FAIRY TAIL 〜Those called clowns〜 作:桜大好き野郎
太陽の村での宴も終わり、一同は別れを告げると依頼主であるウォーロッドの元へと。約束の報酬とは別に、冥府の門との戦闘は疲れただろうと温泉をいただく事となった。
人目を憚るように湧いていたこの秘湯、景観がイマイチだとウォーロッド自身が周囲を作り替えたことで緑豊かな絶景を楽しむことができる。温泉の暖かさもあり、自然と肩の力が抜け天を仰ぐカイト。
「いやぁ、極楽だねぇ♪」
「あい」
「お前、今回活躍したか?」
「カッカッカ、そこはほら、グレイのサポートを、だね………」
地味に気にしていることをナツに突かれて視線を彷徨わせるカイト。実際、半分以上凍えていただけなので活躍したかは微妙ではあるが、サポート役としては十分な成果をあげただろうと自己弁護を。
「それにしても、今回は参ったよ。まさか滅悪魔導士、なんてのがいるとはねぇ。できれば会いたくないものだよ」
「ビビってンのか?」
「カッカッカ。ナツ、もしかして喧嘩売ってる?」
「お?やるか!」
「風呂ン中で暴れンなよ、鬱陶しい」
「ああ⁉︎スカしてンじゃねぇぞ‼︎」
煽られた事に少し反応してしまえば、待ってましたとばかりにナツが立ち上がる。それをグレイが苦言を漏らせばいつもの様に始まる2人の喧嘩。ばっちゃばっちゃと水飛沫が跳ねて隣にいるカイトはモロにそれを浴びる。
毒気が抜かれたカイトは、風呂場を壊されては溜まったものではないと2人を止めようとした時だった。
「わぁー‼︎すごい‼︎」
「絶景だな」
「素敵ですね」
湯煙の奥、脱衣所の方向から聞こえてきたのは女性陣の声。てっきり別の場所にも秘湯があると思っていたが、どうやらそうではないらしい。まさかの遭遇に喧嘩していた2人も固まる。
さて、どうしたものかとカイトは考える。取れる手段は1、逃走。2、声をかける。3、素知らぬ顔をする。1は同じ空間にいる以上不可能だろう。湯煙があるとはいえ動けば波紋は広がる上、水音か鳴る。2はやめておいた方が無難だろう。エルザはまだしも、ルーシィやウェンディがどんな反応をするかわからず、思わぬ反撃を喰らうやもしれない。そうなると残るのは3。だが、これも見つかれば間違いなく反撃を喰らう。
どうやら茹だった頭ではまともな策は思いつかないらしい。諦めの境地に達したカイトは静かに目を閉じて湯加減を楽しむ事にした。
「仕事の後のお風呂って最高だよね」
「疲れた心と身体を癒し、また明日へと気持ちを切り替えられるしな」
「でも、なんかナツさんやグレイさん、カイトさんに悪いですね」
「いーのよ。アイツら、どうせ温泉になんか興味ないでしょうし」
「いや、そうでもねえぞ」
「たまにはこういうのも気持ちいいモンだぜ」
「あい」
「カッカッカ♪」
まさかこちらから声をかけるとは。思わず笑い声を上げて、夜空に輝く星々を見つめる。まぁ、風呂場に入ってきた時点で状況は詰み。素直にここにいるという事を示した方が幾分かマシなのだろう。
「きゃああああっ‼︎‼︎」
「何勝手に女湯に入ってんのよーーー‼︎」
数拍の静寂の後、絹を裂くようなウェンディの悲鳴とルーシィの怒号がよく響いていた。投げられた木桶がスコーンと音を立ててカイトの顔に当たるが応えた様子はない。
「あれ?言っとらんかったかの?混浴じゃと」
「堂々と入ってくんなーーー‼︎‼︎」
さも当然とばかりに入浴するウォーロッド。ルーシィのツッコミもなんなその。湯船に浸かり感嘆の声を漏らす。
「ちょっと、男子は出ていきなさいよ」
「そうです‼︎恥ずかしいです〜」
「おまえの裸なんか見飽きてる」
「新鮮味はねえな」
「カッカッカ♪あれ?でも君たち、一度覗こうとしてなかったっけ?」
「アレはあれだ」
「イベント事態を楽しむっつーか、そんなトコだ」
天狼島から帰還した後、特訓の下宿先でその様な事をしようとした覚えはある。てっきり誰かしら目的の人物がいるのかと思っていたが、そうではないらしい。顔を赤らめて視線は彼方を見ているが、きっとその場のテンションだったのだろうと納得。
湯船に肩まで浸かり身体を隠そうとするルーシィとウェンディをちらりと見る。普段から酷い目に会って半裸、もしくは裸になる確率の高いルーシィ。なるほど、ナツとグレイの言い分はよくわかる。口に出せば後が怖いので黙っておくが。
「まぁ、落ち着けみんな。仲間同士だ、これぐらいのスキンシップは普通だろう。しかし、カイト。お前はダメだ」
「カッカッカ♪扱い違いすぎない?」
「仕方がないだろう。お前と一緒に入ると、ミラがうるさいのだ」
エルザの言葉に、ああ、と納得するルーシィ。この2人ならば恋愛やその場の雰囲気で、と言うことはないだろうがやはり気に食わないのだろう。実際、過去エルザたちが幼かった頃、カイトと入浴したと聞いたミラジェーンは烈火の如くエルザに詰め寄った実績がある。
一緒に入るか誘ったが、できるわけないだろうと余計にキレていたのも今は懐かしいと追想するエルザ。
「おや、そうなのかい?はぁ、なら出るしかないか………ん?」
仲間はずれにされるのは辛いが、それで喧嘩になるのも困りもの。仕方がないと立ちあがろうとするカイトだったが、その手がそっと握られた。視線を向ければウェンディ。顔を真っ赤にしていっぱいいっぱいなのだろう、「あの」「その」「えっと」と引き止めようとする言い訳が上手く出てこない。
裸を見られるのは恥ずかしいが、これは少しでも意識してもらうチャンスではないのだろうか。そんな考えの元動いたウェンディだったが、素直にそんなことが言えるわけがない。結果として固まるしかないのだ。目尻に涙が浮かんでいよいよ泣きが入ろうとした所で、観念したように薄く笑うとその場に座り直すカイト。
「エルザ、今回だけ特例って事でダメかな?」
「…………まぁ、依頼の報酬だと言えばミラも納得するだろう」
パァっと明るくなったウェンディの表情に笑みを返し、湯船を堪能するカイト。それにドキドキしながらそっと肩を寄せるウェンディを、ルーシィは温かい目で見守っていた。
「そうだ。久しぶりに背中を流してやろう」
「いっいいよ‼︎」
「もうガキじゃねえんだ‼︎」
恥ずかしさからか遠慮するナツとグレイだったが、そんなものがエルザに通用しないことなど本人たちが1番わかっている。結局、じゃんけんに負けたナツがずるずるとエルザに連れて行かれる羽目となった。
「ほっほっほ。仲間とはいいモンだのう」
「あんたは違うでしょーが‼︎」
「おや?そうか、まだ言っとらんかったか」
湯船に付けた左腕を徐に上げるウォーロッド。そこには紛れもないフェアリーテイルのギルド紋章。
「ワッシはメイビスと共にフェアリーテイルをつくった創世記メンバーの1人。君らの大先輩じゃよ」
その言葉に、その紋章に全員が絶句する。同時になぜマカロフがあれだけ粗相のないように、と念を押していたのか判明した。今のギルドの屋台骨となる人物なのだ。必要以上に畏るのも仕方がない。
「それでウチのナツとグレイを指名されたのですね」
「ウム、いかにも。君たちがワッシの家を訪れたとき、ほのかに懐かしきギルドの古木のにおいがした…………というのは冗談じゃが」
「話が進みませんね………」
「カッカッカ。ある意味ウチのギルドらしいけどねぇ」
水面を叩き笑うウォーロッドにげんなりとする面々。けれど、一呼吸置いた後昔を懐かしむ様に朗らかな笑みを浮かべたウォーロッド。
「君たち若き妖精に会えて、ワッシは本当に嬉しいのだ。メイビスの唱えた和、血よら濃い魂の絆で結ばれた魔導士ギルドフェアリーテイル。その精神は時が流れた今でも君たちの心に受け継がれておる。それは仕事の成否にあらず、君たちを見た時に感じた事」
かつて創設者であり初代マスターであるメイビスは言った。
仲間とは言葉だけのものではない。仲間とは心、無条件で信じられる相手。
どうか私を頼ってください。私もいつかきっと、あなたを頼る事があるでしょう。
悲しい時も、辛い時も、私が隣についてます。
あなたは決して1人じゃない。空に輝く星々は希望数。肌に触れる風は明日への予感。
さあ、歩みましょう。妖精たちの詩に合わせて………
きっと、当初から変わらなかったのだろう。仲間を思いやる気持ちは。涙を流す仲間の背を撫でてあげるのは。1人の不幸を皆で背負おうとするのは。
そんなギルドだからこそだろう。カイトがこうして腰を落ち着けているのは。恨み骨髄とばかりに怨嗟を撒き散らさないのは。
それは皆の胸にも響いているらしく、それぞれが何かを考える様に空を見上げていた。
「フェアリーテイル創始の言葉かぁ。なんか感慨深いものがあるわね」
「つーことはアレか⁉︎じっちゃんより年寄りなのか⁉︎」
「失礼だぞ、ナツ」
「いや、もしかしてそんな昔の人だとさ、ENDって悪魔の話知ってるかなって」
エルザの背中を流しながら、何かヒントを得ることができればと淡い期待を寄せるナツ。しかし、ウォーロッドもそれが何かは知らないらしい。だが、悪魔と聞いてひとつ、今回の冥府の門に心当たりがあった。
「フム………時にカイトくん。君は冥府の門についてどこまで情報を得ておる?」
「うん?そうだねぇ。世間一般的な噂話程度だよ。構成人数不明、本拠地も不明、けれど確実に存在しているギルドだよね」
「そうじゃ。そして何度か集会を目撃したものは皆口々にこう言う。あれは悪魔崇拝だと。これは我々イシュガル四天王の推測ではあるが、奴等は強力なゼレフ書の悪魔を保有している可能性がある」
なるほど、と顎に手を当てて思考する。条件は様々だが、ゼレフ書の悪魔を召喚できればそのギルドの戦略は大幅に上がる。過去に遭遇したララバイも使い所を間違えなければギルドマスターの大量虐殺を起こしかけたのだ。
今回太陽の村を凍らせたのは召喚の一環、もしくは対策されないように妨害したのか。可能性はいくつかあるが、どうにしろ冥府の門が動き出しているのは間違いない。まずは評議院に報告するべきかと警戒するカイト。
「そっか………どこにいるかわかんねーってんならやりようがねぇな‼︎くそっ‼︎見つけたら叩き潰して吐かせてやる‼︎こうやってギッタンギッタンに‼︎‼︎」
ENDを追えばイグニールの所在がわかるかもしれない。そんな期待を持つナツだが対象不能という事に怒りを溜めていたのだろう。想像の中の冥府の門を叩き潰す勢いで拳を振り回す。
しかし、怒りのあまり忘れているのだろう。自分の目の前に誰がいたのか。自分が何を叩いているのか。
「おい、ナツ………」
「ア?」
ドン引きするかの様にグレイから声をかけられて漸く周りを見る事ができたナツ。場の空気は凍りつき、これから何が起こるのか予想しているのだろう。皆一様にナツからあからさまに距離を取っていた。
何なんだと正面を見て呼吸が止まる。そして見なければよかったと後悔した。
「ほう」
背後からボコボコにされ、石畳の床の上で倒れるエルザ。しかし、その鋭い眼光は下手人であるナツを睨みつけ、握った拳が石畳を抉るほどの威力を溜め込んでいた。
後悔先に立たず。逃走も反抗も抵抗も許されず、星あかりが照らす夜空にナツの悲鳴が響くのであった。
◇◆◇◆
ゆっくりと持ち上げられたティーカップ。白い陶器に青で豊かな街並みが描かれたそれは高価なもので、注がれている紅茶も視覚的に楽しませてくれる一品。口の前に持ってきたそれから登る湯気を鼻腔に通せば、薫ってくるのは柑橘系の爽やかな香り。少しばかり汗ばんでいた所であり、この香りは気分を入れ替えてくれる。
香りを十分に楽しめば本命の紅茶へ。音を立てずに飲む姿は手慣れたものであり、その者の教養がしっかりと見てとれた。けれど、その流麗な仕草とは裏腹に、カップを持つ人物はあまり褒められた体型をしていない。
食事量と運動量が釣り合ってないのだろう、全体的に丸い身体。オブラートに言えばふくよか、悪意を持って言えば豚のような彼の名はデブルー公爵。
フィオーレ王国がまだ小さな小国だった頃から国を支えてきた古い歴史を持つ、正真正銘の
そんな男の対面に座るのは黒い長髪と浅黒い肌の男。デブルー公爵とは肌の色も体型も正反対で、その金の双眼は閉じられて温和な笑みを浮かべていた。同じ貴族ではあるが立場としては明確な差があり、爵位は男爵。もし公爵の機嫌を損ねれば難癖つけて領地を奪われる可能性もあるために今回の持てなしには最新の注意を払っていた。
カチャリ、と小さな音を立てて置かれたティーカップ。一息ついたデブルー公爵が話を始める。
「ふぅ、中々に美味しい紅茶だった」
「それはなにより。公爵様にお褒めいただけたと、使用人たちに伝えておきます」
「そうしておくれ。それで、話とは何かね?」
「えぇ、ご足労頂いたのですから、それなりに価値のある話を」
ぱんぱんと、男がひとつ手を鳴らせば次いで聞こえてくる控えめなノック音。入ってくるように促せばそこにいるのは目も眩むような美女。黒いベールから覗く端正な顔立ち。ベールから伸びる艶やかな黒髪、そして何より目を引くのはその女性らしさを体現したかのような胸部。
立場上、美女というのはそれなりに見ているデブルー公爵であるが、それでも尚生唾を飲んでしまうほどの美貌。惚けて視線が釘付けとなるデブルー公爵を気にする事なく、顔を伏せたまま物静かに男の座るソファーの隣に立つ女性。
「彼女はセイラ。私の娘です」
「お初にお目にかかります、公爵様」
「こ!これはこれはご丁寧に………」
整えられた美貌の通り、その声も透き通るような可憐な声。公爵という立場上、美女というのはこれでもかと見てきたし、婚姻の話も幾度となくあった。しかし、目の前のセイラはそれらとは一線を期すものがある。
思わず鼻が膨らみ、声がうわずる。魔性の美とは彼女のことを指すのだろう。狙い通りとも言うべきか、笑みを深める男に気がついてデブルー公爵が喉を鳴らす。
「こ、コホン。それで、彼女を紹介した意図はなにかね?」
「ええ。デブルー卿さえよろしければ、あなた様の嫁にと」
男爵にそう告げられ、今まで高揚していた気分が急速に降下していくのをデブルー公爵は感じた。その立場上、縁談というのは嫌でも舞い込んでくる。そしてその全てが財力と権力、そしてその後ろ盾が欲しいだけの政略結婚ばかりで、辟易としているのだ。
貴族としての宿命とも言えるべき事だと理解はしている。しかし、嫁に迎えるべき人には公爵としての自身ではなく、個人として見て欲しいと願望を抱くデブルー公爵。齢30にしてそろそろ世帯を持たなければならないが、それだけは譲れない一線なのである。
「ああ、勘違いなさらないでください、デブルー卿。何も、貴方の権力を後ろ盾にしたいわけではありません」
「なに?どういうことかね?」
「デブルー公爵家の後ろ盾。それは確かに魅力的ではありますが、私にはそれほどまでに為したいことはございません。ただ、この領地を守ることさえできればいい」
身振り手振りを駆使して話す様は滑稽に映り、まるで道化師のよう。そう言えば騎士を迎え入れず、サーカス団を雇う変わり者だったなと思いだす。貴族内では、週に一度集合墓地に出向いて祈りを捧げる信仰深い変人などと揶揄されるだけのことはある。
「ふむ………し、しかしだね。周りはそうは思わないだろう。私としても、メリットが無ければ何と言われるか」
貴族としてメンツというのは何より大事なものだ。それこそ、侮辱されようものなら相手を殺しても仕方がないと言われるほど。見目の麗しさに釣られて結婚した、などと言われたら最後、デブルー公爵家は徹底して相手を叩き潰すだろう。それが例え官僚貴族であろうと、王族であろうと牙を向けなければならないのだ。
それは目の前の男もわかっているだろうに、ずっと変わらない微笑のままええ、ええ、と頷く。
「その懸念は当然のこと。故に、表向きは我が領地に鉄道を引いていただくため、というのはどうでしょう?無論、ほんの少し、領地の端に終着駅を置くだけでございます」
「ふむ………」
確かに、領地は隣同士であり、線路を引くことは容易だ。それも一駅だけならばコストもそこまでかからない。しかし、領地の中央まで引いたほうが遥かにメリットが高い。何か別の目的があるのではと勘繰ってしまう。
「ああ、そんなに猜疑されないでいただきたい。何、簡単な話でございます。私は娘の願いを叶えてあげたい、ただそれだけでございます」
その言葉に弾かれたように、デブルー公爵が見開いた目で男を見る。ゆっくりと頷いた男の次はゆっくりとその隣に座るセイラへと。そして俯いたまま頬を赤く染めるセイラにドキリと心臓が跳ねた。
「こ、コホン。あい、わかった。この話は一度持ち帰り、日を改めて詰めていくことにしよう」
「ありがとうございます」
心臓が忙しなく動いているのであろう、脂汗を滲ませるデブルー公爵に頭を下げ、より一層笑みを深める男がそこにいた。
◇◆◇◆
窓の外、屋敷からデブルー公爵を乗せた馬車が離れていくのを確認すると、男の背後から心底呆れたようなため息が聞こえた。次いで布を割くような音、恐らくベールを引きちぎったのだろうと当たりをつける。
「はぁ、私がなぜこのような事を」
「助かりました、セイラ。貴方がいなければこうも上手くいかなかったものです」
「それで、何が目的なんです?」
ベールの下、側頭部から生える牛の角。明らかに人外であることを示唆するそれを目撃しても、男に動揺はない。そも、セイラは人間でもなければ娘でもない。同じギルドに所属する、その幹部である。
立場は上とはいえ、畏まる様子はなくセイラの方へと振り返った男は肩をすくめる。
「ただのお遊びですよ」
「ふざけているのですか?」
人の真似事をさせておいて。あんな人間の婚約者役をさせておいて。口調は丁寧だが侮蔑をふんだんに含んだ視線を浴び、おふざけが過ぎたかと男は喉奥で笑う。
「いや、なに。あの男の領地には何人かいますからね。探しやすい様にしておきたいのですよ」
「そんなことせずとも、強襲すればよろしいじゃないですか」
「それでは芸がない。派手に動けば正規ギルドの横槍が入るでしょう?」
「それも全て殺せばいいのです」
容姿だけでいえば深窓の令嬢ともいうべきセイラ。その口から出た脳筋発言に男はより一層笑みを深めた。言いたいことはわかるのだろう、黙っていろという視線は何よりも鋭い。
「はぁ、貴方の紡ぐ物語は何にも劣りますね」
「私は
ああ言えばこう言う。本当に面白みのない奴だと内心吐き捨てる。さっさとギルドに帰ってしまおうと立ち上がるセイラに待ったをかける様に、ドアが開いた。
「おやおやぁ?もーうお帰りですかねぃ?」
「見ての通りです。表に馬車を回してください」
「もーちろんですとも!ささ、お手をーば」
扉の前にいたのはまるでボールから手足が生えたような、白塗りの顔と赤く隈取った目と口の男。紛うことなく道化である。短い手足をちょこちょこと動かしながらエスコートしようと手を伸ばせば、叩かれてしまった。
「結構です」
「ああ、セイラさん。彼との婚姻が決まれば、またお呼びしますので。そのあとは人形にするなり、ご自由に」
「ご冗談を。あんな醜い人間、これ以上視界に納めたくありません」
それでは失礼、と一瞥くれる事なく出ていくセイラ。それを見届けた男は一仕事終えたとばかりに両腕を上へと伸ばすと、部屋の中央の席へと再び座る。そのまま葉巻を口に加え先端を切り火を灯し、それを口に含んで漸く一心地ついたとばかりに煙を吐く。そしてその一本を吸い終えると扉の前にいる道化へと声をかける。
「さて、報告はありますか?」
「それは、もう。いっくつかございますとも!キョウカ様が参加のギルドを潰して回る兇行!シルバ様が間違えて凍らせた太陽の村が解放!冥府の門への召集!さぁてさて、どれからお話しましょうか?」
「ふむ………では、太陽の村の件を」
「おやぁ?よろしいので?召集がかかっているんですよぉ?」
「大丈夫ですよ。ギルドに所属していますが、私と彼等では目的が違う」
だから、召集に応える必要はないのだと薄く笑う。そのどこまでも温度のない微笑みに、ぞくりと心臓を撫でられたかの様な悪寒を道化は感じた。目の前のこれは、目的のためならば何処までも残酷になることを察して。
「さて、では報告をお願いします。どこの誰が、どうやって村の氷を溶かしたのか」
「………ええ!ええ!勿論ですとも。我等が主人、クロア・バロン様。この道化の知る全て、お話いたしましょうとも!」
態とらしく恭しい態度でお辞儀する道化師。その滑稽な姿に男は、クロア・バロンは満足気に笑みを深めるのであった。