なりきり妖夢一直線!   作:月日星夜(木端妖精)

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   小話 信じる少女

 

 真が死んだ。瑞希が死んだ。真緒も死んだ。

 生きているのは門戸だけだった。

 だがその門戸も……数多の死を見て、感じてきた彼女も、今は死んだ瞳で、全焼した『まちのケーキ屋さん』を見下ろしていた。

 

 抜けるような青い空だった。

 夏の始まりを感じさせる風が吹くと、焦げた木材の臭いと人のざわめきが舞い上がる。

 

 ケーキ屋の真向いのデパート、その屋上。フェンス越しに地上を見下ろす門戸は、いつものような現代的な格好をしていなかった。といって、古臭いとも言えない格好。巫女装束に似た、楽園の巫女のような服装。

 紅白ではなく黒白ではあるが、人に与える印象は同じだろう。上着から垂れる一対の白布は風に揺れて、短いスカートから伸びる足は、長く黒い、ぴっちりとしたブーツに包まれている。

 真がトレードマークだと認識していたサングラスは今はなく、ただ、特徴的なカチューシャだけは変わらず頭にあった。

 

「……真緒」

 

 風の中に囁くような声が消える。

 呟いた名前に返事をくれる女性は、もういない。

 死を選んでしまったから。自分の手で、自分の夢も、自分の命も燃やしてしまったから。

 彼女が死んでしまうなんて知らなかった。死んでしまうなど思いもしなかった。

 だから門戸は悔いていた。何もかもに、後悔していた。

 

「気持ちは、わからないでもないわ」

 

 こつんと靴音がして、門戸のすぐ隣に、金髪の女性が並んだ。紫のドレスに身を包む彼女は、前に一度真の前に姿を現した事があった。

 なんの繫がりか、二人が並んでいる。労わるような、優しくゆっくりとした言葉を金髪の女性が投げかける。

 

「でも、これは仕方のない事なのよ」

「…………」

 

 門戸の握るフェンスは圧力に負けてぐにゃりと折れ曲がり、圧縮されている。押し黙る彼女には、金髪の女性――八雲紫の言葉は届いていないようだった。

 

 ここで助ける事はできない。決まっている事だから。

 そう言われて、ようやく門戸は紫に目を向けた。

 門戸。……門戸とは、この時間で生きる彼女の仮の名だ。

 本当の名を明かす事さえ許されない。自分を自分たらしめる絶対の名を、敬愛する真に知ってもらう事ができない。

 それは苦痛だった。今となっては、些細な、とつくが。

 

「何事もなく平凡に生きる未来もあったかもしれない。私達がそうすれば、たしかに彼女達を救えたでしょう。でもその時には、あなたはここにいない。あなたは彼女に助けられた。あなたが彼女を助ければ、その未来も無くなる。あなただけではない。あなたの愛する仲間達も、あなたを信じる人間達も……共に消える」

「それでも……それでも、先生に救われたこの命……この恩を返せないなど……見殺しにするだなんて……納得なんか、できるはずないデース」

 

 かしゃんと音を鳴らしてフェンスから手を離した彼女は、唇を噛んで、掠れ混じりの声で、今の気持ちを伝えた。

 

「それで数多の命が潰えようと、あなたはその選択をするのかしら」

「……でも」

「『今を救わなければ、きっと未来も救われない』? ヒトを救った人間の言葉だったかしら。それは私達のような人でないモノには当てはまらない。彼女達の『現在(いま)』を救えば、彼女達の『未来』は消える。……それこそ納得できないでしょう? それに、今は辛いかもしれないけど、未来には……」

「……未来では、先生は笑っていマース。でも、でも……そこに真緒は……」

 

 真緒は。

 彼女は、門戸の知る未来にはいなかった。

 瑞希だって、どこにもなかった。

 今まで当たり前だった日常は二度と戻らない。

 それは、それこそ当たり前の事なのかもしれない。でも、そんな当たり前は嫌だ。

 わがままでもいい。一生のお願いにしたって良い。

 ヒトを救った彼女の生を、辛いものになんかしないで。

 

 強く強くそう思っても、門戸にできる事は何もなかった。した事と言えば、『先生に会いたいから会いに行った』……それだけだった。

 それは愚かしい事だろうか。

 破滅の未来が待っていると知っていて、遠巻きに眺める事を良しとせず、欲望や誘惑に捕らわれたのは。

 紫は、そんな門戸の剥き出しの肩に手を置いた。慰めだった。

 

「安心なさい。彼女もまた、未来に生きている。……かもしれない」

「What!? かもしれないとはどういう事デース!」

 

 衝撃的な発言に、がばっと顔を上げる門戸。

 一縷の望みや希望があるなら、なんとしてでも手にしたかった。

 

「それを話そうとしていたの。彼女(マコト)の魂が異なる世界へ旅立たされた。力技のそれは、この世界に深刻なダメージを与えた……でも、見て。空はこんなに綺麗だし、風も爽やかでしょ?」

 

 そう言われて門戸は空を仰いだ。

 紫の言うダメージなど、どこにも無いように見える。

 ……そう、事実、表の世界にはなんのダメージも無い。

 

「全ての衝撃は私の楽園が引き受けてしまったの」

「……それは」

 

 事もなげに重大な事を言う紫に、門戸はなんと言って良いかわからず、目を逸らした。

 しかし紫は、そんな彼女の態度など意に介さず続けた。

 

「今楽園を救わなければ、未来の彼女も無い、という事よ」

「……!」

 

 紫には、この問題を解決できるという絶対の自信があった。

 そしてこの自信が未来へ繋がる事も知っていた。

 なにせ紫達は、遠い未来から来たのだから。門戸など、異なる世界からここへ来てしまっている。

 だがそれは、自分の意思ではなかった。

 紫の能力では、遠い過去に戻るなどあまりにも莫大な力が必要過ぎて、とてもではないが実行できない。

 門戸にもそのような能力は備わっていない。

 二人は、第三者の手によって、強制的にこの時代へ飛ばされてきていたのだ。

 紫程の実力者が抵抗もできず、あっさりと術に落ちた事には、もちろん理由がある。

 相手の方がはるかに力量が高かったからとか、古くからの友人であったからとか、面白八割善意二割でやられたからだとか……。

 何の気なしに人を勝手に過去にすっ飛ばすのだから、この相手というのは途方もなく強大で、雑な妖怪だった。

 

「行きましょう、金剛。この時間の私が待ってる」

「了解……ひとまずは、人命救助を優先するネ」

「これから苦労しなきゃって時に、皮肉も自虐もするもんじゃない。ポジティブに行きましょう」

「……そうデスネー。みんな……みんなが待ってる未来があると言うなら、私はそれを信じマース! ならもう、くよくよするのはNo! デスネ! ん? ……くねくねするのは? くりくり?」

「……何も言わないわ」

 

 わざとか天然か、気を取り直したように一人ボケる門戸――金剛を呆れ顔で見ながら、紫は腕を振って空間に亀裂を作り、楽園への道を開いた。

 楽園では助けを求める多くの人妖が待っている。騒ぎに乗じて異変(悪さ)しようとする奴らもわんさかいる。

 でも大丈夫だ。楽園が紫の楽園である限り、暗い未来など決してない。

 それと同じように、金剛が未来を信じる限り、待っているのは明るい未来だけだ。

 その過程がどれ程過酷であろうと、きっと最後はハッピーエンド。

 一度は全てを諦めた身。だから金剛はもう、過去を見るのはやめた。

 絶望は希望に変わる。古いは新しいになる。過去は未来へ向かっていく。

 後ろを向いて嘆いているより、前を向いて努力した方がよっぽど有意義だ。

 だからといって過去は消えないが、それを背負ってこその未来なのだから……次は。次こそは。

 次に会った時のために、こんなに頑張ったよと笑って言えるように、全力全開で頑張ろう。

 

「……これ、入らないと駄目なんデスカネー」

「何してるのよ。ほら、入った入った」

 

 空間に走る亀裂の中から、幾つもの目に注目されて、金剛は冷や汗を流した。

 努力するとは言ったけど、こんなに早いとは予測しなかった。

 だってこれ初体験……というか事前になんにも聞いてない。

 葛藤はやがて焦りや不安に変わり、最後は混乱に至った。

 

「ええーい、女は度胸! 男はトーキョーデース! ファイトー!!」

 

 ぐるぐる目を回した金剛が亀裂へ飛び込むと、開かれた時と同じように静かに閉じた。

 後に残ったのは、焼けたケーキ屋の前に集まる野次馬などのざわめきだけだった。





今日は予定の関係上投稿できないと思ってたけど、なんかもったいないので短いのを一つねじ込む事に。
……原作なんだったっけ。
いやいや、次回からはきっちりネギま!ですよ!
過去編ですけど。
過去編だから色々別原作混じるんです。本編扱いじゃないんです。
許してね☆

なぜなになりきりちゃん
Q.なんで金剛さん門戸って名乗ってたの?
A.通信エラーが発生した為、お手数ですが、ハーメルントップより
 読書の再開と感想評価をお願いします。
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