FAIRY TAIL 〜Those called clowns〜   作:桜大好き野郎

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大魔闘演武ー13

 

 ドラゴンとの対決。そんな御伽噺にも似た悪夢の様な夜から一夜明け。

 

 当然ながら避難していた国民に事実そのまま、未来から来た人間によってドラゴンが暴れましたなど馬鹿正直に伝えることはできず、表向きは先延ばしになっていた大魔闘演武の優勝杯授与式、そして合わせて昨晩の慰労会が行われていた。

 

 城に招かれるのは大変栄誉な事であり、同時に魔導士が招かれる事も異例。国民から疑問の声も上がるがそれだけ今大会に国王は感激していたと伝えられている。公的な場ということもあり、参加者全員が礼服を貸し与えられ着用が義務付けられるのも仕方がない。

 

 城の兵士たちも十分に気を配り、警備体制もしっかりと強化されている中やはりと言うべきか、集まった面々が厳かな雰囲気に呑まれて大人しくしているーーーということはなかった。

 

 

「わあ‼︎」

 

「すごい……」

 

 

 円形の謁見の間は国の徽章が掲げられ、玉座を含めた王の立ち位置は2階の中央に。所狭しと並べられた国随一の料理人たちが作り上げた料理の数々。古今東西から集められた美酒。煌びやかな装飾も相俟って思わず感嘆の声が漏れる。

 

 それぞれが思い思いに騒ぎ飲み、また慰労の言葉を交わし合う中1人、冷や汗を垂らす者が。

 

 

「あー、エルザ?落ち着いて貰えるかな?ねぇ、聞いてる?」

 

 

 どこから持ち運んだのか丸太に縛り付けられているカイト。その正面にはドレス姿のエルザが。目元は布で隠されており、手にはいくつかのナイフ。狙う先はカイトの頭の上にあるリンゴだ。

 

 どうやら試合の一件、ミネルバとの対決に水を刺した事は有耶無耶にならず、こうして出し物に協力させられることとなったらしい。といっても練習などしたことはない上に、そんな事は聞かされていない。反論の声も黙殺され周囲が息を呑む中、短く切った息と共に投げられる4本のナイフ。

 

 

「………シッ‼︎」

 

「ちょおっ⁉︎」

 

 

 投げられた内、2本はカイトの両頬を掠め、1本はリンゴに、そして最後の1本はカイトの口へと。ガチリ、と歯と刃が噛み合わさる音がして事なきを得たが危うく大惨事になるところである。

 拍手と賞賛の声がエルザに送られ、カイトには同情の眼差しが送られた。それはそれとして遠巻きに見るだけで助けてくれる様子はない。エルザが目で牽制しているのもあるが、やらかした事が事なので助けようか迷っているのだ。

 これだから人間は、と責任転嫁と怨嗟を内心で溢して遠い目をする。

 

 

「大丈夫ですか?今解きます!」

 

「ああ、ウェンディちゃん。助かるよ♪」

 

 

 それでも救いの手はあるようで、見かねたウェンディが縄を解いてくれる。件のエルザは仕方がないとため息を溢し、シモンの妹である事が判明したカグラ、そして少し不貞腐れた様子のミリアーナの元へ。余談だが、仕置きはまたの機会にするつもりである。

 

 ぞくり、と背中に冷や汗が流れるがそれはさておき。少し縄の跡の付いた手首をこすりながら感謝を。

 

 

「いやぁ、助かったよウェンディちゃん。あのままだったら殺されるところだった」

 

「そんなこと………」

 

 

 ない、とは断言できない所が辛いところだ。それだけエルザが腹に据えている事はフェアリーテイル内では周知の事実であり、手心や減刑を願っても無駄だと誰もが理解していた。

 それでも言葉を濁して目を泳がすウェンディを微笑ましく見る。ルーシィやエルザたちの様に大人向けのドレスではないが、ツインテールを纏める髪留め含め白を基調としたアイラインドレスはウェンディの魅力を引き立てており、胸元の黒いレースが少し大人びた雰囲気を立てていた。

 

 

「よく似合ってるね、ウェンディちゃん♪まるで妖精さんみたいだ♪」

 

「あ、ありがとうございます………その、カイトさんも、カッコいいです」

 

「本当かい?ありがとう♪」

 

 

 白いシャツに黒いモーニングコート、黒いズボンと女性側に比べ男性側はあまり種類はない。せいぜい色の種類が豊富なくらいだ。その中でも無難な衣装を選んだのだが、似合っているようで何よりと安堵を。コーディネートしてくれたラクサスに心の中で感謝を溢す。

 

 

「本当は一夜みたいに、フロックコートを着たかったんだけどねぇ」

 

「あれはまた違う気がしますけど………」

 

 

 視線の先、白いフロックコートに身を包みバイコーンを被る一夜は格好だけ見れば貴族の様ではある。しかし、本人の身長などを加味してしまえばコスプレ感が強い。

 面白そうだとカイトも着ようとしたのだが、ラクサスから全力でストップされた事を告げれば心の中でラクサスを讃えるウェンディ。ネタ枠は1人だけで充分であるし、カイトには今の落ち着いた雰囲気の服装が似合っていると思っているからだ。

 

 

「ウェンディ〜‼︎」

 

「あ、シェリア‼︎」

 

 

 カイト挟んで向こう側。手を振りながらやってきたのは蛇姫の鱗のシェリアだ。例にも漏れずドレスを着ているが、ウェンディとは違い身体のラインがくっきりと出るXラインタイプのもの。年はそう変わらないというのに、その発育は大きく突き放されている。

 そんな事を思い浮かべたせいか、正面のウェンディからジトっとした責める様な視線が送られるが笑って誤魔化す。そう言った話はタブーだと、流石のカイトも理解はしていた。

 

 

「ウェンディ、あっちに美味しそうなデザートがあったよ!行こっ‼︎」

 

「ちょ、シェリア⁉︎」

 

 

 挨拶も交わさずに、駆け寄る勢いそのままウェンディの手を引いて去ってしまうシェリア。人混みに消える直前、こちらを振り返ったかと思えばウェンディを引っ張る手とは反対、右手で目の下を引っ張ると舌を出して嫌悪を向けられてしまった。俗に言うあっかんべーと言うやつだ。

 

 嫌われたものだ、と苦笑いを浮かべて軽く手を振る。それが余計に気に障ったのかムッと眉を寄せるとそのままウェンディと共に人混みへ。

 原因を理解しておらず、そして悪びれる様子もないのだから救えない。仕方がないで済ませてしまうのだからエルザに余計に怒られるのだ。

 

 

「すまない、カイト殿。ワシからも言って聞かせておく」

 

「カッカッカ♪気にしないでおくれよ、ジュラ。目鯨を立てるほどじゃないさ♪」

 

「そう言ってもらえて助かる。あの子はまだ幼く、初めての友人が何より大切なのだろう。決して貴殿を軽んじてからの行動だとは思わないで欲しい」

 

「わかってるさ♪俺もウェンディちゃんに友達ができて嬉しいよ♪」

 

「そうか………やはり、カイト殿も同じワシと同じ不安を抱えていたとみる」

 

「そう言うジュラもかい?俺たちも仲間にはなれるけど、やっぱり歳の近い友達ってのは違うからねぇ」

 

 

 申し訳なさそうに謝罪するジュラになんでもないと返すカイト。それから始まるのは互いのギルドの少女たちのこと。やれ張り切り過ぎてドジをしてしまうやら、やれ最近彼我の距離がやら、保護者会のようではあるが目線は父親である。互いに未婚ではあるが、ジュラはギルドを支えるエースとして、カイトは教育係として思うことは一緒らしい。

 

 まるで相談と見せかけた可愛い娘を自慢し合う様な会話は、ふと差した影に遮られた。

 

 

「オイ」

 

「ん?」

 

「貴殿は………オルガ殿」

 

 

 剣咬の虎、オルガ・ナナギア。スーツの上からでもわかるその屈強な肉体は隣のジュラにも負けず劣らず。こちらを値踏みするような視線に思うものはあるが、それも仕方がないだろうと諦めを。

 

 お嬢と慕われ、ギルドのエースだったミネルバを下した張本人。それが正々堂々としたものならまだしも、絡め手を駆使したもの。事実、オルガ以外の剣咬の虎の面々はカイトの事を嫌っているのか、遠巻きに視線を送るだけ。おそらく嫌味のひとつでも言いにきたのだろうと予測する。

 それはジュラも察したのか、カイトの身体を隠すように前に出ると間に挟まって弁明を。

 

 

「待ってくれ、オルガ殿。カイト殿の戦い方は、その、確かにあまり褒められたものではないが、今は祝いの場。この場であまり騒ぎを起こすのは………」

 

「カッカッカ♪ジュラ、フォローになってないよ♪」

 

 

 やはりカイトの戦法は思うところがあるようで、少しだけジュラの思いが混じったそれはフォローではなく、お礼参りは後日にしろというものだ。やめさせようとしない辺り、公平ではあるのかもしれないが。

 

 それはそれとして納得はいかないと内心苦い顔をすれば、意外な事にオルガの用事はお礼参りではないようで、交戦の意思はないとばかりに両手を上げる。

 

 

「待て待て、そう言うンじゃねェ。………てめぇなら、わかるだろ?」

 

 

 含みを持たせてカイトへと送られる視線。何が何だかわからないと首を傾げていれば、痺れを切らしたのかオルガの懐から取り出されたのはひとつのマイク。

 全てを察したカイトは不適な笑みを浮かべると両手に黒い球体を2つ生み出した。満足そうに笑みを深めたオルガがマイクを構える。

 

 

「お、おい、カイト殿………」

 

 

 不安な空気、ではないが嫌な予感とでも言うのか。止めに入ろうとするジュラだがそれよりも早く2人は行動に移した。

 

 

「最強!最強!ナンバーワン‼︎」

 

「よっ!ほっ!」

 

 

 突然歌い出すオルガ、そしてジャグリングを始めるカイト。突然の奇行に周囲の視線が否が応でもそちらに向く。狙い通り、とばかりに歌は激しくなり、球の数は増えていく。

 可愛そうなのはジュラである。2人の間に挟まったばかりに好奇の視線に晒され、何かするのではないのかと期待を向けられて右往左往していた。

 

 速攻で決めすぎて盛り上がりに欠けると仲間内に言われ始めた歌。それがすっかり趣味となり、こうして人前で披露することに抵抗はない。もっと聞け、もっと盛り上がれとばかりに声量を上げる。

 大会中、MPFにて見せたカイトの姿にエンターテイナーとしての片鱗を見たオルガはこうして勝負を挑まずにはいられなかったのだ。

 

 そして、同じく道化(エンターテイナー)として負けてられないとカイトも今度は足元に影のボールを生み出すと、その上で片足ジャグリングを続ける。

 

 

「ははははは‼︎いいぞー、オルガー‼︎」

 

「止めなくていいのか?」

 

「あれだけ気持ちよさそうに歌っているオルガを止められた記憶はないよ」

 

「わー!頑張れ、師匠(せんせ)ェ‼︎」

 

「リサーナ、あんま声援送ンな。調子に乗る」

 

「ふふ、流石は我が友。どれ、私も一肌脱ぐとしよう‼︎」

 

「ややこしくなるからアンタは混じンな‼︎」

 

 

 笑って声援を送る者がいれば、他人のフリして関わろうとしない者、そして乱入を止めようとする者。周囲を大まかに分けたらこの3種類になるだろう。だからといって贔屓するつもりはない。寧ろもっと盛り上げてやるとばかりに熱を入れる2人。

 視線だけで相手の意図を察し、そして笑みを深める2人は間違いなく通じ合っていた。

 

 

「喧しいぞ、お前達‼︎」

 

「「うごっ⁉︎」」

 

 

 そんな2人の喧騒とも言うべきパフォーマンスは、騒ぎを聞きつけたエルザの鉄拳によって止められた。カイトを使ってナイフ投げを披露した事は完全に棚に上げているが、それを口にすれば飛び火は確実なので誰も文句は会えなかった。

 余談であるが、不運にも巻き込まれたジュラだけがほっと胸を撫で下ろしていた姿はエルザの陰に隠れて誰にも目撃されることはなかったのだった。

 

 

 それから数分後。

 

 

「オラー‼︎」

 

「このクソ天馬ァ‼︎」

 

「マカロフの髪をむしれ‼︎」

 

「やっちまえーーっ‼︎」

 

「ババア、脱ぐなー‼︎⁉︎」

 

 

 王城全体を揺るがすような大乱闘。老若男女問わずの大騒ぎ。騒ぎの原因は元剣咬の虎のユキノの所在を巡ってだ。

 

 これまでの事を反省し、戻って来て欲しいと懇願するスティング。そうはさせないと酔ったカグラが割って入ったのが事の始まり。それからはならばウチが、いいやウチのギルドが、と争奪戦が始まり、大会の憂さ晴らしも合わさっての蜂の巣を突いたような騒ぎとなってしまったのだ。

 

 

「オラァ!お嬢の仇ィ‼︎」

 

「くたばれや‼︎」

 

「カッカッカ♪ちょ、多くない?」

 

 

 ここぞとばかりに剣咬の虎の面々から的にされるカイト。流石に魔法は使われていないが、それでも無視できないほどの拳や蹴りが飛んでくるのだからたまったものではない。

 踊るように躱して、逃げた先の仲間も日頃の恨みとばかりに笑みを深めて攻撃してくる。全くもって厄介だと辟易さていれば、ふと違和感に気がつく。

 

 この騒ぎの中で1番はしゃいでいるであろうナツの姿がどこにも見当たらないのだ。思い返せば更衣室からいの1番に出て行ったのを見たのが最後。それ以降今に至るまで見ていない。

 酷く嫌な予感がして、近くにいたミラジェーンへと一縷の望みをかけて問いかける。

 

 

「やぁ、ミラちゃん♪ナツ見てないかい?」

 

「ナツ?一緒じゃなかったの?」

 

「あの、こちらの方は………」

 

 

 ロングドレスを身に纏い、高い位置で纏めたポニーテールはいつものような艶めかしさはなく、可憐な一面を見せている。普段とは違う姿に一瞬作り物の心臓がドキリと跳ねるが、今はさておき。そんな彼女の隣にいるのは騒ぎの渦中の人、ユキノだ。

 まるで妹のようだと可愛がっていることは知っているが、実妹であるリサーナは姉を取られて悔しいのかいじけていたことを思い出す。「銀髪ショートの妹キャラは被り過ぎている」と言っていたが、何のことやらと首を傾げるしかない。

 

 それはさておき。

 例えウソでもこうして居場所はあるのだと教えてもらって嬉しいのか、その両目には涙を流した跡が。どうやらミラジェーンはそれを慰めていたらしい。

 

 

「ああ、紹介してなかったね。俺はーーー」

 

「オイ‼︎姉ちゃんに気安く近づいてんじゃねェ‼︎」

 

「うおっ⁉︎エルフマン⁉︎俺は味方だよ‼︎そして、君のそれはこんな状況でも健在なのかい⁉︎」

 

「うるせぇ‼︎どさくさに紛れて姉ちゃんたちに抱きつこうとする奴らがいるんだよ‼︎」

 

「いや、俺はただお話をしたいだけなんだけど⁉︎」

 

「問答無用‼︎」

 

 

 エルフマンの剛腕を躱しながら弁明するカイトだが聞き入れて貰えず、回避する選択肢しかない。なんだアレは、と言った視線をミラジェーンに向ければ「楽しい人でしょ?」と返ってきて少し遠くに感じてしまうユキノ。

 よく見れば周りの喧騒も次第に鬱憤を晴らすようなものになっており、涙も引っ込んでしまった。冗談の類であるとはわかってはいたが、それでももう少し本心を隠して欲しかった。

 

 

「皆の者、そこまでだ‼︎陛下がお見えになる‼︎」

 

 

 喧騒の中、鞘の先を鳴らして注目をあつめるのはアルカディオス。流石に陛下の前で粗相はできないと全員が手を止め、王が姿を現すバルコニーへと視線が移された。

 

 

「この度の大魔闘演武の武勇と国の危機を救った労をねぎらい、陛下直々にあいさつなされる。心せよ」

 

 

 国王直々の挨拶。それがどれだけ栄誉なことなのかわからないものはいない。先ほどの喧騒が嘘のように静まり、その姿を一目見ようと全員が集中する。そんな痛いほどの静寂の中、バルコニーの奥から現れたのはーーー

 

 

「皆の衆‼︎楽にせよ‼︎かーーーっかっかっかっかっかぁ‼︎」

 

「返すカポ‼︎」

 

 

 王冠とマントを携えたナツであった。どちらも国王のみが着装できるものであり、間違っても魔導士であるナツが着ていいものではない。後ろからマトーくんが必死に取り返そうとしているが身長差で届かず、ナツも気にしていないようでオレが王様だとはしゃいでいた。

 

 

「返すカポ‼︎返すカポ‼︎」

 

「いいだろ、優勝したんだからっ。オレにも王様やらせろよ。オマエラ子分な、あーはっはっはっ‼︎」

 

「…………カ、カイト」

 

「………うん、わかってるよ。おじいちゃん」

 

 

 あまりの絶望に気絶寸前のマカロフ。その要望に応える為にカイトは一度影に潜るとナツの背後へ。そのまま有頂天のナツの頭の上にある王冠を奪い取った。

 

 

「あ、カイト‼︎まだオレが王様だぞ‼︎返せ‼︎」

 

「はぁ………ナツ、君に色々言いたいところだけど、まずはこれだけは言わせておくれ」

 

 

 王冠を奪い返そうとするナツだが、次の瞬間カイト渾身のストレートが顔面を穿ち、天井高く吹き飛んだ。

 

 

「流石にやりすぎだよ‼︎‼︎」

 

「ぎゃぴっ‼︎」

 

 

 バルコニーから墜落したナツ。そして瞬時にフェアリーテイルの面々から拘束と説教を喰らうことに。土下座と謝罪を国王扮するマトーくんに告げれば寛大な心で許しをもらえ安堵のため息を。

 

 マカロフの心臓が止まりかけるようなハプニングを挟みつつ、被り物を脱いだ国王の感謝の言葉も終われば宴は更に激しさを増す。先ほど殴り合った相手と肩を組み酒を飲み、気になっていた相手に絡みにいったり、いつの間にか再びマトーくんへと扮した国王が下に降りてきていたりと中々の混沌ぶりであったが、こうして大魔闘演武は幕を閉じるのであった。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 大魔闘演武から少しして。

 

 馬車に揺られてマグノリアの街へと帰ってきたらフェアリーテイル。そこで待ち受けていたのは街の人々。今回の優勝したギルドを一目見ようと集まったのだ。

 

 大歓迎の中、7年間落ちぶれてゆくギルドに救いの手を差し伸べることのできなかった引き目があるのか、記念品として街中にあったギルドを修繕、贈呈されたのだった。前のギルドよりも大きくなっている事から明らかに改善(リフォーム)もされており、予想だにしなかった贈り物にギルドの面々は大喜び。

 

 

「ワシはこの街が大好きじゃーーー‼︎」

 

 

 感涙を流すマカロフの声と笑い声が響く中、それを高所から嘲笑する影ひとつ。大鴉の尻尾、オーブラの肩に乗っていた小動物だ。

 

 

「キキッ」

 

 

 声ひとつ上げて目指す先はマグノリアの郊外、その森の中。鬱蒼と生い茂る木々を掻き分けて進んだ先にいたのは黒魔導士の祖、ゼレフ。何をするでもなく、ただ虚空を見つめる彼に声がかけられた。

 

 

「やはり大魔闘演武を見ていたのですね、ゼレフ」

 

「声は聴こえず、姿も視えず………だけど、僕にはわかるよ。そこにいるんだね、メイビス」

 

 

 霊体のメイビスはギルドの紋章を持つものにしか認識されない。故にゼレフにはメイビスの存在を捉える事はできないはずなのだが、まるで見えているかの様に2人の会話は繰り広げられる。

 

 

「7年前、あなたは私の近くにいた」

 

「7年前、君は僕の近くにいた」

 

「あなたは、まだ自分の死に場所を探しているの?」

 

「死に場所はもう決まっている。僕は何百年もの間、時代の終わりを見続けてきた。人々の争い、憎しみ、悪しき心………新たなる時代において、それらの浄化をいつも期待する。もう何度めだろう………人々は繰り返す。何度でも同じ過ちを」

 

「それでも人は生きていけるのです」

 

「生きていないよ、本当の意味では。人と呼べる愛しい存在は、もう全滅している」

 

「もう、待つのはやめたのですか」

 

「そうだね、7年も考えて出した結論なんだ」

 

 

 ゆっくりと立ち上がるゼレフは見えないはずのメイビスを過不足なく見据える。影も形も視えないが、どんな表情を浮かべているのかなどわかりきっている。

 少し寂しげに、けれど自身の考えに寄り添うことはできないと覚悟を決めている筈だ、と。そしてそれはその通りであり、メイビスもまた覚悟を決めた瞳でゼレフを射抜く。

 

 

「世界が僕を否定するのならば、僕は彼の王と共にこの世界を否定する」

 

「フェアリーテイルはこの世界を肯定するでしょう。そして、魔王は再び現れることはありません」

 

「あの王はきっとまた僕たちの前に現れる。世界は調和し、再生する」

 

「戦いになるのですか?」

 

「いいやーーー」

 

 

 

「一方的な殺戮になるよ。誰一人として生かしてはおかない」

 

 

「フェアリーテイルが阻止します。滅びるのはあなた方の方です」

 

 

 

 ぶつかり合う2人の敵意。片や世界を、片や相手を滅ぼすことを決めた覚悟に周囲は怯え、草木が朽ち果てる。鬱蒼と茂っていた森は一転、荒野のようになってしまった。

 

 そんな中、ゼレフの口角が少し上がる。迫り来る戦いを夢想してではなく、世界を滅ぼした後の事を考えているでもなく、ただ一人に思いを馳せる。

 

 

(ナツ、決戦の時は迫っているよ)

 

 

 

 

 

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