魔法科高校の副風紀委員長   作:伊調

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『外伝』と銘打って投稿させていただく話は原作とは関係の無い私の作ったオリジナルストーリー、幕間のようなものです。外伝の投稿はこれからも予定されていますが、時系列もかなり前後する場合もあるかと思います。

全て私の脳内で構成された物語ですので、矛盾点等あるかとは思いますが……ご了承ください。



幕間
第一幕


皆が寝静まる午前零時。夜闇に紛れ物陰に潜む男がいた。その男は鼻元から下が隠れるように面を被っており、長いコートを見に纏っていた。これから仕事に入るはずの彼がそんな動きにくい服装をしているのは単に自分が持つ得物を隠す為だろう。

 

(あれが今回のターゲットか)

 

彼は標的を鋭い目付きで見据える。後衛部隊から周囲からの視界や音を遮る認識阻害の結界の構築が完了したという報告が入った。後は発動を待つだけである。

今回の仕事は至極簡単、標的の抹殺。その際の障害も例外なく排除して良いとの事だった。彼は今回の仕事に妙な違和感を感じていた。だがこれは彼が兼ねてからのある()()()()により回ってきた任務である、今更断る道理はない。それに今回の仕事に関しては元より報酬が目的ではない。(何なら報酬は前払いという怪しさ満点だった)危険性は承知しているが、大元の依頼主の素性や背後関係を探るのが彼の思惑だった。

 

「こちらは準備完了しました。仕掛けるなら今かと」

 

彼が報告したのは今回の大元の依頼主。この任務の不自然な点の一つがこの依頼主の同行だった。依頼主が現場を確認できる位置に待機すること、そして開始の際は必ず依頼主に連絡するということ、これが条件だった。

 

「ザザー─了解した。始め─くれ」

 

機器の質が悪いのか後衛部隊─この仕事を彼に持ってきた家の支援部隊─による電波妨害のせいか通信環境が悪い。それに今回の標的は香港系国際犯罪シンジケートの幹部だとか。それも本当かは怪しいところではあるが。

 

「承知しました」

 

依頼主との接続を切り、後衛部隊へ通信する。

 

「こちらウツギ─始めるぞ」

 

自らをウツギと呼んだ男の合図ともに結界が発動し、コートを脱ぎ捨てたウツギが隠し持っていた真剣を携え目標の前に降り立つ。

この真剣は紛れもないCAD、そして彼の腕には篭手型のCADも装備されていた。

 

「何者だっ……」

 

ボディーガードの一人がウツギの殺気に反応し存在を確認する。そして言い終わるか否か、ボディーガードは標的が乗ろうとしていた車に向かって吹き飛ばされ、衝撃で車のフロント部分は歪な形に成り果ててしまった。

それと同時に標的を含む周りの人間が真剣を携えた男を視認する。

 

「ひいぃ!なんだコイツは!お、お前ら!私を守れ!」

 

ターゲットが声を荒らげる。察しがいいのかどうやら標的が自分だと気づいたようだ。

数人の男が魔法を発動する。しかしボディーガード達の視界からウツギが消え、対象を見失う事で彼らの魔法は定義破綻を起こし発動しなかった。

 

「なっ……!」

 

ボディーガード達が怯んだのを見計らい()()()()()()()()()()()ウツギは自己加速術式を使用し、加速と停止を繰り返すことで残像が残る程の速さで移動しながら剣を振るう。首を刎ね、袈裟を斬り、胸に剣を突き立て、ボディーガードを屠っていった。

 

「がはっ……」

 

最後のボディーガードが心臓を貫かれ膝から崩れ落ちる。常人では目が追いつかない速度で移動しながら剣を振るい、次いで魔法が当たらないウツギに対し、経験があるとはいえ一介のボディーガードでは為す術もなかった。残るは冷や汗をかきながら地面にへたりこんでいる標的のみ。

 

「ご覚悟を」

 

ウツギは剣を構え極めて淡々とした調子で告げる。

目の前に明確な死が近づいてる最中、標的は考える。何故こうなったのか、どうすれば助かるのか。

 

(何で私が……!通信も出来んし……()()()の奴らめ!何が日本での会合は安全だ!)

 

彼はすぐに仲間を通信で呼ぼうとしていたのだが生憎繋がらなかったようだ。そして次に彼は自分が命の危険に晒される前、会合していた連中の事を思い出す。香港系国際犯罪シンジケート、無頭竜(ノーヘッドドラゴン)。ウツギが請け負った仕事の標的が香港系国際犯罪シンジケートだったはずだが、果たして?

 

「ま、待て!貴様の目的はなんだ!何が望みだ!」

 

ウツギは答えない。ここで依頼主から通信が入る。

 

「奴の言葉に耳を貸すな」

 

ウツギは標的に近づき機械的で冷ややかな目線を向ける。

 

「まさか貴様!無頭竜の手の者か!交渉が決裂したからといってこの様な手段に出るとは!」

 

ウツギは心の中でほう……と目の前の人間が吐いた言葉からこの妙な仕事の意味する所を推測する。

 

(ほぼほぼ確定だな。今回の標的はただの名も無き交渉相手。依頼主の方こそが香港系国際犯罪シンジケート、無頭竜。)

 

依頼主からの催促の通信は無い。彼は目の前の震える哀れな男を見据え、こう言い放った。

 

「せめてもの手向けだ、楽に殺してやる」

「待っ……」

 

ゴトっ、と男の首が落ちると同時に血飛沫が舞う。ウツギが控えていた部隊に通信を入れるとすぐさま陰から人員が死体の処理にあたる。魔法のお陰で少々派手にやっても処理が出来るようになっていた。血を発散系魔法で弾き、あたりに散らばった人であったモノを処理する。もうじき処理が終わろうした時に依頼主を監視させていた部隊の人間から慌ただしい雰囲気の通信が入る。

 

「ウツギ殿、何者かが真っ直ぐそちらへ向かっています」

「なに……?なぜだ、認識阻害はどうした」

「ちゃんと機能しているはずなのですが……」

 

この認識阻害は聴覚や視覚だけでなく、人の意識をも阻害する。無効化するには明確に認識阻害の中にあるものを意識しておかなければならない。真っ直ぐにこちらに向かってくるという事はここに何かがあるとバレているという事だ。

 

「そちらに向かっている者の素性が判明……警察かと」

「よりによって……なぜだ」

 

彼は招かれざる客の出現に困惑の色を見せる。

 

「恐らく先程の依頼主が」

「そうか、奴はどうした?」

「それが……急に行方を」

「魔法か」

「はい、急に視界から……申し訳ありません」

 

 

 

(なるほど、だから同行を。認識阻害の類の魔法を破るには明確に位置を意識せねばならない。警察に座標を送ることによってそれをクリアし、俺達に衝突させ俺の追尾を抑制する腹積もりか)

 

「ウツギ様!警察の接近速度、急激に上昇!まもなく到着します!」

「こちらは任せよ、警察は引きつける。他の部隊の撤退を急げ」

 

(無頭竜……何を企んでいるかは知らんが面倒な事を。この借りは高くつくぞ)

 

そう心の中で毒づきながら彼は目の前に近づく正義の味方と対峙する。

 

(穏便に済ませたいところだな)

 

───

 

一般人ならほとんどが寝静まっている時間帯に通報を受け、現場に向かうとある警部は付人の警部補に愚痴を零していた。

 

「それにしてもこんな時間に普通通報するかね。それも座標付きとは」

 

真夜中の出動に気が乗らない彼の名は千葉 寿和(ちば としかず)。警察官でありながら剣術の名家、『千葉』の長男でもある。

 

「怪しいですけど仕事なんですから、真剣にお願いしますよ」

「分かってるって、稲垣(いながき)君は堅いなぁ」

 

彼と行動を共にするのは稲垣警部補。千葉道場の門下生で剣術家でありながら、リボルバー拳銃型武装デバイスを愛用している。

 

「さぁ、この辺だ。警戒を怠るなよ」

 

寿和の雰囲気が変わる。それもそうだろう、こんな夜更けに危険人物の通報だ。それに慌ただしい雰囲気を感じる。多数の人間がいた気配も濃厚だった。

 

「どうやら、何かあったってのは本当みたいだ」

「警部、あそこに誰か」

 

彼らの目の前には明らかに異様な雰囲気を放つ男が佇んでいた。

 

「あー、すいませんそこの方。少々お話を聞かせてもらってもいいでしょうか」

 

その男はゆっくりとこちらを向いた。彼の顔には夏祭りや縁日で見るような狐の仮面、そして手には刀剣に見えるCADが握られていた。

 

 

───

 

来たか、とウツギは声をかけてきた男の方へ体を向ける。

 

(相手は二人、出来れば穏便に済ませたいが増援を呼ばれるわけにも行かない。それに……よりによってあれは『千葉』か。念の為フルフェイスの面を持ってきていてよかった)

 

彼は普段から任務中は顔を隠すために鼻元から下を隠す面を付けていた。もっとも、全面を隠していないのは目撃者が残らない場合が多数だからではある。しかしこの状況なら少しでも怪しまれないためにも外しておくべきだったが、警察にはエリカの兄、千葉寿和がいる。彼とは顔見知りなので顔を覚えられている可能性を鑑みると背に腹は変えられず明らかに怪しい仮面の男となるしかなかったのだ。元より帯刀もしている上にこの見た目だ、今さら誤魔化す必要性も感じなかった。

 

「ここら辺で不審な人物を見たと通報を受けたのですが……何かご存知ありませんか」

 

千葉寿和が相手の出方を伺う。通報にあった危険人物は目の前の人間に間違いないが、一応形式ばった問を投げかけるのだった。

 

「知らない、と言えば帰らせてくれるのか?」

 

寿和はフッと笑いこう返す。

 

「そいつぁ無理な話だ」

「なら何で聞いたんですか……真面目にやってくださいよ」

 

稲垣がツッコミを入れるが、言葉とは裏腹に寿和は刀を、稲垣はリボルバーを構え臨戦態勢だった。

 

「こちらにはお前達と事を構えるつもりは無い。どうか去ってはくれないか」

 

仮面の男は両手を上げ交戦の意思は示さなかった。

 

「俺達も警察でね、さすがに見るからに危険人物のアンタをみすみす見逃すわけには行かないな」

 

寿和はここで確保するつもりだった。向こうはどうやら自分達との衝突が望ましくないようだがそうはいかない。この男はここで捕まえなければならない、そんな気がしていた。彼は小声で稲垣に話しかける。

 

「まず俺が斬りかかる。その隙に増援を呼んでくれないか」

「……構いませんが、なぜです」

「長年の剣士の勘ってやつさ、とにかく一筋縄じゃ行かない相手だ。俺達だけじゃ……多分無事で済まない」

 

頼むぞとつけ加え彼はCADを構え直す。

その様子を見てウツギは心の中でため息を吐いた。どこかで隙を見て離脱したいが生憎そんな隙はないように見える。彼は退く気のない二人に向けて最後の勧告と共に刀剣型CADを抜く。

 

 

「……これは一介の警察が手を出していい案件じゃない、どうか退いてくれ」

「それではいそうですかって引き下がるわけにもねぇ」

 

まぁ目の前の二人はただの警察では無いのだが、などと考えながら芺は作戦を練る。

 

(まず狙うのは後ろのリボルバー持ちの男。エリカの兄上との交戦中に奴をフリーにするのは色々と不都合だ)

 

ウツギはここで二人と交戦するのは仕方ないと妥協していたが、大っぴらに警察とやり合うのは家柄上避けたかった。

それに彼は自らの剣技でどこの家の者かバレる訳にはいかないために普段とは違うスタイルでの戦闘を余儀なくされており、状況は芳しくなかった。

 

(やるなら先手必勝だ)

(来るか……!)

 

寿和はすぐに先手を取られた事を察知し稲垣を守るように防御の構えに入ろうとする。稲垣もすぐに後ろへ退避しようとするが

 

「がっ……!」

 

それすらも凌駕する速度の魔法でウツギは稲垣に肉迫し、掌底と同時に『振動波』を叩き込む。

自らの体に強烈な衝撃を加えられた稲垣は数メートルの飛行の後、許容量を超えたダメージで昏倒した。

 

(まず一人……)

 

そう思い振り向いた瞬間、彼の目の前には寿和の持つ真剣が迫っていた。

 

刀と刀がぶつかり合う甲高い音が夜の街に木霊する。

幾度か剣を合わせた二人は一度距離を置き様子を伺っていた。

 

(想像以上に速い、さすが千葉家頭領。生半可な技では隙さえ作れないか)

 

仲間を倒され作戦が狂っても全く動揺を見せず襲いかかってきた寿和にウツギは賞賛を示していた。

相手に賞賛されているなど露知らず、寿和また目の前の男を分析していた。

 

(まさか稲垣君が狙われるとは……死んではないようだが。回避体勢に入っていて良かった。おまけにアイツからは殺気が感じられない。それにまだ余裕を残してる……となると向こうはやはりここから去るか時間稼ぎが目的か……)

 

寿和は刀を握りしめる。目の前の男の実力は正直言って達人級だ。数度刀を合わせただけで分かってしまった。稲垣を仕留めた接近を感じさせない体捌きによるまるで瞬間移動かのような移動を行う魔法もある。早々に勝負をかけるしかないと思った彼はある魔法を発動し、ウツギに斬りかかる。

ウツギは先程までと同じように受けようとするが、先程とは一線を画す速さで剣を振るう寿和に少々怯んだ。しかしその程度で打ち破れるほどウツギもやわな鍛え方はしていなかった。元より受けの剣技はウツギの十八番である。

 

(あれが千葉寿和の『斬鉄』か。あのサーフボードの様な移動魔法も厄介だ……仕方ない)

 

ウツギは自らの持つ『眼』のお陰か想子(サイオン)の操作が生まれつき得意だった。そんな彼が得意とする『断魔(だんま)』と呼称されるこの魔法は、刀身に干渉力を持った高密度の想子を纏わせ、文字通り魔を断つ。仕組み自体は割とオーソドックスな魔法だった。

寿和は『斬鉄』を用いた高速斬撃で攻めたていたが、全て受けきられていた。そしてまた剣を合わせた瞬間、寿和の『斬鉄』が吹き飛ばされた。

 

「なに……!」

 

ウツギは『斬鉄』が再発動される瞬間に『断魔』で寿和の剣を払うことで魔法を打ち消していた。そして急に魔法がかき消された上に剣を弾かれ体勢が崩れた寿和をウツギは逃さない。

 

「ぐおっ……!」

 

寿和は強烈な蹴りを受け地面を転がる。すぐに受身をとり立ち上がるが

そこに仮面の男の姿はなかった。

気配を探るが先程まであれほど激しい戦闘を繰り広げたにも関わらず仮面の男の気配は全く掴めなかった。それに仮面の男の移動速度は桁違いだった、もう追いつけはしないなと彼は歯を食いしばり悪態をつく。

 

「上になんて報告するか……」

 

寿和は既に後の心配をしながら稲垣を起こしに行くのであった。

 

───

 

警察から逃れたウツギは先程監視を務めていた部隊の人間に話を聞いていた。

 

「急に見失ったと聞いたが、その時の状況を詳しく教えてくれないか」

「はい……ずっと目を凝らして見張っていたんですが、ふと目を離した隙に姿を消していて……」

「それは貴方だけが?」

「いえ、それが何故か見張っていた三人全員が……」

 

ウツギは少し考えた素振りを見せた後、“ありがとう”と言ってその場を後にする。

 

(確定だな……『鬼門遁甲』だ。だがしかし、この魔法の術者が香港系国際犯罪シンジケートと言えど都合良くいるとは思えん……いや、協力者か……まぁいい、とりあえずは『無頭竜』だ)

 

ウツギは目下の標的に意識を向ける。

 

(しかし稀有な『鬼門遁甲』の術者が同じ場所に()()とは……珍しい事もあるものだ)


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