IS 《神器の少女》   作:ピヨえもん

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今まで書いてた中で一番長くなりました…。
今後も文字数が1万字あたりをキープしそうです…。(白目)

あとこれはISの二次創作ですが、基本的に原作準拠ではなく「スパロボ時空のIS」という感覚で読んでいただけたら幸いです。


40 学年別タッグトーナメント(後編)

   株式会社ミスリル  地下工房「ソレスタルビーイングⅡ」

 

 

『こちら動力室のレイフじゃ、ハイパーデュートリオンエンジン、1番から4番まで出力安定しとる。予備動力4基のGNドライヴも最大出力問題ないぞ』

 

『こちら艦首のビアン。両舷テスラ・ドライヴ、オールクリア。1番~24番いつでも稼働できるぞ』

 

『こちら艦橋(ブリッジ)の束さんだよ~♪、エネルギー供給問題なし!さっそく各生産プラント稼働開始、それとハッチ閉鎖OK、バラストタンクも注水完了。いつでもいけるよ~!』

 

 

 各ポジションから次々に通信が流れる。慌ただしくも活気に満ちた艦内ではミスリルのメンバー全員が、誰に言われずともそれぞれやるべきことをこなしている。

 実はミスリルの地下工房であるソレスタルビーイングⅡは、地上の社屋とエレベーターで接続された東京湾内の海中にある独立建造物だ。あまりにもオーバーテクノロジーの塊なため、いざという時に会社の設備と切り離せるように設計されている。

 そしてその工房設備を束が所有する移動式研究所兼隠れ家である潜水艦、『吾輩は猫である』に移設したのだ。

 ただそれだけではただの無防備な潜水艦にすぎないそれを、天才たちがその技術をふんだんに注ぎ込んで大掛かりな改修を施した。そして海中移動式拠点として運用するために長期間補給をしなくても大丈夫なように食料や空気、そして水などの生活物資や弾薬、鋼材などの生産プラントの搭載。

 結果、全長はマクロスクォーターのほぼ倍に匹敵する750mに及び、最大幅220m、艦橋部合わせて高さ38m。そして総重量は23,000t超え、本末転倒と言っていい程に海中で移動するには不向きな特大サイズになってしまった。

 さらに今度はそれを補うために陸上、そして空、果ては宇宙にまで単独で行動可能な改造を施す。

 

 そして生まれたのが全環境に対応できる要塞都市型強襲潜水艦という意味不明な艦。

 

 これは雪華が別世界から湯水のように資源を調達してきたもので、それを大天才の集団に預けたらとんでもないことになるという貴重なサンプルだと言えるだろう。しかしその結果…。

 

 まさに人類の英知の結晶と呼べるノアの箱舟となってしまったのだ。

 

 

「よし、Zクリスタルとコア・ネットワークのリンク完了。数値バランスは…異常なしと。束さん(艦長)、マザーブレインもOKですよ!」

 

「ありがとー、せっちゃん♪…コホン。えー、ミスリルの諸君!出航の準備はいいか~い?」

 

 

 『吾輩は猫である』艦長である束のどこか気の抜けた確認の声、しかしその心は未だかつてない程に抑えきれない高揚感に支配されている。

 ISを開発してからというもの、ずっと逃げ隠れ続ける生活だった。そして雪華と出会いかつての記憶を取り戻し、ミスリルに所属してその運命は大きく変わった。

 

 もう逃げるのはやめた。これからは志を同じくした仲間たちと一緒にやりたいことを、やりたいだけやる。自分が産み出したISのせいで人類が力に溺れ、世界がこのまま変な方向に進むというのなら…。自分が、自分たち(・・・・)がそれを元に戻してやる。

 ソレスタルビーイング(天上人)の名のもとに武力介入し、来るべき脅威に対抗するため世界を一つにしようとしたように。

 

 

「よしよし、それじゃあ我々の新しい船出だー♪吾輩は猫である改め、『我々は地球人だ!』。出航だよ~!」

 

『艦長のネーミングセンスゥー!?』

 

 

 連結を切り離し、海中を進む。天才たちの魔改造により、この巨体にしてトゥアハー・デ・ダナンに追い付かんばかりの隠密行動を可能にする静粛性。

 当然ながら行き先はまだ未定なためにしばらくは試運転のようなもので、日本の近海を優雅にクルージングしてデータを集める旅だ。そのため艦内は割と空気が緩く、死と隣り合わせの海中とは思えないほど穏やかな時間が流れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   IS学園第七アリーナ 西側フィールド

 

 

「二人とも!悪いけど今日こそは負けない(・・・・)わよ!」

 

 

 甲龍を纏い空中に浮かぶ鈴は右手に持った蒼天牙月をビシっとシャルロット達に突き付けて宣言する。ドヤ顔、という言葉がこれほどよく似合う少女もそうそう居ないであろう。

 小柄で細身、性格は自信満々で怖いもの無し。加えて子猫を思い起こさせるその眼付き、ニッとした口元にきらりと光る八重歯が彼女の不遜な態度を可愛らしくも微笑ましいものに変えているが、肝心の本人は『今の完璧にキマった!』と100点満点の自己評価だ。

 

 そして鈴のルームメイトであり今回の相棒であるティナ・ハミルトンは、そんな鈴の姿に吹き出しそうになるのを堪えている。美しい金髪碧眼に、鈴とは正反対に長身でグラマラスな身体。性格は明るく人懐っこい美少女だ。

 代表候補生でありながら専用機を持たないために、今回使用しているISは訓練機のラファール・リヴァイヴだ。左手にマシンガンを、右手にIS用の、通常の物よりも砲身が短い所謂ソードオフ・ショットガンを呼び出しているが構えてはいない。

 彼女はごく自然体でリラックスしている様子だが、そうであるにも拘らずまるで隙が無い。鈴と同じ代表候補生という立場である彼女だが、高い練度を感じさせる油断ならない相手だ。

 

 対するシャルロットや簪は両手に基本武装であるヴェクターガン(ナン・アン)やサイファー・ソードを携えているが、こちらも構えはまだ取っていない自然体だ。

 鈴とは放課後の練習などでよく相手をしている間柄だが、ティナとはまだ一度もやり合ったことが無い。IS開発や競技において世界をリードしていたアメリカの候補生というだけで、その実力は推して知るべしであるが、それだけ高い実力を備えていても専用機を与えられていないという現実にアメリカという国の人材の層の厚さを感じさせる。

 そのため二人は一切の油断なくアメリカ代表候補生ティナ・ハミルトンを最大限警戒している。リミッターが掛けられている彼女たちの専用機は現在候補生たちに配備されている第三世代機という枠組みの中でも突出した性能を発揮できるわけではないのだがら。

 

 そしてここIS学園第七アリーナはサッカースタジアムのような形状の卵型メインフィールドを東西対称に配置した、開いた二枚貝のような形状をしている。

 鈴たちが戦うのは西側のフィールドで、観客席に居るのはIS開発関連の技術者や操縦者の教官などが中心の玄人達ばかり。対して華やかなドレスやお高いスーツを纏ったような主要な観客(お偉いさん)は東側の話題の男性操縦者(織斑一夏)の様子を見るために押しかけているせいで、比較するとかなり地味な絵面となっているだろう。

 

 それぞれのドーム型フィールドはなかなかに広く、アリーナを管理するメインコンピュータで3DCGを形成することによりフィールド内限定バーチャル空間を作り出し、市街地や森林、岩場や砂漠などといった様々な自然環境下でのバトルなどを行える画期的なものだ。

 その3DCGはただの映像データではなく、実際に触ればISの機能を通じて質感を感じられるというリアリティさを追求したものであり、そんな立体構造物などが配置されたフィールドということは、遮蔽物に身を隠したり奇襲をかけたりといった戦術が選択できるということだ。

 今までの何もないフィールドで行う試合と違って限りなく実戦に近いそれは、行方を眩ます前に篠ノ之束が開発していった競技システムで、次のモンド・グロッソで正式採用されることが確定している新しい試合形式。

 

 しかしこれほどに複雑な環境下でのバトルとなると、それぞれの選手に高い技量が要求されるのは当然ながら、それ以上に地形や環境に対する兵器知識が要求される。

 例えば海であればビームや実弾兵器が無力化される。あるいはビル群であればミサイルなどの誘導兵器は進路が妨害される。そして逆に、今まで何もないフィールドでは役に立たなかった地雷や爆雷、トラップなどといったものが威力を発揮するようになる場合もある。

 

 そして何より、ランダムで選ばれる戦場のタイプによってはISそのものに相性の差が大きく出てくる。

 天井が無いタイプのアリーナならばシャルロットのブランシュネージュなどは空に居る分には問題無い。しかし天井があり眼下がビル群や森林などであった場合、空では身を隠す場所がない。一方的に狙撃されるのがオチだろう。

 そして一番の問題はフィールドに配置される障害物は破壊できない(・・・・・・)ということだ。ならば当然身を隠すことができるほうが圧倒的に有利。

 こういった壊れない盾が無制限で利用できるタイプの戦場で有利に戦えるのは、自身が身を隠しながらもビットを攻撃に使えるブルー・ティアーズや、白式のような小回りが利きつつも強力な一撃で仕留めるタイプだろう。

 

 

「なんで今回こんなアリーナでやることになったんだろう…。前回といい、ボク、何か悪い事した…?」

 

 

 そして彼女にとっては運の悪いことに、今回ランダムで選ばれた戦場となったのは実在しない街のビル群。しかも客席のシールド付近までビルが(そび)え、ブランシュネージュが自由に動き回れる空間など中央の大通りの直線くらいしか存在しない。

 鈴やティナはニンマリとした笑みを隠すことなく浮かべ、反対にシャルロットは見るからにゲンナリとした様子だ。

 

 市街地戦というブランシュネージュ最大の敵が牙を剥く今回のアリーナ。前回のように狭いアリーナも苦手な彼女の専用機だが、当然障害物も苦手である。そもそも機体の加速力が第三世代トップクラスの白式を上回る上に接近戦ができない。距離を取るために下手にスロットルを噴かせばビルに激突してしまう。

 絶妙に間が悪いというよりも、彼女が選んだ専用機の性質がそもそもこういった運用法をするものではないのだから致し方ないだろう。IS学園のアリーナは広いとはいえ競技の枠内、明確な区切りの存在しない戦場とはわけが違う。

 

 

「…でも高層ビル群での戦闘は全くの初見(・・)というわけじゃないし。それにこういう戦場は何度も経験してる、…私たちならいける。でしょ?」

 

 

 そんなシャルロットを鼓舞する簪。彼女たちは昔から雪華のシミュレーターで様々なバトルフィールドを経験している。それこそ地球上には無いような異空間を再現したものまで、まさにありとあらゆるものを、だ。

 ISの累計稼働時間は二人とも500時間を優に超える。そのほぼ全てをシミュレーターで経験していると言う事。それはこの世界でIS操縦者同士で戦う競技をこなしてきたのではなく、本物の戦場(・・)を過ごしてきたと言う事だ。セシリアも、ラウラも、通常のIS操縦者とは一線を画すほどに死線を潜り抜けてきている。

 

 

「まぁね、ボクだって負けるつもりはモチロンないよ?でもランダムで選ばれるっていうのが嫌だなーって。前もって判ってるなら武装の換装(・・・・・)だって出来たんだけどな。ってね」

 

「…私は基本武装で十分対応できるけど、シャルロットは…まぁ…。うん。でもやることはかわらないと思うよ?」

 

 

 すでにバトルフィールドがセッティングされ、後は開始の合図を待つばかりとなっている。周囲のビル群のせいでアリーナの観客席から見え辛いが、フィールド内に多数設置されているセンサー型カメラにより、リアルタイムでそれぞれの動きがモニターに投影されるシステムになっている。

 それらの技術だけでも客席に座る者達にとっては途轍もなく先進的で、それを数年前に単独で開発した篠ノ之束の規格外の頭脳に舌を巻く。

 

 

  『それではこれより準決勝を開始致します。各選手、開始位置についてください……』

 

 

 鈴とティナはすぐにでも動けるように前傾姿勢となり、背部のウイングユニットが展開。武装の関係上、甲龍は前衛に回らざるを得ない。しかしラファールはその汎用性からどちらでも対応できる機体なので役割分担をせずに一点突破の可能性もあり得る。

 

 

     《5》

 

 

 反対にシャルロットはどの方向にでも即座に動けるように重心を整え、簪はそんなシャルロットを守る騎士のように若干前方に移動する。

 

 

     《4》

 

 

「さあ~て、覚悟はいいかしら~?」

 

 

「鈴、油断しちゃダメだって。二人ともビーム兵器よ、直撃受けるとシールドエネルギーなんてすぐ尽きちゃうんだから」

 

 

     《3》

 

 

「簪、任せても(・・・・)いいかな?」

 

 

「ん。…タイミングは任せるから、思いっきりやっていいよ?」

 

 

     《2》

 

 

 シャルロットの言葉に簪は頷き、広域ハイパーセンサーを最小限に(・・・・・・・・・・・・・)。そして代わりにアクティブソナーとサーモグラフィーをメインに立ち上げた。

 ハイパーセンサーを切らずともソナーやサーモは使えるのだが、あえて簪はハイパーセンサーを縮小するという選択肢を取った。この戦場で必要なセンサーのみに絞る行為、格段に集中力を必要とする故の苦肉の策とも言える。

 

 

     《1》

 

 

「今日こそ絶対に勝つんだからァ!!」

 

「私だって…、負けないよ!」

 

 

     《試合開始!》

 

 

 

 

 

 

 

    東側アリーナ 観客席

 

 

 

「ふむ、あれが噂の織斑一夏君か。確かに千冬君によく似ているね。それに腕も良い、僅か2カ月程度でこれだけ動かせるとなると将来が楽しみだね。しかし・・・」

 

 彼の視線の先には東側フィールドでのタッグトーナメントの様子が映し出されている。ランダムで選ばれた戦場は、深い森林の中に巨石を組み上げたような遺跡が存在するどこかファンタジーな空間。

 現在、全世界からの注目の的であるブリュンヒルデの弟『織斑一夏』。彼は倉持技研が開発したという事になっている最新型第三世代機《白式》を纏い、アリーナ内の障害物を縫うように駆け抜ける。専用機を与えられて僅か2カ月、しかしその機動は初心者のソレではない。姉譲りの実体剣《雪片弐型》のみというピーキーな機体ながら、それをものともせずに対戦相手と渡り合っている。

 しかし彼の注目は織斑少年ではなく、対戦相手である『篠ノ之箒』の動きにある。

 

 一夏のパートナーであるオーストラリアの候補生は可もなく不可もなくといった無難な動き。それは彼が見て来た歴代候補生達の中でも特に優れたものであるとは思えない。時々先読みしたかのように後の先を取ることがあるものの、それ以外は平均より若干上といったレベル。

 そして箒のパートナーである鷹月静寂はなるほど、初心者そのものだろうと解かる。彼女たちの何らかの作戦か、操縦している打鉄は偏った兵装だが、その甲斐あってか試合が開始して10分経過した今でも落ちずに耐えている。

 

 しかしその二人と比べて篠ノ之箒という少女の技量は異質(・・)だ。

 前情報ではISに触れてまだ2週間足らずだという。しかし彼女の動きは完全にベテランのような安定感を持っている。そしてなにより武装に対する理解度が凄い。

 ISというのは拡張領域(パス・スロット)に予備の兵装などを収納し、それを量子変換して使い分けることができる機体だ。それにより様々な状況に対応できる汎用性を獲得したのだが、様々な武装を積むという事はそれを十全に扱うだけの知識や理解度が求められる上に、それぞれの武装の習熟に時間がかかる。そして量産型と呼ばれる打鉄やラファールは特にその傾向が顕著に表れる。

 様々な武装に対応できるとはいえ、使いこなせなければ猫に小判だ。それも汎用性のある武装というのはどれも決め手に欠けるという欠点も存在する。

 しかし件の箒という子が乗機の打鉄に搭載している武装は近接武器である《葵》のみだ。しかし容量の許す限り同じものを搭載しているのだろう、先ほどからマジックのように量子変換を駆使して相手を翻弄し攻めている。

 両肩のシールドすら取り外し、攻め一辺倒に特化した訓練機の打鉄。しかし最新型の白式と真正面から互角以上に斬り合い、時折邪魔をしてくるオーストラリアの候補生を同時にあしらいつつも決して逃げに転じない勇気。

 

 今このアリーナ内で場を支配しているのは間違いなく彼女だ。

 

 篠ノ之箒を目で追う彼、――――観戦している由良川グループ会長由良川将秀は、孫娘のシャルロットやその幼馴染である簪のペアが戦っている西側でなく東側の客席に座っていた。

 西側には自身の息子である将彰が観戦に行っている、しかしグループとしてもミスリルとの連携を行う上で、『篠ノ之箒』とはどういう少女なのか見てみたいという気持ちもあった。

 それはDEMコーポレーションがミスリルと連携を取ることになった繋がりで、個人としても篠ノ之束を再びバックアップするという姿勢を取ったからに他ならない。そしてそれは正しかったのだろう。

 

 義理の孫である雪華のようになんらかの潜在的技能が開花したのか、という考えも頭をよぎったが、そうであるなら猶更彼女を保護しなければならない。

 

 元々将秀を筆頭とした由良川グループは束と懇意の間柄だ。

 それは宇宙開発という夢を共有する同志であるのと同時に、世間から子供の遊びと嘲笑されていた篠ノ之束という天才が孤独にならないようにという想いもあったからだ。そして家族である箒たちの心に要らぬ傷を付けないように、日本政府が彼女と両親を引き離すことに対して断固抗議した。今の世界で雪華と出会うまで束が最後の一線を踏みとどまり続けていたのは偏に彼らの存在もあったからだろう。

 

 そんな束が逃げることを止めミスリルに所属し、彼の大切な家族たちと手を取り合って再び夢に向かって羽ばたくのだというのだ。ならば同志として家族として、それを支えるのは彼からしてみれば当然の行いなのだ。例えそれが世界中から疎まれる行いだったとしてもだ。

 ならば将秀は陰で皆を守る砦になろうと、そう決意して来たるべき日のために着々と準備を整えている。とはいえグループの社員の生活も背負っている為に大々的に表に出ることなど出来るはずはない、精々が物資や資金の提携程度が関の山だろう。

 

 

「さて、それにしても…。彼女がそう(・・)か」

 

 

 将秀は視線を巨大モニターから客席に移す。10人程のSPに囲まれた紫の髪が特徴的なスーツ姿の女性。彼女は女性権利団体の代表、エーデル・ベルナルだ。

 

 雪華たちから素性を聞き、更識家の調査を経て実態をつかんだ。この世界で無法の限りを尽くす女尊男卑主義者たちの巣窟。そして楯無が掴んだ情報ではテロリスト達との繋がりもあると言われている。

 彼女たちは先のクラス代表戦に無人機を乱入させた犯人。しかし当然ながら証拠も何も無いために糾弾されることはない。雪華のようにアカシック・レコードにアクセスできる者や、ミスリルに居る凄腕のハッカー達の力を使ってようやくたどり着けるといったところ。

 そもそもIS学園が強襲された事を伏せているのだから、捜査の手が及ぶはずもないだろう。

 

 だから彼らミスリルはあえて泳がせておくという選択肢を取った。

 

 彼女の上昇志向や強烈な野心、そして思考や行動のパターンは創造主である《ジ・エーデル・ベルナル》が植え付けたものだ。彼女自身は己の意思で行動しているつもり(・・・)であっても、それは結局創造主(ジ・エーデル)の掌の上の出来事に過ぎない。

 前の世界で彼女はその事実を突きつけられ絶望させられてから用済みとして処理された。その前世での創造主である男に対しての異常なまでの憎悪が、今の彼女を突き動かす原動力となって『女尊男卑』に現れた。

 

 しかし現在も尚、彼女はその呪縛から逃れられていない。

 彼女自身は気が付いていないのだろう。現に今でも主義や主張、そして彼女の行動に一貫性は無く薄っぺらい。ジ・エーデルによって設定された通りにしか行動できない、壊れたラジオの(エラーが起きた)ように同じ言葉を繰り返す人形。

 

 

「哀れだとは思うが…。しかしシャルロット達が下手をすれば死んでいたかもしれないのだ…!必ずその罪を白日の下に曝け出してやるぞ」

 

 

 由良川家の現家長であり、世界有数の財閥企業のトップは鋭い眼光で女権団代表エーデル・ベルナルを射抜いていた。

 

 

 ……そのすぐ後ろでなぜか口元が緩みだらしなく恍惚とした表情で両手をわきわきとさせている中国国家代表(夏喃潤)からはそっと目を背けながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  東側バトルフィールド

 

 

 フィールドを覆いつくす3DCGの木々、その合間を縫って箒の打鉄と斬り合う白式。お互いにブレードのみでの戦闘というシンプル極まりないものだが、そのレベルは代表候補生にもなんら引けを取らず、下手をすれば上位の候補生達ともやり合えるだけの練度を感じさせる。

 そして巨石で出来た遺跡とそれを覆う木々が密集した森林という、真っ直ぐ動ける程の広い空間の無いこの戦場では、白式自慢の加速力が封じられ、本来機体性能で大幅に劣るはずの打鉄が食らいつけるという状況。

 しかしそれは単純に速力の差が埋められているから起こる現象ではない。大多数の無知な観衆はそれに気づいていないのだが、ISに携わる会社の経営者や国家代表などの来賓達は追いすがる打鉄の操縦者『篠ノ之箒』の技量に舌を巻いている。

 

 

「うっく…!」

 

「どうした一夏!この程度で弱音を吐くような男だったのかお前は!!」

 

 

 巨木の陰から忍者のようにスルリと抜け出ていつの間にか密着するほどの距離に張り付かれる一夏は、白式自慢の雪片弐型を満足に振るえず窮屈な姿勢で防御に回る。

 対する箒はまるで曲芸のように近接ブレードの『葵』を1本、2本、3本と拡張領域に収納そして具現化を細かく繰り返して、ブレードの軌道上にある破壊出来ない枝や幹などの障害物をすり抜けるように斬撃や突きを加えてくる。

 完全な高速切替(ラピッドスイッチ)、これほどの超高等技術になると代表候補生でも出来る者はほぼいないだろう。しかもそれを箒は完全な感覚だけでこなしているのだ。

 しかし今回箒が打鉄に搭載している装備が近接ブレードのみという事から察することが出来るのは、彼女がこのトーナメントに間に合わすことが出来た、つまり高度に使えるようになった武装がこれだけだったという事の裏返しでもある。

 

 しかしブレードのみとは言えど、これほどの急成長を遂げるとなると、あのシミュレーターでどれほどの修羅場を潜ったというのだろうか?雪華たちはその答えを知っているが、それだけが理由ではなく、それ以上に箒が本来持っていた潜在能力(ポテンシャル)こそ驚嘆に値すると言うだろう。

 そもそもがアサキムのコピーとして生まれた少女だ。近接、射撃、回避、防御のどれをとっても高度に使いこなせるだけの資質があってもおかしくはない。

 

 

「さっきからちょこまかと…!あんた邪魔なのよ!」

 

「ちっ!そっちこそ私の邪魔をするな!」

 

 

 ハイパーセンサーでネーナの接近を感じ取っていた箒はアサルトライフルから放たれる弾丸を急停止からの逆噴射で回避する。

 その隙に箒の間合いから逃れた一夏は、ネーナの背後から接近していた静寂に狙いを定めて瞬時加速で斬りかかる。

 しかし静寂は打鉄通常装備の2枚の強靭な肩部シールドの他に、左手に保持している全身を覆えるほどの大型シールド。そしてそれ以外にも拡張領域内は多種多様なシールドで埋め尽くされており、防御一辺倒に固められている為ブレードは届かない。

 

 

「くっそ、かてえ!?」

 

「これだけ近ければ…!」

 

 

 すぐさま右手に持った焔備でシールドの隙間から射撃を繰り出す静寂。一夏は数発被弾するも慌てて上昇し森の中から抜け出る。さすがに一夏と静寂の実力差は歴然だが、こうも攻撃を当てる隙間が無い状態ではブレード一本しかない一夏では分が悪すぎる。

 しかしネーナもそれは同じで、基本的にラファールに搭載されている武器は実弾兵器ばかりだ。搭乗者の好みもあるが、そもそもが高速戦闘を行う機体だ、接近戦はほぼ想定外であり搭載していてもブレード1本という程度。

 先ほどから静寂と一騎打ちをしていたのだが、堅牢な防御のせいでどうにも仕留めきれず完全な膠着状態に陥っていた。

 

 

「ああもう!めんどくさいなあ!」

 

 

 箒に牽制射撃をしていたネーナも一夏を追いかけるように急上昇し、戦域を一時離脱する。

 現状の装備で障害物の多い森林内では分が悪い、しかし二人は極端な装備しか持ち合わせていないと結論付けた一夏とネーナは、唯一自由に動ける上空へと二人を誘い込むことにした。

 

 

「なるほど、すでに私たちの武装の全容がばれているようだな。さすがに付け焼刃の浅知恵ではすぐ看破されてしまうか…一夏だけでも仕留めきれれば勝ち筋は見えたのだがな…」

 

「どうするの箒さん…?さすがに二人に自由に動かれると私は足手まといよ?」

 

 

 近接ブレードしか搭載していない箒と、保持しているアサルトライフル以外はシールドしか搭載していない静寂。

 お互いに出来ることを一つに絞って実戦で通用するレベルまで特訓を重ねたものの、さすがに作戦を看破されてしまえばボロも出る。箒は機動の練度こそ高いがそもそも打鉄自体がそういったタイプのISではないのだ、両肩のシールドも障害物も無い空では圧倒的に不利になる。

 

 

「しかし何時までもこうしているわけにもいくまい、空で厄介なのは白式よりラファールだ。狙いを定めて一気に行くか」

 

 

 狙いを定めるといえどISにはハイパーセンサーがある。森林の中に隠れているといっても様々なセンサー類によってその位置は特定されてしまう。

 ならば飛び出てくる瞬間を狙って一斉射撃をしてくるのが目に見えている、静寂のシールドを全面に押し出して強行突破するか全弾回避するという神業以外に選択肢はない。

 

 

「さすがにこれだけシールド搭載してたら加速力なんてほぼ無いんだけど…」

 

「私が先に出る。厄介なラファールを潰す…。鷹月は合図したら浮上して一夏の足を出来るだけ止めてくれ。無理に攻勢に出なくてもいい、耐えれるだけ耐えてくれ」

 

 

 現在上空の二人は隣りあわせて浮いているのがセンサーで分かる。箒が飛び出せば一夏が横槍を入れてくる可能性もあるが、他に選択肢が無い以上、彼女たちは全力でぶつかる以外に手が無い。

 そして遮る物の無い上空ではブレード一本の白式よりも多彩な攻撃手段を持つラファールのほうが厄介だ。箒は一夏との1対1であれば遅れを取るつもりは毛頭ない、しかし機動が制限される森の中と違い、上空で銃撃や砲撃が出来るネーナのラファールに自由に動かれては静寂の腕では抑えきれないため、箒は一か八かの賭けに出ることにした。

 

 

「伸るか反るか、恐らく分の悪い賭けになるだろう。しかし我々は格下だ、分が悪いのは百も承知…!いくぞ鷹月!」

 

「…ええ、いきましょうか箒さん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   西側フィールド

 

 

「さすがに2対1なら有利に運べるわね…!ティナ、そっち任せたわよ!」

 

 

 狭いビルの合間を逃げるように引き撃ちする簪。しかし鈴の龍砲は目視出来ず、横に動けるスペースがないこの戦場では頭上を取られている以上圧倒的に不利に働く。

 そして逃げる簪に猟犬のように追いすがるティナの相手もしなければならないために、意識を頭上にばかり割くことが出来ない。

 シールドを駆使して被弾を防ぐもジリジリとシールドエネルギーは削られ、機体の損傷も無視できないレベルに差し掛かってきている。

 

 

「…まだ、もう少し…!」

 

 

 それでも簪の目の光は消えていない。開始直後にシャルロットと別行動を取り、鈴とティナを同時に相手取り引き付けた。そして彼女たちもまた、この戦場で厄介なのは簪のほうであると認識しているため、エール・シュヴァリアー()という上等な餌に迷わず食いついた。

 数的不利、そして地形的不利にて徐々に追い詰められていく今の状況ではあるが、決定的な一撃を未だ許さず、追いかけている二人も反撃で少なからずダメージを受けている。

 まともなフィールドであったならば、例え2対1でも苦戦は免れないだろう簪の実力に辟易するティナであったが、今は自分たちが一番望んだ理想的な展開だ。ここで相棒であるシャルロットと合流する前に彼女を仕留められれば俄然自分たちが有利になる。

 

 それ故に今ここで、簪を追い詰めなければならない。

 

 上空から龍砲にて砲撃を加えている鈴の行動を阻害するため、簪はビルの谷間にある直線アーケードの中を駆け抜けていく。頭上を押さえている鈴はアーケードの侵入方向とは反対側に即座に移動し、出口を封鎖する。しかしアーケード内を移動しているであろう簪はまだ出口に到着していない。ISの機動力であるなら数秒のうちに通り過ぎることが出来る程度の距離だ、ならば内部でティナと1対1で対峙しているのだろうか?鈴はすぐさまアーケード内に侵入し、ティナと挟み撃ちを狙う。

 

 内部でティナと一進一退の攻防を繰り広げた簪は、狭い路地の陰に隠れてアーケードの柱などを盾にして撃ち合う。ラファールは実弾なのでシールドを駆使すれば真正面での撃ち合いで負けることは無い。そして隙を見て行動を開始しようとセンサーに意識を割いていたそんな簪の足元に数個の球体が転がる。

 

 

「市街地戦ではこういう小道具も使い勝手いいのよね!」

 

 

 それが何なのかを頭で理解するより先に、簪は慌ててその場から飛び出す。

 刹那、連鎖的な爆発が起きてエール・シュヴァリアーが壁に叩きつけられる。

 対IS用手榴弾。アリーナで戦う事を前提に設計されている競技用ISには存在しない、戦場の概念(・・・・・)の兵器。

 

 

「ぐっ…!手榴弾…!?あぐっ!!」

 

 

 計算外の兵器によって炙りだされた簪だが、すぐさま姿勢を戻し臨戦態勢を取る。

 しかしそんな簪を嘲笑うかのように、今度は背後からの強烈な衝撃に巻き込まれ前方に投げ出される。背後を突いていた鈴の龍砲だ。

 

 狭い直線アーケードという、射線を重ねられる空間ではあるものの、有効射程距離を駆使すればティナの銃撃は鈴まで届かない。

 龍砲を乱射しつつ背後から一気に距離を詰めてくる甲龍と、前方から瞬時加速で接近するラファールの姿をセンサーに捉える。逃げ場など無く絶体絶命に追い詰められながらも、そして衝撃で頭がふらつきながらも、簪は自分の口元が緩むのを自覚していた。

 

 

「これで終わらせるわよッ!ティナ!」

 

「もっちろん!!」

 

 

 空気に圧力をかけ圧縮し、龍砲がアーケード内で形成できる限界ギリギリの特大砲身を形成する鈴。そして自身の武装の中で最大火力を持つジャイアントバズーカを呼び出し構えるティナ。

 

 どちらか一撃でももらえばエール・シュヴァリアーのシールドエネルギーは間違いなく尽きる。

 

 

「…ちょっとだけ予定が狂ったけど、大体計算通り…。やっちゃってシャルロット…!」

 

 

 そう呟く簪の声が鈴とティナの耳に届くことはなかった。唯一人、コア・ネットワークを通じて聞いていたシャルロット以外は…。

 

 

 

「…ありがとう簪!これで終わらせるよ!!」

 

 

 鈴もティナもタイミングは完璧だった。簪にはすでに回避をするだけの余力は無い。

 彼女を仕留めれば残されたシャルロット(ブランシュネージュ)は赤子の手をひねるような難易度と言えるだろう。

 そんな一つの決着が付こうとしていたアーケード内で、3人のそれぞれがハイパーセンサーに一つの反応を捉えていた。

 しかし、鈴とティナがソレ(・・)の危険性を認識した直後に暴力的なまでの膨大なエネルギーの渦に飲み込まれ、簪を含めた3人は文字通りアーケードの中から消し飛んで行った(・・・・・・・・)

 

 

 

 そしてエネルギーランチャーの暴風が消え去ったアーケード入り口には、今まで姿を隠していたオレンジと白が鮮やかな蝶を思わせる機体。

 WBHであるアルスノーヴァの最大火力、アーケードの直線を埋め尽くすほどの膨大なエネルギー砲(ライン・ロック・ランチャー)を撃ち込んだブランシュネージュ(シャルロット)の姿があった。

 

 

   

『更識簪機、シールドエネルギー0!』

 

『ティナ・ハミルトン機、シールドエネルギー0!凰鈴音機、シールドエネルギー0!』

 

『凰&ハミルトンペア共に戦闘不能、よってこの試合は由良川&更識ペアの勝利となります!』

 

 

 

「「「……きゅぅ~……」」」

 

 

 フィールドを形成していた3DCGの建造物が消え去り、ビルの壁にぶつかって3人が仲良く団子状態になって目を回しているのが見える。

 専用機持ちの二人はそれぞれがシールドエネルギーが尽きたために待機状態に戻り、ISスーツ姿だけになって気絶しており、エネルギー切れで動くことのできない訓練機を纏ったティナに覆いかぶさるように伸し掛かっていた。

 

 

「………や、やりすぎちゃった…かな?」

 

 

 そしてアリーナを包む大歓声の中、全力の一撃を放ったシャルロットは慌てて3人の元に駆け寄るのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  東側フィールド

 

 

side 箒

 

 

 森の中に撃ち込まれるミサイルや榴弾を避ける。炙りだすつもりか、このままでは拙い。

 飛び出た所でより正確な攻撃に見舞われるのは目に見えている。

 

(しかしこのままでは埒があかん、ならば一気にラファールを墜としに行く!やるしかない、一か八かだ!)

 

 私が森がら飛び出ると待ってましたとばかりに一夏が割り込もうとしてくるが、瞬時加速に使ったエネルギーを再び取り込み放出する。

 これはシミュレーターで千冬さんに教わった超高等技術の連続瞬時加速(ダブル・イグニッションブースト)

 

 さすがにこの技術を使えるとは思っていなかったようだ。

 二人ともが驚愕の表情を浮かべているが、私とて未完成のコレをぶっつけ本番で成功させることが出来るとは思っていなかったくらいだからな。

 だがこれは私たちがこの試合に勝つためには絶対に乗り越えなければならない賭けだ。一縷の望みを託した高等技術が成功し、これでラファールが反応するよりも早く相手に食らいつくことが出来る。

 

 しかしさすがにブレードを振り抜く余裕は無かった。そのまま機体同士がぶつかり合いアリーナの天井付近まで押し込んでしまう羽目に。

 

(くそっ!ここまできて…!)

 

 周囲を確認し、状況を把握する。すると後方で鷹月が一夏と対峙するのがハイパーセンサーで確認できた。

 ミスをしてしまったと嘆いていたが、まだ活路はあるようだ。

 ならばこのままコイツを仕留めるしかない。極限まで集中し、決して逃がさないように持てる全てを絞り出していく。

 

 逃げずに迎え撃つ事を選択したのか、左手で肩に抱えていた四連装ミサイルランチャーを量子化し、右手に保持している近接ブレードで私の攻撃を受け止める。

 

(だが真っ向勝負とは好都合!)

 

 しかしヤツが振るう近接ブレードの形状を認識した直後、猛烈に嫌な予感が背筋を過る。

 

(なぜ、なぜお前がソレを持っている…!?)

 

 

「な!?雪片弐型だと…!?どういう事だ!?それは一夏の……」

 

『…ぷっ、あっははははは!そんなに驚いた?勉強不足だったね~。使用者登録をすれば他人の武装だって使えるようになるんだよ!』

 

 

 白式固有の武装である《雪片弐型》。

 それは千冬さんから受け継いだ一夏だけの…。

 ……いや、まて。こいつ(トリニティ)が雪片弐型を使っているならば、一夏は…?

 

 白式は拡張領域が埋まっていて後付武装(イコライザ)を搭載することは不可能だ。そして唯一の武装である雪片弐型を目の前のこいつが使用している。

 

 では今、鷹月と対峙している一夏は…。白式は丸腰で戦っているのか?いや、そんな馬鹿なはずはない、では何が…。

 ハイパーセンサーが捉えた白式の姿。複数のシールドで防御を固めている打鉄に肉薄し、左手に持っているのは白式の武装ではない曲刀(カトラス)

 

 そして、右手に振りかぶっている見た事の無い武装…。

 

 

「なんだ、あれは…!?」

 

 

 一夏が振りかぶり投擲した見た事の無い形状のモノ。それは平べったい円形の缶が鞭のように連結している不思議な武器で、そしてまるで鎖のように鷹月の纏う打鉄にぐるりと絡みついた…。

 

 

 ―――ガゴォォォォン・・・・・!

 

 

 次の瞬間、センサーで捉えていた鷹月の打鉄が凄まじい大爆発に巻き込まれた。

 

 鎧袖のような両肩のシールドは吹き飛び、左腕に構えていた分厚い大型シールドは変形し、すでにその形を保っていない。

 打鉄自身もかなりボロボロだ。巻き付くように絡みついていたために背部のウイングスラスターや唯一の武器である焔備も誘爆してしまっている。

 

 打鉄のPICが機能を失い鷹月の姿が森の中へと落ちていく…。鷹月の意識はまだあるようだが、機体は完全に戦闘不能だ。

 少しして鷹月の打鉄のシールドエネルギーが尽きたアナウンスが流れた。

 

 

『チェーンマインていうんだよ。裏をかかれた気分はどう?』

 

 

 眼前のトリニティの声で意識が覚醒した。一瞬の出来事に呆けてしまっていた。

 

 

「まさか、あの武器はお前の…!くっ、読み間違えたか!」

 

 

 雪片弐型を振るい斬りかかるトリニティを辛うじて躱し自分の間合いに持ち込む。一夏のように習熟した剣士ではないようだが、これは唯の近接ブレードではない。

 この武器の恐ろしいところは、零落白夜を使わなくても打鉄の武装である『葵』より威力が大きい事。そのためまともに食らうだけでなく、掠るだけでも装甲が薄い私の打鉄には致命的なダメージになる。

 

 せめて一夏が追い付く前にこいつを仕留めたかった。さすがに今の私では両方同時に相手することは出来ん。

 

(だがそれでも、私は勝たねばならんのだ…。姉さんと同じ道を征くと決めた私は、この観客席にいる者達に示さねばならんのだ…!)

 

 

「せめて一矢報いる…。刺し違えてでも仕留めさせてもらう!」

 

 

 両手に葵を呼び出し二刀に構える。奥の手も何もない、ただ真っ直ぐに斬り込むのみ。

 自分が今持っている全てを出し尽くす。ただそれだけを考えて…。

 

 

「付き合ってもらうぞ、最後までな……!」

 

 

 雪片弐型を構えるトリニティに突撃し、一合、二合と斬り結ぶ。最強の刃を両手で構え必死に斬撃を受け止めているトリニティだが、近接戦が苦手なのだろう、手数で攻められ苦悶の表情を浮かべている。

 一夏は左手に持っていた曲刀を右手に持ち直し、全速力でこちらに向かっているようだ。ならば時間などかけて居られないのは明白。

 しかし、一夏がたどり着く前に仕留めるのはいくらなんでも無理がある。一撃の威力が雪片弐型に遠く及ばない葵では、ほぼ満タンに近いラファールのシールドエネルギーは削り切れない。

 

 白式が背後から癖の強い近接ブレードで斬りかかる姿が見える。ハイパーセンサーのおかげで全方位に視界を得ることが出来るが、それを処理するのは操縦者の脳だ。いくらISのサポートを得ることができるといっても、処理速度の上昇による負荷に耐えきれなければ長期戦は不可能だ。

 交互に攻めてくる二人を何度も何度も受け止め、捌く。攻撃を受け続ける葵にもダメージが蓄積し、すでに半数が使い物にならなくなっている。

 

 一歩、また一歩とこの勝負が終わりが近づいているのが分かる。

 

 ああ…一夏よ、本当に強くなったな…。

 一夏が専用機(白式)を受領してから今まで、朝も夕も必死に特訓を続けていたのを知っている。その成長度合いはこの学園に入学した頃と比べると一目瞭然だ。

 

 二人の連携攻撃を捌き切れずに次第にダメージが蓄積していく。武装も次々に損傷し使い物にならなくなっていく…、すでに拡張領域に搭載していた葵はあと1本しか無い。

 今この瞬間も、一夏は間違いなく成長している。何度も斬り結んでいるうちに、次第にこちらの太刀筋が読まれているのが分かる。この成長速度こそが一夏の資質なのだろう。

 

 

「一夏…。どうやら次が最後だな」

 

 

 最後の力を振り搾り使い物にならなくなった葵でトリニティを弾き飛ばし、それを放り投げる。荒れる呼吸を出来るだけ整えながら残された最後のブレードを呼び出し正眼に構える。

 一夏もそれを感じ取ったのだろう。トリニティが使っていた雪片弐型を受け取り、同じく正眼に構える。

 

 この一合で決着がつくだろう。ISに触れて僅かな時間しか経過していない私だが、十二分に示せたとは思う。最後はせめて、正々堂々といきたい。

 

 

「受けて立つぜ、箒!決勝は俺達が進む…!」

 

 

 さぁ、これで最後だ。そう覚悟を決めて一夏に向けて突撃しようとしたその瞬間だった…。

 それは気勢を削ぐ程の、ビリビリと大気を激しく揺るがす振動がフィールド内を駆け抜けていった。そして…。

 

 

 森の中から凄まじいエネルギー反応と禍々しい閃光が現れ、打鉄のハイパーセンサーが警告音を発した。

 

 

 

 

――――――ヴォォォオ゛……オ゛オ゛ア゛ア゛ア゛!!!

 

 

 

 鷹月の落ちていったあたり(・・・・・・・・・・・・)の森の中から、想像を絶するおぞましい程の、全身に氷を当てられたような殺気と巨大な獣のような咆哮が響きわたった。

 

 




テスラ・ドライヴ:ビアン・ゾルダーク博士が中心となってテスラ・ライヒ研究所にてEOTを詰め込んで作り上げた外宇宙航行用推進システム。推進剤を必要としない超小型の慣性重力制御装置。

吾輩は猫である、名前はまだない:夏目さんとこの作品ではなく、タッバが移動用ラボとしてつかっていた。

我々は地球人だ!:扇風機に向かって言うのがベスト。

Zクリスタル:人々の想いの結晶であるZチップを生み出し蓄積する装置。

マクロス・クォーター:名前の通り1200mあるマクロスの4分の1のサイズ。

トゥアハー・デ・ダナン:潜水艦としては規格外の218mというサイズ。

鈴ちゃん:ドヤ顔かわいい、鈴ちゃんかわいい。もふもふしたい。

ティナ・ハミルトン:鈴のルームメイト兼クラスメイト。太ることを気にしている割にお菓子ばかり食べている。

ソードオフ・ショットガン:砲身を切り詰めたショットガン。射程が短いが室内での取り回しがよく、殺傷力が高い銃のため、特殊部隊が屋内戦闘をする際に使用したりする。

今回のアリーナ:原作には登場しないものです。二枚貝(∞)の形状と思ってください。

市街地戦:ISってボトムズに出てくるアーマードトルーパーと同じくらいのサイズなんすねぇ…。それでもマッハ越えの加速で動けるほど広いわけじゃないですからね。

ISの稼働時間:原作セシリアが初登場時に300時間越え程度だった。暇さえあればシミュレーターやってたからね。

モッピー:ブレード無双。障害物を回避するのに量子化と具現化を切り替える器用さよ。

鷹月さん:シールドで亀の子。

ネーナ:バランス重視の武装選択がアダになった。

エーデル・ベルナル:ジ・エーデルの設定という呪縛から逃れられない。

中国の代表:わざわざ中国からモッピーの乳を拝みに来た。どうやらご満悦らしい。

アサキムの能力値:ゲーム内では特に射撃、回避、技量が高い。むしろボス系なので全部高い。

ネーナの能力値:ゲーム内でも特に可もなく不可もなく。ただ微量ながら脳量子波が使える。兄ぃ兄ぃズはどこかにいるのだろうか?

簪:シャルロットを守る騎士のように耐えて耐えて耐えまくる。

シャルロット:最大火力を確実にぶち込むために最高のロケーションを探していた、それがアーケード内だった。

武器の使用者登録:原作ではシャルロットの銃を一夏が使っていたのがそれ。

チェーンマイン:ガンダム0080でケンプファーが使っていた武器。連結した機雷でロマン武器。なお実在はしないらしい。

鷹月さんの落ちた場所から…:次話に続く。




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