【魔法戦争】小さな火種   作:雲川

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 予定よりも早い投稿になりましたが、投稿主の都合により、投稿予定日に投稿できる確証が無くなってしまったため、現時点での投稿とさせて頂きます。今頃になってですが、登場人物に関して、分かり難いというご意見がありましたら、活動報告や本編初登場の前書きや後書きで書こうかと思います。小説内での説明では、くどくなるばかりで進行を妨げてしまうので、それを極力避けようと、極端に簡略にしています。そのため、不明な点などがありましたら、ぜひよろしくお願いします。


一章「マリネット」

 零が玄関に着いた時には誰も居らず、薄暗い照明と整理して置かれている靴以外には何も無い。零は並べられている靴から茶色のパンプスを履くと、静かに家から出て行った。それから少しすると虎鉄が玄関に来て、靴が一組だけ足りない事を確認し、小さく溜息をつきながらボヤくのである。

「なんであいつはこうも協調性が無いのかねぇ……」

呆れた表情は廊下に飛び出した犬耳を見て、穏やかな笑顔に変わった。

 

 零が外に出ると鮮やかな夕焼けが出迎え、綺麗な金髪は風に揺れながら光を浴びた。零は夕焼けを憎らし気に睨むと、玄関から横に伸びている花壇に座り込んでゆっくりと目を閉じる。整った顔立ちは眠っているようにも見えるが、零は瞼の裏に忌まわしい過去を浮かべるのだった。

 

 燃え盛る豪邸に焼け焦げた肉の臭いと冷たく乾燥した秋風。それを背にした少女の手には、背丈に合わない刀と、ネックレスに繋がれた小さなロザリオが握られていた。

「……!」

 噛みしめるように呟いた言葉は、パチパチと音を立てる炎にかき消され、目の前の女によろけながら刀を振り下ろした。その女は美しい金髪をゆっくり揺らすと、紋様の浮かぶ大剣の一振りでそれを弾き、少女に告げる。

「逃げなさい、貴女には力も武器も無い。覚悟は力があって成立する物よ」

どこか品のある話し方には平坦に抑えられた声音しかなく、彼女の思考を汲み取る事はとても難しい。それでも少女はヨロヨロと立ち上がると、キツく女を睨み付けた。

「零、貴女は弱い、とても弱い、今ここで剣を振り下ろせば消えてしまう灯火だ。それを忘れるんじゃないよ……?」

 女は零の様子を見ると背中を向けて歩きだす。少女の視界はやがて薄れ、ロザリオを握り確かめながら倒れこんだ。

 

「……ーい、起きろー」

 零の意識が今に戻ると、虎鉄が肩を揺すっており、零は不機嫌そうに目を開けた。

「風邪引いちまうぞ?才兎が来たら出発する、中に入っとけ」

 虎鉄は足早に伝えると開きっぱなしの玄関から中に入ってしまい、零は暫し目を閉じると開き、虎鉄の指示に従って玄関に顔を覗かせる。玄関前には紫の髪を二つに分けた少女がおり、その少女は虎鉄と楽しげに会話していた。

 少女は萊華とは違い正真正銘の十四歳で、虎鉄に拾われてからこの組織に入ってしまっている。虎鉄曰く、少女、竜宮 早姫(りゅうぐう さき)は、特異魔法として普通じゃ考えられない魔法を扱うらしく、それが原因となり、血縁関係のある者は戦死してしまったらしい。零は早姫にロザリオを持った金髪の少女を重ね、その笑顔から何気無く顔を逸らしていた。

「それでね、花さんが……こんばんは」

 虎鉄と楽しげに話していた早姫は、零に気付くと気まずい、と顔に出しながら挨拶をした。零は小さく頷きそれを返事としたが、早姫は話の切り出し方が分からなくなったようで言葉に詰まり、その場には痛い沈黙が流れている。

「すいません、遅れました!」

 するとその空気を破るように才兎がドタドタと慌てた様子で階段を降りて来た。背中には少し大きめのリュックがあり、中からは彼の武器である七節棍が一節分はみ出している。

「今日の見張りはお前にするからいいさ、行くぞ?」

 虎鉄はさらっとかなりキツイ仕事と交換で許可したが、零は軽く手を合わせてお辞儀した。

 見張りとは言っているが誰かを拘束している訳では無い。これは任務内での用語で、偵察から就寝時の警護を指しており、睡眠はおろか休憩もロクに取れないという拷問に近い罰だ。才兎は顔を青ざめさせて零に視線を向けたが、見捨てられた事を察して小さく項垂れる。

「それじゃ、留守番よろしくね?」

「やっちまったな!」

「あぁ、やっちまったな……」

 才兎が顔を上げた頃には二人とも外に出ており、苦笑をしながら早姫に軽く挨拶をする。それを聞いた早姫は虎鉄の真似をしているのか、少し声を太くして元気良く言い、才兎は苦笑を緩い笑顔に変えると、優しく笑ってみせた。才兎が玄関から出ると、虎鉄はタバコを吹かし、零は煙を嫌ってかマフラーを首に巻いて鼻まで隠している。虎鉄は才兎が出てきたのを確認すると、タバコを指で持ち軽く今回の説明をした。

「今回はペアリング試験を兼ねてG班に遠征して現地のSランク二人と模擬戦だ。まぁ、なんだ、少人数での行動だ、そんな大した事はやらないさ。」

 ペアリング試験とは萊華と虎鉄のような、パートナーとして適正のある二人を実戦で使えるか試す、零からすれば昇格試験のような物だろう。零は話を聞くとマフラーから口を出し、顎は入れたまま小さく頷いたが。才兎はぎこちなく立ち止まると、緊張した面持ちでかたまってしまった。理由は赤らめた顔を見れば分かるのだが、虎鉄が悪戯な笑みを浮かべるのに対し、零は集中しようと目を閉じる。

「これで合格したら、零とお前は”パートナー”だな?」

「や、やめてください……僕は別にやましい気持ちは……」

「誰もそんな事言ってないぞ」

 虎鉄は悪戯な笑みを浮かべたまま才兎を小突くと、零に聞こえないように囁く。

「気を引き締めろ、緩み過ぎだ」

「……すいません……」

 それが聞こえてか聞こえてないかは定かではないが、零は瞼を上げると才兎を睨む。才兎は虎鉄に対してわなわなと身を震わせながらも零を見ると、まだ赤みの残る顔を俯かせて謝った。

「やっちまったな?」

「早姫が真似し始めたので言葉の使いを正してください……」

「そりゃ傑作だ!」

 それに対して何処かで聞いたような言葉を言った虎鉄を見ると、才兎は恨めしそうに見やり呟く。しかし、虎鉄はそれを聞くと腹を抑えて笑い出してしまい、才兎は呆れた様子でため息を吐くのだ。

「……で、時間はいいのか?」

「っと、いけねぇ」

 その様子を遠巻きに見ていた零は小さくため息を吐くと、開きっぱなしになっていた玄関の扉を閉めて虎鉄を見て言う。すると、虎鉄は思い出したように腕時計を確認し、すっかり沈んだ夕日を追うように荒れきった道路へ足を踏み出す。才兎と零は軽く目配せをすると、零が虎鉄の横に付き、才兎はそれから少し離れた所に位置を取った。この配置は少数での索敵を行う物で、才兎だけ離れたのはそちらを狙うことを想定しての事だ。基本的に目的地はチームリーダー、今回の場合は、虎鉄しか知らずその他はただひたすらについて行く事になる。その性質上リーダーを失う事はできず、次に生存率の高い人物を後方に設置する事により、多局面でリーダーをサポートできるのである。

「お前さん、大丈夫か?相手は魔法使いだ、ただの人が勝てるほど甘くは無い」

 才兎が後方に位置して零が隣に着いたのを確認すると、虎鉄は唐突に呟く。零にはそれがどういう意味合いの言葉か理解できた。才兎は優秀な魔法使い、それもほぼ全てに精通している。それに対して零は、一度も魔法を使っていないのだ。

「……使わない、私は絶対に使わない。お前等と同じになるのは、私が目的を達して死ぬ時だ。」

 零は少しの間を開けると力強く返し、刀の柄をそっと撫でる。その言葉には少し嘘が混じっていたが、虎鉄はその様子を見て小さく溜息を吐くと、ゆっくりと口を開けて言う。

「リーダーはお前の才能を買ってこのグループに入れた。あの女は……強い者を集めるためなら手段を問わない。俺や才能を殺してでもな」

 虎鉄は少し迷いながら言葉を選んだ。それがどのような意味かは測りかねるが、零は気を使われているとは受け取らない。

「くだらない、お前等がどうなろうが、私の知った話じゃ無い。私は強くなるんだよ、誰も敵わないほど強く……」

 自分に言い聞かせるように言った言葉は染みるように消えていく。矛盾した二つの意識を抑え込むように、零は耳栓をポケットから取り出すとそれを付け。虎鉄が何やら呟いたが、それはスポンジに吸い取られて消えていった。

 

 会話が途絶えてから三十分ほどの時間が経ち、視界に映る景色も見知らぬ物になっていた。零も耳栓を外して、才兎と同じように周囲の警戒に意識を集中させている。

「……おかしいな、そろそろ向こうから接触がある筈なんだが」

 不意に零れた一言は静寂を切り裂き町にこだまして薄れて行く。零が左手を軽く上げると、それを見た才兎は小走りで合流して耳を澄まし始めた。

「仕方ない……戦う準備はしておけ、命令違反には罰を、異常事態からは命を守れ。何にせよ、試験は延期だな」

 才兎が来たのを確認した虎鉄はそれだけ呟くと、ポケットからメリケンサックを取り出し両手に嵌めながら伝えた。才兎は小さく頷き、リュックから飛び出ている棒を抜く。抜かれたそれは七つに分かれ鎖で繋がれており、その棒、七節棍は一つに繋がると才兎の身の丈を頭一つ越すほどの長さがあり、棍と呼ぶよりは棒と呼ぶに相応しいのである。才兎はその七節棍を肩に凭れさせると、空いた手を零の頭に乗せてポンポンと撫でて呟いた。

「……また、次があるよ」

「分かっている……」

 才兎から見えないのだろうが、悔しそうに顔を渋らせていた零は、軽く手を弾くと冷たい表情に戻っていた。

「見せ付けてくれるねぇ……っ!」

 虎鉄が苦笑しながら零達に顔を向けたその時、風を切る音がして、何かに弾かれると矢が地面に突き刺さっていた。虎鉄の周りには淡い緑色の粒子が舞い、虎鉄の肌に薄っすらと浮き出ている鱗は、パキパキと音を立てて崩れる。三人は矢の飛んできた方向を見やると、暗がりから八人の人影が現れた。零と才兎は全く知らない相手だったが、虎鉄はそうじゃないらしく、小さく溜息を吐きながら肩を竦めて言う。

「そういう事かよ……人形師め」

「人形師!?」

「来るぞ!」

 呟かれた言葉に才兎は過敏に反応を示してしまい、現れた五人の影はそのまま虎鉄へと駆け出した。その者達は揃って刀を握っており、走り方には無駄が無く、とても綺麗なフォームで、零のそれに限りなく近かった。

「才兎!」

「っ……!」

 明らかに才兎が動きを鈍らせている事を察した零が虎鉄の前に出ると、零が怒鳴りやっと才兎は意識を目の前に移し、棒を構えて粒子を薄っすらと溢れさせる。そうしているうちにその内の一人が零に斬りかかった。しかし、零はそれを難なく半身だけ動かし避けると、手刀で頚椎を

打ち、相手は倒れ伏した。

「なんだこいつは……!?」

 すると、更にもう一人が同じ動きで斬り掛かり、同じように捌こうとした。しかし、今度はそれを反転サマーソルトをするように避けられ、踵で左手首を打たれる。動きを鈍らせた零をカバーするため、虎鉄が着地した相手の顔に拳を打ち付けるようフェイントを掛け、顔だけ避けた相手の喉に肘打ちを見舞った。相手は小さく呻き声をあげるとひざまずき、呼吸ができず悶え始める。

「才兎、零……手を出すな」

「え?」

 そして虎鉄は唐突に指示を出した。その内容は明らかにおかしく、指示があれば、今すぐにでも敵を無力化しにかかる準備の整った才兎は、間抜けな声を零した。残りは六人もいるというのに、手を出すなというのだから当然だろう。

「狙いは零だ、才兎は零を守れ。俺は一つ……暴れさせて貰うからよ!」

 零は才兎の様子を察して視線で虎鉄に説明を求めた。虎鉄は口の端を緩めると、どこか楽しげに答えて首を鳴らしてみせる。相手はあくまでも一人ずつしかこないようで、刀をチャキ、と鳴らすとたどたどしく虎鉄へ駆けて行く。

「後で話して貰うからな」

 それを見た才兎が零の手を引っ張り自身の背後にかくまうと、零は才兎の背中に小さく呟いた。才兎は返事をする事無く苦笑いを零すと、虎鉄は粒子を薄っすらと体に纏わせる。虎鉄へと駆けて行った一人は、動く様子を見せない虎鉄に対して刀を振り下ろす。振り下ろされた刀は甲高い音を響かせると、ポッキリと折れて切っ先が宙に舞った。

「相変わらず胡散臭い魔法だ」

 虎鉄は防御魔法と回避魔法を重点的に扱っており、それだけで最高の戦力と唄われている。そして、零が呟いた一言の意味は簡単だ。虎鉄は魔法に対しては”誘導”と呼んでいる回避魔法を使う。これは自分に対して行われた魔法を五メートル範囲で矛先を変える魔法だ。それに足して扱える防御魔法は、”鎧”と呼ぶ物で、矢を弾いたのはこれである。これは全身を魔法の粒子で覆い、物理的な攻撃を感知して一度だけ弾く魔法。二つは基本魔法を応用しただけの物だが、それ故に強力で強固な壁になり得る。零の一言にはそれ以上に何かしらの意味を含めているようだが、それ以上を汲み取る事はできなかった。

「あー……めんどくせぇ!」

 虎鉄は刀が折れたと同時に鱗が剥がれたが、すぐさまそれを修復して、拳を相手の腹へと叩きつける。回避行動をとる事すらできずに、相手は数メートル先まで押し込まれると、血を吐いてその場に倒れこむ。虎鉄は次の相手が駆け出すのを確認すると、雄叫びを上げて敵の群れに駆け込む。それからは流れるような手さばきで一人一人確実に、地面を舐めさせて行く。ただ一つだけ気になる点が見受けられる。相手は動きの一つ一つに無駄が無い割りに、明らかに実戦経験が足りていない事、それに、とんでもない勢いで吸収しているという事。零を相手にした時のように、同じ行動は全て見切られており、鎧を含めて次の行動が分かっていた。戦闘が終わる頃には、虎鉄の頬には一筋の傷が残っており、疲労が目に見える程である。

「虎鉄さん、どうしますか?」

「……継続不可能と判断して帰投だ。弓を持ってる奴も居ない、サンプルを持って帰りたいが、荷物があっちゃそうもいかねぇ」

 終わらせてのそのそと戻ってきた虎鉄を見ると、こちらから駆け寄りながら才兎が訊いた。虎鉄の言う荷物というのは恐らく自分の事だろう。虎鉄の魔法は強力だが、燃費がとても悪く、魔力切れを起こしやすいのだ。虎鉄は小さな溜息をつくと元の道を引き返し始める。才兎はその隣に付き、零は来る時の才兎の位置につき、限りなく濃い危険の臭いにただ不愉快そうに顔をしかめていた。




次回の投稿は
2/24
を予定しております。
ただ、今月の30日にとあるゲームが発売なので・・・・・・状態によっては文字数が半分位まで減る可能性がございます。今の内に書き溜めしておりますが、修正しないと確信の持てる所はまだ少ないので、どの程度になるかは分からないです。
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