E.V.A.~Eternal Victoried Angel~   作:ジェニシア珀里

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★2026.05.28 追記

完結に向けた制作再開に伴い、既公開分の本文を一部改訂します。
物語の構成、展開に大きな変更はありません。
ただし、台詞、描写、演出の細部について、現在の制作意図に沿う形で調整を行っています。本改訂分は「Dep-1.01」として公開します。
長く時間をいただきましたが、改めて最後まで進めていきます。
よろしくお願いいたします。



第伍話 レイ、絆の導き

「ただいま戻りました」

 

 シンジは三日ぶりに葛城家の敷居を跨いだ。電気はついているが、返事はない。

 

「……ミサトさん?」

 

 おそるおそるリビングに入ってみると、そこはシンジがやって来た日以上に散らかりきっていた。シンジは思わず特大のため息をついてしまった。

 

「……嘘でしょ。三日で、ここまで戻るんだ」

 

 当の本人はと言えば、ビールの缶を既に6本も飲み干し、完全に酔ったまま寝ているのである。

 

「また片付けしなきゃいけないか……ん?」

 

 しかし、部屋の隅の方に、ゴミ袋が5個ほど積み上げられていて、「明日出す!!」という張り紙がつけられていた。よくよく見てみれば、その周辺はさほど散らかってはいなかった。

 

「…………頑張りますか。ねぇ、ミサトさん?」

 

 シンジはミサトの肩に手を添え、優しく微笑んだ。

 

 

 

 

 

《E.V.A.~Eternal Victoried Angel~》

 

【第伍話 レイ、絆の導き】

【Episode.05 PROTOTYPE】

 

 

 

 

 

「…………そんなことが」

「ええ……」

 

 翌朝、シンジはミサトからセカンドインパクトについて聞かされた。教科書に載っていることとは現実はあまりに違う、あの災害は本当は使徒によって引き起こされたものだということ。自分はその時南極にいた唯一の生き残りだということ。父を失い、他人を拒絶し続けたこと。それ以来、使徒を憎み、破滅させたいと怨んでいること。

 

「辛いこと思い出させてしまって、すみません……」

 

 どんどん沈むミサトの様子に、台本通りの展開とはいえさすがにシンジもいたたまれなくなっていた。もしかしたらやり過ぎたかもしれないという後悔が軽く襲う。だが、ミサトの方は苦い表情ながらも笑顔が浮かんでいた。

 

「いいのよ。シンジ君が現実見せてくれたんじゃない。私ははっきり言ってバカ、そう、無能なんだから」

 

 そう言ってミサトは一つの封筒を机の上に出した。

 

「……辞表?」

「ええ、私がいたって、ネルフには得なんか全然ないんだもの。作戦部長なんか、さっさと降りるべきよ」

「それは違うんじゃないですか」

「……え?」

「ミサトさんは、何もできなかったわけじゃないです。少なくとも、僕はそう思ってません」

 

 シンジは封筒に目を落とした。

 この人は、前にも自分の背中を押してくれた。間違えて、傷ついて、それでも最後には前を向けと言ってくれた。

 

「作戦部長だから、とか、階級があるから、とかじゃなくて。僕は、ミサトさんにいてほしいです」

 

 シンジはさらに言う。

 

「それに、ミサトさんはちゃんと強い人です。戦闘訓練の記録も見ました。……僕が言うのも変ですけど」

「そう、なのかしら……」

「少なくともミサトさんは今、現実をちゃんと見ようとしてるじゃないですか。それだけでも、僕はミサトさんに作戦部長として、ネルフにいてもらうべきだと思ってます」

 

 シンジは封筒を手に取ると、真っ二つに引き裂いた。

 

「あ、ちょ……!」

「みんなを守るためにやりましょうよ。僕も頑張りますから、一緒に」

「シンジ君……」

 

 気づけばミサトは、涙を流していた。だが、ここ3日間の重い罪悪感や、自分を憎むような感情は、もうなかった。シンジがそう思えるほど、彼女の表情は、とても晴れやかなものに変わっていた。

 

 

 

 ******

 

 

 

「唐突に選び出された第3の少年、碇シンジ。碇司令の息子であり、エヴァ初号機の専属パイロット。その理由としては彼の母親、碇ユイが初号機に取り込まれてしまったため。司令の指示でその際の記憶は完全に抹消された……」

 

 ……はずだったのだが。

 

 リツコは、コーヒーを啜りながらシンジの報告書に今一度目を通していた。その表情は今日も険しい。

 不可解な点が多すぎる。初号機の中でユイと会ったことも、十年前にユイが初号機にダイブしたその理由も、彼の説明に納得できないわけではないのだが、……忘れてはいないだろうか。

 

 彼はまだ、14歳なのである。

 

 反応が冷静すぎる。子供ならば、もう少し激しく反応しても良さそうなものだ。

 だが、それだけなら、まだ、良かったような気もする。ただでさえあのゲンドウとユイの息子だ、そういう性格でも仕方はないかもしれない。そう思った。

 しかし、昨日のシンジの言葉を聞いてから、その疑問は単なる違和感では済まなくなっていた。

 

『作戦部長の素質はあの人が一番持ってますし、いざというときに背中をしっかり押して、支えてくれるんです』

 

 ミサトの全てを知っているような、そんな口調。そしてさらには、

 

『綾波には、ヒトの身体で生きてる以上、ヒトの生活をしてほしいので』

 

 やたらと「ヒト」の部分を強調したように聞こえた、あの言葉。頭をよぎった仮説は、到底信じられない。

 シンジの言葉を理解することはできないが、彼を侮ってはいけないと直感で思う。それと同時に、敵に回すべき存在でないとも強く思う。

 

「大丈夫ですかリツコさん、眉間にシワが寄ってますよ?」

「っ!?」

 

 リツコは思わずコーヒーを取り落としかけた。

 いつの間にか目の前にシンジが現れていて驚いた。そういえば自分がいるのは、研究室ではなく発令所だった。

 

「ど、どうしたのシンジ君、今日はシンクロテストなかったはずじゃ……?」

「ええ。ですが、綾波の引っ越しの件で、早めに返事を頂きたくて」

「こんにちは、赤木博士」

 

 背後からひょっこりとレイも現れた。

 

「こ、こんにちは……あ、あのねシンジ君、その事なんだけど……」

「なるほど、父さんがまた拒否でもしましたか」

 

 ……やはりこの子は侮れない。

 

 

 

 ******

 

 

 

 2時間後、ミサトはリツコから呼び出しを受けて彼女の研究室へとやって来た。

 

「レイの住居がアタシんとこの隣に?」

「ええ。本人たっての希望よ。作戦部長さんもいろいろとやり易いでしょうし」

 

 リツコはコーヒーを飲みながら答える。

 

「よく碇司令が許可したわねぇ」

「一回は断られたのよ。けれどさっきシンジ君と私を連れて直談判しに行くって言い出して……、」

 

 

 

 

 

『碇司令、あの部屋には何もなくて寂しいです。住居変更をお願いします』

『……その必要はない。緊急を要する支障はないはずだ』

『でも、碇君は葛城二佐の部屋で暮らしています。散らかっていますが、私には明るく見えます』

『…………』

『私も、明るい場所に、いてみたいです』

 

 

 

 

 

 話を聞いたミサトは目をぱちくりさせた。

 

「……それ、ホントにレイが?」

「ええ、シンジ君もレイがそんな風に考えてたなんて全く知らなかったって」

「嘘でしょ、あのレイが??」

「でも本当よ。私も信じられないけどね……」

 

 綾波レイ14歳、マルドゥックの報告書によって選ばれた最初の適格者、第1の少女。エヴァンゲリオン試作零号機、専属操縦者。過去の経歴は白紙、全て抹消済み。

 とは言いつつ、本当はその裏に世界をも揺るがすモノが存在している。それはかなりの極秘事項、全世界で知っているのはネルフにいるゲンドウ、冬月、そしてリツコの3人のみである。それほどのトップシークレットだ。

 おまけに感情の起伏を全く見せない鋼鉄の表情。友人は作らず、いかなる時もたった一人での行動。およそ他人を寄せ付けない雰囲気を放っていた。

 ただし、碇ゲンドウを除いて。

 

「そういえば、レイが唯一信用してた碇司令だけど、きっかけはあの事故なのよね?」

「え?……あぁ、起動実験のこと……」

 

 

 

 

 

 22日前、シンジがネルフに来る日の午前。

 零号機の起動実験の最中に、それは起きた。

 

「起動システムに、異常発生!」

 

 異常を知らせるステータスを感知してマヤが声を上げる。

 

『第3ステージにも問題発生!中枢神経組織も、内部拒絶が始まっています』

『思考連動システム、混線』

「パルス逆流!せき止められません!」

 

 オペレーターの対応も効果がないまま、事態は悪化していく。

 

『直通モニター、断線しました!』

「プラグ深度不安定、エヴァ側に引き込まれて行きます!」

 

 マヤが続けて報告する。

 

「コンタクト停止。6番までの回路、緊急閉鎖!」

 

 リツコが素早く指示を出す。

 

「駄目です、信号が届きません!零号機、制御不能!」

 

 マヤが声を上げた途端に、零号機が固定器具を破壊して暴れ始める。

 

「実験中止!電源を落とせ!」

「はい!」

 

 ゲンドウが指示を飛ばし、リツコが緊急用のコックを引く。零号機の背中に付いていたアンビリカルケーブルが外され、床に落ちる。

 

「零号機、予備電源に切り替わりました」

「完全停止まで、あと35秒!」

 

 零号機は頭を抱えながら苦しみ悶えるようにして暴れまわる。

 

『自動制御システム、いまだ作動せず』

 

 コントロールルームに近づいた零号機は、窓ガラスを殴り始めた。いくら強化ガラスとはいえ、エヴァの強力な力には意味を為さない。次第にひびが入り、遂には粉々に砕け散る。

 

「危険です、下がってください!」

 

 窓ガラスの前に立っていたゲンドウは、リツコの叫びにも反応せず、その場所に立ったまま避けようとしなかった。

 

「オートイジェクション、作動します!」

 

 マヤがモニターを見て報告する。

 

「いかん!」

 

 ゲンドウが零号機の方に身を乗り出した。次の瞬間、零号機の背面ハッチが開き、エントリープラグが強制的に射出される。射出されたプラグは、ジェット推進の勢いで天井に激突すると、壁の隅を伝って部屋の角へ滑って行く。そして、ジェット推進が切れて降下したプラグは、勢い良く床に叩きつけられてしまう。

 

「特殊ベークライト、急いで!」

 

 暴走を止めない零号機は、壁に頭を打ちつけて壁を破壊し始める。リツコは、硬化するベークライトを注入して、零号機の足を固めるように指示を出した。

 

「レイ!」

 

 ゲンドウは、落下したエントリープラグを見て叫ぶ。マヤはカウントダウンを開始した。

 

「完全停止まで、あと10秒、8、7、6、5、4、3、2、1、」

 

「0」のカウントと共に、零号機の動きが鈍くなり、力尽きたように止まった。

 

「零号機、完全停止……!」

 

 ゲンドウは、すぐさま下に降りて落下したエントリープラグの方へ駆け寄っていく。プラグのハッチは高熱で焼けるように熱くなっていた。しかし、ゲンドウは素手でそれをこじ開けると、中に入ってレイの無事を確かめようとする。

 

「レイ、大丈夫か、レイ!」

 

 床に落ちたゲンドウの眼鏡が、高熱によって歪み、レンズにひびが入る。

 

「……そうか……」

 

 コックピットにもたれかかったレイが体を起こす。それを見たゲンドウは、安堵の表情をレイに向けた。

 

 

 

 

 

「それも、にわかには信じられない話よねぇ」

 

 リツコの話を聞いたミサトは目線を遠くに遣りながら間延びした声で呟く。

 

「正規の報告書では削除されているけれど、紛れも無い事実よ」

「そんな暴走事故を起こした零号機の凍結解除、ちと性急過ぎない?」

 

 ミサトはこれまでの流れに疑問を呈する。

 

「使徒は再び現れた。戦力の増強は、我々の急務よ」

 

 リツコは当然のように理屈で答える。

 

「それは、そうだけど……」

 

 ミサトは何か釈然としない物を残しながら、一応うなずく。

 

「レイの再起動実験はもうすぐよ。零号機本体の問題修正と、神経接続の調整が済めば……」

「即、再配備、というわけか……」

 

 

 

 ******

 

 

 

「いよいしょっと……!」

 

 翌日、シンジは学校から帰る途中にレイの部屋に寄り、レイの私物を入れた段ボールをレイと一緒にコンフォート17マンションへと運び入れた。とはいえ、レイの私物は極限まで少ない。制服と下着と毛布、そして眼鏡。段ボールもシンジが運ぶ一箱のみだった。

 

「整理は自分でできる?あ、いや、僕がやるとなんとなくマズそうだからさ……」

「大丈夫。ありがとう、碇君」

 

 レイは、いつの間にか自然に「ありがとう」と言えるようになっていた。

 十日前の自分なら、きっと口にしなかった言葉。

 けれど今は、その響きが少しだけ胸に残る。

 嫌ではなかった。

 

「にしても、やっぱりこれじゃ少なすぎるよね。服とか、小物とか、綾波が好きだと思うものを少しずつ増やしてもいいんじゃないかな」

「そう……かしら」

「うん。綾波はその水色の、綺麗な髪の毛も持ってるしさ」

 

 レイは自分の頬にかかる髪をいじってみた。お洒落という言葉も、一昨日の朝にシンジから教えてもらったばかりで、まだ、よく分からない。

 けれど、自分が好きだと思う服を選ぶことは、不思議と嫌ではなかった。

 

「今度時間が取れたら、綾波の服、一緒に買いに行こっか?委員長とかトウジとかも呼んでさ」

「ええ」

 

 

 

 

 

 数日後、ジオフロント内にあるバーには仕事帰りの二人の影があった。格納されたビル郡が一望できる大きな窓のついた店内には、二人以外の客の姿は見当たらない。リツコは3本目の煙草に火をつけてから、ミサトにシンジのことを尋ねる。

 

「シンジ君との生活はどう?」

「まあね、やっと慣れてきたって感じ」

 

 ミサトは頬杖をついて明るい返事を返す。

 

「緊張してるの?男と暮らすの、初めてじゃないでしょ?」

「8年前とは違うわよ、今度のは恋愛じゃないし」

 

 ミサトは手をだらんと振って昔の記憶を払いのける。

 

「冗談よ。それに最近の食事はレイも一緒でしょ?」

「そうなのよ、今夜はレイの希望で麻婆豆腐作るんだって♪」

 

 グラスに入った氷をカラカラと回して陽気に答える。それを見てリツコは皮肉を交えてからかう。

 

「あら、じゃあお母さんは早く帰った方がいいんじゃなくて?」

「誰がお母さんよ??」

「冗談よ」

 

 リツコは親友のコロコロ変わる表情を横目に、長くなった煙草の灰を灰皿にトントンと落とした。

 

「でも、……お母さん、ねぇ。どっちかっていうとシンジ君の方が母親っぽいのよね」

 

 ミサトは思慮深げに窓外のビル群に目を配す。掃除、洗濯、更には食事まで作ってもらっていて、終いには数日前の一件もそうだった。

 

「ミサト……あなた一応年上でしょ?いつまでも頼ってちゃダメよ」

「……わーってるわよ」

 

 ミサトは、グラスに入ったブランデーを一気に飲み干した。

 

「さて、と。時間だし、戻らなくちゃ」

 

 リツコはタバコを灰皿に擦り付けると、バッグを持って席を立つ。

 

「相変らず仕事の虫ねえ」

 

 ミサトは少し呆れてみせる。自分も大概仕事漬けの日々なのだが。

 

「ミサト、帰るからこれ。シンジ君の正式なセキュリティーカードと、レイの更新カード。昨日渡しそびれて。頼めるかしら?」

 

 リツコは、バッグからシンジのIDカードとレイのカードを取り出すと、重ねてミサトの前に置く。

 

「あぁ、いいわよ」

 

 

 

 

 

「相変わらず、スゴいわねぇシンジ君♪」

 

 初めて3人で座った葛城家の食卓の中央には、今日は麻婆豆腐が置かれている。今日は、かなり細かく崩した状態ではあるが、挽肉を入れてみた。果たしてレイの反応はどうなのか。

 

「美味しい……とても」

 

 かなりの好評のご様子。それを見てシンジも安堵する。

 

「こうしてみると楽しいわね、3人での食事って」

「そうですね、家族が一人増えたみたいですし」

「私もです。ありがとうございます、葛城二佐」

「それじゃあ、そろそろその『葛城二佐』もやめてもらおうかしら?ミサト、でいいわよ。ね、レイ?」

「……わかりました、ミサト……さん」

「フフッ、レイに言われるとなんかくすぐったいわね♪」

 

 自分で言っときながら照れたのだろう。それを隠そうとしてか、ミサトは体を仰け反らせながら勢いよくビールを飲む。

 

「ミサトさん……いくらなんでも飲み過ぎですよ?」

 

 シンジがため息をつく。ミサトは本日既に4本目。急性アルコール中毒にならないのが不思議な位だ。

 

「いいじゃないの、人生この為に生きてるようなもんよぉ!」

「……倒れても、私は知りません」

「レイまでぇ。まったく、二人して冷たいんだから~」

 

 ダメだこりゃ。ミサトの口調とか態度から完全に酔いが回っているとわかる。そういえばさっきもバーでも飲んでたと言ってたか。ビール4本と言ったものの、これではどれほど飲んでいるか分からない。なるほどもう誰も、今日のミサトを止めることはできないらしい。

 

「あ、そうそう。はいこれ、二人の新しいカード。リツコのやつも結構横着よねぇ~」

 

 二人は新しいカードを渡された。これがなければ、ネルフ本部に立ち入ることは不可能である。もちろん特務二尉という二人の立場上、それなりに制限はつくのだが、それでも相当な情報の爆弾を持っていることを改めて感じる。

 そういえば、レイの零号機の再起動実験、そしてラミエルの襲来は明日だったかとシンジは思う。15年ぶりの使徒襲来は、休む暇がないほど慌ただしい。

 第6の使徒、前世界での第5使徒、ラミエル。正八面体型の青色浮遊物体。しかしその内部には陽電子加速システムが内蔵されている。周円部を加速させ、超越した破壊力を持つ光線を放射する、歴を見ても厄介な使徒。

 そういえば、こっちの世界では使徒の順番も1つずつずれて違うし、そもそも固有名詞では呼ばれない。おかげで今でもサキエルだとかシャムシエルだとか言っても通じないのがちょっとばかし癪なところである。せっかくなんだから名前くらいつけてあげればいいのに。

 はてさてそのラミエル、一体どう倒そうか。今回は初号機をいきなり発進させるつもりもないので大丈夫だろうが、問題はその後、第2戦のヤシマ作戦だ。レイに大きすぎる負担をかけてしまった「あれ」を、どうにかやらずに済ませたいものだ。

 

 

 

 

 

 結果的に考えがまとまったのは、翌日の零号機起動実験直前だった。

 ラミエルの加粒子砲のスピードは脅威だが、使徒自体は動きも遅く、加粒子砲も一度発射させてしまうと、数秒は止めることすら出来なかったはず。あと、ラミエル最大の弱点は、攻撃しながら方向転換できなかったことだ。一旦攻撃を止めてから向きを変え再び攻撃に移る、そうなると、時間はかなりロスする。

 前回のヤシマ作戦でマズかったのは、攻撃と防御を1地点から行うという前提のもとで進めてしまったことだ。他方向からの同時攻撃ならば、攻守ともに完璧とは言えなくなる。

 そこでシンジは作戦を立てた。ラミエルがドリルを展開するのはネルフ本部直上の交差点。その近辺の兵装ビルを上手く利用し、ラミエルに気づかれないように背後から忍び寄って攻撃を仕掛ける。その際はバルーンを、まぁ自走臼砲でも何でも構わないとは思うが、囮をラミエルに攻撃させる。そうすれば、相手に多少なりと隙ができるはず。

 まだ穴はありそうだが、ミサトやリツコの考えも取り入れて強化すればいい。これが終われば、次は待ちに待った海の上だ。

 

 

 

 ゲンドウがモニター越しに見えるレイに声をかける。

 

「レイ、聞こえるか?」

「……はい」

 

 レイは目を瞑ったまま動かずに答えた。その声は、ひどく弱々しげに聞こえた。

 その声を聞き、怪訝に思い眉をひそめるゲンドウの横から、シンジは身を乗り出した。

 

「綾波、大丈夫?」

「……碇君?」

「緊張することないよ、きっと上手くいく。大丈夫、僕もここで見てるから」

「……ええ」

 

 満面の笑みでシンジが激励の言葉をかけると、レイの表情は相変わらず同じように見えたものの、リツコにはだいぶん和らいだように思えた。

 今までレイが心を開いていたのは、ゲンドウただ一人であった。それが今ではどうだろうか、ゲンドウより、むしろシンジに対しての方がレイは気を許している様子だった。

 リツコはこのやり取りの一部始終を見て、言葉にしづらい可笑しさを覚えた。ゲンドウが、わずかに表情を歪めていたからだ。

 隣を見ると、ミサトも勝ち誇った表情を浮かべていた。普通に考えればシンジがこの場にいるのはおかしなことなのだが、これまたパイロット同士の良好な人間関係の形成という名目でミサトが半ば強引に押し通して連れてきたのである。もちろんゲンドウは拒否したが、リツコの説得でここに至る。

 

「これより、零号機の再起動実験を行う。第一次接続開始」

「はい。主電源コンタクト!」

 

 不機嫌なゲンドウの指示を受け、リツコが合図する。

 

「稼動電圧、臨界点を突破」

 

 マヤが状況を報告しながら、作業は慎重に進められていく。

 

『フォーマット、フェーズ2へ移行』

『パイロット、零号機と接続を開始』

「回線開きます。パルス、ハーモニクス、共に正常」

『シンクロ、問題なし。中枢神経素子に異常なし。再計算、こちら修正無し』

 

 そしてマヤはカウントに入る。

 

「チェック、2590まで、リストクリア。絶対境界線まで、あと、2.5。1.7。1.2。1.0。0.8。0.6。0.5。0.4。0.3。0.2。0.1。突破……!」

 

 とりあえずの第1ステージをクリアし、マヤは声を弾ませた。

 

「ボーダーラインクリア!零号機、起動しました」

「よしっ!」

 

 その声を聞き、一同の緊張がようやく緩んだ。一度は失敗している手前、無事にクリアできるかどうかにはやはり不安が残っていたからだ。シンジも思わず軽いガッツポーズをした。

 

「なんとか成功ね。じゃあこのまま連動実験に……」

 

 リツコが次のステージに移行させようとしたその時、制御室の電話がけたたましく鳴り響いた。一番近くにいた冬月が受話器を取った。そして数秒の後、顔を険しくしてゲンドウに鋭い声をかけた。

 

「碇、未確認飛行物体が接近中だ。恐らく……」

「第6の使徒、ですね」

 

 ミサトも目つきを変えた。そのまま振り返ると、目が合ったシンジも、しっかりと頷いた。

 

「実験中止、総員、第一種戦闘配置!」

 

 

 

 

 

 体表のように透き通る甲高い声のような音を出しながら、巨大な幾何学立体はゆっくりと第3新東京市に近づいていた。早くも第1発令所のモニターには「Blood Type : BLUE」の文字、第6の使徒として認定していた。

 

『監視対象物は、小田原防衛線に侵入』

『未確認飛行物体の分析を完了。パターン青。使徒と確認』

 

 そこへゲンドウと冬月がブリッジに乗って上がってくる。

 

「やはり、第6の使徒か」

「ああ。初号機を出撃させる。葛城二佐」

「いえ、まだ初号機は使いません」

 

 ミサトはゲンドウの指示を背中から受けたが、はっきりとそれを退けた。

 

「……何?」

「敵の攻撃方法、防御システムについてはまだ詳しくわかっていませんので。まずは自走臼砲等で様子を見るべきかと」

「……好きにしたまえ」

 

 ゲンドウは、先程の起動実験から未だ続く苛立ちに拍車がかかってしまったらしい。それでも、ミサトの言っていることは至極もっともであるため、渋々ながらそう告げた。

 それを見ていたシンジは一人こっそり微笑んだ。前史のように無駄な怪我をしなくて済んだのもそうだが、前はシンジのことを顧みずに流れ作業で発進させたミサトが、今回は真逆、誰一人として損をしないように指示を出してくれたことが嬉しかったのだ。

 このミサトさんなら、ついていける。そう確信した。

 

 

 

「日向君、12式自走臼砲、準備いいわね?」

「OKです!空からMQ-9もすでに向かってます!」

「わかったわ、自走臼砲、攻撃開始!」

 

 数分後、ミサトの合図で自走臼砲が展開されようとしたまさにその時だった。

 

「目標内部に反応あり、高エネルギー反応!」

 

 シゲルのモニターのシグナルに異常が発生した。ミサトは直ぐに事態を察知する。第1発令所の緊張感が一斉に高まった。

 

「攻撃来たのね!?データ収集頼むわよ!!」

「「「了解!!!」」」

 

 

 ここまでは、想定通りだった。

 初号機を無理に出さず、まずは敵の出方を見る。ミサトの判断も、発令所の動きも悪くない。

 お手並み拝見といこうか。

 そんな余裕を抱いて、シンジはほんの少しだけ息を吐いた。

 

 ――その油断を、使徒は待っていたかのようだった。

 次の瞬間、シンジの予想は悪い方へと裏切られることとなった。

 ラミエルは、中心部から上部下部それぞれが逆方向に「回転」し、

 まるで液体金属であるかのように、

 

 「分裂」したのである……。

 




☆あとがき(2019.05.01)

どうも久々の登場となりました、ジェニシア珀里です♪
前回から1か月も休止期間となってしまい申し訳ございません。

ミサトの告白、レイの引越し、零号機の再起動実験、と、まぁ今回もいろいろありましたけど、やっぱり目玉はラミエルですかね。歴代使徒のなかでもトップ3を争うくらいカッコいいなと思うのがこの新劇版ラミエルです。もはや質量保存の法則を殆ど無視してるように見えるこの物体ですが、あの変形CGは謎なほどカッコいい……。
しかもドリル・ブレードもラミエル本体からの展開で非常にスムーズで、あの青い体表に無駄にマッチしてるんですよね~♪

ただ、一つだけ疑問に感じたところがあるんです。それは、……次回までのお楽しみで。(本編に盛り込みます♪)

次回、vsラミエル、本番戦と参ります!
あの台詞は果たしてどうなる!?笑






★2026.05.28 追記

現在公開中の本文は、過去に投稿しました内容を現在の制作状況に合わせて再調整したものです。
2019年当時、衝動のままに書いていた勢いを残しつつ、現在の自分が必要だと判断した部分にのみ手を入れました。
作品はまだ途中です。
ですが、終わらせるための作業を再開しています。
これまで読んでくださった方、待っていてくださった方に感謝します。
引き続き、よろしくお願いいたします。
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