E.V.A.~Eternal Victoried Angel~   作:ジェニシア珀里

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☆はじめに

当話より、現在劇場公開中の『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』に言及した描写を多数取り込んでおります。
また、決まっていなかった今後の展開をREBUILDした結果、確実に『シン・』のネタバレになっている部分もございます。
そのため、まだ『シン・』をご覧になっていない方、まずは劇場に行って鑑賞されることをお奨めします。
庵野監督の最後の『エヴァ』、その世界のリスペクトを根幹に描く私の『エヴァ』、そして皆さんのエヴァが、美しく繋がって欲しいと、願うものです。
では、お待たせしました。第弐拾壱話、どうぞ。

2021.03.14 Jenissia HAKURI





第弐拾壱話 生殺与奪

 

 空を航行する艦船にしては、振動がほとんどなかった。

 それどころか、あれだけ激しい戦闘をしたうえ、艦が体勢を垂直になるまで回したというのに、シンジは一切転ぶことが無かった。

 つまり、だ。

 この戦闘艦は重力制御が完全になされているのだ。

 シンジのこめかみを、嫌な汗が伝っていく。

 そんな技術、この間まであっただろうか?

 

「ええ、大丈夫よ艦長。ご配慮、感謝してる」

 

 目の前では白衣の女性が、無線電話で誰かと話している。艦長と言うからおそらくミサトだろう。

 それにしても、やっぱり、どこかで聞いたことがあるような声の気がする。

 電話を終えた彼女に、シンジはおそるおそる尋ねた。

 

「あの……1つ訊いて良いですか?」

「……何かしら?」

「あなたは……誰ですか?」

 

 白衣の女性は答えない。その代わりに、ベレー帽の少女に目で合図した。

 

「ごめんなさい、先生はいつも自己紹介をしたがらないんです。なので、ここでも知ってるのは私と艦長たちくらいで……普段はみんな「先生」って呼んでます」

「……そうですか。なら、あなたは?」

「えっと……」

 

 少女は、白衣の女性の様子を窺った。

 

「いいんじゃない? いずれ言うことになるでしょ?」

「そ、そうですね!」

 

「改めまして、お久しぶりです。シンジお兄ちゃんの管理担当医官、鈴原サクラです」

 

 名前を聞いて、シンジは血の気が引いた。

 

「……まさか……本当、に?」

「はい、14年ぶりですね!」

「……うっそでしょ?」

 

 

 

【第弐拾壱話 生殺与奪】

【Episode:21 Deity Slayers】

 

 

 

「よぅ、お疲れ」

 

 青葉シゲルは廊下の奥からやってきた同期に声をかけた。声をかけられた女性は、その姿に少しだけ驚いた。

 

「シゲル! オペレーションはいいの?」

「あぁ、今は多摩にやってもらってる。束の間の休憩だ」

 

 その言葉に、彼女・伊吹マヤは少しだけ微笑んだ。

 

「そう、お疲れ。そういえば彼、目覚めたんだって?」

「ああ、例の。さっきまで中央司令室(センターブロック)で戦況を見てた」

「何か言ってた?」

「いいや。葛城艦長に何か手伝えないかって訊いてたけど、今の状況も、自分の立場も把握しきれてなさそうだったしな」

 

 マヤは眉をひそめた。

 

「……無理もないか」

「まあな……。でもこれは、俺たちがどうこうできる問題じゃない」

「分かってるわよ」

 

 マヤは即座に言い放った。言われなくても、と伝えたいのがシゲルにも痛いほど伝わってきた。

 

「分かってる……WILLEの整備局長としてはね」

 

 マヤはそう言い残すと、シゲルに手を振りながら去って行った。

 シゲルはふと、まだNERVで働いていた時代を思い返していた。あの頃の伊吹マヤは、よく笑っていたなと思う。

 というか、純粋だったのだ。戦闘の様子を見て涙を流したり、予想外の事態に恐怖を抱き震えることもあった。情報処理に長けた頭脳でそれをカバーしていた姿は、それはそれで立派だったけれど。

 彼女の笑顔をほとんど見なくなったのは、あの一件があってからだ。あの事件は、自分を含め、WILLE結成時の主要メンバーに少なからず影を落としているのだ。

 シゲルは小さく呟いた。

 

「……正念場だな」

 

 

 

 ******

 

 

 

 シンジはその後、一応指示に従って隔離室へと連れて行かれた。壁と鉄格子に囲まれたその場所は、まるで警察署の留置場のようだった。

 後でミサトさん達から説明があるってことを聞いたはいいものの、もう何を聞いても混乱する未来しか見えない。なんたって「14年」だ。

 

「……本当にどういうことだよ? 初号機の中で14年も?」

 

 何故そんなに時間がかかってしまったのだろうか。

 いや、サルベージを慎重に行おうとしたのならこの点は分かる。

 だが、問題は使徒だ。シナリオ通りならすでにサードインパクトが起こったとしても13年経っているはずなのだ。それこそ、ゼルエルは倒したのだから次はアラエルのはず。もっとも、使徒が定期的に襲来してくるという法則もないのだけど。

 しかしシンジが先ほどの戦闘で目にしたのは、前史で目にしたどの使徒とも似つかない、明らかに人工の戦闘兵器だった。円盤状の、位相空間に潜んでいると視認もできなかった敵。しかし倒された瞬間は、まるで使徒のように形象崩壊した。

 一体何が、この世界に起こっているのだろう。シンジは考えることをやめなかった。いや、やめられなかった。

 

 

 

 コンコンと、格子を叩く音がした。シンジが振り向くと、そこには目深くキャップを被ったアスカが立っていた。

 

「ア、アスカ!?」

「相変わらず腑抜けた面してるわね、まったく」

 

 彼女は、呆れるように笑っていた。左目に眼帯を付けていたが、その声はやはり紛れもなく、彼女そのものだった。

 だがシンジはすぐに、あることに気づいた。彼女の声が、僅かながら震えていることに。

 

「アスカ……」

「っ……やっぱりダメね、抑えきれない」

 

 シンジの心配そうな顔が、自身の心を読まれたことを、明確に表していた。そのことにアスカも瞬時に気づいて、感情を隠すことが無意味なのだと悟る。

 アスカは格子の隙間に空いた部分からトレーをシンジの方に差し出す。そしてすぐに背を向けて、格子に寄りかかった。

 

「食事。味の保証は無いけどね」

「……ありがとう」

 

 シンジはトレーを受け取った。

 

「……ねぇアスカ。その……眼帯は」

「……残ってんのよ」

「っ……」

 

 言わずとも分かる。まだ、彼女の中で息づいているのだ。

 

「皮肉よね。敵だったはずのヤツに、生かされたってのは」

「やっぱり、あの時に……」

「アンタには、関係ない」

 

 アスカは一言言い放つ。だけどゆっくり、付け加えた。

 

「アタシが無茶をした。身体が心に追いつかなかった、……それだけの話よ。ほら、食べて」

「……うん」

 

 中身を空けて、シンジは息を呑む。ペースト状になっているおかずに、パックに入れられた飲み物。辛うじて主食が食パンであったが、シンジにとってはお世辞にも食事とは言い難いものだった。

 14年の空白期間には、こんなことにまで激変の手が伸びていたのか。シンジは再びショックを受けた。

 しかし予想に反し、味は悪くないと思った。

 

「そう?」

「うん。苦労して作ったのが、なんかわかる」

 

 料理を得意としていたシンジだからこそか。何が起こってこうなったかは分からないが、この食事を作り上げるまでに相当な苦労があったのだと、味で分かったのだ。

 ペーストを食パンにのせ、半分に折って頬張る。即席サンドイッチという感じで、割と美味。

 

「……ちょっと安心したわ」

「……?」

「この状況に、混乱して塞ぎ込んでんじゃないかって、少し心配してたのよ。アンタいつも、何でも一人で抱え込むから」

 

 アスカの声は、安堵に満ち、穏やかだった。

 

「……理解はできてない」

 

 シンジは、格子に寄り掛かるアスカの背中をじっと見据えて、真剣に言う。

 

「14年も経ってるって、何がどうなってるのか、正直訳が分からない。しかも、ここに僕の居場所は無いみたいだしね」

 

 シンジは即席のサンドイッチをもう一口かじる。

 発令所のような場所で、見知らぬ人々から向けられた明らかな憎悪。隠そうともしない敵意。北上と呼ばれた桃色髪の女性からは、舌打ちまでされた。終いには、ミサトから「何もしないで」と突き放される始末だった。どれほど過酷な状況を打破してきたシンジですらも、ショックを受けた。

 

「でも、それは多分、僕のせいなんだと思う。14年も眠りながら、知らないところで何かしてたんだ」

 

 かつて、前史でのサードインパクトの元凶となった、シンジと初号機。その経験をしているからこそ、シンジは自分が何かしらのトリガーとなった可能性を、否定することはしなかった。

 

「僕はもう逃げたくない、自分の運命から。君と生きる世界を、この手に掴むためなら」

 

 アスカは振り返らなかった。

 

「……本当にごめん。14年も……」

 

 シンジは口を真一文字に結ぶ。

 時間の流れとは、恐ろしいのだ。容易く変わってしまうヒトの感情が、14年の時の流れに晒されたらどうなるのか。

 どれだけ寂しい思いをさせたのか、シンジには想像すらできなかった。ただ、謝ることしかできなかった。

 しかし、アスカは笑っていた。

 

「お互い様よ。どうせアタシも、バルディエルのせいでほとんど寝てたようなもんだし。いろいろはあったけど、実はアタシも実質目覚めたばっかなのよ」

「……そうなの?」

 

 アスカは帽子を更に目深に被った。シンジはまだ申し訳なさが残っていたが、しかし眼帯をコンコンと叩くアスカの笑みを見て、少しだけ安堵した。

 

 

 

 扉の前で、サクラは平常心を保つように深呼吸しながら、周囲の様子を窺っていた。

「……世界って、残酷や」

 思わず言葉が溢れた。自分の無力さのせいで、このあまりにも息苦しい状況を打破できないことに心が痛くなる。

 サクラ自身も理解していた。今の彼には、その存在を純粋に受け入れてくれる人など、ごく少数であるということを。WILLEの総職員は延べ3万人。その中で、彼の味方となれるのは、たったの十数人。

 不意に、無線が鳴った。

 

「はい、鈴原です」

『私です』

「ふ、副長……!」

『彼の様子は?』

「……問題ありません。ニアサーから14年経過していることは、理解した模様です。現在、昼食を取らせています」

『アスカの所在は?』

「っ…………」

 

 核心を突く質問に、身体が強張る。

 

『……くれぐれも、周囲には気をつけるように』

「……了解です」

 

 無線を切られ、サクラは手にしたファイルを握る手に力を込める。

 少しの油断も、許されはしない。

 ニアサードインパクトを引き金に、人類は絶滅に危機にさらされた。その元凶となってしまった彼に向けられる視線に、温かさなどないのだ。

 彼のせいで、どれだけの人が犠牲になったのか。それを考えるだけで、掌に血がにじむ。

 

『どうするべきなんやろ……』

 

 ほかならぬ自分でさえ、許せないというのに。

 

 

 

 

 

「ニア……サードインパクト」

 

 シンジは聞いたことのない、新たな言葉に生唾を飲んだ。

 

「そう。ゼルエルを倒したときにガフの扉が開いて、第3新東京は一気に吸い込まれ始めた。扉を開いたのは、覚醒した初号機よ」

「……なんてこった」

「今地球上は、人間の住める環境にはない。その後に起こったサードインパクトで、海だけじゃなく、大地までコア化されちゃったからね」

「コア化……」

「話すと本当に長くなる。でもこれだけは言っておく。この世界は前史とは根本から違ってた。そんな中で今回もアンタは、初号機は、最初から完全に利用されたのよ」

「……父さんか」

「ビンゴ。……何とか説得したかったわよ。私だけじゃない。ミサトやリツコも、マヤたちも否定した。けど聞き入れてくれる人なんて、いなかった……」

 

 シンジは首を振る。

 

「信じてくれてただけでも嬉しいよ。孤独より、よっぽどマシさ」

 

 その言葉に、アスカは笑う。

 

「でも気をつけて。今この艦にも、アンタの味方は数えるくらいしかいない。全員から疎まれてる演技をしてほしい」

 

 シンジは、それで全てを察する。

 

「やっぱり、まだ終わってないんだね、父さんとの戦いは」

「ええ。サードインパクトが起こっても、まだ人類補完計画はどういう訳か続いてる。私たちも、もうNERVじゃない。ここはWILLE。NERVとSEELE、そしてヤツらのエヴァを壊滅すべく結成された組織。次なるインパクト、フォースを阻止するためにね」

「……さっき襲ってきたのも、まさかエヴァなのか?」

「ええ。エヴァ・Mark.04。アメリカで消えた4号機あったでしょ? あれの実験データから組み込まれた、文字通り『兵器』として使われてるエヴァのニュータイプ」

「……パイロットは?」

「ダミープラグよ。碇ゲンドウ、残ったデータから全て作り直したのよ」

「そんな……」

 

 シンジは歯噛みした。リツコと共に破壊したはずの、彼女のダミー。自身の父は、一度破壊されてもなお、諦めていないのだ。何より、あれから14年も経っているのに人類補完計画を続行しているのが、確たる証拠だ。恐るべし執念に、シンジは震えた。

 それと同時に、シンジはあることを思い出す。

 

「ダミー……。ねぇアスカ、綾波は……?」

 

 ゼルエルから助け出し、初号機に護り込んだ少女。しかし、シンジが目覚めてから数時間、彼女の存在は、目にはおろか、聞いてすらいなかった。

 アスカの顔色が変わる。シンジも、1つ、覚悟する。

 

「……わからない」

「……え?」

「プラグ内に確認できたのはアンタだけだったの。それとなぜか、このラジカセが復元されてただけだった」

 

 そう言うと、アスカはポケットからS-DATを取り出す。

 

「……嘘だろ? サルベージは……」

「……できなかった。私はまだ、多分初号機の中に眠ってるって信じてるけどね」

「……どういうこと?」

「驚かないでよ。シンジの、初号機とのシンクロ率。0%って出たらしいから」

「ぜ……ろ?」

 

 そうか、そういうことか。シンジはここに来てようやく納得した。

 

「それと……これ」

 

 アスカは同時に、輪のような何かを取り出す。

 

「……それは?」

「エヴァが覚醒した時に、命を賭してインパクトを止めるための枷。《DSSチョーカー》」

「……まさか」

「ええ。アタシもつけてる。エヴァパイロット、信用無いのよ」

 

 シンジは渡された首輪を見つめ、唇を震わせた。

 

「アンタはもうエヴァには乗らなくていいし、それを渡す必要もないと思ってる。でも、アタシの知ってる碇シンジは、きっとまたどっかで乗る気がするの」

 

 アスカは続けた。

 

「世界が滅ぶことをアタシは良しとしないのは、シンジもわかってくれるでしょ? けどアタシはアンタに命をかけることはしたくない。だから、エヴァに乗るかどうかは、シンジが決めてほしい」

「そんなこと言ったって、アスカもつけてるんなら……」

「だから、死ぬときは、アタシも一緒よ」

 

 アスカは苦しそうに笑った。

 

「ごめん、もう行かなきゃ。サクラに見張ってもらってるんだけど、いつまでもここにいると怪しまれるの。ミサトに無理言って、内密で来てるもんだから」

 

 アスカは諭すように、少しだけ淋しい表情を浮かべながらシンジに語りかける。

 

「暫くはここにいてもらうことになる。でもいつかきっと、助けてあげるから」

 

 シンジから食べ終わった食事トレーを受け取ると、アスカはそのまま立ち去ろうとする。シンジは思わず呼び止めた。

 

「アスカ」

 

 アスカは立ち止まる。振り向くことはしない。

 

「……死ぬときのことなんか、僕は考えないよ」

「……」

「帰ろう。いつか二人で、絶対に」

「……そうね。……ありがとう」

 

 

 

 

 

「DSSチョーカー、つけなくていいの?」

 

 白衣の女性が、柔らかな表情で訊いた。彼女にとって、安心できる場所というのは、自分の部屋とこの艦長室だけなのだ。先ほどまでシンジに見せていた鋭い眼光は、今はその影を潜めている。

 

「問題ないわ。アスカが直接持って行った。彼女がつけていると知れば、シンジ君は必然的につけるわよ。最低限のことも伝えるように言ってあるわ」

「……聞き方が悪かった。つけたくないんですよね、本当は」

「……」

「罪と罰の証。贖罪のためとはいえ、彼にまだ世界を背負わせる、それがどんなにミサトさんにとって重荷になってるか」

「けれど、この結果を招いたのは、間違いなく私たちにもある。最後まで背負っていくのが、償いであり、果たさなければならない責任なのよ」

 

 リツコがミサトの代わりに答えた。その覚悟と罪悪感に満ちた顔に、白衣の女性は参ったなと言わんばかりに、自身の赤みがかった茶髪の端を摘まんで擦り合わせた。

 

「……そうですね。これしか私たちに、できることはない、か。こうしてWILLEに残り、戦い続けるのは」

「あなたまで背負う必要なんてないのよ。例え、過去に何かあるのだとしても」

「……いえ、良いんです。私も、彼に救われた。なら、その命を私は、彼のために使いたい。我が儘なのは分かってます。けれど、これが私自身のケジメだから」

 

 このナルシストっ気のある少女が彼とどのような繋がりを持つのか、ミサトは知らない。ただ、ミサトはサングラス越しに、彼女の決意の目を見て思った。彼女もまた、シンジやアスカの想いを、繋げたいと思っているのだ。

 

「例え彼らの中に、私の存在がなかったとしてもね」

 

 彼女から発せられた、寂寥を僅かに含んだ言い方に、ミサトは思わず目を細める。

 そう、この世界の形は歪みまくっている。誰もが本来あるべき場所を見失い、彷徨っている。

 それでも自分たちは、今でもしぶとく、頑固に、居場所を探しながら生きているのだ。

 彼女も、リツコも、自分も、敵である碇ゲンドウも。

 そして多分、彼らでさえも。

 

「っ、なに!?」

 

 その時、艦船が揺れた。白衣の女性は急なことに目を見開いた。一方のミサトは慌てることはせず、すぐに受話器をひったくった。

 

「私です」

『目標後甲板です! いきなり取りつかれました』

「……本命のお出ましか」

 

 

 

 ******

 

 

 

 アスカは上着のジャージと帽子を即座に脱ぎ捨てると、無線を片手に全力で走り始めた。

 なんだってまたこんな状況下で。敵にタイミングの文句を言ったところでどうしようもなく無意味のは重々承知だが、いくら何でも急すぎる。

 

『総員、第一種戦闘配置! 繰り返す、第一種戦闘配置! 初号機保護を最優先!!』

 

 アスカはすぐさま無線のスイッチを入れ、待機しているはずの8号機のプラグに呼びかける。

 

「マリ!! 準備できてるわよね!!」

『もちのろーん♪ いつでも行けるよ、姫~。それよりワンコくんの様子どうだった? おとなしくお座りしてた~?』

「その話はあと! はやく出撃しなさい!!」

『おぉう怖い♪ 教えてくれてもいいのに~。聞いてた通り、惣流は独占欲が強いのかにゃ?』

「うっさい黙ってろぉっ!!」

 

 スピーカーから響き渡る怒号に驚くことも無く、マリはニャハハハッと楽しそうに笑った。記憶の共有が為されていると、より揶揄い甲斐があるというものだ。

 

「しっかし……」

 

 アスカからの無線が途切れた直後、マリは途端に笑みを消し、プラグ側面に映し出されたモニターを怪訝な表情で見つめた。

 

「エヴァがこのタイミングで襲来するなんてね。しかもたったの1機……。いくらかつての零号機に擬態させているとはいえ、ちょっと早計過ぎない……?」

 

 モニターに映されたエヴァの姿を見ながら、マリは違和感を感じていた。

 

『8号機起動シークエンス正常! 63秒後に出れます!!』

 

 

 

 シンジは掌にのせられたDSSチョーカーを眺めながら、アスカのさっきの言葉をかみしめていた。

 

「……」

 

 死ぬときは一緒。彼女はそう言った。

 あの寂しそうな、悔しそうな表情に、どれだけの思いが込められていたのか。

 バルディエルによって生かされた。エヴァの呪縛にとらわれて、14年間ずっと同じ姿のまま、生き続けて。

 

「それでもまだ、信じてくれるっていうのか、君は……」

 

 今の自分には、できることなどない。だが、どうにかして、信じてくれた彼女の支えになりたい。

 そのために、自分は何をするべきだ?

 

「……?」

 

 急に、夕陽の香りがした。

 どういうわけか、顔を上げる前に、その気配が、予想と正しいものだと知った。

 

「そうか……」

 

 チョーカーの電子音が、シンジの脳髄に響き渡った。

 

「エヴァに乗らなければならない……こういうことなのか」

 

 シンジは手にしていたDSSチョーカーを、迷うことなく首に巻き付けた。

 

 

 

「……!」

 

 アスカは走っていた足を思わず止めて振り返った。

 

「まさか……!?」

 

 今の気配、間違いない。

 重大な間違いを犯していることに、アスカは気づいた。

 無線のスイッチを切り替え、叫んだ。

 

「サクラ!!」

 

 しかし、3秒待っても返答はなかった。

 

「……やられた!!! ミサト! マリ!!」

 

 無線をさらに切り替える。

 

『奴らの狙いは初号機じゃない!』

 

 無線機から響くアスカの声に、ミサトは目を見開いた。

 そして瞬時にその意味を理解し、動揺を表情にあらわした。

 スピーカーからはマリの驚いたような声が響いてくる。

 

『まさか……ワンコ君の方か……!?』

「ミサト!」

 

 別のモニターを見ていたリツコが声を荒げた。

 

「後甲板に人影を2つ確認したわ。このフォルム、彼よ!」

「第7独房の扉も破られてる! 間違いない、本命はシンジ君だ……!」

 

 側自分のタブレットを操作していた白衣の彼女も状況を見て確信した。

 

「全艦砲撃体勢! 目標を逃がすな!!」

 

 ミサトは電話に向かって全力で叫んだ。

 

 

 

「サクラ!?」

 

 独房へと駆け戻ったアスカは、扉の前で倒れているサクラを見つけた。

 

「しっかりしろ! サクラ!!」

 

 咄嗟に手首を握る。脈はある。呼吸も問題なかった。ただ、異常な匂いが辺りに漂っていて、記憶の奥にチラつくものと同じ弾丸の薬莢が、あたりに散らばっていた。物理的攻撃のための弾ではなかった。

 間違いない、これは強制昏倒散剤弾だ。

 

「ったく、まどろっこしい方法取りやがってぇ……!」

 

 強奪ならばそのまま殴り込んでくればいいものを。側にあった梯子を駆け上がり、アスカはヴンダーの上甲板へと乗り出した。

 既に8号機によって頭部を破壊されたエヴァは、その状態でも倒れることはなく、マントのようになびかせていた白い布をブースターへと変形させていた。

 

「……っ!!」

 

 アスカのこめかみに青筋が立った。エヴァの手に覆われたその隙間から、気絶しているシンジと、もう一人の影をアスカは見た。

 ここまでのまどろっこしいやり方は、WILLEに対する挑発でも、初号機強奪に見せかけたカモフラージュのための作戦でも無い。

 自身に対しての宣戦布告だったのだ。

 

(言っただろう、シンジ君は僕が幸せにすると)

 

 ブースターから炎が吹き出し、エヴァはヴンダーから爆速で離脱し始めた。マリの乗った8号機が「挨拶くらいしてけコラァァ!!!」と叫ぶが、被弾を物ともせず、あっという間に遠ざかっていく。

 その刹那、少年は、影に隠れながら薄気味悪い笑みをアスカに向けていた。

 アスカは、その笑顔を睨み付け、拳を握り締めた。

 

「くっ……タブリス……!!」

 

 

 

 

 

 まんまとしてやられた。最初から碇ゲンドウは、シンジを利用するつもりでいた。まだトリガーとしての利用価値があるのだということだ。

 しかし。

 

「DSSチョーカーの作動が90秒前に開始している。シンジ君、自ら業を背負うつもりで付けたのね……」

 

 モニターに映された表示を見て、リツコは目を細めた。

 

「……追撃不要。各位、損傷個所の応急処置と艤装作業を再開」

 

 ミサトは努めて冷静に、電話口へと告げた。

 

 

 

 

 

「ごめん。向こうは、アンタに任せる……」

 

 遠ざかるエヴァの光を睨み付けるアスカの眼帯には、蒼い光が灯っていた。

 必ず、救い出すから。

 

「負けんじゃないわよ、バカシンジ」

 

 

 

 

 




☆あとがき

(棒読み→)ほんの偶然です。当話にピッタリのタイトルがあの文言だっただけです。決して流行に乗っかったわけではありません。冨岡義勇は関係ありません。

はいすみませんジェニシア珀里です。笑
英題に「slayer」とか使ったら逃げ切れるわけ無い。笑
とは言うものの、「Deity Slayers」は直訳すると「神の殺し屋」。生殺与奪の権を握るのはDSS。一番の本筋からはぶらさずにいきたいと思っていまーす。笑

さて、今回は本作品の展開についての言及はナシです。
それよりも話すべきことがありますからね♪

祝!
『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』全国公開!!
二度の延期を乗り越えて、遂に、ついに……!!(泣)
私ももちろん、初日午前の回、観てきましたよ♪
2時間35分の決戦、最初から最後まで動悸が治まらず、描写の一つ一つに、9287日の歴史と、「エヴァ」という世界の意味と、私たちの絶望と希望を存分に見せてくれたと、感激しました。(翌日疲労で起き上がれなかったのは笑い話。笑)

もちろん、辛く、悲しい別れもありました。私のようなLAS派の人間にとっては、苦しく、寂しい思いが今でも募っています。
ですが、「エヴァ」は他ならぬ庵野監督の物語ですから、否定するつもりは毛頭ありません。むしろあの結末は、「エヴァ」の最後に一番相応しかった。そうとすら思います。

だからこそ、私は書くのを辞めることはしないと、改めて決めました。絶対に最後まで書き切ってやろうと。
数日前、伏せったーにこんなようなことを述べました。
「行きたかったはずの駅に行けなかったのならば、自分の足で、違う手段で行けば良い」と。(全文はこちら→ https://fusetter.com/tw/4u6WNTLB?s=09#all
私は今、『シン・エヴァ』を経て、このLAS作品の続きを俄然書きたくなってきました。相変わらずスローペースの更新ではありますが、絶対に辿り着いてやろうと思います。
ですので、どうかこれからも、応援よろしくお願いいたします!

送って頂いた感想への返信のほとんどが、次話更新と同時になってしまっていること、大変申し訳ありません。ですが皆様の感想は、届いてからすぐに読ませて頂いております。
いつもいつも、本当にありがとうございます!!
今話もお待ちしております♪♪


予告:次回から本格的にギャグパートです。多分。
  (できるとは言っていない。汗)


……毎度のように長くなるあとがきってどうなの……?汗
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