E.V.A.~Eternal Victoried Angel~   作:ジェニシア珀里

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旧章:Dep-0.00
第零話 幸福の中の終結


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 波が、静かに打ち寄せる。

 

 

 空気は、不思議なほど澄んでいる。

 

 

 月が、虚空に浮かんでいる。

 

 

 

 

 

 -ポシャ

 

 

 水音がした。

 

 

 思わず顔を向けると、そこに彼女はいた。

 

 

 赤い瞳の、蒼い髪の少女。

 

 

 赤い水面に立つ姿から、目を離せない。

 

 

 刹那、彼女は消え去る。

 

 

 跡形もなく。

 

 

 

 

 

 身体を起こす。

 

 

 不意に、横たわる少女に目を落とす。

 

 

 包帯だらけの、痩せ細った彼女。

 

 

 

 

 

 恐怖。

 

 

 嫌悪。

 

 

 敵意。

 

 

 絶望。

 

 

 

 

 

 渦巻く、負の感情。

 

 

 手が、彼女の首を絞める。

 

 

 震える手に、力を込める。

 

 

 

 

 

 その彼女の手が、自分の頬に触れた。

 

 

 思わず目を見開いた。

 

 

 彼女の指が、そのまま顔の輪郭をなぞった。

 

 

 それは、とても、暖かく、優しかった。

 

 

 

 

 

 後悔。

 

 

 悲嘆。

 

 

 孤独。

 

 

 希望。

 

 

 

 

 

 嗚咽を漏らす。

 

 

 彼女は一言、吐き捨てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「気持ち悪い……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……いつまで塞ぎ込んでんのよ、バカシンジ」

「…………」

「って言っても、仕方ないか……」

「…………」

「…………」

「…………」

「アタシたち、ここで死ぬのかな……」

「…………」

「いや、愚問だったかも……死ぬわよね、絶対……」

「…………」

「…………」

「…………」

「ねぇシンジ、何か…………何でもいい、喋ってよ」

「…………」

「全てがもう無駄なら……どうせ死ぬんだし」

「…………」

「……少なくとも、もうアンタを見捨てたりしない……」

「…………っ」

「罵るなり何なり、好きにしなさいよ」

 

 

 

 

 

「…………んで……」

「?」

「何で……拒まなかったんだよ……殺そうと、したってのに……」

 

 

 震える声を、絞り出す。

 いや違う。

 震える全身を何とか抑え留めようと、呟いてゆく。

 

 

「何で受け入れるんだよ……払いのければ良いじゃないか……」

「…………」

「気持ち悪いなら、何で……」

「やっぱりバカね」

「っ…………」

 

 

 

「いつ、アンタに気持ち悪いなんて言った?」

「…………え?」

 

 

 思わず顔を上げた。

 

 

「自分によ。今になるまで気づかない自分に……」

「何の、こと…………?」

 

 

 アスカは顔を逸らした。僕は視線を向けたまま、答えを待った。

 

 

「…………好きだから……」

「え……?」

「アンタのことが、好きだから……っ!」

「……………っ……」

 

 

 

 

 

 実は知っていた。サードインパクトが起こったとき、世界中の人々の思いが流れ込んできた。その中には、もちろん、アスカの想いも。それでも……

 

 

「もう、これだからアンタは………っ。………バかで、優柔不断で、逃げてばっかで、だけどすっごく優しくて……」

 

 

 それでも、いくら頭でわかってはいても、信じきることなど、できなかった。共に生活してきたけど、一度も僕のことなんか考えてない、そう、思っていた……。

 

 偽善かもしれない。僕を試しているのかもしれない。好きだと言って、また、少ししたら捨てられるかもしれない……。

 

 

「最後に残ってるのがアンタで……安心したわ。やっとシンジと、二人になれた、って……」

 

 

 信用することができなかった。

 だから、彼女の首も絞めてしまった。けれど。

 

 

「フフッ、アタシって、結構独占欲が強かったのね……」

 

 

 けれども、目の前で自嘲気味に微笑みを浮かべていくアスカは、純粋な表情で自分のことを「好きだ」と言った。

 殺そうとした僕を、許してくれた。

 

 少なくともシンジは、そう信じたかった。

 

 

「……僕は、」

 

 

 俯く。混在する感情に、揺さぶられる。

 だけど、言わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

「僕も、アスカと一つになるのは、やっぱりイヤだ」

 

 

 

 

 

 暫くして、包み込まれる感触がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…………ありがと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから、二日が過ぎた。思った通り、僕らは、長くは生きられそうになかった。食料も、水さえ殆どなく、すぐにでも餓死してしまいそうだった。

 僕とアスカは、お互いに、一瞬たりとも離れようとはしなかった。一人になることの恐怖もあったからだけど、それより、アスカのそばにいられる、そのことが、この上ない幸せだったからだ。

 

「ねぇ、アタシたちってさ、死んだら、どこに行くんだろ?」

 

 仰向けになって月を見上げるアスカが僕に訊く。

 

「分かんない……。L.C.L.に還るのかもしれないし、リリスがいないから、もうこのまま終わりなのかもしれない……。でも僕は、もう怖くなんかないよ」

「アタシもよ。この世界でシンジといられただけで、もう十分」

 

 意識が遠退き始めた。何だか可笑しかった。

 

「フフッ、そろそろダメかも……」

「そうね……」

 

 

 

 そうして、繋いでいた手を、どちらからともなく、強く、最後の力を込めて、握り締める。

 

「ありがと、シンジ」

「こっちこそ。ありがと、アスカ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 でももし、

 

 

 

 

 

 できるのなら、

 

 

 

 

 

 もう一度、みんなと、

 

 

 

 

 

 アスカと、生きることはできないのかな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 終焉と、

 

 

 

 

 

 再生と、

 

 

 

 

 

 未来と、

 

 

 

 

 

 希望と、

 

 

 

 

 

 そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『世界が、』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『終わることは、』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『決してないわ……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無償の、愛。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【第零話 幸福の中の終結】

【Prologue Beginning from EOE】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




☆あとがき

こんにちは。初めまして。ジェニシア珀里と申します。
今回、pixivで先行公開しましたエヴァンゲリオンの二次創作をこちらでも投稿しました。

この小説、現時点は「無題」とさせていただきます。
二月十一日、タイトル及びタグの追加をする予定です。
よろしくお願いします。

☆追記:二月十一日 タイトル、タグ追加。並びに第壱話、公開。

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