウェンディを地面に置いて突撃するミラジェーン。山をも震わせる拳の一撃を額に叩き込むが効果はなし。どころか仰け反ることさえさせられない。
「痒いわ‼︎」
振り払われる前に後退。一瞬前までミラジェーンがいた空間をジルコニスが薙ぐ。軽い動作で行われたそれだが、当たれば彼方まで弾き飛ばされることは想像に容易い。
傷も増え、魔力の消費も著しく、その場にいる全員に疲労と絶望の色が浮かぶ。それを満足気に眺めるジルコニスは再度口を開いた。
「諦めろ、人間共。大人しくワシに食われれば良いものを」
「お断り、します‼︎」
力強く否定するウェンディ。その瞳には諦めている様子はなく、未だ闘志が燻っている。ジルコニスが己が親であるグランディーネと違い、人を家畜か餌にしか見ていないことは竜の墓場で対話したことで知っている。
その時は思念体のようなものであり、直接的な被害を被ることはなかったが実態を持つ今、その脅威は身に染みて感じている。
しかし、ウェンディは知っているのだ。例えどんなに窮地に追い込まれようと諦めないギルドを。足掻くことを辞めない人たちを。
「私たちは、フェアリーテイルです‼︎こんな所で諦めたら、未来のルーシィさんに顔向けできない‼︎」
思い出すのは王城の地下から脱出する時のこと。未来から現れたルーシィは現在のルーシィを守るべく、その身を凶刃に晒した。失われていく血液に、みるみる青くなっていく顔。死への恐怖もあっただろうに、未来のルーシィは自身たちに託したのだ。
ドラゴンに支配されない未来を。また皆と笑い合える明日を。尊い日常を。
「私たちは諦めません‼︎それが
「そう言う事、よっ‼︎」
「ぬぐ⁉︎」
ミラジェーンが周囲に魔力の塊を作り出すとそれをジルコニスの顔目掛けて投擲。着弾と共に起こる爆発はダメージに至らないとはいえ、目眩しには充分。その隙に目一杯に
「天竜の咆哮ォオ‼︎‼︎」
「ぬぐぅううおおおおおお‼︎‼︎」
先ほどよりも威力を増した一撃。直撃を受けたジルコニスの苦悶の声が響く。あまりの威力に周囲は手や腕を使って顔を防御し、そうして衝突から数十秒。巻き上がった砂煙を切り裂くようにして現れたジルコニスに絶句する。
「ぬぅうう‼︎人間風情が、よくも………っ‼︎」
怒りを顕にするジルコニスだが、その身体に傷はない。せいぜい庭園の端まで押しやった程度。ダメージはないが、それでも下に見ていた人間からの予想外の反撃に怒りは止まる事を知らない。
「貴様らまとめて食らってくれるわ‼︎」
口内に溜まる魔力の奔流。お返しとばかりの咆哮だ。攻撃力はないが武器を失った兵士は逃走必須。魔導士たちも羞恥で動くことはできない。そんな未来を止めようと動き出すウェンディだが、今の一撃で想像以上の疲労が溜まったのだろう。脚がもつれて倒れてしまった。
「ウェンディ、危ない‼︎」
救出に走ろうとするミラジェーンと陰で見守っていたシャルル。だが、それが間に合わないことは2人が1番わかっていた。勝利を確信して笑みを溢すジルコニス。その刹那ーーー
「ォォオオオオッ‼︎‼︎」
「ぐおおっ⁉︎」
ジルコニスの頬に矢のように突き刺さる雷撃。眩い光が周囲を照らし、初めてジルコニスの身体に傷ができた。衝撃で庭園から落ちるジルコニス。それと同時に庭園に降り立つのはラクサスだ。
「ラクサス‼︎」
「アンタ、なんでここに⁉︎」
「オレが相手してた奴はナツに任せてきた。よく耐えたな、おまえら」
ミラジェーンたちに背を向けたまま、視線は庭園の端に固定されたまま。ラクサス自身、今の一撃でダメージを負わせた感触はあるがそれで倒せるなど思っていない。
「くぬぅ………キサマァ‼︎」
案の定というべきか。背中の翼を広げて再びその場の全員の視界へと入るジルコニス。その右頬は少し煤けているが、大したダメージにはなっていないようだ。
「もうよい‼︎貴様等全員、屠ってくれるわ‼︎」
怒髪天のジルコニスの狙う先は庭園含めたメルクリアスそのもの。足場を崩してしまえばその崩落に巻き込まれて何人が死ぬことになるだろう。獲物を喰らう事を諦めたジルコニスの一撃がメルクリアスに狙いを定めたその時だった。
「ぬぐお⁉︎」
背後を強襲する魔法の一撃。ダメージにはならないがそれでも集中力を乱されて攻撃を中止。一体何がと全員がジルコニスの背後を睨んだ。
「なんだあれは………?」
ぽつりとアルカディオスが溢した言葉は全員の総意だ。月食の影響、そして破壊された街の影響で篝火を焚いた庭園より先の視界は薄暗い。けれど、その中でも闇を纏う何かがそこにいた。
翼を持つのか対空するそれは全長2メートルほど。鳥か何かと思われるが、両手足が辛うじて見えている分その線はない。何か他に情報を得ようと目を細めるが、対象の輪郭が上手く掴めない。
「カイトだ」
「え⁉︎もしかして………」
「想像通りだ。あんましバレたくねぇから、認識をずらすんだとよ」
小声でそう告げたラクサスに、ウェンディとミラジェーンは納得する。あの姿を余人に見られることをカイトは好んでいない。魔法を纏って認識を晒しているとはいえ、必要以上に接触はしたくないのだろう。
「…………貴様、もしやアレの血族か?」
それでもジルコニスの目には通じていなかったのか、その姿ははっきりと視認できている。牛のツノと尻尾に蝙蝠の羽、ドラゴンのような瞳孔とくればジルゴニスにも覚えがある。思い出す度に苦いモノが込み上げる、忌々しい記憶だ。
ギシリと奥歯を噛み締めてカイトを睨むジルコニス。しかし、睨む先にいるのはカイトではなく、その血縁であろう者。ドラゴン同士の魔法が飛び交う中、我が庭とばかりに悠々と歩き、そしてドラゴンに対抗しうる化物。
「ガァあああ‼︎」
度し難い記憶を振り払わんと先に動いたのはジルコニス。振り上げた腕に込められた魔力は大地さえ切り裂く密度。それを個人にぶつけようとした瞬間、その場から消えるカイト。
どこに、と周囲を探すよりも早くジルコニスの腹部を衝撃が襲った。
「ぐっ‼︎」
腹部にいたのはカイト。衝突の勢いそのままジルコニスを押し返すと庭園へと突き放す。
「ぬぅうう‼︎忌々しい奴め‼︎」
「おい」
ジルコニスを庭園へと運んだカイトはすぐさま上空へ。弄ぶような仕草に更に苛立ちを募らせるジルコニスだったが、声をかける男が1人。反射的に振り返るジルコニスを雷撃が包んだ。
「オレたちを忘れてんじゃねエ‼︎」
「
「ぬぉお⁉︎」
ウェンディの強化を付与されたラクサスの一撃。破壊力の増した雷撃だったが、ジルコニスの鱗を少し焼いた程度。続け様に上空から落ちてきたカイトの混沌ノ爪も、腕の一振りで破壊されてしまった。
「チッ、やっぱ効かねェか………」
「でも、私よりもダメージはあるみたいです」
「なら、このまま攻めるしかねぇな」
「ラクサス、私は小型の方を‼︎」
「任せるぞ」
街を徘徊していたのだろう。階下から続々と現れる小型の竜。ジルコニスとの戦いでは役に立てないと理解しているミラジェーンはそちらの排除へ。カイトとラクサスに挟み撃ちにされるジルコニスだが、視線は上空のカイトへと固定されたまま。上空へと飛び立とうとするがラクサスとカイトの同時攻撃がそれを阻害する。
「ええい、鬱陶しいわ‼︎」
「ぐっ‼︎」
「きゃあっ‼︎」
尾の一振りでラクサスたちと距離を開くとそのまま上空へ。勢いそのまま繰り出された攻撃は間違いなくカイトを捉える。
勝利を確信した笑みを浮かべるジルコニスだが、胴から上が掻き消されたカイトはまるで逆再生のように姿を取り戻すと魔法をぶつける。
「
「ぬぅううん‼︎」
カイトの魔法はジルコニスの右胸に直撃するが大したダメージにはならず、煽る様に笑うジルコニスを背後からの雷撃が襲う。
「雷竜奉天戟」
「ぬぅ、邪魔を………‼︎」
「カッカッカ、邪魔なのはお前だよ」
顔だけで背後に視線をやるジルコニス。その胸に両手を添えたカイトは魔法を発動する。
「邪魔者にはご退場願おうか‼︎
展開した魔法はカイトの腕から生み出された数多の黒い化物。大小大きさは違えど、空想上の生物たちはそののっぺりとした黒い身体を思う存分ジルコニスへとぶつける。
再び庭園へと押し戻されるジルコニスを好奇とばかりにラクサスは攻撃を繰り返す。動こうにも上空からの攻撃は未だ続いており、身動きが取れない。
「ぐぬぅうう‼︎小賢しい‼︎」
上空からの攻撃を弾き飛ばし、近くにいたラクサスに腕の一振りを。それだけでジルコニスを煩わせるそれらは消し飛び、再び臨戦体制を整える。あれだけの攻撃を受けていたにも関わらず、多少の傷ができた程度でダメージとしては微々たるもの。
やはり一筋縄では行かないと唇を舌で濡らし、どうにか打倒できないものかと思考を回転させるカイトであった。
◇◆◇◆
ウルティアにとって、世界とは呪いに満ちたものだった。
幼き頃に攫われ、巡り巡って闇ギルド悪魔の心臓へ。実の母に売られたのだと教え込まれそれを糧として生きてきた時代。来る新世界の為、そしてもう一度人生をやり直すために他人を欺き、嘲笑い、奪ってきた人生。
どんな理由であろうと、どんな大義名分を掲げても、その実態はどうしようもない犯罪者であり、それらを嬉々としてやっていた人の皮を被った化物だ。
けれど、天狼島でグレイの言葉に、海に溶けた母に触れて人として生きるチャンスをもらった。今までの罪を償うつもりで魔女の罪をジェラールたちと共に立ち上げ、変わったつもりであった。
だが、今し方この混乱を治るために元凶である現在のローグを殺そうとしてしまった。現在のローグが死ねば未来のローグはこの世界に来たという歴史は消える。世界と1人、どちらを犠牲にすれば良いか簡単だ。
そう、簡単な問題。単純すぎる問題だ。でも、ウルティアにはできなかった。殺そうと思い立った時に何の罪悪感も湧かなかった自身に嫌悪して。そんな自身の罪など禊ぐことなどできないのだと絶望して。
ああ、けれど。けれどたったひとつだけ解決策があった。
ハデスからも使う事を禁じられた魔法、ラストエイジス。使用者の全ての時と引き換えに世界の時間を戻す魔法。
その効果を聞かされた時、自身の犠牲で世界が成り立つのはごめんだと思った。けど、今は違う。
「時のアーク、ラストエイジス‼︎」
己が命ごときで世界を戻せるのなら、全てを捧げる。
暴走する魔力がウルティアの身体中を駆け巡り、視界が赤く染まる。耳の奥でガンガンと音が鳴り、脳が危険信号を出しているのが理解できる。だが、それがなんだというのだ。
そんなものは、己の歩みを止めるには至らない。
そんなもので、己の贖罪を止めるわけにはいかない。
己の命ごときで、どこまで世界が元に戻るかはわからない。けれど、せめて、せめて扉が開く前に戻れと願いを籠める。
暴走する魔力はそれ自体が熱を持ち、ウルティアの身体の内部から焼く。美しかった肌は炭のように黒くなり、己の命が燃えていくのを感じる。かくして魔法の発動が終わり、世界は時を逆転させた。
霞む視界で周囲を見渡すが、変わった様子はみられない。魔法は間違いなく発動したはずだと時計台に目を向ける。時計の針はウルティアが魔法を発動して動いていた。長針が右に少し、ほんの1分ほど動いただけだったが。
(そんな………私は、誰一人として救えなかっ………)
魔法の対価、そして絶望。倒れたウルティアはそのまま意識を手放す。己が命を燃やした結果戻せたのは1分。たかが1分、されど1分。人の身で時を戻す偉業を成し遂げた結果は戦場の命運を分けた。
1分前の出来事は人々に幻覚として残り、ある者は死ぬ未来を回避し、危険を回避し、そして人類の反撃の起点となったのだ。
◇◆◇◆
一瞬、白昼夢のように映り込んだ幻覚に眉を顰めるカイト。それは1分後、痺れを切らしたジルコニスの行動。上空に高く飛んだジルコニスはその巨大をそのままメルクリアスへと落下させたのだ。
崩れ落ちる城。崩壊に巻き込まれる仲間たち。上空から眺めるしかできなかった自身。勝ち誇ったように笑うジルコニス。夢幻だったのだとしてもあまり気持ちのいいものではない。思わず舌打ちを溢してしまう。
それはラクサスたちも同じようで、ジルコニスの次の行動に警戒を強める。
「今のは………?」
「わからねェ。だが、今のが起こることは間違いねェ‼︎」
「ぬぅ‼︎人間風情がァ‼︎」
白昼夢の時と同じ台詞を吐いて、同じ動きで、同じ軌道で上空へと飛び立つジルコニス。回避は間に合わない。防御魔法では防げない。受け止める余裕もない。残されるのは迎撃のみ。
「ウェンディ‼︎咆哮だ‼︎」
「は、はいっ‼︎天竜の咆哮‼︎」
ジルコニスに向けられた暴風。しかし既に射程外であり、その風はジルコニスの髭を揺らすばかり。無駄な足掻きだと嘲笑うジルコニスだったが、暴風の中から一直線に飛ぶ雷がその笑みを消す。
「雷竜奉天戟‼︎」
「チィッ‼︎」
ウェンディの咆哮の特性、回転もあって貫通力の増た一撃。けれど、距離が開きすぎていたのだろう。寸前のところで躱されてしまう。
「ははは‼︎残念だったなァ‼︎」
翼を折り畳み、落下しながら絶望に歪む顔を見てやると意気込んだその時だった。ジルコニスの背後、通過したラクサスの魔法を掴み狙いを定めるカイトがそこにいる。手に持つ魔法は自身の魔力が浸透し、黒と白の稲妻が夜空を彩る。
魔法の極致とも言われる
「
「ぬ、ォオォォォォォォォォォ‼︎⁉︎」
完全に不意を突いた一撃。亜音速で放たれた魔法はジルコニスの背中を捉え、そのまま落下。着陸予定だったメルクリアスから離れた場所へと落下した。
雷に焼かれながら墜落するジルコニス。しかし、これが時間稼ぎにしかならないことはその場の全員がわかっている。
(手っ取り早いのは全ての起因となったエクリプスの破壊。あれが消えればこいつらが来たという歴史がなくなる。けど、その暇がない‼︎)
カイトの予想通り、エクリプスを破壊すればその扉を潜った者は元の時代へと強制的に還される。それは未来のルーシィの手記にも記されており、間違いはない。
しかし、過去と現在を繋ぐ扉というだけあり、その頑丈さは折り紙付き。現にその手記を見たルーシィとユキノが破壊を試みているが傷ひとつつく様子はない。
このままではまた、白昼夢の様な事態に巻き込まれてしまうのではないかと焦りが加速する。
再び舞いあがろうとするジルコニスを遠距離の魔法で牽制にもならない嫌がらせをしていたその時、カイトの視界の端に何かが映る。
「おおぉおおおぉおおお‼︎」
「ナツ⁉︎」
炎を推進力に未来ローグをマザーグレアごと押し込むナツの姿。それはそのまま一直線にエクリプスへと向かい、そして数瞬後地響きにも似た音を立てて破壊されるエクリプス。
その機能を果たせなくなり、効力を失ったエクリプスは歴史の整合性を取り始める。即ち、ドラゴンたちの退去だ。
瞬い光に包まれた7頭のドラゴンと未来ローグ。それぞれが消えていく様を見守り、カイトも姿を隠す。街は破壊され、誰一人としてドラゴンを倒すことはできなかった。勝利というにはあまりにも被害が大きく、決着も正攻法とはいかない。
それでも、あの災厄の中で死者はおらず、怪我の有無はあれど生き残ったのだ。今はそれを喜ぶべく、封印を施したカイトは急ぎ皆と合流するのだった。