FAIRY TAIL 〜Those called clowns〜   作:桜大好き野郎

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VSジョゼ

 

 

 目の前で繰り広げられる闘いを見て、ジョゼは欠伸が出るのを堪える。

 

 ファントムのギルドの最上階。 魔導士モードのギルドのコントロールルームでもあったそこは、もはや機能しておらず、また再起動する様子も見られなかった。

 

 目の前にいるのはファントムの誇る鉄の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)ガジルと、フェアリーテイルの滅竜魔導士ナツ。

 異常な速度でここにたどり着いた彼は初め、事もあろうにジョゼへと突撃したのだ。 それを止めたのはガジル。同じ滅竜魔導士として、どちらが上か決着をつけたいらしく、こちらに手を出すなとだけ伝えると闘いを始めてしまった。

 

 周囲の被害を鑑みない戦闘ははっきり言って迷惑であり邪魔でもある。 たしかに滅竜魔法とだけあってそんじょそこらの魔導士とは比べ物にならない実力を持っているが、ジョゼのように聖十の称号を持つ者にとって彼らの闘いは酷く拙く見える。

 殴り殴られが性に合わないというのもあるが、それを差し引いてもだ。

 

 ジョゼの戦闘に置いて自身が血を流すなどあり得ない。 得意魔法である幽鬼(ジェイド)の魔法は、魔力の続く限り兵を召喚できる魔法。それを使えば相手を近づけることなく圧倒でき、今回のようなギルド戦においても有効な魔法だ。

 

  質はたしかに一般の魔導士よりも劣るが、それでも数の力というのは偉大であり、脅威だ。

 一体がダメなら二体で。それがダメなら三、四と死を恐れない兵が後から後へと襲いかかるのだ。 相手からすれば悪夢であろう。

 

 今回はナツというイレギュラーもあったが、外の状況はこちらが僅かに優勢。 エルザの指揮や奮闘が目立つものの、流石に何百と相手をしていれば疲労も溜まる。 エルザを倒せば後は烏合の集、殲滅は容易い。 その後ゆっくりと目当てのルーシィを探し当てれば良いのだ。

 

 エレメント4が全員破れたとは言え、まだ負けてない。その余裕がジョゼにはあった。

 

「ハッハァ!」

 

「ぐぁっ!」

 

 鉄を食べパワーアップしたガジルの攻撃がナツにクリーンヒットする。 対するナツは傷を受けすぎたせいで力が出ないようだ。

 同じ属性の物を食べることで一時的にパワーアップする滅竜魔導士だが、自身の魔法が起因となったものは食べられないらしい。 故に自身で起こした火を食べることはできず、ただこうしてやられるしかないのだ。

 

(しかし、時間がかかりすぎですね)

 

 ギルドマスターであるマカロフは瀕死とはいえ、評議会の横槍も考慮すれば時間は持って今日の夕刻だろう。それまでにルーシィを捉えるとなると、いささか時間が足りないように思える。

 

「ガジルさん。そろそろトドメを刺しなさい」

 

「あいよ。 ってなわけだ。あばよ、火竜(サラマンダー)‼︎」

 

 口内に魔力を貯め、一気に放出する。 滅竜魔導士の十八番とも言えるブレスだ。 属性によってその性質は違うが、鉄竜のブレスには鉄の刃が含まれており対象を切り刻むものだ。

 

 直撃すれば死さえ免れない一撃。 更には鉄を食べたことにより通常よりも威力の上がった鉄竜の咆哮がナツを包んだ。

 

「オ、ォオォオォオ‼︎」

 

「ナツーー‼︎」

 

 側で見ていたハッピーの声虚しく、ナツの姿が隠されて、徐々にその声が小さくなっていく。 ニヤリ、と不敵に口角を上げるガジル。 だが、ブレスによって巻き上げられた埃が晴れると目を疑った。

 

 確実にナツを捉えたはずのブレスは、しかしどこからともなくナツの目の前に現れたカイトがそれを防いでいたのだ。

 どうやって防いだのかはわからない。だが、カイトの背後にいるナツが死んだ様子はなく、荒く肩で呼吸をしながらもこちらを睨んでいた。

 

「テメェ……‼︎」

 

「はぁ、はぁ……カイト………邪魔、すんな」

 

「カッカッ♪ 減らず口叩けるなら上等。 元気だねぇ、ナツ」

 

 ヘラヘラと笑うカイト。 その笑みが無性に腹立たしく、勝負を邪魔されたこともあり怒りに顔を歪ませたガジルが魔法を振るう。

 

「鉄竜棍‼︎」

 

 ガジルの腕が鋼鉄の棍棒のようになりカイトへと迫る。 鉄の滅竜魔法は攻守ともに優れた魔法だ。 鋼鉄の鱗は相手の攻撃を受け付けず、その硬さはそのまま攻撃力になる。

 風を突き切り、暴風さえ巻き起こすそれは、しかし突如として現れた白い炎の壁に遮られた。

 

「チッ‼︎」

 

 例え壁に防がれようと関係ない。そんな自信を持って炎の壁をつきぬけようとするが触れた刹那、猛烈な痛みに襲われた。

 反射的に後退し、壁に触れた手元を見る。 傷はどこにもない。だが痛みは本物であったことを示すように、右手からは所々から煙が燻っていた。

 

浄化の炎壁(ファイヤーフォール)。壁というよりは触れた相手に浄化という名の呪いを付与する、まぁ名前負けの魔法だね」

 

 壁の向こうから聞こえる声に歯噛みするガジルを他所に、炎の壁が段々と小さくなっていく。 まるで何かに吸われているように小さくなる壁の向こうに見えた人物を見てガジルは笑う。

 桜色の髪を揺らし、炎の壁を食べきったナツは大きく息を零し、胸の前で両拳をぶつける。

 

「ふぅ、ごちそうさん」

 

「お粗末様♪ そいつは任せたよ♪」

 

「ああ。任せとけ」

 

「ギヒッ! やってみろ‼︎」

 

 滅竜魔導士同士の再度のぶつかり合いが始まる中、カイトがジョゼの前に立つ。 あからさまにつまらないという顔をするジョゼに対し、カイトは笑顔である。 まるで長年の友達であるかのように声をかけるカイトに、ジョゼは頬づえをつきながら答えた。

 

「やぁやぁ、マスタージョゼ。 先程は手を出さないでいてくれてありがとう」

 

「なに、このまま終わってもつまらないですからね。多少のサービスも必要でしょう」

 

「カッカッカ♪ まるで勝機があるみたいな言い方だねぇ」

 

「そう言ってるのですよ、道化。 マカロフは瀕死、エルザも奮闘しているが時間の問題、そして私の目の前には戯けることしかできない愚者。 むしろ貴様らに負ける余地などありはしないのですよ」

 

「カッカッカ♪ 自信家もそこまでいけば戯言だねぇ」

 

 瞬間、カイトの腕に混沌ノ鎧が展開された。

 

「その戯言、どこまで続くか楽しみだよ♪」

 

 横一閃に薙ぎ払われる混沌ノ爪。 軌道上にあるものを全て破壊していくが、しかし肝心のジョゼの姿が見当たらない。

 

「戯言ではなく、事実なのですよ」

 

 上から声がして反射的にそちらを振り向くとジョゼの後方に展開された魔法陣から稲妻がほとばしる。耳をつんざく轟音を立ててカイトに直撃する。

 

 勝利を確信して笑みを浮かべるジョゼだが、煙が晴れた先にいたのは白い服に身を包んだカイトの姿。 混沌ノ鎧、バージョン混沌ノ道化師(カオス・クラウン)だ。

 全能力を向上させるその魔法は、しかしそれでも完全には防ぎきれなかったようで、口の端から少量の血液が溢れる。

 

「ほう。それが噂の……」

 

 そう口にした瞬間、突如としてジョゼの腹部に激痛が走り、身体がくの字のまま宙に浮く。 目の前には先ほどまで距離が開いてたはずのカイトの姿。室内とはいえ、決して狭くはない距離を一足飛びで超えたらしく、床にはクッキリと靴の形がついていた。

 

「この……っ‼︎」

 

 反撃の魔法を放とうとするが右側からカイトの回し蹴りが飛んでくる。 今度はなんとか腕でガードに成功するが踏ん張りの効かない空中では容易く吹き飛ばされてしまう。

 転がって衝撃をいなそうとした直後、眼前にカイトの拳が広がる。

 

混沌ノ一撃(カオス・インパクト)!」

 

 振り下ろされた拳はジョゼの顔面を捉え、その下の床さえも粉砕して二人共々下の階へと落とした。

 瓦礫に埋まらないよう空中で身を捻り後退するカイト。ジョゼの姿は瓦礫の山と砂塵に阻まれてよく見えないが手応えはあった。しかしギルドマスター、それも大陸で優れた魔導士に送られる称号聖十大魔導の称号を持つジョゼがこのまま終わるはずがないと気を緩めることはしない。

 

「本当に滑稽ですね」

 

 そんな声が聞こえた瞬間、反応するより速く背後からの電撃がカイトを強襲。 鎧のお陰で軽減できたとはいえ決して無視できるダメージ量ではない。続け様に放たれた地面からの爆発をかわし、ジョゼと対峙する。

 不思議なことに対峙したジョゼに先ほど受けた傷は見当たらず、服に汚れすらついていない。 ちらりと横目で瓦礫の山を盗み見る。恐らくだが魔法で生み出した幽鬼と入れ替わったのだろうとあたりをつける。

 

「私の掌の上で踊る貴様は実に滑稽でしたよ。道化の面目躍如といったところですねぇ」

 

 瞬間、足元に魔法陣が展開されたかと思うと刹那のタイミングで地面から雷撃が()()

 自然界ではまずない、魔法ならではの光景に動揺しつつも身体を捻ってかわすカイト。 だが、退避した先にも同じような魔法陣。

 

「ぐっ……!」

 

 直撃し飛びそうになる意識をなんとか保たせるが、かなりのダメージを負った。 それに、魔力量も心許ないのが気がかりだ。

 カイトの混沌ノ鎧はエルザの換装とは違い、異空間から呼び寄せているわけではない。魔力を身にまとっている形だ。 エルザが呼び出し、魔法を使うたびに魔力を消費するのと比べ、カイトはただ装着しているだけで魔力を消費する。その分能力の向上率は高いのだが。

 

 それに、ギルドを守るための防御魔法、マカロフに直接手を下したアリアに頭が血が上っていたせいで必要以上に魔力を消費。 短期決戦、それも苦手であろう近距離戦でジョゼを倒そうとしたがそれも徒労に終わってしまった。

 魔力吸収(エナジードレイン)を行おうにも、これは対象に牙を突き立てなければならない技だ。 距離を縮めなければ意味がない。そして相手は中、遠距離の戦闘を得意としており、簡単に近寄らせてもらえるはずがない。

 

 はっ、とした瞬間には幽鬼兵がカイトへと殺到。四の五の言っている場合ではない。 いまはそんな事を考えている場合ではないのだ。

 

混沌ノ爪(カオス・クロー)!」

 

 回転する形で幽鬼兵をなぎ払うカイト。だが、その影に隠れて伸びていた雷撃をみた瞬間、失策だったことを思い知らされる。

 カイトの腹を貫く電撃。 焼かれたせいで出血はないが、言いようのない激痛がカイトを襲った。

 

「どうしたのですか、道化? 痛みさえ嘘にして演じなければならないでしょう? 他でもない、私を笑わせるために」

 

「カッ、カッカッ………言われ、なくても」

 

 傷を治療するために白衣(ホワイト・ローブ)を巻き、腕の力で立ち上がろうとする。 だが、途中で力が抜けてべしゃりと床に倒れてしまった。

 面白くないとカイトの姿を鼻で笑い、やる気を出せるためにひとつのことをジョゼは伝える。

 

「そういえば、貴方はなぜこの戦争が始まったか知っていますか?」

 

「カッカッ………ルーシィの、お父さんからの依頼……だっけ?」

 

「それもありますが………違う。前から目障りだったんだよ、貴様らは!」

 

 それまで温厚だったジョゼが、不意にブチ切れる。 優越感に浸っていた心が、過去を思い出してどこかへと消えてしまった。

 

「ファントムロードは常にトップにいた。この国で一番の魔力と、一番の人材と、一番の金があった。………が、ここ数年で貴様らは急激に力をつけてきた。気にいらんのだよ。元々クソみてーに弱っちぃギルドだったくせにイ‼︎」

 

「ゲホっ………カッカッ、くだらないねぇ」

 

「黙れ。我々は物事の優劣をはっきりさせたいだけだ。それに加えハートフィリア財閥の娘をギルドに迎えただと?ハートフィリアの金を貴様らが自由に使えたとしたら間違いなく我々よりも強大な力を手に入れる!それだけは………それだけは許してはおけんのだァ‼︎」

 

 会話の中、ゆっくりと近づいていったジョゼがカイトの腹を蹴り上げる。 ちょうど傷口にヒットしたそれは耐え難く、思わず口から血を吐き出した。

 けれど、洗い呼吸をしながらもカイトは笑う。滑稽だと、バカにするように。

 

「カ、カカ、カカカッ!」

 

「何がおかしい?」

 

「いやいや。君たちの情報収集能力のなさに、呆れてねぇ」

 

 ジョゼの足元で今度こそ立ち上がろうと両腕に力を込める。

 

「ルーシィはねぇ、家出してきたんだよ。家出して俺たちと同じ様な生活して、さ。同じ釜の飯を食べて、笑って、泣いて………立派なフェアリーテイルの一員だよ。家の金なんて使えるはずもない」

 

 ぶしゅ、と音を立てて白衣が血に染まる。もはや回復に回すだけの魔力さえ残っていない。 それでも何とか立ち上がり、膝が崩れない様に抑えながらもその目はジョゼを貫く。

 

「戦争の引き金も、ハートフィリア財閥も関係ない。()()()は俺の大切な家族に、くだらない理由で手ェ出したんだ。滅ぶ覚悟、出来てるだろうね?」

 

 その瞳は瀕死の重傷者の目ではない。 俺はまだ戦える、貴様らを滅ぼす、と雄弁に物語っていた。だが、ジョゼはそれを一蹴する。所詮は死にかけの悪あがきだと決めつけて。

 

「ふん。事が終われば彼女は我々の一員だ。ただで引き出すと思うか? 金がなくなるまで飼い続けてやる。ハートフィリアの財産は全て私の手に渡るのだ」

 

「カッカッ………図に乗るなよ、()()

 

 瞬間、ジョゼの身体が吹き飛ばされる。攻撃を受けたからではない。圧倒的な魔力の余波だ。それも聖十に勝るとも劣らない魔力量。感情の爆発で身体の奥から魔力が湧き上がる現象は確かにあるが、それにしても多すぎる。死に損ないのどこにこんな魔力が、と考えたところで言葉を失う。

 目の前にいるのは道化として言われたカイトではない。それは偽りだったことを鎧を脱いで思い知らされたのだ。

 

 側頭部から生えた一対の雄牛の角に尾

 

 腰から生えた蝙蝠の羽

 

 縦に割れた瞳孔

 

 爪と牙は攻撃的に鋭くなり、牙に至っては口には収まりきらずその先端が端から覗いていた。

 

 これも魔法か、と疑うが本能が告げる。これは自分たちとは違う化け物だと。

 

不死ノ王(ノスフェラトゥ)………なんて言っても、こっちが()()()姿()なんだけどね」

 

 今までは人であると偽っていた。

 醜い過去が人であることを強要した。

 故に、人の真似をして生きていた。

 

 だが、今だけは違う。

 目の前の人間は必ず潰さなければならないと実感した。

 

 圧倒的暴力をもって

 圧倒的脅威をもって

 

 例え人の身を捨てようとも

 例え指を刺されようとも

 例えギルドに居られなくなろうとも

 

 故に、今だけは道化の名を捨てよう。

 

 故に、今一度化け物と呼ばれよう。

 

「さぁ、これよりは滑稽劇。舞台役者は総じて笑われる、愉快な劇の始まりさ」

 

 

 

 

 

 

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