E.V.A.~Eternal Victoried Angel~   作:ジェニシア珀里

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★2026.05.28 追記

完結に向けた制作再開に伴い、既公開分の本文を一部改訂します。
物語の構成、展開に大きな変更はありません。
ただし、台詞、描写、演出の細部について、現在の制作意図に沿う形で調整を行っています。本改訂分は「Dep-1.01」として公開します。
長く時間をいただきましたが、改めて最後まで進めていきます。
よろしくお願いいたします。



第陸話 君の笑顔、私の涙

「目標変形、コアを確認!!」

 

 地上に展開された12式自走臼砲を、ラミエルは正八面体の身体を複雑に変形させ、荷電粒子砲をもって狙い撃った。中心のコアからの強力な砲撃は勢いを増しながら、現れた自走臼砲をそれまで隠れていたトンネルごと吹き飛ばす。

 

「自走臼砲、蒸発!」

「MQ-9の攻撃は!?」

「今始まります!」

 

 しかし次の瞬間、ラミエルは再び変形する。一度十字架になったように見え、刹那、細長い6つの四角錐へと形を変え、さらに外側に薄い正四角錐を複数形成し、中心を軸に回転し始める。それは徐々に加速し、なんとコアまで分裂させたラミエルは、奇声を発しながら今度はMQ-9無人攻撃機に向けて砲撃をした。

 威力は強大、攻撃機はラミエルの攻撃を避けることすらできず、空中で一瞬にして消え去った。

 

「MQ-9、蒸発!」

「……予想以上ね、今回の使徒は」

 

 リツコが顔を強ばらせながら呟いた。

 

「リツコ、会議室に技術部の人間、集められる?」

 

 モニターを凝視するリツコにミサトがそっと耳打ちした。

 

「……ええ、わかってるわ。対策会議ね」

「……よろしく」

 

 ミサトは一瞬リツコに目を向け、そのまま立ち去った。

 リツコもミサトも、今回の使徒の格の違いに愕然としていた。第4、第5の使徒とは全く異なる戦法でないと勝てないだろう。それは確実だったからだ。

 だがおそらく、この場で一番、この使徒に対して驚愕したのは、尚もモニターを凝視していた初号機パイロットであろう。

 シンジはラミエルから目を離すことができなかった。全くの予想外に唖然とするしかなかった。

 それもそのはずだ、この正八面体が、ラミエルが、

 

 「変形」したのだから。

 

 

 

 

 

《E.V.A.~Eternal Victoried Angel~》

 

【第陸話 君の笑顔、私の涙】

【Episode.06 Battaile Decisive】 

 

 

 

 

 

 ラミエルはゆっくりと飛行しながらジオフロントの真上まで侵攻し、地下のネルフ本部がある直上で停止すると、正八面体の下端をスクリュー状に変化させて地面に突き刺した。硬いガラスでありながら同時に液体であるかのように、自らの体の形を柔軟に変えていく。地面に突き刺さったそのドリルは、そのまま地下を目指して一直線に掘り進めて行こうとしていた。

 

「現在目標は我々の直上に侵攻、ジオフロントに向けて穿孔中です」

 

 ミサトは戦術作戦部作戦局第一課会議室に職員を招集し、使徒殲滅に向けた作戦会議を行っていた。

 

「奴の狙いは、ここネルフ本部への直接攻撃か。……では各部署の分析結果を報告願います」

「先の戦闘データから、目標は一定距離内の外敵を自動排除するものと推察されます」

 

 男性職員がプリントアウトしたデータを見ながら報告する。

 

「エヴァによる近接戦闘は無理というわけね。初号機出さなくて良かったわ……。で、A.T.フィールドはどう?」

 

 ミサトがマヤの方を見る。

 

「健在です。おまけに位相パターンが常時変化しているため、外形も安定せず、中和作業は困難を極めます」

 

 リツコの隣に座ってノートパソコンを開いているマヤは、ミサトの方に体を向けて分かる事を告げる。続いてミサトの後ろに立っていたマコトが発言する。

 

「MAGIによる計算では、目標のA.T.フィールドをN2航空爆雷による攻撃方法で貫くにはネルフ本部ごと破壊する分量が必要との結果が出ています」

「松代のMAGI2号も同じ結論を出したわ。現在日本政府と国連軍が、ネルフ本部ごとの自爆攻撃を提唱中よ」

 

 リツコは眼鏡を掛けてデータの書かれた紙をめくる。

 

「対岸の火事と思って無茶言うわね。ここを失えば全て終わりなのに」

 

 ミサトは上を向いて愚痴をこぼす。

 

「しかし、問題の先端部は、装甲複合体、第2層を通過。すでに、第3層まで侵入しています」

 

 ミサトの正面に座っている男性職員が伝える。ミサトはそれを聞いて、シゲルの後方にあるモニターに目を向ける。

 

「今日までに完成していた22層の全ての複合特殊装甲体を貫き、本部直上への到達予想時刻は、明朝、0時06分54秒。あと、10時間14分後です」

 

 既にカウントダウンが始まっているモニターの光に照らされながら、シゲルがミサトを見る。

 

「おまけに零号機は未調整のため機動戦はまだ無理ですよ」

「状況は芳しくないわね……」

 

 ミサトがやれやれといった感じで頭を掻く。

 

「そういえば、なぜ今さらドリルなんでしょうか……あれほどの加粒子砲なら、装甲を破るのも可能なのでは……」

 

 マヤが恐る恐るリツコに尋ねた。リツコは眼鏡をあげて答える。

 

「さっき、ダミーバルーンを幾つか出したのを思い出して。あの使徒、銃を構えようとするまで全く反応しなかったでしょ?」

「なるほど。要するに、攻撃してくるものにしか反撃しないわけですか」

「よく判別できますねそんなこと……」

 

 シゲルとマコトが口々に言う。

 

「裏を返せば、相手はそれほど知識にも優れているってことよ」

「その分エネルギーを溜め込んでいるってわけか……」

「迂闊に攻撃もできない、まさに八方塞がりですね……」

「白旗でもあげますか……?」

 

 リツコの使徒に対するあからさまな嫌みに、同感すると応えるが如くシゲルが小さく呟き、マヤとマコトがため息混じりに言う。

 

「そうね。……その前にちょっち時間くれる?考えてみたいことがあるの」

 

 そしてミサトは席を立って会議室を後にしようとした。

 

「日向君、戦自研の極秘資料、諜報部にあったわよね。使うかどうかわからないけど、用意しといてくれる?」

「え?」

「頼むわ。15分で戻るから」

 

 

 

 

 

 ミサトは会議室を出て、エレベーターへと足を進める。

 向かう先は、セントラルドグマ。

 落ち着いて考えたかった。アレのいる場所は、普通は誰も来ない。静かに考えられるはずだ。

 一番下のボタンを押し、ジオフロントの地下を降下していく。しばらくして上部カウンターが赤い文字へと変わり、ミサトはセントラルドグマの再深部、「L-EEE(Level-Triple-E)」へと辿り着く。

 だがその入り口で思わず立ち止まった。なぜか、最終安全装置が解除されていたのだ。

 誰かがいる。でも一体誰が……?

 そう思いながら恐る恐る中に入ると、そこにいたのは、なんとシンジだった。

 

「シンジ君……!?……なんでここに……?」

「ミサトさん!?」

 

 突然の声にシンジも驚いたのか、目を丸くした。

 

「どうして、ここに……?」

「それはこっちの台詞よ……一体どうやって入ったの?」

「すみません、……マスターキー拝借しまして」

「マスターキー?」

「リツコさんの所から。……内緒ですよ?」

 

 ばつが悪そうにシンジは顔の前で人指し指を立てた。

 

 

 

「シンジ君知ってるの?……これが何なのか」

 

 本当は説教の一つでもしなければならない状況なのだろうが、ミサトはそれをあえて見逃し、目の前で十字架に磔にされている、白く下半身のない、一体の巨人を見ながらシンジに尋ねた。

 

「……使徒、ですよね?」

 

 シンジはどう答えようか迷った。この巨人、見たところリリスで間違いはなさそうなのだが、いかんせん顔が妙だった。仮面はゼーレマークが描かれた紫のものではなく、サキエルのような鳥の顔に似たものに変わっていた。

 つまるところ、これはもしかしたらリリスではないのかもしれない、そう思ったのだ。だからといってアダムという保証もないが。ただ言えるのは、これが使徒であるということだけだった。

 結果的には、先ほどの心配は杞憂だったわけだが。

 

「ええ。この星の生命の始まりでもあり、終息の要ともなる、第2の使徒『リリス』」

「リリス……」

「そう。サードインパクトのトリガーとも言われているの。15年前のセカンドインパクトで、人類の半分が失われた。今、使徒がサードインパクトを引き起こせば、今度こそ人は滅びる。一人残らずね。だからこのリリスを守るために、私達は戦っているの」

 

 驚いた。まさかミサトさん達もその理由を知らされているとは。でも実際は、使徒よりヒトの方が怖いのだ。一文字違いで大違いとはよく言ったものだ。

 

「それでエヴァを……」

「けど、それでもやっぱり失敗はつきものよ。シンジ君たちに頼りきっちゃってるけど、このL-EEEへの侵入を防げないこともあるかもしれない。その時は、ここは自動的に自爆するようになっているの。たとえ使徒と刺し違えてでも、サードインパクトを未然に防ぐ。それが私たちの使命なの」

 

 しかし、強気そうな言葉とは裏腹に、ミサトの声は、驚くほど小さかった。

 

「でもね……」

「?」

「何の特別もなしに、ただ適性があるからって理由でエヴァに乗る運命だなんて、本当に残酷よ……」

「……ミサトさん?」

「ねぇシンジ君、エヴァに乗るの、怖くないの……?」

 

 ミサトがシンジに向けた目は、ひどく悲しげだった。言うまでもないが、彼女のその表情も、今は偽善でないことは目を見れば明らかだった。

 

「……怖くないっていうのは、嘘になりますね、正直言うと」

 

 それはそうだ。迫り来る使徒に対して捨て身の覚悟で挑んでいかねばならないエヴァに乗るのは苦痛だ。過去へ遡ってきた現在でさえ、失敗するかもと思うと非常に恐怖だ。

 

「けど、」

 

 今回は前とは違う。みんなを守りたいという想い、前史での経験、それらを繋ぎ合わせて、誰も不幸にならない、そんな世界を作りたい。

 

 二度と悲劇は起こさない。そう誓って生きている。

 

「エヴァに乗って、世界が救われるのなら、僕は最後まで闘いますよ。そのためにいるつもりですから」

「シンジ君……」

「だから、ミサトさんもそんな顔しないでください。我らが作戦部長がそんな顔してたら、僕まで不安になります」

「……なかなかおだてるのが上手ね……。フフッ」

 

 ミサトも、シンジの冗談のような口調に気が緩んだのか安心したのか、顔を綻ばせた。

 

「それはそうと、作戦は大丈夫なんですか?使徒はもう侵入し始めてるんじゃ?」

「それがねぇ、あるにはあるんだけど、あんまり良い案じゃないのよ……あの強力かつ速すぎる加粒子砲のおかげで近接戦闘は無理だし、もはや近づくことすら無理…………しかも他方同時攻撃も可能だから囮を使うのも厳しいのよね…………そこで考えついたんだけど、陽電子砲って知ってる?」

 

 んで、結局「例のヤツ」になるわけか。シンジは即座にそう推察し落胆する。

 

「ええまぁ……。話には聞いたことあります」

「それ使えば理論上は可能なんだけど、多分勝てる確率は1割未満。もっと良い案があればと思ったんだけど……。シンジ君何か良い考えある……?」

 

 とはいえ、シンジもあまりの予想外に描いていたシナリオも先程のミサトの指摘通り全く意味をなさなくなってしまった。おまけに急すぎて新たな作戦も思いつかない。そのことがさらに追い討ちをかけてシンジをゲンナリさせる。

 

「いえ……」

「……そうよね」

 

 二人は苦い顔で首を振った。

 こうなったら仕方がない。ヤシマ作戦をいかに成功させるか。それのみである。

 

「ミサトさん、僕はやりますよ。どんな方法だろうと、最後まで最善を尽くすだけです」

「……そうね。またシンジ君とレイに負担かけちゃうけど……」

「元より覚悟の上です。勝ってみせましょうよ!」

「……ええ。ありがとう、シンジ君!」

 

 二人は目の前の白い巨人に目をむけると、少し、目をつり上げたのだった。

 

 

 

 

 

「それで、その作戦がこれなのね。全く無茶なんだから」

 

 ミサトとリツコは、新たな作戦の準備のために早速現地へと飛んだ。

 

「無茶とはまた失礼ね、残り9時間以内で実現可能で最も確実なもの。どれだけ精度を上げられるか、考えるの大変なんだから」

 

 ミサトは、ヘルメットを被って建設中の作戦現場を進んでいた。そして、列を成す大型ダンプカーの間を通って目的の場所へと向かう。

 

「ヤシマ作戦。その名のごとく、日本全土から電力を接収し、戦自研が極秘に開発中の、大出力陽電子自走砲まで強制徴発。未完成で自律調整できない部分はエヴァを使って精密狙撃させる。国連軍はいいとして、よく内務省の戦略自衛隊まで説得できたわね」

 

「ま、いろいろと貸しがあるのよ」

「……それってもしかして、例の……?」

「ええ。……別に脅しはかけてないわよ?」

「もしそうだとしたら、いくらネルフと言えど貴方を守り切ることなんてできないものね。まあ何はともあれ、『彼女』に感謝ね」

 

 そして、二人は高台に登ると湖の向こうに見える使徒の姿を捕らえた。本作戦はこの場所、下二子山山頂から決行される予定になった。

 リツコは幾分か涼しくなった風に乱された金髪をさっと掬うと、目標を睨み付けて呟いた。

 

「蛇の道は蛇……やるしかないものね」

「ええ。あの子達の為にも」

 

 

 

 

 

『今夜、午前0分より未明にかけて、全国で大規模な停電があります。皆様のご協力を、お願いします。繰り返します。午前0分より未明にかけて……』

「停電か……」

 

 市街地のあちこちで、国民に向けたアナウンスが繰り返されていた。

 避難指定区域の境界近く、臨時の誘導所に設けられた待機スペースで、トウジ、ケンスケ、ヒカリの三人は、遠方に浮かぶ深青色の正八面体を見上げていた。

 

「今回は相当ヤバいんやろな……」

「日本全国から電力を一つにまとめて、敵をやっつけるつもりなんだよ。多分」

「……大丈夫よね」

 

 ヒカリが不安そうに呟いた。

 

「心配するなや委員長。あのシンジのことや。必ず倒してくる」

「……うん」

「それに、綾波もいるしな」

 

 ケンスケがビデオカメラを握り直しながら言った。

 その声はいつもより少しだけ硬かった。

 

「……なぁ、トウジ、委員長」

「なんや」

「碇と綾波に、何か送れないかな」

「送る?」

「うん。激励、みたいなやつ。通信回線に直接割り込むのは無理だけど、本部宛の伝言なら、たぶん届く」

「たぶんて、お前なぁ……」

「危ないことはしないって。前に言われたの、ちゃんと覚えてる」

 

 ケンスケは少しだけ口を尖らせた。

 納得しきっている顔ではなかったが、それでも足は境界線の内側に留まっていた。

 

「だからさ。今回は見るだけじゃなくて、応援する方に回る」

「……ほう。ちょっとは成長したやんけ」

「ちょっとって何だよ、ちょっとって」

「前科持ちやからな」

「まだ未遂だろ」

「未遂で済ませたったんや」

 

 ヒカリが二人を見て、小さく笑った。

 

「いいと思う。私も、何か言いたい」

「ほな、早めにやろうや。作戦始まってからやと迷惑になるやろ」

「了解。じゃあ短く。碇たち、忙しいだろうし」

 

 三人は顔を見合わせ、頷いた。

 

 

 

 

 

 日が西に傾きかけた頃、ラミエルは未だ第3新東京市の地下へ侵攻を続けていた。一方、ヤシマ作戦の準備は着々と進められる。膨大な資材と人が投入され、作戦本拠地周辺は異様な熱気に包まれていた。

 

「使徒の先端部、第7装甲板を突破」

 

 シゲルが使徒の状況を報告する。

 

「エネルギーシステムの見通しは?」

 

 トラックの荷台に作られた仮設の司令室でミサトが状況を確認する。

 

『電力系統は、新御殿場変電所と予備2箇所から、直接配電させます』

『現在、引き込み用超伝導ケーブルを、下二子山に向けて敷設中。変圧システム込みで、本日22時50分には、全線通電の予定です』

 

 オペレーターの通信が次々と流れ込んでくる。

 

「狙撃システムの進捗状況は?」

 

 ミサトが確認を続ける。

 

『組立作業に問題なし。作戦開始時刻までには、なんとかします』

「エヴァ零号機の状況は?」

 

 ミサトは素早く振り返り、次々と指揮を執っていく。

 

「現在、狙撃専用のG型装備に換装中。あと1時間で形に出来ます」

 

 ミサトは不敵な笑みを浮かべた。

 

「それにしても、ここで零号機を使うなんてね。大丈夫なの?」

「シンジ君が要求してきた唯一の条件だからね。というかお願いかしら?まー何にせよ、彼のあの表情に、懸けてみることにするわ。調整も、ギリギリまでやってくれるんでしょ?」

「ま、頼まれたら仕方ないわ。どれだけできるか、時間との勝負ね」

「確かに」

 

 ミサトとリツコは、モニターをじっと見つめた。

 

 

 

 

 

 ネルフ本部の司令室から格納された地上施設を見上げる冬月は、今回の作戦においてゲンドウがどういう思惑を持っているのかを尋ねた。

 

「狙撃は零号機が担当するらしいな」

「ああ」

「……お前は良いのか、それで」

 

 冬月は懸念していた。初号機にはユイが乗っている。防御、つまり盾に回せば、それだけ初号機を失うリスクが上がってしまう。そうなれば、ゲンドウの計画は全て消え去ることになる。

 

「……構わん。それが確実というのならな」

「反論しないのか」

「コアさえ残っていれば、それで良い。いかなる手段を用いても、我々はあと8体の使徒を倒さねばならんのだ」

 

 ゲンドウは、先にある目標に到達するためには犠牲を問わない覚悟を見せる。

 

「……そうだったな」

 

 冬月は、まだ始まったばかりのシナリオに向きなおった。

 

「全ては、それからか……」

 

 

 

 

 

『明日午前0時より発動される、ヤシマ作戦のスケジュールを伝えます。碇、綾波両パイロットは、本日、1930、第2ターミナルに集合。2000、初号機、及び、零号機に付随し、移動開始。2005、発進。同30、二子山第2要塞に到着。以降は別命あるまで待機。明日、日付変更とともに、作戦行動開始を予定』

 

 スピーカー型の通信回線のミサトから、シンジとレイはスケジュールを伝えられた。

 

『以上よ。それまでは自由だけど、本番に備えて、体、休めといてね。じゃあ、また後で』

「「はい」」

 

「SOUND ONLY」のバーチャルディスプレイが消え、通信を終えた二人は、その先のモニターに見えるラミエルを凝視した。だんだんと辺りも暗くなり、ネルフは慎重に1つずつライトをつけるものの、ラミエルからの攻撃はやはりない。攻撃しないものは徹底的に無視を決め込むらしい。

 

「論理的な思考が存在しているのね……」

「うん……厄介なもんだよ。攻撃してこない相手には無駄撃ちしない。徹底してる」

「合理的だわ」

「父さんよりは、分かりやすいかも」

「……どういうこと?」

「あの使徒は、攻撃してくる理由が見えるから。父さんは、何を考えてるのか分からない」

 

 シンジはそこで、少しだけ意地の悪い笑みを浮かべた。

 

「まあ、撃っても効かなそうだし」

「……碇司令を撃つの?」

「いや撃たないけど」

「……そう」

「……綾波、今ちょっと安心した?」

「……少し」

「そっか。……僕も少し安心した」

 

 冗談のつもりだった。

 けれどレイがあまりにも真面目に受け取るものだから、シンジは思わず苦笑した。

 

 

 

 

 

 完全に日が落ちた第3新東京市では、ラミエルがサーチライトの光で照らされていた。巨大なモニュメントのように街の上空に浮かび上がるラミエルは、その透明な体表ゆえか、照らされた光を芦ノ湖の表面に反射させ、まるで宝石のような輝きを放っている。

 

『敵先端部、第17装甲体を突破』

 

 その様子を目視でギリギリ見えるかどうかの作戦本拠地周辺では、ヤシマ作戦の準備が滞りなく進められていた。

 

『ネルフ本部到達まで、あと4時間55分』

『西箱根新線及び、南塔ノ沢架空3号線の通電完了』

 

 連結したディーゼル列車に乗せられて大量の変電設備が運び込まれる。他方からは、陸路で輸送を行っているトラックが次々と到着する。

 

『現在、第16バンク変電設備は、設置工事を施工中』

『50万ボルト通常変圧器の設置開始は予定通り。タイムシートに変更なし』

『第28トラック群は5分遅延にて到着。担当者は結線作業を急いでください』

 

 全国の電源を集めるための変圧器が郡を為してひしめき合っている。なにせ一回撃つのに1億8000万kwも要するのだ。まさに国を巻き込んでの大事件だ。

 

『全SMBusの設置完了。第2収束系統より動作確認を順次開始』

『全超伝導・常超飽圧対象変圧器集団の開閉チェック完了。問題なし』

 

 そして、エヴァが射撃を行う場所に陽電子砲がクレーンで運び込まれる。

 

「これが、大型試作陽電子砲ですか」

 

 マコトは発射台に配置される鉄の塊を見て息を呑んだ。大型の船くらいもある常識外れの巨大なライフル、その大きさだけでも恐ろしく思えるのに、ここからあの使徒の加粒子砲以上の高エネルギーが凝縮され撃たれるなど、全く想像がつかない。

 

「急造品だけど、設計理論上は問題なしよ」

 

 ガコンという音とともに、巨大陽電子砲の設置が完了する。リツコは組みあがった作戦の要を見上げた。

 

「零点規制は、こちらで無理やりG型装備とリンクさせます」

 

 マヤはノートパソコンに向かって問題点を解決していく。

 

「正確さ重視で、お願いね」

「はい!」

 

 

 

 

 

「それじゃ改めて、本作戦における各担当を伝達します」

 

 作戦現場に遂に2体のエヴァが運び込まれ、サーチライトに照らされる。ミサトは手を腰に当てて、現場へと召集されたシンジとレイに指示を出した。

 

「まずはレイ、零号機で砲手を担当ね」

「はい」

「シンジ君は初号機で、防御を担当」

「はい」

 

 二人の返事の後で、リツコがより詳細な指示を説明する。

 

「レイ、いいかしら。今回の陽電子砲を使用するに当たっては、非常に精度の高いオペレーションが必要になります。陽電子は、地球の自転、磁場、重力の影響を受けて直進しません。その誤差を修正するのを忘れないでね。正確に、コアの一点のみを貫くのよ」

 

「あの、コアも分裂する可能性があるのでは……?」

 

 リツコの理路整然とした説明を聞いていたレイが、素朴な疑問を覗かせる。

 

「大丈夫。相手のコアは基本的には正八面体の中心部にあると考えられるわ。それに、狙撃位置の特定と、射撃誘導への諸元は、全てこちらで入力するから。あなたはテキスト通りにやって。最後に真ん中のマークが揃ったタイミングで、スイッチを押せばいいの。あとは機械がやってくれるわ」

 

 リツコが説明する背後では、零号機を射撃位置へ輸送する作業が進められていた。

 

「ただし、狙撃用大電力の、最終放電集束ポイントは、一点のみ。ゆえに零号機は、狙撃位置から移動できません」

「……はい」

 

 要するに、逃げることができない。もし外れて敵が撃ち返してきたら、その時はかなり危険。一撃で撃破することだけを考えねばならないというわけだ。

 

「……リツコさん。防御のためのアイテムは?」

 

 レイが身体を強張らせたのに気づいたのか、シンジがリツコに尋ねた。

 

「シンジ君の初号機には、SSTOの底部を再利用した盾を用意してあるわ。こっちも急造品で申し訳ないけど、使徒の砲撃にも計算上17秒は耐えられるようになってるから」

「わかりました」

「そろそろ時間ね。二人とも着替えてちょうだい」

 

 ミサトが腕時計を見て言った。

 

「「はい」」

 

 だがシンジは動こうとしなかった。シンジは先に去るレイとミサトの2人が見えなくなったのを見計らってリツコを呼び止めた。

 

「リツコさん、少し、頼まれてくれませんか……?」

「……?」

 

 

 

 仮設の更衣室は一つしかない。そのため、シンジとレイ、二人の間は薄っぺらいシートで視界を遮られているだけだ。レイが着替える姿が黒いシルエットになってシートに映る。シンジは既に着替え終わり、近くにあるベンチに座る。シートと床の間からは、レイの素足が見える。

 

「……あの、碇君」

「ん?どうかした?」

「狙撃……、どうして初号機じゃないの……?」

「えっ?」

 

 レイは変だと思った。仮にも零号機を起動させることができたのは今日が初めてなのだ。そんな自分が、作戦成功率1桁の攻撃の駒として起用されるのは大丈夫なのか。それよりも、初号機で2回も勝利しているシンジの方が絶対に良いと考えるはず。なのになぜ。

 

「碇君の方が、確率は高いわ……」

 

 決して、狙撃をするのが怖いのではない。ただシンジの方が、圧倒的に、自分よりも信用できるのだ。尤も、レイ自身はそのことには気づいていないが。

 

「いや、だってさ、僕が狙撃をやったら、綾波が前に出ることになる。それだけは、嫌だったんだ」

「……どうして?」

「理由は、うまく言えないけど。綾波を盾の前に立たせたくない。それにおそらく……」

「……おそらく?」

「……ううん、何でもない。それに、狙撃なら綾波の方が得意だろうし。投擲の腕、スゴいらしいじゃん?」

 

 レイはプラグスーツのスイッチを押す。スーツ内の空気が抜け、身体にフィットした。

 

「そう、なのかしら……」

 

 レイはシンジの曖昧な返事に、釈然としないものを感じて首を傾げた。だが、カーテンの隙間から一瞬見たシンジの柔らかな微笑みに、レイはそれ以上詮索するのをやめたのだった。

 

 

 

「シンジ君、レイ、ちょっといいかしら?」

「「?」」

 

 着替えた二人が外に出ると、ミサトがヒョイヒョイと手招きして呼んでいた。

 

「本部宛に伝言が届いていたみたいなの。はいこれ」

「あ、ありがとうございます?」

「碇君、誰から?」

「えっと……」

 

 シンジはボイスレコーダーの再生スイッチを入れる。聞こえてきたのは、陽気な友の声だった。

 

『どうも、相田です。碇、綾波、頑張ってくれよ。こっちは大人しく待ってる。だから、そっちも無事に帰ってきてくれ』

『洞木です。あの、二人とも、無理はしないでね。……って言っても、無理しなきゃいけないのかもしれないけど。でも、帰ってきて』

『なんや委員長、湿っぽいなぁ。こういうんはもっとバシーッとやるもんやで。よっ、シンジ、綾波。俺や。こっちはちゃんと待っとる。せやから、絶対勝って帰ってこい!』

 

 相変わらずの3人の声を聞いて、シンジは微笑んだ。レイもどうやら、彼らの励ましの声に安心したのだろう、強張っていた表情も緩んだようだった。

 それを見ていたミサトは、2人に良い友達ができたことを嬉しく感じたのだった。

 

 

 

 街の明かりが消え始める。それは、全国各地の電気が全て第3新東京市へと送られ始めたことを意味する。作戦開始まで、あと僅か。

 

「行こう、綾波」

「ええ」

 

 再度気を引き締めた2人は、それぞれのエヴァへと乗り込んでいった。

 

 

 

 

 

『ただ今より、午前0時、丁度をお知らせします』

 

 モニターのカウントが一斉に「0」へと変わる。

 

「時間です」

 

 マコトがそれを見て予定が来たことを告げる。

 

「レイ、シンジ君、始めるわよ」

「「はい」」

「私たちもついてるから。絶対勝って帰るわよ!」

「「はい!」」

 

 ミサトはコックピットに座るシンジとレイに通信を入れ、激励の言葉をかけた。

 

「ヤシマ作戦開始!陽電子砲狙撃準備、第1次接続開始!」

 

 ミサトの号令と共に、今まで待機中にあったものが一斉に動き始める。

 

「了解、各方面の1次及び2次変電所の系統切り替え」

 

 マコトが順を追って作業を進める。それに続き、次々とオペレーターの通信が始まる。

 

『全開閉器を投入、接続開始』

『各発電設備は全力運転を維持。出力限界まであと0.7』

『電力供給システムに問題なし』

『周波数変換容量、6500万kWに増大』

『全インバータ装置、異常なし』

『第1遮断システムは順次作動中』

「第1から第803管区まで、送電回路を開け!」

 

 マコトが次の指示を出す。

 

『電圧安定、系統周波数は50Hzを維持』

「よし。第2次接続!」

 

 ミサトが次のフェーズへの移行を宣言する。

 

『新御殿場変電所、投入開始』

『新裾野変電所、投入を開始』

『続いて、新湯河原予備変電所、投入開始』

『電圧変動幅、問題なし』

「第3次接続!」

 

 オペレーターの各報告を受けてミサトが指示を続ける。

 

「了解、全電力、二子山増設変電所へ」

 

 マコトがミサトの指示をつなぐ。

 

『電力伝送電圧は、最高電圧を維持』

『全冷却システムは、最高出力で運転中』

『超伝導電力貯蔵システム群、充填率78.6%』

『超伝導変圧器を投入、通電を開始』

『インジゲータを確認、異常なし』

『フライホイール回転開始』

『西日本からの周波数変換電力は最大値をキープ』

 

 大量のケーブルでつながれた機材に電力が供給されていく。

 

「第3次接続、問題なし」

 

 現状、作業は順調であることをマコトが確認する。

 

「了解、第4、第5要塞へ伝達。予定通り行動を開始。観測機は直ちに退避」

 

 ミサトの合図で、地上に設置されていた攻撃ポッドから大量のミサイルが発射される。時間稼ぎにもならないかもしれないが、陽電子砲に攻撃させないようにするための撹乱、つまりは保険である。

 ミサイルは群れとなってラミエルへ一直線に向かっていく。が、射程範囲内に敵を捕らえると、ラミエルは小さなパーツに分離して時計のような陣形を取ると、荷電粒子砲を照射しながらぐるりと一回転させて応戦する。さらに、それよりも強力な砲撃で攻撃を放った要塞を破壊し始める。

 

「第3対地攻撃システム、蒸発!」

 

 マコトが驚きと焦りの声で伝える。

 

「悟られるわよ、間髪入れないで。次!」

 

 ミサトは怯まずに次の攻撃を指示する。丘の上に設置された砲撃要塞から長距離射撃が実行される。砲弾はラミエルの至近距離まで到達するも、A.T.フィールドによって弾き飛ばされてしまう。使徒は砲台のような形に変形すると、強力なエネルギーを一点に集中させて荷電粒子砲を放つ。

 

「第2砲台、被弾!」

 

 主モニターに映し出された攻撃用マップが次々と赤色へと塗り替えられていく。

 

『第8VLS、蒸発!』

『第4対地システム、攻撃開始』

『第6ミサイル陣地、壊滅!』

『第5射撃管制装置、システムダウン!』

『続いて、第7砲台、攻撃開始』

 

 予想通り、通常兵器はラミエルに対しては全く歯が立たなかった。事前に分かっていることとは言え、ミサトを始めとするネルフ本部の焦りは強まっていく。

 やはり頼みの綱は、大出力型第2次試作自走460mm陽電子砲のみとなるのか。

 

『陽電子予備加速器、蓄電中、プラス1テラ』

 

『西日本からの周波数変換電力は3万8千をキープ!』

『電圧稼働指数、0.019%へ』

『事故回路遮断!』

『電力低下は、許容数値内』

『系統保護回路作動中。復帰運転を開始』

『第4次接続、問題なし』

 

 通常攻撃でラミエルの目を眩ましている間に、零号機の陽電子砲に繋がれた充電装置に次第に湯気が立ち込めてくる。

 

「最終安全装置、解除!」

 

 ミサトが号令を掛ける。

 

「撃鉄起こせ!」

 

 マコトの指示で、ヒューズが装填され、うつ伏せの体勢で陽電子砲を構えた零号機の顔の前に照準が下りる。

 

「射撃用所元、最終入力開始!」

 

 マヤが陽電子砲のステータスを報告する。

 

『地球自転、及び、重力の誤差修正、プラス0.0009』

『射撃は、目標を自動追尾中』

『陽電子砲、加速磁場安定』

「照準器、調整完了」

 

 マヤが零号機側の準備が整ったことを伝える。

 

『陽電子加速中、発射点まであと0.2、0.1』

「第5次、最終接続!」

 

 続いて、ミサトが次の段階へ進めるように指示を出す。

 

「全エネルギー、超高電圧放電システムへ!」

 

 マコトが現場へ指示を回す。

 

『第1から、最終放電プラグ、主電力よし!』

『陽電子加速管、最終補正パルス安定。問題なし』

 

 

 

 外で慌しく準備が進められる中で、シンジは迫り来る勝負の時に備えて目を閉じたまま深呼吸を繰り返していた。初号機の手には盾が握られている。思っていたよりも重く、重厚な感触が伝わってくる。

 今回の使徒は予想を遥かに上回る強さだった。前の第5使徒、この世界では第6の使徒となっているラミエル。まさかの変形スタイルに驚愕した。

 

『カウント、開始します!』

 

 もうこの先、自分の経験ではおそらく通用しない。今回も、勝てるかどうかは未知数だ。だがここを乗り切らねば、全てを失う。

 まだ戦いは始まったばかり。こんなの、序章にすぎない。

 

「明日」が待ってるんだ。だから、勝つ……!!

 

 

 

「5、4、3、2、1……」

「発射!」

 

 ミサトの合図でレイが引き金を引いた。充電された電力が、陽電子砲の先端から一気に放出される。陽電子砲の放ったエネルギーの塊は、ラミエルのA.T.フィールドを貫通し、コアを目掛けて尚も突き進んだ。ラミエルは体を黒くして硬直し、悲鳴を上げた後に大量の血を第3新東京市の辺り一面に撒き散らす。

 

「やったか!?」

 

 ミサトは拳を握り締めてモニターを見る。

 しかし、ラミエルは元の正八面体の姿に戻ると、ひび割れた体を瞬時に修復してのけた。

 

「……外した!?」

「まさか、このタイミングで!?」

 

 ミサトとマコトが声をあげた直後、すぐにモニターに変化が起こる。マヤがそれに気づいてすかさず報告を入れる。

 

「目標に、高エネルギー反応!」

「総員、直撃に備えて!」

 

 ミサトが叫んだ瞬間、ラミエルは海星のような形体に変化し、シンジたちのいる方へ向かって特別強力な荷電粒子砲を発射した。

 

「キャアッ!!!」

「う、くっ!」

 

 シンジはギリギリのタイミングで零号機の前に立ちはだかった。

 ラミエルの放った一撃は、矢のように鋭く山に到達すると、その高温であらゆるものを融解させた。

 

 

 

 

 

「……エネルギーシステムは?」

 

 指揮車を襲った大きな揺れで転倒させられたミサトは、歯を食いしばりながら起き上がってマコトに聞く。マコトは注意深くモニターを見据えて答えた。

 

「まだいけます。既に、再充填を開始!」

「陽電子砲は?」

 

 ミサトは膝をついたまま今度はマヤに尋ねる。

 

「健在です、現在砲身を冷却中、ですが、あと一回撃てるかどうか……」

 

 零号機と初号機は、後ろに吹き飛ばされて体勢を崩していた。

 

「確認不要、やってみるだけよ。レイ、大丈夫?急いで、零号機を狙撃ポイントに戻して」

「はい!」

 

 

 

 レイはかなり焦っていた。さっきの砲撃は、完全に逸れていた。初号機が盾を持って庇ってくれたものの、その盾は全く融解していない。たぶん、使徒自身の砲撃システムが調整し終わっていない状態で発射したためだろう。

 けれど、それなのにあの威力。もしかしたら、あの盾もそんなに持たないかもしれない。立ち込める煙のなかで、レイは歯を食い縛った。

 レイは、打ちつけられてズキズキと痛む身体を必死に起こし、ライフルに手をかける。這うようにして移動し、ライフルを狙撃ポイントに戻すと、もう一度目に力を入れ、対岸にいる海星形のラミエルに向き合った。

 

「銃身、固定位置!」

 

 マコトが状況を伝える。

 

「零号機、G型装備を廃棄、射撃最終システムを、マニュアルに切り替えます」

 

 マヤが第2射の準備に入る。その時、作戦指揮車に緊急警報が鳴り響いた。

 

「敵先端部、本部直上、ゼロ地点に到達!」

 

 ラミエルのドリルが地上施設の装甲を全て突破したのだ。ミサトは焦りを抑えきれずに声を上げた。

 

「第2射、急いで!」

「ヒューズ交換、砲身冷却終了!」

「射撃用所元、再入力完了。以降の誤差修正は、パイロットの手動操作に任せます!」

 

 マヤの指示を受け、レイは再び敵のコアに照準を合わせようと息を吐きながら微細な調整をし始める。しかしその時、中心部が微かに揺れ動く……。

 

「目標に、再び高エネルギー反応!」

 

 マヤが使徒の攻撃を察知する。

 

「やばいっ!」

 

 ミサトがモニターの方に振り返って叫ぶ。

 ラミエルは再び最強力の荷電粒子砲を発射した。今度は逸れることなく、零号機目掛けて一直線に向かってくる。

 

「……っっ!!!」

 

 レイは咄嗟に目をつぶり、声にならない声を上げた。もはや半分が消えかかっていた下二子山に、またしても目の眩むような光と焼けつくような高温が降り注ぐ。

 ミサトが叫んだ。

 

「シンジ君!!」

 

 その叫びにレイがハッと目を開けると、そこには盾を構えて荷電粒子砲を防ぐ初号機の姿が見えた。

 

「碇君っっ!?」

 

 初号機の持つ盾がどんどんと溶けていく。そして端から次第に崩壊し始める。

 

「盾がもたない!」

「まだなの?!」

「あと20秒!」

 

 マコトがすぐさま報告を入れる。それと同時に、レイの焦りの声がスピーカーから聞こえてきた。

 

『ミサトさん、早くっ、このままじゃ、碇君が……っ!!!』

 

 盾は高エネルギーを防ぎきれない限界まできていた。

 

『リツコさん!!!』

 

 シンジの叫ぶ声が聞こえた。それを聞いて、リツコは顔を険しく歪めた。それでも歯を食いしばり、すかさず手元のタッチパネルをタップした。

 

「ちょ、リツコ一体何を……!?」

 

 遂に盾は加粒子砲の勢いに耐えられず、攻撃を直に受ける中央部から完全に崩壊する。

 その瞬間、シンジの乗る初号機が強力なA.T.フィールドを展開した。状況を理解したレイは目を見開いた。

 

「碇君!!!」

『初号機、A.T.フィールド展開中!シンクロ率95%を越えます!!』

「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

 シンジは、A.T.フィールドで敵の攻撃を何とか弾き返し、何がなんでも防ごうとしているのだ。

 けどそれがどれだけ危険なことか、レイは知っている。全く動じず避けようとしないシンジに、レイは必死で叫んだ。

 

「碇君ダメ、逃げてぇっっ!!!!」

「大丈夫だっっ!!」

「っ!!」

「大丈夫、綾波は絶対……僕が、守ってみせる……っ!!!!」

『L.C.L.温度上昇、現在46度!このままでは……!』

「頼む……狙撃っっ!!!」

「くっ……!!」

 

 その時、充電完了のサインがモニターに現れた。第2射が可能な状態になったその瞬間、レイの照準もラミエルの中心を捉える。レイは間髪入れずにトリガーを引いた。

 発射された陽電子砲は、ラミエルのコアを一直線に貫いた。ラミエルは攻撃を止め、正八面体へ戻り後方に火を吹いて爆発した。そして次の瞬間、突然無数の棘状の形体に変化すると、悲鳴を上げながらコアを破裂させる。ミサトは勢いよくガッツポーズをした。

 

「やったっ!」

 

 ジオフロントの天井を突き破って降下していたラミエルの先端は、血の雨に変わってネルフ本部へと降り注いだ。

 

 

 

「碇君っ!!!」

 

 遥か彼方でラミエルが崩壊していくのを横目に見ながら、レイは照準機を荒々しくもぎ取り、一目散に初号機に向かった。

 湖へ倒れこんだ初号機はぐったりとしていた。レイは必死でプログレッシブナイフを初号機に突き立て、無理矢理エントリープラグを取り出した。

 

「返事して!碇君っっ!!」

 

 そのまま地上に運ぶと、自らも零号機から駆け降り、初号機のプラグへと駆け寄ってハッチをこじ開けようとする。エントリープラグは焼けるほど高温になっていたが、レイは火傷を負うことも厭わず、手に渾身の力を込めて回した。

 

「碇君!しっかりして!!碇君っ!」

 

 ハッチが開くのと同時にレイは叫んだ。シンジはその呼びかけに気づいて、眠りから覚めるようにして顔を上げる。その無事な姿を見て安堵したレイは、乱れていた呼吸を沈める。

 

「良かった……何とか……なったみたいだね……」

 

 弱々しい声でそう呟きながらシンジは頬笑んだ。それを聞いたレイは、ひどく心を揺さぶられた。

 

「どうして……そんなに、無茶するの……っ」

 

 レイは分からなかった。どうしてシンジは逃げなかったのか。危険だとか苦しさだとか、ヒトならば自分自身が一番よくわかってるはずなのに。身を挺して庇ってくれた理由が分からなかった。

 碇君に、代わりなんかいないのに……。

 

「泣いてるの……綾波?」

「え……?」

 

 レイが目に手をあてると、それは指を伝って流れてきた。レイは戸惑った。今まで、知ってはいたけれど自分には経験のないことだった。

 

「これが、涙……?……泣いているのは、私……?」

 

 シンジはレイの顔を覗き込む。レイはなぜか見られたくないと感じて、顔を横に背けた。

 

「ごめんなさい……私、どうして……」

 

 シンジは、言葉を探しているレイを見て、胸の奥が少しだけ緩むのを感じた。

 彼女の言いたいことは、うまく言葉にならなくても伝わっていた。

 

「……心配してくれてありがとう、綾波」

「っ……!」

「ごめん、綾波をどうしても、助けたくってさ……」

 

 シンジの脳内には、どうしても前世でのラミエル戦、そして、第16使徒のアルミサエル戦が頭に残っていた。レイは2回とも、自分を守ってくれた。しかもアルミサエルの時は、自分の命を捨ててまで。

 だから今回は必死だった。零号機を狙撃に回してもらったのも、リツコに頼んでL.C.L.圧縮濃度を一時的に上げてもらったのも、その思いからだったのだ。

 

「行こっか、綾波?」

 

 シンジはゆっくり立ち上がった。だが、さっきA.T.フィールドを全力展開したときに本気になりすぎたらしい、一歩踏み出そうとして上手くバランスを取れずに倒れかけてしまう。

 

「危ない……!」

「っとっ!?」

 

 レイは思わず手を伸ばしていた。その華奢な腕にシンジの上半身が倒れ込む。

 

「……と、ご、ごめん。だいぶ疲れたらしいや……」

「……足下、気をつけて……」

 

 レイはそう言いながら、シンジの腕を自分の肩に回した。

 

「……うん」

 

 レイの涙は止まらなかった。だが、レイは、その暖かな感触に、不思議な安堵感と幸福感を抱いた。

 シンジが自分を守ってくれたこと、生きててくれたこと、その全てが、レイにはとても嬉しいことだった。

 支えられつつも、なるべく自分で歩こうと必死になるシンジを見て、レイは自然と、今までしたことのなかった表情を、

 優しい笑顔を、浮かべたのであった。

 

 

 

 

 

 その頃、血でも流れたかのような赤い線の引かれた地面に、一人の少年が足をついた。少年の後方には、5つが開かれ、4つがまだ閉じられた状態の棺。

 

「分かっているよ。あちらの少年が目覚め、概括の段階に入ったんだろう?」

 

 棺から起き上がった少年は、宙に浮かぶモノリスを見上げた。

 

「そうだ。死海文書外典は掟の書へと行を移した」

 

 少年の目の前には巨大な穴が掘られていた。そしてそこには、一体の白い巨人が寝かされていた。

 

「契約の時は近い」

 

 そう言い残して消える黒いモノリスを見届けながら少年は小さく微笑んだ。

 

「また3番目とはね。変わらないな、君は」

 

 少年は少し長めのロマンスグレーの髪を揺らしながら後ろへと振り返り空を仰ぐ。その視線の先には、紫に色づく惑星が、黒い空に、さながら宝石のように輝いていた。

 

「逢える時が楽しみだよ、碇シンジ君」

 

 渚カヲルは、不敵な笑みを浮かべ、

 そう、小さく、呟いた……。

 

 




☆あとがき(2019.05.27)

…………長っ!?!?

書き終わってから知りました。まさかこの本編全部で50KBだとか。ヤバい、ヤバすぎる……。(ちなみに今まで大体30KB近辺)

いや予想はしてたよ、色々台詞あるから、それ全部入れようとしたらこりゃ長くなるだろうとは思ったけど……。

……ま、いっか。これもシナリオの範囲内だ。(適当)



それと、補足説明幾つか。(長くはなりませんので。)

・序盤に出てきた「MQ-9」は無人攻撃機です。あれです、「シン・ゴジラ」の「ヤシオリ作戦」で使われたやつ。

・タイトル「Battaile Decisive」……そのままかよ!と思われるでしょうが、押し通します。EM20は至高のBGMです。

・前回のあとがきで述べた「序」での不可解な点というのがラミエルのドリルなんです。あの変形なら、普通にレーザーで装甲を突き破ってきた方が良いだろうに……。てなわけで今回は、攻撃対象でないものは撃たず、エネルギーを溜め込んでおくという「シン・ゴジラ」ばりの設定で通しました。

・本作で第一部は終了です。次回から物語は大きく動き出します。新たなシナリオ、その先に待ち受ける運命は……。

次回、閑話休題!だけど結構重要かな?♪







★2026.05.28 追記

現在公開中の本文は、過去に投稿しました内容を現在の制作状況に合わせて再調整したものです。
2019年当時、衝動のままに書いていた勢いを残しつつ、現在の自分が必要だと判断した部分にのみ手を入れました。
作品はまだ途中です。
ですが、終わらせるための作業を再開しています。
これまで読んでくださった方、待っていてくださった方に感謝します。
引き続き、よろしくお願いいたします。
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