魔法科高校の副風紀委員長   作:伊調

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第四話

入学式の翌日、下校時間になり夕陽が辺りを照らす時間帯の校門に、真新しい制服に身を包んだ生徒達の人集りが出来ていた。

そこに流れる雰囲気は新入生同士の明るく仲睦まじい雰囲気……ではなく、それとはかけ離れた敵対心剥き出しのものだった。

 

「いい加減諦めたらどうなんですか!」

 

そう少し怒気を含んだ口調で抗議するのはなんと柴田 美月である。

美月はとあるグループの一年生と言い争っていた。そのグループとは胸に八枚花弁の刺繍が施された制服を纏う生徒、いわゆる一科生だった。

 

「僕達は彼女と相談することがあるんだ!」

「そうよ!少し時間を貸してもらうだけなんだから!」

 

その様子を少し離れたところで見ていたのは司波兄妹。深雪は怖がっているのかお兄様……と達也の袖を掴む。それもそのはず、一科生達が言う彼女とは司波深雪の事であり、この件の発端は深雪と達也が帰ろうとしたところを一科生達が無理矢理止めようとしたことだった。いや、それだけではない。この日の昼休み頃から達也や深雪達と一科生の間には確執が生まれていた。その理由は二科の生徒である達也やエリカ達と一科の生徒である深雪が行動を共にするのを、一科の一部の生徒が良しとしなかったためであった。

 

心配そうに自分を見つめる深雪に対し達也が声をかける。

 

「謝ったりするなよ、深雪」

「はい……しかし」

 

深雪がばつが悪そうに返すのも仕方がなかった。簡単に言えば自分を巡っての口論なのだから。そして彼女が見つめた先には大勢の一科生に対し、司波兄妹を守るように立ちはだかる三人の生徒がいた。

千葉エリカ、柴田美月、そして今朝から行動を共にするようになった西条レオンハルト、通称レオだった。

 

「とにかく、深雪さんはお兄さんと一緒に帰るって言ってるんです!何の権利があって二人の仲を引き裂こうっていうんですか!」

 

そう強い口調で一科生に抗議する美月。おっとりとした様な外見とは裏腹に芯は強く、思った事ははっきり言えるタイプのようだ。

そして二人の仲、と口に出した美月に深雪は反応を示す。

 

「み、美月ったら一体何を、何を勘違いしているの!」

 

と、頬を赤らめながらも笑顔な深雪に対して達也は疑問に思う。

 

「深雪、なぜお前が焦る」

「へっ……いや、焦ってなどおりませんよ?」

「そしてなぜ疑問形……」

 

渦中の人間を含めた二人がこんな会話をしている中、美月達と一科生の間ではまだ口論が続いていた。

そして、一科生のリーダー格がついにあのセリフを口に出す。

 

「これは1Aの問題だ!雑草(ウィード)如きが僕達花冠(ブルーム)に口出しするな!」

 

その差別的な発言に対しエリカとレオは敵意を露わにする。エリカとレオは朝から何かと衝突が多かったのだが、こういった所は似ているのかもしれない。

先程の差別的発言を受け、美月は声を震わせながらも力を振り絞るようにして反論する。

 

「同じ新入生じゃないですか、貴方達花冠(ブルーム)が今の時点で……一体どれだけ優れていると言うんですか!?」

 

事実、この発言は長い目で見れば的を射ている正しい考えである。なまじ実力があるもの程、この発言が間違っていないと判断できるだろう。だが、この場に関して言えば悪手と言わざるを得なかった。

まずいな……と達也は身構える。

美月の気迫に一瞬怯んだリーダー格の男だったが、何か思いついたように口角を上げて話し出す。

 

「どれだけ優れているか、知りたいか」

 

その挑発的な態度に対しレオは真っ向から受けて立つ。

 

「面白ぇ、ぜひとも教えて貰おうじゃねえか」

 

魔法師同士の戦闘が始まる、そう予感した者達が彼らの傍から離れる。

 

「いいだろう、だったら教えてやる!」

 

レオと対峙する一科生のリーダー格……森崎 駿(もりさき しゅん)から魔法発動の兆候が見て取れた。

 

「これが!才能の差だ!!」

 

そう言い放ち彼は拳銃型のCADを引き抜く。その際の彼の素早い操作技術は『クイックドロウ』と呼ばれ、『森崎家』といえば『クイックドロウ』と世間に認知されているほど有名である。

彼の家は本業は現代魔法の研究において、魔法そのものの技術よりCADの操作技術を研鑽することで魔法の発動スピードを上げることを試みている一族だった。また、副業として始めたボディガード派遣の警備会社のほうが認知され、一般社会でも魔法師社会でも高い評価を得ているという側面もある。

 

そして森崎の魔法の発動を皮切りに周りの生徒達が一斉に動き出す。

レオは持ち前の身体能力で森崎に詰めよろうとするが、そこにいつの間にか伸縮警棒を装備したエリカが割り込み森崎に攻撃を仕掛ける。

それに対して森崎の周りにいた男子生徒が魔法を発動しようとCADを手をかけた。

魔法の撃ち合いが起こることを察知した一科生のグループの一人の女子生徒はダメっ!とエリカと森崎達の衝突を阻止しようと目くらまし程度の閃光魔法を放とうと術式を展開する。

 

「ダメっ!」

 

それを見た深雪が危険を察知し場の仲裁に動き出すが達也はそれを“大丈夫だ”と制止する。

魔法とは、使い方を誤れば人の命を奪いかねない危険なものである。三者三様に動く中、怪我人が出るのは時間の問題かと思われた。

なぜ達也がこの場での仲裁に動かなかったのか、それは一科の女子生徒の魔法が安全なものであったこと、そして既に彼が何人かの人物の接近に気づいていたからである。

 

金属と金属がぶつかり合う甲高い音が鳴り響き、その後には一時の静寂が訪れた。

 

女子生徒が放とうとした魔法は遠方からの『サイオン粒子塊射出』により魔法式が破壊され発動されず、彼女は衝撃で倒れ込み後ろの生徒に支えられるという結果に終わった。

そして一方の森崎達は双方とも怪我はなく、物理的な衝突は無かった。なぜなら森崎達の魔法が発動されるほんの数瞬前にエリカと森崎達の間に視覚では捉えられないほどの素早さで男が現れ……先程の金属音はこれだろう。その手に持った刀剣型のCADでエリカの警棒を受け止めていたからだ。

 

───

 

達也は驚いていた。介入してくる事は分かっていたものの、ここまで驚異的な速さとは予測していなかったのだ。それに加えその男は入学式前に顔を合わせた風紀委員の男、柳生 芺であった。実力が未知数だった彼のスペックの片鱗を目にできたのは幸運だと思う反面、咄嗟の事で彼の魔法がどういった類のものか『視』る事が出来なかった事もあり警戒心も強めていた。

 

森崎の取り巻きは少し退いた位置にいたからか芺の横入りに気付き、その精神の乱れからか魔法は不発に終わっていた。しかし森崎は全く予想だにしていなかった意識外からの乱入。それに既に発動される寸前であった魔法が彼によりキャンセルされるはずもなく、彼は突然の出来事に思わずトリガーを引いていた。魔法はエリカの警棒を受け止めた何者かの背中に向かって放たれる──そう直感した森崎は焦りの表情を見せた。

 

(まずい……!)

 

しかし森崎のCADから魔法が発動することはなかった。

『領域干渉』……自分の周囲の空間を自分の魔法力の影響下に置くことで、相手の魔法を無効化する対抗魔法。

術者を中心とした一定のエリアを、『事象が改変されない』という魔法で覆うことにより、相手の魔法による事象改変を阻止するという魔法をその男が介入の前に森崎の周囲に範囲を絞り、発動していたからであった。

 

そして目もくれぬ速さでこの場に現れた男がエリカの警棒を受け止めた体勢のまま口を開く。

 

「エリカ……何やってる」

「え、芺さん?」

 

エリカが顔見知りの登場に驚いていると、そこに別の人物の声が鳴り響く。

 

「やめなさい!自衛目的以外での魔法による対人攻撃は犯罪行為ですよ!」

「風紀委員長の渡辺 摩利だ。事情を聞きます。全員着いて来なさい!」

 

芺に引き続き現れたのは生徒会長である真由美と風紀委員長の摩利だった。突然の三人の登場、明らかに自分達に非がある状況に深雪は小声でお兄様、と心配そうに呟く。

そこで達也はおもむろに摩利に近づき言葉を紡ぎ出した。

 

「すみません、悪ふざけが過ぎました」

 

その言動に摩利が警戒心を示し魔法発動の兆候を見せる。

 

「悪ふざけ?」

「はい、森崎一門の『クイックドロウ』は有名ですから、後学のために見せてもらうだけのつもりだったんですが……あまりにも真に迫っていたもので、思わず手が出てしまいました」

 

その発言──自分たちを庇うような──に対し森崎は驚く。

達也の発言を聞いて次に摩利は別の女子生徒を見て話を続けた。

 

「では、そこの女子が攻撃性の魔法を発動しようとしていたのはどうしてだ?」

 

達也は少し笑みを浮かべながら疑問に答える。

 

「あれはただの閃光魔法ですよ、威力もかなり抑えられていました」

 

その発言に対し摩利と真由美は疑いの視線を向ける。

確かにそうだった。発動さえしなかったが、例え発動していてもその女子生徒の魔法は目くらまし程度の効果しか生まなかっただろう。

しかしそれを知っているはずなのはその女子生徒のみ。発動しなかった魔法の効果をなぜ()()が知っているのか。その答えは1つだった。

 

「ほう、どうやら君は展開された起動式を読み取る事が出来るらしいな」

「実技は苦手ですが、分析は得意です」

「……誤魔化すのも得意なようだ」

 

摩利の言葉は鋭かった。彼女がそう言うのも無理はない。展開された起動式を読み取る……それには最低でもアルファベット三万字相当の情報を読み取らなければならない。芺もそんな人間離れしたスキルを持っている人間がいるとはすぐに信じることは出来なかった。

摩利の真っ当な疑いに達也は自らの肩、本来なら花の紋章が刻まれているはずの場所を指しながら言葉を返す。

 

「誤魔化すなんてとんでもない、自分はただの──二科生です」

 

彼はそう締め括った。

美しい桜の花弁が舞い散り、暖かい春の到来を知らせる。しかしそこに流れる空気は重苦しく、決して暖かいものではなかった。

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