俺の厳霊丸は最強なんだ(泣) 作:雷系の能力はロマン
俺達は五階層を探索していた。
この階に降りる前に感じた嫌な予感はまだ残っているが、今の所は何も起きる様子はない。俺は周りを警戒しながらもベルが逃した敵を仕留め、奇襲を防ぐ。
まだ階層にきてあまり時間はたっていないんだが、一つだけ気になることがあった。それは、どう考えてもモンスターの出現量が多すぎるのだ。
俺は偶に一人でこの階層に来るのだが、いつもはこんな大群で襲ってくことは無い。それに、モンスターの表情は焦っているようにも感じられる。
不思議な違和感を覚えながらも、今いるすべてのモンスターを倒したところで俺とベルは一息つくことにした。
「ねぇ、レイク、今日はモンスターいっぱい狩れたから次のステータス更新も期待できるね!」
「そうだなベル。魔法とかも覚えてるんじゃないか?」
「そうかもね! 楽しみだなー」
ベルは嬉しそうにそう言った後に持参してきた携帯食を取り出して食べ始めた。ここはダンジョンだというのに呑気だなと思いながらも、俺は周囲に対する警戒を強める。
そしてそのまま耳を澄ましてみると、奇妙な音を俺は拾う――それはかなり大きな足音で、何かから逃げているような音だった。
どこかのパーティーがモンスターの群れから逃げているのかとも思ったのだが、何かが違う。俺は不穏な気配を感じながら厳霊丸を強く構えて。
「ベル……何か来るぞ、構えろ」
「ほんとだ……モンスターの群れかな?」
そう言いながら、ベルはナイフを構え前を見据える。
そして、その足音がこの場所に近づいてきた途端に俺は、今まで対峙してきたどのモンスターよりも大きな気配を感じ取り、俺達では勝てないという事を瞬時に悟った。
「穿て! 厳霊丸!」
俺は敵が姿を現す前に厳霊丸を開放して、雷撃を相手のいる方向に一直線で放つ。すさまじい勢いで飛んで行った雷がそいつに直撃し辺りに煙が充満した。今の攻撃で時間を稼ぐことは出来ないと思うが、何もしないよりはましだろう。
しかしその気配の持ち主はすぐに煙を払い、俺達の前に現れた。そいつは牛の頭に屈強な体を持っていた。
俺はこんな姿を持つモンスターの名を知っている……そいつの名は――――。
「……ミノタウロス」
震える声でベルがそう呟き―――ミノタウロスがその声に合わせるように、叫びながら俺に向かって拳を振り下ろしてきた。
その拳は俺の目の前に瞬時に迫ってくる。Lv.1の能力では絶対に受けられないその拳――もしも受ければ、俺は瀕死になるだろう。
俺はギリギリの所でなんとか反応することが出来たのか、体が勝手に動いたのかわからないのだがミノタウロスの初撃を何とか受け流す子ことが出来た。
だが休む間もなく次の拳が俺目掛けて向かってくる。
俺は先の一撃を防ぐことが出来たことにより、僅かに余裕が生まれ振り下ろされる拳を逸らすことに成功し、そして逸らされたその拳は壁を破壊し、そのままめり込んでいった。俺は今生まれた隙を突いてミノタウロスの腕に穴を開けようとしたのだが――――――。
「糞が――――――貫けないか」
少し肉に突き刺さったが、貫くことは出来なかった。
初めて対峙する……厳霊丸が通用しない相手――その情報だけで、元々あるはずのなかった勝率が完全に失われた。
こうなってしまえば、俺が何をすればいいのかは決まってくる。
少し肉に突き刺さったが、貫くことは出来なかった。
初めて対峙する……厳霊丸が通用しない相手――その情報だけで、元々あるはずのなかった勝率が完全に失われる。こうなったら逃げるしかないか、だが二人共無事に逃げ切るなんてことは出来ないだろう。なら俺がすべきなのは――――。
「ベル……頼みがある」
「な……に?」
「逃げてくれ」
「何言ってるの? ……レイクは、どうするの?」
「お前が逃げ切れるまでの時間を稼ぐ」
「ッ――――馬鹿言わないでよレイク! それなら僕が時間を稼ぐから」
「馬鹿はお前だベル、時間を稼ぐなら強いほうがいいだろ――それに、お前の敏捷ならすぐにギルドに辿り着けるだ。五階層にミノタウロスが現れたという異常事態を伝えればすぐに助けが来るだろ?」
「……分かったすぐ戻るからね――その代わり約束してレイク。絶対、死なないで」
「了解」
そのやり取りを最後にベルは俺のそばから離れていった。
ふぅ――――強いがってみたが……このまま戦っても、死ぬだけだろうな。厳霊丸をフルで使えば時間稼ぎは出来るだろう――だが、それでは俺の命が全て厳霊丸に喰われる。
いつもなら迷わずそれを選択するが、今俺はベルと約束してしまったから死ぬわけにはいかない。はぁ――――死なないようにするって難しいことなんだな。
(えー、レイク死なないの?)
死なねぇよ。
(まぁいいけどね。でも、その代わり……あの牛の命を食べさせてよレイク)
無茶な注文するなよ。あいつに勝てるかわかないんだぞ? たまには真面目になれよ厳霊丸。
(でも、私を使えば倒せるでしょ?)
それだとベルとの約束守れないだろ?
(ケチ……まあいいや、来るよレイク)
了解。
やっと拳を壁から抜いたミノタウロスは俺だけを睨みながら殺意をまき散らしていた。
じゃあ始めるか――――攻略不可の負けイベントを。
〖ブブォォォォ!〗
◇◇◇
ダンジョンの中を僕は全力で走っていた。後ろを振り返れば今にでもレイクの所に戻ってしまうから絶対に振り向かないようにして。
僕は馬鹿だ。何が今日は調子がいいだよ――全部レイクがいてくれたからじゃないか! それなのに調子に乗って五階層にまで来た僕が悪いのに―――なんで一緒に戦わなかったんだよ!
レイクに説得されたから? 自分だと邪魔になるから? ――――違うだろ、弱かったからだろ!ミノタウロスに恐怖したからだろ!
情けない、自分が本当に情けない。僕が冒険者になったのは、いつも一人で抱え込むレイクを助けたかっただけなのに――これじゃあ、意味がないじゃないか!
僕は走っていると、突然痛みを感じた。走るのを止めないまま傷んだ場所を見ると、僕の手は血で濡れていた。無意識の内に爪が刺さっていたらしい。
それを無視して走り続けていると僕は、横道から激しい風を感じる。僕はその風がダンジョンで自然に発生したような風じゃないと直感で理解した。
もしかしたら、この先に別の冒険者がいるかもしれない。こんな強い風を起こせるのは魔法くらいしかないだろうし、ありえない話じゃないはずだ。
僕はこの先にはレイクを助けてくれる人がいるかもしれないという、淡い希望を持ちながらその場所に急いで向う。そして僕が横道に付くとそこには女神と見間違いそうになるほどの美しい少女がいた。確かこの少女の名前はアイズ・ヴァレンシュタイン。【ロキファミリア】に所属する第一級冒険者だったはずだ。
この人ならレイクを助けてくれるかもしれないと、そう思い僕はアイズさんに話しかけた。
「お願いします僕の仲間を助けてください!」
少女はいきなりそんなことをいう僕を不思議そうに見つめている。だが、すぐに表情が真面目なものに変わっていき。人を安心させるような声で。
「分かった案内して……すぐに助ける」
「ッありがとうございます!」
「どっち?」
「付いてきてください!」
「分かった」