FAIRY TAIL 〜Those called clowns〜   作:桜大好き野郎

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冥府の門ー③

 

 水晶の様な氷面に映るのは幼い頃の自身。恐らく、ギルドに加入したばかりの頃だろう。夢か幻かという疑問を嘲笑うかの様に同じ動きをする氷面の中の自身は間違いなく今の自身の姿だ。

 

 この氷の影響なのか、それとも第三者による攻撃なのか、それはわからない。しかし、見るかに戦闘力が下がっている現在、やるべきことは仲間との合流だ。第三者にしろ、獣にしろ、襲われたらひとたまりもない。

 そうして踵を返すエルザだが、一歩踏み出した瞬間に滑って転がる。そのまま氷山をつるつると滑りながら麓で漸く止まると打った腰をさすった。

 

 

「むぅ、身体が思うように動かん。身体を動かすイメージと体格に差があるためか」

 

 

 動かし難い身体であるが、何とか仲間と合流を考えたところで近くにいる人物を思い出す。

 カイトである。()()カイトである。こんな姿を見せたら最後、絵に残してギルドの1番見える所に飾られるに決まっている。それもご丁寧に防御魔法をかけてまで。

 完全なる風評被害だが、普段の行いを見れば妥当である。突然の状況で脳の処理が追いついていないエルザ。脳裏には小馬鹿にするナツやグレイ、そんな趣味はない、とジェラールに見向きしてもらえない光景がありありと浮かべていた。

 

 

「何としても戻らねば‼︎」

 

 

 決意を新たに、若干の焦りを覚えつつ立ち上がるエルザ。何とかカイトに見つからず、できればルーシィ当たりと合流できればと踏み出した瞬間であった。

 

 

「あ………」

 

 

 氷面の影に隠れていたのであろう、タイミングよくエルザの目の前に現れたのはカイト。ああ、終わったと絶望するエルザだったが、何か考えるように頭を捻ったカイトはぽんと両手を合わせて鳴らし、目線をエルザと合わせる。

 

 

「お嬢ちゃん、どうしたんだい?親御さんは?」

 

「え?あ、はぐれた………」

 

 

 まさかの質問に一瞬呆けてしまうが、何とか誤魔化す。誰も騙せない様なウソを信じたのかカイトはふーん、と空返事ひとつ。考え込む様に空を見上げていた。

 予想外の行動に面食らったエルザが身構える。まさか気づいていないのか?と疑問を浮かべるが、そんな葛藤とは裏腹に仕方がないかと立ち上がったカイトが温和な笑みを浮かべて手を差し伸べた。

 

 

「こんなところにいたら危ないし、親御さんを探しに行こう。君のお名前は?」

 

「え、えっと、だな…………知らない人には教えるなと」

 

「おや、手厳しい。まぁ、いいや。ほら、これでも羽織ってついておいで」

 

 

 影の中から防寒具を取り出すと下着のシャツ一枚のエルザに羽織らせる。サイズが大きくて裾を引きずる形になっているが、それを確認したカイトは背を向けて歩き出す。後ろ姿に懐疑の視線を向けるエルザだが、この異様な優しさと騙している様な後ろめたさに背筋がむず痒くなる。子供には優しいとは思っていたが、いざ自身がその対象となると気味が悪いとさえ感じてしまう。

 

 

(こいつ、まさか本当に幼女趣味だったのか⁉︎)

 

「失礼なこと考えているようだけど、エルザ。違うからね?」

 

 

 心の中でミラジェーンに諦めた方がいい、と念を送っていた時だった。誤解を解くためのカイトの声が聞こえてきたのは。錆びついたブリキの様な動きでその顔を見ればイタズラが成功したのが嬉しいのか満面の笑み。今のエルザにとっては悪魔の笑みにしか見えない。

 

 

「カッカッカ♪まさか君が幼くなってるとはねぇ。流石に驚いたよ♪にしても、隠す気はあったのかい?あんなしどろもどろな演技じゃ騙せるものも………カッカッカ、恥ずかしいからって蹴らないでおくれ♪」

 

 

 羞恥からかカイトの脛を重点的に蹴り上げるエルザだが、痛がるフリはするも効いている様子はない。これでは埒があかないと剣を換装しようとするが、そこで違和感が。

 いつもなら瞬時に手の中に出現するはずの剣が現れないのだ。カイトを蹴る脚を止め、今度は集中して魔法を発動しようとする。結果として魔法は発動したものの、消費魔力や換装時間がかなり増えていたことが判明した。

 

 

「はぁ、はぁ………カイト、お前は魔法を使えるか?」

 

「ん?そうだね。何の問題もないよ」

 

「とすると、やはりこの姿が影響しているか………」

 

 

 足元の影を操り蛇の様に身体に纏わせるカイトを見て、周囲の空間が影響しているわけではないと当たりをつける。同じく、空間の作用により幼くなった線はカイトを見ている限り可能性は低いと見ていいだろう。

 だとすれば先のトレジャーハンター達の様な第三者の介入。それも、エルザに気配を悟らせないほどの実力を持つ者が相手となる。

 

 

「………カイト、周辺に敵は?」

 

「いるみたいだよ、ほら」

 

 

 カイトも同じ考えだったのだろう。索敵をした結果、新たに2人の反応があった。そしてどうやら近くにいたらしく、巨大な氷柱からその姿を現した。

 1人は大柄な身体に口もとをスカーフで隠した男、そしてもう1人はーーー

 

 

「無様な姿のよう、エルザ」

 

「ミネルバ⁉︎」

 

 

 剣咬の虎から行方を眩ませた筈のミネルバがそこにいた。かつてギルドの紋章を入れていた腹部には別の紋章、闇ギルド夢魔の瞳(サキュバスアイ)が刻まれている。

 

 

「ははーん、なるほど。表でボロ負けしたから今度は闇ギルドに鞍替えした、と」

 

「黙れ!妾は頂きからの景色が好きなのだ、表も裏も関係ない!そして、貴様は必ず殺すぞ、道化ェ‼︎」

 

 

 先ほどまでの嘲笑うかのような余裕の笑みを捨て、怒り心頭とばかりに魔法をぶつけるミネルバ。対して、それさえも嘲笑の種なのか悠々とそれを防ぐと両手をポケットに入れて完全に後の先待ちに入る。浮かべた薄笑いも相まって完全に舐めプの様にしか見えない。

 

 知名度回復には程遠いな、と諦めた様にドン引きするエルザがそこにいた。カイトとしては煽って冷静さを欠いた方が戦いやすいだけで、別にミネルバに対して表からドロップアウトした憐憫も責任も何も抱いていないのだが。

 

 

「チィッ‼︎ドリアーテ‼︎奴に魔法をかけよ‼︎」

 

「はぁー………別にてめぇの部下じゃねぇんだわ」

 

 

 今まで静観していたドリアーテと呼ばれた男、推測としてエルザを幼くした相手がようやく動き出す。

 

 

「さぁさ、返れや返れ。遠き日の思い出に」

 

「カッカッカ、させないよ」

 

 

 足元から伸ばした影がドリアーテを襲う。しかし、それをミネルバが防ぎカイトの弱体化を今か今かと待ち望んでいた。けれど、望んだ効果は現れず、上空から狙いを定める鴉の群れがその身を使って2人に突撃。困惑するのも束の間、続けるように正面から影の大蛇が迫ってくる。

 

 

「チィッ‼︎」

 

 

 思うようにうまくいかないと舌打ちひとつ溢し、ミネルバによる転移を。外れた攻撃は大地にぶつかるや否や消えてしまった。

 

 

「なんのつもりだ、ドリアーテ‼︎」

 

「誤解なんだわ。オレの攻撃は間違いなく当たってるんだわ」

 

「チィッ!ならば、(デコイ)か‼︎」

 

 

 そう訝しみ当たりを見渡すミネルバだが、本体は見つからない。そも、元より本体が戦っているので偽物も何もないのだ。

 

 

「カイト、お前は何ともないのか?」

 

「んー………異常なしだねぇ」

 

 

 手を握ったり開いたり、首を回して異常を探すが特に問題はなく。悪魔故なのかはわからないが、どうやらドリアーテの魔法は自身に効果がないと当たりをつける。ならば、ここで倒して魔法を解除させようと狙いを定める。

 

 

「はぁ………作戦変更なんだわ」

 

「ドリアーテ、貴様何を⁉︎」

 

 

 このままでは勝ち目が薄いと感じたのだろう。目の前のミネルバに己の魔法、退化の法をかけるとみるみるうちに少女へと姿を変える。

 困惑するミネルバの襟首を掴むと、躊躇いなくカイトへと向けて投げ渡した。攻撃しようとしたカイトだが、飛んでくるのは幼子。一瞬の硬直のあと、本能的に飛んでくるミネルバをキャッチした。

 

 

「カイト‼︎」

 

「チッ‼︎」

 

「っ‼︎させるものか‼︎」

 

 

 その隙に逃げ出したドリアーテを追いかけようと腕の中のミネルバを降ろして走り出そうとするが、裾を掴まれてそのまま転倒。悪魔を拒絶する氷は遠慮なくカイトの顔面を焼いた。

 

 

「っーーーー‼︎⁉︎」

 

「ええい、邪魔を‼︎」

 

「うるさい‼︎奴に利用されるのは腹立たしいが、貴様らに邪魔されるよりはマシじゃ‼︎」

 

 

 突然の痛みに悶えるカイトの背後で、その小さな身体で取っ組み合いをするエルザとミネルバ。どう足掻いても子供の喧嘩にしか見えない。もしカイトが目撃していたら笑いながら観戦するだろうが、痛みのあまりそちらに意識を向ける余裕はない。

 結局、自体を収拾するのに5分の時間を有するのであった。

 

 

「あー………酷い目にあった」

 

 

 転げ回って被害を増やし、それも漸く回復。未だヒリヒリと患部が痛むがそれはさておき。子供の喧嘩のような取っ組み合いを続ける2人を影の手で引き離すとこれからどうするかを考える。

 

 

「ええい、離せ‼︎妾を誰だと心得ておる‼︎」

 

「闇ギルドの一員だろう、今は。はぁ、さっきの奴も見逃すし、どこを探せばいいやら」

 

「魔法で探せないのか?」

 

「地上ならまだしも上空はねぇ」

 

 

 ちらりと空を見上げると、遠くに浮かぶ鳥のような何か。嘴はなく、牙のついた口は明らかに肉食性の単眼のモンスター。まさしく怪鳥と呼ぶべきそれが空を自由に飛び回り上空からの捜索を阻害するのだ。

 地上の影犬の捜索も著しくなく、途方にくれるしかない。

 

 

「まぁ、こっちはこっちで尋問といこうか」

 

「ハッ‼︎口を割ると思うたか‼︎」

 

「いや、その格好で言われてもねぇ」

 

 

 突如小さくなったからだろう。サイズの合わなくなった服が辛うじて垂れ下がっている状態であり、ほぼ半裸。それに加えて首根っこを掴み上げられている姿は気性も相まってノラネコのようにしか見えない。

 「貴様のせいだろう‼︎」と暴れるが拘束が解かれる様子はなく、どうやらこの魔法は抵抗力さえ退化させるらしいと当たりをつける。

 さてどう尋問したものかとカイトは考える。流石にこの状態での暴力沙汰は本能的に嫌うので吐くまでくすぐるのが限度だが。

 

 

「待て、カイト。少し話がしたい」

 

 

 さて、尋問をと行動しようとしたところでエルザからの待てが入る。カイトの背後にいたエルザが前に出てミネルバに近づくと、苦虫を噛み潰した顔で出迎えられた。

 何せ最強への足掛かり、無自覚の内にライバルと認めている相手にこんな無様な姿を晒しているのだ。屈辱である。

 

 

「なぜ、闇に堕ちた」

 

「言ったであろう。闇も光も関係ない。妾は最強となるため、ここにおる」

 

「友を、愛する仲間を捨ててまで?今からでも遅くない、闇から抜けろ。ミネルバ」

 

「ハッ!そんなもの、最強への枷としかならぬ‼︎仲間など、妾には無用‼︎」

 

「はぁ………時間の無駄だったねぇ」

 

 

 ここでいくら言葉を重ねてもミネルバの思いは変わらない。最強の為、その頂きに立つためならばその身をいくらでも汚し、全てを捨て去るだろう。まだ対話は可能だと諦めきれないエルザが「待て‼︎」と制止するが、流石にこれ以上時間はかけられない。ここに来た目的と、解決の糸口を聞き出そうとして影の手を伸ばした瞬間だった。

 

 吊るされたミネルバの身体が一回り大きくなる。見間違いかと思いきや、隣のエルザも同じように成長を。その速度は加速度的に進み、カイトが危険だと判断した時には既に元の身体に戻っていた。

 

 

「チッ‼︎」

 

 

 成長と共に拘束は意味をなくし、反射的に防御を。一拍遅れて爆炎が2人を襲った。

 

 

「ドリアーテめ、やられたか。しかし好都合‼︎ャグドーーー‼︎」

 

「させん‼︎」

 

 

 大魔闘演武で見せた巨大な石像の召喚。それをこの場で展開されては周囲の巨人たちにも影響が及ぶ。素早くエルザがミネルバの前に躍り出ると剣を横一閃。躱すことに成功するミネルバだが、魔法の発動はキャンセルされた。

 

 

「ハハハ‼︎いいぞ‼︎あの時の決着、今こそ付けようぞ‼︎」

 

「望むところ‼︎」

 

 

 変幻自在に空間を操るミネルバと、状況に合わせて武器や武具を取り換えるエルザ。まるで踊るように戦闘を繰り広げる2人だが、しかしどうにも滑稽に見えてしまうのはなぜかとカイトは考える。というより考えるまでもなく、2人とも下半身丸出しだからなのだが。

 退化した影響で2人とも身につけていたのはシャツ1枚やほぼズレかけの上着のみ。そのまま成長したものだから、下着などはずれ落ちたまま。白熱している両者は気づいていないようで、集中しているせいか声も届かないだろう。

 

 

「カイト‼︎周囲への防御は任せたぞ‼︎」

 

「ああ、うん………」

 

 

 本人たちが真剣でいればいるほどその滑稽さが際立つ。被害に合いそうな巨人や建物に防御魔法を貼りながらも視線は2人へ。いっそのこと大爆笑でもして認識させた方が優しさなのだろうか?そんな事を考えているとふと、風に乗って匂いを感じた。

 

 

「ん?」

 

 

 微かではあるが鼻腔をくすぐるのは自身と同じ、悪魔の匂い。吸血鬼(同族)ではない、別種の悪魔だ。まさか自身以外にこの場に悪魔がいるとは思わず、一瞬意識がそちらに向くが続くようにして獣の雄叫びが遠くから聞こえた。

 

 

「なっ⁉︎」

 

「くっ、またか‼︎」

 

 

 再び子供の姿となる2人。それでも争うことは辞めず、素手による喧嘩を。ギャーギャーと騒ぎながら取っ組み合う2人は昔のギルドの風景を見ているようで和んでしまうが、意識は雄叫びの聞こえた方角へ。

 影犬をそちらへ飛ばし様子を伺えば、そこには小さくなったグレイとドリアーテと思わしき怪物の姿。元の姿から2倍は身体が膨らみ、今のグレイならば一口で食べてしまいそうな大きな口と下顎から生えた鋭い2本の牙。魔法越しではあるが、匂いの正体は間違いなくドリアーテである。

 

 

(同種ではないけど、俺と同じ悪魔。それも、俺より断然匂いが濃ゆい‼︎)

 

 

 助けに行こうにも距離は遠く、また確実に迷子になってしまう。今できることは影犬によるサポートだけだ。

 転ぶグレイを叩き潰さんとばかりに跳躍し、岩石のような拳を振り上げるドリアーテの横を一匹が通り抜け、そして急いで集めた残る九匹の影犬が攻撃を仕掛ける。しかし、本来ならば索敵用の魔法。攻撃力は据え置きでありダメージも妨害も与えられない。

 煩わしいとばかりに振るわれた拳で九匹は消え、残る一匹が何とかグレイを咥えて距離を取ることに成功した。

 

 

「うおっ⁉︎こいつはカイトの………すまねぇ、助かった!」

 

 

 こちらの声を届けることはできず、ただ返事をするように影犬が鳴く。そんな中、敵から視線を逸らさなかったグレイは確かに見た。振るわれた拳が凍った地面に触れる直前、意図的に動きを止めた事を。

 

 これまでの戦闘の中でドリアーテの弱点が周囲の氷だということは確実。ならばこの村の氷の魔力をぶつけることができるならば問題はない。しかし、問題はどうぶつけるかだ。

 

 今も尚追いかけるドリアーテは周囲の氷に触れることなく、また罠を周囲の家屋を倒壊させて生き埋めにしようにもそんな暇はない。せめてこの村の氷を操る事ができるのなら、と考えるがそれができたら初めから苦労しない。

 

 

(いや、できる‼︎)

 

 

 氷を溶かすことは出来ずとも、自身を通じて魔力をぶつけることならば攻撃力の下がった今の状態でも可能。

 不気味な魔力、そして幼少期のトラウマでもある故郷と師匠を滅ぼした悪魔デリオラを思い出させる巨体。それに臆してやろうとしなかっただけだったのだ。

 

 

「カイト‼︎オレをアイツの足元で降ろしてくれ‼︎」

 

 

 グレイの言葉に驚くように影犬の目が点となる。スピードはこちらに部があり逃げ切れている現状、そんな自殺行為を認める訳にはいかない。しかし、確信めいたその瞳に折れたのだろう。喉奥から不承不承とばかりの唸り声を鳴らすと反転、ドリアーテへと一直線に向かう。

 

 好機とばかりに大きく振るわれた拳。それがグレイたちに向かう直前、影犬の姿が大量の蝶へと姿を変えた。直後起こる爆発。しかし規模は小さく、せいぜいが目眩し。そして理性の飛んだドリアーテにそんなものは効かない。本能のまま、目の前の敵を殺さんと構わずに拳を払った。

 

 しかし、煙が晴れた瞬間、そこにグレイはいない。どこだと探すよりも早く、自らの脚に何かが触れる感触。爆発を利用したグレイはその小さな身体を活かし、ドリアーテの股下を潜っていたのだ。

 

 

「ォォオオオォオオオ‼︎」

 

 

 地面につけた片手から氷の魔力を造形。そしてそのエネルギーを自らの身体を通し、ドリアーテへとぶつけた。目論見通り、この攻撃は有効で悪魔であるドリアーテには大ダメージ。変質した身体も元に戻り、同時にグレイや他の皆にかかっていた退化の法は解除されるのだった。

 

 身体を通った氷の魔力。その不気味さの中に感じるナニか、そしてドリアーテの正体。気になる事が増えたが、とにかくこの村を復活させる目安はついた。急ぎ皆と合流を、と走り出そうとしたグレイの耳が不吉な声を拾う。

 

 

「カッカッ………おまえらは開いちまったんだわ、冥府の門を………」

 

 

 倒したはずのドリアーテ。流石に立ち上がることは出来ないようだが、まるで勝ち誇ったかのようにこちらを嘲笑う姿は不気味の一言。

 

 

「もう後戻りはできない。そして………」

 

 

 言葉を続けようとした瞬間、空から降り立つ怪鳥がドリアーテを喰らう。まさかの自体に身体が膠着するが、怪鳥の視線はグレイへ。間違いなく次の獲物と見定められた。

 しかし、今は無駄な魔力を使っている暇はない。ナツかエルザ、カイトと合流を果たし、自身は村の復活を優先せねば。怪鳥に背を向けたグレイは一目散に走り出すのであった。

 

 

◇◆◇◆

 

 

 影犬を蝶へと変え爆発させたことにより補助が不可能となったカイト。しかし、グレイは無事に相手を倒したのだろう。その証拠に目の前のエルザとミネルバは元の姿に戻っている。後はこの氷を何とかできればと考えるが、今のところ残りのメンバーが何かを掴んでいることに期待する他ない。

 自身がやることは、戦う2人にそろそろ現実を突きつける事だろう。

 

 

「はいはい、2人とも。戦うのはいいけど、そろそろ下は履いた方がいいんじゃない?見てるだけで寒いよ」

 

 

 注目を集める様に手を鳴らし、それでも反応がないので2人の間に影の巨腕を出現させて一旦止める。怒気を孕んだ視線がぶつけられるがその言葉で気がついたのだろう。2人の手が止まり、次いで女性らしい甲高い羞恥の悲鳴が辺りに響いた。

 

 

「やっと気がついたのかい?ほら、服は回収してるから早く着替えちゃいな」

 

「待て!貴様、なぜ妾の服を⁉︎」

 

「それより、なぜ早く言わなかった⁉︎」

 

「何度か言ったよ?聞かなかったのは君たちだろうに」

 

 

 必要になるだろうと回収していた衣服を2人に渡し、着替える間一時休戦。まさか露出癖(グレイ)ならまだしも、エルザまでそんな趣味をと冗談めかしでぼやけば飛んでくるクナイ。

 頭部に突き刺さり鮮血がカイトの顔を流れるが下手人は見向きもせず、互いに着替え終わって向き合うが空気は気まずい。今の今まで戦闘に集中していたから特に。

 

 互いに様子を伺うが、どちらも動く様子はなく、未だ羞恥心が燻っている状態。どうしたものかと悩んでいると村の中心、永遠の炎があった山が消えた。呆気に取られている間も無く次いで爆炎。そして猛々しい炎が山の様に燃え上がると、暖かな熱が周囲を包み込む様に広がった。あまりの温度差に一瞬腕で視界を防ぐが、危険がないと視界を開ければ白銀の世界は一変、緑萌ゆる村へと変貌しているではないか。

 

 

「ん?珍しい。人間が村に迷い込んでおる」

 

 

 変化は村だけではなく、当然ながら凍っていた巨人たちも解放された。腰を屈めても尚巨大なその丈はまるで象と蟻程の差。勝ち目は薄いと断じたのだろう。舌打ちひとつ溢すと踵を返すミネルバ。

 

 

「おっと、返すわけーーー」

 

「いい、やめておけ」

 

 

 逃すわけにもいかないと拘束しようとするカイトだが、それを止めるエルザ。このまま拘束して評議院に突き出すのは可能だろう。しかし、それではミネルバは救われない。暗い牢獄の中で最強の妄執に埋もれるだけだ。

 ここで見逃して、ここでの会話を思い出して、変わってほしいという願いが伝わったのだろう。「………はぁ、わかったよ」と渋々魔法を解除。

 

 

「闇に染まるな‼︎お前はそんなに弱くないはずだ‼︎」

 

「闇には染まらぬ。妾が世界を闇に染める。いずれ、最高の舞台で決着をつけようぞ」

 

 

 投げかけられたエルザの言葉に耳を貸さず、それだけ言い残して森の奥へと完全に姿を消した。

 

 

「…………エルザ」

 

「わかっている。もしもの時は私が全責任を持つ」

 

「なら、いいけど」

 

 

 咎める視線にそう返されては、続ける言葉はない。兎も角、事情を読み込めたいないのだろう。疑問を頭に浮かべる巨人たちに説明と、永遠の炎を復活させたのであろう他のメンバーと合流するためカイトとエルザは動き出すのであった。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

「わはははは‼︎」

 

「わっはっはっは‼︎

 

「わーはっはっはっは‼︎」

 

 

 永遠の炎復活からしばらくして。

 無事、皆との合流を果たす事ができ、全員の無事を確認。巨人たちも氷の呪縛から解放された後は目立った怪我はない。そうして事情を説明している最中、ナツが巨人たちと意気投合。頭の上で笑い合うしまつである。

 

 元々、友好的な巨人たちであるが、今回は救われた恩もあり、別種族であるフェアリーテイルも交えた宴会へと発展していた。

 

 

「すっかり馴染んじゃって」

 

「カッカッカ、ナツの長所だね♪にしても、滅悪魔導士(デビルスレイヤー)ねぇ」

 

 

 今回の元凶は突如として現れた滅悪魔導士を名乗る男。たった1人で乗り込んできた彼は永遠の炎を悪魔と断じ、村全体を氷付けにしたらしい。永遠の炎の正体は大魔闘演武でも戦った、獄炎竜アトラスフレイムだったので悪魔そのものではないのだが。

 

 犯人の勘違いによる犯行。何とも間抜けな話になってしまうが、その真意はわからない。ドリアーテが最後に残した冥府の門は開かれた、という言葉から犯人は3大闇ギルドのうちの一つ、冥府の門(タルタロス)の関係者だろうと全員が当たりをつけていた。そして、下部組織である夢魔の瞳に護衛を任せた、というところだろう。

 

 

「何か別の理由があって村を凍らせたって事?」

 

「そうね、まだ何か裏がありそう」

 

「カイト、冥府の門について何か情報はないか?」

 

「あそこは輪をかけて謎だからねぇ。与太話程度しかないよ」

 

 

 例えば構成員が全員悪魔であったり、ギルドは常に動き回っているだの、国の中枢にも構成員がいるだのとその実態は一向に掴めない。闇ギルド全体がそうであるが、冥府の門は特に顕著だ。

 

 しかし今回、ドリアーテという悪魔がいたことから全てが嘘ということはないらしい。どこまで本当なのかはわからないが、情報を精査する必要があると頭の片隅で考えるカイト。

 

 

(そして、アトラスフレイムが残したENDという言葉………)

 

 

 その身は既に朽ちているが、ウェンディのミルキーウェイにて言葉を交わす事ができたナツたち。そして消える直前に残したのは「イグニールはENDの破壊に失敗した」というもの。

 古い文献には強大な力を持つ、ゼレフの作り出した悪魔という事しかわかっておらず、今尚存在しているのかも怪しい代物。今回の件と何か関連があるやもと考えるが、正直な所キャパオーバーなので放り投げてしまいたい。しかし、ナツから調べてくれと頼まれているからと余計に頭を抱えるカイト。

 

 

「まぁ、とにかく依頼完了だ‼︎」

 

「あいさー‼︎」

 

「能天気なアンタ達が羨ましいわ………」

 

 

 既に何度も闇ギルドとぶつかった経験があるのだ。今回もまた目をつけられたかと思うとルーシィの胃が痛む。ポンとその肩を優しく叩いたカイトは全てを受け入れたようで、諦めたように空を見上げていた。

 

 

「あれ?そう言えばフレアは?」

 

 

 森で風精霊の迷宮に追い込まれていたルーシィとウェンディ。それに助太刀をしたのが元大鴉の尻尾であり、この村を故郷とするフレアだった。大会ではフェアリーテイルを妨害し出場権を剥奪された大鴉ではあるが致命的な犯罪は露見しておらず、そのまま2年間の出場停止処分のみとなったのだ。

 それを機に脱退し、故郷へと帰ってきたフレア。氷に覆われた村を救おうと尽力したのは間違いなく、喜びを分かち合おうとしたがその姿はどこにもない。

 

 

「ああ、そこの木の影に隠れてる人のこと?」

 

「いた‼︎」

 

 

 夢魔の増援が来ないか魔法で周囲を偵察するカイトには見つかっていたらしく、近くの木の影で後ろめたさ全開で隠れている赤髪の女性こそ、間違いなくフレア。大会では苦渋を飲まされたが、彼女にも事情があったのだと理解したルーシィに恨みはない。どころか、手を貸してくれた恩もあり友達だと思っているのだ。

 

 

「なんで隠れてるの?」

 

「…………」

 

 

 ルーシィの問いに答える様子なく、より一層抱えていた膝を抱きしめる。じれた様に「ねぇ、フレア」と再度ルーシィが名を呼べばそれが聞こえたのだろう。談笑していた筈の巨人たちが血相を抱えて立ち上がる。

 

 

「なに⁉︎フレアだと⁉︎」

 

「そこにおるのか⁉︎」

 

「ホラ、久しぶりに帰ってきたんだし」

 

「私……この村捨てた………勝手に出て行った………だから……」

 

「大丈夫だよ、怒ってなんかないって」

 

 

 木の影から引きずり出したルーシィがちらりと巨人達の顔を伺えば、皆険しい表情。逆光も相まって友好的には見えず、思わず「たぶん………」と自信を無くしてしまった。

 

 

「本当にフレアなのか?」

 

「久しいな………」

 

「大きくなったが、まだワシ等より小さいな」

 

 

 自身よりも小さなフレアの姿を一眼みようと所狭しと集まる巨人たち。その視線に居心地が悪いのかルーシィの影に隠れようとするフレア。少しして村長であろう先頭の巨人が痺れを切らしたように口を開いた。

 

 

「外の世界はどうだった?」

 

「た、楽しい事も……辛いこともいっぱい………」

 

 

 怒鳴られる事を覚悟していたのに、まるで気にしていないと言わんばかりの質問にしどろもどろになりながらも答えたフレア。その言葉に笑みを浮かべた巨人たちはその身を縮める。

 

 

「それはどこにいても同じだ。生きている限りな」

 

「出ていこうが、戻ってこようが、ここがお前の家だ」

 

「ウム。しかし何だ、これだけは言っておかんとな………」

 

「「おかえり、我等が娘よ」」

 

 

 フレアの家出など誰も気にしておらず、快く迎え入れる巨人たち。それに対し「ただいま」と、数年振りになる満面の笑みを浮かべフレアは涙を流すのであった。

 

 その夜は飲んで食べての大騒ぎ。氷の牢獄からの解放、そして数年振りの娘の帰還。騒ぐには十分すぎる話題だ。夢魔の瞳にEND、そして冥府の門。不吉な単語が並ぶ中、今この時ばかりは忘れようとより一層宴を楽しむのだった。

 

 

 

 

 

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