E.V.A.~Eternal Victoried Angel~   作:ジェニシア珀里

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★2026.05.28 追記

完結に向けた制作再開に伴い、既公開分の本文を一部改訂します。
物語の構成、展開に大きな変更はありません。
ただし、台詞、描写、演出の細部について、現在の制作意図に沿う形で調整を行っています。本改訂分は「Dep-1.01」として公開します。
長く時間をいただきましたが、改めて最後まで進めていきます。
よろしくお願いいたします。



第肆話 心のトビラを閉ざす鍵

 使徒を殲滅した後、第3新東京市には雨が降り始めた。

 空は厚い雲で覆われ、辺りは薄暗くどんよりとした空気に包まれた。戦いから帰還したシンジは、シャワールームの更衣室でミサトに尋問を受けていた。シンジは、ベンチに座ってドリンクのカップを見つめている。ミサトは、シンジを見下ろすようにして、今回の行動について問いただす。

 

「どうして私の命令を無視したの?」

「すいません」

「あなたの作戦責任者は私でしょ?」

「はい」

「あなたは私の命令に従う義務があるの。分かるわね?」

「はい」

「今後、こういうことの無いように」

「はい」

 

 シンジは空返事を繰り返す。ミサトの厳しい表情の目の前で、UCCコーヒーを飲んで一息ついている。飲み慣れてるからか非常に落ち着く。そんなシンジの態度を見て、ミサトは声を強めた。

 

「あんた、本当に分かってんでしょうね!?」

「ええ、分かってますよミサトさん。……ただ一つだけいいでしょうか?」

「……何よ」

 

 シンジは、ミサトに顔を向ける。そして、心なしか語気を強めた。

 

「あの使徒に対してガトリング砲が効かなかった以上、あの場所での一斉射撃は意味を成しません。その事はミサトさんも分かっていたはずです」

 

 それを聞いたミサトは、シンジの襟元を掴んで無理やり立たせる。何かを言おうとするも、シンジの目の色に口を開くことができなかった。

 シンジとミサトの視線がぶつかる。

 怖くないわけではない。彼女の怒りも、痛みも、シンジには分かる。けれど、ここで目を逸らせば何も変わらない。

 

「それと、第3使徒との決戦の前もさっきも、僕は言いました。いざというとき以外は現場の判断を優先させてくれることが条件だと」

 

 シンジの言っていることは筋が通っていた。実際、ミサトはその場で反論できる言葉を持ち合わせていなかった。

 だが、それ以上にミサトを動けなくしたのは、シンジの目だった。

 責めている。けれど、それだけではない。

 まるで、そこから逃げないでほしいと訴えているようにも見えた。

 

「ミサトさん」

「……何」

 

 シンジは一度だけ息を吸った。

 言えば、傷つける。

 それでも、言わなければ届かない。

 

「あなたは、本当は高い作戦能力を持っている人です。だからこそ、訊きます」

「……」

「我を忘れてしまうほどの恨みを抱えたまま、その席にいていいんですか」

「なっ…………」

 

 ミサトはシンジの襟元から手を離した。

 

「では、僕はこれで。少し休みます」

 

 そう言い残し、シンジは出口から出て行った。ミサトはやり切れない気持ちでただ呆然と立ち尽くすだけだった。

 

 

 

 

 

《E.V.A.~Eternal Victoried Angel~》

 

【第肆話 心のトビラを閉ざす鍵】

【Episode.04 Secret of my Heart】

 

 

 

 

 

「それで、どうしてここにいるの?」

「ミサトさんには、少しだけ考えてほしいんだ」

「考える?」

「僕が何も言わずに帰ったら、たぶん何も変わらないから」

 

 シンジは市営住宅第22番建設職員用団地6号棟402号室、つまりレイの部屋を訪れていた。これも前史での経験だが、ミサトがレイの家に来ることはほとんどなかった。それゆえここは結構安全だと判断した。

 それでも、ここにいることが早くにバレれば面倒なことになるので、来る途中リツコに連絡を入れ、事情を説明した上で匿ってもらっている。ついでに諜報部を誤魔化すために小細工もしてもらっている。なかなかに用意周到なことである。

 

「ミサトさん、使徒への復讐心があるみたいでさ。その意識捨ててくれないと倒せる使徒も倒せないよ。だから今日明日は帰らないつもり。あ、綾波も食べる?」

 

 シンジは道中で買ってきたコーヒーゼリーをレイに勧める。レイはサキエル戦直前の例のいざこざがなかったおかげで怪我も予想よりかなり早く治癒し、右腕のギプスも取れていた。

 

「え……?」

「こっちのプリンもあるけど。どっちがいい?」

「あ……なら、そっちがいい……」

「わかった。はいどうぞ♪」

 

 レイはシンジからプリンをもらった。そのプリンの蓋を開けながら、レイは疑問を感じていた。

 なぜ、自分のところなのだろうか。シンジが家に帰らない理由は分かったものの、この部屋に来る理由にはならない。街を徘徊し、ネルフに隠れている手だってある。

 

「どうして、私の部屋に来たの?」

 

 ほぼ向かい合わせになる形で椅子に座るシンジに顔を向けて、レイはシンジに訊いた。

 

「え?」

「だって……ここじゃなくても、隠れるところはたくさんあるわ……なぜ、ここなの……?」

 

 シンジは少し考えてから答える。

 

「ん~、ここなら見つからないだろうっていうのが一応理由なんだけど……」

 

 シンジはそこで言葉を切り、部屋の中を見回した。

 殺風景な部屋だった。必要なものだけが置かれている、というより、必要なものさえ置かれていないように見える。

 ここで彼女が一人で過ごしているのだと思うと、胸の奥が少しだけ痛んだ。

 

「本当は、綾波がどんなところで暮らしてるのか、気になってたんだ」

「なぜ?」

「ちゃんと休めてるのかなって」

「そう……」

「でも、この部屋には何にもないんだね……。食事とか、どうしてるの?」

 

 レイの部屋に来るのはこの世界では初めてである。シンジ自身は2回目だが。前はハプニングのせいで完全に忘れていたが、改めて見ると、この部屋は恐ろしく無機質だ。

 

「赤木博士からもらう薬を、飲んでる……」

「……なら、料理とかしないの?」

「必要……ないもの」

「……そっか」

 

 レイは不思議な感情を抱いていた。この少年は、なぜ自分にこんなに干渉してくるのか。だがそれは嫌なことでは全くなく、むしろ自分は歓迎しているかもしれないと思う。

 シンジは少しだけ眉を寄せていたが、すぐに笑顔になってレイに語りかけた。

 

「じゃあ、今日は食べよう。薬じゃなくて、ちゃんとご飯」

「ご飯……」

「うん。僕が作るよ」

 

 そうしてシンジはビニール袋ごと食材を持って台所に立った。レイはその姿をジッと見続けていた。

 

 

 

 

 

 その頃ミサトは、シンジが家に帰っていない事を知って今回のことを思い返していた。もちろん自分でまともな料理を作れるはずもなく、コンビニで買ってきた夕飯をつついている。

 

『我を忘れてしまうほどの恨みを抱えたまま、その席にいていいんですか?』

 

 ミサトは先ほどシンジに言われた言葉にかなりこたえていた。その言葉は、使徒殲滅の作戦部長に就いている葛城ミサトという女性の、心の奥を深く突き破ってくるものだった。

 既に本日5本目のビールを飲みながら、ミサトは静かな家での孤独に耐えた。

 いつもなら、この時間には何かしらの匂いがしていた。

 シンジの作る料理が食べたかった。

 

「見透かされてるのはこっちだったって訳なのかしらね……」

 

 

 

 ******

 

 

 

「美味しい……」

「そう?良かった、喜んでくれて♪」

 

 シンジとレイは食事を摂った。テーブルは近所の人から拝借してきたし、皿や箸はスーパーで買ってきたのでとりあえず大丈夫だった。

 生活に必要なものがないのではなく、生活そのものが、ここには置かれていなかった。

 今日の夕飯はシンジ特製の目玉焼きと炊き込みご飯、そして味噌汁。炊飯器がなかったために多少時間はかかってしまったものの、レイが美味しそうに食べてくれたので良しとしよう。

 

「碇君は、いつもこういう料理をするの?」

「うん、昔から料理するのは楽しかったし、何よりミサトさんが料理できないから僕が作るしかなくってね」

 

 舞茸やえのき、人参等を入れた炊き込みご飯を、レイは非常に気に入ったようだ。レイが嫌いだったはずだと思い、肉も入れてなかったのでかなり好評なようだった。

 

「葛城二佐……ズルい」

「え?」

「……何でもないわ」

 

 レイは、もう一口、炊き込みご飯を食べた。

 胸の奥に生まれた小さな引っかかりの名前を、彼女はまだ知らなかった。

 

 

 

 ******

 

 

 

 翌日の学校では、昨日の使徒戦の面影はどこへやら、いつも通り授業が始まっていた。

 

「碇。碇シンジ。……なんだ、転入早々、もう休みか」

 

 トウジとケンスケは、シンジの机を見て心配げな顔をした。昨日の使徒戦で何かあったのか。真実を知っていて状況を知らない分、不安になる二人である。

 

「まあいい、先日のテストを返す」

「えぇ~!?」

 

 先生の嬉しくない発表に、クラス一同が声を上げた。

 さて、そんなことはお構いなしとばかりに、レイは机に肘をついて窓の外を眺めていた。シンジは計画の一環として今日は学校をサボるとのこと。トウジ、ヒカリ、ケンスケの三人以外には口外しないことを約束に、今日の晩ご飯も腕によりをかけて作ると言ってくれたので、表情には出さないものの非常に楽しみにしているのだ。

 

 

 

 いつの間にか昼休みとなり、レイはガサゴソとバックの中から箱を取り出した。それを見たクラスメートはギョッとした。

 

「あの綾波さんが、弁当を……?」

「珍しい……今まで見たことなかったよ」

 

 それもそのはず、レイが学校に弁当を持ってくるなど今まで聞いたことがなく、それどころか昼食を摂る姿さえ、クラスメートは見たことが一度たりともなかったのだ。

 トウジとケンスケはハッとした。イレギュラーも、二つ重なれば繋がりがあるかもしれない。そう思ったゆえ、行動に出た。

 

「なぁ綾波、今日は俺とケンスケと委員長と一緒に屋上で昼飯にせぇへんか?」

 

 急に声をかけられたレイはキョトンとした。

 

「ちょっと話したいこともあるんでさ、いいかな?」

 

 ケンスケも手を合わせて頼みこむ。

 

「……別に、構わないけど」

 

 当のレイも、シンジから話は聞いているので特に断る理由もなく、トウジにいきなり呼び出され慌てるヒカリを含めた四人で屋上へと上がった。

 

「ほんで、その弁当、まさかやけど……」

「ええ、碇君が、作ってくれたの」

 

 その真実を聞いて、三人は目を丸くする。

 

「碇が……綾波のために……?」

「愛妻弁当ならぬ、『愛夫弁当』やないか……」

「碇君の今日の欠席って、一体……?」

 

 さらにレイは、シンジがネルフの作戦部長に考え直してもらうための計画を実行中であり、そのために今日の学校を無断で欠席し、現在はレイの家に匿われて留守番中であるという旨を説明した。

 

「……ちゅうことは昨日は」

「綾波さんの部屋で、碇君と二人っきりだったの!?」

「なんか……イヤ~ンな感じ……」

 

 しかしレイには、その肝心な意味は全く伝わることはなく、シンジとの約束を守れている自分自身に誇りを感じている。無表情に見えるものの確実に上機嫌な様子で、シンジの弁当をじっくりと味わうのであった。

 

 

 

 ******

 

 

 

「しっかし、綾波にいつまでもこんなとこで生活させるわけにはいかないよなぁ……」

 

 レイの部屋に匿ってもらって早三日。部屋の掃除を一通り終えたシンジは、無機質なコンクリートの壁紙に囲まれた部屋を見渡してため息をついた。今、日本全域が亜熱帯に属し、一年中夏であることがまだ救いだが、これが冬になったときには防寒の面で一体どうなることやら……。

 

「近いうちに、コンフォート17マンションに来てもらうかな……。父さんは嫌がるだろうけど、そこはリツコさんあたりに頑張ってもらうとして」

 

 そう呟いてから、シンジは苦笑した。

 人任せにするつもりはない。けれど、正面からゲンドウを説得して通る話でもないだろう。

 

 カチャ、という音と共に扉を開けてレイが帰ってきた。途中でスーパーに寄ってくるよう頼んでおいたため、片方の手に袋を持っている。

 

「おかえり綾波、ごめんね、いつも頼んじゃって」

「いいの。今日は洞木さんもついてきてくれたから」

「委員長が?そっか、後でお礼しなきゃだね♪」

 

 レイは小声で付け加えた。もっとも、シンジには聞こえていなかったようだが。

 

「それに、碇君の食事、食べたいから……」

 

 心なしか彼女の顔が紅く染まっていたのにも、シンジは気づくことはなかった。

 

 

 

 

 

 その頃ミサトは、シンジの行方を必死で追っていた。完全にLOST、諜報部や保安部の情報にも引っ掛かっていないまま三日も経っていることが、ミサトをかなり焦らせている。もっとも、ミサトにだけ伝わっていないだけなのだが。

 どこぞのスパイに誘拐されたのではないかと心配しまくってソワソワする彼女の真向かいで、リツコはすました顔でコーヒーを啜っている。

 

「ミサト、シンジ君が心配なのはわかるけど、少し落ち着きなさいよ?」

「落ち着けるわけないでしょ!?もう丸三日経つのよ!?」

 

 ミサトが声を荒らげるのを聞き、リツコはシンジの作戦に感心した。彼はやはり、本気でミサトを変えようとしている。敢えて、ミサトの親友である自分に諜報部と保安部への協力を要請するよう頼んできたのはその為だったのだと、今、改めて理解する。

 使徒戦において、ミサトの忘我が作戦内容に多大な影響をきたしていることはリツコから見ても明らかだった。第4の使徒と第5の使徒の時は正直な話、ミサトは少しも活躍できていない。普通なら能力を疑われても仕方のないところだが、シンジの活躍のおかげで免れている。

 

「こうなったら、シンジ君を見失った場所から考えられる可能性を徹底的に洗い出すしかないわ。リツコ、MAGI使って協力してくれない!?」

「……ミサト、シンジ君が誘拐された可能性も否めないけど、一つ聞いていいかしら」

「何よ?」

「もし単なる家出だったとした場合、シンジ君はなぜ出ていったの?」

「?」

「仮の話よ。シンジ君があなたから隠れてる理由」

 

 リツコは考える。危険な目に遭っていると分かっているなら、シンジは早くミサトから離れるべきだと思うのだ。だがシンジはそうしない。わざとミサトを困らせ心配をかける。それも、決して嫌がらせではなくだ。これはシンジの顔を見れば一目瞭然だった。

 

「……もしそうなら、それは私のせいよね……」

 

 ミサトはため息をつく。

 

「えっ?」

「言われたのよ。恨みを抱えたまま、その席にいていいのかって……シンジ君にはお見通しなのかもね……」

 

 急にしおらしくなったミサトを見て、リツコはもう一口コーヒーを飲む。もしかしたら、既にシンジの作戦は成功しているのかもしれないと、リツコはただただ感心するばかりだった。

 そのシンジはといえば、昨日今日はレイの家で掃除や料理などをする予定だと言っていた。

 シンジが何を考えているのかはさっぱり分からない。だが、人を思いやる気持ちはネルフの誰よりも強い。それだけは確かな気がした。

 

 

 

 ******

 

 

 

 今日の夕食は夏野菜カレー。肉を入れないというのは物寂しい気もするのだが、シンジにとっては全く関係なく、レイのことを考慮し調理する。

 

(とは言っても、綾波もだんだんと肉も食べられるようになってほしいな。そうだ、鶏ひき肉のそぼろなら案外あっさりしてるし、炒め物にも入れられるかも。今度試してみよっと♪)

 

 そんなことを考えつつ、付け合わせのコールスローにマカロニサラダを用意する。

 ところで今更だが、シンジはこの世界に海産物がないことに非常に驚いた。スーパーに行っても、前史ではあったはずの寿司コーナーが消え失せ、淡水魚でさえ値段は非常に高い。マグロの刺身、シンジはけっこう好きだったのだが……。

 それだけに、タンパク質の確保ルートを考えると、やはり肉は大切なのだ。残念ながら、それすらも九割人造なのだが。

 

「碇君、このくらい?」

 

 レイが皿をシンジに見せながら訊く。どういうわけか、今日は自分から手伝うと言い出した。

 

「ん?あぁ、そのくらいで大丈夫だよ、そしたらカレーもよそってくれる?」

「わかったわ」

 

 はたから見れば、まるで新婚夫婦のような光景だった。もちろん、当の二人にはそんな自覚はない。

 

「そうだ、ねぇ綾波?」

「何?」

「もし良かったらさ、僕とミサトさんの住んでる部屋の隣に引っ越してこない?ここだと何だか危ないっていうか、ちょっと心配だからさ。無理にとは言わないけど」

「行くわ。お願い、碇君」

「う、うん……?」

 

 即座に答えたレイに、シンジは少したじろいだ。

 レイの心は、このとき既にシンジの予想以上に変化していた。この三日間で、レイの無機質だった食事の時間は、同じ部屋だったとは思えないほど輝いて見え、シンジの料理は際限なく食べられそうなほど美味しかった。

 レイにとっては経験のないことであり、戸惑いもあるし、彼がなぜこんなに気遣ってくれるのかという疑問もある。ただ、それ以上に、レイは嬉しかった。

 

「カレーはこのくらいでいいかしら……?」

「うん、ありがとね」

 

 スパイシーな香りを立たせる美味しそうなカレーを運びながら、レイは胸の奥がカレーの湯気に触れたみたいにポカポカしていくのを感じていた。

 

 

 

 ******

 

 

 

 夕ごはんを食べ終わった30分後、ドアを叩く音がしてレイは開けた。

 

「……今日は何しに来たんですか、葛城二佐」

 

 立っているのはミサトである。後方にリツコもいるが二人だけのようなので、帰りがけに寄っていったのだろうと想像がつく。

 シンジとて、そろそろだろうなと予想はしていたが、帰ってこいと言われても流石にハイそうですかと答えるほど単純ではない。ここは一度部屋の奥に隠れて不在を装い、申し訳ないがレイにも演技してもらって、ミサトの出方を窺おうという作戦だ。

 ……なぜかレイは乗り気だったが。

 

「もちろん、シンジ君を迎えによ。ここにいるんでしょ?」

「知りません」

「知らないってことないでしょう?ちゃんと調べもついてるのよ」

「仮にいたとしても、無理矢理連れていくつもりですか?それなら、私は答えるつもりはありません。たとえ、命令であろうと」

「「なっ……!?」」

 

 ミサトは唖然とした。今の発言で、レイがシンジの居場所を知っているということは判明した。だが、彼女のこの言葉は、ミサトを非常に驚愕させた。

 いや、リツコの方が驚いただろうか。彼女にとっては自身がネルフに入ってからというもの、ずっと面倒を見てきた子である、ミサトよりも関わりは深い。

 それがどうであろうか。今まで他人に対しては従順な姿だけを見せてきたレイが、命令に反してでもシンジを庇っているのだ。

 ミサトとリツコは顔を見合わせた。

 

「碇君から話は聞きました。葛城二佐は、作戦部長として使徒を見ているのではなく、使徒への恨みを見ているようだと」

「なっ、何を……」

 

 レイの言葉は静かだった。だが、その静けさゆえに容赦がなかった。

 その言葉は、誰かに命じられたものではなかった。レイ自身が選び、口にしたものだった。

 

「ですが、我を忘れるほど周りが見えなくなるその根底には何があるのだろうかと、碇君は疑問に思っていました」

「え……?」

「碇君、近いうちに必ず帰るそうです。14歳の子どもにわかる話ではないかもしれないけれど、少しでも力になりたい。だから、いろいろ話してほしい。そう言っていました」

 

 ミサトは言葉を失った。

 この瞬間まで、ミサトはシンジを連れ戻すことに執着していた。はっきり言ってしまえば、尚も使徒を倒すために、シンジにはいてもらわなければ困る。そう考えていた。

 守るべき子どもである前に、使徒を倒すための切り札。

 自分が彼をそう見ていたことを、否定できなかった。

 

 セカンドインパクトを起こしたアダムス。

 その種である使徒を倒すことが、ミサトにとっての真の生き甲斐だったからだ。

 けれど、その生き甲斐のために、自分は何を見落としていたのだろう。

 

 シンジは、自身が利用されていることを分かっているらしい。

 それなのに、そんな自分を的確に批判し、それでいて心配してくれている。力になるとまで言ってくれている。

 

 この時ミサトは、弾かれたように気づいた。

 

 自分は、どれほど子どもだったのだろうか、と。

 

 ミサトはしばらく黙り込んだ。

 そして、自嘲するように弱々しく笑った。

 

「私……作戦部長、降りた方がいいのかしらね……」

「えっ!?」

 

 今度はリツコが驚いた。

 使徒を倒すことにただならぬ使命感を抱いていたミサトが、そんな言葉を口にする。それはネルフにとっても、リツコにとっても大事件だった。

 

「……なんて、簡単に逃げられる立場でもないんだけど」

 

 ミサトは小さく息を吐いた。

 

「シンジ君に会ったら伝えといて。帰ってくるの、待ってるから、って」

 

 ミサトはそう言うと、クルリと背を向けその場を去っていった。振り返ることはなかった。

 

 

 

「ご、ごめんねレイ、急に訪ねちゃって」

 

 取り残されたリツコは、ミサトの立ち去った方向を直視し続けるレイに謝罪した。

 

「いえ、これも碇君のためです。私も言いたいこと、言えましたから」

 

 リツコはそんなレイの紅い瞳を見て、まじまじと思った。この子は、いつの間にこんなに人間っぽくなってしまったのだろう、と。蒼に染まった水流のような髪も、いつにも増して奥ゆかしさを感じた。

 そんな彼女の横顔の奥から、隠れていたシンジが顔を出した。

 

「すみません、リツコさん、ご迷惑お掛けしてしまって」

「……全部聞いてたのね」

「ええ。でも、もう大丈夫ですよ。ミサトさんは変われます。自分の罪を自覚しただけでも、前には大きく進めます」

 

 シンジは微笑んだ。

 

「僕らエヴァパイロットにとって、ミサトさんはいてくれなければならない人なんです。作戦部長の素質はあの人が一番持ってますし、いざというときに背中をしっかり押して、支えてくれるんです」

「……随分よく知ってるのね、ミサトのこと」

「ええまぁ。少々事情がありましてね」

 

 シンジははにかんで、すましてみせた。

 

「ああそうだリツコさん、綾波なんですけど、僕らのマンションに引っ越してもらおうかと思ってます。ここはインターホンも鳴らないしカギも上手く閉まりません……。生活上の環境は良い方がいいでしょうし、何より綾波には、ヒトの身体で生きてる以上、ヒトの生活をしてほしいので」

「えっ……?」

 

 リツコは目を見開いた。そして瞬時に、一つの仮説が頭をよぎった。

 

「シンジ君、あなた、もしかして……?」

「なぜ僕がこれを提案するのか、それについては、いずれ話しますよ」

「……ずいぶん意味深ね」

「真実は、いつも一つですから」

「……何それ?」

「さあ。言ってみたかっただけです」

 

 シンジは誤魔化すように笑った。

 

 

 

 

 司令室では、ゲンドウと冬月が、がらんどうな空間の中央に設置された机に向かっていた。

 

「碇、赤木博士からの話は聞いたか?」

 

 冬月は、詰将棋の本を片手に、ゲンドウに話しかけながら桂馬を指した。

 

「レイの住居の移動のことか。問題ない、その必要はないと返しておいた」

 

 ゲンドウは、肘をついて顔の前で手を組みながら、落ち着き払った態度で答える。

 

「だが赤木博士や葛城二佐は、作戦遂行上における利点は大きいと話している。お前の息子も協力的なようだし、何よりレイ自身の希望だと聞いているが」

 

「…………」

「珍しいな、お前が葛藤とは」

 

 冬月は曖昧に表情を歪め、ゆっくりと言った。

 

「分かっている。だが、計画の遂行が最優先だ。ここで道を間違えることがあれば、全てが失敗に終わる」

「……14年前からのシナリオ、運命を仕組まれた子供達か。全く、過酷すぎるな」

 

 

 

 

 




☆あとがき(2019.03.22)

はいはいどうも、ジェニシア珀里です。
今回のタイトルはそのままコナンの主題歌から笑
倉木麻衣さんの曲はすごく好きです、「Secret of my Heart」♪

ってか、本当になにやってんでしょうね、我ながら。「真実はいつも一つ!!」って、モロパクリですね。(シンジだけに?笑)


さて、葛城ミサト補完計画、これにて80%完了です。
正直な話ですね、ミサトさんは使徒が来なければ非常にいい女性ですからね。アスカたちが来日する前は特に。

なんと言っても、セカンドインパクトで心の拠り代だった父を失い、酷で深い傷を刻み込まれたことによる使徒への憎悪が、計り知れないほど強力だということは言うまでもありません。ただ、それだけならまだ良かった。
ただ、大学にて、大学で会った加持に父の雰囲気を感じてしまうことで、ミサトは恋人という形で彼を新たな拠り代にしたわけで。しかし彼と接するのが恐くて別れてしまう。それがきっかけでミサトは完全に狂い始めてしまうのだと思うのです。

使徒殲滅を生業とし、あらゆる犠牲も惜しまない。偽善で自分を庇い、無理にでも正当化しようとする。そんな、冷酷な女性に。

アスカ(というより加持)が日本にやって来てから、ミサトはさらに狂っていきます。しまいには、真実追求のために何もかも投げた加持のお陰で、シンジやアスカの保護者まで放棄してしまう始末。はっきり言って、救いようはありません。

ですが、「まごころを、君に」でのミサトさんのシンジ君に対する言葉は、ミサトの人生でこの上ない本音だったと思うのです。死に際だったということもあるかもしれませんが、シンジと共に暮らしてきたからこそ、最後に伝えたいことがあった。それが、あの「大人のキス」なんじゃないでしょうか。

僕は、ミサトさんを責めようとは思いません。彼女も、きっと変われる人間です。そう信じていますから。

ちなみに、新劇ではちょっとだけ大人になってる気がします。ヤシマ作戦もハイレベルになってるし(新型ラミエルには通用しなかったけど)、「行きなさいシンジ君!」のあれは痺れなたぁ~♪
Qじゃ大人に()()()()()ちょっとイヤだったけど。(苦笑)


え、何?LRSが強いって?
あぁ……考えてみれば、確かに。ポカ波もさりげなく出てるし(笑)。でもこの小説、基本的にLASだからなぁ……。うん、この際LASR(ラスアール)にでもしちゃいますか!(雑)



次回、正八面体!……じゃなかった、ラミエル!来襲!







★2026.05.28 追記

現在公開中の本文は、過去に投稿しました内容を現在の制作状況に合わせて再調整したものです。
2019年当時、衝動のままに書いていた勢いを残しつつ、現在の自分が必要だと判断した部分にのみ手を入れました。
作品はまだ途中です。
ですが、終わらせるための作業を再開しています。
これまで読んでくださった方、待っていてくださった方に感謝します。
引き続き、よろしくお願いいたします。
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