IS 《神器の少女》   作:ピヨえもん

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山田先生回


32 1組の転校生

 IS学園 1年1組

 

「本日は転校生を紹介しますね、それも二人です!」

 

 1組副担任の山田真耶は疲れの滲んだ表情で開口一番、寝耳に水の発言を繰り出す。いつもの野暮ったい丸みのある眼鏡とは違うシャープな眼鏡を着用していて、言葉遣いもなぜか投げやり気味なのだが・・・。

 案の定1組の生徒たちはざわつきはじめ、教室内は賑やかになる。教卓の目の前に座る一夏は頭上に「?」を浮かべたような表情でぽかんとしており、窓際の箒は目をくわっと見開き「またライバルの出現か?」と警戒し、セシリアは目のハイライトが薄くなっていて隣の雪華の袖をちょいちょいと引っ張り、その雪華は机にぐでっと突っ伏している。

 扉のほうに立っている千冬は能面のような無表情で遠くを見つめている。そして何かを諦めたように首を振って教室のドアを開け、外に待機している生徒に入室を促す。

 

 事前に真耶は二人と言っていたはずなのに、なぜか三人の女生徒が教室に入って来た。

 一人目の少女はアッシュブロンドの髪をエビフライのような三つ編みにして、トップバストの辺りに流した小柄でタレ目気味の美少女だ。小柄な割に出るとこは出ているトランジスタグラマーな体型。そしてなぜかぐったりとした様子だがその美貌は全く損なわれていない。

 そして二人目、黒味がかった灰色の髪をベリーショートにしたメガネの似合う知的美少女、実は彼女は1年1組に転入してきたわけではないのだが、なぜかこの教室に入ってきている。

 だが問題は三人目だ。静々と俯き加減に入ってくる紫の長い髪をポニーテールにした小柄な超絶美少女、どことなく箒の血縁を思わせるようなよく似た容姿をしている。同じく小柄なセシリアと同じくらいの身長ながら制服の上からでもはっきりとわかるほどのたわわなバスト、きゅっと括れたウエスト、そして小ぶりなヒップとすらりと長い脚。異性でなくとも見惚れるほどの少女を一目見た箒はなぜかガンッ!と頭を机に打ち付ける。そしてわなわなと小刻みに震えて叫びたい気持ちを我慢している。

 

 

レイナ・テスタロッサ(・・・ ・・・・・・)です、特技は機械いじりと設計です。どうぞよろしくお願いします」

 

 

 一人目の少女、偽名を名乗る【レナード・テスタロッサ】はやや疲れの残る表情を笑顔で取り繕いながら当たり障りのない自己紹介だ。

 

 

「3組に転入してきました、【サビーナ・レフニオ】でございます。レイナ様の秘書を務めさせて頂いております。主共々、どうぞよろしくお願いいたします」

 

 

 ちょんとスカートの端を摘まみ優雅に礼をする二人目の少女、サビーナはなぜか3組に転入してきたと言っている。1組の生徒たちは全員「?」を頭上に浮かべ、教卓にいる真耶は頭を抱えている。そして千冬は大仏のような何かを悟った澄んだ表情で遠くを見つめている、その顔はとても穏やかだ。

 

 

「レフニオさん・・・、なぜ1組の教室に?」

 

「山田先生、私はレイナ様の専属秘書です。ならば主のこれからの学園生活を円滑なものとするために努めるのが義務というものです、つまり私はレイナ様と同じ教室に居るべきなのです」

 

 

 くいっと眼鏡の位置を直し、当然のように答えるサビーナ嬢。その返答に再び真耶は頭を抱え、当の主たるレナード改めレイナは「ハハハ」と力なく笑う。ここに来るまでに散々そのことで押し問答を繰り広げてきたのだろう、その諦めにも似た笑顔はとても引き攣っている。

 背後から無表情の千冬が近づき、ゴン!と出席簿でサビーナの頭を叩く。強烈な衝撃を受けた表情のサビーナは一瞬硬直する、そしてすぐに糸の切れた操り人形のように崩れ落ちる少女を抱き留め、米俵のように担ぎ上げた千冬はスタスタと教室を出ていく。その姿を全員で見送り、真耶は何事もなかったかのように進行を再開する。

 

 

「わ~・・・、すっごい美人。いいなぁ~」

 

「それにスタイルも抜群、天は二物を与えたもうたのか・・・」

 

「くううう・・!悔しいって気持ちすら湧かないくらい圧倒的な戦力差!」

 

 

 教室内は目の前の超絶美少女を見て再びざわつき始める。そんな教室内にも関わらず件の美少女はその整った顔を上げて教室内を見渡す。そしてにっこりと天使のような微笑みを浮かべ自己紹介を開始する。

 

 

「初めまして、東雲 束(しののめ つかさ)と申します。趣味は解剖と人体実験、そして・・・そこにいる由良川雪華の(婚約者)です。・・・・きゃっ♡言っちゃった♪」

 

 

 教室内の空気がピシリ、とひび割れる。そして爆発したかのようなざわめき、クラスの全員が一斉に雪華のほうに顔を向ける。

 頬を染めつつ、両手人差し指でハートマークを宙に描きもじもじと身を捻る東雲束と名乗った超絶美少女は、不穏な単語がちりばめられた自己紹介の最後に特大の爆弾を投下した。そして視線の先にいる雪華は相も変わらずぐったりと机に突っ伏したままだ。

 

 

「・・・えー、皆さん。変わった子たちですが仲良くしてくださいね!」

 

 

 若干キレ気味に強引にまとめて終わらせる真耶、未だ教室内はざわめきが収まらない。

 

 

(なぜ・・・!?私には解る!姿が多少違っているが、あれは姉さん(・・・)!なぜ姉さんがここにいるんだァァ!?)

 

 

 箒は心の中で絶叫する。なぜか同年代にしか見えないほど幼いが、目の前にいる超絶美少女転校生は間違いなく自分の姉《篠ノ之束》その人だ。

 ニコニコと人畜無害な笑顔を振りまく束はそんな箒を視界の片隅に確実に捉え、心の中でニヨニヨと愉悦に浸る。

 

 

(うぷぷぷ♪箒ちゃんってば予想通りのリアクション!いいねー♪これだよこれ!これからものすごく面白くなりそうじゃないか~♪せっちゃんの傍にもいられるし!ああ~、ミスリルに入社してよかったな~。こんな素敵な《(マテリアルボディ)》が用意できるなんて!EOTってすんご~い♪)

 

 

 東雲束とは天才科学者《篠ノ之束》その人である。IS学園に転入してきた東雲束という肉体はミスリルで培養されたマテリアルボディで、本当の束の体はミスリルの自室内で寝ており、マテリアルボディをVR間隔で操作して活動している。ちなみにクロエはその自室で寝ている束の警護という名目で視覚情報を映像で見ている最中だ、ポテチを摘まみながら。

 

 その事実を知っているのは教室内では当の束を除き5人。雪華、レイナ(レナード)、千冬、真耶、セシリア。

 千冬は学園襲撃事件から立て続けに起きる騒動&騒動に加え、この世界の衝撃の真実にすっかり心が摩耗しており、加えて束の思い付きのミスリル入社と今回の転入で悟りを開いてしまった状態に。

 レナードは千冬に供与する2機のボン太くんを整備する技師として入学させられ、そのレナードが《レイナ》として女子校で問題なく生活できるよう、サビーナに徹底した女性としての口調やメイク、服装、日々のなにげない仕草まで徹底的に仕込まれた。サビーナの熟練のテクニックにすっかり身も心も女にされてしまったレナードは疲労困憊だ。

 そして雪華だが、真実の愛に覚醒した束がその夜のうちにミスリルに入社し、クロエ共々引っ越しを済ませ、所属する変態科学者たちと意気投合して暴走してマテリアルボディを作って、IS学園に編入すると宣言した束たちの責任を取らされ、IS学園内における束の世話役を押し付けられてしまった。もちろん束が暴走しないように制御する役目も兼ねているため寮の部屋で一緒に生活している。

 セシリアは、ミスリル見学に行ったその日に束の「せっちゃんの嫁」宣言を聞かされ、そんな雪華にべったりとくっつき毎日いちゃいちゃとしてくる束にすこしジェラシーを感じ、自覚はないものの、目のハイライトが薄くなり若干ヤンデレ発症しかけている状態だ。

 

 ちなみにシャルロットや簪も若干ヤンデレ発症しかけている、ただしラウラはよく分かっていない。

 

 だが一番の被害者は土壇場まで何一つ聞かされていなかった真耶である。自身が慕う千冬に当日いきなり「篠ノ之束が変装してクラスに転校してくる、あとはよろしく」と言われて頭がパンクしてしまっており、挙句の果てにミスリルから供与という押し付けをされたISだ・・・。

 何も聞かされていなかった時はよかった、「わあ、かわいい着ぐるみですね~♪」と笑顔で現物を見ていたのだから。だが千冬に「お前がボン太くんになるんだよォ!」と操縦者として生贄に差し出されたことを知った後は違った。

 

 可能性のケモノと呼ばれるソレを自分が装着する。このISはISらしからぬ外見もさることながら、一番の問題点は「ボイスチェンジャー機能」だったのだ。なぜかパワードスーツだった時からその機能が付いており、しかもその機能をオンにしなければ電気系統が一切稼働しないという困った問題点があったのだ。

 これは例外なく全てのボン太くんに見られる不具合であり、ISとなった2機すらその呪いからは逃れられなかった。

 

 真耶は慟哭した。ふるふると待機状態の眼鏡(・・)を外して俯く・・・。

 

 

「今日・・・IS実習授業で・・・実技演習があるんですけど・・・」

 

 

 ちなみに色違いの2号機に乗ることになったアリーシャ・ジョセスターフは大層ボン太くんのデザインを気に入り、暇な時間はご機嫌で乗り回している。

 

 まだまだ山田真耶の受難は続く・・・。

 


 

  IS学園 第一アリーナ内

 

 ここは1年生合同IS実習授業に使われる第一アリーナ、そのフィールドではISスーツ姿の少女達がずらりと整列し、授業の開始を待ちわびている。新入生にとってはこれが学園入学後で初めて実物のISに触れる授業であり、各自のテンションは高めだ。

 旧式スクール水着にも似たISスーツは各メーカーがデザインでしのぎを削る激戦区だ。体を動かす際に筋肉から出る電気信号などを増幅してISに伝達する機能を備えてはいるものの装着は必須ではなく、さらにIS操縦者自体が限られた数しか存在しないためすでに頭打ちの産業でもあるのに、毎年異様なほど新作がざくざくと発表されている・・・。ひょっとしたら一部デザイナーの暴走ともとれるような新作の乱発にメーカーが踊らされているだけなのかもしれないのだが。

 

 整列している生徒の中にはきわどいビキニタイプのISスーツから脱却した雪華と、その横に腕を絡ませスリスリと頬を擦り付けているISスーツ姿の束、反対隣りに同じ体勢で負けじと甘えるセシリアの姿もあるが今の千冬の曇った(悟った)目には入らない。

 

 

「ではこれより1年生の合同実習を始める。全員揃っているな?」

 

「全クラス揃っています、到着していない生徒は一人もいません」

 

「ありがとう、よし、では・・・。織斑、凰、それと更識がいいか、こっちに来てくれ」

 

 

 学年主任の千冬は3人を呼び寄せる。これから始まるのはISの実習で、すでに運び込まれた機体はアリーナ外周にずらりと並べられている。だが呼ばれた3人はアリーナほぼ中央に位置する教師たちが立っている場所だ、呼ばれた目的が分からないといった表情でテクテクと千冬に歩み寄る。

 

 

「すまんな、とりあえずこれから3人には練習試合をしてもらう。まずはISを展開してくれ」

 

「え?私たち3人で、ですか?そうなると2対1・・・?ひょっとして三つ巴戦ですか?」

 

 

 鈴音が千冬に尋ねる。呼ばれた一夏と簪、そして鈴音の専用機はそれぞれがコンセプトの違う機体であり、得意としている間合いが違う。だが明らかに簪は一夏と鈴音よりも格上だ、二人がかりでも勝てるかどうかだろう。だが千冬から返って来た返事は違った。

 

 

「いや、これからお前たちにやってもらうことは山田先生の専用機試運転の相手なのだが・・・」

 

 

 その時何か高速でアリーナに侵入してくるIS反応が一つあった。

 

 

 ・・・ズシャアァァァァア!!

 

 

 と教師たちが待機している背後の地面を大きく滑る一つの影。背部に4枚のスラスターを搭載した大型のバックパックを背負い、白式と比較しても遜色ない輝くような純白と灰色の斑模様が入ったずんぐりとしたボディ、そしてISとは違い短い手足、頭部パーツには帽子を被り、なぜか後ろ姿からもはっきりと分かるほどの哀愁。

 

 

 

「ふもっふ!(お待たせしました!)」

 

 その影はボン太くんを装備した山田真耶その人だったのだ。

 


 

side 真耶

 

 

 歩く度に『ぽむぽむ』、と変な足音がしますぅ・・・。思いの他動かしやすいISでびっくりしているのですが、うう、皆さん注目してますよぅ////

 恥ずかしいですが今は授業中、我慢してしっかりやらないと・・・!

 

 

「ふも!ふもふ、ふももも~・・・(遅れてすみません織斑先生、決意に時間がかかってしまって・・・)」

 

「な、なにを言ってるのかさっぱりわからんが・・・。山田先生、さっそく始められるか?」

 

「もっふる!(はい、大丈夫です!)」

 

 

 対戦相手は織斑君、凰さん、更識さんの三名ですか、3対1ですが私だって元代表候補生です、現役を退いたとはいえ負けるわけにはいきません!

 

 あ、あら・・・?なにやら生徒たちが目をキラキラさせてぽかーんってしてますね?なんでしょう?

 

 

「「「かわいい~~~~!!!」」」

 

「ふも!?(ひゃあ!?)」

 

 

 生徒たちからの思わぬ黄色い歓声に真耶はびっくりして飛び上がる。

 

 

「え、うそ!?あれ山田先生?めちゃくちゃらぶり~♡」

 

「つぶらな瞳・・・、やだ、キュンてきちゃう・・・」

 

「もふもふだ~♪抱き着きた~~~い!」

 

「着ぐるみの中に汗で蒸れた水着姿の爆乳童顔美人、・・・これは夏の新刊いけそうな予感、じゅるり」

 

 

 なななななんですかなんですか!?か、かわ、可愛い!?////

 そんなそんな・・・可愛いだなんて~・・・♪も、もう!皆さんお上手なんですから!・・・えへへ。

 

 

「あー、山田先生?その、始めてもらえるか・・・?」

 

「ふもっ!?もふ・・・ふもふ!(ひゃわ!?す、すいません・・・早速始めますぅ!)」

 

「ええ・・・なんだこれ?・・・なんだこれ?」

 

「なんか力が抜けるんだけど・・・、と、とりあえず二人とも!相手は元とはいえ日本代表候補生の銃央矛塵(キリングシールド)の異名を持った山田先生よ、油断はできないわ!」

 

「うん、鈴の言う通り。・・・データ、照合。(うわー・・・、こんな高性能機を相手にしないといけないの?どれだけの武装を使ってくるかわからないけれど、・・・油断は禁物)」

 

 

 こうなったらもう、当たって砕けますよ~~~!!

 


 

 

「きゃあ!?・・・山田先生ってこんな強いの!?」

 

「鈴!山田先生は射撃が得意らしいぞ!二人で距離を詰めるぞ!」

 

 

 真耶は左肩のオーバーハングパックにあるビームスプレーポッドから拡散砲を放ち3人の陣形を乱す。そしてばらけた所に右手に保持しているビームライフルを撃ち、距離を詰めてきた二人を引き離す。

 瞬時に右手のビームライフルを量子化し、先行している一夏に向けて距離を詰める。その間に腰部にあるミサイルポッドを開放して大量のマイクロミサイルを放出し、鈴をその場に釘付けにする。

 

 

「ふもふ、ふもー!(私は射撃が得意ですが、接近戦だってできるんですよ!)」

 

 

 左腕に呼び出したビーム型シールドから内蔵されていたロッドを引き抜く、ビームサーベルを展開し、一夏が雪片弐型を真耶に向けて振るうのを真っ向から受け止める。

 一夏も負けじと角度を変えて再び振り抜く、しかし真耶は今度は受け止めることはせずに受け流し、左腕でもう一本のビームサーベルで斬撃を加える。いつの間にか左腕にあったシールドは量子化されていた。

 

 

「くっ!なんて速い切り替えだよ!?こんな斬り合いの最中に武器をチェンジしてくるなんて・・・!」

 

 

 一夏は零落白夜を発動し、ビームサーベルごと無力化しようとしても、絶妙の間合いで真耶に回避される。そして反撃でライフルやサーベルをもらう。完全に一夏の間合いであるにも関わらず結果は一方的といっていい、真耶の熟練の技術と勘の良さに翻弄され続ける。

 そこに足止めされていた鈴が横から双天牙月で切り込む。真耶は瞬時に反転して両腕のサーベルで受け止める。しかし鈴の攻撃を加えて二人がかりでも真耶を捉えることができない。

 

 

「このっ!これでも喰らえ!」

 

 

 鈴は両腕にある小型の龍砲で真耶のバランスを崩そうとするが、光のカーテンに遮断されて霧散してしまう。本来Iフィールドは対ビーム用のバリアと思われがちだがそれは違う、ミノフスキー粒子を利用した電磁波フィールドなので実弾や衝撃すら遮断できる。

 

 

「二人とも、散開して!」

 

「ッ!!一夏!」

 

「おわあっ!!」

 

 

 真耶に張り付くように接近戦を挑む二人の背後から簪の警告が響く。二人が咄嗟に左右に避けるとその隙間からインパルスキャノンとサイファー・ガンの弾幕が飛来する。

 

 

「ふも!?もっふる!ふもも~~!(くうっ!?さすがにこの威力は!避けないと・・・!)」

 

 

 真耶はIフィールドによっていくつかの被弾を無効化するが、さすがにインパルスキャノンほどの威力は相殺しきれない。身を捻るように弾幕の回避を続けて、両腰の後ろ側にマウントしている【V.S.B.R(ヴェスバー)】を展開して反撃する。

 

 

「ふもふ!(お返しです!)」

 

「つうぅ・・・!なんて弾速・・・!」

 

 

 従来の重火器とは一線を画すほどの超速ビーム砲の連射、シールドにいくつか被弾をするも、それをスラスターを全速で噴かして離脱をする簪。その間に体勢を整えた一夏と鈴は再び両サイドから真耶に向けて斬り込む。

 

 

「チャンス!このまま押し切るわよ!」

 

「おう!斬って斬って斬りまくる!!」

 

 

 さすがに3対1の状況を覆すのは真耶といえども難しく、次第に防戦一方となり追い詰められていく。しかしボン太くんにはまだいくつかの隠されたシステムが存在する。

 

 

「もふる!ふももも・・・(織斑君も凰さんも、クラス対抗戦の時より実力をあげてますね!)」

 

 

 真耶は前後を挟まれる形で息をつく暇もなく一夏と鈴を相手にしつつも決定打を許さない。そのときボン太くんのホログラムウィンドウに見慣れない文字が走った。

 

 

 【Zoning and Emotional Range Omitted System】

 

 

「・・・っ!?ダメ、二人とも距離を取って!」

 

 

 ボン太くんに搭載された二つの隠れた機能のうちの一つ、【ゼロシステム】が稼働を開始する。このシステムは搭乗者の全神経と五感を支配することによる超人的な未来予測と反射神経、耐加速Gの向上などを行うものであり、通常のものであれば周囲の被害やパイロットの生死すら考慮せずに勝利へBetするほどの危険極まりないものだ。

 だが数々の天才科学者たちによる改良を経てゼロシステムは昇華した。搭乗者と共に最高の勝利を目指すシステムへと・・・。

 

 

「ふもふ・・・、ふも、ふもふもふも・・・?(この感じ・・・、なんでしょう、全神経が研ぎ澄まされて・・・・?)」

 

「(ゼロシステムの稼働を確認・・・、シミュレーター通りの性能なら今までの山田先生とは別人になる!)織斑君!鈴!これからが本番だよ、一瞬たりとも気を抜くな!」

 

 

 簪が叫ぶ、しかしゼロシステムというものを知らない一夏と鈴の反応は遅れる。一瞬のうちに鈴が撃墜される、ハイパーセンサーが追えるギリギリの速度だったが完全に鈴自身の意識の空白を突かれた。

 後ろ向きのままの真耶が照準も合わせずにライフルを向けて引き金を引き、正面の一夏を蹴りつつスラスターで加速。空中に白式という足場を作り出し爆発的な速度で鈴をすれ違い様にサーベルで斬る。そして背後を取ってゼロ距離でV.S.B.Rの低速モードを撃ち込む。先ほど簪に撃った超速モードとは真逆の高威力、低収束のビームランチャーは容易く甲龍のシールドエネルギーを枯渇させる。

 絶対防御が発動し、緩やかに自由落下を始める鈴を置き去りに、その影から複数のビームが一夏に向けて飛来する。一夏は半身になって避けれないものは零落白夜で無効化する。しかしその隙に真耶はミサイルを放ちながら稲妻のような軌道で一夏に向かって接近する。幾重にも張り巡らされたミサイルに囲まれた一夏は避けることができずブレードで可能な限りミサイルを撃墜する、だが真耶はそんな一夏を拡張領域から呼び出した大型の【メガ・ビームライフル】で撃ち抜く。零落白夜ですら無効化しきれないほどの密度で飛来するビームの渦に呑まれて白式が撃墜される。

 

 

「くっ・・・!まるで本物のガンダムパイロットを相手してるみたい・・・。リミッターかかったエールじゃあ勝ち目はない、かぁ。・・・でも!」

 

「ふもーー!!(あとは更識さんだけですよ!)」

 

 

 エール・シュヴァリアーとボン太くんが正面からぶつかり合う。違いに奥の手は隠したままだが条件が違いすぎる、さすがの簪といえど真耶との技量の差はまだ大きく、徐々に押されていく。

 

 

 

 

 落下してきた鈴と一夏を千冬が受け止める。そして空中では激しい戦闘が未だ続いている。1年生たちは普段のおっとりした山田真耶という教師のIS操縦者としての確かな実力に驚きっぱなしだ。

 

 

「簪もがんばってるけど、さすがにリミッター掛けてると山田先生には勝てそうにないか~。セシリアはどう思う?」

 

「山田先生の機体、あれでも兵装の3割は残したままですわよね?まだ限界出力にも達していないようですし・・・」

 

 

 シャルロットとセシリアが上空を見上げて言う。実際のところボン太くんに搭載された装備はまだ残されている、しかし威力の関係や適性距離の問題で使用できないのだ。

 そしてボン太くんには【光の翼】がある。最大出力に到達したボン太くんは、背部アンロックユニットのスラスターからビーム状の光の翼が顕現する。これはジェネレーターから生み出されたエネルギーに変換できなかった余剰分を外部に放出することにより生まれるもので、それ自体が巨大なビームブレードのように攻撃に転用できる。威力の程はビームサーベルとは比べるべくもない強力なもので、すれ違っただけでシールドエネルギーを大きく削られてしまう。

 

 なによりこの機体には【ツインバスターライフル】が搭載されている。ミスリルの科学者たちが悪ノリで装備させた超強力なビーム砲、その威力は先日の乱入者であるヴァイエイトのビームキャノンを大きく上回るもので、それが2丁。左右ドッキングさせて撃てばクレーターができるほどだ・・・。

 

 

「さすがにあんな馬鹿気たものを使うわけにはいかないからね、その辺は拡張領域にしまったままにしてもらってるよ。博士たち、放っておくとほんといつのまにか魔改造してるんだよね・・・」

 

 

 ミスリルでの日常を思い出したレイナはげんなりとしている。他の生徒と同じく旧スク水のようなISスーツ姿が妙に似合っていて、ロリ巨乳な外見と合わさり絶妙に犯罪を誘発しそうな姿だ。

 ちなみに束もISスーツ姿だが、こちらは背の低いおっとりした箒といったビジュアルなので逆にセクシーすぎてまるでグラビアのようだ。

 

 

「あ、エールのSEが尽きた・・・。3人を相手して10分かからないなんて、ゼロシステムがあるとはいえ、山田先生とボン太くんの相性良すぎですね~・・・。これなら先日のような蹂躙劇も回避できそうですね」

 

「おおお・・・、可愛い上に強いとか、ボン太くん最高すぎない?ふもふもって何を言ってるのかさっぱり分からないけどね」

 

 

 雪華と束が試合の終わりを見届けて言う、千冬という存在に隠れがちだが山田真耶というIS操縦者は世界的にも有名であり、その確かな実力は千冬がいなければモンド・グロッソで確実に優勝候補に挙げられていただろうと言われていたほどだ。そんな真耶がボン太くんという超高性能ISを使えば当然こうなると言える。簪だけでなく、シャルロットやセシリアですら同じ結果を辿るであろう。

 

 地上に降りてISを解除した真耶が戻ってくる、千冬がそんな真耶を満足気な表情で見つめてアリーナに居る生徒たちに言い聞かせる。

 

 

「今の模擬戦を見てわかっただろう、これが元日本代表候補生である山田先生の実力だ。一線を退いたとはいえまだまだ1年生のひよっこたちには敵う相手ではない。これからは侮ることなくきちんと尊敬をするように!さあ、さっそくIS実習授業を始めるとしようか、各員量産機の元へ集合しなさい」

 

 

 

 パンパン、と手を叩き生徒たちに向かって授業開始を告げる千冬の表情は、自分を慕う後輩の威厳を示すことができていつもの凛々しい雰囲気が霧散し、幾分柔らかい印象となっている。

 普段の抜身の刀のような千冬も素敵だが、それ以上に優しい姉のような雰囲気の千冬はずっと良い。生徒たちはほっこりと微笑ましい気持ちになりつつも、いそいそと量産機の元へ移動を開始するのであった。

 

 

 




転校生:原作では男装したシャルロットとラウラだが、この世界ではレナードと束になっている。ちなみにレナードも束もISに関しての知識は教えられる側のそれではない。

エビフライ:どこの千川?

レイナちゃん:これからはレナード改めレイナとなる。身長150cmの小柄な体格にDカップのバストを持つ。妹のようになったのは顔や身長だけでなく、壊滅的な運動神経とドジっ娘スキルも受け継いでいる。

つかさちゃん:しののめ つかさ。どこかで聞いた名前だが箒以外の勘の悪い1組生徒たち(一夏含む)は気づかない。身長152cmでFカップのバスト。ミスリルで培養されたマテリアルボディのためスペアも存在する。

サビーナ嬢:チッピーにより3組に放り込まれる。一部記憶が消去されているが、千冬の出席簿を見るとなぜか体が震えるようになる。

山田先生のメガネ:ボン太くん待機状態、ちょっと出来る女みたいに見える。

くーちゃん:追われ続ける逃亡生活に終止符が打たれ、悠々自適な毎日を過ごすようになる。ミスリルの大人たちに大層可愛がられているそうな。

ボイスチェンジャー:フルメタ原作でも見られる不具合、ボン太くんの呪いらしい。

アーリィ先生のボン太くん:元々ファッションセンスがアレなアーリィ先生は一切の拒否反応が無かったらしい。

ISスーツ:ISを効率的に運用するための専用衣装。バイタルデータを検出するセンサーと端末が組み込まれており、体を動かす際に筋肉から出る電気信号などを増幅してISに伝達する。ISの運用に必ずしも必要ではない。学校指定の専用タイプが用意されているが、多数の企業からさまざまなスーツが発表されており、女子はたいてい自分専用の物を用意している。一夏が使用している男性用はデータ収集用の試作品である。(Wikiより)

山田先生の対戦相手:シャルロットはアリーナサイズの問題、セシリアは相性の問題で除外されてる。

ふもっふ:ボン太くんといえば「ふもっふ」である。

夏の新刊:山田先生の受難の一つ。

山田先生の異名:本来の専用機であるショウ・オブ・マスト・ゴーオン(幕は上げられた)に由来する戦法から名付けられた、・・・と思う。

真耶専用ボン太くん:基本兵装はビームライフル×2、ビームサーベル×2、右肩後ろに搭載するロングレンジキャノン、左肩後ろに搭載するビームスプレーポッド、両肩のアーマーに内蔵されたIフィールド発生器、V.S.B.R、腰と脚部ハードポイントにマイクロミサイル・ポッド、大型メガ・ビームキャノン、ツインバスターライフル、ゼロシステム、光の翼、ビームシールドとなる。

山田先生の武器チェンジ:イメージインターフェースを利用した『高速切替』の一種。

V.S.B.R:『Variable Speed Beam Rifle』の略称でヴェスバー、と読む。速度を調整できるビーム砲で、高収束した貫通力の高い錐のような超速モードと、低収束のショットガンのような破壊力の高い低速モードがある。

ゼロシステム:新機動戦記ガンダムWに登場するシステム。全神経と五感をシステムが支配することで、「機体の各種センサーの情報を直接脳内に伝達することで、『全周囲を同時に見る』など高度な認識能力を得る」「脳内物質の操作によって痛覚を麻痺させ、通常は耐えられないような加速Gなどを伴う高機動を可能にする」「これから行いうる様々な行動とその結果をシステムが予測し伝達することで、搭乗者に勝利のための最適な行動を取らせる」といった効果をもたらす。


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