現実は小説よりも奇なり。みたいな言葉があるけど、別にそんなことは全然無いと思う。そもそも小説と現実、つまりはフィクションとリアルを比べること自体がナンセンスだ。怪奇さで言えば絶対に本の方が勝るに決まってるだろう。
決して僕は現実がつまんないとかそう言う話をしたいわけでもないんだよ。それぞれ良いところがあるし、僕たちは本から学んだことを現実に輸入していけばいいんだ。
そう、この道端に落ちているこの本もだ。
「……なんでこんなところに本が?」
高校一年生の春、入学して早一ヶ月の今日、僕は丁度登校路についていたんだが、そんな僕の目の前に一冊の本が立ち塞がったのだ。ただの本なのに、立ち塞がったと言うのも変な表現かもしれないけれど、その日はなぜか無視して通り過ぎればいいやなんては何故か思わなかった。
「……」
辺りを見渡してから僕はその本を拾う。なにやら、表紙には可愛いらしい女の子が描いてある。
「がっこうぐらし……」
今僕が呟いた、それがなにやらこの本のタイトルらしい。今は朝の7時15分で、まだ朝礼には時間に余裕があるし、ちょっとくらい、とそう思い近くにあった公園へと向かおうと足を踏み出した。
*
公園のベンチに腰掛け、先ほどの拾ってきた本を読みながら僕は目を丸くしていた。
「……面白いな」
中身は漫画で、僕は今まで漫画は本の中ではあまり読んだことは無かったがこれがまた面白い。
主人公の”ゆき”が学校で楽しい日常を送るといった物語かと思いきや、その楽しい生活は全て彼女の妄想だった……そんなところか
「僕は、今まで主人公と同時に語り手である登場人物のゆきに虚実へと誘導されていたってことか……これは著者に一本とられた気分」
しかし、まさか所謂SFパニック物だとは思いもしなかったな。1話目でここまで引きが強いと続きが気になるところだが、このくらいにして学校へ向かわないと遅刻しちゃうしな。
「……この本は公園のベンチに置いておこうかな」
道端に戻しておくのもなんだしな。それに、もし持ち主が拾いに来て、踏まれたあとのついた本があっても嫌だろうし。
結局、僕はチャイムの10分前には学校に到着することができた。
*
入学して友達が多いというわけではないが、隣の席になった男子とは仲良くなれたし最近は結構学校は楽しい。
それに特にこの学校は凄いんだ。そういえば、今朝読んだ漫画で主人公のゆきが”まるで学校は一つの国みたい”言っていたのに僕は確かにとうなづいたっけな。
「高校の授業のペース中学とくらべるとやっぱ早いな……」
僕はそう呟きながら廊下を歩き、あるところへと向かっている。その場所とは、図書館だ。ここの学校の図書館はとくに凄い、なんでもあるんだ。放課後ここに寄っていくのが僕の最近のひそかな楽しみだ。
「やっぱり、静かな場所で一人でってのは落ち着くな」
別に、一人が好きってわけでも大人数が嫌いってわけでもない。騒がしいのもちょっとうっとしいが楽しい。でも、やはりこういう時間が必要なんだ。僕に限らなくてもみんなそうだと思う。音楽を聴いたりテレビを見たり、そして散歩したり。それがたまたま僕は本だっただけに過ぎない。
「……」
こうやって、本棚を歩きながらたまたま目に入った本を読むって結構好きなんだよね。そう思いながら俺は本に手を伸ばした。すると
「あっ……」
誰かの手が僕の視界にはいり、その瞬間お互いに手をバッと引っ込めた。
「どうぞ」
僕はそう言いながら、その手の持ち主の方へと目をやるとクリーム色のショートヘアに宝石みたいな青い瞳をもった少女の姿がそこにはあった。
僕は一瞬目を見開いた。何故だか、確実に初対面なはずなのに彼女とは初めて会った気がしないのだ。妙な既視感が僕を襲い、その場から少したじろいでしまう。
「い、いえ!私は大丈夫なので……お先にどうぞ」
そんな僕を気にする様子などもなく彼女は手のひらをこちらへ向け本を進めてくるのだが、僕もこの本はたまたま目に入っただけだし別にすごく読みたいとかいうわけでもない。
「僕こそ平気です。どうぞ、それに……ちょっと君の方が早かった」
そう言って僕はその本を棚からとり彼女に手渡した。
「そ……そうですか?」
折れた彼女はもじもじとしながら本を受け取ろうと手を伸ばす。
「あっ、じゃあ……」
受け取ったと思ったら、彼女はそうだと人差し指を立てて
「私が読み終わったらこの本渡しに行きましょうか?私、すぐ読んじゃうので」
別に、新しいのを探すからいいよ。なんて言うのもあれだし僕はその提案に頷いた。
「クラスとかって……?」
「1年a組です」
「あっじゃあ私達同い年ですね」
どうやら、彼女は隣のクラスの一年生らしい。もしかしたらこの一ヶ月で廊下ですれ違っていたのかもしれないな。
「じゃあ今日は僕はこっちの本を読んでみようかな」
「あっ……その本」
せっかく図書館にきたんだ、違う本でも読もう。そんな気持ちで僕が手を伸ばした本に彼女はなにやら反応を見せる。
「知ってるの?」
僕がそう聞けば
「うん。面白い」
と、微笑んでくれた。
「そりゃ楽しみだ」
僕もそれにはおもわず笑みがこぼれた。
僕たちが仲良くなるのに時間はかからなかかった。たんに本好きと言うだけでは趣味も違う可能性があるが、なんと僕たちは趣味も合うし話が弾んだ。弾み過ぎて図書館じゃマズイなと思い図書館を後にするが、終始彼女は笑っていた。無論僕もだった。
「じゃあ、私そろそろ帰るね」
「うん。また明日」
「この本読みやすくて薄いから今日中に読んで明日渡すね」
「だから、ゆっくりで大丈夫だよ」
気づけば互いに、敬語で話すことはなくなった。聞いたところによれば、ほんの趣味が合う人間が彼女にもいなかったらしく話し相手ができて嬉しかったらしい。僕も同じ気持ちだった。
「ううん、早く君にも読んで欲しくて……」
「そ、そう」
僕はそういう彼女からとっさに目をそらしてしまった。なんかちょっと恥ずかしくて。そんな僕を見て彼女も恥ずかしくなってしまったようで
「そ、そうすれば!……また感想言い合えるでしょ」
ツンとそっぽを向いて、またねと僕に吐き捨て歩いていった。少々僕らは本の読みすぎかもしれないな。
*
僕は帰路についていた。ちょっと学校で彼女と喋り過ぎたせいか、空がいつもより少し暗い。
「にしても……彼女どこかで」
僕は未だに彼女に対して謎の既視感があり、頭を悩ませていた。そんな時に僕は今朝拾った漫画を読んだ公園を通ったのだ。
「っ……!」
僕は急いでベンチへとかけより、漫画がまだあることを確認する
「まだあった…!」
ペラペラと漫画のページをめくり、僕は目を見開いた。
「そっくりだ……」
そうだ思い出した。作中、主人公のゆきに”みーくん”と呼ばれるその登場人物の一人である女の子は今日の彼女と瓜二つなのだ。もはや偶然という言葉では言い表せないほどにだ。
なんか、春なのにゾクリと寒気がした。
というか、図書館であった彼女の名前聞いてなかったな……まあ、僕も名乗らなかったのも悪いけど。
「まあ、でも偶然としか言いようがないよな……なんせ僕が生きるこの世界はーー」
ーー現実なのだから。
僕はため息をついた後、本を見つめる。
「……」
今日一日誰も拾いにこなかったんだ……今日中に読んでまた返すから……
「ちょっと借ります……!」
僕は好奇心に負けて漫画”がっこうぐらし”を手に取った。
現実は小説より奇なり。この後本を借りたことによって自分がこの言葉を信じざるをえない状況に合うことになるとは、僕はまだ予想だにしなかった。
この作品中に出てくる漫画学校ぐらしは分厚い一冊にアニメ版の世界線の内容が漫画で収録されている設定です!