今回もこれまでと同じような感じですので、お楽しみください。
疲弊した虎鉄を連れて帰還してすぐ、虎鉄は莱華に治療を、才兎は状況説明に呼ばれて行った。零は特にやる事も無く、リビングのソファに寝転がり人形師について、そして、虎鉄の言った言葉の意味について考えていた。狙いは零だと言っていた、虎鉄や莱華ならまだしも、こんな下っ端を捕まえてどうするというのか。零は刀を軽く握ると、立ち上がる。
「どこに行くつもりだ?」
すると、いつから居たのかドアの前にバンダナを目まで降ろした男が立っており、茶色の長髪を緩く揺らして口を開いた。零はその様子を見ると小さく溜息をつきソファに座り直す。
その男、藤島星雲はバンダナを額までズラすと、ニカっと笑ってみせながら隣に腰掛ける。
「盗み見とは関心しないな……」
藤島は読心の特異魔法を扱う者で、戦闘に関しては貧弱だが、尋問に適している事からこのグループに配属されている。これは目を隠しているとできるのだが、零の言う盗み見というのは、彼の特異魔法のことを指しているのだろう。
「はて、何のことやら?」
藤島は背もたれに両腕を掛けると、小さく首を傾げてクスクスと笑った。零は不愉快だと視線で伝えると、距離を離すように少し横に座り直す。藤島は特にそれに反応するわけではなく、天井をあおいで唐突な質問を投げた。
「ところで、お前は皆についてどう思うよ?」
零が藤島を見た頃にはもうバンダナで目を隠しており、読心を始めている状態であった。零はすでに浮かべてしまった内容を今日の昼食に切り替える。しかし、藤島は満足そうに笑っており、零へと顔を倒すと返事を待つようで、足を組んで動きを止めた。
「お前には……」
「”関係無い”か、優しい人間は損をするってのは間違って無いな。才兎が悲しむぞ?」
零は藤島と少し視線を交えると、小さく鼻を鳴らして言った。しかし、それは先回りして言われた藤島の言葉に重なり、続く困ったような顔をしながら言われた言葉に、零は嘲笑を零して言う。
「その言い方じゃ、お前は構わないってことか。冷たい人間はさぞ大変なんだろうな?」
零の言葉には普段の物とは違うトゲがあり、それを聞いた藤島は大げさに笑いながら言う。
「そんな怒るなって」
「怒ってない、ただレディの扱いがなってないと感じただけだ」
「へぇ、いつになく必死だな?」
「誰がだ?」
「お前だよ」
「喧嘩はよくないですよ?」
二人の言葉に力が入り始め、零が藤島に向き直った、その時、ドアが開き柔らかな声が会話に加わった。声の主は童顔をにっこりと緩ませ、ロングスカートに両手を添える。
「花、これが喧嘩に見えるか?俺達はこんなに仲良しだってのに、なあ?」
「触るな!」
藤島は少女にそう告げると零の肩に腕を掛け、抵抗する零を無理矢理座らせた。すると、花と呼ばれた少女は納得したのか軽く手を合わせると、小さく頷いた。
「でしたらいいです。零さん、リーダーが呼ぶように、と」
零と藤島はその一言を聞くと、ピタリと止まった。騒がしかったリビングは静まり、藤島は零の肩から腕を離して、零に視線を送る。
「……分かった、二階だな?」
零は小さくため息をつき、立ち上がり確認を取ると花は小さく頷き道を開け、零は部屋を後にした。
零はリーダーの部屋の前に着くと、ため息を吐きながら小さくノックをした。
「……入れ」
ノックをしてから少し間を開けて聞こえた声は、零のような冷たさをさらに際立たせた、機械的な響きをしており、人間味が薄い物だった。零はドアを、ゆっくりと押し開ける。
「零さんじゃないですか……分かりました」
部屋には黒髪を腰まで伸ばし、何にも刺さっていないヘッドホンで耳を覆った、零と同じくらいの女性がソファに座っており、その隣には龍が立っていた。黒髪の女性は、零に反応を示した龍に視線を送ると、龍はにっこりと笑い、零とすれ違い部屋を後にして、ドアを閉めた。
「おかしい話だ……そう思うだろ?」
「言葉の意味を理解しかねます」
ドアが閉まり、足音が遠のくのを確認した黒髪の女性は、唐突に質問をした。零は即答に近い形で返事をすると、黒髪の女性、リーダーに対して自身から質問を返す。
「私に何の用だ?」
リーダーはそれを聞くとヘッドホンを首に掛け、髪を軽く整えて足を組む。
「お前の見たことについて話せ、才兎はどうも落ち着きが無くてな、要領を得なかったんだ。」
零はいぶかしげにリーダーを見やると、ドアに凭れながら腕を組み、一つずつ順番に話し始めた。何か隠すようなことも無く、全て話し終わった頃には、リーダーもつまらなそうにあくびをこぼしていた。
「……それで帰って来たら、才兎が報告に向かって、虎鉄は莱華の診断を受けに行った。以上だ」
「そうか、もう帰っていいぞ。私は眠い……」
零の細やかな報告が終わると、リーダーはそれだけ告げて立ち上がり、ベッドに倒れこむようにして寝転がる。
「これが組織の長とは思えないな」
零はその姿を見ると、嫌味ったらしく呟き背中を向けた。しかし、こんな人が組織をまとめているとなれば、その下についている人もまた同じことを言える。零を含め、加入理由が善行に繋がる者はほとんど居ない。復讐や自己満足、中にはただ殺しを楽しむ者や、早姫のような保護された人だっている。世界のため、人のためならウィザードブレスにでも入ればいい。その中でもとりわけ異質なのは、やはり、リーダーとなるのだろう。ただ強い者を集め、育成して戦わせる。誰が何を思っているかなど、彼女にとっては些細なことである。
「あぁ、それと……」
零がドアノブに手を掛けると、リーダーは思い出したように零を呼び止めた。
「才兎から情報を引き出せ、お前が適任だろ?」
「……任務なら」
それだけ返すと、零は部屋を出て行った。
零が部屋を出ると、そこには龍が立っており、ぺこりとお辞儀をすると、リーダーの部屋に入っていった。廊下には、静かに差し込む日差しと、隙間風以外は何も無く、静寂がその場を支配している。零はそれを確認すると、両開きにされた窓へ歩み寄り、体を乗り出した。窓のすぐ横には、屋根までパイプが伸びており、それに手を掛けると、屋根へと登り始めた。慣れているのか、パイプの軋む音は小さい。
「零、かな?」
手を屋根に掛けると、才兎の声が聞こえ、そのまま身体を乗り出した。
「尋問をしに、な」
身体を横向きにして、こちらを見た才兎は、困ったように苦笑すると、日差しが眩しいのか、顔を正面へ向ける。零は屋根に足を着くと、才兎へ歩み寄り、隣に体育座りをした。
「これは指示だ。人形師についてと、お前との関係を教えろ」
零は座るとすぐに、命令するように伝えた。その言葉には、どこか距離をおいた態度が感じられ、才兎は少し考えて、顔の緊張を失くした。
「まぁ……約束は守らないとね」
才兎は小さく頷くと、思い出すように空を仰ぐ。空は日の光を浴びて、青く澄み切り、壊滅した世界の中で唯一輝きを残していた。
「そうか、もう六年も前になるのか。僕はただの人間でさ……」
零は、語り出した才兎の言葉を黙って聞いている。言葉には覇気がなく、何かを隠すように平坦であった。
「両親が死んじゃって、妹と二人で生活してたんだ」
「妹?」
「うん、相沢 奈兎」
才兎は苦笑を零しながら、名前を言うと、小さく溜息をつき、一呼吸置いて語りだした。
「ある日、妹が宗教に入っちゃってさ、その教祖が人形師、ドールマスターだったんだ。そいつは、一般人に魔法を使い、それを奇跡だなんて言ってたらしい。奈兎……妹も騙されてたんだけど、一人の女性が教えてくれたんだ。それで、止めようとしたんだけど……遅すぎた」
才兎はそこまで話すと、小さく胸を撫で下ろす。表情はいつの間にか険しくなっており、零は体育座りしたまま、急かすことなく待った。
「……妹どころか、信者だった数人を含めて失踪してたよ。その後は、その女性に頼み込んで、魔法使いにして貰って、何も考えずにこっちに来てた……まぁ、行き倒れしてたのを、虎鉄さんに拾われたんだけどね」
才兎は話終わると笑ってみせた。まるで、そうあることを自分に強いているように。零は話が終わると、才兎の肩に軽く手を置き、立ち上がった。
「見つかったら、少しくらいは手伝ってやるっ……?」
零が言い終わる前に、才兎は肩に置かれた手を掴み、見上げた。表情は固く、強く訴えかけるような視線だ。
「……ほら、僕だけ話すのは不公平だよね?零も教えてよ」
しかし、すぐに手を離すと、才兎は隠すように顔を伏せ、焦ったように言葉を選んだ。
「……逆恨みだ」
零は少し考えると、元来たようにパイプまで行き、降りて行く。残された才兎は、考える素振りをすると、苦笑を零して呟いた。
「その皮肉は、伝わり難いよ?」
才兎は仰向けに寝転がると、腕で目を覆った。
零がパイプを降りて行くと、虎鉄が窓に座って待っており、零が窓枠に足をかけ、道を譲るように立ち上がった。
「任務だ。時雨、葵葉、龍、零の四名を同行させ、俺と莱華の二名は強襲作戦を行う。花がDグループにコンタクトを取ったが……離反したと見て皆殺しだ」
零が廊下に戻ると、虎鉄は任務説明をして、溜息をついた。話は人形師の介入と見た筈、なぜ唐突に変更したのだろうか。零はそんなことを考えてしまい、遠回しに任務に対しての異議を言葉にした。
「待機が五人で大丈夫なのか?戦闘員は才兎とリーダーだけになるぞ」
「んなこと知るかよ……お前等は指示に従ってろ」
しかし、虎鉄は妙にピリピリしており、不愉快そうに答え、そそくさと自室に入ってしまった。零は、悪い方向へ話が進んでいることを確信し、左ポケットに手を入れ、軽く目を閉じ、黙想する。彼女の脳裏に焼き付く男の姿は、細かな塵となって風に吹かれて消えてしまう。零は目を開くと、抜いた手に握られている、錆び付いたロザリオを首に掛け、服の中にしまった。零は刀の柄頭を撫でると、階段を降りて行った。
階段を降りると、そこには莱華と葵葉がおり、すでに支度を済ませたようで雑談をしていた。
「お前なら水で割って、少し薄めにした方がいいぞ?あいつのは少し強めだからな」
「でも、なんとなく失礼じゃないですか」
零は何の話をしているのか、すぐに分かった。虎鉄は酒とタバコが趣味で、葵葉に限らず誰でも酒に付き合わせようとする。才兎と零は既に被害にあっており、日本酒だと飲まされたら溺酔させられた。本人曰く”越後さむらい”という物らしいが、まともに相手をできるのは、藤島と莱華、それに時雨だ。
時雨 赤埜、彼は才兎と同じAランクの椅子を貰っている。しかし、グループの人間も任務の時しか会う事は無く、不信感の強い人物だ。零と同じか、それ以上だろう。
零は階段を降りると、二人の視線から逃げるように、玄関から出て行った。葵葉の対応を見て分かるように、零も時雨のように、不信感を抱かれるような人物であり、葵葉に関しては任務前に一言、言われるくらいには敵視されている。理由は分からないが、零はそれを知ろうとしてはいけないことが分かっていた。だから今日もまた、接触は避けて出たのである。
外に出ると、緩やかな暖かい風が出迎えてくれ、零はいつも座っている花壇に視線を送った。そこには、革の分厚い服を着て、これまた革の帽子に、少々大きめのゴーグルを掛けた少年が居た。この少年が、時雨 赤埜だ。時雨は零に気付いていないのか、反応を示すことは無く、零はそのまま花壇に座り込んだ。近くで見て分かったが、彼の黒髪に紛れて、黒いイヤホンが耳についていた。特に音漏れはしておらず、何を聞いているのかも分からない。零は、黒いイヤホンから興味を失くして、視線を前に向けた。
時雨と零はお互いに避けられるような人物だ、しかし、本人達は以外と仲が良く、お互いに距離を置いている物の、情報交換は頻繁にされている。互いに唯一信頼できる人物なのだ。それを面白く思わない人物が二人居るが、それは零達が気にする所では無い。
零が軽く踵を鳴らすと、時雨はイヤホンを外して口を開く。
「何の用だ?」
「私はここが好きなんだ。用があるのはお前の方だろ?」
しかし、零は小さく鼻を鳴らすと、皮肉にはせず直接文句を口にした。
「分かってるなら話が早い。一つ忠告だけ、お前は今回の作戦を辞退しろ」
時雨の言った言葉はあまりにも唐突で、理解に苦しむ物だった。しかし、零は少し考えるように返事を保留した。零が疑問に思っているそれが、もし仮に悪い方向の話なら、残るのが最善だろう。時雨はそれ以上を言いはせず、根拠のある情報の無いことを示している。
「考えは同じか……お前は行くんだろ?」
「当然だ、俺みたいな奴は最前線にいないと意味が無い」
「なら私も行く。罠に飛び込んでやるさ」
零の結論は早かった。最初から分かっていたこともあるが、時雨がいるなら安心できるということか。
「出発だ、各自抜かるなよ。これは奇襲じゃない、ただの殺し合いだ」
時雨が口を開くと同時に玄関が開き、虎鉄の言葉と同時に莱華と龍、葵葉と順番に出てきた。零と時雨は立ち上がると、四人の後ろに着いて行く。虎鉄はやけにピリピリしており、莱華と葵葉は静かに着いて行っていた。時雨と零は軽くアイコンタクトを交わすと、小さくため息をつくのであった。
次回投稿予定日
3/24
では、また活動報告で会いましょう