魔法科高校の副風紀委員長   作:伊調

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初めまして。伊調と申します。初投稿となります。
これは私が見たいシチュエーションの小説が無い、なら自分で書くか──という経緯で書き始めた所謂妄想の産物です。設定モリモリです。いざ書き始めると楽しくなってきました。
ご意見、ご感想や誤字脱字のご報告もお待ちしております。


入学編
第一話


──時は二〇九四年、冬。司波兄妹が入学する少し前に遡る

 

とある二人の生徒が組手……もといマーシャル・マジック・アーツにおける模擬戦をしていた。といっても、ユニフォームを着ているわけでもなく道着のままだったが。

 

「はぁっ!」

「くっ……!」

 

肩からの体当りで体勢を崩されたところに頭部を狙った回し蹴りが迫る。よろけた男は辛うじて腕を盾に防いだが、勢いを殺しきれず吹き飛んだ。押され気味な方は、この時まだ一年生の沢木 碧(さわき みどり)。風紀委員会かつマーシャル・マジック・アーツ部に所属している。

 

「どうした?今日は調子が悪いのか?」

 

不敵に笑う男を沢木は見据える。

 

「言ってろ……!」

 

沢木も負けじと笑い返す。沢木には少し疲れの色が見えるが、もう一方の生徒はまだまだ余裕があった。

 

「さぁ、続けるぞ」

 

──

 

「勝負あり!」

 

審判をしていた一年生が声を上げ、二人の組手は終了した。壁を背もたれに片膝を立てて休憩する沢木の隣には、同じく先ほど沢木と組手をしていた相手方も腰を落ち着けていた。

 

「はぁ……汗かいたな、この季節でもここまで動くとかなりだ」

 

タオルを肩にかけまだ余裕を残してそう発言したのは、沢木と同じく風紀委員会とマーシャル・マジック・アーツ部に所属する現在一年生の柳生 芺(やぎゅう あざみ)である。

 

「全く、君は疲れを知らないな」

「そうでもない、これでも疲れている」

「そうかいそうかい」

 

と、笑みを浮かべながら談笑している二人は入学当初から同じ委員会かつ同じ部活ということで顔を合わせる機会が多く、仲が良かった。

 

「俺達ももうすぐ二年生か」

「そうだね、ついに後輩ができるけど気分はどうだい?」

「特にない、俺達は勧誘にはあまり携われないと聞いた」

「それもそうか、僕達は風紀委員会だからね」

「まぁ元々そこまで期待していない。デキる奴がいるとも限らないからな」

 

と言う彼の言葉の割には喋る調子に期待が見え隠れしている様子だった。

 

「あれ?そんな事を言っておきながら顔が綻んでるよ、やっぱり実は楽しみなんじゃないか」

 

少し冗談めかした調子の沢木。相変わらず端正な顔立ちだなという感想を抱いた芺だが、彼に()()()()()はない。

 

「もう一戦やるか?」

 

代わりにその語気には本気の二文字が滲み出ていた。それを感じ取った沢木はすぐさま身を引く。

 

「勘弁してくれ」

「……そこまで嫌そうにしなくてもいいだろ。確かに、少し楽しみなのは認めよう。特に委員会の方には期待している」

「それはどうしてだい?」

「あの部屋の散らかりようを思い出せ」

 

彼は呆れた顔でそう言った。現在、件の風紀委員会本部は非常に散らかっているのだ。

 

「そのうち片付けないとだね」

「って言いながら一年経ったんだぞ。まったく摩利さ……委員長は」

 

何を隠そう風紀委員回の委員長は渡辺摩利なのだが、未だに彼は委員長呼びに慣れていない。

 

「渡辺委員長に不満かい?」

「まさか、片付けができないこと以外は文句なしだ」

「そうだね……」

 

沢木は我らが風紀委員の部屋を思い出しため息をついた。

 

「なんにせよ」

 

芺はおもむろに立ち上がり沢木に手を差し伸べる。

 

「これからも頼りにしてるぞ、沢木」

「君がそんなこと言うなんて珍しいね、明日は槍でも降るのかな?」

「おい、ここぞとばかりにからかうな。そんなに元気あるなら本当にもう一戦やってもいいんだぞ」

 

と、二人が話していると

 

「おーい!お前ら!姐さんがお呼びだ!」

「辰巳さん」「辰巳先輩」

 

彼らを呼びに来たのは同級生の渡辺摩利をなぜか姐さんと呼ぶ辰巳鋼太郎。彼もまた接近戦のエキスパートであり、風紀委員という事で二人とは比較的交流が多かった。

 

「じゃ、行くか」

 

二人は審判を務めてくれた同級生に別れを告げ、風紀委員会の本部に向かった。

 

──

 

所変わってここはとある街の一角に佇む大きな日本家屋。それを含む広大な敷地の中には家屋の他に大きな道場が並んでいた。そしてその門を潜らんとする男が一人。その門の表札には『柳生』の二文字が刻まれていた。

 

「お帰りなさいませ、若」

「ただいま、竜胆(りんどう)さん」

 

この竜胆と呼ばれた男は柳生家に仕えており、主に芺の身の回りの世話をする使用人の一人である。

 

「相変わらず()呼びは慣れないな」

 

柳生家次期当主である芺は使用人や柳生家と関わりが深い一部の家の者からは“若”と呼ばれているが本人は組の若頭か何かか、と半分呆れている。

 

「……すいません、若が小さい頃からこうお呼びしていましたから、つい」

 

と、竜胆は少しはにかみながら返す。この会話からわかるように竜胆は柳生家に仕えて長く、芺が素で接することの出来る珍しい人だった。

 

「あら、帰ってきたならすぐに言ってちょうだい!」

 

と、少し頬を膨らませながら歩いてきたのは芺の母親、柳生 (かや)だった。彼女はれっきとした母親なのだが、普段の若々しい立ち振る舞いと姿に加え、年齢に対して童顔であるがために芺の年の離れた姉に間違われる事もしばしばある程の美人である。尚、本人はまんざらでもない様子。

 

「すみません母上、これからは気をつけます」

「もうそんな満面の笑みで謝られてもねぇ。あ、そうだ!夕飯は何がいいかしら?」

「何でも構いませんよ、母上の作る料理はどれも絶品ですから」

「それが作る側としては一番困るのだけどまあいいわ!まっかせなさい!」

 

と、本当に顔だけ見に来た茅は上機嫌で跳ねるように台所の方に消えていった。茅は芺の事を大層気に入っているのかいわゆる“親バカ”とも言われるような言動を見せることもあるが、少々過保護気味なのを除けば良い母親だった。

 

「本当に若々しいですね」

「竜胆さんもまだまだ現役だとは思うが」

「はっはっは、ありがとうございます」

 

と、竜胆は朗らかに笑う。

 

「それじゃ、着替えてくる。後で少し道場にも顔を出そう。父上は道場に?」

「はい、恐らくこの時間ならまだいらっしゃるでしょう」

「紫苑はもう帰ったのか?」

「ええ、恐らく既に自室へ」

 

紫苑(しおん)”と呼ばれたのは芺の弟である柳生 紫苑の事である。彼は才能に恵まれており、特に剣道の才能は父である鉄仙を持ってしても驚きを隠せない程だった。芺とは五歳離れており、歳が離れているからか喧嘩もなく関係は良好と言える。芺は魔法に重きを置き、紫苑は剣道に寄っているため、お互いが競い合うことでバランスも取れていた。尚、芺にはまだ勝利を収める事は叶ってはいないが、芺曰く“あと二年もすれば俺を超える”というのは本人の弁である。

芺はありがとうと言って言葉を切る。一通りの会話を終えた二人は別れ、芺は自室へと戻った。そこで学校の制服から道着への着替えを済ませながら彼は今日聞いた新入生の話に思考を巡らせていた。

 

(次年度の新入生に真由美さん達はかなりの期待を寄せているようだが……何か妙な胸騒ぎというかなんというか)

 

何とも言えない不安感に襲われていたが、考えても仕方ないと割り切った芺は道場へ向かった。

 

柳生家の道場では未だ複数人の門下生が芺の父親である柳生 鉄仙(てっせん)の元で稽古を続けていた。

 

「父上」

「帰ったか」

「はい、ただ今戻りました」

 

鉄仙は母である茅とは対照的に無口で無愛想であり、その特徴は芺にも受け継がれているようにも見える。だからといって薄情なわけでなく身内への情は厚く、稽古には失礼になるという理由で一切手を抜かない。厳しさの中にも実直さと優しさの見える剣士である。尚、抹茶と羊羹が好き。

 

「丁度いい、芺。こやつらの相手をしてやれ」

 

門下生からは驚きの声が上がる。それもそのはず、芺の実力は元は才気が見られなかったのにも関わらず、たゆまぬ修練のお陰で現柳生家当主であり彼の剣術の師でもある鉄仙をも凌ぐと密かに囁かれているほどだからだ。彼の物心ついてから中学時代後半に渡る血の滲むような稽古は門下生の間では有名である。それに加えこの道場内外で芺が次期当主となってからはどんな形であれ正式な試合で敗北を喫したのを見聞きした者はいない。

その実力に憧れ鉄仙ではなく芺に教えを乞う者も少なからずいる。彼の指導は周囲の人間に彼には教え導く才能があると言わしめるほど好評だった。ある一点を除いて。

 

「よろしいのですか?」

「構わん、今日は時間もあるだろう。あとは任せる」

「承知しました、そのように」

 

芺の質問には色々なニュアンスが込められていたのだが、鉄仙は特に拒否する素振りもなく承諾し、道場を後にした。

 

「さあ、父上の許可も出たことですし、早速始めましょうか」

 

薄く浮かべられた笑みと共に発せられた言葉にはただの高校生とは思えない凄みがあった。

 

「「「は、はいっ!!」」」

 

門下生が上官の命令に対し敬礼をするかのような勢いで返事したのだが、それには理由がある。それは前述した彼の指導はある一点を除いて好評だ、そのある一点にあたるのだが

 

「平静を保て、どんな時でも冷静さを欠くな」

「一つの型に頼りすぎるな!敵の構えを見て有利不利を考えろ」

「上手く出来たからと気を抜くな!その感覚を忘れないうちに頭に叩き込め!」

 

血は争えないとはまさにこの事。熱血指導を施す鉄仙の息子、芺もまた

 

「まだ時間はある。追加だな」

 

これが先程の『ある一点』であり、彼は剣術の指導においては父親に負けじとスパルタなのであった。

 

 

 




いかがだったでしょうか。右も左も分からない状態での投稿になり拙い文章で読みにくかったかとは存じますが、もし良ければ悪い点や改善案等あればご遠慮なく書き込んでやってください。よろしくお願いします。

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