E.V.A.~Eternal Victoried Angel~   作:ジェニシア珀里

3 / 24
第弐話 変わらぬ、天井

 

 

 

 

 

 過去へと時を遡り、再び初戦闘の舞台に立った碇シンジ。

 再びこの世界に放り込まれたことに対して初めは戸惑いがあったものの、これはまたとないチャンスなのかもしれない、そう感じ、今、自分の意思でこの場所にいる。

 ネルフを守り、父さんを救い、綾波を助け、

 

 そして……アスカと共に生きるために。

 

 

 

『良いわね、シンジ君』

 

 ミサトが、地上に出たシンジに声を掛ける。

 

「はい」

 

 シンジは、決意に満ちた表情で前を見据える。

 

『最終安全装置、解除!エヴァンゲリオン初号機、リフトオフ!』

 

 ミサトの合図で、エヴァが射出ブリッジから体を離す。

 

『シンジ君、今は歩くことだけを考え……え?』

 

 リツコが初号機に向かって声を送ろうとした。言葉が続かなかったのは、すでに初号機は歩き出していたためだ。

 

「へぇー、面白いですね、まるで自分の体みたいに動いてくれる……っと」

 

 そのまま大きく伸びてストレッチをする。

 

「で、相手の弱点ってどこなんですか?」

 

 しれっとシンジは質問する。辛かった思い出も、知ってる上での二回目となると意外と楽しいかもしれない。

 

『え、あ、えーと……?』

 

 あまりに想定外過ぎたのか、ミサトはシンジに伝えるべきことが混乱していた。それを見かねたリツコがミサトに代わって応えた。

 

『敵に顔みたいな部分があるでしょ?その下に紅い球があると思うけど、それが《コア》と呼ばれる、ヒトでいう心臓の部分よ』

「なるほどあれですね、分かりました。あ、武器は何か?」

『え、えーっと、肩のところにウェポンラックがあるわ。そのなかにナイフがあるから、必要ならそれを使って?』

「ありがとうございます。では……」

 

 満を持したように、シンジは走り出した。ただ、最初は使徒殲滅には向かわなかった。ある人物を探し見つけ、途中でその歩く足を止める算段だ。

 

「ミ、ミサトさん!!子どもがいるんですけど!!」

 

 その交差点左方の道路の真ん中に立っていたのは、クラスメートだった鈴原トウジのその妹:サクラちゃん。怯えているのだろう、足が震えて動けないでいた。

 思い返せば、トウジが参号機に乗った一番の理由は、サクラちゃんの怪我だった。妹をいい病院へ入れてやりたい一心で、トウジは参号機への搭乗を決意したのだから。

 しかし、バルディエルに乗っ取られた参号機を、初号機のダミープラグが破壊し、そのせいでトウジは左足を失ってしまった……。

 二の舞は避けねば。今度は、怪我させるわけにいかない。

 

「僕は使徒を遠ざけます、早く保護を!!」

『わかったわ、今すぐ救助班を向かわせるから、その子を傷つけないように戦って!!』

「了解!」

 

 シンジはそう答えると、通信を切って外部スピーカーに切り替えた。そして、ゆっくりと、なるべく優しく声をかけた。

 

『サクラちゃん』

「えっ……?」

『すぐに助けが来るから大丈夫。そこのビルに逃げて。そのまま動かないで、じっとしてるんだよ』

 

 サキエルとの距離は約1キロほどだ。急げ。サクラちゃんの頷くのを確認して、徐々に走るスピードをあげていく。

 エヴァに気づいたサキエルは、そのつぶらな目から初号機に向けて光線を放つ。だが、前史最強の使徒、かのゼルエルの猛攻から本部施設の全壊を防ぎ、一時的といえど自力で優勢に持ち込んだシンジである。彼にとってはサキエルのビームなどお茶の子サイサイ。エヴァ特有の防御壁、A.T.フィールドを展開して跳ねのけた。

 

『え、A.T.フィールド!?』

『まさか、あり得ないわ!!』

 

 当然、ミサトやリツコを始めとするネルフスタッフは驚くしかなかった。その間にも、シンジの戦いは続いていく。

 サキエルは次なる反撃をしようと、すぐさまその槍のような腕を伸ばしてきた。それを紙一重で躱し、シンジはサキエルに体当たりを仕掛けて転倒させた。

 

(ごめん、サキエル!)

 

 シンジは心のなかで謝りながら、プログナイフをコアに突き刺した。

 

 

 

 シンジ自身、本当は使徒を殺したくはなかった。

 そもそも使徒が、なぜここ第3新東京市にやって来るのか。それは話せば長くなることだろうが、簡単に言えば、セカンドインパクトによって母たるアダムを失った使徒が、ターミナルドグマにいるリリスに、アダムに似た波長を感じて縋ってくるからこそ。

 要するに使徒は、親を求めているだけなのだ。サードインパクトを起こそうなどとは、これっぽっちも考えてなどいないのだ。

 使徒の固有波形パターンが人間の遺伝子と99.89%同じという点も含め、使徒は人間と非常に似ていた。形状とかが違うだけで。

 それゆえ、何の罪もない使徒を倒すのは、申し訳ないという気持ちが非常に強かった。だが、サードインパクトを起こさないためには、やはりサキエルには倒れてもらうしかない。

 たとえそれが、使徒のせいで起こるものでなかっとしても。

 

 

 

 サキエルは反撃しようとしたが、手を出すことができない。結局最後は自爆という形での反撃で、ネルフ初の使徒戦は呆気なく終結した。

 高く上がる十字架の光に、ミサトはモニターから目を離さず訊いた。

 

「エヴァは……?」

 

 水を打ったように発令所は静まり返った。

 爆風によって立ち上がった煙が徐々に晴れていくと、凄まじい爆風にも耐え、粉塵の影から帰還を果たす初号機の姿が確認された。

 その光景にリツコも、

 

「あれがエヴァの……」

 

 ミサトも、

 

「本当の姿なの……?」

 

 思わず、息を呑んだのだった。

 

 

 

 

 

《E.V.A.~Eternal Victoried Angel~》

 

【第弐話 変わらぬ、天井】

【Episode.02 Upset Plan】

 

 

 

 

 

「ってて……爆発するなんて聞いてないですよ……」

 

 シンジが頭をさすりながら呑気な声をあげた。もちろんサキエルが土壇場で自爆するだろうということは想定済みだったのでその発言は演技だったが。

 サキエルの爆発の寸前に、シンジは全力でA.T.フィールドを張った。お陰で前史ではかなりの額だった整備費も、そんなに嵩むことはないだろう。

 

「終わったので帰りますね、出てきた穴から戻るんでいいんですか?」

「え、ええ……」

「気を、付けてね……?」

 

 気を付ける場面はもう終わってるでしょうに。意味不明な発言をする作戦部長始めとし、ネルフ職員は全員混乱していたとみて、まず間違いはなかった。

 

 

 

 ******

 

 

 

 辺り一面黒に塗りつぶされた暗い静寂の空間に7つのモノリスが浮かび上がる。その中央にて、例のポーズを決め込むゲンドウは、モノリスに囲まれて座っていた。

 

「第4の使徒襲来とその殲滅、そして3番目の子供の接収、及びエヴァ初号機の初起動。概ね既定通りだな」

 

 モノリスには「SEELE」と書かれた林檎に蛇、加えて逆三角形に7つの目が描かれている。その内の一つ、「01」と書かれたモノリスから、昨日の使徒戦の概況を振り返るような言葉が飛ぶ。

 

「だが、パイロットのあの戦い様、少々出来すぎではないかね?」

「聞けばその少年、碇君の息子だそうではないか」

 

 ゲンドウは手を組んで座り、モノリスの団体「ゼーレ」と応対する。

 

「ご心配なく。むしろ強力な手駒が増えたことは好都合でしょう。初号機の実戦配備に続き、2号機と付属パイロットも、ドイツにて実証評価試験中ですし、使徒との戦いには十分な布陣です」

「3号機以後の建造も、計画通りにな」

「ネルフとエヴァの適切な運用は君の責務だ。くれぐれも失望させぬように頼むよ」

「左様。使徒殲滅はリリスとの契約のごく一部に過ぎん。人類補完計画、その遂行こそが我々の究極の願いだ」

 

 一通りの意見を聞いたゲンドウは、落ち着いた態度でそれに答える。

 

「分かっております。全てはゼーレのシナリオ通りに」

 

 だがその心中は決して穏やかではなかった。その動揺した目の奥が気づかれなかったのは幸いで、サングラスの違った方面での貢献にゲンドウはひっそりと感謝したのだった。

 

 

 

 ******

 

 

 

「A.T.フィールドを失った使徒の崩壊、予想以上の状況ね」

 

 翌朝、使徒との戦闘現場を検証するため、偵察機に乗り込んだミサトとリツコ、そしてマヤは、使徒の爆心地上空を飛行していた。

 

「まさに血の池地獄、なんだかセカンドインパクトみたいで、嫌な感じですね」

 

 マヤは窓際の席から地上の光景を眺める。

 

「人類は使徒に勝てる。その事実だけでも、人類にわずかな希望が残るわ」

 

 ミサトは十字架のペンダントトップを手にして眺めていた。その顔に、安堵と希望に満ちた表情が見てとれた。

 リツコは、膝の上に乗せたノートパソコンのモニターを見ながら笑みを浮かべた。

 

「それにしても不思議ね、あの子」

「シンジ君のこと?」

「ええ」

 

 

 

 

 

 昨夜。

 自分どころかエヴァすら無傷なまま生還したシンジに聞きたいことは山積みだった。

 シンジにとりあえずシャワーを浴びさせ、いろいろと診察を行った。

 

「それでシンジ君、一つ聞きたいことがあるの」

「はい、何でしょうか?」

「初号機に乗ってる間、どんな感じだった?ほら、面白いって言ってたけど……」

「ああそれですか。なんか、意外にも身体動かしやすくて、とても楽しかったんですよね。母さんも側にいてくれましたし」

「え!?」

 

 さすがのリツコも、この時ばかりは素頓狂な声をあげた。

 

「なんか声が聞こえたんですよ。『思う存分やりなさい』って。思い出しましたよ、昔、母さんがあのロボットに取り込まれたのを」

「嘘……」

「あの時はだいぶショックでしたけど、今になって分かりました。僕のために初号機に入ってくれたのかもって」

 

 シンジはニコニコと笑って見せた。ちなみに、嘘は殆ど言っていない。あくまで真実だけで話をしようと思っていた。

 いずれは誤魔化したり、嘘で逃れなければならないことが多々出てくる。その時のために、なるべく今は本当のことのみで完結させておく方が得策なのだ。

 ……若干、大人をからかうことを楽しんでる部分が大きいようにも思えるが。

 

「あ、それで今夜なんですけど……」

 

 

 

 

 

「……確かに変ね、わざわざ病院のベッドで寝たいなんて」

 

 リツコから話を聞いたミサトはパックのお茶を飲みながら首を傾げた。そしてハッとして青ざめる。

 

「シンジ君、まさか病院を住居にしたいだなんて思ってるんじゃ……」

「……いや、流石にそれはないと思いますが……」

「………………」

 

 

 

 ******

 

 

 

「…………っ」

 

 シンジはベッドの上で目を覚ました。無機質な白色調の病室内だった。

 

「……フゥ……っいしょっと」

 

 体を起こし、周りを見渡した。病室の外では、蝉の鳴き声が窓を通して聞こえてくる。シンジは、もう一度ベッドに寝転がった。

 

「ふっ……。知ってる、天井……ってね。ファァ……。」

 

 ここに泊まらせてくれと頼んだのは他でもないシンジである。たまたま空いていたため(というか経験上空いてて当然なのだが)許可が降りた。それも全て、この台詞が言いたかっただけである。

 

 

 

 バタン―!

 

 いきなり開いたドアに、シンジは思わず飛び上がった。入ってきたのは、いつもの作戦部長様だった。猛ダッシュでここに来たのだろう、肩で息をして汗をかいている。

 

「ど、どうしたんですか、ミサトさん……?」

「ハァ、ハァ、……シンジ君」

「は、はい……」

「ここに住むのは絶対にダメよ!!」

「…………はい?」

 

 

 

 ******

 

 

 

「だからマヤも言ってたでしょ?病室に住もうだなんて流石にそんなことしないわよ」

『そ、そうね……』

 

 偵察機から猛ダッシュでシンジの病室に向かったミサトから電話を受け、事の顛末を聞いたリツコは大きなため息をついた。

 

「それで、彼は結局どこに住むことにしたわけ?」

『え?私ん家よ?』

「何ですって!?」

 

 思わぬ展開に、リツコは思わず叫び、手で回していたペンを止めた。余談だが、ペン回しは結構得意な模様である。

 

 

 

「だーかーらー、シンジ君は、アタシんところで引き取ることにしたの。もちろんシンジ君も納得してくれたしね♪」

『ちょっと待ちなさいよミサト!あなたあのゴミ屋敷に住まわせる気なの!?いくらなんでもシンジ君が可哀想よ!!大体あなたはいつもいつも…………』

 

 受話器から聞こえるリツコの怒号に思わず耳を遠ざけつつ、なおも続く彼女の説教にミサトは苦笑いした。

 

「相変わらず心配性なヤツ……」

 

 一方シンジは……

 

(無理ないよ……ミサトさん、生活破綻しかけてるからね……何とかして正さないと)

 

 着々とこれからの展開に思いを馳せていた。

 

 

 

 そんなこんなでミサトとシンジはかのコンフォート17マンションに帰ることとなり、ミサトは今夜の歓迎会のためにと途中のコンビニで大量の食べ物や飲料を買い込んだ。

 

「で、ミサトさん?」

「んー何?」

「なぜカゴに入ってるのがカップ麺とレトルトカレーと弁当とビールなのでしょうか……?」

「あ、ジュースも買う?何がいい?コーラ?ファンタ?」

 

 そういう問題じゃない……。予想はしていた、していたけど……。

 どうやら今後もしばらく料理は僕が作った方が良さそうだ……。

 

 

 

「やっぱり引っ越されますの?」

 

 そんなことを考えていたシンジの耳に、主婦の噂話が飛び込んでくる。

 

「ええ。まさか本当にここが戦場になるなんて思ってもみませんでしたから」

「ですよねぇ〜。うちも、主人が子供とあたしだけでも疎開しろって。なんでも今日一日で転出届が100件を超えたそうですよ」

「そうでしょうねぇ。いくら要塞都市だからっていったって、ネルフは何一つアテに出来ませんもんねぇ」

「昨日の事件!思い出しただけでもぞっとしちゃうわ……」

「ほんとねぇ〜」

 

 シンジは、部外者の反応を目の当たりにして、思わずため息をついた。

 

 

 

 

 

「シンジ君、済まないけどちょ〜っち寄り道するわよ」

 

 買い物を済ませたミサトは、家とは別の方向へ車を走らせた。

 

「はい。っと、どこへですか?」

 

 大量の荷物で膨れ上がったビニール袋を抱えたシンジは、ミサトの方に目を移す。

 

「ふふん。イ・イ・ト・コ・ロ」

 

 ミサトはカラっとした態度でシンジに笑った。

 丁度、街の向こうに夕日が沈んでいく時間だった。山のふもとから、太陽が最後の光で街を照らし、鮮やかなオレンジ色に染めていた。ミサトは、その景色が見渡せる丘の上にシンジを案内した。

 しばらくすると、街じゅうにサイレンが鳴り響き、地面のいたるところから高層ビルが伸びていく。

 

「これが……第3新東京市ですか」

「そう、使徒専用迎撃要塞都市、私たちの街よ」

 

 ミサトは、シンジにこの街に慣れてほしかった。劇的な活躍をしたとはいえ、見知らぬ地ではわからないことも多いだろう。ましてや、先ほどの噂話もそう、ネルフは周りから良いように思われていない。人類を救ったのに、そう文句を言われてしまうのはミサトにとってはあんまりだった。

 

「そして、あなたが守った街。自信持ってちょうだい、シンジ君。私も全力でサポートするから!」

 

 シンジがミサトに顔を向けることはなかった。

 

 

 

 ******

 

 

 

 コンビニの袋を手に持ったミサトとシンジは、コンフォート17マンションへと帰ってきた。もう外は真っ暗で、街も不思議と静まりかえっている。

 

「シンジ君の荷物はもう届いてると思うわ。実は、あたしも先日この街に引っ越して来たばっかりでね。さ、入って」

「はい、お邪魔しま……」

「待った!シンジ君、ここは今日から、あなたの家でもあるのよ、気を使わなくても大丈夫よん♪」

 

 ミサトは明るく返した。こう言われるのもシンジは当然分かっていたが、こうすることで改めて、この場所に帰ってきたのだと実感したかったのだ。顔を緩ませると、明るく声をあげる。

 

「ただいま!」

 

 ミサトは明るい笑顔で答えて見せる。

 

「お帰りなさい!まぁ、ちょ〜っち散らかってるけど、気にしないでね」

 

 ミサトが部屋の明りを点けると、辺り一面には、缶コーヒーの空き缶と、一升瓶の山が出来上がっていた。出しっぱなしのダンボール、食べ残しのゴミ、散らかった服。

 

(あーあ……やっぱりかぁ……)

 

 シンジは、その光景を見ては落胆した。やはり、僕が掃除しなければならないらしい。結構骨が折れるんだよね、この作業……。

 

「あ、ごめーん。食べ物冷蔵庫入れといて?」

 

 ミサトは、部屋着に着替えながら扉越しに声を掛ける。

 

「あっ、はい」

 

 返事しつつも、シンジは更なる落胆にため息をついた。キッチンの冷蔵庫を開けると、その中身はミサトのずぼらな性格がそのまま詰まっているようだった。

 

「はい氷。はいツマミ。はいそしてビールばっかし。まったくミサトさんてば、よくこれで生活できてきたよな……」

 

 そういえば、なぜヱビスばかりなのだろうか。まだ未成年だし、ビールのこととかはさっぱりだけど、何か良かったりするのだろうか……。と、くだらない疑問も、二回目の人生では本気で考えてしまう新生碇シンジである。

 

「ミサトさぁん、先にラーメン用のお湯沸かしますよぉ?」

「あぁごめん、お願ーい!」

 

 

 

 ******

 

 

 

 ゲンドウは割れた窓ガラスの向こう側を眺めていた。ここは零号機の起動実験室。昨日午前に行った起動で暴走した零号機によって破壊され、使徒騒ぎもあって未だに修復に着手できていないようだ。

 

「レイの様子はいかがでしたか?……午後、行かれたのでしょう、病院に」

 

 リツコは無言で立っているゲンドウに向かって尋ねる。

 

「問題ない。凍結中の零号機の再起動準備が先だ」

 

 ゲンドウは淡々とした声でそう答える。

 

「ご子息はよろしいのですか?」

 

 リツコはシンジの件についても確認する。すると……

 

「…………放っておけ」

 

 微妙な間をおいてからそう言った。

 

「ですが、彼の住居が……」

 

 リツコはどうやら、あの生活破綻者と同居させるのがよほど心配らしい。

 

「葛城二佐なら問題ない。作戦部長との信頼関係の構築は早急に実行せねばならない、こちらとしても好都合だ」

 

 ゲンドウは特に意に介さないという態度を取る。しかし、彼を長年見てきた女性だ、リツコがその彼の動揺に気づかないはずがなく、小さくため息をついたのだった。

 

 

 

 ******

 

 

 

「予備報告も無く、唐突に選出された3人目の少年。それに呼応するかの様なタイミングでの使徒襲来。併せて、強引に接収された碇司令の息子。……確かに違和感残る案件ね」

 

 ミサトは湯船に浸かりながら、今回の一連の流れをなぞってみた。

 

「それにしてもシンジ君、ペンペンに驚かなかったわね……ペンギンなんて、セカンドインパクトで絶滅したっていうのに……」

 

 先ほど、夕食を済ませた後風呂に入ったシンジなのだが、出てくるときにペンペンを抱えて出てきたのだ。もう一人の同居人だということを教えたものの、よくよく考えてみると、セカンドインパクト後に生まれた14歳のシンジにとっては未知の存在のはず。仮にペンギンの存在を知っていたとしても、ミサトが飼っている経緯を知りたがるのが普通であろう。

 

「変な雰囲気を感じるのよね。あの楽観的な態度、大人にも引けを取らない発言……一体何なのかしら……」

 

 ミサトは、湯船の縁に頭を乗せて天井を見上げた。

 

 

 

 

 

「懐かしいなぁ……ハハッ、楽しみがいがあるよ」

 

 知ってる天井Part2。住んでいた期間は1年弱ほどなのに、碇シンジの人生の中で、ここほど思い入れの深い部屋もないのである。

 そう思えるのも、ひとえにたった一人の少女のおかげだったりする。そもそも今、シンジがこの世界で戦っていられるのは、まだ会わぬ彼女のためなのだから。

 早く会いたいのは山々だが、無理に急げば事態は悪い方にしか運ばない。今は我慢するべき時だ。

 

「さぁて、学校は明後日だったっけ……今度はトウジに殴られたりはしないだろうけど」

 

 前の世界の事が思い浮かぶ。そういえばあの後2人は、シャムシエル戦でシェルターから抜け出してきたんだっけ。どうにかして説得しとかないといけないだろうな、もしものために。

 シャムシエルか……どうせミサトさんのことだから、「パレットガンの一斉掃射」になるのは目に見えている。新たな計画を立てておかねば。危険な戦いはもうごめんだもんね。

 ふと、先ほどの第3新東京市の景色が頭に浮かんだ。その摩天楼の群れと、その向こうに見えた橙の夕焼けが、世界を血に染める太陽の断末魔のように、不穏に輝いていたように感じたのを、シンジは小さく息をついて、ゆっくりとかみしめた。

 

「使徒専用……迎撃要塞都市……か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




☆あとがき

早く出てこい、アスカァァァァ!!!!!
うん、わたしが頑張って書けばよいのです。わかってますよ、もちろん。でも早く会いたいなぁ……。

ミサトさんは別にアンチ対象ではありません。ただ、素行が基本的にヤバいのでその矯正のためにちょいと厳しいことは言われまくります。主に()()()(←?????)

ゲンドウさんは情けないキャラになってます。彼、物語が進むと……一体どうなるんでしょうかねぇ。笑

よく意見が分かれる点なので言及しておきますが、零号機の起動実験、私は、シンジの来る『22日前』ではなく、物語上での『22日前』だと思います。もしシンジの来る22日前だとしたら、実験室もとうの昔に直ってるでしょうし、ケガから半月以上も経ったサキエル戦で綾波の怪我が全然治ってないのはおかしいように思えて……。

シャムシエル襲来が3週間後ですが、これも17日ぐらいでカウントすれば、起動実験とサキエルやラミエルの襲来時期などとの辻褄も合わせられますし。(勝手な解釈)

さて、次回はその零号機パイロット、遅くなってすみません、
綾波レイ初登場!!!
お楽しみに!!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。