俺の厳霊丸は最強なんだ(泣) 作:雷系の能力はロマン
怪物の赤い双眸が俺を真っすぐと見つめている。その顔は笑みを浮かべていて、この状況を楽しんでいるようだった。
この牛にとって俺との戦いは遊びなんだろう。そう俺が確信するほどに、俺とこいつとの実力が離れていた。
(また来るよレイク)
厳霊丸の言葉の通りに、ミノタウロスの拳が俺に迫ってくる。
それを俺は何とか避けて、勢いを殺さないままミノタウロスの脇腹に高速で突きを放つ。しかし、その攻撃はミノタウロスに筋肉に阻まれてしまい体の中に通ることは無かった。すぐに体制を変えて、次の攻撃に俺は備えようとしたのだが――突如として、下から凄まじい衝撃が俺の事を襲う。
「――――ガッ――――!!」
どうやら、俺の腹にミノタウロスの蹴りが直撃したようだった。
そして耳に響くのは、自分の骨が砕ける音――臓器にもダメージが行ったようで、上手く呼吸が出来なくなっていた。
口の中に広がるのは鉄の味だけ、視界も揺れてしまい目の前にいる筈のミノタウロスを正確に捉える事が出来ない。この怪我では、次の攻撃は避けることは出来ないだろう――それが意味するのは数秒先の自分の死だけで。
俺はこいつ相手にどのぐらい時間を稼げただろうか? ベルは逃げ切ることが出来たか? なぜか俺は自分の死が迫っているのに、ベルことを考えていた。
このまま諦めてしまえば、俺は楽になれるだろう――それもいいかもしれないなと、この状況でそんな弱い考えが浮かんでくる。
(レイクが死ねば私は嬉しいけど、ベルとの約束はいいの?)
――――そうだ。俺は絶対死なないという約束をあいつとしたんだ。なら、諦めちゃダメだろ。
おい厳霊丸……俺が生き残るために力を貸せ。
(いいよ? その代わり、いっぱい食べさせてね? 足りなかったらレイクの貰うから)
了解だ。
「穿き喰らえ――厳霊丸」
俺は厳霊丸の名を呼びこいつを開放する。
すると、手の中にあるレイピアが微量な雷を放出し始め、それに加えて持ち手の部分から歪な形をした骨が生えて俺の腕の中に入りこんで何かを流し込んできた。
その何かは壊れた部位に染み込んでいき、強制的に傷は塞がれた。よし、これならまだ戦える。
この力を借りても、まだこいつに勝てるかなんてわからない。だが、さっきよりはましだろうし時間は稼げるはずだ。
「行くぞ糞牛」
体を加速させて、一気にミノタウロスに近づき雷を纏ったレイピアで胴体に向けて突きを放った。その一撃は少し逸れたが、最初とは違いミノタウロスの肉を一部抉った。
ミノタウロスは少しよろめいたがすぐに俺に向かって拳を放ってくる。俺はそれを回避せずに傷口に雷を放出して相手の動きを強制的に中断させた。ミノタウロスは怒りを込めた鳴き声を上げて、すぐに体制を立て直して俺の体を掴んできた。
圧倒的な力で掴まれた俺の体は、ギチギチと悲鳴を上げたが――――砕ける度にレイピアから流れる何かが傷を治していく。俺は拘束から外れる為に、厳霊丸に魔力を流す。
すると厳霊丸から生えている骨がさらに伸びて、ミノタウロスの体に突き刺さりいくつも穴を開けた。意識外からの攻撃を喰らったミノタウロスは、この戦いの中では初めて上げる悲鳴を上げて俺の体を投げ出した。
骨に貫かれたままのミノタウロスは狂ったように暴れだし、周りの物を無茶苦茶に破壊していく。ミノタウロスが砕いた壁や地面の破片が全て俺に飛んでくる。
最初の方は防ぐことが出来ていたが、対処できない量の破片に徐々に防御が出来なくなり。そして、防御にだけ集中していた事で隙だらけだった俺にミノタウロスが頭突きを喰らわせてきた。
その攻撃により壁際にまで俺は追いやられ、身動きが取れなくなってしまう。
「ッ――舐めんなよ」
俺は力を込めてミノタウロスを振り払り払い、ミノタウロスから間合いを離す。周りを確認してから次にどんな手を使おうか考えていると、厳霊丸が話しかけてきた。
(あ、今のレイクじゃそろそろ限界だよ?)
――――持って何分だ?
(一分もないねー、それ以上私の力借りてると戻れなくなるよ)
それまでに倒すことは出来るか?
(無理だね、もっとくれれば出来るだろうけど。先にレイクの体が壊れるよ?)
打つ手なしか……。
「レイク大丈夫!?」
そうやって諦めかけていると、ベルの声が聞こえた。俺は声が聞こえたほうを見てみると、そこにはベルと見知らぬ少女がいた。どうやら、俺は時間を稼ぐことに成功したようで、ベルは無事に助けを呼ぶことが出来たようだ。俺が少し安心していると、少女が俺の傍に素早く移動してきて。
「あの傷はあなたがやったの?」
「そうだが」
「頑張ったね、後は私に任せて」
それだけ言ったかと思うと、ミノタウロスの方に向き直り、一気に駆け出して行き、次の瞬間には怪物の体に一本の線が走っていた。
〖ブぉ?〗
そんな間抜けな声を発し少し動きが止まるミノタウロス。そいつは動けぬまま少女に切り刻まれていき、俺が力を借りてまで倒せなかった怪物は、数秒もたたぬうちに肉塊に変わっていった。
断末魔も上げられずミノタウロスは消滅していきこの場に静寂に満ちる。
「終わったよ」
その声を聞き俺は安心したが……それと同時に今までの疲れが一気に襲ってきて、俺はその場に力なく倒れてしまった。
「レイク!?」
倒れた俺を見たベルは、すぐに駆け寄ってきてダンジョンに潜る前にもらったポーションを俺に飲ませてくる。だが、そのポーションを飲んでも俺の傷は治る様子はなかった。そんな俺達に剣を近づいてきた少女は、俺を見つめたかと思うと、瓶を取り出し俺に飲ませてくる。それを飲んだ途端に俺の痛みは消えて傷が完治する。
「これで大丈夫だよ」
少女は笑顔でそう言いった後に。
「二人で帰れる? 無理そうなら、護衛するよ?」
そこまでやってもらうことは気が引けるので俺はそれを断ることにした。
「いや、大丈夫だ。ここまで回復すれば、問題なく動けるから護衛はしなくていい」
「……そうなの?」
「ああ。それと、伝えるのが遅れたが助けてくれて本当にありがとな」
「気にしなくていいよ、さっきのミノタウロスがここに来たのは私達が逃がしちゃったせいだから」
アイズは申し訳なさそうにそう言ってきた。
「そっちこそ気にしないでくれ、助けられたことに変わりはないんだから」
「分かった」
「アイズさん、本当にレイクを助けてくれてありがとうございました!」
アイズに向かって深く頭を下げるベルにアイズは微笑みながら。
「どういたしまして、私も君の仲間を助けられてよかったよ。そろそろ私は行くね」
アイズは、それを最後にこの場から走っていきどこかに消えてしまった。それを見送った俺達は、地上に戻る為に来た道を戻り始めた。そしてしばらく歩き続けて二階層に来た所でベルが。
「…………ねえレイク、僕は強くなりたい」
その言葉には決意が籠っていた。
何が何でもそれを成し遂げるという決意が――――そんな決意の籠った目を真っすぐと受けた俺は、先程の自分の戦いとあの少女の事を思い浮かべてから。
「俺も強くなりたいよ……ベル」
「一緒だねレイク」
「ああ、そうだな」