魔法科高校の副風紀委員長   作:伊調

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第十三話

壬生が落ち着いてから、達也は話し出す。

 

「さて、問題はブランシュの奴らが今、どこにいるのかということですが……」

「達也君まさか、奴らと一戦交える気なの!?」

 

そうとも取れる達也の発言に真由美は問う。

 

「その表現は妥当ではありませんね。叩き潰すんですよ」

 

てっきり否定する流れだと思っていた芺は達也の方を懐疑と興味の入り交じった目線で見つめる。

一方、摩利達は達也の過激な発言に異を唱えた。

 

「危険だ。学生の分を超えている」

「私も反対よ。学外の事は警察に任せるべきだわ」

「そして、壬生先輩を強盗未遂で家裁送りにするんですか?」

 

「なるほど、警察の介入は好ましくない。だからといってこのまま放置することも出来ない。だがな司波、俺も七草も渡辺も当校の生徒に命を懸けろとは言えん」

 

今まで沈黙を守っていた十文字が口を開いた。彼の言葉は各組織のトップの意見を総括したものと言える。それに対し達也も続ける。

 

「当然です。最初から委員会や部活練の力を借りるつもりはありません」

「……一人で行くつもりか」

「本来ならそうしたい所なのですが……」

「お供します」

 

深雪は当然のように名乗り出る。

 

「私も行くわ」

「俺もだ」

 

続いてエリカとレオも参加を表明する。命の危険が伴う場所へ次々と周りの人間が赴かんとする事に耐えられず、壬生は達也に懇願する。

 

「司波君、もしも私のためだったらお願いだからやめてちょうだい。私は平気、罰を受けるだけの事はしたんだから。それより、私のせいで司波君たちに何かあったら……」

「壬生先輩のためではありません」

 

達也は壬生の懸念を一蹴する。

 

「自分の生活空間が……テロの標的になったんです。俺と深雪の日常を損なおうとする者は、全て駆除します。これは俺にとって……最優先事項です」

 

その度が過ぎたシスコ……狂気的とも言える妹との日常への想いに皆は口を閉ざす。

そんな雰囲気の中、次に口を開いたのは深雪だった。

 

「しかしお兄様、どうやってブランシュの拠点を突き止めればよいのでしょうか」

「分からないことは知っている人に聞けばいい」

 

達也は深雪の肩に手を置いてそう言った後、芺の方を一瞥してから保健室の入口に向かう。ドアの開閉ボタンを押すと、扉の向こうにはカウンセラー、小野遥が立っていた。

 

「小野先生……?」

「あっ、あの……九重先生秘蔵の弟子から隠れ遂せようなんて……やっぱり甘かったか……」

 

──

 

遥から情報を受け取った達也は端末を遥と壬生を除く面々に見せる。

 

「放棄された工場か……車の方がいいだろうな」

「正面突破ですか」

「ああ」

「車は俺が用意しよう」

 

その言葉に真由美は驚く。

 

「えっ、十文字君も行くの?」

「十師族に名を連ねる者として当然の務めだ。だがそれ以上に俺も一高の生徒として、この事態を看過する事は出来ん」

 

十文字の理念に真由美も“じゃあ……!”と同行する意志を見せる。しかし……

 

「七草、お前はダメだ」

「この状況で生徒会長が不在になるのはマズい」

「でも、だったら摩利。あなたもダメよ?残党がまだ校内に隠れているかもしれないんだから。風紀委員長に抜けられたら困るわ」

「それは……わかった。……いや待て」

「どうしたの摩利?」

 

突然思い出すように唸る摩利。

 

「いるじゃないか、適任が」

 

そう言って摩利は芺を指差す。そう、一言も発さず保健室の周りをうろつく人物の気配を探って暇を持て余していた芺をだ。彼は実力主義である風紀委員会の副委員長を務め、尚且つ荒事にはトップクラスで向いている。そんな摩利の提案に十文字も同調する。

 

「……柳生。頼まれてくれるか」

「……分かりました」

 

その時の芺は今までになく複雑な面持ちだったらしい。

 

──

 

十文字が車の準備を終え、芺も既に後部座席に乗り込んでいた。そこへ、刃引がされた刀を携えたある男が駆けて来た。

 

「会頭!……俺も連れて行ってください」

「何故だ桐原」

「一高生として、このような無法は見過ごせません」

 

十文字は桐原が盗み聞きしていたことには触れなかったが、その申し出には答えを返す。

 

「ダメだ、連れて行けん」

「会頭!」

「その理由では、命を懸けるには軽すぎる」

 

その言葉に“ぐっ……”と怯む桐原。十文字は目を逸らす桐原に力強い声で問う。

 

「もう一度聞く、何故だ」

 

嘘を見抜いていた十文字に、桐原は少し間を置いて話し出す。

 

「俺は、中学時代の壬生の剣が好きでした。人を斬るための俺の剣とは違い、純粋に技を競い合う剣を、綺麗だと思いました」

 

桐原は刀を強く握りしめ、続ける。

 

「でも、いつの間にかあいつの剣は曇っていました。俺はそれが気に食わなかった」

「だから乱入などという真似をしたのか」

「壬生の過ちを気付かせてやろうとか考えたわけじゃありません。ただ頭にきて、喧嘩を売っただけです」

「お前は過ちと言うが、壬生の意思ではないのか?」

 

その十文字の問いに桐原は今の会話の中で一番気持ちのこもった声で返す。

 

「違います!壬生の志は、あいつの剣は、こんなものじゃない……あいつの剣を変えちまった、汚染した奴が……今回の一件で、壬生を利用した奴がいるはずです。こんなのは壬生のためですらない、俺の八つ当たりです……お願いします、会頭!連れていってください!」

 

自分の思いの全てを吐露し、腰を直角に曲げ頭を下げる桐原。その前に腕を組んで佇む巌のような男。何時間にも感じられるような沈黙が流れたあと、十文字が口を開く。

 

「……いいだろう」

「会頭……!」

「男を懸けるには十分な理由だ」

 

桐原はとても嬉しそうな顔を見せたあと、再度腰を直角に曲げる。

 

「ありがとうございます……!」

 

同行の許可が下り、桐原は助手席に乗り込む。そして後部座席に座る同級生に声を掛けた。

 

「邪魔するぜ、芺」

「カッコよく参戦したつもりだろうが……盗み聞きとは感心しないな、武明」

「なっ……お前も気付いてたのかよ……」

 

くすくすと笑う芺。それを見て桐原は悪態をついて前を向く。

そんな二人だが仲が悪い訳ではなく、むしろよくつるむ友人だった。芺は剣道部に顔を出すこともあるが、どちらかと言えば彼は剣術に寄っているので、剣術部に呼ばれる事も少なくなかった。何度か剣術を競った事もあるらしいが、その結果は頑なに桐原が隠している。

そんな事もあり今ではそこに服部を交えたり交えなかったりして昼食を共にするくらいの仲であった。

 

その後は達也達も合流し、車に乗り込んできた達也に“司波兄”呼びで遅れた参加表明がありながらも、これといった問題もなく車はブランシュの拠点に向けて出発した。

 

その途中、真ん中の後部座席に座る芺は端末でブランシュについての調査をしてくれていた彩芽にメッセージを送る。

そのメッセージを受け取った彩芽は柳生邸で一人、頭を抱えていた。文面はこうだ。

 

『今からブランシュの拠点に攻め入る。まさか一高の生徒が提案するとは思いもよらなかったが、流れで同行する事になった。そのため、計画していたブランシュ壊滅作戦は忘れてくれ。皆を危険に晒す事が無くなって俺も嬉しく思う。この事はくれぐれも母上や父上にはバレないように。それでは休みを満喫してくれ。以上』

 

芺は昔から身内を守る事には余念が無いが、自らの安全については割合無頓着である。それも……“何かあっても俺一人なら大体何とかなる”という自負に裏付けられた自信なのだが、彩芽からすれば大きな悩みの種であった。仮にも芺は柳生家次期当主なのである。

 

「もう少し御身を心配して下さい……」




少々本文が短く申し訳ないのですが、キリが良いのでここで一旦区切らせていただきます。

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