E.V.A.~Eternal Victoried Angel~   作:ジェニシア珀里

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破章:Dep-2.00
第捌話 式波


 

 

 

 

 北極・NERV旧北極基地、ベタニアベース。

 

『Start entry sequence.(エントリースタート)』

 

 その地下でコックピットに乗り込んだ少女は、オペレーターの通信が飛び交う中で、肩で息をしながら待機していた。少女の顔にはメット型のバイザーが装着され、頭部の殆どが覆われている。

 

『Initializing L.C.L. analyzation.(LCL電荷を開始)』

『Plug depth stable at default setting.(プラグ深度固定、初期設定を維持)』

『Terminate systems all go.(自律システム問題なし)』

『Input voltage has cleared the threshould.(始動電圧、臨界点をクリア)』

『Launch prerequisites tipped.(全て正常位置)』

『Synchronization rate requirements are go.(シンクロ率、規定値をクリア)』

『Pilot, Please specify linguistical options for cognitive functions.(操縦者、思考言語固定を願います)』

『あ、えーっと……、初めてなんで、日本語で』

 

 オペレーターに呼ばれたことに気づいた少女は、呼吸を一旦沈めてからそれに答えた。

 

『Roger.(了解)』

『ぐっ……っ』

 

 言語プログラムが日本語へと切り替えられていく。そのシステム表示を確認しながら、少女はコックピットの上で、慣れないプラグスーツに体を馴染ませるように体を伸ばした。

 機内の様子をモニターを通してずっと見ていた一人の男が、彼女の通信が一通り終わったことを確認すると、守秘回線を厳かに繋ぎ、話し始めた。

 

「新型の支給、間に合わなかったな」

『胸がキツくて嫌だ』

 

 男の声に少女は少し気だるそうに、愚痴をこぼした。

 

「おまけに急造品の機体で、いきなり実戦とは、真にすまない」

『……やっと乗せてくれたから、いい」

「お前は問題児だからなぁ」

 

 男は自嘲気味に微笑んだ。少女がコックピットの座席にすっぽりと体をフィットさせるのが見える。

 

「新型はこの仕事が終わったら向こうで必ず渡す。俺は先に行ってるから、後から予定通りにな」

『分かってるって。ボディーガードお疲れ様♪』

「まあ、あとは頼むよ」

 

 その言葉をよそに、少女は機内の計器をピコピコといじり始めた。

 

『動いてる、動いてる。いいなあ、ワーックワクするなあ♪』

「まったく……。相変わらず人の話を聞いてるんだか聞いていないんだか……」

 

 少女が「コレ」に乗るのは初めてなのだ。新たな経験に心が躍るのも仕方がないことではある。男が立ち上がったその時、一通り感触を確かめてぐっと気合を入れた少女が宣言するのを聞いた。

 

『さて、エヴァンゲリオン仮設5号機、起動!』

 

 その掛け声と共に、メットの“EVANGELION-05”の文字が発光し、コックピットが一気に作動し始める。

 男はフッと微笑むと、モニターの電源を落として会議室を後にした。

 

 

 

 地下通路内では、四本の脚の上に硬い殻の胴体が乗り、そのヤドカリのような胴体から首長竜の骨のようなものが伸びているという奇妙な形をした生物が、目を光らせ首をぐねぐねと揺らしながら高速で進行していた。戦車隊がそれを追撃するも全く効果がみられず、オペレーションルームの司令官が焦りを見せていた。

 

「Defend the Limbo Area at all costs! We cannot allow it to escape from Acheron!(辺獄エリアは死守しろ!奴をアケロンに出すわけにはいかん!)」

「How can a containment system as secure as Cocito be neutralized……(まさか封印システムが無効化されるとは……)」

「It was within the realm of possibility.(あり得る話ですよ)」

 

 激を飛ばす三人の司令官たちの背後に、先程まで少女と会話していた男が現れていた。

 

「On its own,humanity isn't capable of holding the angles in check.(人類の力だけで使徒を止める事は出来ない)」

 

 男は呆然と見ている司令官に対して流暢な英語をまくし立てた。その表情は完全に余裕の笑みだった。

 

「The analysis following the permafrost excavation of the 3rd Angel was so extensive all that was left were some bones and that was the conclusion.(それが永久凍土から発掘された第3の使徒を細かく切り刻んで、改めて得た結論です)」

 

 男はそう言うとジェット機用のヘルメットを被り、さっと手を上げてその場を去っていった。

 

「That said.Gotta run!(てな訳で、後はヨロシク!)」

 

 

 

 男が飛行機に辿り着いた頃には、地下から響いてきていた爆発の振動が、次第に地上の方へと移動しているのが分かった。

 

「Der Lehrer wird in Kürze abheben. Bitte beeilen Sie sich.(先生、まもなく離陸します。お急ぎ下さい。)」

 

「Okay, ich weiß.(オーケー、分かってるよ。)」

 

 ドイツ語で話すパイロットに促され、加持は飛行機に乗り込んだ。

 

「アイツのことだから恐らく大丈夫だろうが……無茶はするなよ、……マリ」

 

 男は「マリ」と呼んだ少女を気遣いながら、シートベルトをしっかりと締め、メットのシールドを眼前に掛け降ろした。

 結局、アケロンに這い上がった第3の使徒と、それを追ってきた仮設5号機の戦いはまさに死闘の近接戦闘となり、最後は仮説5号機が片腕を犠牲にしながら使徒のコアを握り潰した。

 使徒のコアから血が噴出すと同時に、仮設5号機は脱出ポットのロックを外し、エントリープラグを射出。脱出ポッドのジェットが点火されて、少女の乗ったプラグは、その場から上空へ高く飛ばされた。

 次の瞬間、仮設5号機は使徒の形象崩壊と同時に自爆し、巨大な爆発をもって施設ごと吹き飛ばしてしまったのだった。

 

 

 

 仮説5号機が第3の使徒を槍手で柱に突き立てた辺りから、全てを飛行機から眺めていた男は、遥か上空を飛びながらその様子を見届けると、軽くため息をついて安堵した。

 

『Target obliterated.(目標消失)』

『Unit Five has been vaporizerd.(5号機は蒸発)』

『Pilot appears to have ejected.(操縦者は脱出した模様)』

 

 メットには通信用のヘッドホンとマイクも装着されており、オペレーションルームからの情報が逐一耳に入ってきていた。

 

「5号機の自爆プログラムは上手く作動してくれたか……。やれやれ、折り込み済みとはいえ、大人の都合に子供を巻き込むのは気が引けるもんだ……」

 

 そう、実は5号機の自爆どころか、第3の使徒の覚醒までこの男:加持リョウジは全てを仕組んでいたのだった。そして加持は、海面を見ながらそのまま飛び去っていった。

 

「だが……あの子たちは一体何だってんだ……?」

 

 加持が最後に発した小さな呟きは、飛行機のエンジン音に掻き消される。彼の手に握られていた端末には、一人の男の経歴書が映し出されていた。

 

 

 

 

 

 緊急脱出した少女は、エントリープラグごと海に不時着した。

 

「……っててて……。エヴァとのシンクロって聞いてたよりきついじゃん……」

 

 少女は、プラグのハッチから出ると、ヘルメットを脱いで長い髪を風に晒す。北極とはいえ、セカンドインパクトの時の地軸の歪みのせいで、氷河はおろか、今はさほど寒くもない。

 

「まあ、生きてりゃいいや……どうせ、こっからが本番なんだろうし」

 

 プラグの上に立ち、戦闘跡地に高く上った光の十字架を眺めた。同時に、この仕事が終わったことでとうとう帰れることになった故郷へと、思いを馳せた。

 

「自分の目的に大人を巻き込むのは気後れするなぁ……」

 

 そして、先程まで共に戦った戦友への感謝を胸に秘め、頭から血を流しながらも、真希波・マリ・イラストリアスは晴れやかな笑みを浮かべたのだった。

 

「さよなら、エヴァ5号機。お役目ご苦労さん」

 

 

 

 

 

《E.V.A.~Eternal Victoried Angel~》

 

【第捌話 式波】

【Episode.08 I missed you.】

 

 

 

 

 

「3年ぶりだな、二人でここに来るのは」

 

 ゲンドウとシンジは、ユイの墓がある場所へ訪れていた。地平線の向こうまで続く砂漠地帯。そこには無数の石碑がサボテンのトゲのように立っていた。

 

「そうだね。僕は、あの時逃げ出して……そのあと来てないや。ここに母さんが眠ってるってピンとこないんだ。顔も覚えてないのに」

 

 シンジは、母の墓前に花を手向け、ひざまずいていた。だが、内心では爆笑していた。

 ここにいるわけないだろっての。全く、母の居場所を知っているにも関わらず、親子二人して何してんだか。声を出して笑おうとするのをシンジは必死でこらえている。

 

「人は思い出を忘れることで生きていける。だが、決して失ってはならないものもある。ユイはそのかけがえのないものを教えてくれた。私はその確認をするためにここに来ている」

 

 ゲンドウはユイの石碑から一歩引いたところに立って淡々と語る。その言葉が、シンジの我慢に追い討ちをかけているとは、ゲンドウはわかるはずもない。

 その思い出を取り戻そうとしてるんでしょうが、アンタは。

 

「写真とかないの?」

 

 シンジはゲンドウの方は見ずに立ち上がった。今振り返れば、笑っているのがバレてしまう。

 

「残ってはいない。この墓もただの飾りだ。遺体はない」

 

 でしょうよ。

 ゲンドウはシンジの背中から視線を外した。

 

「先生の言ってた通り、全部捨てちゃったんだね」

「すべては心の中だ。今はそれでいい」

 

 はいはい。演技するのも大変なものだとシンジは思った。

 

 

 

 

 

 本当なら来なくても良かったのだが、数日前、ミサトから話を聞いて、この墓参りに来ることにしたのだ。

 

『へぇ、母さんの命日、そんなに早いんだ……』

 

 シンジはミサトから伝えられたことを他人事のように聞き流した。一度経験していることが狂ってくると、色々とこんがらがってくるため、もはやあまり考えないようにしている。それにシンジ自身もイレギュラーであるし、前史とは違うのは明確なのだ。むしろ完全に刷新されたシナリオでスリルを味わうのもアリかもしれないと呑気なことも思い始めている。………冗談です、はい。

 

『碇司令も来るみたいだし、行ってきたら?』

『そうですね。せっかくなので』

 

 とにかく、前史の父の言葉を思い出して楽しみになった。もちろん、全く悪い気はしない。

 ふと、隣に座るレイを一瞥し、一緒に来るかどうか訊ねた。

 

『いえ……私は赤木博士の研究室で留守番してるわ。もし、使徒がやって来た時、碇君には慌てないでほしいから』

 

 レイは自信に満ちた目でそう言い、シンジはそれを見て微笑んだ。とはいえ、実はレイは、ゲンドウから身を隠したいという理由もあった。リツコが独房に入れられた件もあり、彼と顔を合わせるのはなるべく避けておきたいと思っていたからである。シンジとミサトが知ることはないのだが。

 

 

 

 

 

 暫くして、ネルフの垂直離着陸型の輸送機が到着した。

 

「時間だ。先に帰るぞ」

 

 ジェットエンジンが砂埃を上げる中で、ゲンドウはシンジの方を見る。シンジは無言で振り向く。ゲンドウが立ち去ろうとした時、シンジは思い切って声を上げた。

 

「父さん!」

 

 輸送機に近づいて行く途中にあったゲンドウが振り向く。シンジは、満面の笑みで言った。

 

「今日は嬉しかったよ、父さんと話せて」

「……そうか」

 

 ゲンドウが乗り込んだ輸送機は、ゆっくりと機体を上昇させていく。前史ではいたはずのレイも、そこにはいない。シンジはしばらくの間それを見上げてから、遠ざかっていくジェットエンジンの音に背を向けて歩き出した。

 

 

 

 

 ******

 

 

 

「どうだった?」

 

 青いアルピック・ルノーに乗りながら、ミサトは、戻ってきたシンジに問いかけた。シンジは窓の外を見ながら呟く。

 

「ええ。相変わらず父さんでしたよ♪」

「……相変わらず?」

「はい」

「……??」

 

 ミサトはその真意を理解できなかった。やはり、親子にしか通じない話でもあるのだろうか。シンジは、片肘をついて助手席の外に流れる景色を、微笑みを浮かべながら見続けていた。

 

「それにしても、ミサトさんはどうしてわざわざついてきたんです?ネルフでの仕事とか大丈夫なんですか?」

 

 車は箱根の山間部をゆっくりと通り抜けていく。

 

「久しぶりに休暇貰ったのよ。もうここのところ休みなしで疲れ溜まってるし丁度良かったわよ……ファァ~……」

 

 大きな欠伸をする彼女だが、これでも宜しく階級が一つ上がり、一佐へ昇進している。何ならシンジも、留守番中のレイも特務二尉から特務一尉へ、つまり三人揃って階級が一つ上がっている。それはともかく、昇進したからなのかどうかは分からないが、最近のミサトは本当に、あまり休めていないのが現状である。

 

「お互い大変なもんですね……」

「うかうかしてられないわよ、いつ次の使徒が現れるか、分かったもんじゃないし」

 

 シンジは不意に気になったことを思いだし、ミサトに訊いてみた。

 

「そういえば、この間第3の使徒が倒されたって言ってましたよね?一体何してたんですか、北極なんかで……」

「あぁそれ?なんでも永久凍土から発掘されたとかで、研究とか、いろいろしてたみたいよ?詳しいことは私も知らないんだけどね」

「研究……ですか」

 

 とりあえず、使徒の順番が一つずつズレていた訳は判明したので良かったと思うのだが、シンジは釈然としない表情をしていた。

 

「ま、結局は倒せたんだし、トントン拍子じゃない?次は第7の使徒ね」

 

 その時、ミサトが付けているハンズフリーの通信に呼び出しが掛かる。キングギドラの鳴き声とは、ミサトも趣味が独特なものである。

 

「はい葛城」

 

 ミサトが声を正して応答した瞬間だった。突然空から巨大な物体が飛来してきて、ミサトの進行方向の目の前に落下した。

 

「うおぁあぁっ!?」

 

 ミサトは、突然の出来事に声を上げながらも、何とかハンドルを切って衝突を回避する。飛んできたのは護衛艦の砲台の一つだった。

 

「たっ……!!!」

 

 シンジも急な出来事に事態を把握できない。シートベルトが強い衝撃でロックがかかり、前に飛び出しかけるシンジを引き留める。

 

「なんですって!?相模湾に!?」

『詳しいことはまだわかりません。とにかく、今から第1発令所に繋ぎます!』

 

 ミサトはスリップ音を響かせて車体を立て直しながら、入ってきた情報に驚きの声をあげる。そしてシンジも、何とか体勢を立て直して外を見て、その光景に目を見開いた。

 

「な、何だ……あれ!?」

 

 海上では幾多もの護衛艦が巨大な移動物体と交戦していた。敵は長い2本の脚で水面を移動し、歩く度に赤い水面を瞬時に凝固させ、まるで雪のような結晶を作り上げていく。一方、仮面のような頭部は反時計回りに回転させている。

 

「ミサトさん、あれってもしかして!?」

「ええ、第7の使徒みたいね!スピード上げるからしっかり掴まっててっ!」

(って、ガギエルじゃないのかよ……ぉっ!!?)

 

 敵は頭部近辺に異相空間を展開させ、そこから光線を放った。そのエネルギーによって海水が間欠泉のように吹き上がり、次々と戦艦を持ち上げて破壊していく。

 

『葛城さんですか、青葉です。先程、相模湾沖で第7使徒を捕捉。第2方面軍が交戦中。3分前に非常事態宣言が発令されました』

 

 ミサトは第1発令所のシゲルからの報告を受けた。既に高速道は緊急封鎖に切り替わっている。

 

「こちらも肉眼で確認したわ。現在初号機パイロットを移送中。レイの準備はできてるわよね?零号機優先のTASK-03を、直ちに発動させて!」

「いえ、すでにTASK-02を実行中です」

 

 マコトが報告する。事態はミサトの予想よりも早く進行しているようだった。

 いや、それよりも……

 

「TASK-02……?まさか!」

 

 ミサトが驚いて空を見上げたタイミングで、上空に飛来していた輸送機から、エヴァが切り離された。

 その機体を目に捉えたシンジは、思わず息を呑んだ。

 

 

 

 エヴァンゲリオン・正規実用型2号機。

 

 

 

 その深紅の体を、シンジは片時も忘れることはなかった。

 最後に見たのは初号機から見えた無惨な姿だった。あの白い怪物共に食い荒らされ、思い出すのも痛々しい、自分が精神崩壊を起こす引き金となってしまうほどの残酷さだった。

 しかし今、太陽を背にして空から飛来してくるその様子は、紛れもなく、とても格好良かった。

 そして何よりも、シンジはそれを通して、そこに乗っている彼女を見、思わず涙が溢れそうになった。

 

 あの子が乗っている。

 

 

 

 アスカ……!

 

 

 

「やはり2号機!」

 

 ミサトはいつの間にかシートベルトを外し、車の窓から身を乗り出して、空を舞う赤い機体を見上げた。

 輸送機から飛び立った2号機は、使徒に向かって急降下していく。途中、輸送機から落とされたクロスボウ型の武器を拾おうとするも、使徒の攻撃に阻まれて回収を失敗してしまう。それでも攻撃を回避しつつ2度目のアプローチで回収を成功させる。そして武器を手に取った2号機はすぐさま使徒に向けて発射する。その弾道は、見事に使徒のコアを捉えた。

 

「すごい……コアを一撃で!」

 

 シンジはその戦いぶりを見て驚きの声を上げる。前からアスカの身体能力の高さは素晴らしいものだった。だが、今まで見た中で一番ともいえるアクロバティックなその動きに、シンジは感嘆した。

 しかし、助手席のシンジの方に体を寄せて窓から顔を出したミサトは、まだ使徒が倒されていないことを見抜く。

 

「違う、デコイだわ!」

「えっ!?……って、ミサトさん、ハンドルハンドル!!」

 

 使徒は、一旦体を撒菱状のパーツに分離するが、直ぐに再結合すると、下にぶら下がっていた本物のコアを振り子のようにして上部へ持ち上げた。2号機は怯まずにクロスボウを連射するが、今度はA.T.フィールドで完全に弾かれてしまう。効果を見込めないと踏んだのか、2号機は武器を捨て、体を丸めて回転をし始める。そして勢いを付けた後に、飛び蹴りの姿勢で使徒へ突っ込んでいく。

 

「どぅをりゃあぁぁぁーーーっ!!!!」

 

 2号機は使徒の放つA.T.フィールドに残っていたクロスボウの矢の一つに蹴り込んだ。そしてそのままA.T.フィールドを突き破ると、赤黒い球体を貫通して反対側から飛び出した。2号機のニードルにはしっかりと使徒のコアが刺さり、2秒も経たない内に破裂した。そしてコアが真っ赤な液体を撒き散らすと同時に、使徒は巨大な十字架の光を放って爆発したのだった。

 

「よっしゃっ!」

 

 ミサトは近くの駐車場に車を停めて使徒が崩壊するのを確認し笑みを浮かべた。シンジもその華麗な姿に思わず見とれていた。

 

「……って、ありゃ……?」

「なんか、こっち……来てません?」

 

 2号機は華麗に体を回転させて降下してくる。途中でロケットエンジンを噴射させ速度を緩め、慎重に地上へと着地する。

 

 ……かに見えたが残念ながらそうではなかった。

 

「ヤバッ……!!」

 

 ドォォォン―!

 

「「ぅわぁぁぁぁぁっ!?!?」」

 

 遅かった。運悪く、着地場所に駐車していたミサトの車はその衝撃に横転し、待機していた零号機の足にぶつかって大破してしまった。2号機は腰に手を当てて零号機の前に立つと、自信満々な態度を見せ、溌剌な声で告げた。

 

「状況終了!」

 

 

 

 ******

 

 

 

『第4地区の封鎖は全て完了』

 

 戦闘が終わりエヴァの機体が陸路で回収されていく。ミサトは遠くに見える大破したルノーを見てガックリと項垂れていた。

 

「まだローン9回も残ってるのに……今度ばかりはダメか。トホホ……」

 

 シンジは苦笑いするしかなかった。サキエル戦時のN2爆弾でのフラグはどこへやら……。

 

「ふぇー……。赤いんか2号機って」

 

 目の前を通り過ぎていく2号機を見上げてトウジが声を上げた。その横にビデオカメラのファインダーを夢中で覗くケンスケもいる。2号機が来たという情報をケンスケが(独自調査で)掴み、トウジと共にやって来たのだ(もちろんミサトの許可は得ている)。少し離れた場所には零号機から降りてきたプラグスーツ姿のレイもいた。

 すると、突然高飛車な少女の声が響いた。

 

「違うのはカラーリングだけじゃないわ」

 

 その聞き馴れた声に、シンジは目を輝かせた。

 

「所詮、零号機と初号機は開発過程のプロトタイプとテストタイプ。けど、この2号機は違う。これこそ実戦用につくられた世界初の本物のエヴァンゲリオンなのよ。正式タイプのね」

 

 2号機の上に仁王立ちで現れた彼女は、気の強い眼差しで少年たちを見下ろす。明るい栗色のロングヘアーに青い瞳。赤いプラグスーツがよく似合っている。

 

「紹介するわ。ユーロ空軍のエース、式波・アスカ・ラングレー大尉。第2の少女。エヴァ2号機担当パイロットよ」

 

 何とか立ち直ったらしいミサトが4人に少女を紹介する。シンジは楽しそうに頷いた。

 アスカは、第9番停車場に運び込まれる2号機の上をぴょんぴょん飛んでミサトの所まで降りてくる。

 

「久しぶりね、ミサト」

 

 アスカは、何も言わずに歩き去っていくレイの後姿をミサトの肩越しに見つけて軽く嫌味を言った。

 

「ふーん、あれがエコヒイキで選ばれた零号機パイロット綾波レイ……」

 

 次に三人の男子を無機質な目つきでゆっくりと見回す。

 

「で、どれが七光りで選ばれた初号機パイロット碇シンジ?」

「あ、あの……」

「ふーん……?」

 

 シンジは、アスカの相変わらずな態度に気後れしながら返事をする。アスカはシンジの声に反応して一歩踏み出すと、人差し指をビシっと突き出して言った。

 

「あんたバカぁ??肝心な時にいないなんて、なんて無自覚」

 

 アスカはおもむろに足払いを仕掛ける。シンジは突然のことに足を取られて地面に尻をついた。

 

「うわっ」

「おまけに無警戒。エヴァで戦えなかったことを恥とも思わないなんて、所詮、七光りね~」

 

 アスカは倒れたシンジの目の前に立ちふさがって腰に手を当てると、弱い者を見る目で不敵な笑みを浮かべながらシンジを見下ろした。その光景を見てミサトはやれやれといった表情をする。

 

「じゃあミサト、また後で♪」

 

 アスカはミサトに笑顔でそう言うと、スキップでその場を立ち去っていった。

 

「おい碇、大丈夫か?」

「フフッ、うん、大丈夫、問題ない」

 

 シンジは立ちあがりズボンをパシッと一回はたき、去りゆく彼女に目を向け、笑った。

 

 

 

 

 

 久しぶり、アスカ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




☆あとがき

こんにちは、ジェニシア珀里です。
まず、読んでくださった皆様にお詫びしなければなりませんね。
昨日15時に一度、当話、第捌話を公開させて頂きましたが、ここで一つ懸念が生じていました。
前半部分、ベタニアベースでのやりとりがほぼ完全に《ただのノベライズ》となってしまったのです。
シンジ君が関わっていないから仕方がないと、そう考えておりましたが、感想にて多くの著作権関連のご指摘を受けまして、「消される前に消したる」ということで一旦緊急削除の形を取らせて頂きました。

楽しみにされていた方々には大変な混乱を招いてしまったことと思います。誠に申し訳ありませんでした。



てなわけで、あとがきです。

久しぶり、アスカ♪(それ全く同じ台詞やないかい笑)

いやぁ、ここからがひっじょーに楽しみです。ようやくアスカが帰ってきたので!、私のLASワールド、全開にしてやって参ります。皆様、どうかよろしくお願い申し上げます!!!

シンジは前史との相違点を細かく気にするため、ちょくちょく確認の話が入りますけど、そこはご愛嬌ということで。(私が考察したいだけだったりします。)
え、式波に変わってるよって?シンジ君……嬉しすぎで考えるの放棄したのかよ。笑
第玖話で一応言及しております。詳しくは次回をお楽しみに♪

これにて新劇場版・破に入りました。波乱に満ちる(と思う)第二部、是非、お楽しみください。

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