【完結】憧れの提督()になりました   作:はのじ

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【注意】
ご指摘頂いたので注意書きを一つ。

以下の話は前話までの世界観とは別となっています。

繋がっているかもしれない、そうじゃないかもしれない。

受け取り方は各自自由でいいかと思います。

~『終』までの世界観が好きな方は見ないほうがいいと思います。

あくまでおまけの話です。




EX 【注意書きあり】

EX

 

「って夢を見たんだけどどう思う?」

 

「テートクは働き過ぎて疲れているネー」

 

 昨日見た夢を金剛に話したらいつもの如く呆れられた。そりゃそうだ。いくら夢でも五回も轟沈したって言われればいい気もしないだろう。

 

 上官として部下とのコミュニケーションは大事だと、旗下の艦娘に見た夢を話して雑談をしていた。

 

 セクハラだ、パワハラだと言われるのが見えているので、深海棲艦との肉体的な関係は伏せて、笑い話程度に振った話題のつもりだった。

 

 人間の美人秘書官が業務終了であっさり帰った後、なんとなく雑談で旗下の金剛と浜風に夢の話をしている最中だ。

 

 艦娘に秘書艦をさせるなんてとんでもない。彼女達は深海棲艦と戦うのが仕事だ。書類仕事をさせるくらいなら訓練でもするか少しでも体を休ませるべきだ。

 

 本当は休んで鋭気を養って欲しいが艦娘(こいつら)俺に大本営から派遣された秘書官がつくようになってから執務室に入り浸るようになった。

 

 死ぬ前(転生前)のゲームの艦これと違って艦娘(こいつら)は提督ラブでも何でもない。金剛はバーニンバーニン言わないし、浜風はバレンタインにチョコの一つもくれたことがない。

 

 ケッコンカッコカリなんて便利な指輪もないし、中破しても艤装が破れる事もない。見た目は綺麗で可愛いけど萌え要素は激減している。

 

 他の提督達はいつかはデレるはずだと無駄に頑張っているけど俺は早い段階で諦めている。艦娘との絆は感じるがそれは深海棲艦と戦うために培ったものだ。下手に男女の性差を意識してしまえば戦場に送り込めなくなるから俺にとっては都合がいいと解釈することにした。

 

 提督と艦娘の関係ってこれでいいんだろう。まぁ綺麗だし可愛いしだしで今でもふとした瞬間にドキドキする事はあるけど。

 

 俺はなんとなく右手が寂しくて金剛に向けて腕を伸ばした。

 

 金剛は俺の右手をひょいと避けた。

 

「お触りは厳禁ネー」

 

 出会ってからそれなりの時間が経つのに未だに時間も場所も状況にも関係なくお触りは相変わらず厳禁だ。戦闘では頼りになるんだけどね。

 

「夢の中で提督の最期はどうなったのですか?」

 

 浜風がさして興味なさそうに聞いてきた。興味ないなら聞かなくていいのに。

 

「え? 死んだよ?」

 

 人類を滅ぼしてから戦艦棲姫改に殺された。首と胴体がスパッと離れて苦しまずに死んだと思う。

 

「その後は?」

 

「さぁ?」

 

 深海棲艦が世界征服してめでたしめでたしなんじゃないかな?

 

「……いえ……その……死んでも愛されるとか言ってませんでしたか?」

 

「あぁそんな事言われてたね。首だけになった俺に戦艦棲姫改が凄く悲しい事を言った様な気がする」

 

「なんと言われたのです?」

 

 興味無さそうなのに凄く食いついてくる。もしかして夢の中の深海棲艦に嫉妬してるのか? いや無いな。無い。艦娘は提督を男として見てない。

 

 ゲームと違って艦娘はドライだ。初期に艦娘に手を出そうとして心にトラウマを負った提督が続出した。提督を求めるのは戦力増強のため。夢も希望もありゃしねぇ。

 

「えーっとね、あれ? なんだっけ? 忘れちゃった」

 

 夢なんてそんなもので、はっきり覚えているほうが稀だ。深海棲艦の提督になって人類を滅ぼす夢だ。普通に考えれば悪夢の類だ。さっさと忘れた方がいい。

 

「……テートクは夢の中で深海棲艦を愛していたノ?」

 

 恥ずかしい事を聞いてくる金剛。夢の話をしたのは俺だけど。自分らこんな話興味ないだろうに。

 

「だったんじゃないかなぁ。殺されてもいいくらいには好きだったみたい」

 

 愛してたとか恥ずかしい言葉を口にするのが嫌で言葉を変えた。

 

 俺は女性を愛した事はないが、夢の中の深海棲艦との関係が愛と呼ばれるものだったとしたら、いつか愛する女性が出来たとして命をかけるのも悪くはないんじゃないかとは思う。艦娘(こいつら)の前では口が裂けても言わないが。

 

「提督、誤魔化さないで下さい。愛していたのですか?」

 

 浜風が手を握ってきた。珍しい。というか初めてだ。体の接触を艦娘(こいつら)は極力避けている。初めての戦闘で気が昂ぶった俺がハイタッチをしようとして無視されたのは今でも思い出すほどのトラウマだ。

 

 艦娘の体って硬いもんだと思ってたけど普通に柔けぇな。ってかなんなの浜風? なんか怖い。

 

 浜風にギロリと睨まれた。めちゃ怖ぇ。力では人間は艦娘に絶対に勝てない。瞬殺される程度には力の差がある。怒らせたら俺の手は回復不可能なレベルで肉片になる。

 

 まぁそんな事はしないだろうけど。それくらいの信頼はある。怖いのはあの眼光だ。なんで睨むのよ!?

 

「テートクゥ、早く言った方が身のためネ」

 

 金剛に浜風と反対の手を握られた。ほんとになんなん君ら!? 身のためって何だよ!? 俺提督! 君たち艦娘!

 

 二人に手を握られて、普段は意識してなかったのに女を感じてしまった。そのせいで夢の中で愛し合った深海棲艦達の裸体を思い出し連鎖的にどう愛し合ったかを次々と思い出してしまった。

 

 くんずほぐれつ。俺から攻めるパターンが多かったが、深海棲艦達も俺を喜ばせようと積極的だった。恥ずかしがる姿に興奮した。お互いに全てを許して全てを受け止めた。

 

 浜風と金剛が聞いたのは深海棲艦を愛していたのかであって、どう愛し合ったかではない。夢の中で俺は深海棲艦達とぐちゃぐちゃのどろどろになって溶けるように愛し合っていた。やばい。思い出しただけで鼻血出そう。

 

 こんなのを話せばセクハラ上司だと責められて数日は針の筵だ。言えるはずがない。

 

 金剛と浜風が同時に手を離した。

 

 ありゃ? と思って顔を見れば二人共真っ赤だ。どうしたん? まだセクハラしてないよ?

 

「きょ、今日は疲れたらから戻って休むネー」

 

「い、磯風とく、訓練の約束をお、思い出しました」

 

「あ? そう? お疲れ様」

 

 手の温もりが同時に消えて少し寂しく感じたが艦娘は、休むか訓練をするのが一番いい。深海棲艦との戦いはこれからも長く続くのだから。

 

 背中を向けた二人の項が真っ赤に見える。耳も赤い?

 

 でもそんな事を口にすると、二人に怒られるのは目に見えている。見て見ぬ振りが一番だと俺は保身に走る。

 

「テートク……えっちなのはいけないヨー」

 

 金剛が意味不明だ。えっちも何も俺は提督になってから大本営の方針もあって女性との付き合いはゼロだ。美人秘書は大本営のハニートラップなので手も出せない。悪所にすら通えないんだからな!

 

「提督……浜風は提督だからといって簡単に体を許す女ではありません」

 

 知ってるよ! 体を許すどころか手に触れたのも今日が初めてだよ!

 

 金剛と浜風はそそくさと執務室を出ていこうと出口に向かう。

 

 何しに来たの君たちは!

 

 扉が閉まる前、僅かに開いた扉の隙間から半分顔を出した金剛と浜風。

 

「テートク、最近深海棲艦が強くなって来てるヨー」

 

 そうだな。深海棲艦も近代化改修や改造でもしてるのかエリートやフラグシップ型がちらほら出てくるようになった。昔みたいに簡単に勝てなくなってきたのが悩みの種だ。

 

「ですので今後は戦意高揚(キラキラ)と言う手段も考慮に入れてはどうでしょう?」

 

「は?」

 

 二人はぱたんと扉を閉めて出ていってしまった。

 

 何言ってんのあいつら?

 

 この世界に戦意高揚(キラキラ)はない。連続勝利したとしても何か特別な効果が艦娘につくことはない。

 

 当初、俺と同じ転生したと思われる提督が「戦意高揚(キラキラ)」理論を高らかに唱え、検証を繰り返したが戦意高揚(キラキラ)は一度たりとも発動せず、今ではそんなものはなかったと誰も口にしなくなった。ないものはないのだ。

 

 俺は誰もいなくなった執務室でタバコに火をつけた。肺を紫煙で満たしてからゆっくりと吐き出した。

 

 鎮守府でもタバコを飲む人間は煙たがられ、今では鎮守府内で喫煙出来る場所は艦娘を迎える埠頭と誰もいなくなった執務室くらいだ。旗下の艦娘たちもやめろやめろと煩い。世知辛い世の中だ。

 

 ニコチンで痺れた脳で夢の中の事を思い出す。

 

 イベントボス達はずっと戦意高揚(キラキラ)してたなぁ。

 

 夢の中では艦娘も深海棲艦もキラキラしていた。そういや浜風も戦意高揚(キラキラ)してたなぁ。戦意高揚(キラキラ)の手段は限られてて、体の接触で意思疎通が……

 

 頭の中で何かが閃いてタバコを根本まで一気に吸ってしまった。

 

「あちちちちち!」

 

 火種が胸元に落ちて火傷しそうになった。ぱたぱたと慌てて火を消した。

 

 あー間抜けだ。こんな所が艦娘に呆れられる原因なんだろうなぁ。

 

 あれ? 何考えてたっけ? まぁいいか。どうせ大した事じゃないだろうし。

 

 俺は書類を取り出して提督としての仕事を始めた。とっくにノルマとしての仕事は終わっているが、これは金剛と浜風が沈まないよう、沈む確率を少しでも下げる為の趣味みたいなものだ。

 

 俺の旗下にある限りは再建造なんて絶対にさせない。普段は艦娘に呆れられているけど、これまで培ってきた信頼関係は本物だ。

 

 命を賭けて戦う艦娘の信頼に応えるためには俺も努力を惜しんでいられない。

 

 憧れの提督になったってのに、思うようにはいかないもんだよな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 数カ月後、異常な戦果を叩き出す二人の艦娘が現れた。

 

 一人は戦艦金剛。

 

 戦場で好戦的な笑顔を浮かべ、英語で叫び声を上げながら戦艦棲姫を一撃で大破する姿は頼もしく、常に先頭で戦い、味方の艦娘を鼓舞し続けた。

 

 もう一人は駆逐艦浜風。

 

 対空兵装を充実させ、深海棲艦の航空部隊の攻撃から味方艦隊を徹底した対空砲撃で守る姿は秋月型に決して引けを取らず、あるいは上回り多くの艦娘を窮地から救った。

 

 本来のスペックを上回る命中率と回避率は他の艦娘の追随を許さず、撃破記録を塗り替え続けた。

 

 金剛と浜風の提督は、そんな二人に応えようと腰を叩く姿が増え、目の下に隈を作るほど睡眠時間を削ってまで提督業務をしているんだろうと噂され、まさに提督の鑑だと人々は口々に褒め称えた。

 

 メディアの露出も増え、小さな子供達が瞳を輝かせて将来就きたい職業に提督を上げるまでに至った。

 

 目の下の隈を化粧で隠した提督はテレビのインタビューに答える。大本営が用意した台本通りに。

 

 昔から国民を守る軍人になりたかったと。今の自分は子供の頃からなりたかった自分ですと。

 

「憧れの提督()になりました」

 

 

 

 

 

 

 

 

おわり

 


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