E.V.A.~Eternal Victoried Angel~   作:ジェニシア珀里

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アスカ&宮村優子さん、誕生日おめでとうございます♪
そんな日に投稿する、破壊の終章。
開始。




《Extra:STEEL》


「いい?」

 大勢の大人を前に、1人の少女は鋭い目で言葉を発した。

「いま、第10の使徒が第3新東京を襲ってる。この戦いには辛うじて勝てるとは思っているけれど、問題はその先」

 彼らの囲むテーブルに、何百桁にも及ぶ数字の羅列が映し出される。

「エヴァンゲリオン初号機は神の力を手に入れると思う。その展開は、必然的なものよ」

 息を呑む大人たちに、少女は小さく頷く。

「だからいま一度、ここにいる全員に質問する。計画を壊し、他者とこの地球(ほし)の存在を護る、その覚悟はある?」

 反論する者は、誰一人としていなかった。

「オーケー。それじゃ、始めるよ」





第拾玖話 見知らぬ明日(後編)

【第拾捌話 見知らぬ明日(後編)】

【Episode.19 Quickening】

 

 

 

 

『2号機! 真希波よね!?』

 

 通信装置から、再び発令所の声が響いた。

 

『アンタは早く撤退して! その状態じゃ戦闘は無理よ!』

 

 しかし、マリは動じなかった。頭から血を流したまま、零号機と攻防を続ける眼前のゼルエルを睨み続けていた。

 

『真希波!!』

「そんなこと言って、大尉だってこの状況で引くわけないでしょ……?」

 

 断線したアンビリカルケーブルの断片を左肩に巻き付け、足と右腕で目いっぱい締め付けて止血を試みる。神経系統に刺すような痛みが走るが、歯を食いしばって我慢を貫く。

 

「……その状態で、戦おうっての?」

「っぐ……無茶なのは承知。ここまで来たからには引き下がれないよ。それこそ、It is the final decision we all must take……だし!」

 

 その様子を見たアスカはため息をついて首を振った。非常に癪だが、この女は自分に似ている、そうアスカは思った。

 ならば。

 

「まったく、とんだ強情ね……いいわ、やってみなさい」

『ラジャ……!』

 

 悔しいとかどうとかはこの際無視することに決め、アスカはマリに、2号機を託すことにした。それだけ賭けてみる価値はあると判断したのだ。その意図はマリにも伝わった。赤く染まったままのエントリープラグで、マリは不敵な笑みを浮かべて舌なめずりをした。

 

「シンジ! 聞いたわね?」

『了解、作戦は正面強行でいくよ!』

 

 アスカは息を飲む。さっきのルート32で話したことだ。

 ゼルエルの堅牢なシールドを破るには、覚醒が最も確実ではあるかもしれない。だが、それによってシンジが初号機に取り込まれる可能性がある上、覚醒自体、ゲンドウの思惑に乗っかってしまうことになる。

 それを避けるために、飛んで火に入る夏の虫の如く、逆に近接戦闘で攻めるのが確実だと踏んだのだ。

 

「……本当に、それでいいのね?」

「ああ。地力のまま勝つには、近接しかない……!」

「……わかった。ゼルエルのA.T.フィールドが弱まるわずかな隙をつくしかないから! レイはヤツの攻撃を引き出してちょうだい! どう、やれる?」

『三段構えってことね……! わかったわ!』

「オーケー、真希波はA.T.フィールドの破壊を!」

『ガッテンでぃ……!』

「よし、オペレーション開始!」

 

 アスカの指令と共に、3機のエヴァが動き出す。

 レイはハンドガンを手に、再びゼルエルを引きつける。リツコが構築したN型防御システムのおかげもあってか、ゼルエルの動きははっきり見えていた。

 そしてさらに、その機能が吉となる。零号機のコックピットに警告音が響いた瞬間、まず2号機が駆け出す。

 刃腕の攻撃が零号機へと向けられたその隙に、斜め横から飛びつく。更にその背後から、シンジの初号機が残ったA.T.フィールドの膜にプログナイフを突き立てる。

 だが、ゼルエルの堅牢さは、彼らの予想を遙かに上回っていた。A.T.フィールドの連続的な発生だ。何十枚と破ってもなお、その奥から湧水の如く膜が生まれていたのだ。

 N2ミサイルでも持っていたら違ったのだろうが、初号機と2号機の2機を持ってしても、まだ破りきることができなかった。

 

「くっそ、破りきれない!!」

「碇君、逃げて!!」

 

 レイの叫びに、シンジは一旦飛び引く。刹那、ゼルエルの刃腕が直前までシンジのいた空間を切り裂いていく。

 

「2機がかりでも……?!」

『ダメだ、防御のレベルが異次元すぎる……!』

 

 経験が当てにならない。想像すら超えてくる。発令所に緊張が募る。アスカも拳をコンソールに叩きつけた。

 

「っんもう、どんだけ堅牢なのよ……っう」

「アスカ?」

 

 突然の呻き声に、加持が異変を感じた。見ると、アスカの額には脂汗が浮かんでいた。加持は咄嗟に声をかけた。

 

「おい、大丈夫か?」

「……っ、大丈夫よ。しばらく寝てたせいね……それより、あのA.T.フィールドを破る方法を……!」

 

 アスカは額の汗を右手で拭うと、目前のモニターで未だに浮遊するゼルエルの突破口を、必死に探る。

 

「どうする……。僅かでもいい、一瞬でもいい、破れる策は……」

「……なら、あれがあるじゃない」

 

 ミサトが、何かを思い立った。すぐにその内容をマコトに向かって叫んだ。

 

「日向君、戦自に繋いで! 陽電子砲の最新版を派遣してもらうように要請!」

「それならビンゴですよ、たった今向こうから来ました。陽電子ライフルの第5次試作型、ジオフロントに配備完了です!」

「……これまでの対応が吉と出たわね。あと、彼女にも、か」

 

 ミサトは不敵な笑みを浮かべた。

 ラミエル戦、サハクィエル戦で用いた陽電子砲のリニューアル版。戦自の方から協力してくれたのはできすぎている展開にすら思えた。

 しかしこの機を逃すつもりはない。生温い汗も浮かぶ緊張感に、ミサトは武者震いした。

 

「そうか、あの武器なら……」

 

 アスカもその選択肢に、希望の光を見た。

 マコトがさらに続けて報告し、ミサトはそれを受けてアスカへと伝えた。

 

「地点はK-240! 射撃システムはエヴァ用に換装済み!」

「あとは好きに使いなさい、アスカ!」

「……Danke! 聞こえたわね、シンジ!!」

『ああ! 綾波、ライフルをお願い!』

 

 射撃はレイが一番信頼できる。シンジは咄嗟にレイへと伝え、レイはすぐに走り出す。布陣は決まった。

 

「真希波! もう一度行ける!?」

『っ……なんとかね。ただ、今度こそラストっぽいよ、これ』

「そうね、1度失敗してる以上、悟られたら終わりよ。次が最後のチャンス、いいわね!」

『『了解!』』

 

 そして、ミサトもさらに叫ぶ。

 

「残りの通常兵器も全て投入させるわ! 青葉君、N2の発射オペレーションをこっちに回して!」

「了解! 全て同時発射するよう切替を要請します!」

 

 これがラスト。全てを賭ける。

 必ず成功させる。成功できる。

 その思いだけが、彼らの心にあった。

 

「大丈夫……絶対やれる……」

 

 アスカが、祈るように呟いた。

 そして、ミサトが合図を出す。

 

「行くわよ。N2、発射!!」

 

 ジオフロントに十個以上のミサイルが一斉に降り注ぐ。ゼルエルはその堅牢な体表で防ぎ、次の瞬間、地表を吹き飛ばしかねない程の爆風と閃光がジオフロントを包む。それに乗じ、シンジはハンドガンでゼルエルのコアに突っ込みながら狙い撃つ。それに気付いたゼルエルが刃腕をシンジへと向けた。

 

「レイ!!」

『……っ!』

 

 シンジはコックピットの警告音を聞き、前へと駆けながら跳び上がる。そして目と鼻の先、間一髪でゼルエルの刃腕を躱すことに成功する。そしてその奥から、蒼白い光がコアめがけて直進する。

 ゼルエルはすぐさまA.T.フィールドを張るが、最新鋭の陽電子ライフルは伊達ではない。何層にも重なった膜を、一発で貫いていく。ゼルエルは咄嗟にコアを肋骨のようなシールドで辛うじて守り通す。

 膜状のA.T.フィールドはたった1カ所の綻びから瞬間的に崩壊していく。いくら束になっているとはいえ、だ。

 

「でぇえりゃぁぁぁぁあああっっ!!!」

 

 その僅かな綻びに、マリの2号機が飛び込んだ。今度は何層にも重なり合うバリアの塊に跳ね返されることはない。

 そして、跳躍していたシンジが上からコアめがけてナイフを振り下ろす。マリに気をとられていたゼルエルは、最強の刺客の攻撃を諸に受けることとなる。

 

「捉えたぁ!!」

『よし……っ!!』

 

 2号機がシールドをこじ開け、初号機がその隙間から刃を突き立てることに成功する。

 

「ぐぅ……っ、もうちょい……!」

『全軍目標腕部に撃て! 初号機に攻撃させるなっ!!』

『戦自にも繋いで!!』

『無人攻撃機も全残機投入!』

『良いから、損害は全てこっちで持つ! 徹底的にやれ!!』

『着弾開始!』

『陽電子ライフル再充填完了します!』

 

 幾多にも飛び交う指令の中、アスカがとりわけ大きい声で叫ぶ。

 

「レイ! もう一度っ!!」

『っ……!!』

 

 トリガーが引かれた。銃口から放たれた光は、一直線にコアを突き破る。

 次の瞬間、ゼルエルは幾つもの黒い帯腕を張り伸ばした。かと思えば、最初に出現した蛹の様相を見せるかのように、もの凄い速さで身体中に腕を巻き付け始めた。

 明らかに異変が生じていた。モニターの数値にも異常が示されていた。

 

「目標のA.T.フィールド反転! 内部エネルギー、増大していきます!!」

「……自爆か!!?」

『碇君、逃げてっ!!』

 

 レイの叫びに辛うじて2号機は退避したが、シンジはトドメを刺そうとその場を動かなかったのだ。

 否、仮に逃げていたとしても、時既に遅しだ。ゼルエルはコアを中心として、すなわち初号機の四方八方を、しっかりと包み込むかのように腕を巻き付けていた。

 結果、その腕にガッチリと包囲された初号機は、巨悪なエネルギーを発するゼルエルの自爆に巻き込まれることとなった。

 

「シンジ……っ!!」

「マヤ、初号機は!?」

「爆発による衝撃波でモニターできません!」

 

 爆発の衝撃はNERVにも直撃する。かなりの揺れに、ミサトや加持も直立姿勢を保つのがやっとだった。

 その威力に、ミサトは巻き込まれた少年の安否を思案した。額を、嫌な汗が伝った。

 

「救護班の出動待機させて!」

『各モニター、回復します!』

「エヴァ各機の状況は!?」

「2号機、零号機は確認取れています! 初号機は……」

 

 ミサトとリツコが息を呑む。

 

「機体は中破、パイロットは、意識不明……。ですが、心音脈拍に異常はありません……!」

 

 その言葉に、全身の力が抜けた。一瞬は残酷な報告も予感した。それだけに、無事だということが確認されたのにはひたすら安堵だった。

 特にアスカは、心臓が止まりそうなほどまで張り詰めていた緊張が、一気に解けていくのを感じていた。

 

「……っ。……よかった……」

「初号機のプラグを射出。救護班向かわせて」

「こちらからのコントロールはできません。恐らく先ほどの爆発で関係機能が……」

「……人力でやるしかないかぁ」

『なら、私が連れて行きます』

「レイ?」

 

 レイの突然の提案に、ミサトはキョトンとした。

 

『ケージまで行きます。初号機を連れて』

「……ムリしなくて良いのよ?」

『これぐらいさせて? アスカと碇君には、助けてもらってばかりだもの……』

「……まったく」

 

 そう言い、アスカは笑った。

 

 爆発によってジオフロントは大半が焼け付いてしまった。折角加持が育てていたスイカ畑も、一から作り直さねばならないほどだ。

 とはいえ、発令所の面々も、アスカも、レイも、すっかり安心していた。笑顔が浮かんでいたほどだった。

 2号機内でも、マリが零号機が初号機の元へと歩いているのを横目に見て微笑んでいた。

 

『青春だにぇ……君には驚かされてばっかりだよ、ワンコ君……。……ん?』

 

 視界の隅で、何かが蠢く。マリはその方向にふと視線を向けた。

 次の瞬間、マリは叫んでいた。

 

『零号機っっっ!!!!!』

 

 

 

 ******

 

 

 

「っ!?」

 

 マリの、耳をつんざくような叫び声の直後、零号機が大きく揺れた。レイは一瞬、何が起こったのか分からなかった。

 

「…………っ?」

『……レイ?』

 

 息ができない。胸の中心に、違和感がある。

 次第に痛覚が襲ってくる。

 

「……ぁ、……う……っ?」

 

 零号機の中心を、漆黒の刃が貫いていた。

 発令所は騒然となった。

 

「目標は!? どうなってるのっ!?」

「パターン青、再検出……! コアは……ありません……!」

「そんなバカな……!?」

「レイ……!!」

 

 アスカも目の前で起きている事に理解ができない。

 

「零号機、侵食されていきます……!」

「マズい……! レイを脱出させて、早く!」

 

 アスカは慌ててマコトに指示を出す。しかし、無情にも状況は瞬時に彼女らを裏切っていってしまう。

 

「ダメだ、コントロールが乗っ取られてる!」

「そんな……何とかできないの!? このままじゃ……うっ……ぐ……」

「アスカ!?」

 

 ほんの数秒だった。顔を歪め、アスカがその場に倒れたのである。急な頭痛が彼女を襲っていた。左目を抑えながら、蹲ってしまった。

 加持がすぐに駆け寄り、ミサトも思わず声をかけていた。

 

「おい、アスカ!!」

「ちょっと、大丈夫!?」

「青葉、救護班呼べっ!!」

「しっかりして、アスカ!」

 

 アスカの返答はない。ただただ苦しげに、身体を震わせていた。

 何がどうなっている。一気に発令所は混乱に陥っていた。

 

「お、おい葛城……!」

「何よ! ……え?」

 

 加持がアスカの頭を支えながら、目の前の様子に言葉を失った。ミサトも加持に言われてモニターに目を向けるが、信じられない光景が広がっていた。

 ジワジワと黒く染まっていく零号機。拘束具は弾け飛び、頭部は変形してゼルエルの顔のようになってしまっていた。

 

「融合、しやがった……!?」

「識別信号は!?」

「未だ零号機です! ですが、プログラム数値が混濁化しています……!」

「通信機能もブラックアウト! 乗っ取られます!!」

「マズい……やられた!」

 

 このままではドグマまで降下されてもNERV本部は自爆しない。リリスに苦もなく辿り着いてしまう。

 しかもショックなのは、レイが取り込まれてしまったことだ。ミサトは悔しさのあまり、コンソールを思いきり叩きつけた。

 零号機の動きはゆっくりだった。やはりゼルエル自体、先ほどの自爆の影響は少なからず見られるようではあった。とはいえ、次にNERV本部へ向けられた破壊光線は、無惨にもその本部の表面を焼き尽くす。

 

「地上装甲板融解!!」

「メインシャフトが丸見えだ、どうする葛城……!?」

「っ……ここに来る。非戦闘員退避、急いで!! 加持、アスカを連れて脱出して」

「分かった……!」

 

 しかし次々と入ってくる情報に、発令所にも危険が淡々と近づいているのは明白だった。

 総員退避に拡大すべきか。そう考え始めた時、ミサトはキーボードを叩き続ける友人の姿に気づいた。

 

「リツコ、何やってんの! 奴がここに来るわよ!?」

 

 彼女は技術開発部長とはいえ、武術行使をすることはないに等しい非戦闘員だ。

 だがリツコは逃げようとしない。歯を食いしばり、考えに、考えに、考え続けていた。ミサトの声すらも、届いていないのかもしれない。

 

「……リツコ?」

(どうすればいいのよ……)

 

 リツコは初号機を、シンジを呼び起こそうと必死だった。最後の希望に縋るが如く、祈っていた。

 

(助けてよ……、シンジ君……、ユイさん……!)

 

 その時。

 ガンッ-と、背後で鈍い音がした。その音に、リツコは思わず振り返った。ミサトもつられて振り返った。

 加持が頭を抑えて顔を歪めていた。誰かに攻撃でもされたかのように、司令塔の壁に思いきり頭をぶつけたらしい。

 

 ……攻撃?

 

 違和感を覚え、視線をずらすと、加持に運ばれようとしていたはずの少女が、ゆらりと立ち上がっているのが見えた。

 

「ア、アスカ……?」

 

 突然、マヤのモニターから警告音が鳴り響く。

 しかし振り返ったのはそばにいたマヤだけだった。

 それほどまでに異様な、不気味な、力が見えた。

 

 少女は、マコトのコンソールに向かって、ゆっくりと足を進め始める。その姿から、誰も目を離せない。

 歩きながら、少女は片手を左頭部に持って行く。そして巻かれていた包帯を、スルリと解いた。

 

「パターン、青……?」

 

 マヤが、か細く呟いた。

 モニターに表示された、新たな(・・・)使徒の反応。

 場所は、第1発令所の中心にあった。

 その瞬間、彼女の左目の奥深くで、蒼い光が揺らめいた。

 

 ドンッ-!

 

「ヒッ!?」

 

 発令所に銃声が鳴り響いた。その場にいた全員が心臓を跳ねさせた。

 ゲンドウの手に握られた拳銃から、煙が上がっていた。その銃口は、彼女に向いていた。

 

「嘘、だろ……?」

 

 加持が、驚愕に顔を固めた。ゲンドウが引き金を引いたことが、一瞬信じられなかった。しかし何より、彼女に弾は当たっていなかったことに、全員が言葉を失った。ミサトもリツコも、位相変換の膜をモニターを通さずに見たのは初めてだった。

 A.T.フィールドを発生させた手を下ろすと、ゲンドウを睨み付けたまま彼女は言った。

 

「マヤ、今すぐにMAGIに接続している全記録装置のフル稼働をして」

「き、記録装置……?」

 

 急な指示に、マヤは思わず訊き返した。

 

「青葉一尉は2号機にアクセスしてプラグの強制排出を。日向一尉は発令所とケージからジオフロントまでの全隔壁の解放をお願い」

「ア、アスカちゃん?」

「一体、何を……?」

「急いで。ミサト、あとは頼む」

 

 そう言い残すと、なんとコンソールから身を乗り出し、飛び降りたのだ。

 

「ちょっ!?」

「アスカっ!!」

 

 誰もが目を疑った。次の瞬間、メインモニターが破壊され、零号機と融合したゼルエルがミサト達の眼前に出現した。

 しかしその正面から、跳び上がったアスカが思いきり拳を振るう。A.T.フィールドの塊が、その巨体にクリーンヒットし、ゼルエルは壁を突き破りながらケージの方へ飛ばされる。

 

「……! アスカの指示に従って! 射出口の固定ロックも全解除!!」

 

 ミサトが叫ぶ。

 

「ミサト、まさか!」

「アスカが向かったのはエヴァのケージ、奴をジオフロントまで押し戻すつもりよ……!」

 

 その言葉通り、少女はA.T.フィールドの塊でゼルエルを射出口へと叩きつけると、自身も壁伝いに飛び跳ね、ゼルエルの破壊光線を避けて射出の強制スイッチを蹴り入れる。

 すぐさまゼルエルと少女はリフトによって、強制的に上昇させられる。

 

「ジオフロントへ行くわよ! 作業急いで!!」

 

 ミサトは恐怖と焦燥に震える身体を必死で抑えながら叫んだ。

 

 

 

 ******

 

 

 

「ぐっ……っ!!」

 

 空中へと放り出された少女は、そのままゼルエルを地面へと叩きつける。体躯の大きさが敵の100分の1にも満たないというのに、果たしてどこからその力が来ているのか。

 少女は拳で何度もゼルエルを叩き続ける。その拳からはA.T.フィールドの壁塊が出現し、ゼルエルの中心部にクリーンヒットする。

 

「はぁっ……!! ぅうぁっ!!」

 

 小さく声を上げながら、一回一回、確実にゼルエルのコアを破ろうと試みる。

 しかしゼルエルも黙ってやられるわけはなかった。すぐさま手を黒く染め上げると、その腕を少女に向かって突き出す。

 少女は咄嗟に腕をクロスさせA.T.フィールドを張る。間一髪でゼルエルの刃は少女には届かずに済んだが、A.T.フィールドごと吹き飛ばされ、少女はジオフロントの地面へと叩きつけられる。

 

「っが……ぁ!!」

 

 少女は敵を睨み付ける。ゼルエルがゆらりと立ち上がり、少女を眼下に捉えた。

 ゼルエルの目の奥に光が輝き始める。少女は息を呑む。

 

 やられる-アスカは目を瞑った。

 

 だが、そうはならなかった。

 ゼルエルと少女の間に、紫鬼がいた。

 

「碇……シンジ……」

 

 少女は目を見張った。

 初号機が、仁王立ちになりゼルエルの光線をフィールド一つで防いでいたのだ。

 ゼルエルは刃腕を初号機の張るフィールドへと伸ばし、至近距離からもう一度光線を浴びせようとする。しかし、その光は初号機には届かない。

 次第に、初号機の緑色が、赤く輝き始める。

 ジオフロントへと駆け出してきたミサト達も、初号機の異常な力に、言葉を失いかけていた。

 

「初号機に、一体何が……?」

「分からない……。だけど……」

 

 リツコは何か嫌な予感がして、マヤに訊ねた。

 

「マヤ、プラグ深度は……?」

「170、いえ、180をオーバーします……これ以上は……!」

 

 マヤは悲痛な声を上げた。後に続く言葉は、聞かなくてもリツコには分かる。

 ヒトに戻れなくなる、と。

 だが、リツコには止めることができなかった。

 

『……聞いてるか、バルディエル』

 

 初号機から、怒りに震えた声が発せられた。

 

『俺は、お前らが憎いよ』

 

 ゼルエルの光線に、一切動じていないその姿は、少女の、バルディエルの目に痛いほど焼き付いていた。

 

『俺から何度も大事なものを奪って、傷つけて、殺して』

 

『憎くて憎くてたまらない。きっと分かんないんだろ、この感情は』

 

『でも、もう誰も、何も奪わせない。アスカは……綾波は……』

 

 シンジの眼は、紅く光っていた。

 

『絶対に返してもらうからなっ!!!』

 

 初号機の目から放たれたエネルギーの光が、ゼルエルを切り裂く。

 その破壊力たるや、凄まじかった。

 いつの間にか、初号機の頭上には天使のような光の輪が出現していた。

 

「……他者の存在があってこそ、自分を自分、たらしめる、と?」

 

 初号機の力を一番至近距離で見ていた少女は、陰でも陽でもない零の表情で、シンジの言葉の真意を探った。

 そして同時に、何かが、空の隅で光ったのを見た。

 

「それなら、私にちゃんと、教えてみなさいよ」

 

 少女は静かにそう叫ぶと、落ちてくる一筋の光に手をかざした。瞬間、2号機が跳び上がる。そしてそのまま初号機の真上で、落ちてくる一筋の光と衝突した。

 2号機はそのまま力を使い果たしたのか、地面に派手に転がり落ちる。その側に、1本の槍が刺さる。

 

「一体何が……!?」

 

 ミサトは目の前の状況が理解できない。ミサトだけではない、その場にいた誰もが、そう思ったであろう。

 

(おやおや、君は僕に刃向かうつもりかい?)

 

 少女の脳内に、どこからともなく声が響く。

 

(それにキミの願いは、こんなことではないだろう? 君に、干渉する意味などないはずだ)

 

 その言葉に応えるように、少女は黙ったまま、空上を睨み付ける。

 

(それはこっちの台詞よ。世界がどうなろうと、それは彼が選ぶ道。守ることがどんなことか、私は知らなければならない。邪魔なんてさせないわ)

 

 既に射出されていたプラグから出てきたマリは、倒れている2号機を見て呆れるように笑う。

 

「……なるほどね、既にシン生の啓示を受けてた、と。これじゃ、説明できることが少なすぎるよなぁ」

 

 マリが更に横を向くと、初号機が倒れたゼルエルのコアに向かって手を拡げていた。

 強烈な力によって侵入を拒むコアに向かって、シンジは叫んだ。

 

「綾波、どこだっ!!」

 

 その言葉に、ゼルエルの中で何かが揺れた。

 

 

 

 ******

 

 

 

 レイは、ゼルエルのコアの中で身体を必死に動かそうともがいていた。侵食され、コアの奥深くに閉じ込められ、それでも抗おうとしていた。だが無情にも、ゼルエルはレイを解放しようとはしなかった。

 

(……なぜ、あなたたちは)

 

 -こんなことをするのか、って?

 

 目の前の自分を-自分の姿を模したゼルエルを睨み付けるレイに、ゼルエルは不気味ともいえる薄ら笑いを浮かべる。

 

 -あなたたちがいけないのよ。わたしたちは、ただ生きたいだけなのに。なのにあなたたちは、よってたかってわたしたちをせめる。

 

(だからって……)

 

 -あなただって。ホントウはいてはいけないヒトのくせに。

 

(……っ!!)

 

 -ヒトのエゴによってつくられたニセモノのくせに。

 

(違う! 碇君は……アスカは私を認めてくれた……! 私は私しかいない……そう言ってくれた。だからこれ以上、あなたの好きにはさせない……!)

 

 -そう? でももうオシマイよ。あなたはもう、ここでしか生きられない。

 

 ゼルエルは勝ち誇ったように微笑む。だが、それでもレイは諦めることはしなかった。

 

(……あなたには分からない)

 

 -?

 

(碇君が、どんな思いであなたたちと戦ってきたのか。アスカが、どんな思いで私たちを守り続けてきたのか。きっとあなたには分からない)

 

 シンジの日記に書かれていた言葉の数々を、レイは思い出す。過去から遡り、未来を、幸せを掴むために、駆け抜けてきたシンジとアスカ。その根底にあった、覚悟と決意。

 

『世界のために、アスカのために、僕は何ができる?』

 

 日記の最後に書かれていた、シンジの、自身への問いかけ。葛藤と後悔と、そして罪にすらまみれても。絶対に大切な人を守りたい。アスカを助け出した時に涙を流した、そんなシンジが、レイには気高く、美しく見えていた。

 手にしていたS-DATを、感覚のない手でしっかりと握る。誰にも、その信念を曲げさせないと言わんばかりに。

 

(何があっても、大切なものを守る。それが私たちの、生き方なの)

 

 その時、コアが大きく揺れた。

 

 

 

 初号機は使徒のコアに手をかざしたまま空へ浮かんでいく。頭上にあった光の輪は、赤いブラックホールのように変化し、徐々に大きくなり始めた。

 

「そんな……形状制御のリミッターが消えています!解析不能!」

 

 マヤはモニターを見て驚きの声を上げる。

 

「センパイ、これって……!」

「ええ。人の域に留めておいたエヴァが本来の姿を取り戻していってる。人のかけた呪縛を解いて、人を超えた神に近い存在へと変わっていく」

 

 リツコは目の前で起きている現象を、自分の持てる語彙を全て使って語り始めた。

 

「天と地と万物を紡ぎ、相補性の巨大なうねりの中で、自らをエネルギーの凝縮体に変身させているんだわ。純粋に人の願いを、彼らの願いを叶える、ただそれだけのためにね……」

 

 ミサトは初号機が今まさに起こしていることを見て言葉を失っていた。

 

「綾波っ!!」

 

 シンジは光のエネルギーに包まれながら、全力で使徒のコアに手を伸ばして行く。初号機は両手をかざして全エネルギーをコアに集中させる。すると、遂にコアの表面が解放され、深部への道が開かれる。シンジは操縦席を飛び出してエントリープラグの深部へと這って行く。

 

「うぅ……くっ……くっ……」

 

 意識の向こう側にレイの姿が見える。

 

「綾波っ!!」

 

 シンジはレイのいる元へ必死に潜っていこうとする。少しずつ、少しずつ這うようにして深い場所まで下りて行く。レイを包む闇の海に手を差し込んで、必死に名前を叫ぶ。

 

「綾波っ! 手をっ!!」

 

 シンジは闇の世界に踏み込んでいく、腕を伸ばし、顔を入れ、レイのいる場所へ少しでも近づくために。シンジの意識はそこで焼かれるような痛みに晒される。それでもシンジは手を伸ばし、レイに向かって声を上げる。

 

「碇君……!」

「来いっ!!」

 

 シンジの願いの強さか。レイの身体がゼルエルの呪縛から解放される。すぐにレイは歯を食いしばって、シンジへと手を伸ばす。

 

 -なぜ……?

 

 ゼルエルの疑問の声が、レイに問いかける。

 

 -なぜ、そこまでのことができるの?

 

 純粋な疑問だった。

 綾波レイは、その疑問に、自信を持って答えた。

 

「碇君は……アスカは……」

 

 今までの、3人の記憶を辿る。そして、

 その幸せの記憶に、笑った。

 

 

 

「私の一番大切な、友だちだから……!」

 

 

 

 レイはシンジの手につかまる。シンジはレイの手を掴むと、全身全霊を込めて闇から引き上げる。

 同時に、初号機が使徒のコアから手を引き抜く。使徒のコアは分解し、一つの形に収束する。コアの結晶はレイの姿に変わり、初号機と共に天空へと上って行く。

 

「始まるのか……」

 

 加持がミサトの隣で小さく呟いた。ミサトはペンダントを握り締めながら、震える声で言った。

 

「これが、答えなの……?」

 

 世界の終わり。セカンドインパクトの続き、サードインパクトの始動。

 ミサトには分からなかった。シンジが、初号機が、何故こんなことをしているのか。

 返答をしたのはリツコだった。

 

「……これで終わるはずない」

 

 祈るように、リツコは目を瞑った。

 

「あの子たちの願いは、世界すら変える。でも、守ろうとする、誰よりも強い心がある。私は、そう信じてる……」

 

 かつて使徒のコアだったレイの姿をしたものが、初号機に取り込まれて行く。初号機の上空に渦巻く赤いブラックホールの拡大は勢いを増して、全ての物を飲み込んでいく。初号機は赤い光に包まれて宙に浮かんでいた。

 

 その様子を、金髪の少女はじっと見守っていた。

 

「……この世界では、『覚醒』はあなたたちの知っている以上のことが起きるのよ。それでもまだ、この選択が正しいって言える?」

 

 少女はどこかへと言葉を投げかけた。

 そして数秒後、再び目を開いた。

 

「……そう。それなら、取るべき選択は一つね」

 

 少女は再び手をかざした。

 

「2号機、最後の仕事よ。もう少しだけ、耐えてちょうだい」

 

 2号機の目が光る。もうほぼ動かない身体を必死に動かし、そばに刺さっていた槍を抜き、最後の力を振り絞って空中に投げた。

 

 そしてその槍は、光の翼を広げる紫鬼を、貫いた。

 

 

 

「……イレギュラーがもたらすシナリオの変化、か。君とは相容れることはなさそうだね、惣流さん」

 

 赤いブラックホールが消え、満月の輝く夜空が戻った第3新東京の上空から、紺色のエヴァがゆっくり降下していく。

 

「碇シンジ君を幸せにするのは、この僕だ」

 

 渚カヲルの顔からは、いつもの笑みが消えていた。

 

 

 

 

 




☆あとがき

ここからは本格的に読者を選ぶような展開になるなと、書き終わって100%確信した作者:ジェニシア珀里です。
まず、ここまで応援してくださった皆様、大変ありがとうございました。皆様の応援があったからこそ、ここまで書いてくることができました。

いやはや、何といいますか。遂に辿り着いてしまったなという感じです。今作で書くべき、書かなければならないなと思っていた近作5話にわたる3号機編とゼルエル編。これを書き切った今、安堵感に満たされています。

とはいえ、原典の新劇ヱヴァ同様、謎を残したままにした第二部。
今回でDep-2.0:破章も終幕とし、次回から遂に、Dep-3.0:Q章へと突入していきます。
破章までは全てのエヴァファンと共有したい思いで書きましたが、Q章からは容赦しません。(原典の新劇並には。)
私の趣味、嗜好をこれでもかと言うほど詰め込んでいこうと思います。それが先に書いた、「本格的に読者を選ぶような展開になる」という言葉です。
(※LASRを根幹にするのとハッピーエンドを目標にするのは変わりませんのでご安心を)

それでも読んで頂けるならば、投稿者としては嬉しい限りですので、今後ともなにとぞよろしくお願いいたします。

感想、ぜひぜひお待ちしています。励みになります。笑
それからエヴァファンの皆様、本日から始まる旧作上映と来年1月のシンエヴァに向けて、よければTwitterで繋がりましょう♪
それと、C99に向け、ジェニシアの中の人は少々忙しくなるので、次章の投稿は遅くなるかもです。(元から遅いっつーのw) ご了承ください。
ではでは、また次回♪

《Twitter》
ジェニシア珀里:@LASR_eva2020SC





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Eternal Victoried Angel
next Dep-3.0 beginning.
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