なりきり妖夢一直線!   作:月日星夜(木端妖精)

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個人的な理由により後半は箇条書きのダイジェストとなっております。ご了承ください。
調子良く書けるからって変な方向にぶっ飛ばしたらエタ一直線になるんだねっていう良い経験になりました。泣きそうです。
だから急速に本編に軌道修正するのです。

唐突な切りで大変申し訳ありませんが、よろしければ残り二話ほどの本編にお付き合い頂ければ嬉しいです。
……無理かな。

今後の予定は、

七十五話
真と深月の生活、最後の誕生日までの話

七十六話(最終話)
決戦

の、以上になります。

気が向いたら番外編も書くかも。



破滅を呼ぶ光のプロットを活動報告に上げておきます。
消化不良の場合は、こちらを少しでも足しにして頂けたら良いなと思います。


第七十四話 夜明け

 

「マコト! どういう事ですか!?」

 

 カツカツと薄暗い廊下を行く真の前へ、紙束と携帯電話を持ったシェリー・ルーンが走り寄ってきた。真を視認してすぐ、怖い顔をして寄って来たものだから、真は少々面食らって足を止めた。

 服やスカートが所々切れていたり焼け焦げていたり破れていたり、腕や脚や頬にも傷のある彼女が手に持つ資料を真の鼻先へと突きつけた。自分の事でも書かれていたのだろうか、と資料を受け取ろうと真が腕を持ち上げると、シェリーは「あっ」と呟いて紙束を引き戻し、代わりに携帯電話を突き付けた。暗いディスプレイには『先生』の文字。どこかと繋がっている訳ではないようだ。

 

「随分ボロボロだね。敵がいた?」

「はい! あの桃色の少女と赤い少年と緑の少年が現れて、交戦を。霊夢がいなければ死んでいたかも……って、そうではなくて! マコト、あなたはいったい何者なんですか!?」

 

 シェリーの後ろには、シェリー以上にボロ雑巾になっている霊夢の姿がある。酷いのは服ばかりで、傷はほとんど治してあるようだが、膝に手をついて荒い息をする様子からは、強い疲労が窺えた。

 

「ああ、それ」

「『ああ』……ではありません! あなたはレディの代わりに来たと言っていましたよね!? でもガンドルフィーニ先生は、レディは裏切り者(スパイ)だったと……! では、あなたは!?」

「ただの魔法使いだよ」

 

 困った事になったな、と、真はどこか他人事に考えた。

 実際は困ってなどいない。連絡が取れないと言っていた彼女が携帯電話という現代の利器で『学園』と情報のやりとりをしてしまったようだが、マコトなんて名前はよくあるものだし、彼女に見せた杖だけでは、よほどの事が無い限り真の正体を見破られる事はないだろう。

 たとえ看破されたとして、妹を取り返して平和に暮らせればそれで良いのだから、そもそもどちらでもよかったのだ。

 

「ただの……? と、通りすがっただけとでも言うのですか?」

「その通りだよ。ワタシはあの子が……妹が攫われたから追って来ただけ」

「で、では、この組織の者ではないのですね……?」

「そう。と言っても、証明する手段はないのだけど」

 

 痛くない腹を探られても厄介だ。真は少しずつシェリーに対して情報を開示した。どの程度まで話せば相手の――この場合はシェリーではなく学園の――真への興味が薄れるだろうか。

 秀樹(えいゆう)だと名乗るのはやり過ぎだろうな、と思いつつ、真はしんどそうに上を向いて額に手の甲を当てている霊夢へ、疲労回復効果のある風を吹きかけてやった。無詠唱の魔法だ。それをそのままシェリーにもかければ、むー、と唸って真の顔を見つめていた彼女は、ぱっと居住まいを正して頭を下げ、感謝を述べた。生真面目というか、なんというか。というか、真の事は確認しておいて霊夢の存在には欠片も疑問を抱いていないあたり、やはりどこか抜けている。

 

「それで、何か見つかった?」

「あ、ちょっと待ってください。今、先生に連絡を……」

 

 深月はどこにいるのか、という意味を込めた真の問いに、シェリーは緩く手を振りつつ携帯を弄り、耳に当てた。コール音が数回鳴り、繋がる。もしもし、どうした、と若い男の声。彼がガンドルフィーニだろうか。

 

「ん」

 

 声を潜めてやりとりをするシェリーを眺めていた真に、霊夢が歩み寄った。白い袖に腕を突っ込んでごそごそやると、取り出した小さな物を真へ差し出す。黒く四角い、チップのようなもの。もう一つ霊夢が手渡した機械に差し込む事で、データを読み取れる仕組みになっているようだ。空間に浮かんだ四角い光に流れる情報を流し見た真は、現状特に必要な情報はないな、と判断して、霊夢に端末を返した。探索して得たアイテムを返却された霊夢はどこかやるせなさげに溜め息をついて、袖の中にしまい込んだ。苦労が報われなかったのが残念だったのだろうか。

 ちなみに、今の端末に入っていた情報は主にこの施設の内部の地図と、あの鉄製の恐竜がいた部屋の使用目的だった。供給するカエルレウム。それがあの機械の名称。しかし、今現在は稼働しておらず、供給など名ばかりの置物と化しているようだ。

 木下六花の情報もあった。といっても、なぜか履歴書形式で、ほとんど空白だったのだが。特技が同人誌作成になっているのが、なんとなく真の印象に残った。

 

「マコト、先生がお話ししたいと」

 

 シェリーが電話している間、真は周りを見渡してドーンや妹の魂が見つからないか探していた。が、やはりどこにも見つからない。まさか施設外に出てしまったのだろうかと難しい顔をしているところで、シェリーから携帯を渡された。光の灯ったディスプレイには、やはり先生の二文字。

 

「もしもし」

『……ああ、すまない。君がマコトか? 私はガンドルフィーニという者だ。麻帆良学園で教鞭を執っている。魔法使いだ』

 

 ガンドルフィーニは、まず自分の身分を明かした。真に警戒心や何かを抱いて欲しくないという配慮が見えて、てっきり詰問でもされるかと予測していた真は拍子抜けしてしまった。

 シェリーが彼の教え子である事、そして、今回の件は予想以上に大きく、彼女だけには任せられない事を語ったガンドルフィーニは、力をこめて真に頼んだ。

 

『もしあなたが正義を志す者なら、彼女と協力して奴らの蛮行を阻止して欲しい。頼む……! こちらもできる限り、いや、全力で支援する!』

 

 もし協力してくれるのなら、あなたの素性は問わない。そう言われてしまっては、真に是非はない。どうせ妹は必ず取り戻すのだ。ついでに悪事のひとつやふたつ潰す事など、どうってことない。

 

 念話を使えない事から、学園側とはシェリーの携帯電話で連絡を取り合う事が決まった。数分にも満たない通話時間。しかし、不可侵の約束を取り付けられたなら、それは真にとって大きな収穫だった。それが彼の独断である可能性や、彼だけが真の素性を問わないという約束の可能性など考えもせず、真はシェリーと霊夢を伴って地下の探索を開始した。

 道すがらされたシェリーの話では、地下深くにあった管制するウィオラーケウムは巨大なコンピュータで、手に入れた幾つかの情報を組み合わせれば、それが彼らの計画の大きな役割を果たしているとわかった。ウィオラーケウムを破壊するため、迷路のように入り組んだ地下を走り抜け、シェリーと霊夢はついにその一歩手前までたどり着いたのだが……。

 

「三人の少年少女と遭遇、交戦し、押し戻されてしまったのです」

 

 水と光を操る桃き命のロセウムと、風と雷を操る緑き息吹のウィリデ、火と炎を操る白髪赤目の少年。一人一人がかなりの力量を持つ者達だ。新米のシェリーと生み出されたばかりの霊夢では太刀打ちできなかった。

 ただ、彼らにも彼らのやるべき事があるのか、体勢を立て直すために逃走したシェリーらを追う事なく地下へ戻って行ったという。

 

「…………」

「あの、どうしました? 今の報告に、何か不備が……?」

 

 話の通りならば、未だ地下深くにロセウムとウィリデ、そしてもう一人がいるはずなのだが、やはり真の目には何も映らない。彼らもドーンと同様に真の目を欺くマジックアイテムを持っているのだろうか。

 案外真には理解できないような電子機器かもしれない。念話の類が妨害されているのにもかかわらず、携帯などは使えるのだから、その可能性は低くはなかった。

 

「……」

「霊夢、マコトが天井を見上げたまま固まってるんですけど」

 

 じっと蛍光灯を見上げて言葉を返さない真に、シェリーがこそっと霊夢に耳打ちをした。肩を竦められると、シェリーも同じ仕草をして、真を見やる。姿勢は変わってないが、表情に変化があった。目を細めている。……そこからシェリーが読み取れる情報などなかったが。

 真は、最上階付近に再び現れた深月について思案していた。いったいいつの間にそこに移動した? ……自分の動きが読まれているのか、それとも偶然、真が下に来た時に深月が上へ運ばれたのか。はたまた、最初から移動などしていなかったのかもしれない。魂を見るなどという反則技に近い探知が絶対ではなくなってしまって弱ってしまった真は、ひとまず『管制するウィオラーケウム』の破壊に協力する事にした。妹を取り返す事は最優先事項だが、次点で妹との平穏な生活を保障する、シェリーへの協力も重要だと判断したのだ。

 

 この地下は迷路のように入り組んだ通路が行く手を阻むうえ、そこかしこにセキュリティのかかった扉があり、さらには罠なども配置されていた。一般人が迷い込めばあっという間に命を落としてしまう場所だろう。何度もドジを見せるシェリーはよくここを突破できたものだ。エージェントなだけあって、こういった類には強いのだろうか。

 

「あ、そ、そうでしたね。すみません、霊夢」

「ん」

 

 警戒しつつ歩いていたシェリーの足下を指差す霊夢。足下の高さに赤外線センサーが走っているのが、真の目には見えた。普通に歩いていれば当たってしまう位置だ。シェリーは、この施設内で手に入れたのか、ゴーグルのような機械で赤外線を確認すると、よっこいしょ、と跨いだ。霊夢は飛んだ。真も飛んだ。

 

「この先です」

 

 杖もなしに飛ぶ霊夢と真を見ても、シェリーは驚きもしなければ疑問も持っていない。おそらく霊夢で慣れてしまったのだろう。そうして慣れずぎて真の事に頭が回っていないのだろう。

 突き当りに来ると、正面には電子ロックされた扉があり、左右には通路が続いている。どちらも正面の部屋をぐるりと囲むように、すぐに角になっている。

 

「右は行き止まりでしたので、左の通路から行きます。地図を見る限り、この扉を抜けられれば近道になるんですけど……カードキーが見つからなくて」

 

 制服の胸ポケットに入っているカードキーをつまんで少しだけ引き出して見せたシェリーは、同じく袖から色違いのカードを覗かせた霊夢と目を合わせると、嘆息した。ここからウィオラーケウムがある部屋までは大分面倒くさい道のりになるらしい。

 時間のロスは嫌なので、真は正面の扉を無理矢理開いて進む事にした。電子精霊の力を借りて、だ。力技で扉を抉じ開けたりした訳ではない。

 

「電子精霊……ですか。難しい魔法を使いますね」

「……難しいのかな」

 

 扉横の数字を入力する装置に手を当てて直接精霊を侵入させる真を、シェリーが物珍しげに見た。

 多くの魔法使いが集う麻帆良学園でも、電子精霊を使役できる人間はそう多くない。この精霊との契約法が明文化されていないからだ。今の使い手の半分以上が偶然契約に成功していただとか、深い知識の下に様々なアプローチを経て契約するといった感じで精霊を使役している。個人個人で契約法が違う事もあるから、『この方法なら絶対に契約できる』などという文書は実質的に残っていないのだ。

 真はそもそも、特に何もしないでもあらゆる精霊に働きかける力を持っているので、難しいとか簡単だとか、そういう認識を持っていなかった。

 

 ロックを解除した扉の先もまた通路だ。真が見る限りでは特に罠はないが、シェリーは初めて踏み込む場所に警戒を強めている。腰を落として何が来ても対処できるようにとろとろと動く姿は、急ぎたい真にとってもどかしいものだった。罠は無いだろうと教えても警戒を解く様子はなかったので、諦めた真は、彼女のペースに合わせて歩く事にした。ひょっとしたら、真にも見落としがあるかもしれない。この機会に彼女の慎重さを見習うのも良いだろう。

 等間隔で壁にかかる額縁には、日の沈んでいく絵が描かれていた。コマ送りのアニメのように、先に進むほど太陽は水平線に沈んでいって、星空に変わる。そうすると、出口だ。100メートルもない長さの通路だったが、傾斜があって少しずつ下へと進んでいたので、きっとその扉が『管制するウィオラーケウム』のある部屋へ続くものなのだろう。

 ブブー、と間の抜けた音が鳴る。シェリーや霊夢の持つカードキーに反応したらしい。扉の傍に暗証番号を入力する装置やスイッチなどがないため、この扉は対応するカードキーを持つ者のみが通れるようだ。

 真には関係のない話だった。例の如く電子精霊にお願いして扉内部に侵入させれば、しばらくしてプシューと空気の抜ける音がして、扉が横へスライドしていく。暗い部屋があった。足を踏み入れない内に電気がつく。部屋の奥、大きな扉の前に立っていた三人の少年少女が、ゆっくりと振り向いた。

 

「……またあなた達ですか。いい加減にしてくれませんか」

 

 真が先頭になって入っていけば、代表してか、ロセウムがうんざりしたように言った。真の両隣にシェリーと霊夢が並ぶ。片方は緊張に身を固くして、片方はごく自然体。向こうも同じように、ロセウムを中心にして三人が並んだ。

 

「桃き命のロセウム……戦闘を開始します」

「緑き息吹のウィリデ。真ん中の男に気をつけろ」

「赤き陽のルブルム! 三人揃ってんだ、負けるわけねえ!」

 

 真は、初めて見る少年に目をやった。白髪を騒めかせて炎を纏う赤目の少年。他と同じ制服は、色違いの赤色だ。エレベータで念話を飛ばしてきた『黄き日のフラーウム』は、黄色い制服を着ているのだろうか、などと明後日の方向に思考を飛ばす真へ、彼らが襲いかかった。

 

「!」

「む……」

「お?」

 

 いや、それぞれが何かしら動こうとした時、彼らの背後にある巨大な扉がゆっくりと開いた。これもまた、左右にスライドして壁の中に収まるタイプのものだ。

 三人ともが動きを止めて振り返る。開放された扉から白い冷気のもやが漏れ出していた。遠目に見える機械の光に照らされて、背の高い男が歩み出てくる。

 

「主様!」

 

 黒いロングコートを着た大柄の男を、ロセウムが主と呼んだ。彼がドーン……三原正玄という男なのだろう。日本人名のわりには、髪は金に染まってオールバックに固められている。コートの下もまた黒く、首までを覆っている。肌の露出が少ない。まともに出ている顔も、サングラスのせいで顔が隠されている印象があった。

 

「見目麗しい妨害者のご登場か……良いシチュエーションだ」

 

 立ち止まった男が、誰にともなく声を発する。

 

「ウィオラーケウムへの入力は終わった。もはや俺を止める事はできない」

「入力……いったい何を!」

 

 シェリーが両手で持った銃を突き出す。

 コンピュータであるウィオラーケウムに何を入力したのか。それが完了すると、なぜ彼を止められなくなるのか。二つの意味を込めた問いは、しかし答えられずに終わる。

 

「行くぞ。お前達の力が必要だ」

「主様、しかし奴らが……」

「放っておけ。いや……ふむ。……このパワー、魔法世界の英雄殿か。だがお前達3人ならば問題なく排除できるだろう」

「その通りだぜ主様よ!」

「英雄……黒髪、長髪。該当するのは、おお、ヒデキか。魔法世界の住民ではなかったのだな」

 

 ドーンは、真の素性をぴたりと言い当てた。黒髪で長髪ならばもう一人、アルビレオ・イマがいるというのに、だ。彼は真と同じ髪型であるし、同じ中性的と形容できる。だがドーンは、どういう訳か、真を『ヒデキ』だと断定した。単に、彼がアルビレオを知らないだけか……それとも、なんらかの判断材料を持っているのか。

 

 今にも飛び出して来そうなルブルムや、男を庇うように寄り添って腕を引くロセウムを眺めつつ、しかし真は何も言わず、何もせずにいた。彼の言う通り、素の真では3人を同時に相手取るのが難しいから……ではない。単にドーンを観察していたのだ。日本人離れした彼を目の前にしてみても、やはりなんの気配も感じなければ魂も見えない。それは他の3人も同様だ。いったいどのようにして気配を隠蔽しているのか。解析したい、と頭の隅で思いつつ、飛び出そうと足を前に出しているシェリーを手で制する真。そうすると彼女は、そこで彼らの言葉の意味に頭がいったのか、英雄とはなんの事です、と真に聞いた。純粋な疑問。さあ、と真がとぼけていれば、ウィリデが一歩前に出た。雷を纏って走らせて、構えをとる。その後ろでは、ルブルムとロセウムに挟まれたドーンが壁に向かって歩んでいた。ウィリデの目的は足止めだろう。彼らがどこかへ移動するための時間稼ぎ。

 

「待ちなさい!」

 

 逃走は看破できないとばかりにシェリーがドーンへと銃口を向ける……その刹那に、瞬く速さでウィリデが迫っていた。

 彼の行動を予測していた真は、シェリーが言葉を発した瞬間にはもう彼女の前へ視線を合わせていて、攻撃しようと現れたウィリデを不可視の魔力で吹き飛ばした。

 

「はっ! ……は?」

 

 遅れてシェリーが反応する。その時にはもう、ウィリデは壁にぶつけられて床へ落ちている最中だった。追撃に光の矢を雨あられと降らせる真だったが、体勢を整えたウィリデが素直にあたるはずもなく、光の線を残して全てを避けてしまう。

 

「無駄だ。いくら撃とうが当たらぬ」

「……うー、声はすれども姿が見えず。ど、どうすればいいんでしょう」

 

 雷速なら辛うじて目で追える真には、光や冷気の矢を躱して縦横無尽に飛び回るウィリデの姿が見えていたが、シェリーや霊夢はそうもいかない。真が彼女らを放って、今まさに壁に転移門(ゲート)を開いているロセウムらを追おうとすれば、シェリーや霊夢は、それこそ瞬く間に殺されてしまうだろう。幾らでも替えの効く霊夢ならともかく、シェリーを死なせる訳にはいかない。彼女への協力が未来の安泰に繋がるのだ。死んでしまったら協力などできない。

 それに、今の状態の真だって、ウィリデに背を向け、注意さえも他に向けてしまった状態で攻撃を受けては、大きなダメージは免れないだろう。そうなれば全員おしまいだ。3人相手どころか1人相手するだけで精いっぱいでは、英雄とは名ばかりだと思われてもおかしくない。

 もちろん、真は名ばかりの英雄などではない。自分でも、そして他ならぬナギにも認めてもらった真の英雄だ。雷速で動く敵を1分もかからない内に倒し、転移しようとする彼らを補足するか、もしくは転移後の彼らを追跡するかの算段はすでについていた。

 

「死ね!」

 

 キュキュキュ、と魔法の射手の間を擦り抜けてきたウィリデが、真ではなく、まるで対応できていないシェリーへと向かって行く。弱い者から潰そうというのだろう。定石だ。……定石ゆえに、彼は疑問にも思わなかっただろう。思考も、自分で決めたはずの進路さえも真の思うままに操られていたなど。

 

「なっ!?」

 

 雷を纏った拳をシェリーへと突き刺そうとしたウィリデは、空間に浮かび上がった幾重もの捕縛陣に縫い止められた。

 

「くっ、この程度で……!」

 

 驚愕に目を見開くも、するすると伸びてくる光の帯を腕や足を振り回して砕くウィリデ。だが、後から後から空間に浮かび上がる魔法陣は、雷速でも壊し切るには至らず、とうとう捕らえられた。腕も足も、中空に磔にされるように引かれ、身動きの取れなくなった少年を、シェリーが呆けて見上げた。これ程あっさり捕られられるとは思ってなかったのだろう。

 真はウィリデなどには目もくれず、閉じようとしているゲートへと歩んでいった。

 

「え、ま、マコト……? こ、この少年は、どうすれば……」

 

 特に急いだわけでもなかったので、真が壁の前に立った時には、すでにゲートは閉じてしまっていた。じっと壁を見下ろす真へ、霊夢が静かに寄って来る。遅れて、何度もウィリデを振り返りながらシェリーがやって来た。

 放って置く訳ではない。真が軽く手を挙げ、見えない糸を手繰るようにすれば、ウィリデが運ばれてきた。そして、頭上に集った闇から杖を引き抜くと、平面を突いて直前まで開いていたゲートを無理矢理開き直した。

 

「行くよ」

 

 漂う闇の気配に引き気味のシェリーに目もくれず、呟くように言う真。彼女にはもう、手加減する気はなかった。

 ドーンを含めた少女達を一ヶ所に集め、女神の力を解放し、フルパワーで全員殺す。そういう算段で、拘束したウィリデも連れて行こうとしているのだ。

 時間が惜しい。

 

「え、え、あっ」

 

 寒気に身を縮こまらせていたシェリーの腕を掴んだ真は、霊夢を引き連れ、転移門(ゲート)へと潜り込んだ。

 

 

 黄き日のフラーウム。

 生まれて数年、ビルの上階層から出た事がなく、外に夢見る鳥籠の中の少女。

 彼女の裏切りによって、赤き陽のルブルム、緑き息吹のウィリデ、桃き命のロセウムを打ち倒す事に成功したシェリーは、戦いの中に現れた銀の髪の少女が瀕死のフラーウムを連れ去って行くのを見届けた。

 ビルの電力を全て注ぎ込む事によって稼働した巨大機械兵器『BL-ドーンラスト』。ドーンの目的は、ドーンラストと管制するウィオラーケウムを接続する事で、魔力弾頭ミサイルを打ち上げる事だった。

 世界に夜明けを。

 かつて魔法世界で完全なる世界に所属していたドーンは、その思想を曲解し、旧世界をリセットしようとドーンラストに乗り込み、妹を取り戻そうとする女神姿の真を迎え撃った。

 機械兵器を叩き潰した真だったが、引き摺り出したドーンにとどめを刺そうとした時、三原深月を抱えて現れたフラーウムに「降伏せよ」と勧告され、どうする事もできなくなった。

 最愛の妹を盾にされては成す術なく、3人がかりの結界術で供給するウィオラーケウムへと押し込まれる。神の力も強大な魔力も、そのほとんどをドーンに奪われ、絶命の危機に瀕した真だったが、世界を終わらせようとするドーンの意思に反したフラーウムによりこれを脱する。その後、自分自身を弾頭代わりに、空を目指そうと屋上へ向かうドーンを追って、ヘリポートで交戦。3対6枚の飛行盤を用いて空中戦を仕掛けるドーンに苦戦するも、辛くも撃破する。

 

「このDawnこそが夜明け! この俺が、世界に始まりをもたらすのだ!」

 

 すでに打ち上げられていた神の力を月華天落で飲み込み、ドーンへと叩き落す。

 ドーンは自分の勝利を疑わないまま、光の中に消えた。

 

 全てが終わり、妹を取り戻した真だったが、深月もまたドーンの糧にされていた。

 枯渇した魔力と、杜撰に治療された腕と足。

 体を治療しても、深月は虫の息だった。魔力を持たない人間は生きていられない。当然の結果だった。ゆえに真は、なんとしてでも彼女の命を繋ぎ留めるため、複数の魂と血と肉を与え、くちづけを介して神の力を分け与えた。そうして妹を救うと、彼女を抱いて朝焼けの中に消えた。

 彼女との生活を取り戻すために……。

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