なりきり妖夢一直線!   作:月日星夜(木端妖精)

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第三十八話 学園祭へ

 妖夢さんは、友達ですよ。

 

 視界いっぱいに広がる先生の笑顔。

 体中ふわふわした感覚に、ああ、これは夢だとわかった。

 先生は、そんな笑顔で、私を友達とは言わない。

 ……そもそも、先生は、本当に私を友達だと思っているのだろうか。

 目の前でにこにこ笑っている先生に対して失礼な事を口にしてしまう。心の奥の方で、それはいけない事だと思っているのに、頭の中では、これは言って当然の事で、たぶん事実なのだと考えていた。

 よくわからないけど……先生が私に友達と口にする時、どこか、軽い。

 軽いというか、現実味が無いというか……きっと、そう口にした先生も、自分が何を言ったか理解してないのだろう。

 ……そんなはずは。

 あるのだろうか。

 あるんだろう。

 だって私は、ニセモノだ。

 ニセモノを友達だと言う人はいない。

 あるいは先生なら、表面だけでも、この私を友達だと思ってくれるのかもしれないけど。

 だとすれば、それは凄く、悲しくて、気持ち悪い事。

 ……というか、友達ってなんなの?

 いい加減教えて。友達って、どれくらい、私に近いの?

 私に何をしてくれるの? 私の剣を受け止めてくれるの?

 赤く染まったこの手を、綺麗にしてくれる? それとも、素知らぬふりで、透けるように、私に重なる?

 ……意味がわからない。早く答えが欲しい。

 先生の笑顔が遠退いて、私の体はどんどん後ろへ流されていく。周囲の景色はどことも知れない場所ばかり映って、でも、どこもかしこも行った事がある場所で、その思い出と共に、私は前へ前へ過ぎ去っていく光景を眺めていた。

 私自身はこんなにも速くなったというのに……どこにも、答えは見つからない。

 ふいに浮かんだ言葉に、全部の光景が褪せて、歪んで、見えなくなった。

 ああ、そっか。

 私、どこにも行った事、ないや。

 だって、私……私は…………。

 誰か、否定してくれればいいのに。

 ううん、そんな事されたら、きっと私は怒って、その誰かを斬ってしまうだろう。

 だから、誰も言わなくていい。

 でも、言って欲しい。私がどこにいるのか、教えて欲しい。

 一回だけじゃやだ。ずっと、ずっと、一秒ごとに……もっと少ない時間に、教え続けて欲しい。

 私がどこにいるのか。

 

 

 体の熱で目が覚めた。

 最初に感じたのは、寝苦しさと息苦しさ。それから、汗で濡れた肌着の感触。

 気持ち悪くて体を動かしたくないのに、癖で腕を上げ、かけ布団を退かそうとして、既に半分以上、右へ追いやられているのにぽすんと腕を落とす。膝周りにしかかかってない布団を足だけ動かして横へやり、寝返りを打つ。

 近くに大きなものの感覚があって、私は目を開けた。

 木製の仕切りと、その先の壁。分厚いそれに圧迫感を感じて、反対側に体を向ける。

 顔の横に投げた手の下に、硬い何か。昨晩、寝る前に枕の傍に置いておいた腕時計だ。

 なんとなくそれを手に取って、ディスプレイを見た。時刻は五時四十七分。早くに目覚めたような気がしたのは気のせいだったらしい。そろそろ起きないと。

 怠さの残る体を起こして、足を引きずるようにベッドの外に出し、淵に腰掛ける。沈んだベッドがギィと軋むのに、なんで、寝起きってこんなに体が重くなるんだろうと思った。

 時間が過ぎるのは速い。ふらふらと私の後ろから飛んできた半霊が徐々に高度を下げ、ぽてっと床に落ちて、そのまま呼吸するみたいに体を上下させるのをぼうっと見ている内に何分も過ぎてしまって、もう、六時になろうとしていた。

 ベッドから下りると、うんと体を伸ばして伸びをする。頭の後ろにじんわり広がる熱が吐息になって漏れると、ようやく目が覚めてきた。

 パジャマの一番上のボタンが外れているのは、寝返りを打った時にそうなったのか。付け直しながら、洗面所に向かう。

 ……今日は、このかの所でご飯が食べたい。

 歯を磨きながらそんな事を思った。特に何かを考えていた訳でもなく、前後の繫がりなしに浮かび上がった言葉。

 でも、それは無理だ。学園祭が終わるまで、朝食は超包子でとる事になる。そこでだってこのかとはご飯を食べられ……違う。このかの部屋で、このかと先生とアスナ、みんなと一緒に食べたいんだ。

 どうしてかは、知らない。でも、そうしたかった。

 そうしたいけど、できない。……言えば、叶えてくれるだろうか。

 いや、私のわがままでみんなの予定を崩すのは駄目。

 ……学園祭が終わったら、いくらでもできる事だ。今は、我慢しよう。

 ……それに、これも、よくわからないけど……みんなとご飯を食べたくない、なんて気持ちがわいてきていた。なんでそんな事を思ってしまったか自分でもわからない。みんなを嫌いになった訳でもないのに。

 歯ブラシを下ろして、鏡に映る自分の顔をじっと見つめても、何もわからない。青い目に映る私は、眠そうにしているだけで、その顔からは何も感じ取れなかった。

 自分の気持ちだというのに、不透明な何かで覆われる心に無性に不安になって、歯ブラシをくわえて乱暴に歯を磨いた。

 

「……っ!」

 

 ……どこか傷つけてしまったのか、鋭い痛みが走るのに顔を顰める。

 同じタイミングで空中で跳ねた半霊が頭にぶつかって来て、ぐいと頬に刺さる歯ブラシに、変な声が出た。

 ……ああ、今なら、鏡の向こうの私が何を考えてるのか手に取るようにわかる。

 とても不機嫌だ。

 

 

 いつものようにみんなと登校して、授業をこなして、お昼休みには、みんなとご飯を食べて。

 そこに物足りなさはあれど、このかが笑いかけてくれれば、そんなものは全部暖かいものに溶けて消えてしまうし、アスナが傍にいてくれるのはなんだか嬉しくて、このかの部屋でとかは、もうどうでもよくなっていた。

 ……あれ、先生がいなくても大丈夫なのか、私。

 

「…………」

 

 お手洗いに行った帰りの廊下で、何気なく足を止めて窓の外を眺めた。窓枠は高く、私の顔の真ん中辺りから上に窓があるので、少し背伸びをして、窓枠に手をかけて寄りかかり、外を見た。

 ずっと下の方に、緑色の絨毯……は、意味がわからないか。草がずっと続いている中庭がある。生えてない場所は通り道。女子生徒が何人か歩いている。真ん中には大きな木があって、傍にベンチが設置されていた。そこにも人がいて、談笑しながら膝の上に広げたお弁当をつついている。その声はここまで届かないけど、楽しそうな話をしているというのはわかった。だから何、という訳でもないけど。

 ただ、そうしていると、何も考えなくて良いような気がして、そうしていた。

 窓に手を当てる。思ったよりひんやりしてなくて、自分の手を見た。そうすると、窓の中に手の影が入り込んでいるのに気付いて、でも、特に興味をひかれた訳でもないので、すぐに外に目を戻した。

 明日から、授業がなくなるんだっけ。

 いや、正確には、半日になる、か。

 学園祭が近い。土日を挟んで、今日に至ってもまだ出し物の準備は終わってない。毎日ぎりぎり……というか、少し帰らなきゃならない時間を過ぎたくらいまで残っているのに、外装すら終わらない。なぜか衣装だけはあらかた揃っているのに。

 みんなの間では、このままだと泊まり込みでやるしかないだろうという話が持ち上がっているけど、どうなるのだろう。私としては、それはちょっと困る。

 ただでさえ遅くまで起きていると眠くてしょうがないのに……じゃなくて、晴子に会いに行けないからだ。友達とは何かを問いたいのに、時間が取れなくて聞きに行けない。

 少しは自分で考えろ、という事なのだろうか。

 でも、いくら考えたって、答えなんて出ない。だから聞こうとしてるのに……。

 薄く窓に映る私が、眉尻を下げて情けない顔をしているのに気付いて、腕で額を拭って誤魔化し、その間に表情を取り繕う。

 そもそも、友達ってなんなんだろう。言葉の意味や、成り立ちとか、そういうのではなくて……言葉そのものの意味はどうでもいい。それがどんなものなのかが知りたい。

 じゃないと、私、やっていけない気がして……。とにかく、不安だ。

 意味さえわかれば、きっと大丈夫なはずなのに。だからすぐに知りたいのに。

 ……そもそも、なんで不安になっているのだろう。

 窓に額を押し付けると、ずれた前髪が、目の前を遮った。窓越しに映る銀色を見ながら、ぐらぐら揺れる心の中に問いかける。

 なぜ、答えを欲しがっているのだろう。

 それを必要とする私って、何?

 ……そんなのは、決まっている。私は妖夢。魂魄妖夢だ。

 では魂魄妖夢は、こんな所で何をしている?

 絶対的な答えに、別の方面から問いが投げかけられる。

 心が揺らぐ。水面に石を投じたように、波紋が広がって、体の内側にぶつかった。

 それは、友達を……このかを守っている、んだ。

 私がここにいる事に、このかが必要。友達が必要なのだ。

 ……それって、どういう意味?

 その考えにたどり着いた瞬間は、それが真実だと思えていたのに、次にはもう、それの意味さえわからず、うつむいた。ずるずるとガラスに擦り付けられた額が痛む。捲れ上がった前髪が倒れる中で、窓に止められた。

 そもそも、半霊が戻った今、私はここに留まっているべきではないのではないだろうか。

 いや、このかを守らなきゃいけないから……セツナがいるのに?

 セツナだけじゃない。先生だっているし、アスナもいる。

 私は必要なのだろうか。

 いつも私より速く、私より多くこのかを救うセツナ。何より強い先生。そして、どこか怖いアスナ。

 認めたくはないけど……考えたくないけど、私って、いても意味ないんじゃ……ないだろうか。

 それどころじゃなくて、私は邪魔なんじゃないか。

 だって……私がここにいるのは……ほんとは守る為じゃ、ない。

 ただ、私、このかに頭を撫でてもらいたいだけで。

 手を繋いでほしい。抱きしめてほしい。一生離さないでほしい。

 できれば、一緒に暮らしたい。同じ部屋で、同じ場所で、それで、たくさんお話ししたい。

 いつまでも、いつまでも、終わりなんてないくらいに、何年も、やり直すように、それで、私の……。

 

 ようやく、得心がいった。

 これが、私の本心なのか。

 私は、このかを言い訳にしているだけだったのか。

 くるりと回った半霊が、顔の横を漂う。

 でも…………でも、幽々子様は、ここにいても良いと言った。

 今は、彼女を守るべきだって……そんな事、いつ、言っていたっけ。

 電気をつけない、真っ暗闇の私の部屋に、ぼうっと浮かび上がる幽々子様を思い出す。

 部屋の中よりも暗い瞳。淡く光を纏った姿。ひらひらと飛ぶ青い蝶が、差し出した指の先に止まる。

 ふいに、亀裂が走った。

 ……あの幽々子様は、いったいなんなんだろう、って。

 だって……幽々子様は、冥界にいる。

 だから私、たくさん頑張って、幽々子様の下に行こうとしていた。

 だというのに、幽々子様はいつも私の傍に現れてくれる。

 ……あの幽々子様は、何?

 廊下に満ちる女性達の声を聞き流しながら、理由もなく中庭を見ていると、そこに半透明の人影を見つけて、目で追った。

 あれは……亡霊だ。うちのクラスに出た亡霊。先生とアサクラさんのお友達。

 木の陰からふらっと出て来たかと思えば、ベンチの後ろに寄って行って、そこに座って話している二人を交互に見ている。かと思えば、右の方へ飛んでいって、本を読んでいる女子生徒が一人だけいるベンチまで来ると、後ろからその人を覗き込む。

 少しの間そうした後、傾けていた体を戻した亡霊は、木の下に戻って、ただ立つのみになった。

 ……何してるんだろう。

 いつも教室にいる印象があっただけに、珍しく外にいる亡霊に興味を抱いた。そうして、考えちゃいけない、怖い事をどこか遠くに追いやって、窓に手をかけた。

 ……開かない。鍵がかかっている。

 なら開ければいいだけだ、と鍵に手を伸ばして、届かないのに、つま先立ちをして……そこで、自分が馬鹿な事をしようとしていると気付いた。

 ……なんで私、窓から飛び降りようとしているのだろう。人前で魔法を使ってはいけないんじゃなかったっけ。

 魔法の存在がばれてしまえば、先生がオコジョになってしまうとかいう話を失念していた自分に馬鹿あほ間抜けと罵倒を投げて、普通に階段で下りる事にした。

 中庭に出ると、亡霊はまだ木の下で佇んでいた。

 ここまで来るのに少し時間がかかったから、いなくなってるかも知れないと思ったけど……彼女は暇なのだろうか。ご飯を食べなくていいから、時間が余ってる? いや、亡霊だってご飯は食べる。下手すれば生きてる人間よりよく食べる。

 人も疎らになっている中庭を歩いて行くと、お腹の下で手を合わせてうつむいていた亡霊が、音もなく顔を上げた。目が合うと、亡霊の目はたちまち見開かれて、大慌てで右往左往し始めた。

 逃げようというのか、そういった挙動を見せる亡霊に少し傷つきながら、しかし、結局はどこにも行かず口元に手を当てて不安そうに私を見る亡霊の下まで来た。

 見上げれば、濡れた瞳が私を見返す。亡霊も涙を流すのだろうか。ふとそんな言葉が浮かんだせいか、私の興味はふわりとどこかへ飛んでいって、無くなってしまった。

 

『……あの』

 

 弱々しく声をかけられるのに、小さく首を傾げて返事とする。

 何か言いたい事があった訳ではないのか、一言発したきり、亡霊は口をぱくぱくと開閉させて、しかし何も言わず、目を逸らした。胸の前で合わせられた手がしきりに動くのに、早くここから立ち去りたいという意思が透けて見えて、でも、それにはショックを受けなかった。

 ……彼女は、死んでいるのだろうか。

 当然そうだろう事を考えてしまって、なんでそんな事が思い浮かんだのか不思議に思った。

 思ったところで、何がどうなる訳でもないのだけど。

 私が彼女に目を向けながら、そこではないどこかを見て考え事をしている内に、暇だったのか、彼女は半霊を目で追っていた。……もうみんな、時折捕まえようとするくらいで、存在を気にしなくなっていたから、こうして気にされるのは久しぶりだった。

 試しに彼女の前まで泳がせてみれば、びくっと体を震わせて僅かに身を引き、おそるおそるといった様子で手を伸ばした。触れても何もないと知ると、顔を綻ばせて、猫の頭を撫でるみたいに手を動かす。

 

『あっ……』

 

 ……私も頭を撫でられているような感覚を受けるのに、恥ずかしくなって半霊を逃がせば、残念そうな声。背後に隠した半霊を目で追っていた亡霊は、結果的に私と目を合わせる事になって、硬直した。

 ……そんなに、私が怖い? 私は、あなたの方が怖いと思うんだけど。

 心の中で問いかければ、誤魔化し笑いをされる。先生がよくやる奴だ。……それ、嫌い。好きじゃない。

 ……亡霊を斬ったら、どうなるのだろう。

 唐突に首を持ち上げた興味に、白楼剣に手を添える。亡霊は、不思議そうに私の手の動きを追って、横から覗き込むように白楼剣を見た。

 

『……?』

 

 腰を折る亡霊の髪が風に揺れる。長い白髪。それはいつかの私を垣間見せるようで、心を引っ掻く金属片に似た不安に、白楼剣を抜いた。

 

「おーい妖夢ちゃーん! お昼終わるよっ、そろそろ戻りなーっ!」

 

 いや、抜こうとして、背後の、高い所から聞こえるクラスメイトの声に、止められた。

 振り仰げば、ああ、マキエ。窓から身を乗り出していたマキエは、私が見上げると嬉しそうにぶんぶんと手を振り始めた。落っこちそうで危ない、と思っていると、誰かが引っ張ったのか、ひゅっと窓の向こうに引っ込んでいった。

 

『か、刀……!』

「……戻らないの?」

 

 怯え混じりの声に、顔だけで振り返って問いかければ、白楼剣を見ているらしい彼女ははっとして、あわあわと私を追い抜いて校舎の方へ向かって行った。

 ……あ、飛んで行かないんだ。

 

 

 放課後、出し物の準備をしていると、セツナが話しかけてきた。剣道部の方にも顔を出して欲しい、との事。急にそんな事言われても。しかしこれは、部長たっての願いらしい。……部長って誰だっけ。男の人?

 ああ、あそこって中高合同の部活なんだ。どうりであそこの人達の顔を覚えられないと思った。……そもそもあまり行ってないから、知らなくて当然なんだけどね。私、()()部員だし。

 それにしても、部長たっての願いとはなんだろう。私に頼むような事とは……そもそも、名指しで頼まれる程部長さんと親しい訳でもないのに。

 ……行かない訳にもいかないか。伝えてくれたセツナに礼を言うと、話が終わるのを待っていたのか、セツナの後ろからひょこりと顔を覗かせたこのかが、学園祭を一緒に回ろうと提案してきた。一も二も無く頷けば、行ってらっしゃいと手を振られるのに、小さく振り返す。

 ちょうど、部活の方に催し物がある人は、そちらに行く時間になって、私は委員長に一声かけてから教室を出た。……そういえばセツナは、一緒に行かなくていいんだろうか。

 

 剣道部では、出し物の準備が行われている様子はなかった。待ち構えていた高谷部長(三度名前を教えられた。流石に覚えた)が言うには、学園祭では見学と体験を実施するらしくて、準備らしい準備は受付だけで終わっているのだとか。

 それから、私への用は、いちおう出るかどうか聞く事と、私の剣を貸して欲しい、という事。

 私がいれば、子供とかでも気圧されずチャレンジしてくれるかもしれないというのと、私の刀を飾りたいのだとか。

 細かい説明を受けても、私の答えは最初から決まっていた。すなわち、駄目。

 

「そっか。それは残念だけど……ま、君にも用事があるんだろう」

 

 濃いクマがついた目を細めて、朗らかに笑う高谷部長に一礼して、私は教室に戻った。

 

 

 薄暗い自室の、テーブルの上に置かれた包み紙を手に取る。

 この中ににあるのは、赤いあめ玉。カモ君がくれた、見た目を変化させる魔法のお菓子。

 先日は、これを使ってアスナと先生がデートをしていた。このかやセツナも試して、大人になっていた。

 私は……私は、どうなるのかわからなくて……貰ったその場でカモ君の口に突っ込んでしまった。

 大きくなったカモ君がキーキーわめくのに謝罪しつつ、代わりを貰って、でも、その場では食べなかった。……どうなるのか、わからなかったから。

 大きくなるのか、この姿のままなのか……どちらにせよ、それを知るのが怖かった。

 未来の姿って言葉も嫌。私の未来がどうなっているのかなんて知りたくない。

 ……知りたい。

 そうだね。知りたいね。

 ……本当は、知りたい。私はどうなるの?

 それは、友達が教えてくれるものなのだろうか。

 友達って、そういう存在? これが答えなのだろうか。

 違う気がする。やはり、もっと正確に知りたい。

 納得できるものが欲しい。

 あめ玉を握ったまま座っていると、チャイムの音。……登校の時間だ。

 

 半日分の授業を終えると、すぐに学園祭の準備に取り掛かる事になった。机や椅子が全部後ろに下げられて、広く場所をとってから、各自作業を始める。……私の担当、折り紙なんだけど……これ、どこで使うのだろうか。

 千雨さんに聞いてみても、さあ、と首を傾げるばかりだし、様子を見に来た委員長に聞いても、不思議そうにどこかしらと問い返されるだけだった。……あれ、ひょっとして私、ずっと無駄な事してた?

 そもそも誰に頼まれてやってる事だっけ、これ。

 超さんとハカセさんがヘンテコな機械を弄りまわしているのを眺めながら考えていれば、何をすればいいのかわからない時に、置いてあった折り紙を使って自分で勝手にやり始めた事だと気付いて、ああ、と息を吐いた。

 ……何やってんだろ、私。

 委員長にその旨を報告すれば、数秒考えた後、せっかく作ったのですから、看板に使いましょう、という事で、私のお手製カモ君折り紙は、晴れて二番目に人目につく場所に飾られる事になった。ちなみに、一番目立つのは、たぶん入口とか。今作られている物を見れば、みんなきっと、そこを最初に見ると思うだろう。

 折り紙はおしまいで、次は板を欲しがっている人の所まで運んだり、ペンキをそれぞれ必要としている人の下に移動させたり、タオルや何かを運ぶ作業に従事した。先生も手伝ってくれているし、今日は部活動なんかに人を割かれないから、いつもよりも速く作業が進んでいる気がする。

 ふと千雨さんの方を見れば、私と一緒にやっていた場所から動いてなくて、ちくちくと黒いカーテンを縫い合わせていた。……それを覗き込む亡霊の姿もあって、なんだか寂しげに見える。

 そんな事を気にしている暇も無く時間は過ぎて、今日はとうとう、時間を大幅に過ぎて泊まり込みで準備をする事になってしまった。今日も晴子の所には行けない。

 でも、こういう浮ついた雰囲気は嫌いではないし、楽しそうなこのかの傍にいれば、私まで楽しくなってくるので、眠いのも、そういう不満もいったんは端に寄せられて、作業に集中できる気がした。

 まあ、私は結局、途中で眠ってしまったのだけど。

 はっとして体を起こせば、窓から明るい光が差し込んでいて、ついでに教室の中に大きくあった入口用の板もなくなっていて、教室の出入り口側が何かに覆われるように薄暗くなっていた。

 よろめきながら立ち上がると、あちこちからくたびれたおはようの声。あくびが出そうなのを我慢しながらおはようを返して、それから、謝る。仕方ないよ、と口々に言われた。……何が仕方ないのかはよくわからないけど……そうなのだろうか。

 それでも、さぼってしまったのを謝らない訳にはいかないので、それぞれの下を回って謝りつつ、教室内の飾りつけの手伝いをしていると、先生の姿が見当たらないのに気付いた。ああ、そういえば、何人かのクラスメイトも見当たらない。

 先生は先生達の集まりで、それから、生徒達はそれぞれの部の手伝いに向かったのだと委員長が教えてくれた。ついでに、疲れていたら寝てもいい、とも。

 なんで私だけ……と思っていれば、委員長は鳴滝姉妹やエヴァさんにもそう言っていた。……あ、ひょっとして……いや、よそう。考えてもあまり面白くなさそうだ。

 残った人達でペアを作り、交代で仮眠をとりつつ仕上げに取り掛かる。私のペアは、春日さんだった。短髪の女性。

 ところで、用意された小物や何やらで教室内が埋まりそうなんだけど……窓とか、何に使うんだろう、これ。

 三枚ほどの窓が白い何かに包まれて隅に置かれているのを眺めたりなんだりしている内にまた時間は過ぎて、あっという間にお化け屋敷が完成した。……明らかに元の教室より中が広いのは、教室各所に設置した拳大の機械のおかげらしい。科学の力って凄い。たぶん魔法なんだろうけど。

 お昼過ぎという事もあって、完成後の妙な脱力感に包まれていると、同じく怠そうな春日さんが、前夜祭はどうするのかと聞いてきた。……前夜祭? ……全部野菜? あ、そういうボケはいらない?

 でも、前夜祭ってのはよくわからない。そもそも私、お祭りは初めてだし、何をすればいいのかわからないから、全部このかに任せるつもりだ。

 でも……そうか。ずっとこのかと一緒という訳ではないのだから、自分でもどこに行って何をするか考えておかなきゃいけないのか。

 

「学園祭で()()()過ごすと言えば、世界樹周りがベストスポット! と言いたいとこだけど、アソコら辺は近付かない方が良いかなー」

「……どうしてですか」

「ん? 聞いてないかな。……聞いてないみたいだね」

 

 春日さんが言うには、これからの三日間は、世界樹周りで告白なんかしてしまうと成功率が百パーセントを越えるようになってしまっているらしい。……ああそれ、なんか、学園長に聞いたような気がする。

 するけど……私に関係ないよね。

 ないね、と春日さんは笑って言った。

 

 その後、クラスのみんなと一緒に移動して、その途中でこのか達と合流し、前夜祭に参加した。

 ……わりと眠くてあんまり動けなかったのが心残りなので、学園祭の三日間はめいっぱい楽しもうと思った。

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