現実は漫画よりも奇なり   作:プリントハヤシ

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前にも言いましたが、この小説ででてくる、漫画がっこうぐらしはアニメの世界線であるため漫画ほどマニュアルについては触れていない設定にしてあります


現実を睨み返したカエル

真剣な表情で先生・めぐみを見つめる江古とは対極にめぐみはキョトンとした顔で首を傾げた。

 

「えっと……?勉強の相談っていうのは……」

 

「はい、勉強ですよ。これからを生き抜くためのね」

 

「……え?」

 

事前に勉強の相談という名目で呼び出された彼女が江古の言葉にうまく反応できないのも無理はない。いまいち会話の噛み合わないからか、少しばかりなにやら変な空気が二人の間に流れていた。

 

(緊急避難マニュアルって確か、以前上司先生が前に言っていた校外秘の職員用緊急避難マニュアルってやつかな?)

 

めぐみは生徒の江古の言う緊急避難マニュアルについて自身の記憶を探る。別に隠す事でも無いし(存在自体は)、かつめぐみ自らもあまりそれについて深く知らない。江古の質問の真の意図など考える間も無くめぐみは口を開いてしまった。

 

「緊急避難マニュアル……江古君のいう通り確かに存在します。けど、あれを開封するには非常事態の場合など条件が付いていた気がするわ」

 

(緊急避難マニュアル……実在しているのか)

 

出来れば実在しないで欲しかった。そう思い肩を落とす江古。これで彼の奇妙な直感をまた一つ肯定する証拠がまた一つ増えてしまったのだ。

 

「先生、僕の相談というのはその緊急避難マニュアルを僕に読ませていただきたいと言うことについてなのですが」

 

「え……でもあれは職員用だし……!詳しい事は教えられません!」

 

席を立ち、グイっとめぐみの目の前まで顔を近づけ威圧をするかの様な顔で緊急避難マニュアルを読ませろと言う江古にめぐみはワタワタと手を動かし慌てながら対応する。

 

「"職員用"……か……」

 

すると、江古はボソっとそう呟く。唇を噛みしめ微かにしかしながら明確に、何かが彼の心の底から湧き上がってきた。

 

(この気持ちはなんだ???ダメだ……抑えろ……)

 

江古のそんな様子を見てか、めぐみはいつものふわっとした笑顔で

 

「大丈夫よ……先生達は何かあったら貴方達生徒は絶対に守るわ!」

 

(何かあったら……つまり、この先生はマニュアルの中身を知らない……)

 

ここで江古は内心ホッとしたのだ。これで内容を知っていたとしたら、そしてその内容があの大感染災害に関わる事でそれを僕ら生徒に隠していたとしたら、おそらく彼は彼女のことを許すことはおろか、このまま会話を続けることさえ出来なかったであろう。

 

しかし、江古はマニュアルの中身を知りたいのだ。決定的な、何かを探すことで自身の直感を否定し平和の証明が欲しいのである。マニュアルが存在すると言うだけで絶望を決め打ちとするにはあまりにも浅はかである。

 

「ありがとうございます……それで、マニュアルは今は何処に?」

 

「確か職員室の棚に……って!見ちゃダメだめですからねっ!しっかりとアレには開封指示が……」

 

江古は思い通りの行かない展開に思わず苛立つが、彼の思いどおりにいかないのも当たり前だ。めぐみにとって、いや……人間にとって災害とは地震や台風などいつ起こるかが分からないものと言うのが先入観としてあるのだから。もっとも疑惑でありその疑惑を隠そうしているが、これから生物災害が起こるで"あろう"と考えて話をしている江古とめぐみ今確実に別世界を生きていた。つまり、めぐみがここで上司と本誌の開封指示を守るのは社会に生きる大人として当然であるといえる。

 

「僕たちを守るなんて、口では簡単に言えますよね」

 

「え……」

 

江古自身もそれは理解していた。しかし、彼もまだ高校一年生。いつもは無愛想やクールと言う言葉が似合う江古だが、だんだんと焦りと苛立ちを隠せずにいた。それを見てめぐみもだんだんと謎の不安が募る。

 

(この子は本当に苦しそうな顔をしている。一体何に悩んでいるのだろう……私が教師としてしてあげられる事は……)

 

「……っ」

 

自分の言葉にハッとして江古は気まづそうに俯いてしまう。

 

「すいません、前言は撤回させて下さい」

 

「……いいのよ。先生もごめんね」

 

「い、いえ!先生が謝ることでは……!」

 

面と向かって生徒を守る。たかが口約束、しかしされど口約束である。面と向かって言ってしまえば毎年入れ替わる年下の赤の他人に面と向かって口に出すことができる人などそう多くない。そうやって江古はめぐみに対して尊敬の念を感じながらも、でも、それでもやっぱり"何"から守るかも理解していない目の前にいる大人に少し無責任だと感じてしまっているのだ。彼はそんな自分に嫌悪感を抱き歯を食いしばった。

 

「私で良ければまたいつでも相談乗るよ、一人で溜め込んじゃダメだよ」

 

江古の肩をポンと叩きそう言った。江古自身も先ほどとは違うなにか暖かいものが胸の底から感じていた。

 

(やはりこの人は、偉大だ……これ以上僕の自己満足に巻き込んではいけない)

 

「ありがとうございます、僕もどうかしてました。また、お願いするかもしれません」

 

「う、うん!先生は君達生徒の味方ですからね!」

 

「……頼もしいです。ところで今日先生は戸締り当番というのを聞きましたが、この教室を閉めたあと鍵を僕が職員室まで運びますよ」

 

「え、大丈夫よ。もう遅いし帰らないと」

 

「いえいえ、わざわざ先生の貴重な時間を割いてもらったのでなにか手伝わせてください。そう言えば、佐倉先生がまだ学校にいると言う事は職員室はまだ窓が空いているんじゃないですか?僕が窓の戸締り手伝いますよ一人じゃ大変でしょうし」

 

「そこまで言うなら……お願いしちゃおうかな」

 

めぐみも江古の申し出が少し嬉しかったのだろう。頰を描きながら笑顔でそれを了承したのだった。江古の企みなど知らずに。

 

 

 

 

 

夜中の1時の事だ。彼、江古はなんとこの時間に外出をしていた。

 

「確か、ここの窓だ……」

 

ガラガラとある建物の窓を開け、真夜中江古はそこに侵入することに成功する。ある建物というのはもちろん学校だ。彼が先生に戸締りの役目を申し出たのはこのためである。いやまあ、感謝半分、このため半分ってとこだろうか。

 

"確か……教室の棚に……"

 

先生の言葉から思うに壁際にあるあそこにマニュアルがあると見て間違いないだろう。そう考えながら江古は、マニュアルを少し拝借してコピーを取ったあとまた今日中にまた元あった場所に戻してしまおうとしていた。

 

(荒らされたりなんてなければ監視カメラなどもまず確認しないだろうし、万が一のために顔も隠してある)

 

「もし、校外秘密が先生のせいで漏れたなんて事は絶対にダメだしな……僕が僕の手を汚さないといけない」

 

何かを手に入れたいなら、何かを切り捨てなければいけない。これは常識である。普段なら切り捨てる対象はお金だが、今回はお金で解決できる問題ではない。今彼が賭けているのは自身の名誉であるのだ。

 

「これだ……本当にあった。職員用緊急避難マニュアル……」

 

(これで僕はやっと知ることができるんだ。さて、どうだ。僕は今現実を生きている!)

 

江古は静かに開封し、ページをめくり始めた。

 

 

 

 

「ふざけやがって……!ぶざけやがって……!」

 

江古は声を殺そうとしながら歯を食いしばっていた。それもそのはず、目の前にあるのは、紛れもなく生物災害についてのマニュアルであり、漫画がっこうぐらしで起きた出来事を彷彿とさせる内容がその冊子にはかかれていたのだから。

 

何かが、江古の心そこから湧き上がっていた。色で言えば紛れもなく黒であろう。この瞬間彼は先ほどの恵みとの会話で抱いたこの感情の正体を理解することになる。

 

「これは……怒りだ」

 

(僕たちは……巡りヶ丘高校に通う生徒は大人達に騙されながらずっと生きてきてきたっていうのか!?そして、非常事態に僕たちは切り捨てられる。まだ、生物災害の可能性があると分かっていればなんとかなったかもしれないのに……!首謀者の立ち位置を守るため権力で抑えられ、一部の教師と生徒達は自衛をするための手段を知らないまま漫画で見たあの惨劇が起きたっていうのか!?狂ってるぞ……こんなのなんか……なんというか)

 

「ヤバイぞこれは……!!!」

 

(これはもう決め打ちだ……一体、いつから僕は、いや僕たちはこの現実を平和だと錯覚していたんだ……?)

 

そう、たった今江古の奇妙な直感が完全に肯定されてしまったのだ。彼たち人類が見ていた今までの平和な世界は虚構に過ぎなかった。実物などなにも見えていなかった、見ていたのはただの陰であり、それを見て平和だと錯覚させられていたのだ。

 

……瞬間、この奇妙な現実に睨まれていた彼はギロリとそのノンフィクションを睨み返した。なにかが、吹っ切れた様に。

 

「なにか、あるはずだ。僕は未来を、絶望を知ってしまったんだ。……僕にしかできないことがなにかあるはずなんだ」

 

血走る目に、これでもかと眉間にシワが集まる。江古は何かを決意した様な目で

 

(そういえば、あの漫画に僕の姿は無かったな……僕のことだ、きっとすぐ死んだんだろう……)

 

「これが、運命だというのなら僕は抗い続けてやる……僕は生き残るぞ……!!!」

 

そう一人つぶやいた。

 

 




やっと、絶望を受け入れることができず、自身の直感を否定しようとし続けてきた彼でしたが、ついに絶望を受け入れました。
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