魔法科高校の副風紀委員長   作:伊調

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第十一話

拍手が鳴り響く。真由美に対しての歓声に包まれる会場で、それをいとも容易くかき消す大きな爆発音と揺れが発生した。窓ガラスが割れ、黒煙が立ちのぼる。

そして会場内がどよめきに包まれる中、手にリストバンドを付けたエガリテの構成員が動き出した。

それに気付いた芺は通信端末で監視していた者に号令をかける。達也や他の風紀委員達もすぐに動き出した。

 

「取り押さえろ!!」

 

(爆発音だと……?想定が甘かった。ここまでするか……!)

 

しかし後悔に苛まれている時間は無かった、外から多くの気配と精霊のざわめきも感じる。魔法師もいるようだ。想像以上に大規模らしい。

そう感じて次の一手を考えていると、会場の窓が割れ、そこから何かが投げ入れられた。それは地面に転がると煙を吹き出し始める。皆が口を塞ぐ中、一人の男が迅速に対応して見せた。

 

「煙を吸い込まないように!」

 

そう言って服部は咄嗟に気体の収束と移動の魔法を組上げ、ガス弾を外へ放り出した。

達也もそれを理解し、尊敬の眼差しを向ける。服部はこの程度当然だと言わんばかりにそっぽを向いていた。

芺も感謝の言葉を伝えようとするが、彼はこの会場に迫る気配を感じ取りそれどころではなくなった。彼は反射的にCADに触れずに魔法を発動する。彼の両腕にはまるで『篭手』のような物が装着されており、彼をよく知る者やCADに明るい者ならそれがCADだと分かるだろう。

 

「道を開けろ!」

 

彼はそう叫ぶと空いた道を人にぶつからないように飛ぶように抜けていく。その瞬間、会場のドアが開け放たれ銃を持った三人の男達が侵入してきた。

しかし会場に投げ入れたはずのガス弾は無い。それに加え侵入者達の目線ではドアを開けた瞬間、目の前にとんでもない速度の男が迫ってきていた。

芺は『縮地』──これは自分自身を対象として加速度ベクトルに干渉し、特定方向へ急加速させる魔法……だが、本来の体術である縮地と同時に発動される事も多いため便宜上『縮地』と呼称する。彼の場合一般的な加速術式より更に速度を増加させているので、その急激な加速によって自身にかかる負荷を打ち消すために慣性中和魔法を発動することで身体への負担を低減している。

この高速移動する技術と体術である縮地を同時に使用することにより、近距離では瞬間移動と錯覚する程の高速移動を可能にする魔法であり、元は古式の術である。

本来なら減速までをプロセスとするが、この魔法は『縮地』の際に生じた加速度をそのまま敵に逃がす形で攻撃を加える点までをプロセスとしており、加速における自らの肉体へのフィードバックをある程度低減できると共に、その後の打撃の威力が増加する。逃がす相手がいない場合や、威力を落とす場合は別に慣性中和魔法により自身への負荷を無くし、打撃の威力は変わらない代わりにある程度連続での高速移動が可能になる。

尚、片腕を前に、もう一方の腕を後ろに引く構えをとる事で『型』とし結印を代行させることで発動も可能だが、合計で約1秒程の溜めが必要かつ両足が接地していなければ使えない。

しかしこの形式で発動される『縮地』は速度と負荷を計算され尽くした完璧なバランスで発動されるため、CADを介したその場で構築される『縮地』よりも更に速く、鋭くなる。

 

この魔法を使用し、その速度のまま正拳突きを真ん中の侵入者に浴びせる。芺の突きを受けた侵入者は同時に発動されていた『振動波』も相まってボロ雑巾のように吹き飛んでいった。残り二人の侵入者は突然仲間の一人が吹き飛んだ事につい後ろを振り向いてしまう。それが芺相手では致命的な隙となってしまった。『縮地』の加速を相手に逃がした芺は更に慣性中和魔法で肉体を制御し、既に攻撃態勢に移っていた。

最後に侵入者が見たのは芺の迫り来る掌だった。

 

芺は侵入者の頭を掴み地面に叩きつけると同時に『幻衝』を発動する。実際の痛みと錯覚の痛みを併発した侵入者の脳は一瞬でパンクし、彼らの意識は地に落ちた。

その一連の対処を達也は分析していた。

 

(……知覚魔法でも使っているのか?侵入者がドアを開ける前にはもう行動に移っていた。それにアレが芺先輩の『縮地』か……周りに人がいたから加減はしていたろうが……にしても速い。至近距離なら視覚で捉えるのは厳しいかもしれんな)

 

第一陣を凌いだのもつかの間、摩利に一本の通信が入る。

 

「なに!?そっちにも侵入者だと!?」

 

どうやら他の場所にも大量の侵入者が入り込んでおり、銃火器に対しての攻防が始まっているようだった。そこにはロケットランチャーの爆発音も聞こえる。

芺は叩き伏せた侵入者を縛り、沢木と辰巳に事前の通達通りの場所へ行くように頼んでいた。そして達也も動き出そうとしていた。

 

「委員長。自分は爆発のあった実技棟の方へ向かいます」

「……頼んだぞ」

 

一瞬の間を置き摩利は了承する。深雪も当然着いていくようだった。

 

「芺、二人に着いていってやってくれないか」

「了解しました。達也君、構わないか」

 

達也も“心強いです”と返し、深雪も安心しているようだった。芺は他の面々に後の事を頼み、三人は爆発と銃声の中へ身を投じて行った。

 

───

 

「オラァ!」

 

基本的にCADは生徒会や風紀委員会といった一部の生徒にしか携帯が許されていない。そしてこの生徒もCADがないまま三人の男に囲まれながらも肉弾戦で対応していた。しかしそんな彼に一人の侵入者が魔法を発動する。

しかしその男の魔法式は背後からの想子の塊により砕かれ、その想子塊の直撃で彼自身も想子体にダメージを受け怯んだ。死角からの攻撃だったためか侵入者達は思わず想子が飛んできた方向を見てしまう。

 

(生徒を囲むように三人か……)

 

芺は想子を飛ばして攻撃した男を後ろから伸縮刀剣型CADで突き刺し、蹴り飛ばすように『縮地』を発動させる。『縮地』はれっきとした移動用の魔法。対象は自分以外でも何ら問題なく発動する。怯んでいた男は抵抗する間もなく今まで体験したことも無いスピードで目の前の侵入者に激突した。

目の前の光景に呆気に取られていた最後の侵入者もあっという間に切り伏せられる。

 

「怪我はないか」

「おう!助かったぜ。俺は西条レオンハルト。それにしても強えな、アンタ」

「恐縮だ。二年の柳生芺と言う。風紀委員会に所属している」

「なら達也の先輩かー……道理で強いわけだ」

「よしてくれ」

 

侵入者を殲滅した芺は襲われていた生徒の安否を確認し、一応の自己紹介を済ませた。

 

「芺先輩!返り血をお取りします」

 

そこに少し遅れて司波兄妹が到着し、芺が浴びた返り血を深雪が発散系の魔法で取り去る。芺が礼を言ったところで、一年生達は話し始める。

 

「レオ、大丈夫だったか」

「達也!これは一体何事だ?」

「レオー!」

 

そこに彼の名を呼びながら二人分のCADを持って走ってきたのは千葉エリカだった。

 

「もう援軍が到着してたか」

 

そういった彼女は急いで取りに行ったのか息切れしながらも安心しているようだった。

 

──

 

「テロリスト……?なら問答無用でぶっ飛ばしてもいいわけですね」

「生徒はそういう訳にもいかんが、侵入者であれば手加減無用だ」

 

芺に事の概要を聞いたエリカ達は建物の陰で情報のすり合わせをしていた。

 

「ところで、他に侵入者は見なかったか?」

 

先に現地でテロに巻き込まれていたエリカに達也は問う。だがエリカが答えるよりも先にどこからともなく現れたカウンセラーがそれに答えた。

 

「彼らの狙いは図書館よ」

「小野先生……?」

 

第一高校に勤めるカウンセラーである小野遥。自分はカウンセラーが本業だと言い張っているが、正体は公安の職員。『陰形』に特化したBS魔法師であり、認識阻害の精神干渉系魔法と同等。その気になれば税関をフリーパスで通り抜けられる。尚、芺とは同じ時期に九重寺で修行していた。

 

「こちらを襲ったのは陽動ね、既に主力は侵入しています。壬生さんもそっちにいるわ」

「後ほどご説明お願いできますか」

「却下します……と言いたいところだけど、そうもいかないわね。その代わり、一つお願いしてもいいかしら」

「なんでしょう」

 

やけに内情に詳しい小野遥に皆が疑問を抱くなか、話は進んでいく。

 

「カウンセラー小野遥としてお願いします!壬生さんに機会を与えてあげて欲しいの。彼女は去年から剣道選手としての評価と、二科生としての評価にのギャップに悩んでいたわ。私の力が足りなかったのでしょうね……結局、彼らに取り込まれてしまった。だから……!」

「甘いですね」

 

と、達也は一蹴する。

 

「行くぞ、深雪」

「はい」

「おい達也。少し冷たいんじゃないか」

 

達也は低い声で返す。

 

「レオ、余計な情けで怪我をするのは自分だけじゃないんだぞ」

 

その言葉に小野遥は目を伏せる。それを尻目に達也は言葉を待たずに走り出した。

 

「おい!達也!」

 

レオも悔しそうに走り出し、深雪も無言で後を追う。エリカも何か言いたげだったが、聞く耳を持たないだろうと思ったのか彼女も走り出した。

 

「芺君……」

「可能な限りは善処します。それに、達也君はああ見えて優しいですから」

「そうね……ありがとう」

 

芺も軽く頭を下げ、達也達を追いかけて行った。

 

──

 

「既に乱戦模様だな」

 

図書館前に到着した芺達。だがそこには生徒とテロリストが入り乱れ、達也の言う通り乱戦の二文字がこの場に最もあてはまっていた。生徒も各自で自衛行動に移っており、さすがは第一高校と言えるだろう。

そして達也一行の中から一人が飛び出す。

 

「うおおおおおおお!!」

「レオ!」

 

「『装甲(パンツァ)ーーーー!』」

 

彼はそう叫ぶと何と魔法が発動し、硬化した拳で侵入者を殴り倒す。硬化魔法『装甲』。これが彼の得意とする魔法だった。

 

「音声認識とはまたレアな物を……芺さん?」

 

(アレは……ローゼンのCADか……?)

 

芺は音声認識のCADを興味深そうに見つめていた。どことなく目が輝いていた気がしたが、エリカはそれを心の底に留めておいた。

 

「お兄様!今、展開と構成が!」

「ああ、逐次展開だ。十年前に流行った技術だな」

「アイツって魔法までアナクロだったのね……」

 

達也達が話している間にもレオは戦闘を続ける。また一人を倒した後、レオ目掛けて刀が振り下ろされる。それをレオはガントレット型のCADで受け止めてしまうが、そのCADは壊れるどころか傷一つ付かなかった。

 

「うっわ!よく壊れないわねぇ」

「CAD自体にも硬化魔法がかけられているのだろう」

 

達也が分析している間も戦闘は続く。刀持ちを倒したレオに向かってテロリストは魔法で石を高速で飛ばす。しかしCADで全て受けきり、テロリストを守るように発動された氷の盾も突破してみせた。

 

「つまりどれだけ乱暴に扱っても壊れないってわけね」

「レオ!先に行くぞ!」

「おうよ!引き受けた!さぁ、来い!」

 

──

 

達也、深雪、エリカ、芺は図書館に入り、物陰で隠れていた。そして達也は『精霊の眼』を発動する、彼は図書館の構造情報を読み取り、敵の位置を把握する。

 

「階段の登り口に四人。階段を登りきった所に一人、二階特別閲覧室に四人……だな」

「凄いね!達也君がいれば待ち伏せの意味が無くなっちゃう」

「全くだ。そこまで詳細に分かるとは……実戦では相手にしたくはないな」

 

二人の剣士は達也が敵に回った事を想定すると頭を抱えざるを得なく、少々呆れ気味だった。

 

「特別閲覧室で何をしているのでしょう?」

「恐らく、魔法大学が所蔵する機密文書を盗み出そうとしているのだろう」

 

そう達也が言い終わるか否かと言ううちに、エリカと芺は一瞬の内に顔を見合わせ物陰から飛び出る。

エリカは伸縮警棒、芺は伸縮刀剣型のCADを伸ばし、彼らに気付いたテロリストに襲いかかる。

 

「何者だ!」「止まれ!」

 

そう声を荒らげ、テロリストは武器を振り下ろす。しかし、たかがテロリストの剣が二人に当たるはずもなく……エリカと芺はものの数秒で四人のテロリストを地に伏せた。急に飛びだした二人を追って司波兄妹も二人の名を呼びながら物陰から走ってくる。

そのタイミングで芺は外からの気配を察知した。

 

「達也君、外を見れるか」

 

その言葉に達也は『精霊の眼』を発動する。

 

「外から五人、こちらに向かってきています」

 

そう報告していると、階段上のテロリスト……いや、エガリテの構成員である第一高校の生徒が達也らに気付き真剣を振りかざし襲いかかって来た。

エリカがそれを受け止めると同時に、図書館の入口からテロリストがぞろぞろと入ってくる。

 

「ここは任せて!」

「……閲覧室を頼んでもいいか」

「ええ!/分かりました」

 

テロリストを二人の剣士に任せ、達也は跳躍、深雪は浮遊魔法を発動し、二階特別閲覧室に向かった。

 

エガリテの構成員と一度距離を取ったエリカは芺と背中合わせになる。

芺の目の前には五人のテロリスト。内一人が魔法師だった。

 

「取るに足らんな。行くぞエリカ」

「はい!」

 

───

 

特別閲覧室ではテロリストが情報を抜き出していた。その光景を手引きした生徒……壬生沙耶香は複雑な心境だった。

 

(魔法による差別の撤廃を目指しているはずなのに……どうして、魔法研究の最先端資料が必要なんだろう。これが、私のしたかった事なの?)

 

壬生が自分の行いに疑問を抱き始める。しかし思いを反芻する間もなく事態は進む。テロリストはやっとの思いでパスワードロックを突破し、記録媒体に最先端資料を移そうとしていた。

だがここで壬生は外の気配に気付くが、もう遅かった。固く閉ざされていたはずのドアが大きな音を立てて崩れる。そこに立っていたの司波達也と司波深雪だった。

 

「そこまでだ」

 

達也がそう言い放った瞬間、テロリスト達の記録媒体といった諸々の機器が全て部品一つ一つに分解されてしまった。

 

「お前達の企みは、これで潰えた」

「司波君……」

「クソっ!」

 

テロリストはなんの躊躇いもなく銃の引き金を引く。壬生は後悔した。私はこんな人達の味方をしていたのだ、と。だが銃から弾が発射されるより早く深雪の魔法でテロリストの腕が銃ごと凍結する。皮膚が変色する程の冷たさにテロリストは悶えることしか出来ない。

 

「愚かな真似は止めなさい。私がお兄様に向けられた害意を見逃すことなどありません」

「壬生先輩、これが現実です。誰もが等しく優遇される、平等な世界……そんなものはありません。才能も適正も無視した平等な世界があるとすれば……それは誰もが等しく冷遇された世界」

 

達也の言葉に壬生は恐怖を滲ませたような顔をしていた。達也は続ける。

 

「壬生先輩、あなたは利用されたんです。これが他人から与えられた耳当たりの良い理念の現実です」

 

壬生は声を震わせる。

 

「どうしてよ、なんでこうなるのよ。差別をなくそうとしたのが間違いだって言うの!?あなただって、出来のいい妹といつも比べられていたはずよ!そして不当な侮辱を受けてきたはずよ!誰からも馬鹿にされてきたはずよ!」

 

ヒステリックとも言える悲痛な叫びをあげる壬生に深雪は諭すように告げる。

 

「私はお兄様を蔑んだりはしません。例え私以外の全人類がお兄様を中傷し、誹謗し、蔑んだとしても……私はお兄様に変わることの無い敬愛を捧げます。確かに、お兄様を侮辱する無知な者共は存在します。ですがそれ以上にお兄様の素晴らしさを認めてくださる方達が存在するのです。壬生先輩……貴方は可哀想な人です」

「なんですって!?」

「貴方は、貴方を認めてくれる人達がいなかったのですか?魔法だけが、貴方を測る全てだったのですか?お兄様は、貴方を認めていましたよ。貴方の剣の腕を、貴方の容姿を」

 

壬生は自虐的になりながらも返答する。

 

「そんなの、上辺だけのものじゃない」

「それも先輩の一部であり、魅力であり、先輩自身ではありませんか。お兄様と先輩は知り合ったばかりなのですよ?そんな相手に何を求めているのですか」

 

テロリストが不穏な動きを見せる。そんな事に気付くはずも無く、壬生は目を伏せる。

 

「それは……」

 

「結局、誰よりも貴方を“ウィード”と蔑んでいたのは、貴方自身です」

 

核心を突かれ、動揺する壬生にテロリストが煙幕を使用しながらが命令を出す。

 

「壬生!指輪を使え!」

 

彼女は言われるがままに指輪を使用する。その指輪からは『キャスト・ジャミング』が発動された。

達也は深雪を守るように立ち、目を瞑る。そうすると、ガスマスクを装備したテロリストが煙の中から襲いかかって来た。しかし、達也は一人目を受け流し後頭部に肘打ちを決め、もう一人も腹に一撃を入れ対処する。そして壬生は達也がテロリストに対応している隙に煙幕に隠れながら閲覧室から逃げ出して行った。

深雪が足を止めようとするが、達也から制止がかかる。

 

「お兄様!拘束せずとも良いのですか」

「不十分な視界の中で無理をする必要は無い。それに、一階には誰がいると思っている?」

 

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