【魔法戦争】小さな火種   作:雲川

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話が進み出す瞬間となりますが、非常に申し訳ない報告があります。それについては後書きに書いておきますので、まずは物語をお楽しみください。

そして初めての携帯からの投稿ですので、帰宅して不備を発見したら直しておきます。


一章「マリオネット-4-」

零は持っている限りの情報を鷲津に全て話した。メンバーの系統魔法や武器、組織構成などだけであるが、十分だろう。その後狼神と蛍に連れられて部屋を出た。どうやらここは教会の一室らしく、聖堂を囲む廊下からそれぞれ個室に繋がっている、左右対称の作りをしているようだ。

「君、大丈夫?」

「そっとしておけ、落ち着くまでには時間がかかるだろ」

歩き始めると蛍が零へ顔を振り返らせて声をかけ、零は返事もせずに視線を逸らした。狼神は蛍の頭を掴み、前に向き直しながら言う。零は脱力した様子で二人の後ろをついて行った。廊下はやけに暗く、ジメジメとした嫌な空気だ。狼神達は先ほどの部屋からおよそ反対側まで歩いて行くと、名前も書かれていない部屋へと入る。

「ここが俺達の部屋だ、俺が班長、お前は副班長。質問はあるか?」

「……」

「無いな、じゃあ指示があるまで各自待機してろ、準備は怠るなよ?」

部屋を確認する間も無く狼神が急かすように説明をし、そのまま二人は自分の場所であろうベッドへ向かった。部屋は十二畳ほどで、四隅にベッドと、それに隣接する形で小さな机と椅子が置いてあるだけ、部屋と言うよりはただの寝床と言った感じだ。零は部屋を眺めた後に、刀の立て掛けてあるベッドに近寄ると、左のポケットに入っているそれを確かめた。ザラついた感触に、安堵の溜息を零す。

「私の自己紹介がまだだったな……巾桐 零。武器は刀とナイフ、体術もする。諜報と護衛を主にしていたが、先陣を切る方が私は好きだ」

零はおもむろに呟くと、二人の視線が集まった。零のしたそれは自己紹介というよりは、ただの兵歴か、事務的報告に近い物である。狼神は小さく首を傾げたが、何かを言う前に蛍が先に口を開いた。

「じゃあ、次は私だね。私は熊谷 蛍って、名前はもう紹介されてたよね?」

蛍も自分の自己紹介を始め、嬉しそうに笑っている。その笑顔はどこか懐かしく、零が未来無き軍隊に入った当初の莱華と重なった。

「好きな物はシュークリームとか、コロッケとか。零は何が好き?」

「いや、私は……」

蛍は好きな食べ物を言い始めると、自己紹介というのを忘れてか、零へ話を振った。零は困ったように返事をし、苦笑いを返す。

「自己紹介で何で話を振ってんだよ」

「あ、そっか」

場が一瞬静かになり、狼神がフォローをするように突っ込みを入れると、蛍も笑いながら返した。零は少し狼神を見ると視線を逸らし、刀を腰に掛けて立ち上がる。

「すまないが、外の空気を吸ってくる。身体を慣らさなくてはな」

「え?まだ狼神もしてないし……」

「また後日にな、私はやらなければならない事が終わるまで、休んでいられないんだ」

「……」

零は苦しく言い訳をすると、逃げるように部屋から出て行き、狼神は口を開く様子も無く、無言でそれを見送る。蛍の残念そうな溜息だけが、部屋に残った。

零が外に出ると、そこには黒髪で片目を覆った男が立っていた。腰にはサーベルを携え、いかにもな雰囲気を出している。零はその姿を見ると、嫌悪を表情に出しながらそれを睨んだ。

「お前の教育を任された、相羽 十だ。これからはお前に同行するように指示を受けている、外出の際は声を掛けろ」

十は簡単で分かりやすい説明をして零の反応を待った。零が安定していないのは確かで、誰かがサポートしてくれればそれが組織としての安全だ。つまりは監視役ということである。零は訝しげに十を見ると小さく口を開いて歩き出した。

「変わったな」

十はウィザードブレスに居た時の同期だった。妹の相羽 六についても色々聞いており、仲が良いというほどでは無いが、お互いを知っている筈だ。何せ、努力で成長していった優等生と、反逆者を親に持つ落ちこぼれなのだから。

「お前と会ったのは始めての筈だが?」

しかし、十は不思議そうに言葉を返して後ろをついて行く。記憶を弄る魔法を聞いた事はあるが、ここまで人が変わる物なのか、優しい笑顔はそこに無く、零のような嫌悪感を漂わせていた。

「お前は知らなくても、私は知っている。身体を動かしたい、着いてきてくれ」

零は話を切ると、聖堂に続くドアを押し開けた。

聖堂は随分と荒れており、長椅子は埃を被ってさえいる。女神の像やパイプオルガン、綺麗だったはずねステンドグラスも、ひび割れ薄汚れて、神に願う者は居ないのだと暗に示していた。

「神が居たなら、この世界をどう見てるんだろうな。哀れむか、楽しむか……」

「詩人なんだな。お前は寡黙で冷徹な女だと聞いていたが、情報に不備があるようだ」

零は誰に言うでも無く、その情景を見て呟いた。憂いを瞳に映し、ただ毛嫌いする子供のように、否定する。そんな零を見た十は、事務的に呟き、女神の像を訝しげに見た。少なからず、十にも思う所があるのだろう。

「他人の指標をアテにしてたら間違えるぞ?自分の目で見て、確かめた後に受け止めろ。そうすれば、後はその相手次第だからな……」

零は意味が通じなくとも、遠回しに小さな助言をした。ウィザードブレスの妹といずれ出会うはずだ。今の六は零と同じ立場に置かれている、それは誰のせいでも無いだろう。しかし、理不尽な怒りは確実にそちらへ向き、ただ耐えるしかない日々は人を壊す。一度壊れてしまえば、もう元には戻せない。

「それは、お前にも言えることだろ」

「それもそうだ。つまらない話だったな」

十は首を傾げながら零に返事をし、零は簡単に返事を返すと歩き出した。

聖堂はやたらと広く、良く見ると壊れた長椅子には血痕が染みている。死臭こそしないものの、悲鳴に似た叫び声が聞こえてくるようだった。零はドアをそっと押し開け、外の空気を身体に浴びる。新鮮な空気と会い半し、相変わらず壊れた世界が広がり、目を細めた。

「ここから近くて広い場所はあるか?」

「それならそこのロビーがいい、遮蔽物も少なくて、戦いやすい」

どうやら十は零の目的が分かっているようで、近くのビルを指差すと歩き出しながら言った。零も少しの間を開けて十の後をついて行く。周囲の景色は初めて見る物なのに、見慣れたように錯覚してしまう。東京の景色とは、荒れ果てていればなおのこと、そういうものだろう。

「お前の系統魔法は破壊魔法だったな、狼神から聞いたぞ」

零が土地勘を養おうと周囲を見渡していると、十は唐突に呟いた。

「だから何だ?」

「なぜ使った?話によれば、これまでの戦いで使った事が無かったらしいな」

零がめんどうそうに答えたのを聞いて、十は引く所が更に踏み込んだ質問を重ねた。核心に迫ろうとしているのが見え透いた、直接的な質問である。

「それは個人的な物か?それとも、トレイラーとしてか?」

「個人的な疑問だ」

「なら答える義理は無い、せいぜい信頼を得れるよう努力するんだな」

零は嫌な顔をせずに返答をすると、十は嘘を言おうともせず素直に答えた。零もそれを聞いてよどみなく返事をし、目的であるビルへと入って行く。

内装はやはり荒れていたが、あまり物を置いて居なかったのか、フロントと自動販売機以外にはガラスが散乱しているだけで、広い空間は確かに使いやすい物であった。零は床に落ちているガラスを軽く蹴り、刀を抜いて振り返る。十もサーベルを抜剣しており、零が自分の方へ向いたのを確認すると、基礎魔法である強化魔法、ドライブを自身へ掛けた。

「お前の力を見せてみろ」

「……」

零は返事をせずに刀を上段で構えて歩み寄り始めた。剣道で言う所の攻めの姿勢で、あまりに無防備な事から、格下にやるような構えだとさえ言われている。しかし、これはルールに則った競技では無く、無法の殺し合いだ。そんな時にこのような捨て身の構えを取るというのは、どういう意味があるというのか。

「行くぞ、イヴルアイス!」

十は自身の系統魔法である破壊魔法の魔法陣を作り出し、そこから氷柱を四本伸ばして零へと向けた。零は迫る四本の氷柱の内一本を刀の一振りで破壊すると、体を翻して残りを避けて着地する。

「ドライブ……ショット」

零も刀に強化魔法をかけると、無駄に大きな魔法陣を出して、射撃の基礎魔法を放つ。黄金色の塊が幾つも射出されて行き、十は防御の基礎魔法である、プロテクションで無駄無く身体を守った。

「狼神に聞いた通り、随分と魔法の扱いがお粗末だな。それじゃすぐに魔力を切らす」

十は自身を守ったまま頭上に魔法陣を出し、氷の棘を生み出した端から零へと飛ばす。数発刀で弾くものの、頬や肩、膝を通って行き血を滲ませ始める。

「レック!」

「ショット」

零はもう防ぎきれないと判断して、側面へと駆けながら、物体を破壊する基礎魔法を放つ。しかし、それに対して十はショットで迎撃した。ショットは元々が遠距離攻撃用魔法なのに対して、レックはどちらかと言えば防御に近い役割の魔法だ。連射や速度なんかも全く段違いなのは言うまでも無い。レックは全て掻き消され、零は慌ててプロテクションを使った。

「お前、系統魔法は使わないのか?」

零がショットを防ぎ切ったのを確認すると、十は一度攻撃の手を止めて訪ねた。系統魔法は様々な種類があり、攻撃や防御に適さずとも使い方などたくさんある。それに、性格などの適性から大体はどのような物になるかは概ね予想の付く範囲だ。それに、狼神の報告が正しければ炎か何かの破壊魔法だろう。

「使えない、が正しいが……使わないも正しい表現だな」

零はそれに対して極めて抽象的な返事を返した。十も小さく首を傾げて口を開く。

「使うのに条件の必要な魔法……特異魔法か何かか?」

系統魔法は数種類ある。直接攻撃する破壊魔法、狼神の使っていた回避魔法、姿を変える生物魔法、空間を操る暗黒魔法、幻覚を見せる幻術魔法、ドライブよりも遥かに高い強化を施す神速魔法。これらのいずれかの魔法が基本的な系統魔法であるが、稀にどれにも属さない系統魔法がある。それが十の口にした特異魔法だ。特異魔法は特殊の一言に尽き、下準備が必要な物も多く、十の予想は当然の結果だと言える。

「誘導尋問はよろしくないな、お前に答えるつもりは無い」

しかし、零はそれより多くを語る前に話を切った。十の狙いを察知したというのはあるだろうが、それ以上にこの話自体がしたくないというのもあるのだろう。

「鋭いな、大体は乗ってくるんだが」

十は悪びれる様子も無く、すんなりと白状しては小さく首を傾げた。零は小さくため息を零し、刀を鞘に収める。

「もういい、帰るぞ」

「満足できたのか?」

「おかげさまでな」

零は苛立たしげにそう言うと、十を待たずに歩き出した。十もサーベルを収めて後に続く。体の状態は良好で魔法も暫く使っていなかったが、本人としては納得の範囲内で、実際に満足はできたのだろう。

二人はその後、言葉を交わさず教会へ戻り、十は零の怪我を治癒魔法で治すと、鷲津に話があると何処かへ行ってしまった。零も特にやることも無いため狼神達の居る部屋へ戻る。

「おかえりー!」

「な、なんだこれは?」

部屋に迎えてくれたのは蛍で、満面の笑みを浮かべながら両手を握って部屋へ引っ張り入れた。部屋には現存世界のであろう、読みにくいロゴの入った箱が何個か部屋の真ん中に置かれた机に置いてあり、牛若が蓋を開けてチョコを摘まんでいた。狼神の姿もあるが、不機嫌そうにベッドに座っている。

「親睦を深める会だよ!ほら、って虫オタ何やってんのよ!」

「っこえー……」

蛍は零の手を引き振り返ると、牛若のつまみ食いが目に入り何の躊躇も無くショットを撃った。一発だけのそれは頭を伏せた牛若の髪を少し焦がし、恐る恐るチョコを元の場所に戻す。

「じゃーん」

蛍がドアの上を指差したのを見て振り返ると、そこには可愛らしい絵の描かれた色紙があり<歓迎会>と真ん中にデカデカと達筆で書かれていた。零がそれを見たのを確認すると、蛍が自信あり気に胸を張った

「私はこんなこと….…」

「ほら、主役なんだから座って座って!」

零が困った様子で口を開くも、蛍の勢いに押されてそのままベッドに座らされた。どんどん抜け出しにくい空気になっているのを感じ、零も半ば諦め、口を閉じる。

「えっと、べ、んべねーてぃ、取って!」

「ベンヴェヌーティ、な」

蛍は零の横に座ると、箱を指差しながら言い難そうに牛若に頼んだ。牛若はクスクスと笑いながら正式な言い方をして返すと、一番大きな一箱をフロートを使ってふんわりと蛍へ飛ばす。

「これ、牛若が買って来てくれたんだよね、不本意だけど」

「あれ、俺の扱い酷くね?イジメだよなこれ?」

蛍はそれを取ると零の膝に置きながら牛若をチラ見して呟いた。明らかに扱いが悪い気もするが、零は才兎への態度を考えると、牛若の講義が聞こえた気がしつつも、零は気にせず蓋を開け、中を確認した。中にはシンプルに金色の紙包みのされた一口サイズの物が何個も並び、甘い香りからそれがチョコだと分かる。

「べんべぬーてぃって、歓迎って意味なんだってさ。だよね?」

「あー、差別って意味だった気がするな」

「歓迎って意味なんだってさ」

「話し聞いてたか?」

「虫オタうっざい!」

零が包装を開けた頃には蛍と牛若の言い合いが始まっており、苦笑を零してチョコを口に含んだ。随分と摂取していなかった甘い物に、身体は貪欲に反応して唾液が溢れ出るのを感じる。チョコはスグに消え、零は次のチョコをまた口に含む。

「おい、お前」

二人の言い合いが収まって来たころ、口を開いたのは狼神だった。

「なぜ俺達と居る事を選んだ。まさかとは思うが、利用されるだけってのに気付かないのか?」

「ちょ、ちょっと狼神……」

狼神の言葉は歓迎会という物には合わないことは確かだ。蛍も立ち上がり狼神を咎めるように見る。

「どうなんだ?」

確かに、こんな話に乗る方がどうかしてる、仲間として過ごした人達を売り、敵に組みするというのは、真っ当な考えを持っていればありえない。零はチョコの入った箱をベッドに置くと、蛍の背中を軽くさする。

「まさか、トレイラーにそんな事を言える奴が居るとはな」

「勘違いするなよ?俺達は悪党じゃない、俺達の正義を持って戦うだけだ」

零は立ち上がり、代わりに蛍を座らせながら首を傾げる。狼神は不服そうにそう言うと、手を軽く払い立ち上がった。

「私達、いや……未来無き軍隊はそれぞれ人生を賭してでも成したい何かがある。それをする上ならば、悪党にでもなるさ。とうに人生など捨てているからな」

零はまるで演説をするかのように言うと、自分の胸に手を当てて目を閉じた。狼神は更に苛立った様子で舌打ちをすると、バスターソードを掴み零へ向ける。

「それが気にいらねーんだよ!」

「私はお前達と仲良くしたい訳では無い、気にいらないならその剣で私を斬ればいい。」

零は鼻先につきそうな刃を前に、臆する事なく宣言する。先ほどまでの、蛍に流されていた時に比べて、未来無き軍隊に居た時の覚悟のような物があった。

「……そんな趣味はねーよ」

狼神はしばしの間を開けて呟くと、バスターソードを降ろし、顔を背けた。

その後は誰も口を開こうとせず、蛍と牛若は居心地が悪くなったのか部屋を出て行った。残された零と狼神も口を開く事はなく、お互いにベッドの上で壁に寄り掛かるように座り仮眠を取っている。

「おっと、怖い怖い」

すると、不意にドアが開き零は反射的に刀を持つと、開けた相手へと刀を抜き放った。しかし、放った一閃は軽く屈むだけで避けられ、零は相手を確認した。

「まぁ、悪くない反応だが、場所は選べよ?」

「すいません……」

白髪にモノクルを掛けた男、鷲津はこれといって不機嫌そうにはしていないが、零は素直に謝って刀を鞘に収めた。狼神もその声で起きたのか、急いで立ち上がるとすぐ頭を下げる。

「鷲津さん!すいません、教育が行き届かず….…」

「気にするな、こんくらいが丁度いい、役に立たないよりはマシだ」

狼神はしおらしく謝っていた姿から、上にも威圧的な言動という訳では無く、才兎に近い律儀さが見て取れた。どこか懐かしさを感じ、零は戸惑いながらもそれを出さないように鷲津を見た。

「仕事だ、狼神の班は未来無き軍隊を叩け。虎鉄と莱華、リーダーだけは必ず生きた状態で連れてくること、それ以外はついでで構わんさ。十を付けてやるから、しくじるなよ?」

「……分かってる、大丈夫だ」

「ならいいが、変な気を起こさないことだ、情報の値段は高い」

鷲津は零と目を合わせると、遠回しに警告をし、零もそれが分かり小さく頷いた。狼神はよく分かっていないようで、頭の上に疑問符を浮かべているような顔をして小さく首を傾げている。

「蛍と牛若には言ってある。十分後に鏡の間に合流だ。牛若はもう待機してるからな?」

鷲津はそれだけ言い残すと部屋から出て行く。鷲津の後ろには十と蛍もおり、十は鷲津の後に着いて行き、蛍は気まずそうに部屋に入った。

「大丈夫だよね?」

ドアを閉めて二人を交互に見ると、蛍は不器用に笑って見せながら訪ねた。狼神と零は視線を交えると、零は苦笑を零し、狼神は声を出して笑う。

「何がだよ?」

「うーわひっど!せっかく心配してあげたのにさぁ!」

蛍は地団駄を踏むと、そう言いながら部屋から出て行き、零もそれを追おうと踏み出した。

「未来無き軍隊に、こういった時間はあるのか?」

「……ある」

しかし、狼神が先にドアの前に立ち、質問をした。零には彼が何を考えているか分かったが、正直に答える。すると、零の予想通りの言葉が彼の口から出た。

「今ならまだ間に合うぞ、蛍は懐いてやがるから手を貸してくれる。十なら俺が適当に話を……」

「お前に迷惑をかける気は無い。信用されてるんだろ?それに応えてやるのが下の勤めだ」

心配しているのか、何か思う所があるのか、狼神は手を貸すからここから離れろ、そう言いたいのだろう。しかし、零はそれをハッキリと拒否した。狼神に迷惑をかける気は無いというのはその通りで、その後の言葉も本音である。ただ、零は今言った言葉が自分は守れていない事を分かっているのだろうか。

「狼神どうしたのー?」

「変な事を聞いてすまんな……今行く」

蛍の呼び声に返事をする前に一言呟くと狼神は出て行き、残った零も小さく溜息を零して部屋から出て行った。三人が鏡の間と呼ばれた部屋に入ると牛若と十がすでにおり、牛若はホッとした様子で歩み寄って来た。

「お前等遅いってー……」

「呼ばれてすぐ来たんだ、文句は聞かんぞ?」

牛若はうんざりした様子で狼神に抗議すると、十を横目で見た。どうやら気まずかったのか苦手なのか、何にせよ間が持たなかったよである。

狼神はそれが分かっているようで、返事をさせる前にもう一言付け足し、牛若もそれ以上を言うのをやめて、狼神の横で笑っている蛍と雑談を始めた。

鏡の間には三つの姿見用の大きな鏡が三つあり、部屋は比較的暗く窓は無い。魔法により鏡を様々な所に繋げる事ができ、それのためのいわゆる出口なのだろう。

「行くぞ」

狼神は牛若の雑談を待つと、軽く声を掛けて歩き出す。未来無き軍隊では必ず目標の確認と、作戦概要が説明されるせいか、零は少し戸惑った様子で四人について行く。これから戦う事になるというのに、零の思考は依然として鈍く、自覚できる程度には腑抜けていた。それは相手が未来無き軍隊だからというのは勿論、トレイラーに対しての不安が大きいからだろう。組織として強力なのは相手にしていて良く分かったが、個人の意識を見ると、どうしても未来無き軍隊に勝るとは思えない。油断の一つで死んで行く者を何人も見てきている零には、この緊張感に欠ける空気が何とも言い難い、不快な気分にさせるのだ。

狼神から順番に鏡へ入って行き、零は最後に鏡の中へ消えていった。




投稿主の都合となりますが
受験生になり時間が取れなくなった都合により、暫く更新を停止する予定です。目安としては、夏休みごろに部活を引退するため、そこから書き始めて一ヶ月後にする予定です。
投稿日が決まりましたらまた活動報告にてお知らせしますので、ご安心ください。

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未定
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