兼一が島津寮の前に着くともうすでに夜の八時を回っていた。
「遅れちゃったな、すいませーん」
兼一が扉を開けると奥から目付きの鋭い青年が出てきた。
「ん、誰だ?」
「僕、今日からここでお世話になることになってる白浜兼一です。あの~島津麗子さんは・・・」
「ああ麗子さんから話は聞いてますよ、どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
「俺は源忠勝ですよろしく」
「白浜兼一ですこちらこそよろしく(ん?電気が消えてるのに気配があるな)」
忠勝は兼一を寮に上げると食堂に案内した。そして忠勝が食堂のドアを開けると中は真っ暗だった。そして兼一が食堂に足を踏み入れた瞬間、電気が点き同時にクラッカーが鳴った。
食堂には豪華な料理とこの寮の住人たちがクラッカーを持ち兼一を見ていた。するとバンダナを被った青年が兼一に近づいた。
「よく来たな、アンタが兼一さんだな、麗子さんから聞いてるぜ。この寮の103号室に住んでる風間翔一だよろしくな!!」
「白浜兼一です、よろしくね風間君」
「俺は102号室に住んでる直江大和です」
「自分は203号室に住んでるドイツから来た、クリスティアーネフリードリヒだ、クリスで構わない」
「直江君にクリスさんだね、よろしく」
すると次に挨拶に来た女の子に兼一は見知った人が居た事に驚いた。
「ゆ、由紀江ちゃん!?」
「お久しぶりです兼一さん」
「何だまゆまゆ、知り合いなのか?」
「ええ、私が実家に居た頃、私の父を訪ねて兼一さんとそのお師匠さんが来てくれたんです。その時兼一さんたちは一月ばかりうちに滞在なさって」
「そういえば兼一さんは武術の達人なんだってな」
「うん、ここに来る前に川神百代さんとも戦ったしね」
兼一のその一言に食堂に居るものたちの間に衝撃が走った。百代に勝負を挑み外傷一つ兼一の身体には見受けられないからである。
「姉さんと戦ったんですか?」
「え、姉さん?百代さんが直江君の?」
「いや俺はあの人の舎弟なのでだから姉さんと俺は呼んでるんです。それで兼一さん姉さんと戦ってどうしたんですか?」
「一応勝ちました」
するとまた全員に衝撃が走った。白浜兼一の実力は知らないが、武神と謳われる川神百代にほぼ無傷で勝ったと言っているからである。
「モモ先輩に勝てるとはすげぇな」
「ああ、ほんとにそんな人間が居るとはな・・・」
「しかも無傷か、すげぇだけじゃすまねぇだろ」
「じゃあ、やっぱりこの小説の通りだね」
翔一達男性陣たちが驚いていると一人だけ女の子の声が混ざっていた。その声は兼一の後ろの廊下に続くドアから聞こえ、次の瞬間ドアが開くとショートカットの女の子が食堂に入ってきた。そしてその女の子の手には一つの本が握られていた。
「その本は!?」
「戦え 梁山泊、あたしこれ好きだよ。でも大和とは結婚したい」
「お友だちで、なるほど白浜兼一どっかで聞いたことがあると思ったらこの小説の作者の名前か」
「あの~、ところで君はどなた?」
「アタシは椎名京」
「椎名さんか、僕の小説を好きって言ってくれてありがとう」
「その小説俺も京に勧められて見たぜ、師匠の修行が面白そうだったな!!」
「風間君それはね、やってみれば面白いなんて言えないと思うよ」
「実体験って言ってる。ほんとなの?」
「リアリティー無いって言われるけど全部本当だよ」
「じゃあ元いじめられっ子て言うのも?」
「うん」
「そう・・・」
(なるほどこの子もいじめられてたんだな、しかも僕よりも酷い、だから同じくいじめられていた僕に会ってみたかったんだな)
流水を発動し京の辛い過去を兼一は少し覗いた。そして話が終わると京は大和の方に去っていき、次に兼一に話をかけてきたのはクリスだった。
「モモ先輩に勝つとは兼一殿はかなりの達人なんだな」
「それほどでもないよ、クリスさんも武術をやるんだね」
「言った覚えはなかったが」
「いや筋肉の付き方や手をみれば分かりますよ。僕の師匠の中には武器の達人もいますから」
「それは是非とも会ってみたいな」
クリスと少し談笑した兼一は次に由紀恵の元に来た。
「やあ由紀江ちゃん、ほんとに久しぶりだね。大成さんや沙也佳ちゃんも変わり無い?」
「ええ、二人とも元気です」
「兼一坊おいらの事も忘れてもらっちゃ困るぜ」
「ああ松風君もここにいたんだね」
「おいらとまゆっちは一心同体さ」
「そういえば兼一さん料理はお食べになりました?」
「うん全部食べたよ」
「な、何が美味しかったですか・・・」
「そうだな皆美味しかったけど、しいて言うなら肉じゃがかな?」
「ほ、ほんとですか!?」
「う、うん出汁がよく染みてたよ」
(兼一さんに料理を誉めていただけるなんて・・・)
(ガンバだぜまゆっち!!)
「これからは僕もこの寮でお世話になるから由紀江ちゃんも松風もよろしくね」
「は、はい」
「おうよ」
由紀江との話が終わり次に兼一に声をかけてきたのは寮に住む男性陣達だった。
「よ、兼一さん。ちゃんと食ってるか!!」
「うん、確か風間君だよね」
「おうよ」
「しかしモモ先輩を倒せる人間が居るとはな、驚きだぜ」
「まあ今回は僕の勝ちだったけど次はどうなるか」
「姉さん負けてどんな感じでした?」
「清々しい感じだったかな、何かを掴んだみたいだよ」
(あの姉さんに道を示せるほどの達人か・・・近づいておいて損はないな)
「兼一さん同じ寮に住んでる者同士、連絡先を交換しませんか?」
「うん、いいよ」
「なら俺も、ほら源さんも」
「ふん、まあ減るもんじゃないしな」
「はい、デレ頂きました!!」
「デレてねぇ!!」
「どういう意味?」
「源さんはツンデレなのさ」
「直江、いい加減にしろよ・・・」
「げ、源さんマジで顔恐いよ・・・」
「まあまあ、源さんもツンデレでいいじゃねぇか」
「風間は黙ってろ!!」
「逃げろー!!」
「あ、待て直江!!」
「追いかけっこか!負けないぜ!!」
忠勝をからかった大和は忠勝の一瞬の隙をついて逃げた。忠勝も大和を追いかけ、そして翔一も二人を追いかけて部屋を出ていった。
「元気だな皆」
「アンタ良い体つきしてるね」
声のした後ろを見ると和服を着た、がたいのデカい女性が仁王立ちしていた。
「貴女は?」
「アタシはこの寮の寮母の島津麗子さ!」
「そうでしたか。これからお世話になる白浜兼一です、よろしくお願いします!!」
「アンタも中々元気が良いね、気に入ったよ。ああそうだ」
麗子は声のトーンを少し下げて兼一にだけ聞こえるように話した。
「鉄心さんから事情は聞いてるよ」
「では闇の事も・・・」
「ああ、ヤバイ武道家たちが川神の子達を狙ってるらしいね」
「ええ、でも安心してください。絶対にあの子達を闇になんかに渡させはしませんから」
兼一のその言葉と眼を見た麗子は安心感を覚えニッコリしながら言った。
「それを聞けて安心したよ、でもアンタもまだ若いんだほんとにヤバくなったらアタシたち大人を頼りな」
「はいありがとうございます、その時はよろしくお願いします」
そして兼一の歓迎会は夜遅くまで続いた、そして兼一は歓迎会が終わると麗子に自分の部屋に案内された、部屋に入ると兼一は今日あった武術家たちの事を考えていた。
(うーん百代さんだけかと思ったらこの島津寮の人たちも闇に狙われそうだな、特に椎名さん。彼女の抱えてるものは中々深そうだ)
兼一はそんな事を考えながら早朝の特訓に備えて眠りについた。
こんな感じで川神での一日を終えてみました、次回は待っている方は待っているあの男が現れます、今も何処からかあの特徴ある笑い声が聞こえてくるようです、それではまた8話でお会いしましょう、感想、評価よろしくお願いします。