魔法科高校の副風紀委員長   作:伊調

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第二十九話

八月十二日……九校戦最終日の今日にはモノリス・コード本戦が行われる。第一高校からは十文字克人を筆頭に単一系統の魔法に卓越した干渉強度を誇る辰巳鋼太郎、そして二年の実技でトップの成績を収める柳生芺といった布陣での出場だった。内外からの評価もよっぽどの事がなければ優勝。言うなれば十文字一人でも優勝出来る可能性さえあるというものだった。

 

「芺君。体調は大丈夫かい?」

「あぁ、万全だ。CADもよく馴染む」

「なら良かった。達也君にもお礼を言わないとね」

 

今回のモノリス・コードにおいて芺はとある魔法を使うにあたって行き詰まっていた所、達也が協力を申し出てくれたのである。試合前日ということで諦めていた改善の余地を一時間もかからずに完了してみせた彼の技量には芺も称賛の嵐だった。そしてその手際を見て頭をよぎったのは先日のあずさの言葉だった。司波達也はトーラス・シルバーその人であると。あの場では否定的な姿勢を見せた芺だったが、モノリス・コード新人戦前のCADの調整や昨日見せた技術力。そして司波深雪の飛行魔法の使用などを鑑みるとそうとしか思えなくなってきていたのだ。しかし今となってはそれはただの雑念でしかない。試合後にゆっくり考えるとして、芺は精神を集中した。

 

───

 

これは少し前の時間に遡る。モノリス・コード本線にあたっての作戦会議が行われていた。十文字、辰巳、芺に作戦スタッフ加えたメンバーで話し合いが進められていたが、結局作戦は十文字達選手に丸投げといった形となった。

 

「守りはもちろん俺が務めよう」

「お願いします」

「辰巳は遊撃を頼む」

「うっし!任された!」

「柳生は前衛だ。異論はないな」

「はい/おう」

 

十文字を主導に話し合いが進む。芺も十文字の立てる作戦には文句はなかった。次に各ポジション毎の大まかな動きを決めていく運びとなる。

 

「守りは言うまでもないが俺の『ファランクス』で十分だろう。前衛は柳生だが……」

 

芺は十文字の言葉を待つ。十文字は芺の実力をよく知っているため、この流れなら適切な指示が来ると思っていた。芺もあまり作戦の立案に関しては十文字と意見を出し合える程の経験がないために、彼の指示通りに動くつもりでいた。

十文字が辰巳の顔を見ると、辰巳も笑顔で頷く。三年生の二人の間ではある程度話し合いが進められていたのかもしれない。

 

「お前は好きに動いてくれて構わん。俺と辰巳で援護する」

「……好きにですか?」

「あぁ」

「……よろしいので?」

「もちろんだ。それとも、俺達にはお前の援護は出来ないとでも」

「滅相もありません!是非お願いします」

 

その少し焦ったような返事に十文字は口角を上げ、辰巳は笑いを堪えていた。好きに動くというのは簡単なようで難解なものである。全て自分で決定するということは、判断は全て現地で下さなければならず、臨機応変といえば聞こえはいいが、今の所実質ノープランである。とはいえ、このメンバーだとただの高校生レベルなら力押しが通じてしまう力量差になるので致し方ないとも思えた。

 

───

 

モノリス・コードの予選は一校あたり四試合行い、勝利数の多い四校のうちの一位と四位、二位と三位が準決勝で争う。そしてその勝利した高校同士で決勝戦。負けた高校同士で三位決定戦といった形だ。現在第一高校は予選第一試合の開始を待っているところだった。

 

「相手は七高か……大事無く勝ってくれるといいけど」

「さすがに十文字に辰巳や芺もいればただの高校生では太刀打ち出来んだろう」

「摩利ったら……油断しちゃダメよ」

「アイツらが敵に対して油断するようなヤツらだと思うか?」

「……確かに」

「始まりますよ」

 

市原の言葉で皆が観戦に集中する。今この場で観戦しているのは生徒会幹部に摩利を加えた四名だった。

ブザーの音が聞こえる。それは試合開始を知らせる合図だ。今回の試合は森林ステージ。見通しの悪い木々が生い茂るステージだったが、芺の知覚能力の前ではそんなものは無いに等しい。

芺は試合開始直後に『縮地』の連続使用で跳ぶように駆け出し、辰巳もその後を追う。十文字はその場で鎮座していた。芺は走りながら何らかの魔法の発生を感知する。

 

「辰巳さん。十一時の方向で何らかの魔法の発動がありました。一人ですね。落として来ます」

「了解!」

 

芺は精霊のざわめきにより魔法の発生を感知してその場に向かう。試合開始から直ぐに動き始めていた芺の接近は相手方からすれば想像以上に早いものだったであろう。

相手選手も咄嗟に足音に気付きその方向にCADを向ける。しかしその瞬間茂みから芺は太股の辺りに挿している氷柱倒し(アイス・ピラーズ・ブレイク)でも使用した拳銃型汎用CADを抜かずに引き金だけを引きながら相手の頭上を飛び越えるようにして姿を現した。そのまま空中で姿勢を変えて持っていた伸縮刀剣型CADを投げつける。その剣は相手選手の後頭部を直撃し、一撃で意識を刈り取った。

投げられたCADは芺の腕の動きに合わせて彼の手に戻る。会場からは歓声が上がった。

 

「今のは『舞踊剣』と呼ばれる古式魔法ですね。身体の動きに合わせて剣を遠隔で動かす魔法のようです。性質上、十回程の軌道変更で手元に戻さなければなりませんが……彼の場合それほどの回数を重ねなくとも相手選手を倒すのには十分でしょう」

「最初あいつが剣を持って走り出した時はどうなることかと思ったが……確かにあれならルールに抵触することも無い」

 

モノリス・コードは格闘戦は禁止されているが、芺のように質量体をぶつける分にはルール上問題は無い。レオの『少通連』を見てどうしても剣を使いたかった芺がこの魔法の使用を作戦を組み込んだのだ。

 

「それにあれは身体の動きを『型』として結印を代行させるタイプの魔法のようですが……」

「そんな動きしていたか?」

「いえ、恐らく『舞踊剣』を解析して現代魔法に落とし込んだのでしょう」

「五十里がそんな事をしていたのか」

 

その言葉にあずさが反応する。

 

「違うと思います。昨日の夜に達也君が五十里君と一緒にスタッフルームの中にいるのを見かけましたから……多分……」

 

彼女の言う通り昨日中に『舞踊剣』を芺のCADにプログラムしてみせたのだった。その手際からまたあずさからの確信めいた疑いは増したのだが。

相手選手を一人落とした芺はまた敵のモノリスに向けて走り出す……が、すぐに立ち止まり地面に向かって小石を放り投げた。するとその地面がまるで地雷が埋められていたかのように爆発する。条件発動型の遅延発動術式だったようだ。交戦前に感知した魔法はこれだったのだろう。芺はまた走り出す。既に彼は辰巳からの通信により敵のモノリスの位置を察知していた。

 

「俺が仕掛けます。もし取り零した場合は援護をお願いします」

「OK!いつでも構わねぇぜ」

 

敵のモノリスを挟むような形で芺と辰巳は陣取る。そして芺は近くの手頃な木に向かって移動魔法を行使した。根っこから浮き上がった木は芺の『縮地』により加速を帯びて相手選手の方へ飛んで行く。間一髪避けた所に芺の『舞踊剣』が迫った。腹部に硬いCADを横から叩きつけられた相手選手は堪らず吹き飛ぶが、まだ意識はあるようだ。そ

こに芺は容赦ない追撃を加え、また一人相手選手を戦闘続行不能に追い込んだのだった。

もう一方の選手に目を向けると、既に辰巳によって移動魔法で大木に叩きつけられており、意識を失っていた。

 

「悪ぃ。我慢出来なくてな」

「いえ、助かりましたよ」

 

芺は笑いながら礼を言う。そして大きなブザーが試合終了を告げた。

 

───

 

十文字達は順調に予選を勝ち進んでいた。十文字の何人たりとも寄せ付けぬ防御力と、それにより本来防御と攻撃を担う遊撃が攻撃に専念出来る点。そして類まれなる魔法発動速度と干渉力を持つ芺の攻撃力の前では、摩利の言う通り一介の高校生ではほとんど手が出せなかった。予選の最終試合を控えた第一高校の選手達は直前の最終確認を行っていた。

 

「芺。次の相手は多分『舞踊剣』はあんまり通用しねえぞ。いけるか?」

「問題ありません。切れる手札はまだありますから」

 

芺はそう言って二丁のCADを取り出す。そして太腿の辺りにポーチを取りつけた。こちらも既に大会委員の確認を通しているので中身共々使用可能である。

次の試合は草原ステージ。モノリス・コード新人戦の決勝と同じステージのため、あのような真っ向勝負を余儀なくされる場所だった。だがその場合、単純に力で勝る第一高校が大いに有利だ。それに見通しが良いのなら前衛にいても十文字の『ファランクス』による防御にも頼れる。

 

「よし。作戦は決まりだ。行くぞ」

 

何とも頼りになる後ろ盾だろうか。彼らの精神的支柱と言っても過言ではない十文字を先頭にステージに降り立つ。彼の放つプレッシャーは高校生離れしており、もし敵であれば萎縮することは避けられないだろう。

今回の芺のスタイルは二丁の拳銃型CADに一つの隠し球。伸縮刀剣型CADは背中側の腰の辺りにしまっているので、いざと言う時には使用可能だが、あまり使う気が無いことは一目瞭然だろう。既にここで相手校からしてみれば一つの誤算と焦りが生まれる。今までの試合における芺の『舞踊剣』とその身のこなしから完全に忘れていたが、彼はアイス・ピラーズ・ブレイクにおいてあの二丁のCADを使いこなし、かの十文字から五本の氷柱を奪ったのだ。彼の魔法力は剣を使わずとも十全に発揮されることを思い知らされる結果になるかもしれない。

 

「この試合では拳銃型デバイスを使用されるようですね」

「あぁ。芺さんならあのスタイルでも攻撃力においては差はないだろう。むしろ砲撃戦においては先輩の魔法力は脅威だからな。一度に一人しか狙えない『舞踊剣』を使わないのなら……試合時間が短くなりかねんな」

 

達也は呆れたように笑う。その会話に対してエリカは不服そうにしていた。

 

「ちえっ……剣使ってほしかったなー」

「どっちにしろ芺先輩の剣術が見れるわけじゃないんだから別にいいじゃないか」

「はー、ミキは分かってないわね」

「僕の名前は幹比古だ」

 

二人がいつも通りのやり取りをしている間に試合開始のブザーが鳴る。それと共に芺は走り出すが、三年生二人はここで待機するようだ。その位置から援護できるならば、わざわざ敵の射程距離に入る意味も無いからだと思われる。

とてつもない速度で迫る芺に相手選手達は魔法式の相克が起きないように魔法を行使する。さすがは代表に選ばれるだけあって、かなりの訓練を積んできたと一目でわかる練度だった。

芺に向かって飛んでくる様々な物体。走り続ける芺は防御姿勢が取れなかった。思わず笑みが零れる相手選手だが、すぐにその顔は驚きに変わることとなる。忘れてはいけない。第一高校には鉄壁の防御力を誇る彼がいるのだ。

芺を対象とした相手選手の魔法のその全ては十文字の『ファランクス』によって完全に防がれる。芺のスピードに追従する程の移動障壁を展開出来るのは彼を除けばこの世界でも数少ないだろう。芺は心の中で礼を言いながら相手選手の一人に対して魔法を行使する。選択したのは『不可視の弾丸(インビジブル・ブリット)』。芺は自らの魔法により地面に押さえ付けられた相手選手のヘルメットをもぎ取り、その選手に戦闘続行不能という判定を突きつける。

芺に向かって再度魔法が発動されるが、やはり全て『ファランクス』により防がれた。そして辰巳が残った二人の敵に対して加重系統の魔法を発動する。抵抗出来ず膝をついた相手選手に対して、芺は二枚の呪符を取り出す。それに想子を流し込み、眼についた二体の精霊を呪符で支配下に置いた。あとは言うまでもないだろう。芺によって発動された雷撃は二人の高校生を戦闘不能に追い込むだけの威力は保持しており、相手選手は同時に戦闘続行不能に追い込まれた。試合終了と共に会場からは大きな歓声が上がる。

 

「吉田君。今のは……」

「うん。精霊をコントロールしていた。吉田家の『雷童子』とは似て非なる魔法だけど……概ね似たようなプロセスを辿っていたね」

 

と、幹比古は正しく分析するが、どこか気落ちしているように見えた。

 

「どうかしたのか、幹比古」

「芺さんがあんまり上手く精霊魔法を使うからちょっとショックだったのよねー?」

 

エリカがからかうように言う。それに対して達也は

 

「いや、あれは別に上手くもなんともなかっただろう。見様見真似の付け焼き刃だ。本人も恵まれた処理速度と『眼』がなければ使う事さえ出来ないと言っていたぞ」

 

そう言って達也は幹比古の方を見る。幹比古もおずおずと喋り出した。

 

「確かに達也の言う通りだよ。あれ以上に難しいプロセスを踏むとしたらそれこそ修練が必要になるから、多分芺先輩は簡単な『雷童子』もどきしか使えないんだと思う」

 

“まぁ、実用レベルで使えるだけでも凄いんだけど”と幹比古は最後に付け加える。

予選では最終試合となる四戦目はすぐに始まる。彼らはそのままそこで観戦を続けるようだった。

 

───

 

四戦目ともなればある程度相手校の出方は予測できる。それはこちらに対しても同じだった。

 

「次はどう攻める」

「決着を急がないのであればまだ見せていない技はありますが」

「なら、それで行こう。前衛の援護は辰巳に任せる。万が一こちらのモノリスに敵が来た場合は俺が迎え撃とう」

「では、その手筈で。次もよろしくお願いします」

「ああ/おう!」

 

芺が使う技に対しての質問がないのは彼への信頼からか、はたまた彼の実力ならば大体の魔法で敵を倒せるという判断からなのかは定かではないが、幸い次のステージは市街地である。一対一の勝負が多くなりがちなこのステージでなら芺の魔法は使いやすかったため、彼自身あまり心配は無かった。

 

試合が始まった。十文字はモノリスの手前で陣取り、辰巳と芺は動き出す。今回は屋内戦のため芺も『縮地』を連発することなく比較的ゆっくりと索敵を開始した。

芺は霊子感受性のコントロールを行い故意的にそういった光に対して鋭敏な反応をする状態になる。その状態で辺りを探るが全く感知出来なかった。

 

(これだと遭遇戦になりかねんな。もしくは待ち伏せか)

 

感覚を研ぎ澄ませている芺の耳に何か物音が聞こえたような気がした。

彼は通信機に手を当てる。

 

「辰巳さん。五秒ほど動きを止めてもらってもよろしいでしょうか」

「了解」

 

芺は目を閉じ、聴覚に全神経を集中する。

 

「辰巳さんは今何階にいらっしゃいますか」

「多分六階だな」

「恐らくこの上に何者かがいます。注意して進みましょう」

「分かった。助かるぜ」

 

辰巳はそれを聞いて足音を立てないように上の階へ進む。そして隠密行動に入った。歩みを進めるとモノリスと共に二人の相手選手が目に入った。今まで第一高校はモノリスに向かって進撃して来たために迎え撃つ算段だったのだろう。

 

「芺。お前の言う通りだったぜ。二人いるが、どうする」

「では自分の侵入に合わせて突っ込んでください。こちらに注意を引きつけますので可能なら撃破してもらっても構いません」

「よっしゃ。任せてくれ」

 

辰巳は芺の侵入を待つ。注意を引くという事はそれなりに目立つ行動をするはずなので、侵入のタイミングは逃すはずはなかった。辰巳は息を潜める。すると、窓の外に何らかの魔法の発生を感知した。それは相手選手も同じようで同時に窓を見る。その瞬間、大きな音と共に窓ガラスが破壊され、何者かがそこに降り立った。

 

「冗談キツイぜ」

 

───

 

「うっわー……まるで映画ね」

「『ファランクス』を足場にして窓から侵入か。突飛な作戦を考えつくもんだ」

 

エリカとレオが呆れ半分に語るように、芺は十文字の『ファランクス』を足場に窓から侵入した。辰巳達が発動を感じた魔法はこの『ファランクス』である。特殊部隊さながらの突入劇を敢行した芺は素手のまま二名の相手選手に襲い掛かる。その時点であまりにも意外な突入に目を奪われていた辰巳も参戦し、今度は芺が汎用型CADを抜いて発動した『幻衝』で相手の動きを止め、辰巳が移動系魔法で相手選手同士を衝突させてノックダウンさせた。

モノリスのある階の異変に気付いたのか攻めに出ていたはずの選手が魔法を発動しながら現れる。移動魔法に適性があるのかそこら中の物を飛ばしながらかなり速い速度で駆け上がってきた。

 

「辰巳さん!」

「おうら!!」

 

しかし単一系統の魔法勝負では辰巳に軍配が上がる。辰巳は硬化魔法をかけた柱で飛来した物体を薙ぎ払った。そしてその隙に芺は本来のプロセスを踏んで『舞踊剣』を発動する。相手選手の腹に直撃したCADはそのまま軌道を変えて相手選手にアッパーカットを決め芺の手元に帰ってきた。強烈な痛みに加え脳を揺らされた相手選手はその場に倒れ込む。盛大な歓声と共に第一高校の予選第四試合は勝利で幕を閉じた。

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