魔法科高校の副風紀委員長   作:伊調

19 / 62
第十八話

芺達が宿舎であるホテルの中に入ると、そこに芺には見覚えのある赤髪の少女がいた。ブランシュ事件の頃より少し髪の伸びた彼女はかなりラフな格好をしているように見える。

芺はその少女が視界に入ると、驚きと疑問で一瞬固まり、どうしようかと考えているうちに目が合ってしまった。

 

「あ!芺さん!ちょっと久し振りですね」

 

芺が知り合いと思しき少女に声を掛けられたのを見て桐原は

 

「先行ってるぜ」

 

と言って服部と共に先に進んで行ってしまった。小さなため息をついた芺はエリカにもっぱらの疑問を投げかける。

 

「エリカ、なぜここにいる」

「そりゃあ、皆の応援に」

「九校戦の開催日を勘違いしてないか?」

 

ここまで会話した所で、荷台を押す司波兄妹が入口からロビーに入ってきた。

 

「やっほー!」

「達也君、長旅お疲れ様」

 

意外な人物の登場に深雪は驚く。達也はそこまで驚きを表には出さず“先輩もお疲れ様です“と少し頭を下げた。彼はそのまま荷車を押して行った。

 

「深雪、先行ってるぞ。エリカ、芺さん、また後で」

「ええ」

「ああ、うん、ちょっと……ちぇっ、挨拶くらいさせてくれればいいのに」

 

達也の言葉に笑顔で返した芺はエリカを慰める。

 

「技術スタッフは忙しいからな、啓達が待っているんだろう」

「芺先輩の仰る通りよ。それにしてもエリカ、なぜ二日も早く……」

「エリカちゃーん、お部屋のキー……あれ、深雪さんに……こ、こんにちは!!」

 

深雪が芺も気になっていた疑問を投げかけると同時に、これまた何故か美月が現れる。芺と美月は勧誘の件以降あまり関わりは無かったが、顔は覚えていたのか頭を下げる。

 

「美月、あなたも来ていたの」

 

深雪は美月の服装を見て“あ……“と小さく声を漏らし、黙りこくってしまう。

 

「深雪さん?どうかしたんですか」

「……派手ね」

 

確かに美月の服装は少々肌の露出が多く“派手“と言えるだろう。美月は一応先輩の男子生徒もいることから少し恥ずかしがりながらも尋ねる。

 

「そ、そうでしょうか……エリカちゃんに堅苦しいのは良くないって言われたものですから……」

「エリカ……」

「〜♪」

 

芺と深雪から抗議の目線を受けたエリカはわざと拙い口笛を吹いて誤魔化す。

 

「美月、悪い事は言わないから早めに着替えた方がいいわ。似合っていて可愛いけど、TPOに合っていないと思うから」

「や、やっぱり……」

「えーそうかなぁー」

 

ここで去り時を失っていた芺は強引にでもこの場から離脱する決心をした。そういったものにはあまり関心はないが“派手“な服装に関してこれ以上目の前で会話されるのは避けたかった。

 

「……俺はここらで失礼させてもらう。人を待たせているのでな」

「はーい、懇親会楽しんでくださいね」

 

芺は小さく手を振ってその場を後にする。実の所、年下の女子生徒三名と同席している光景は傍から見ればどう見えるのかが心配だったのは秘密である。後に、この事について桐原あたりからかわれることになるのだが、それはまた別のお話である。

 

───

 

九校戦の二日前である今日の夜。九校戦宿舎では懇親会と銘打たれた立食会のようなものが行われていた。そこには九校戦参加者が全て集まるので、必然的に敵との顔合わせが起こる。しかしそれは水面下で起こることであり、基本的に生徒は懇親会を楽しんでいるであろう。

 

芺は一応身分としては古式魔法の名家の次期当主としての顔もあるので、他の高校の同年代の生徒には知り合いも少なからず同席していた。これは逆の立場からしても同じである。彼らは礼儀として挨拶はしなければならないが……ここに来ている時点で潰し合う敵同士である。芺は少々気が乗らなかった。

 

「あら、名家の跡取りさんはご挨拶がお嫌いなのかしら」

「……いえ、そういう訳ではありませんよ。七草嬢」

 

次は誰だ……と思えばこれまた名家どころか十師族の人間だったのだが、幸い彼女とは同じ学校の先輩後輩である。余り顔には出していなかったはずだが、付き合いの長い彼女は雰囲気で察して声をかけてきたのだろう。芝居のがかった調子で話しかけてきた真由美に珍しく芺も芝居のがかった口調で返す。

 

「挨拶も大事だけど、チームメイトとのコミュニケーションも大事よ?こっちにいらっしゃい」

「すみません。気にかけていただいて」

 

そう言って真由美は芺を一高生の人間が多いところに連れていく。芺はあまりこういう場は得意ではなかったが、世話になっている先輩方とは最後の九校戦である。摩利や真由美、辰巳達と談笑しているうちに、芺もこの懇親会を楽しもうとしていた。

 

「やあ芺君」

「やっほー!」

 

次に話しかけてきたのは五十里と千代田の許嫁コンビだった。千代田個人とはあまり関わりは無いのだが、五十里とは学校でも比較的仲の良い部類に入る人物だった。だが五十里と関われば必ず隣には千代田がいる。それが芺が千代田と少々の友人である所以であった。

 

「啓、調子はどうだ」

「良好だよ。サポートは任せてね」

「ちょっとー、私は?」

「聞かなくても元気そうだったからな」

 

千代田と芺は軽口を叩き合うが、五十里はニコニコしているままである。五十里は体格は華奢で更に中性的で美形でもあるため、他の男子から少しばかり接しづらいと思われていた。しかし芺はそういった事には無関心なため、五十里からすれば数少ない男友達であり、その友人が自らの許嫁と仲良くしてくれているのは嬉しい事なのである。

五十里達と別れ、芺が飲み干したジュースを補充しに行こうとすると……

 

「お飲み物はいかがですか?」

「はぁ……なら、頂こう」

 

芺は赤髪のメイドから飲み物を受け取り、少し口をつける。

 

「やけに早い到着だなと思えば、こういう事か」

「ご名答~♪」

 

呆れ顔の芺にメイド服姿のエリカはVサインを見せる。

 

「それにしても、なんでこんな所に。まさかメイド服でアルバイトが目的ではないだろう」

「えーと……それは、その」

 

エリカは言い淀む。エリカは言いたいが、言い出せなかった。芺は優しいのである。ここで“親の意向に従った結果だ”と不服そうに言えば彼はエリカの味方をしてくれるだろう。だがそれでは、エリカは自身が惨めに思えてしまうのだ。

 

「……まぁ、言いにくいなら詮索はせんよ。ほら、仕事は山ほどあるぞ」

 

この空気を変えたいと思った芺は飲み干したグラスを持つ第一高校の生徒の方へ視線を誘導する。その先には達也がいた。

 

「はいはい、分かってますよーだ」

 

エリカはそう言ってトレーを持って歩いて行く。芺はエリカが言いたがらない事なら大抵は親関係という事を知っているのでこれ以上この話を膨らませたくはなかった。

芺は皆の所に戻って、十文字と辰巳と会話していた。芺、十文字、辰巳はモノリス・コードの本戦出場者である。軽い作戦会議を終え、芺は少し何か食べようとして会場を歩いていた。そこで、見覚えの人物を発見する。

 

「幹比古君か……?」

「あえ、芺さん」

 

知り合いの人間が給仕姿でいる所を目撃してしまった。それも後輩であり、挨拶のタイミングを逃し続けていた吉田幹比古である。彼は驚きで変な声を上げながらもすぐに姿勢を正した。

 

「何してるんだ……」

「その……色々ありまして」

「君もか……」

 

芺と幹比古の二人は同じく古式魔法の名家の跡取りとして顔を合わせることが多かった。芺は幹比古が現在スランプに陥っている事も知っており、気にかけてはいたのだが今の今まで顔を合わせる機会が無かったのだ。

そしてまず第一になぜ幹比古がここにいるのか。それは先程九校戦の応援には早すぎる到着だったエリカがいた事に関係しているのは大方間違いではないだろう。

 

「実は、僕やエリカの父上に」

「幸比古殿と丈一郎殿か」

 

特にエリカの父である千葉丈一郎であれば、軍とのコネクションで特定の人間を施設内部に潜り込ませることくらいは造作もないことである。しかし、なぜ幹比古まで着いてきたのは分からなかったが、彼のスランプに起因しているのかもしれないということまでしか推測できなかった。

 

「まぁ、なんだ。この九校戦は君にとっていい刺激となるだろう。もし、何か力になれる事があれば言ってくれ」

「ありがとうございます。……でも、僕は」

「ミキー!」

 

幹比古は自らの父に“本来自分が立つはずだった場所を見てこい”と言われているために、芺の言葉は似たような意味に感じられてしまった。卑屈な言葉を言いかけたところに一際明るい声が鳴り響く。

 

「どうしたんだいエリカ」

「いや、深雪にミキを紹介しようと思って」

「そうか……って、僕の名前は幹比古だ!」

 

いつも通りのやりとりをしたところで芺からもフォロー(?)が飛ぶ。

 

「まあまあ、ミキ君もいい機会だから行ってくるといい」

「は、はい……って、僕の名前は幹比古です!」

 

先程より少し控えめに主張する幹比古。芺は今日は何だか雰囲気にあてられいつもより感情が豊かだった。

幹比古を連れたエリカは先程まで深雪がいた達也の元へ帰ってきたが、既に深雪は同年代の女子生徒の元へチームワークのために挨拶に行っていた。

エリカは深雪がいないと知ると幹比古には仕事があるぞと給仕に向かわせ、達也と二人きりで会話していた。

 

「少し手加減してやったらどうだ」

「……そうね、少し八つ当たり気味だったかな。ミキがこういうの苦手なのはよく知ってんだけど……でもね」

「怒らせたかったのか」

 

エリカは幹比古を仕事に向かわせた時とは違い、真面目な調子で語り始める。

 

「うーん、どうだろ。屈折しすぎていて見ていてイライラするってのはあるんだけどね」

「優しいんだな」

「よしてよ」

 

エリカは首を左右に振って答える。

 

「私もミキも、今日ここにいるのは自分の意思じゃない。親に無理強いされた結果よ。優しく見えても、それは同類が相哀れんでいるだけ」

「事情は聞かない。聞いてもどうしようもないからな」

「ごめん……そうしてくれる?……ねぇ、達也君」

「なんだ」

 

少し雰囲気の変わったエリカに気付く素振りのない達也は先程と変わらない調子で返す。

 

「達也君ってさ、冷たいよね」

「いきなりだな」

「でも、その冷たさがありがたい、かな。優し過ぎないから、安心して愚痴をこぼせる。同情されて、惨めにもならない。……ありがと」

 

エリカは達也をのぞき込むようにして礼を言う。そして彼女は手を振ってどこかに消えていった。

その様子を見ていた深雪は心の中で思う。

 

(お兄様は他人の好意に鈍感すぎます……!私がこうやって見つめていることなんて、気付いていない。いえ、視線には気づいているでしょうが、どんな気持ちかなんて……きっと)

 

前半の思いは先程のエリカの行動を見ての事でもあるが、後半は深雪が前々から思っていたことであった。

 

幹比古とエリカを送り出した芺はやっと同年代の男達の元へ現れる。懇親会開始から男女関係なく多数の人間と会話してきた芺に桐原は肩を組んで問い掛けた。

 

「おい芺、ぶっちゃけどの子が狙いなんだ?」

「おい桐原……!」

 

何故か服部が赤面したところで、芺は何一つ動揺することなく答える。

 

「悪いが、今の俺に下らん恋愛遊戯にうつつを抜かす暇は無くてな」

「けっ、釣れねぇ奴だぜ」

 

桐原は笑いながら離れていく。芺の言葉に嘘は無かった。他の人の恋愛を卑下する気持ちは全く無い事は明記しておくが、それは芺がそういったものに無関心だからである。少し棘のある言い方をしたのはじゃれあい程度の皮肉であり、それは二人もわかっていた。

芺の周りには絶賛『恋愛遊戯』中の服部や桐原、五十里がいる。芺は古式魔法と剣術に剣道の名家の跡取りであり、第一高校においては工学で優秀な成績を修め、実技ではトップの実力である。彼にもそういった憶測や噂が立つのは避けられない事ではあった。しかし

 

(今は自分の身の振り方を自身で決定する事は出来ない。それよりもやらなければいけない事が多すぎる)

 

剣術、剣道、魔法の鍛錬はもちろんの事。体術や魔法工学、委員会活動や部活動にも精を出す芺はかなりの多忙である。

少々センチメンタルになっていた芺の眼には、どこか強い決意が見て取れた。

 

(それに、『柳生』を悪魔から守れるのは……俺だけなんだ)

 

明るい雰囲気の周囲と対比され、芺の表情は尚更暗く見えた。

 

「芺……?」

 

服部が心配そうに声をかけるが、芺は“何でもない”と返す。それと時を同じくして、懇親会の会場に司会者の声が鳴り響いた。

 

「えー、今回の九校戦懇親会にあたり、多数のご来賓の方々にお越しいただいております。ここで魔法協会理事、九島烈様より激励の言葉を賜りたいと存じます」

 

司会者がそう言うと会場の明かりが消え、ステージのみが照らされる。しかしそこに現れたのは九島烈ではなく、見たことも無い女性だった。

芺は一瞬訝しげに目を凝らす。しかし芺は気付いた。精霊のかすかな移動と僅かな霊気の波動を。

 

(これは……精神干渉か。何が目的だ)

 

芺が精神干渉に気付くと、ステージに立つ女性の後ろに立つ老人が目に入った。その老人は見まごう事なき九島閣下であり、恐らく彼がこの大規模な精神干渉の術者だろう。

生徒達がざわつく中、達也もこの異変に気づいていた。

 

(何かのトラブルか……いや、違う。精神干渉魔法。会場の全てを覆う大規模な魔法を発動させたのか)

 

達也は自らの持つ異能『精霊の眼』により九島烈が発動した精神干渉魔法を察知していた。

少しの間を経て、九島烈が目の前の女性に声を掛けると女性は横にはけ、ステージ全体が照らされる。そうしてやっと殆どの生徒の目の前に九島老人は現れた。九島烈は自分の精神干渉に気付いた生徒の内の一人である達也に笑いかける。それは恐らく“よく気付いたな”と言う賞賛を込めたものであり、達也も目礼で返す。

 

「まずは、悪ふざけに付き合わせたことを謝罪する。今のは魔法と言うより手品の類だ。だが手品のタネに気付いたのは私の見たところ、六人だけだった」

 

各学校から優秀なメンバーが選抜されたのにも関わらず、気付いたのは六人。その内半数が第一高校の生徒だったのだが、それを知るのは九島閣下だけだろう。

 

「つまり、もし私がテロリストで毒ガスなり爆弾なりを仕掛けたとしても、それを阻むべく行動出来たのは六人だけだという事だ。魔法を学ぶ若人諸君。魔法とは手段であってそれ自体が目的ではない。私が今用いた魔法は規模こそ大きいものの、強度は極めて低い。だが君たちはその弱い魔法に惑わされ私を認識出来なかった。魔法力を向上させるための努力は決して怠ってはいけない。しかしそれだけでは不十分だということを肝に銘じてほしい。使い方を誤った大魔法は、使い方を工夫した小魔法に劣るのだ。魔法を学ぶ若人諸君。私は諸君の工夫を楽しみにしている」

 

九島烈はそう締め括った。どこからともなく拍手が鳴り響く。

 

(この国の魔法師社会の頂点に立つ。これが老師か……!)

 

達也の九島烈への感嘆を最後に、この懇親会は終了した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。