E.V.A.~Eternal Victoried Angel~   作:ジェニシア珀里

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第拾話 還りし人(前編)

 

 

 

 

 

 シンジは、加持と一緒に海の水を浄化する施設の開閉ゲートの上に来て、潮風に吹かれていた。他の面々は昼食後も色々なところを見学しに歩き回っているらしい。

 

「僕が産まれる前は、この海が青かったなんて想像出来ませんね」

 

 シンジは青くなった水が溜まっているプール側の手すりに捕まってダムを覗き込んだ。

 

「こうして人が生きていける環境だけでも、よくも復元出来たものさ」

 

 加持は後ろ向きになり、手すりに肘をついて煙草をふかしている。

 

「それはそうと、少し聞きたいことがあるんだが……」

 

 シンジは加持に目を向けた。加持は空を見上げたままだった。

 

「……あまり深追いしない方がいいですよ」

「悪いようにはしない。俺はただ、」

「真実、知りたいんですよね?」

「……ああ」

 

 自分だけで真相を追い求めようとするはずの加持がここまで直接的に聞いてくるところからして、何としてでも僕を味方につけたいのだろう。

 ダムの外縁はなだらかになっていて、まるで本当の海のように波が打ちつける。コンクリートで作られた岸辺には、海草が幾らか打ち上げられている。

 

「後戻りは、できませんよ?」

「それでもいい。君の知ってることを……聞かせてくれ」

 

 やはり、さすがだと思った。自分の身を顧みず、ただひたすらに追い続ける。その精神には頭が下がる。

 

「……一つだけ条件があります」

「……なんだい?」

 

 だが、その先を生きる他人の運命まで、揺り動かさないでほしいのは率直な願いである。

 

「ミサトさんを、悲しませないであげてください」

 

 加持の顔を見ることはしなかった。

 真実が大切なのは当然だ。本当のことを知りたくなるのは人間の性、それを否定するつもりはシンジにもないし、そもそもできるはずもない。でも、加持の消えたあの夜のように、電話の前で蹲り一晩中泣き明かす、そんなミサトの姿は、もう二度と見たくなかった。

 

 遺された者の思いは、遺した本人は知ることなどできない。

 

「……シンジ君、俺は」

「『戻れない』とは、言わせませんよ」

 

 尚も視線は青い海に向けたままだ。

 

「……ついさっき、後戻りできないと言わなかったか?」

「……後戻りはできません。けど、『取り戻す』ことはできます」

 

 シンジは空を仰いだ。

 

「取り返してやるんです。突き進んだ、その先で」

「…………」

 

 

 

 セカンドインパクト前の青い地球を取り戻せるか。そう聞かれたら、本当は断答することはできない。自然の力に抗えないのは、シンジにもよく分かっていたから。

 しかし、人の心は、取り戻すことができるのだ。

 それは、アスカが教えてくれたことでもあった。人は誰しも、憂鬱や孤独、悲哀や憎悪に泣く。けれど、形はどうあれ、そこから立ち直ることができる。

 

 ママがいたから、アイツらに立ち向かって行けたの。

 

 アスカはかつての赤い海で、量産機と戦った時のことを僕に話してくれた。アルミサエル戦以来、僅かの気力も起きなかった自分がもう一度起き上がれたのは、母がいてくれたことだけだったと。

 希望を捨てる必要など、微塵もないのだ。

 

 

 

 しばらく沈黙していた加持は、負けたとでも言うように小さく笑った。

 

「……わかったよ」

「何かあったら、そっちも隠さないでくださいよ?」

「……ああ」

 

 

 

 

 

「サードインパクト……か」

「……ええ」

「どうりで色々知ってると思ったよ。タイムリープとはまた、なかなか不思議な話だな」

 

 シンジから話を聞いた加持は、短くなった煙草を携帯灰皿に落とした。

 

「ですが、もはや前史の話です。綾波レイのクローンも破壊して、ダミーシステムの研究……E計画も事実上頓挫しています。それがなくとも、僕の知らない使徒が出てきていますし……。この先何が起こるかは、保証しかねますよ」

「構わないさ。そもそも使徒とリリスの接触で本当にサードインパクトが起こるのかすら、君の世界でもこっちの世界でも、起こってない以上、ただの疑問だからな」

「僕はこの世界を守りたい。ミサトさんや、綾波や、アスカの笑顔を……」

「他人思いなんだな、君は」

「自分のエゴかもしれませんけどね」

 

 シンジは自嘲するように笑った。

 

「加持さん、協力してくれますか?」

 

 加持はポケットから青いスカーフを取り出した。

 

「……ああ。もちろん」

 

 

 

 

 

《E.V.A.~Eternal Victoried Angel~》

 

【第拾話 還りし人(前編)】

【Episode.10 Common Destiny】

 

 

 

 

 

 セカンドインパクト。

 かつて15年前に起こった地球規模の大災害。地球南極点近辺で巨大な爆発が発生した。4体の光の巨人が、天使のような羽と、頭上には光の輪を持って赤い空に揺らめいた。

 幼い頃のミサトは、父親と共にその光景を目の当たりにしていた。巨人の周りに、4本の槍が舞い上がる。父親は、ミサトを脱出用のシェルターに避難させると、十字架のペンダントを彼女に託した。その直後、父親は押し寄せてくる爆風に巻き込まれた。

 ミサトはその後の彼を知らない。気がついたのは、荒れ狂う海の上。そこに、父親はもういなかった。

 

 帰らぬ人となった父。彼は、研究、夢の中に生きる人だった。ミサトは、そんな父親を嫌っていた。いや、憎んでさえいた。

 だが、最後はその父に助けられた。

 生き残るというのは、いろいろな意味を持つ。死んだ人の犠牲を受け止め、意思を受け継がねばならない。

 そんな片意地が、ずっと自分を縛り付けていたのかもしれない。使徒に対する復讐心、世界を守るという名目の影に、自分をも騙し続け、強がり続けてきたのかもしれない。ミサトは胸元に下げた父の形見を見つめた。

 だからこそ、彼との出会いはとても幸運だったと言えよう。14歳で年端もいかない子供のようだが、持っているものが違う。彼は、絶対に『破壊』をしようとしない。それどころか、自分が盾になっても、全てを護ろうとしている。その心には、到底敵わない。

 それでも、自分のやるべきことはしっかりやり遂げる。それが、使徒を倒すという使命を与えられた作戦部長として、今彼らに返せる恩だ。

 

 

 

 腕を組み、ミサトは目の前のモニターを見上げた。そこには、「Blood Type:BLUE」の文字が浮かび上がっている。

 

「3分前にマウナケア観測所にて第8使徒を補足。現在、軌道要素を入力中」

 

 マコトがモニターに映し出された情報を確認した。

 

「目標を第3監視衛星が光学で捕らえました。最大望遠で出します」

 

 シゲルが使徒の姿を主モニターに回す。その姿を見て、第1発令所にいるほとんどの職員が息を呑んだ。

 

「光を歪めるほどのA.T.フィールドとは、恐れ入るわね……」

 

 作戦部長であるミサトも、その球体状の第8の使徒に、思わず感嘆の声を漏らす。

 

「N2航空爆雷も、まるで効いてません」

 

 マコトの言う通り、使徒は全ての爆発をA.T.フィールドで完璧に防いでいた。幸い反撃はないようだが、この状況ではそれを考えるのもかなり野暮とみえる。

 

「それで、落下予測地点は?……当然、ここよね」

 

 ここに来ずしてどこへ行く。ミサトは分かっているといった苦笑いを浮かべた。

 

「MAGIの再計算。ネルフ本部への命中確率、99.9999%(シックスナイン)です……!」

「軌道修正は不可能か……」

「A.T.フィールドを一極集中して押し出してますから……。これに、落下のエネルギーも加算されます」

 

 マヤがミサトの方を見る。ミサトは顔をしかめた。

 

「まさに使徒そのものが爆弾というわけね……」

「第8使徒直撃時の爆砕推定規模は、直径42万GY-1万5千レベル」

「第3新東京市は蒸発、ジオフロントどころかセントラルドグマも丸裸にされます」

 

 マコトがミサトの後ろに立ち被害規模を推測する。

 

「碇司令は?」

「使徒の影響で大気上層の電波が不安定です。現在、連絡不能」

 

 シゲルはノートパソコンのモニターを見て答える。

 

「ここで独自に判断するしかないか……」

 

 ミサトは意を決して姿勢を起こすと、周りにいたスタッフに大声で伝えた。

 

「日本国政府および各省に通達。ネルフ権限における特別非常事態宣言D-17を発令。半径120キロ内の全市民は速やかに退避を開始」

 

 するとシゲルが苦笑いしながら、冗談のように言った。

 

「問題ありません。既に政府関係者から我先に避難を始めてますよ」

「あら、そう……」

 

 既に第3新東京市上空には、イナゴのように大量発生した政府関係者の航空機が飛び立っていた。陸路は車の列で大渋滞が発生。海上でも艦隊が群れを成して離れていく。

 

 

 

『市内における民間人の避難は全て完了。部内警報Cによる非戦闘員およびD級勤務者の退避完了しました』

 

 今回ネルフが取ったのは市外避難という異例の措置だったが、マニュアルに基づいた素早い対応によって、最悪の事態を想定した対策は完了した。MAGIシステムのバックアップも松代に頼み込みが終了し、万一の備えはすべて整った。

 

「で、どうするつもり?」

 

 リツコが冷静な口調でミサトに質問する。肝心の作戦はまだ指示されていない。だがミサトは慌てていなかった。フッと笑い、モニターの黒い球体をジッと見つめていた。

 

 

 

「嘘だろ……」

 

 シンジは第1発令所でイヤホンを耳につけていた。しかし聞いているのはカセットテープではなくミサトたちの会話だ。

 この改良型S-DATは、先日リツコによって盗聴機能をつけてもらっていた。シンジの知恵が必要な場合もあると見て、会議室にのみ発信器を取り付けることを条件に、リツコが最新式のシステムを用意したのだ。遠目で見れば、ただ音楽を聴いているようにしか見えない。

 リツコは先日の作戦課技術課合同緊急カンファレンスもこれで盗聴させていた。もっとも、後で知らされるのだから「盗聴」する意味はあまりなかったように思うのだが。

 そこで意外にも、前史で襲来した使徒の特徴が意見として結構出されたため、シンジとしても手間が省けて良かったと思っていた。

 だが、その油断が仇となってしまったのか、シンジは今、ミサトたちの会話を聞いて愕然とした。空から飛来してくる巨大な使徒。その外見は黒い球体に、無数の目の模様。

 シンジの頭に、恐ろしい加算式が浮かび上がった。

 

 マトリエル+サハクィエル+レリエル。

 

 第7の使徒がシンジの知らない形だったために、第8の使徒もまだ見ぬ形で来ることも可能性として考えてはいた。

 だがまさか、成功率0.0001%だった奇跡の使徒戦、そのサハクィエルに新たな武器が付随しているかもしれない可能性があるなんて。もちろん、この心配も杞憂であることを願うが、できれば避けて欲しかった……。

 

 

『いくらエヴァといったって空を飛べるわけではないですし』

『空間の歪みが酷く、あらゆるポイントからの狙撃も不可能ですよ』

『近接戦闘しか不可能のようですが、そもそもあの巨大さであの落下速度、どうやって止めればいいんでしょうか……』

 

 シゲルやマコト、マヤたちも、本当はこのような消極的な意見を言いたくはないのだが、今回ばかりは手の打ちようがないと嘆くばかりのようだった。

 

『諦めるのはまだ早いわ。まだ手という手はある。無理だと思うなら、この前の考えを「応用」させるのよ』

 

 ミサトは声を低くした。

 

 

 

 シンジはイヤホンを耳から外し、更衣室に向かって歩き出した。こうなった以上、限界までやるしかないだろう。

 ミサトが立てた作戦はこうだった。シンジやアスカ、レイの過去の戦闘記録及び最新のシンクロ結果から、各エヴァをネルフ本部を中心として適当な位置に配置する。使徒の速度や第3新東京市到達予想時刻の計算もリアルタイムで考慮しつつ、作戦開始と同時に各パイロットにはA.T.フィールドを最大限まで展開してもらうのだという。

 使徒の予想落下角度は仰角約58度。使徒の落下を減速させた後は、ネルフ本部目指して直進してくるであろう使徒に、もしものためにリツコが開発を急がせた再改良第3次試作型380mm自走陽電子砲による近接砲撃に持ち込もうという。

 ちなみに、あくまで陽電子砲の管轄は戦自である。この前のヤシマ作戦の礼と言ってはなんだが、赤字を承知で戦自にデータと人員を特別提供していたのだ。戦自の手柄にしておけば、後々ネルフとしてもやり易い。

 

 「これ以上の作戦は無理だろうなぁ……」

 

 残念そうな声を出しつつも、シンジの口元には笑みが浮かんでいた。前史に比べれば遥かにマシである。それに、万が一失敗したとしても、サハクィエルの特徴が強ければ別の方策も知っている。

 

 ふと見ると、廊下の奥からレイが姿を見せた。

 

「あっ、綾波!」

「碇君?」

 

 ナイスタイミングだとシンジは思った。一応、自分が考えた作戦も話しておいた方がいいだろうと思ったからだ。

 

「ちょうど良かった。これから着替えでしょ?」

「ええ、今向かうところ。……ちょうど良かった、って?」

 

 レイはシンジの言葉に素朴な疑問を投げかけた。

 

「これから戦う使徒さ。ミサトさんが必死で考えてくれてるみたいなんだけど、もしものために第2プランを考えてみたんだ」

「第2プラン?」

「もちろんミサトさんのことは信じてる。だけど念のため、にね。もしこの作戦が失敗したら、この街がなくなるかもしれないらしいからさ。だから、僕は真っ先にヤツの真下に走って行って使徒を受け止めとく。そこを綾波とアスカで攻撃してほしいんだ」

「……えっ!?」

「ん?どうかした?」

「い、いえ……なんでもないわ」

「まあかなり大雑把だけどね……。悪いんだけど、後でアスカにも伝えといてくれる?」

「え、ええ……」

 

 いつの間にか更衣室の前まで来ていた二人は、そこで一旦分かれた。

 

「……どうして、同じなの……?」

 

 レイは目を丸くして呟いた。

 

 

 

 一方、ミサトの方は更なる成功確率の上昇のために計画を練りつづけていた。さっき11%とは言ったものの、これはあくまでデータ上での話なのだという。

 

「まさかミサト、これよりも上がるとでも言うの……?」

「ええ、そのまさかよ。私は彼を信じるわ。戦闘が始まったら、彼らの力は未知数だから……」

 

 ミサトは、過去3回のシンジ、レイ、そしてアスカの戦闘記録を開いた。何度も見たその報告書には、それぞれにグラフが表されている。

 

「99.89、89.62に、98.38……82.21……97.30……」

 

 ミサトは紙をめくる。胸ポケットに挿していたボールペンを取りだし、スラスラと紙に計算式を記入していく。

 

「賭けは……危ないわよ……?」

 

 リツコは顔を険しくする。

 

「そうね。みんなにはまた、迷惑かけるわね……」

 

 ミサトはペンを取り替え、今度は赤い円を素早く書いていく。

 

「だからこそ、その賭けを、確実なものにできるようにサポートする。今の私には、すまないけどそれが精一杯よ……。リツコ、ちょっとタブレット貸して」

 

 リツコからタブレットPCを受け取ると、凄まじいスピードでキーを入力していく。

 

「たとえこの作戦が外れだったとしても、結果と課程、両方を成り立たせるわよ」

 

 ミサトは手を止める。タブレットに、33.71±2.20の表示が出た。

 

「……本当に変わったわね、貴方も」

 

 

 

 ******

 

 

 

 作戦準備が開始されてすぐに、格納されていたエヴァが列車型の貨物台に乗せられて運び出された。

 

「エヴァ3機によるA.T.フィールドの同時展開?」

 

 ミサトの作戦を聞いたアスカが首を傾げた。

 

「そう。飛来する使徒を、エヴァのA.T.フィールド全開で減速させる。そこを第6の使徒の時にも使った陽電子砲の改良型で狙撃する。目標は位置情報を撹乱しているから、保障観測による正確な弾道計算は期待できないわ。状況に応じて多角的に対処するため、本作戦はエヴァ3機の同時展開とします」

「…………一人じゃ無理ってことね?」

 

 ミサトの説明を眉を歪めながらアスカが訊き返す。

 

「ええ。エヴァ単機では広大な落下予測範囲全域をカバーできないの」

 

 ミサトはパイロットたちにモニターに映し出されたシミュレーションデータを見せる。

 

「この配置の根拠は?」

 

 レイがそれを見て質問する。

 

「一応、使徒落下予測地点をネルフ本部直上として、そこを中心に均等に配置したつもり。何かあれば言ってちょうだい」

「案外広いのね……」

 

 アスカは腕を組んでモニターを覗きこんだ。

 

「勝算はあるんですか?」

 

 シンジがストレートに訊いた。

 

「MAGIの計算では11.17%だったわ。ただし、これはあくまで予測最低値。状況によれば、30%超えも夢じゃない」

「夢より現実見たら?」

 

 アスカが無機質な声で指摘する。感情の欠片すら無かったように聞こえたが、それも承知とばかりにミサトは軽く受け流した。

 

「ま、ギリギリまで軌道予測を試みるわ。悪いけど、これが私たちに考えつく最善の方策なの。A.T.フィールドはエヴァ同士による干渉も考慮しなければならないから、緻密で非常に細かい調整が必要になるけど、こっちで何とかするから心配しないで」

 

「……ねぇミサト?」

「ん?何?」

「3体の位置、東南東に2キロ移動させられる?」

「「……え?」」

 

 ミサトとシンジは同時に目を丸くした。

 

「使徒の落下は斜めなのよね。相手を減速させるんだったら、こっちもA.T.フィールドを押し出すように動いた方がいいと思うわ。けど、A.T.フィールドの強さを重視するんだったら、そんなに動けないと思うから、2キロくらいがいいかも」

「……流石ね、アスカ!」

「勝たなきゃ、……全部終わるもん」

 

 アスカはとても小さな声で呟いた。

 

 

 

 

 

 エヴァに乗った3人は最終位置についた。時折本部から移動を要請させられるため、発進準備のための職員は既に撤退している。

 シンジは、すっかり考えを変え、勝てるような気がしていた。先程ミサトから言われた11%という数値や、ミサトの表情からそう思うのだろう。

 

 ただ腑に落ちないことがある。

 なぜだろう、一人でできるという発言を、一度もしなかった。

 シンジはアスカの態度に違和感を覚えた。そのアスカは、空をジッと睨み付けていた。

 

 

 

 そして遂に、発令所内に警報が鳴り響いた。

 

『現在、目標の軌道を補足中。重力要素を入力』

 

 オペレーターの通信が騒がしくなる。

 

「おいでなすったわね。エヴァ3機、フィールド展開準備!」

 

 待ち構えていたミサトは、腕を組んで作戦の合図を送った。

 ミサトの合図で、3人は一斉に深呼吸をした。

 

「限界までサポートするけど、2次的データが当てにならない以上、万一の時は現場各自の判断を優先します。エヴァとあなた達に全てを賭けるわ」

 

 ミサトは、エヴァパイロットたちに最後の思いを託す。

 

「目標接近!距離、間もなく2万!」

 

 使徒が近づいてきたことを、シゲルが伝える。

 

 

 

「作戦開始!A.T.フィールド一斉展開!!!」

 

 

 

 ミサトはいつにも増して緊張感のある声で叫んだ。

 

「「「了解!!!」」」

 

 3人は一気にA.T.フィールドを展開し始めた。その表面はすぐに第3新東京市全体へと広がっていく。

 

「干渉は!?」

 

 ミサトがマコトに報告を仰ぐ。

 

「零号機基準に2号機が+1.3、初号機が+2.9!!」

「調整頼むわ!下げすぎないように気を付けて!!」

「はい!」

 

 上空から飛来した使徒は、身にまとっていた黒い空間を剥がして、真の姿を表に出す。それをシンジも黙視で確認し、目を見開いた。カラフルではあるが、その姿は、前史のレリエルそのものだった。

 そしてすぐに、形が変化したことによって影響が発生したことを報告するシゲルの声が聞こえてきた。

 

「目標のA.T.フィールド変質、軌道が変わります!!落下予測地点、修正02!!」

「くっ!」

 

 ミサトが奥歯を噛み締める。

 

「エヴァのA.T.フィールドにより目標減速!!しかし、このままだと落下予測地点がかなりずれます!!」

「エヴァ3機、北側に3キロメートル移動して!!」

 

 すかさずミサトが指示を出す。

 その時、マヤから報告が発せられる。

 

「目標のコアを補足!!」

「陽電子砲は!?」

『いつでもいけます!』

 

 通信の繋がっている戦自の本部からは、自信たっぷりの声が聞こえてくる。ミサトの口角が上がる。

 

「目標との距離、間もなく1万!予定射撃距離に入ります!」

「計算出ました!落下角度、およそ61.3度!」

「よし、陽電子砲射撃カウント開始っ!!」

 

 ミサトの声と共に、陽電子砲の乗った可動台が傾いていく。

 

「初号機A.T.フィールド、+1.1.!」

「シンジ君、北側に500メートル移動!」

『はい!』

「射角調節完了、発射まであと15秒!」

 

 その瞬間だった。

 シンジたちのA.T.フィールドを受け減速しながらも降下を続ける使徒が、球体だった体を広げて蝶のような形に変化した。10枚の羽を広げた使徒は真ん中に目のような部位を残し、羽の輪郭には無数の触手のようなものを立ち上げる。横長に広がった使徒は、次第に羽部分を持ち上げ、空気抵抗を分散させながらV字型になって落下を続ける。

 

『目標変形、距離およそ8000!』

『目標A.T.フィールドのバランスが不安定化!』

 

 シゲルとマコトが素早く使徒の変化を報告する。

 

『陽電子砲発射まで、あと5秒!3!2!1!』

「まさか……!?」

 

 その時、シンジの脳裏に不穏な考えが揺らめいた。

 

『発射!!』

 

 ミサトの号令で陽電子砲が火を吹いた。青白い光が空めがけて放たれる。

 しかし、コアを貫通したかに見えたその攻撃は、完全に外れていったのだった。

 

「なっ……!??」

『相手のコア、一点に固定していません!高速で円運動をしています!!』

『そんな……!?』

 

 ミサトは言葉を失った。

 

『目標、依然健在!』

『外縁のA.T.フィールド、中心へ集束中!』

「まずいっ!!」

 

 シンジは無意識のうちに走り出していた。

 マトリエルやレリエルの要素など、端からなかったのだ。1枚の壁であるはずのA.T.フィールドを、自らの形を変えることで一点に収束させてくるとは、全くの予想外だった。そしてこのままだと、3機が別地点からA.T.フィールドを展開しても、一点集中の攻撃に対しては無意味になりかねない……!

 

『シンジ君!?一体何を!』

「今ならなんとかできます、アスカっ!!綾波っ!!!」

『っ、分かってるわよ!!!』

『こっちも、すぐ行く……!』

 

 3人のその叫びをミサトも理解したらしく、すぐにマコトに指示を出した。

 

『分かったわ、頼むわシンジ君!!日向君、緊急コース形成、605から675!!』

『はい!!』

 

 途端に、初号機が走っていた市街地に、巨大な装甲板の足場が何枚も立ち上がり始める。装甲板によって形成されたバンクを利用して、初号機はスピードを緩めずにカーブを駆け抜ける。

 

『次、1072から1078、スタンバイ!!』

 

 言うが早いか、すぐさま格納されていた兵装ビルがせり上がる。初号機はそれを足場に高く飛び上がり、更に加速をかける。

 

『354から362も上げて!』

 

 レイやアスカの足場も確保するためか、間髪入れずにミサトの指示が飛んだ。

 サハクィエルの落下予想位置はすでに確定的だった。おまけに減速しているために時間的な余裕もまだ残されていたのが救いだ。シンジは使徒の真下に辿りつき急ブレーキを掛けて止まると、迫り来る蝶のような巨体に向かって両手を広げた。

 

「A.T.フィールド、全開っっ!!」

 

 初号機は天に向かって両手を広げると、全面に巨大なA.T.フィールドを広げた。遂に地表近くへ接近した使徒は、初号機のA.T.フィールド目掛けて突っ込んでくる。そして、A.T.フィールドの表面に到達した使徒は、コアがあると思われる中心から人の上半身のような部位を覗かせる。

 

「なっ……!?」

 

 その人型の部位は、両手を伸ばすと、初号機の両手にがっちりと手を合わせる。

 次の瞬間、使徒の手が槍状に変化して初号機の手を突き破った。ヤバいと思ったが既に遅かった。避けられない、焼け付くような急激な激痛に、シンジは思わず悲鳴をあげた。

 

「っあ"ぁ"ぁぁぁぁぁーーーっっっ!!!!」

『シンジ君っ!!』

「っっぐっ……!!」

『神経接続30%カット、急いで!!』

『はい!』

 

 焦ってミサトが叫び、マコトがディスプレイを操作する。

 

「2号機!!」

 

 レイが叫んだ。

 

「陽電子ライフルで撃って!私はコアを掴まえる……!」

 

 初号機の腕からは血液が噴き出していた。だが2号機が辿り着くにはまだかなりの時間を要する。状況は非常に悪かった。

 だが、2号機の走行ルート付近には陽電子砲が残っていた。これを利用しようとレイは考えた。

 

 そして、アスカはそれに応え、耐える紫鬼に向かって、大声で叫んだ。

 

「OK……!耐えてなさいよバカシンジぃっっっ!!!!」

「…………っっ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




☆あとがき

中途半端でもここで切ります。
ってなわけで第拾話でしたいかがでしたでしょうか?♪

新劇版になってそこそこ好きな使徒になったサハクィエル。あのカラフル版レリエルにはスタッフの本気が伺えますね♪

さて、伏線をいろいろ出しすぎて、回収するの大変そうだなぁ……笑
ま、でも一つはまもなく回収完了です。

もう、お気づきですかね。あの人物の「真実」。

次回の後編にて判明させます。

【第拾壱話 還りし人(後編)】
【Episode.11 REUNION】

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